ナンダーク・ファンタジー   作:砂城

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パンデモニウム

 いつもの操縦士のおっさんに小型騎空挺を出してもらい、秩序の騎空団の拠点があるアマルティアへ行く。

 

 ――その前に。

 

「パンデモニウム?」

 

 移動中ドランクの言葉からその単語が出てきて聞き返した。

 

「そ。秩序の騎空団の拠点に乗り込むって言うのにたった三人じゃ心許ないでしょ? だったらちょっとでも戦力上げておこうと思ってさ」

「つっても俺一人の戦力上げたってどうしようもないだろ?」

「いいや。君の戦力を上げる、パンデモニウムに行って『ジョブ』をいくつか解放する。これだけでも結構助かるんだよね~」

「あたしは剣、ドランクは魔法で戦う。けどあたし達にはそれしかできない。アマルティアではなにが起こるかわからないからな、対応の幅を広げるという意味で有用だ」

「そ~ゆ~こと。ってことでパンデモニウム行くよ」

 

 理屈は理解できた。

 

「けどよ、それじゃ遅いんじゃないか? 黒騎士は捕まってるから場所が固定されてるとして、オルキスがその間にどうなるかわかんねぇだろ。それに……捕えられた黒騎士が狙われないとは限らねぇ」

 

 俺は基本楽観視をしない。だからこそ思うのだ。黒騎士が拘束されおそらく動きを封じられ装備も取り上げられた状態という、命を狙うなら絶好の機会を逃すわけはないと。黒騎士を邪魔と思うヤツならそれくらいやってくるはずだ。

 

「うん、宰相サンは多分そうするだろうねぇ」

「だったら……」

「まぁまぁ落ち着いて。ダナンってばいつからそんなに熱血になったの~? いつもみたいに余裕なフリして笑ってればいいんだよ」

「フリは余計だろ。……はぁ。で、どういうつもりだ?」

 

 ドランクに言われて、自分が焦っていたことに気づき頭を掻きながら聞き直す。

 

「お前の懸念は正しい。事実、宰相はアマルティアに兵士を送るらしい」

「じゃあなんでわざわざ遠回りするんだよ?」

 

 聞けば聞くほど早く行った方がいい気がする。

 

「それはね、ある程度時間があるからなんだよ。グラン君達がアマルティアに到着するのが明日になるかな。後はエルステからの兵士だけどこっちはある程度戦力を整えているからか、明後日の到着になる予定。つまり今日到着しなくてもいいんだよねぇ」

「来る前に行けるってことになるが……あぁ、なるほどな」

 

 連中が黒騎士の下へ着く前に連れ出せると考えれば今日行った方がいいに決まっている。しかし俺はわざわざ他のヤツらが集まるタイミングで行こうとする理由に納得してにやりと笑った。

 

「帝国が来てそっちの対処に追われてるとこに乗じて助け出すってわけか」

「そゆこと~。しかもあの子達のことだから帝国の狙いがもし黒騎士だってわかったら助けようと動くよね? 秩序の騎空団はもちろんだけど」

「ははっ。そりゃいい。混乱は更に大きくなって警備も警備どころじゃなくなる。っつうことは、俺達が動きやすくなるってことだろ?」

「いやぁ、流石ダナン。よぉくわかってるねぇ。その調子で悪巧みしてようよ」

 

 笑い合う俺達を見て、スツルムが一言呟いた。

 

「……一緒になると敵に回したくないな」

 

 少し呆れ混じりの言葉だ。

 

「大丈夫、僕達はスツルム殿の味方だよ~」

「安心しろ、敵になったら容赦しねぇから」

「ダナンはもうちょっと容赦してあげた方がいいと思うけどなぁ」

「お前には言われたくないな」

 

 言い合って、脱線した話を元に戻す。

 

「まぁいい。じゃあとりあえずパンデモニウムの方行っとくかぁ。できればレプリカも探したいが、まぁ遅れてもなんだから最低限『ジョブ』解放するだけでもいいか」

「そうだねぇ。三人でどこまでいけるかわからないけど、できる限りの万全は尽くしたいからやるだけやってみないとねぇ」

 

 ということで、アマルティアへ行く前にパンデモニウムに行くことが決まったのだった。

 のだが。

 

「クエストを受けて信頼に当たる実力か見たいだ?」

「うん。どこであの場所の話を聞いたのかわからないけど、あそこは手強い魔物がたくさんいるから並み大抵の人に行かせるわけにはいかないんだよ」

 

 クエスト――騎空団連合「ラファール」とやらが出す島の魔物を倒す依頼のこと――を受けて実力を示さないとパンデモニウムへは行かせられないというのだ。

 それを連合の窓口みたいなことをやっている子連れドラフのガスタルガから聞かされてしまった。

 

「おーい、お前ら。なんかクエスト受けないと行けないとか言われたんだけど」

 

 アイテムを買ってくるとかで離れていた二人に声をかける。

 

「ああ、それなら大丈夫だよ。ねぇ、ガスタルガさん?」

「おぉ! 二人共久し振りだね。なんだ、君達の仲間だったのか。それなら問題ないよ」

 

 なんか納得いかないが、二人は名が知られているらしくあっさり了承が取れてしまった。

 

「お前ら傭兵じゃなかったか?」

「騎空士でも傭兵を兼任してる人は多いんだよ? 僕達も色々と顔を利かせるためにやってたわけ。これもその一つなんだよ。というかパンデモニウムなんて知ってる人あんまりいないんだからね? グラン君達も凄いってこと」

「……そうかよ。んじゃさっさと行くぞ」

「なに? 拗ねてるの?」

「違ぇよ。あいつらに出遅れてんのが気に入らないだけだ。とっとと追いついて追い越す。異論は?」

「もちろんないよ」

「当然だ」

 

 そして俺達はパンデモニウムへと入って待ち構えていた魔物を蹴散らしていく。

 

「……おいおい。なんで星晶獣がいんだよ。しかも複数だと?」

「いやぁ、これは僕も予想外だねぇ。謎に包まれてるから調査する、っていうのが目的なんだけど。こんなに厳重だとなにかあるんじゃないかと勘繰っちゃうよね」

「なにかあるから厳重なんだろ。無駄口叩いてないで片づけるぞ、ドランク」

「はいはい~、っと」

 

 そうしてパンデモニウムを突き進んでいくことで、俺はいくつかClassEXの『ジョブ』を解放することができた。レプリカも一つだけだが手に入れることができた。

 

「一日中やってレプリカ一個、リストはほとんど埋まってねぇ、か。英雄武器一個作るのに一週間籠もり切りで足りるかすらわかんねぇな」

「いやぁ、キツかったねぇ。もうくたくただよ~。今日は宿で休んで、明日アマルティアへ、だね」

「ああ。流石に疲れた。ダナン、肉だ」

「いや今日くらいは普通に宿で食べようぜ。俺も疲れたし」

 

 三人共疲労困憊だったので、一通り倒して回るだけに留めておいた。それだけでも一日かかるとはな。たった三人だから仕方がないとはいえ面倒だ。だが拾ったレプリカの運は良かった。

 

「……オリバー・レプリカ、か」

 

 明らかに戦闘では使えなさそうな白い見た目と手触りだが、これを鍛えていけばClassⅣに辿り着けるはずだ。……そして、ClassⅢの上位互換だと考えれば、必然【ホークアイ】の上位だと予想できる。ClassⅢで銃を使えるのは他に【サイドワインダー】がある。ただClassⅢで弓を使えるのが【サイドワインダー】だけなので弓の英雄武器になるんじゃないかと読んでいる。そうなればオリバー・レプリカは【ホークアイ】の上位互換を解放できる可能性が高い。

 【ホークアイ】は俺が一番得意としている『ジョブ』の系統だ。真っ先に解放してやりたいと思っていたんだよな。

 三人で食事を終えてから、

 

「俺はちょっと『ジョブ』の特性理解してから寝るわ」

「了解~。あんま無理して夜更かししないでね~」

「あたしは寝る」

「おう」

 

 二人は部屋に行って休むようだ。

 

 さて、俺も部屋には行くが今日解放した『ジョブ』の能力を確認してみるとするか。

 

 まず【アルケミスト】。

 発動してみると眼鏡が出現したのが真っ先にわかった。俺は目が悪いわけではないので伊達眼鏡になる。言葉からは錬金術師、ってとこか。腰に色んな機具がぶら下がっている。能力としてはポーションを作成できるらしい。ただ完全に攻撃能力については持たない支援タイプのようだ。

 あと短剣と銃が装備できる。魔法が使えないとなるとあんまり戦闘では使わないかもしれないな。素材があったらせっせとポーションでも作成して補充しておこう。

 

 次に【忍者】。

 黒ずくめで動きやすい服装へと変化する。口元を覆っているので隠密行動向きなのかもしれない。俺好みの『ジョブ』かもしれない。煙幕や手裏剣という投擲武器もサブで使えるので手札が多い『ジョブ』と言えるだろう。加えて魔法とはちょっと違うみたいだが忍術という独特のモノを使う。手で特定の印を結ぶことにより様々な効果を齎すことができるようだ。印は種類が多いので覚えるのが大変そうだが、道具も含めて手札の幅が広いという点では群を抜いているようだ。しかも忍術は全ての属性が扱える。とんでもない『ジョブ』だ。

 刀と格闘が得意。イクサバがとても強いので刀得意は凄く有り難いことだ。

 

 そして【侍】。

 黒騎士が身に着けているような鎧とはまた違った意匠を持つ鎧を着込むことになった。武者鎧という種類だ。特徴を上げるのは難しい『ジョブ』だが攻撃が得意ではあるらしい。ナルメアの戦い方を連想したのでおそらく彼女に教わったことがより活きるのはこの『ジョブ』になるだろう。

 刀と弓が得意のようだが、どちらかというと刀がいいと思われる。【グラディエーター】とは違って二刀流できないからこそ渾身の一振りを叩き込む時に使えそうだ。イクサバが以下略。

 

 お次は【剣聖】。

 マントを羽織る剣士、といった風だ。この『ジョブ』にした途端妙な気配を感じ取れるようになった。最初は驚きしかなかったが、どうやら【剣聖】は刀剣に秘められた魂を感じ取ることができるらしい。意味がよくわからない。だが感じ取れてしまったのだから納得するしかない。その魂を解き放つことで力を発揮するそうだ。つまり能力が武器によって変わる奇抜な戦闘スタイルとなる。

 剣と刀が装備できる、まぁ能力的にも当然か。強い刀剣があるなら選択肢として上がってくるだろう。イクサバが以下略。

 

 手間暇かかる【ガンスリンガー】。

 お手製の「バレット」という特殊な弾丸を銃に装填して戦うらしい。銃に通常装填されている普通の弾丸は使わないようだ。そしてそのお手製のバレットというのがめんどい。一々作らないといけないらしい。しかも銃ごとに装填できるバレットの制限があるようだ。手間がかかりすぎる。あと素材が結構貴重なの要求してくる。残念だが今回は使えないようだ。しかし使いこなせるようになったら強そうではある。両手に銃を持って乱射する殲滅力とか、味方を支援するバレットとか。幅は広いんだよな、幅は。

 銃しか装備できない。いい銃があれば輝くかもしれないんだが。

 

 また特殊な【賢者】。

 賢き眼が開かれる時、放つ魔力によって味方を鼓舞する、とか。……わっけわかんねぇなぁ。マントに翼のような頭飾りが特徴だ。賢き眼ってなんだよ、と思うが発動して使える能力を探っていればわかった。天眼陣というヤツを使うと味方を強化できるようだ。これを使うとなんつうか、広範囲を俯瞰して見ることができるようになる。部屋でやってもわかりにくいが、実際に使ってみると効果を実感できるのかもしれない。味方への強化はどちらかと言うと防御寄りのようだ。で、天眼陣で強化するには魔力を独自のMPと呼ばれる力に変換して使うらしい。ちなみに天眼陣の効果が解除されてしまうと使用者、つまり俺が大幅に弱体化するらしい。使うならずっと発動していないといけないようだ。

 杖しか装備できない。ただし魔法も魔力をMPとして使う都合上発動できない。特殊だな。

 

 俺が見た瞬間、おそらく悪どい笑みを浮かべてしまっていたであろう、【アサシン】。

 これがまた凄い。能力を確認して思わず俺にぴったりな『ジョブ』じゃねぇかと一人にやにやしてしまったくらいだ。恰好としては黒いフードのある姿なので普段の俺の姿に一番近いかもしれない。【ガンスリンガー】と同じように「暗器」と呼ばれる道具を作成して使うようだ。暗器は敵に状態異常を付与するモノや強化、回復など様々なモノがあり、これまた素材集めが面倒だが有用だった。

 

 なぜもっと早くこの『ジョブ』と出会わなかったのだろう。

 

 いや、アマルティアに潜入する前にこの『ジョブ』を解放できたのは素晴らしいことなんじゃないか? 潜入と隠密に適した『ジョブ』と言える。早速暗器を作成したいが素材が足りない。この時間じゃ一部の店は閉まっているだろう。

 

「仕方ねぇ、明日早朝から買い出しだな」

 

 そう決めて興奮冷めやらぬ状態でベッドに寝転がる。ただ連戦で疲れていたのかすぐ眠りに落ちていった。

 

 そして朝早くから起きると飯は後にして暗器に必要な素材をできるだけ買い集める。あまり数は作れなさそうだが俺が欲しいモノは出来そうだ。

 

「あれ、ダナン早いねぇ。まさか夜通し、ってわけじゃないよね?」

「まさかぁ。大丈夫だ、ちゃぁんと寝たぜ」

「……あれ、なんか凄い目が輝いてるんだけど」

「……ああ、凄く嫌な予感がするな」

 

 なぜか二人が小声でそんなことを言っていた。そんなに聞きたいなら聞かせてやろう。

 

「実は手に入れた『ジョブ』の中に【アサシン】ってのがあってなぁ」

 

 俺は二人へ嬉々として【アサシン】について語る。

 

「……うわぁ。なんか、ダナンに獲得させちゃいけない『ジョブ』第一位って感じぃ……」

「……まぁ、楽しそうなら良かった」

 

 どうやら二人は引いてしまっているらしい。なぜだ。こんなにも有用な『ジョブ』が手に入ったというのに。まぁいいか。

 

「……くっくっく。今からアマルティアへ行くのが楽しみだぜ」

「……ホントダナンにぴったりだよ」

「……怖いからもうちょっと普通にしててくれるか?」

 

 こうして俺達は思いの外優秀な『ジョブ』を手に入れて、アマルティア島へと向かったのだった。




ソルジャーとかトーメンターとかいうジョブが出てるらしいですが自分には関係ありません。なぜなら、あんな素材のキツいジョブをやる気がないからですね。

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