ナンダーク・ファンタジー   作:砂城

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突然の終わり

 ドランクには宝珠魔法を。

 スツルムには二刀の扱いを。

 

 それぞれ五日間でできる限り伝授してもらった。

 

「じゃあまたね~。ダナン、ボスのこと任せたよ~」

「あまりボスから目を離すなよ。勝手に無茶なことし始めるからな」

 

 ある程度実力も信頼され始めたのか、二人はそんなことを言って去っていった。

 

「……帰ったら灸を据える必要がありそうだな」

「日頃の行いってヤツだろ」

「まずは貴様から死にたいか」

 

 軽口を叩いて怒られてしまう。

 なんだかんだ二人はオルキスに関してはもちろん、黒騎士に対しても若干保護者目線が入っているのだろう。それが理解できる俺だからこそ、二人は任せてくれるのかもしれない。

 

「……寂しくなる」

 

 小さく手を振り続けていたオルキスがぽつりと呟いた。

 

「確かになぁ。二人はいつも楽しそうだもんな」

「……ん。一緒にいると楽しい」

「そっか」

 

 ぽんぽんと頭を撫でてやる。

 最近オルキスは、よく自分の感情を口に出すようになった。そろそろ黒騎士もオルキスを人形と呼ぶことに抵抗が出てくるんじゃないかなぁ、と思っているのだが。

 

「いつまで呆けているつもりだ。ダナン、今日も二刀の訓練だ。一先ずClassⅢを網羅し、使いこなせるようになれ」

「わかってるって」

 

 俺は黒騎士に返事をして、武器を取り出す。練習用に買った安い刀と剣を手に取った。

 二刀流のコツは両手を動かすことだ。言葉だけなら簡単だがこれがまた難しい。一緒に動かす、片方だけ動かすというならできるが、それぞれをそれぞれに動かす、というのが難しいのだ。意識の問題なのかどうにも上手く立ち回れない。スツルムはその辺りは上手くできるらしく、彼女と手合わせすると防戦一方になる。

 ……そういや、と思い返してみて思ったが、アウギュステであいつらを手助けしたヤツの中に二刀流の剣士が二人もいやがったな。それはつまり、あいつらはもう二刀流を会得して【グラディエーター】を解放している可能性が高いってことだ。クソッ、出遅れてるのがわかると焦りが募りやすくなるな。雑念は払わねば。

 

「……ダナン。がんばって」

「おう」

 

 最近オルキスはよく俺に声をかけてくるようになった。飯のこと以外で、だ。驚きの変化だと思う。

 と日課になりつつある黒騎士との鍛錬へと挑んでいった。

 そしてその夜。

 

「……スツルムはいない」

「そうだな、ドランクと一緒にどっか行っちまったしな」

 

 夕飯を食べ終えて風呂に入る時間となってオルキスがボヤいた。最近オルキスはスツルムと一緒に風呂へ入っている。スツルムは無愛想だが悪い気はしていないのか、仕方ないと言いながら優しく接していたのでドランクと温かく見守っていたら刺されたというのは記憶に新しい。

 

「……ダナン。一緒にお風呂入る」

 

 なぜか俺に矛先が向いてしまった。……いやそれは流石に倫理的にマズいのでは?

 

「いやぁ、俺はちょっとな。なぁ、黒騎士?」

 

 どう断ったモノかと思いつつ、俺以外にこの場にいる黒騎士へと話を向ける。

 

「なぜ私に聞く……まぁそうだな。ダナンはやめておけ」

 

 兜を外しソファーに腰かけて本を読んでいる黒騎士は言った。

 

「……ん。じゃあ誰とならいい?」

 

 オルキスは少し納得のいかなさそうな顔だったが、改めて俺に聞いてくる。……ふぅむ。これはチャンスなのでは? と内心ほくそ笑んだ。

 

「スツルムはいないし、黒騎士に一緒に入ってもらえばいい」

「なに!?」

「……っ」

 

 二人が驚いたような反応を示すが、当然の帰結だ。今は俺と黒騎士しかいない。俺はダメ。なら黒騎士が付き合うしかないだろう。

 

「……アポロ」

 

 オルキスがじっと黒騎士を見つめる。

 

「……私は入らんぞ」

「……じゃあダナンと」

「それはダメだって言っただろ?」

「……じゃあアポロしかいない」

 

 そうなるわけだ。

 

「……ふん。今になって一緒に入る意味はないだろう。以前は一人で入っていたのだからな」

「……でも一緒に入りたい気分。アポロ、前は一緒に入ってくれてた」

「それは……洗い方がわからないと言うからだ」

 

 そんな時期があったのか。

 

「……アポロ」

「黒騎士、入ってやれよ。このままだと俺が一緒に入ることになっちまうぞ。それは嫌だろ?」

「…………」

 

 オルキスの援護をした結果、黒騎士が長い沈黙を置いて読んでいた本をぱたんと閉じる。

 

「はぁ。仕方がないか。さっさと上がるからな」

「……ん。ありがとう」

 

 諦めたように言って、オルキスを連れ立って浴室の方に入っていく。風呂場も俺一人の時は銭湯へ行くだけで良かったが、人数が増えたことで費用が余分にかかってしまうため、二階に風呂場を設置したのだ。

 しかし黒騎士は室内でも鎧着るんだよなぁ。寝る時は一階と二階で違うからわかんねぇし。風呂入った後もご丁寧に着直すし。どんだけ鎧着てたいんだよと思うが。

 

「……なにかの間違いで鎧脱いで出てこねぇかなぁ」

 

 首から下がどうなっているのか見てみたい気もする。多分だけどあの怪力なのだからごりごりのマッチョだとは思うが。ゴツい鎧を脱いでもゴツい筋肉が見えるだけ、みたいな? ……ヤバい。考えていて想像できてしまった。絶対それだ。間違いない。

 ふざけてはいるが愉快な想像をしつつ部屋の掃除をしながら二人が上がってくるのを待っていた。

 

 かちゃりと扉が開いて脱衣所から二人が出てくる。

 とてとてと駆け寄ってテーブルにあったフルーツジュースを飲み干すのは、湯上りでしっとりした髪を下ろしているオルキスだ。寝巻きを着ている。

 

 もう一人は茶髪に目つきの鋭い美女だった。仏頂面は変わらないが白のノースリーブシャツに黒のズボンという恰好だ。鎧の上からではわからなかったグラマラスな体型が今人目を浴びている。と言うか。

 

「誰だっ!?」

「貴様、どうやら死にたいらしいな」

 

 いつか聞いたようなセリフで睨まれて、誰かわかってはいたが納得する。

 

「黒騎士……いや鎧はどうした? あんたいつも風呂上がりでも着てただろうが」

 

 まさか顔だけ美女ではなく、全体が美女に相応しい容姿だとは思わなかった。絶対ごりごりな筋肉ゴリラだと思ってたのに。

 

「……。人形が脱衣所で着ると狭いと言うのでな。仕方なく脱いだだけだ。まぁ確かに、鎧がない方が寛げはするからな」

「そりゃそうだろうがな。しかしあんなクソ力持ってるのに案外筋肉もりもりじゃないんだな。もっとムキムキな身体してんのかと思ってた」

「……殴っていいか?」

 

 確かに女性に対しては失礼かもしれない。だが黒騎士に対しては失礼じゃないと思っている。……それはそれで最低だな俺。

 

「ふん。七曜の騎士は色を冠する名を持った七人の騎士、ではあるが。力に関しては真王という一応七曜の騎士が仕えている王に分け与えられたモノがある。無論それだけではないが、それによって全天最強とされている部分があるのだ」

「つまりめっちゃ強くても筋肉ムキムキじゃない可能性が高いってことだな」

「そういうことなのだが……そのまとめ方は些か簡単すぎるな」

 

 バラゴナみたくドラフということもあってムキムキだろうヤツもいるが、例えば女性の七曜の騎士がいて脱いだたらとんでもない美女が、とかそういうことになるわけか。

 もしかしてハーヴィンもいたりすんのかね。一般にハーヴィンは小柄すぎてパワーがないとされてるんだが。それでも強いヤツは強いし、七曜の騎士にもいたらとんでも強いハーヴィンが誕生するわけだな。

 

「……アポロは、脱いだら凄い」

「オルキス。それはちょっと違うな? いや合ってはいるんだけど」

「どこでそんな言葉を……。まさか貴様が教えたのではないだろうな?」

「まさか。あるとしたらドランクじゃないか?」

「あり得るな。戻ってきたら是非問い詰めるとしよう」

 

 ご愁傷様。今頃スツルムと二人きりで仲良くどこかへ行っている年の離れた友人のことを思い浮かべて冥福を祈っておく。

 

「さて俺は【スーパースター】で楽器の練習でもしてくるか。オルキス、腹減ったら冷蔵庫にゼリーあるからな」

「……わかった。いただきます」

 

 と言って早速彼女が冷蔵庫の方へ向かうのはお決まりのパターンだ。まぁたくさん用意してあるからいいだろう。

 

「……アポロも食べる?」

 

 楽器を取り出してベランダに出ようとする俺の背中にそんな声が届いた。

 

「ああ、一つ貰おう」

「……ん。本、一緒に読んでもいい?」

「なに? ……まぁ今日くらいはいいか」

「……ありがと、アポロ」

 

 なんだかんだ二人もちょっと仲良くなった気がする。最初はいずれ消える人形に人として接する必要はない、みたいなこと言ってた気がするが。これじゃあその時が来たらきっと辛くなるだろうな。今のオルキスとの思い出を作れば作るほど。

 ……そう考えると俺は残酷なことをしているのかもしれない。まぁそんなことはいい。俺はオルキスにもっと色んなことを経験して欲しい、というだけだ。

 

「……ちょっと今日は、切ないメロディーでも奏でましょうかね」

 

 二人の仲の良さを見てそういう気持ちになってしまった。俺は星の見える夜空の下、ハープで切ないメロディーを奏で始めるのだった。

 

 ――真っ暗な闇の中から、誰かに見張られているとも知らずに。

 

 ◇◆◇◆

 

 翌日の夜。

 

「……アポロ。今日も一緒にお風呂入る」

「なんだと? 昨日入っただろう」

「……今日も一緒に入りたい。ダメ?」

 

 食後になってまたオルキスとアポロが揉めている。なんだか最近二人の会話が増えている気がする。黒騎士からは話しかけないが、オルキスから話しかけることが増えているのだ。とてもいいことだと思う。不器用な姉妹を見ているようで微笑ましい気持ちになってくる。

 

「……チッ。仕方がない。一緒に入ってやるが、明日は一人で入れ」

「……わかった」

 

 舌打ちしながらも一緒に入るようだ。なんだかんだ甘いよな、黒騎士は。

 

「貴様。なににやにやしている。殴られたいか?」

「いやまさかぁ」

「ドランクに少し似てきたな」

「……ちょっと真面目な顔するぞこら」

 

 胡散臭そうだと言われてしまったので表情を作り直す。まぁ俺とあいつも似ている部分が多いってことなんだろうな。

 ちなみに黒騎士は夕飯以降鎧を脱ぐようになった。ノースリーブを好む上に薄着なので少々目のやり場に困るが、本人はそういうのに頓着がないようなので俺が気にしないようにするしかあるまい。

 

 二人が入浴している間は家事をやって、少しハープを奏でてから俺も風呂に入り就寝する。

 

「ん?」

 

 ハープを奏でるべくベランダに出たところで、違和を感じた。

 

「……やけに静かだな。帰郷の季節だっけか?」

 

 一年もいない身なのでわかるはずもない。街がやけに静かなことを不思議に思いつつも、そういう日もあるかと思って気にしないでおいた。

 

 そして最近は誰かと一緒に寝たがるオルキスと一緒に眠りに着いた、のだが。

 

「っ……」

 

 なぜか身体が飛び起きた。まだ夜は明けていない。深夜の時間帯だった。……なんだ? なんか妙な感じがするな。

 

「……おい、オルキス。起きろ」

 

 傍らですやすやと眠っているオルキスを揺さぶって起こす。

 

「……ん。朝?」

 

 こすこすと目を擦って眠そうにしている。

 

「……朝じゃないけどちょっと変だ。黒騎士のとこ行くぞ」

「その必要はない」

 

 俺が判断を仰ごうとベッドから降りたところで、暗がりから漆黒の甲冑が姿を現した。

 

「黒騎士」

「早く着替えて準備をしろ。おそらく狙いは私達だ。出るぞ」

「了解。オルキスも着替えて顔洗ってきな」

「……ん」

 

 まだ寝惚けているようだったので顔を洗ってくるように告げておき、俺は最低限必要な金と武器を革袋に入れて担ぎ装備を整える。

 

「行くぞ」

 

 黒騎士に言われて、家を出る。……やっぱり妙な静けさがある。

 

「チッ。ベランダ出た時妙に静かだとは思ってたが」

「過ぎたことはいい」

「で、どうする? 二手に分かれるか?」

「いや。二手に分かれて相手を分けさせるより、まとまったところを私が引きつけた方がいいだろう」

「了解」

 

 真っ暗で静かな夜の街を歩きながら作戦を立てる。オルキスは置いてきても良かったが、黒騎士と一緒に行動していることを知られているとなると彼女の存在も知られていると考えた方がいい。狙いは俺達で目的がオルキスの誘拐だった場合、家を探られて終わりだ。それなら強い黒騎士の傍にいた方が安全、ということになる。

 

 全く人気のない街並みを早足で歩く。……この時間でも飲んで騒ぐバカがいるはずなんだがな。兵士すら見当たらないとはどういう了見だ?

 

 不可思議な状況に顔を顰めつつ歩いて大通りに出ると、黒騎士が足を止めた。

 

「流石は七曜の騎士、ってことかな? まぁそっちから出てきてくれて手間が省けたよ」

 

 やけに軽薄な印象を与える青年の声が聞こえた。そして、俺はその声に聞き覚えがあった。

 

「……はっ。随分と久し振りじゃねぇかよ。なぁ、十天衆頭目、シエテさんよぉ……!」

 

 以前俺を散々痛めつけてくれたヤツだ。覚えていないはずがない。

 

 屋根の上に腕組みをして佇むのは、金髪にニヤケ顔を貼りつけた青年だ。そしてその周りには、同じ特徴のマントを羽織ったヤツが四人。

 

 頭目を含めて五人という、黒騎士の自己分析で言っていた人数よりも多い戦力が目の前にいた。確実に黒騎士に対して、勝ちに来ている面子だった。




個人的な見解に基づき、七曜の騎士は十天衆より単体戦力として強い設定です。

というのも十天衆が完全個人での能力で、
七曜の騎士は優れた人材が更に真王から力を授かった強さだから、ですね。

まともに戦うなら二、三人。
勝ちにいくなら五人。

例外としてフュンフさえいれば持久戦でなんとかなる。
くらいの感じです。

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