ナンダーク・ファンタジー   作:砂城

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ダナンが成り代わったハリソン君を心配するお声が多い(笑)

彼の顛末はアマルティア最終話で後書きかなにかにちらっと書く予定です。
アマルティアの話書いてる時も「本編には入れないけどなんかあった方がいいかなぁ」とか考えていたので今後どうなるのかはあります。


バレないように

 俺が夕食担当の食事当番の先輩方に指示を出して厨房を回していると、大盛況で騒がしかった食堂が静まり返った。

 

「これはなんの騒ぎですか?」

 

 凛とした声が食堂に響き渡る。……ヤベ。俺は目元を隠すように布巾を下げ直した。

 

「あ、いえ……その……」

「こらリーシャ。偶にはいいではないか」

 

 ドモる団員と、リーシャの隣に並び立つモニカ。……うわぁ。俺の顔を知ってるヤツらが。まぁ大丈夫だろう。黒騎士も初見ではわからなかったし。多分。

 

「しかしモニカさん。ここは秩序の騎空団ですよ? 浮ついた雰囲気でいては……」

「偶には、と言っただろう。それに食事の時間くらいは息抜きしていてもいいだろう?」

「それはそうかもしれませんが……いくらなんでも人数が多くありませんか?」

「「「……うっ」」」

 

 そういやお代わりが普段より多くなって人数が増加しちまってたんだよな。それがわいわいと騒ぐもんだから船団長様もお咎めを入れてくるわけだ。

 

「それで、この騒ぎはなんですか?」

 

 リーシャはもう一度集まっている団員達を厳しい目で見渡した。誰もが俯く中、一人の団員が進み出る。

 

「申し訳ありません、リーシャ船団長! 新入りが凄く料理が上手いモノでして……こんなに美味しいモノを食べられるとは思っていなくて……。船団長と船団長補佐もこちらをお召し上がりになればおわかりになるかと思われます!」

 

 片膝を突いて二人へ両手でカップとスプーンを差し出した。あれは俺が団員の思いつき、「ちょっと甘いモノが食べたいんだけどなんか作れない?」という発言から作ることになったデザードだ。

 

「これは?」

「焼きプリンです」

「ほう。確かに団員が食事当番をする都合上滅多に食べられないモノではあるな」

 

 モニカは興味深げに言うと団員の手からカップとスプーンを受け取って一口食べる。

 

「ん~っ!」

 

 そして恍惚とした表情で身震いをした。

 

「これは美味い! 間違いなく絶品だ! 程良い甘さ加減が口の中に広がって蕩けるように消えていく! これは……!」

 

 モニカはぱくぱくと焼きプリンを次々に口へと運んでいく。かつん、とカップの底にスプーンがぶつかる音がしてようやく手を止めた。

 

「名残り惜しくて手が止まらなくなるな。ふぅ……」

 

 食べ終えてから幸せのため息を吐く。そんなモニカの様子に悶絶した団員が三割。

 

「……んくっ」

 

 そして補佐の幸せそうな様子を見てリーシャも喉を鳴らし焼きプリンを手に取った。

 一掬いして口に運び咀嚼して飲み下す。

 

「……はぁ。美味しい……蕩けちゃいそう……」

 

 うっとりと熱に浮かされたような表情でそう呟くリーシャは妙に艶っぽかった。

 そんなリーシャの様子に悶絶した団員が三割。卒倒した団員が三割。鼻血を噴いた団員が一割。……お前ら。

 

「どうしたリーシャ。随分と食べるのが遅いではないか。気に入らなかったら私が食べてやろう」

「だ、ダメですよ! これは私のですから!」

 

 モニカの発言に、リーシャはカップを守るように移動させた。そこで我に返ったらしくはっとする。

 

「……んんっ。確かに、その、これが美味しいのは認めましょう」

 

 咳払いしほんのりと赤くなった頬で体裁を取り繕い言った。……カッコつかない船団長サマだな。いや、むしろそれが人気の理由なのかもしれんな。普段気丈に振る舞っているが可愛い、っていう。

 

「そうだな。騒ぎになるのもわかる気がする」

「はい。ですがあまり浮かれすぎないでくださいね」

「「「は、はい」」」

「まぁそう堅苦しくすることもないだろう。折角だ、私達も久し振りに食堂で食べていくとするか?」

「そうですね。それもいいかもしれません」

 

 どうやら二人もここで食べるらしい。普段は自室とかで食べてるんだろうか。……クソ、料理に本気出した弊害がこんなところで。

 

「それで、こんなにも美味しいモノを作った団員は誰だ?」

 

 しかもモニカが余計な一言を放ってくる。……皆で協力して作ったんですぅ。

 とはならずに視線が一斉に俺へと向いた。冷や汗が背筋を流れる。リーシャとモニカの視線も俺を捉えていた。流石に緊張していると、多分俺の名乗りを待ってるんじゃないかと察する。

 

「ふ、不肖私ハリソン・ラフォードがお作りいたしました!」

 

 敬礼して仕方なく名乗る。少しぎこちなくなってしまったが、まぁこんな状況で平然としていられる方がおかしいから大丈夫だろう。後はバレなければいいのだが。

 

「ほう。新入りか。まさかこんなにも料理ができるとは思わなかったぞ。素晴らしい焼きプリンだった」

「あ、ありがとうございます」

「とても美味しかったですよ。折角なのでここで見ていてもいいですか?」

 

 歩み寄ってきてガラス越しに二人が立つ。……おいおいふざけんなよどっか行け。とは言えないよなぁ。

 

「えっ?」

「それはいい考えだな、リーシャ。私も是非料理の腕前を見てみたいと思っていたところだ」

 

 ……まさか俺の正体に気づきかけて、探りに来てるんじゃないだろうな? という不安が頭を過ぎった。

 

「ですがその、お二人の目の前だと緊張してしまいます」

「ははっ。気にすることはない。普段通りにやってくれ」

「はい。いないモノと思って構いませんよ」

「は、はぁ……」

 

 できるか。

 ちらりと厨房にいる先輩団員へ視線を送ると、いい笑顔で親指を立てられた。……ぐっ、じゃねぇよ。

 

「……わかりました。あんまりその、見られていると恥ずかしいので……」

 

 俺は言い訳をしつつ、調理に移る。手汗の掻いた手を洗い直し、気合いを入れた。……しょうがねぇ。バレないように全力で、二人のために特別メニューを組んで作ってやるか。

 

「少しお時間かかりますけどよろしいでしょうか?」

「構いませんよ」

「ああ、問題ない」

 

 さいですか。じゃあやるとしましょう。二人の胃袋を掌握できるような、料理を。

 

「……先輩方。自分はお二人に料理を作るので、他はお任せしてもいいですか?」

「もちろんだ。新入り、お前の料理でお二人を満足させてやってくれ」

「……できればさっきの蕩け顔もう一回」

 

 ぼそっと余計な一言も聞こえてきたが、俺にできるのは怪しまれないよう全力を尽くすことだけだ。

 

 ということで、全力全開気合いMAXの料理を作り終えた。俺が持っていくことになってしまったが。

 

「お待たせしました。デザートは後程お持ちしますね」

「おぉ!」

「わぁ……!」

 

 料理を見て二人が目を輝かせる。合掌の後食べ始めて美味しい美味しい言いながら食べる手を止めずにいるのを見ていると、すっかり夢中になっているなと思う。その時点でもかなり胃袋を掴んだとは思うが、トドメのデザートだ。

 

「こちら、イチゴタルトになります」

「「っ……!」

 

 漂う甘い香りに二人が喉を鳴らしほぼ同時に一口。

 

「「……幸せぇ……」」

 

 どうやら余程甘い物不足だったようで二人同時にうっとりと微笑み熱っぽいため息を零す。

 その破壊力たるや、ガラスに映っていたらしく食堂にいた大半が倒れたくらいだ。少なくとも厨房は全滅したな。

 

「お気に召していただけたなら良かったです」

 

 まぁ確かに可愛いのは認めるけど。性格上反りが合わなさそうなのがな。

 

 俺が厨房に戻ろうとするとこんな話し声が聞こえてきた。

 

「久し振りに堪能したな、リーシャ」

「はい。偶にはこういうのもいいですね」

「そうだろう?」

「はい」

 

 満足してくれたなら良かった。だが問題はその後だ。

 

「料理のできる男性って、素敵ですよね」

 

 リーシャが爆弾を投下した。ぴくりと床に転がる男共が反応する。

 

「そうだな。毎日美味しい料理を作ってくれたなら、確かに幸せだろうな」

 

 ゆらりと男共が立ち上がる。

 

「ご馳走様。とても美味しかったです。あ、資料をまとめているので紅茶とお茶受けを持ってきていただけますか?」

「狡いぞリーシャ。是非私にも頼む。後で持ってきてくれ」

 

 二人はそう言って食堂を去っていく。……いやなんかめっちゃ見られてるんで助けてくださいよ船団長。

 

「……新入り。俺、料理頑張ろうと思うんだ」

「……そうなりますよねぇ」

「教えてくれ、頼む!」

「「「この通りだっ!!」」」

 

 まさかの全員土下座した。……いい景色、じゃねぇや。俺に言われても困るんだが。

 

「じゃあ黒騎士に料理を」

「「「明日から頑張る」」」

 

 どんだけ恐れられてるんだ、あいつ。まぁ国家転覆を企むような大罪人だもんな。だがおかげで助かった。

 なんとか厨房を脱け出し黒騎士の下へ。

 

「調査の方はどうだ?」

「全く進んでねぇ」

「……貴様」

「いや、料理で本気出したら厨房に固定されちまってよ」

「まぁこの美味さなら仕方あるまい」

「それはリーシャとモニカが来たから特別に作ったヤツだしな」

「バレていないだろうな」

「あんたが初見でわかんなかったんなら、たった一度会っただけのヤツがわかるはずもないだろ。死んだと思ってるんだろうし」

「それもそうか」

 

 あ、そうだ。手が離せなくて全然定期連絡してないや。

 俺はポーチからドランクの玉を取り出す。光っていた。丁度いいな。

 

「悪い、手が離せなくて全然連絡できなかったわ」

 

 俺は玉に魔力を込めて話しかける。

 

『おっ? ようやく繋がったよ〜。どぉ? 上手く潜入できた、って聞くまでもないか』

『見回りが話してた。新入りに物凄く料理の上手いヤツがいるとな』

「当たりだ。都合良く背格好の似たヤツがいたんでな。今潜入中だ」

 

 どうやら既に知られていたようだ。

 

「スツルムにドランクか」

『おっ? ボス〜。声聞けて良かったぁ。僕はもう心配で心配で……』

「おっとこれ以上声を聞きたければ身代金の半分を渡してもらおうか?」

『似合いすぎてて怖いよ……。まぁ無事なら良かった。ってか会えたんだねぇ。脱出はできそう?』

「それはダナン次第だな。枷を外す鍵がなければ脱出しても意味がない」

『じゃあお願いするしかないねぇ。とりあえず僕達は退路の確保で忙しいから。ボス、ところでそっちの暮らしはどぉ? 牢屋のご飯って臭いんでしょ?』

「ふん。思いの外快適だ。ダナンが作っているから美味いぞ」

『なに!? それは横暴だ。あたし達にも作れダナン』

「無茶言うんじゃねぇよ。外にいるヤツにどうやって作れっつうんだよ」

『そんなぁ……。僕達持ってきた携帯食料もそもそ食べてるのに……』

「ふん。ダナンの料理が食べたいなら自首でもして捕まればいい。こればかりは役得だな」

『捕まった方がご飯美味しいってなにそれぇ!』

 

 四人で軽口を叩き合っているとあっという間に時間が過ぎていく。

 

「そろそろ時間だ。今日また連絡できるかはわかんねぇが、また連絡する」

『はいは〜い。んじゃね〜』

 

 十分経つ前に通信を終えておく。

 

「あいつらは相変わらずのようだな」

「……随分、嬉しそうな顔するんだな」

 

 黒騎士が笑みを浮かべていることに気づいた。

 

「……ふん。これでも長く付き合いになるからな」

「そうだったな。じゃあまた。朝……はわかんないな。もう襲撃されてるかもしれないし」

「ああ。任せたからな」

「ああ。任された」

 

 そして、俺は牢を出て厨房に戻る。鍵について探りを入れるため、お茶請けをモニカとリーシャへと持っていく予定だ。先輩に二人のいる場所、部屋を尋ねて格別なクッキーを作り紅茶を用意して運ぶ。先にモニカの方から訪ねていった。

 

 扉を二回ノックし「入れ」と返事があってから、「ハリソン・ラフォード、入ります」と名乗って扉を開け中に入る。

 

 モニカはコートと帽子を脱いでいるため、普段よりも貫禄が減ってより見た目に近い幼さが見えるようだった。ただし真剣な顔で執務机の書類と向き合っている姿は上官のそれである。

 

「おぉ、来たか。いい香りだ。紅茶も淹れられるのだな」

 

 顔を上げて顔を綻ばせた。

 

「はい。もちろん淹れられるだけ、ではありますが」

「それで充分だ。ここの団員はあまりそういうのが得意ではないものでな」

「そう、みたいですね。誰か雇ったりはしないのですか?」

「当初はそれも考えていたのだが、どこかで働いている料理人を雇うとなるとそれなりに金がかかる。加えて外で任務に当たることも考慮し自分達で料理できるようになればいいという意見もあってのことだったのだがな」

「本日は昼からずっと厨房にいる羽目になってしまったので、私としては雇って欲しいのですが……」

「それはすまなかったな。しかし日頃から美味しい料理を作るために精進しているかのような見事な腕前だった」

「ありがとうございます」

 

 うちの大飯食らいを満足させられるように頑張り続けた結果だな。隙あらば一日中なにか作らされ続けるから困ったモノだったが。

 モニカは話をしながら一旦羽根ペンを置き紅茶へとぽんとぽんと角砂糖を放り込んでいく。……甘くしすぎじゃないのか?

 

「……む。まさか紅茶を甘くしないと飲めないとは子供っぽい、などと考えてはいないだろうな」

 

 砂糖を入れる手を眺めていたら少し厳しい視線を向けられてしまった。

 

「い、いえ。そのようなことは。ただあまり入れすぎると紅茶の香りが損なわれますよ?」

「わかっている。ただ上官の事務処理というのは頭を使うことばかりでな。頭を使うと糖分が欲しくなるだろう? そういうことだ。わかったな」

「はい」

 

 念を押されてしまった。要は甘いモノが好きだが子供っぽく見られたくないから紅茶を飲んでいるということだな。

 

「このクッキーもなかなかのモノだな……」

「ありがとうございます」

 

 料理の腕を褒められるのは悪い気はしない。

 

「そういえば、貴公は黒騎士に随分と気に入られているようだな」

 

 どう鍵について聞こうか迷っていると、モニカから話を振ってきた。……やっぱりモニカは感づいてるのか?

 

「そう、なんですかね」

「そうでなければあの黒騎士が食事を食べることなどあり得んよ。これまでは毒や自白剤を警戒して一切食べなかったからな」

「だとしたら空腹が限界になって、美味しい匂いに屈したんじゃないですかね。彼女がなにがしたかったのかはわかりませんけど、まだ心が折れていなさそうでしたから。死ぬわけにはいかなかったのではないのかと」

「そうだな。そう考えるのが自然か」

 

 上手く返せたようだ。

 

「ただ、凄く怖いですけどね。入れば殺気をぶつけてきますし、一つ一つ毒見をさせられますし」

「だろうな。よく怯えずに二回も行ったものだ」

「案外美味しそうに食べてくれるからですかね」

「……貴公の教育係から聞いていた印象とは違っているな。まさか、それほどまで料理に自信があるとは。もしかしなくてもそちらの方が向いているのではないか?」

 

 流石に別人だから、という発想には辿り着かなかったらしい。

 

「ははは……手厳しいですね」

「いや、そういうつもりでは……。そうだな、失言だった。忘れてくれ」

 

 ネガティブに受け取るなら「お前は向いていないから秩序の騎空団を辞めろ」と言われているようなモノだ。

 

「モニカ船団長補佐。自分からも少しお聞きしても構いませんか?」

「ん、なんだ? 大抵のことなら答えるぞ。美味しいモノを作ってくれた礼だ」

「ありがとうございます」

 

 不審に思われない程度の、ふと疑問に思った程度の質問をしてみようか。

 

「黒騎士に会って思ったのですが、あんな枷一つの拘束だけで大丈夫なんでしょうか?」

「それについては心配いらない。あの枷は特殊でな。我々基準での最高位、S級犯罪者へ特別に取りつける枷だ。魔力が使用できなくなり、身体能力も大幅に低下する――とはいえ相手は七曜の騎士だ。ヴァルフリート団長と同等と考えた場合枷がついていても並みの団員では到底敵わないだろう。だが効果は保証できる。なにせ団長自ら被検体になって作り出したモノだからな」

「そうだったんですね……。ということは耐久性も保証されているということですか」

「そうだな。流石に私が全力で壊しにかかれば壊れるだろうが、大抵のことでは壊れないと保証しよう」

「それは良かったです。ピッキングとかも不可能と考えてよろしいでしょうか?」

「無論だ。地下監獄の扉を開けた、魔法認証を行わないと外れない仕組みになっている。不安に思う必要はない」

「ありがとうございます。……すみません、変なことを聞いてしまって。何分入団して間もない内の、大罪人だったものですから」

「いや、不安に思うのも無理はない。そして貴公ら団員の不安を取り除くのも私達上官の務めだ。他に聞きたいことがあれば答えよう」

 

 モニカの方からそんなことを言ってくれた。話しやすくて有り難い。いい上官だな。うちの黒騎士とは大違いだ。

 

「そうですね……。ではご存知であれば、今日の侵入者についてお尋ねしたいと思います」

「うむ。小型騎空艇から飛び降りてきたという少数の侵入者のことか」

「はい。なにが狙いなのかと思いまして。このタイミングで、と考えると黒騎士に関係しているのかと思ったのですが」

「そうだな。私もそう睨んでいる。だが黒騎士と行動を共にしていた一人は死亡し、残るは側近の二人だけとなっている。たった二人で私達秩序の騎空団を相手取るつもりはない、と思っているのだが」

「だからあれから音沙汰がなかったんですかね。警備が多くて黒騎士を助けようと思っても近付けない、と考えれば納得できるモノもあるような気はします」

「ああ。まぁ他にここを攻める動機のある連中がいるとも思えない。その可能性は高いか……」

 

 良かった、まだ二人は見つかっていないようだな。

 

「若しくは援軍を待っている、とかですかね」

「その線もあるな。侵入経路の確保に動いているとも考えられる。夜の警備を少し増やしておくとするか」

「ありがとうございます。……島全体を巻き込んでの戦闘、にはならないですよね?」

「それを祈っている。が、そうならないとは言い切れないな」

「そうですか……」

 

 ある程度覚悟はしているということか。

 

「無論私も貴公らを守るため尽力する。初陣とはいえ気負う必要はない」

「ありがとうございます、モニカ船団長補佐。そう言っていただけると助かります」

 

 俺はほっとしたような笑みを浮かべて言い、そろそろ頃合いかと思って退室を切り出す。

 

「ではこれで、失礼いたします。リーシャ船団長の部屋へも行かなければなりませんので」

「そうだったな」

「はい。お時間いただきありがとうございました。失礼いたします」

「うむ」

 

 俺は礼を言って頭を下げ、踵を返し退室する。部屋を出るところで呼び止められて「なにが目的だ?」などと聞かれる展開を想像してしまったが、そうはならなくて良かった。このまま今日を乗り切ろう。そうすれば明日には事態が動くはずだ。

 さて、お次はリーシャのところへか。一旦厨房に戻るとするか。


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