ナンダーク・ファンタジー   作:砂城

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確固たる決意

 アルスピラの同僚に続き、ダナンとアルスピラも部屋から出ていった。

 

「……」

 

 残ったオーキスは一人、台の上に横たわるロイドを見つめている。

 

(……強く、なりたい。もっと、もっと……)

 

 オーキスがロイドの強化を頼もうと思ったのは、これからの戦いに備えてではなかった。

 むしろその逆、これまでの戦いを加味してのことだ。

 

 神聖エルステ帝国での一件があった時、オーキスが現れたツヴァイに敵わずロイドを奪われてしまった。アーカーシャのコアを失って動かなくなったが、そこはダナンが補完してくれて動くようにはなっている。だが、それでは足りない。ダナンはどんどん強くなっているというのに。オーキスもアポロ達との手合わせで強くなってはいるが、劇的に強くなることはない。地道な努力が一番の近道ではあるものの、強くなりたいという気持ちが抑えられるわけではなかった。

 

 力不足を実感しているところに齎された、パラゾニウムがあればロイドが強くなるかもしれないという情報。パラゾニウムを偶然にも拾っていた彼女からしてみれば絶好の機会。

 食いつかないはずもなかった。

 

「おや……アルスピラとダナンさんはどちらに?」

 

 ロイドをじっと見下ろすオーキスのいる部屋に、アルスピラの同僚が戻ってくる。

 

「……調査に必要な道具を取りに行くって」

「そうですか」

 

 オーキスは顔を上げずに答えた。

 

「……このパラゾニウムがあれば、ロイドは更なる強化ができるでしょう。七曜の騎士でもあるアポロニア様や、大きな騎空団を束ねる先ほどのダナンさんのように。オーキスさんの願っている、彼らを守るための力が手に入るわけです」

「……ん」

 

(……強くなりたい、もっと。ダナンにもアポロにも、置いてかれたくない)

 

 同僚の言葉に、オーキスの中で強くなりたいという感情が大きくなる。ぎゅっと服の裾を握って焦りを強くした。

 

 その間を狙って、同僚はこっそりパラゾニウムを掴むとロイドに埋め込む。

 

「――……」

 

 するとロイドが、起き上がった。動力源であるコアの代替物はダナンが消したにも関わらず、だ。

 

「……ロイド?」

 

 突然起き上がったことに驚いてオーキスが呼ぶ声も無視して、ロイドは同僚に向けて鋭い爪を振り下ろした。

 

「ひ、ひぃっ!」

 

 間一髪、彼が身を縮めたおかげで爪は当たらなかったが、明らかに様子がおかしい。

 

 オーキスは急いで糸を手繰りロイドを縛って動きを拘束した。

 

「……早く行って」

「は、はい……!」

 

 戦えない同僚を先に逃がすが、ロイドは圧倒的な力で糸に絡まれながらも逃げる同僚に爪を振るう。

 

「ひ、ひいいいぃぃぃぃ!!」

 

 

 同僚は情けない悲鳴を上げながら部屋の外へ出て行った。

 

(……っ。この反応、もしかして)

 

 動きを止めるためにもっと糸を駆使しながら、ロイドを縛りつける。その時、ロイドの中に妙な反応があると感じ取ったのだ。まさかと思いパラゾニウムのあった台を見ると、パラゾニウムが消えている。なにが要因なのかはわからないが、パラゾニウムが勝手にロイドの動力源となっているようだ。

 

「……っ、なに……?」

 

 暴れなくなったロイドだが、絡まっている糸を経由してオーキスの中になにかが流れ込んでくる。そうして、彼女は意識を失ってしまった。

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

 俺が来た時、同僚の男はおらずロイドが佇んでいた。

 

「オーキス!」

 

 ただ俺が呼びかけても、佇むオーキスは反応を示さない。突如起こった異変に警戒を強めていると、オーキスの糸が迫ってきた。

 

「っと!」

 

 回避したがロイドまで動き出して襲いかかってくる。……どうなってやがる。どう考えてもオーキスが正気とは思えない。

 

「……強くなりたい……もっと……」

「ったく。世話の焼ける」

 

 ぼそぼそと呟いているオーキスを見て、なにかに操られているような状態ではないかと当たりをつける。

 

 操られているとしたら、多分糸で繋がっているロイドか? だがロイドは動力源がなかったはずだ。となるとなにで動いているかによるのだが……。

 

 台に置いてあったはずのパラゾニウムを確認するが、なくなっている。もしやと思って分析するとロイドの中に存在しているようだ。ってことはパラゾニウムがロイドの中に入ったことで動き出したってことか。イマイチ仕組みはわからないが、問題はどうやってオーキスを正気に戻すかということだ。

 

「糸が原因なら切ってやれば……ん?」

 

 ロイドと糸で繋がっていることが原因なら切ればいいかと思ったが、ロイドが動いたことで繋がっている糸が斬りやすい位置に動いた。

 

「まさかお前……」

 

 もしかしたらこの状況は、ロイドの望むところでもないのかもしれない。ロイドも糸を切らせたがっているのなら、糸を切ればオーキスを解放できるという推測は間違っていないのだろう。

 俺はオーキスとロイドの攻撃を掻い潜り、持っていた短剣で二人を繋ぐ糸を全て切断した。

 

 するとロイドもオーキスも動きを止める。ロイドは沈黙し、オーキスの身体から力が抜けて倒れそうになる。

 

「おっと」

 

 慌てて近づきオーキスを抱き留める。意識が戻ったらしく、オーキスが見上げてくる。

 

「……ダナン? 私……」

「もう大丈夫だ」

 

 不安そうな様子だったので告げてやると、安心したかのように目を瞑った。眠ってしまったようだ。

 

「おい、ダナン。どういう状況だ?」

「妙な気配は消えていますね。とりあえず事態は収束したのですか?」

 

 入口に慌ただしく入ってくる者があると思ったら、アポロとアダムだった。

 

「ああ、多分な。とりあえずオーキスは無事だと思う」

「なにがあった?」

「俺もよくわからん。ロイドがパラゾニウムを取り込んで暴走してた……んじゃねぇかとは思うが」

「なるほど、私の感じていた妙な気配はロイドでしたか」

 

 アダムもゴーレムだからなにか感じ取れるモノがあるんだろうか。

 

「オーキスは安静にさせておくとして、お前らアルスピラの同僚の男知らないか? 先に逃げ出したかと思うんだが」

「わりーわりー。逃がしちまった。なんかやるかもと思ってたんだけどなー」

 

 俺の質問に答えたのは現れたアルスピラだ。

 

「なんかやるかもって、どういうことだ?」

「んー……」

「ここにいる者でしたら問題はないでしょう。しかし、今はオーキス様を安静にできる場所に連れていくのが先決です」

 

 尋ねた俺に答えず困ったように唸るアルスピラだったが、アダムもなにか知っているらしくそう提案してきた。

 断る理由はなかったので、オーキスを抱えて一旦城の方へ向かいベッドを貸してもらう。

 アダムはロイドを倉庫に運び込んでから合流する。

 オーキスになにかあったということでオルキスも合流していた。

 

「んで、どういうことだ?」

 

 オーキスの呼吸が安定しているので体調には問題なさそうであることを確認してから、俺はアルスピラに目を向けた。

 

「それは私から説明しましょう。このことはどうかご内密にお願いしたいのですが……彼女は、私が独自に管轄している極秘の内部監査員です」

 

 アダムが代わりに説明を買って出る。

 

「神聖エルステ王国の一件然り、エルステ王国は未だ内治、外交共に不安定な情勢が続いています。エルステの未来のため、再建における不穏分子は未然に排除しなければなりません。そこで私は、国の内部監査を目的とする非公式の士気を立ち上げました。私が求める条件に合致し、尚且つ信用できると判断した結果、彼女をスカウトしたのです」

「じゃあゴーレムの研究者ってのは仮の姿なのか」

「どっちも本業だぞー」

「詳しい経緯を述べるなら、ゴーレムの研究者だった彼女をスカウトした形となります。星晶獣に敗北を喫したとはいえ、ゴーレムは未だ強力な存在です。それ故に邪な理由で技術を得ようとする輩が少なからず存在するのが実情……。研究に従事する技術者だからこその観点が必要であるというのも、彼女を選んだ理由の一つです」

 

 なるほど、アルスピラの事情はわかった。

 

「あいつがロイドを初めて見た時の反応で、技術者の勘っつーか、多分クロだなって思ってよー。後は確実な証拠固めをしようって段階だったんだが」

「なら俺をわざわざオーキスとロイドから離れさせるような真似したんだ?」

「そりゃー護衛がいたら下手な真似できないだろー? だからなにか行動を起こすかもしれねーと思ってはいたんだけどよー。すぐ戻ってくるかもしれないような状況で滅多なことしないと思ったんだけど、あたしの想定が甘かったなー。迷惑かけて悪かったなー」

 

 彼女なりの思惑があってのことだったらしい。それでオーキスが危険な目に遭ったのは問題だが、悪気があったわけではない。大体、野郎が行動を起こさなければ良かっただけの話だ。

 

「そういや取り逃がしたって言ってたな」

「ああ、わりー。想定よりロイドが暴走してビビって逃げちまったから、それを追おうとしたんだけどよー。ハーヴィンのあたしじゃ無理だったわー」

 

 それもそうだな。体格差がありすぎる。

 

「騎乗用のゴーレム取り出して追おうにも見失っちまってなー。多分ロイドを奪いになにか行動するとは思うんだけどよー」

「ならロイドを守っていればいつかは出てくるってことか。今度会ったらぶん殴ってやらねぇと」

 

 うちのオーキスを危険な目に遭わせやがった礼はしないとな。

 

「ああ。私も一発殴ってやらなければ気が済まん」

「……ダナンさんとアポロが殴ったら死んじゃうんじゃ」

 

 腕組みをしたアポロも続けると、オルキスが苦笑していた。

 

「じゃあとりあえずは相手の行動待ちか」

「そうなってしまいますね」

「じゃあその間に一応ロイド見てもいいかー? メンテくらいはしてやんないとなー」

「なら私はオーキスの様子を見ていよう」

「ダナンはあたしと来てくれよー。あたしの見立てじゃ、結構向いてると思うぞー」

「ん? ああ、まぁいいけど」

 

 オーキスの容態はアポロが見てくれるらしいので、俺はアルスピラの誘いを受けてロイドのメンテやらに付き合うことにした。三日機械を弄っていたせいかClassEXの【メカニック】という『ジョブ』を解放してしまった。……こんなとこで新『ジョブ』を手に入れるとはな。

 

 だが三日目に俺がオーキスの様子を見に行くと、看病していたはずのアポロが血を流して倒れていた。

 

「アポロ!?」

 

 慌てて駆け寄り、ヒールをかける。どうやら腹部を短剣かなにかで刺されてしまったようだ。……クソ、どうなってやがる。ベッドで寝ていたオーキスもいない。誰かに襲われてオーキスを攫われたってのか? けどアポロがあっさり倒されるわけがない。大体侵入者がいれば城内が騒がしくなっているはずだ。顔見知り、まさかオーキスに暴走の余韻みたいなのが残ってた、とかじゃねぇだろうな。

 

「アポロ!! だ、ダナンさん、アポロは……!!」

 

 その時、勢いよく扉を開けてオルキスが部屋に入ってきた。その手には一枚の紙が握られている。

 

「とりあえず治療はした。オルキス、なにか知ってるか?」

「う、うん……。城内の兵士にこれが……」

 

 オルキスは持っていた手紙を差し出してくる。広げて内容を読むと、ソベル少佐とかいうヤツからの手紙だった。手紙には、黒騎士の鎧を纏い、一人だけで街外れの廃墟に来いという指示があり、念を押すように兵を引き連れてくればオーキスを殺すという脅しが最後に記されていた。

 

「……ふざけてんな」

 

 なにが狙いなのかよくわからないが、アポロを殺すことが狙いでないことは確かなのだろう。

 

「ごめんなさい、元エルステ帝国所属でアポロ直属の部下だって言うから通してしまったみたいで……」

「いや、流石に堂々と訪ねてくるとは思わなかっただろうしな」

 

 帝国時代のアポロの部下か。だが俺がいた頃にはそんなヤツいた覚えがない。もっと前の話か? なんでもいいが、面倒なことしやがる。

 

「……ん? っ!!」

 

 頭を悩ませていると、アポロが目を覚まして勢いよく起き上がった。

 

「ダナンにオルキス……。私は確か……」

「ソベルとかいうヤツに刺されたんだろ?」

「そ、そうだ! だがダナンがなぜヤツを」

 

 俺は目を覚ましたアポロにソベルからの手紙を渡す。アポロの目が手紙の内容を読み、くしゃりと手紙を持つ手で握り潰した。いつもキツい表情だがより怒りを露わにしている。

 

「すまない。これは、私の責任だ」

「いや、いい。知り合いが急に刺してくるとは思わないからな」

 

 ニーアでもなければそんなことしてこない。

 

「オルキス、私の装備一式を用意して欲しい。今すぐにだ」

「で、でも……!」

「大丈夫だ。怪我は治療したし、不意を打たれなければアポロが遅れを取るわけがない。だろ?」

 

 一人で行く気のアポロにオルキスは不安を見せるが、俺はアポロへ笑いかけた。

 

「当たり前だ。こんな失態、二度はせん。オーキスは私が必ず取り戻す」

「……うん。アポロは一度決めたら聞かないもんね。けど約束して。必ず帰ってきて、オーキスと一緒に」

「ああ、約束する」

 

 向こうは罠を張って万全の状態で待ち構えているだろう。だが、アポロなら大丈夫だ。

 

「アポロニア様! と、オルキス様もいらっしゃいましたか!!」

 

 話がまとまりかけたところに、慌てた様子で兵士が駆け込んでくる。

 

「ど、どうしたの?」

「はっ! 城下で大量のゴーレムが暴れています!!」

「なんだと……?」

「首謀者と思しき男が大量のゴーレムを率いて宮殿へ進攻してきております! 首謀者を確認した兵曰く、『ロイドを寄越せ!』と声高に叫んでいたそうです!」

「ロイドを? ってことはあの野郎かよ。……チッ、悪いことってのは重なるもんだな」

 

 まるで示し合わせたかのような状況だ。そもそもオーキスが昏睡状態になければアポロが襲われても攫われるようなことにはならなかっただろう。タイミングが悪すぎる。

 

「なら、ゴーレムの方を任せてもいいか?」

 

 アポロから聞かれる。

 

「おう」

 

 ゴーレム相手なら何体いようが苦戦はしない。さっさと殲滅して――いや、待てよ? オーキスは操られている最中「強くなりたい」と繰り返していた。ここに来てからも何度か聞いた気がする。もしかしてオーキスはなにか焦っているのだろうか。だとしたらアポロに助けられて、ロイドを狙うヤツも俺が倒して、となるとオーキスはどう思うだろうか。助けられてばかり、守られてばかりで、強くなりたいという焦りを解消できるわけがない。

 

「……いや、俺は時間稼ぎだけするわ」

「なに?」

「ロイドのことは、オーキスに任せたい。だからさっさと連れ帰ってきてくれ」

「まぁ、そのつもりだが」

「んで、一つオーキスに伝言頼む。――『背中は任せた』って」

「わかった」

 

 ということで、俺はゴーレムの対処を、アポロはソベルに捕まったオーキスの下へ向かうことになった。

 

「じゃあ、オーキスのことは任せた」

「ああ。ダナンも、幸運を祈る」

 

 アポロと分かれて、城下で暴れているゴーレムの下へ行く。既にアダム含む兵士達が応戦しているようだが、流石にゴーレムだけはあって一般兵士では相手にならないだろう。

 

「【十の願いに応えし者】。……おらぁ!!」

 

 俺は念のために最強の『ジョブ』を発動して先頭にいたゴーレムを蹴り飛ばす。吹き飛んだゴーレムは後ろのヤツにぶつかり、共に倒れた。

 

「ダナンさん」

「諸事情でアポロは来れない。悪いが、俺だけでも加勢させてもらうぞ」

「いえ、心強いですよ」

 

 時間は稼ぎつつも、こちらに被害を出さないようにするには【十の願いに応えし者】が一番だ。ゴーレムをまとめて消し飛ばすだけなら簡単だが、オーキスのためにも時間は稼がないとな。

 

 こうして、俺とアダム達エルステ王国兵士によるゴーレム迎撃戦が幕を開けた。

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

 俺が余裕を持って対処しているためか、兵士に死者は出ておらず街に被害も出ていない。複数体いたゴーレムも半数以下になっている。

 

「くっ……!」

 

 一番大きく性能の良さそうなゴーレムに乗った首謀者の男は、一向に攻め切れないことを悔しやがっているようだ。ゴーレムを率いつつも一番奥で待機しているだけだった。まだまだゴーレムは数がいるし、真打ちは最後に登場するってことか。

 

 前に出すぎず戦っていたが、少し前に出ていた俺とアダム達を分断するように一体のゴーレムが割り込んできた。そのゴーレムが俺の方を向いていたのでなんとなくわかっていたが、周囲を取り囲むように他のゴーレムが移動していた。それらゴーレムの手が一斉に射出され、俺の身体をがっしりと掴む。唯一ゴーレムの包囲網が空いた先には首謀者のいる巨大ゴーレムがいて、俺にレーザーの照準を合わせていた。……ほう。意外と考えた策に出たモノだな。俺がいなければ戦線を崩せると踏んだか。

 

「ダナンさん!」

 

 ゴーレム越しにアダムの声が聞こえてくる。アダムは仮にもエルステ帝国の大将を務めた者。背中を見せたゴーレムなど容易く倒してしまうが、それでも手の一つが緩んだ程度。

 とはいえ、この程度ならピンチでもなんでもない。ワールドの能力で防ぐことも可能だが、それすらも不要だ。なにせ――

 

「もう充分、時間は稼いだんだからな」

 

 俺が小さく呟くとほぼ同時、頭上を大きな影が通った。直接奥の巨大ゴーレムまで接近した大きな影は、鋭い紫の爪で装甲を引き裂き怯ませることでレーザーの発射を妨害する。

 

「なにっ!?」

 

 驚き巨大ゴーレムにしがみつく男の前で、大きな影のもう片方の手に抱えられた小さな人影が地面に降り立った。

 

「……これ以上、好きにはさせない」

 

 ロイドを連れたオーキスだ。ロイドの爪部分がパラゾニウムの刃のように変化しており、頭にも紫の角のようなモノが生えていた。どうやら彼女が求めていた強さは、正しく彼女のモノになったらしい。

 オーキスは肩越しにこちらを振り返り、

 

「……ダナン。『任された』」

 

 ちゃんとアポロから伝言を受け取ったようだ。

 

「ああ、そっちのでかいのは頼んだ」

「……ん」

 

 頷くと正面の巨大ゴーレムを見上げる。

 

「パラゾニウムを埋め込んだロイドを制御しているのか!? くっ……だが、私のゴーレムの方が強いに決まっている!!」

 

 今まで決して前に出てこようとはしなかった首謀者だが、ロイドとは正面から戦うらしい。オーキスもそれに受けて立つようで、ゴーレムとゴーレムの戦いが繰り広げられる。

 

「……あなたは全く危機に見えませんね」

「ん? ああ、そうだな」

 

 ゴーレムを突破して俺の近くまで来たアダムが呆れて言う。そこで俺は自分がゴーレムに捕まっていることを思い出し、ゴーレム共の手から伸びている鎖をまとめて掴むと、

 

「は、あぁ!!」

 

 全力で上空へぶん投げた。真上に複数体のゴーレムが集まったので、両手を胸の前で向かい合わせる。

 

世界は箱の中に(ワールド・イン・ボックス)

 

 手と手の間に黒い立方体が出現すると同時、ゴーレム達を囲むように同じ黒い立方体が出現した。

 俺の手元にある箱と上空に出現した箱は連動している。

 

「圧壊」

 

 両手で手元の黒い箱を潰せば、上空の箱も中のゴーレムごと潰れるというわけだ。箱を解除すればぺしゃんこになった元ゴーレムの板が降ってくる。

 

「よっと」

 

 当たったら危ないので片手で掴み地面に下ろす。

 

「……出鱈目ですね」

「お前に言われると心外だな」

 

 充分珍奇なゴーレムの癖しやがって。

 

 これで他のゴーレムは片づいた。残るは巨大ゴーレムだけだが。

 

「……ロイド」

 

 オーキスの指示により攻勢に出たロイドが両腕を振り回して巨大ゴーレムの腕を切断する。

 

「く、クソッ!!」

 

 悪態を吐く首謀者だが、逆に言えばそれしかできないようだ。

 

 巨大ゴーレムの背中が開いてミサイルが発射される、がオーキスとロイドはあっさりと回避してしまう。……まるでミサイルの着弾点がわかっているかのような回避のし方だったな。あれがパラゾニウムの真価、超高速演算能力なのだろうか。相手の動きを計算で予測する、とか。

 

「……これで、終わり。――私とロイドの新しい力、リゾブル・ブリンガー」

 

 オーキスの糸とロイドの爪による連携攻撃が巨大ゴーレムを八つ裂きにしたことで、戦いは決着した。

 

 ロイドの性能が上がっているのは当然のこととして、オーキスの身体能力まで上がっているようだ。

 

「……ダナン。お待たせ」

「おう。その様子だと、もう大丈夫みたいだな」

「……ん。心配かけてごめんなさい」

 

 歩み寄ってきたオーキスは頭を下げて謝ってくる。

 

「いいって。これからも、よろしく頼むな」

「……ん」

 

 小さく微笑んで頷く彼女には、以前のような焦りは欠片もなかった。

 

「どうやら片づいたようだな」

 

 そこにアポロがやってくる。黒騎士姿ではなかったが、腰にはブルトガングを提げていた。

 

「そっちも無事片づいたようでなによりだ」

「ああ」

「で、なんでお前がブルトガングを持ってるんだ?」

「ソベルとの一件の時、ブルトガングが私を使い手として認めてくれたようでな。オルキスから今後は私が使っていいと言われた」

「へぇ? なにがきっかけなんだろうな」

 

 

 俺の時にはなにもなかったのに。

 

「さ、さあな。兎に角これで私もオーキスもより強くなったわけだ」

「……ん。それでアポロ、お願いがある」

「私にか? なんだ?」

 

 エルステで起きた騒動のどちらも解決したのだが、ここでオーキスからアポロにお願いがあるらしい。

 

「……私と、手合わせして」

「なに?」

「……お願い」

 

 オーキスのお願いを聞いたアポロは少し考え込んでいたが、

 

「わかった」

 

 頷いて了承した。

 

「……手加減はいらない」

「ふっ。今のお前に加減する余裕は、正直ないな」

 

 二人の視線が交錯する。二人共どこか楽しそうだった。

 相変わらず仲のいい二人を微笑ましく見守り、その後の手合わせも観戦していた。

 

 元七曜の騎士にして更に強くなったアポロと、星晶獣以上の力を持つロイドを手繰るオーキスが繰り広げる互角の戦いを眺め続けるのだった。




とりあえずこんな感じで仲間達を強化していきます。とはいえ最終上限解放のエピソードとかがあるキャラだけにはしますので、そこまで長くはかからないはずです。

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