ナンダーク・ファンタジー   作:砂城

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さっき更新しましたがそういやアニメ放映の話をしてませんでしたね。
地域によっては今日、というか今観てる方もいらっしゃるのかな?
うちはなんか電波悪いっす(笑)

放映記念枠ってことで更新しときます

※追記
前書きを書いてる時は放映の最中でしたが、後書きのハリソン君の後日談を書いてたら終わってました(笑)


四つ巴決着

 グラン一行、秩序の騎空団、エルステ帝国軍、そして黒騎士一行。

 

 アマルティアでぶつかる四つの立場それぞれの者達の中で、戦況を左右する者達がいる。

 その中の一つはあっさりと決着がついた。

 

 黒騎士とポンメルンとの戦いである。

 両者の戦いに巻き込まれないよう退路を封じようと動く兵士達がいる中で、一騎打ちの構図となっていた。

 

 片や七曜の騎士。片や魔晶によって人外の力を手にした軍人。

 

 どちらも化け物でありながら、より化け物だったのはどちらか。

 

「はあぁ!」

「ふんっ」

 

 巨大化したポンメルンと黒騎士が刃を交える。

 

「ぐあぁ!?」

 

 押し負けたのはポンメルンだった。大きく後退させられ、深く切り裂かれる。

 

「……ば、バカな! バカなバカなバカな……っ! 魔晶を使った私がこんなにも……」

「ふん。貴様如きがいくら力を手にしたところで無駄だ」

「っ! これなら、どうですかねェ。魔晶剣・騎零ッ!」

「無駄だと言っている」

 

 ポンメルン渾身の一振りでさえも、黒騎士の一振りによって相殺され、余波で後退させられる始末だった。

 

「……バカな。あり得ない、こんなことあり得るはずが……」

 

 慄くポンメルンは実際に剣を合わせて実力を肌で感じ、勝ち目がないことを悟った。

 

「私はこれでも七曜の騎士だ。貴様の小さい物差しで推し量ろうなどと浅はかだったことを悔いるんだな」

「くぅ……!」

 

 そして黒騎士がもう一度剣を振るった。斬撃がポンメルンへと直撃して吹き飛ばす。傷は魔晶の力で再生したが大きなダメージを負ったせいか変化が解けている。

 

「……た、退却、退却するんですよォ!」

 

 最大戦力をあっさりと破られた帝国は一目散に撤退していった。

 

「ふん。他愛ない」

 

 黒騎士はつまらなさそうに鼻を鳴らす。そこへ傭兵二人がやってきた。

 

「流石ボス〜。おかげで僕らも楽できたよ」

「ダナンを手助けするか?」

 

 久し振りに顔を見て元気そうだと察し、しかしそれを口にしないまま次へと移る。

 

「いや、あれはあれで面白そうだ。見ていよう」

 

 その視線の先には怒り狂うリーシャと戦い、もとい追いかけ回されているダナンの姿があった。

 もう一つの戦い、モニカと秩序の騎空団が協力してグラン一行と戦っている方も気になっていた。ヤツらに覚悟があるのか、それを見届けなければならない。

 

「紫電一閃!」

 

 紫電を伴う斬撃が放たれる。黒騎士も苦戦させられたあれだ。正面を受け持つのはグランとジータ。グランが【ホーリーセイバー】となり防御を担当し、ジータが【ウエポンマスター】となって攻撃を担当している。しかし攻撃が当たらず紫電一閃を連発される始末だった。

 他の仲間達も仲間達で連携の取れた秩序の騎空団に苦戦を強いられている。数が多くカタリナは防御に徹する他ない状態だ。後衛の四人が徐々に数を減らしているが、厳しい戦況なのは間違いなかった。

 

「メレーブロウ!」

「甘い! 紫電一閃!」

 

 ジータの放った渾身の奥義も回避され、紫電一閃が叩き込まれる。それをグランが代わりに受けてジータは斧を手放しモニカへ迫った。

 

「なに!?」

 

 武器を手放すという手段を使った彼女に驚き、しかし迎撃しようと剣を振るう。

 

「【オーガ】! カウンター!」

 

 それが狙いだったようで、すぐに『ジョブ』を変えて剣を紙一重で掻い潜り拳を見舞った。

 

「っ……」

 

 怯んだモニカだがそうダメージは多くない。まだ戦えると思い顔を上げたところで、

 

「【サイドワインダー】。《エウリュトスボウ》」

 

 召喚した赤い弓を構えたグランが目に入る。放たれた矢を間一髪回避すると、そこへジータが駆け込んでいた。接近戦が開始される。互いに回避直後に攻撃をする戦い方のせいか、際どい攻防が繰り広げられる。モニカの方が上手だったが後方のグランが矢を放ってジータを援護してきているため、互角の戦いとなっていた。ジータは後ろを一切振り返らず、グランも矢を放つのに躊躇がない。双子故の連携がモニカに迫るほどとなっていた。

 既に紫電が最大まで溜まった状態のモニカと互角。しかも容赦なく隙を突く戦い方をしている。

 

 勝ってここを出るという覚悟と、二人とはいえ彼女と互角に戦える実力を示していた。

 

 黒騎士はこれなら問題ないだろうと判断する。

 

「随分と思い切りが良くなっているな。お前達二人といい勝負ができそうだな?」

「二対二なら負けるつもりはない」

「でももう少ししたら抜かれちゃいそうで怖いね~」

 

 コンビネーションという点で抜群の二人も見張る成長振りだった。二人が確実に強くなっていることを確認すると、最後の一つ。

 異色の戦いへと目を向ける。

 

「このっ! 避けないでください!」

 

 毅然とした態度など一切なく剣を振り回すリーシャと、

 

「避けるに決まってんだろ? ってかなにそんなに怒ってんだよ。昨日あんなに仲良く語らった仲じゃないか」

「仲良くなんてしてません! あなたという人は! 人の心を弄んでなにが楽しいんですか!」

「人聞きの悪いこと言うなよ。大体そっちが先に弄んできたんだろ、純粋な少年心をさ」

「も、弄んでなんかいません! 別にその、そういうことではなく!」

「それが弄んでるって言うんだよ。『あ、あのリーシャ船団長が俺と二人きりで、しかもあんな恰好で……これはチャンス到来か!?』からの『特に用はないんですけど』は弄んでるだろ」

「うぅ……その、もしかしたら無自覚にそういうことをしてしまったかもしれませんけど、それとこれとは別です! あなたは意図的に弄んだじゃないですか!」

「そりゃあだってあんな無防備晒されたら身を持って教えてやるしかないだろうよ。俺はリーシャ船団長の貞操を案じて、仕方なーくだな」

「う、嘘です! 絶対楽しんでたじゃないですか!」

「それはまぁ慌てるリーシャの様子が面白くて面白くて――じゃなかった、可愛くてついな」

「面白いって言ってるじゃないですか! 最低です!」

「はっはっは。本当に手を出さなかっただけマシだと思え無自覚無防備小娘」

「っ~! もう許しませんからね!」

「許されるつもりなんてねぇよ」

 

 本来なら「罪人である黒騎士と逃がしてまでオルキスを助けに行きたいグラン達」と「罪人である黒騎士を逃がすわけにはいかない秩序の騎空団」という互いに相容れない立場で互いの信念がぶつかり合う場面なのだが。

 二人が言い争いながら戦っているせいでイマイチシリアスになり切れない部分があった。

 

 他の団員もリーシャを援護しようにも全く周囲を省みていないことと、今まで見たことのない様子に戸惑っている。

 

 リーシャは冷静ではなく、動揺しまくっていたが、それでもずっと続けてきた剣術が自然と発揮され鋭い一撃を繰り出している。普段見せない攻撃的な戦い方のせいで苛烈とも言える攻撃をにやにやと軽口を叩きながら回避し続けているダナンがいた。彼は普段通りの恰好――つまりClassⅠ相当の実力でリーシャの攻撃を捌いているのだ。フェイントなど駆け引きの一切ない攻撃とはいえ、彼が格段に強くなっているのは間違いなかった。

 

「真面目に戦いなさい!」

「……わかった。しょうがねぇ。【オーガ】」

「えっ――?」

 

 彼女の一言で軽い笑みを引っ込めたダナンは黒い拳闘士の姿へと変わり、突然のことで反応が遅れたリーシャの懐へと潜り込む。回避が間に合わないリーシャの腹部へと、彼は右の肘打ちを叩き込んだ。一度見た十天衆の身体の動きを模倣していく内に洗練され始めた一撃が当たり、リーシャの身体がくの字に折れた。

 

「……かはっ!」

 

 空気が吐き出したところで足を払われ、宙に身を投げる形になってしまう。地面に手を突いたリーシャへと、ダナンは身体を捻り肘を地面に叩きつけるように躍らせた。突然の攻勢に団員達が反応できない中、一瞬の隙を突いてダナンの上へと移動した者がいた。

 

「はぁ!」

 

 モニカだ。紫電が最大まで溜まった状態での高速移動なら間に合ってくる。

 

「【アサシン】、バニッシュ」

 

 しかしダナンは至極冷静に『ジョブ』を変えてモニカの目の前から姿を消し彼女の上へと現れる。

 

「なにっ!?」

 

 素早く抜き取った短剣をモニカの首筋へと突きつけようとするが、モニカの反応は早かった。空中で身を翻して構えていた剣を逆に振るう。ダナンは短剣でそれを受けて吹き飛ばされる時に、モニカの腹部を蹴ってお互い弾かれるように離れた。互いに身体を捻って足から着地する。

 

「……チッ。不意打ちからならいけると思ったんだがなぁ。流石船団長補佐」

「ふん。食えないヤツだ。まさかリーシャを圧倒できるとはな。立てるか?」

「は、はい。すみません」

 

 手を取って起こし、仕切り直しとなる。

 

「……これは分が悪いな。帝国は撤退し、残るは私達だけ。流石の私も勝ち目のない戦いに部下を向かわせるつもりはないが」

「そうですね……状況は厳しいと思います」

 

 彼女らが相対しているのは、未知数の実力者ばかり。確実に強い者が一人いるとわかっている時点で不利なのだ。モニカが黒騎士を相手にしている間に、リーシャがダナンを相手にしたとする。となると残る面子を一般団員で相手することになるが、それでは勝てないだろう。できれば帝国がいてごたごたしている間になんとかしたかった、というところがあった。しかし帝国はあっさりと退いてしまっている。

 

「……仕方がない」

 

 モニカは嘆息して剣を鞘に納める。

 

「皆さん、武器を提げてください」

 

 リーシャが団員達に指示して、自分も剣を納めた。

 

「どういうつもりだ?」

「勝ち目のない戦いで部下に怪我をさせるのは忍びない。貴公らの話を聞かせて欲しい」

「話す義理はないな。このまま立ち去ろうが変わらんだろう」

「確かにな。……しかし私はそこの彼らが貴公に助力した理由が知りたい。短い付き合いだが彼らが悪人でないことはわかる。となれば彼らを動かすだけの理由があるということだ。違うか?」

「ふん。それはこいつらに聞くがいい。私に答える気はない」

 

 モニカと黒騎士が問答する。黒騎士にも戦う気はないようで剣を提げて佇んでいた。

 

「ならば儂が変わりに話そう」

 

 そこへ、別の立場の者が参上した。

 

「ザガ大公……」

「し、師匠!」

 

 黒騎士とイオが現れたドラフを呼ぶ。

 

「大公閣下。貴公は黒騎士に彼らが協力した理由に心当たりがあると?」

「無論。そもそもあの子らが決断したのは、儂の話あって故じゃろう」

「それをここで聞かせていただけると?」

「儂はそのつもりじゃが、構わんな?」

「……好きにしろ。憶測に過ぎんだろう」

 

 黒騎士は自ら語る気がないらしい。

 大公は周囲を見渡してから語り始める。

 

「儂は、知っての通り帝国に操られておった。しかしその洗脳による指示は、『ルリアと黒騎士の連れた人形を奪還せよ』というモノじゃ。確かに黒騎士は近くにいたが儂を操った本人ではない。黒騎士が儂を操った本人なら、わざわざあの子を奪うよう指示を出すわけがなかろう。なにせ既に手元にいるのだからな」

「……それが本当ならバルツでの罪はある程度軽くなりますね。もちろん、全てが帳消しになるわけではありませんが」

「儂が嘘をつく義理はないの。なにせ帝国は儂の守りたいモノを――バルツ公国を危険に晒した。本当に黒騎士が黒幕であれば庇うことはない。違うと思っているからこそ、儂は真の敵に目を向けるべきじゃと思う」

 

 大公の諭すような言葉に、秩序の騎空団の面々は神妙な面持ちになる。

 

「そ、それに! 黒騎士さんの罪状、島への侵攻については黒騎士さんじゃないと思います!」

 

 そこにルリアが追い討ちをかける。

 

「確かに、ポート・ブリーズ群島じゃフュリアスの野郎が仕切ってやがったな」

「アウギュステでも傍観してたよな。軍を仕切ってたのはフュリアスだったはずだ」

「アルビオンではフュリアスしかいなかった。入っているかは怪しいが」

 

 ラカム、オイゲン、カタリナが「苛烈な他島への侵攻」の罪に対して意見を述べる。

 

「あなた方が口裏を合わせて庇っているという線は拭えないと思いますが?」

「それこそ島の連中に聞けばいい話じゃねぇか。ポート・ブリーズでの件は間違いなくフュリアス主導だって言えるぜ。なにせ黒騎士に会ってもいねぇ」

「僕達はいたけどね~」

「お前は黙ってろ」

「……それが本当なら、というよりそれが本当かどうかを調べるのが我々の仕事、か」

 

 モニカが話を聞いて嘆息する。

 

「しかし帝国の乗っ取りと魔晶の研究についてはどう弁明します?」

 

 リーシャは残る二つの罪について尋ねる。残念ながら、グラン達ではその二つに対する意見はなかった。

 

「俺達なら反論できるけど、黒騎士の味方してる俺達が発言したところで無駄だよな」

「そうだね~。荒唐無稽にも程があるけど、僕達じゃね~」

「信憑性が薄いな」

 

 黒騎士の味方をする三人が声を上げるも、彼らは庇う立場にあるため信用することはできない。

 

「あ、でも魔晶については反論できるんじゃねぇか? 基本的にあの街にいたから関わってないだろ? こいつ街中でも鎧だから目撃情報多いしな。もうちょっと忍ぶって考えが浮かばないもんかと」

「そうだね~。後はあれ、うちのボスったらあんまり頭脳労働得意じゃないんだよね~。結局は力でなんとかするタイプだし、研究とかしてなさそう」

「確かにな。雇い主は研究に向いていない。試行錯誤が苦手そうだ」

 

 三人がそれぞれ意見を言って、

 

「……貴様ら。私をフォローする気なのか陥れたいのかどっちだ」

 

 ごつんと脳天に拳を食らった。揃って頭を抑える姿はコミカルだ。

 

「……ええと、まぁいいです。少なくとも団長さん達は黒騎士が全ての元凶でないと知ったからこそ、協力する気になったということですね?」

 

 困惑するリーシャは表情を引き締めてグラン達へと目を向けた。

 

「は、はい。それに、オルキスちゃんは黒騎士さん達の傍にいたかったと思います。オルキスちゃんを宰相の好きに利用させるわけにはいきません」

 

 ジータが戸惑いながらもはっきりと告げる。

 

「……そう、ですか」

 

 リーシャはそれを聞いて表情を暗くした。

 

「……あの子は、とても悲しそうにしていました。聞いた話で無理に黒騎士が連れ回しているということでしたが……。それに」

 

 言ってダナンを真っ直ぐ見据える。

 

「あなたが死んだという報告を聞いて、泣いていましたから」

「……そっか」

 

 ダナンはそのことに優しげな微笑を浮かべた。……リーシャがそんな表情もするのかと思ったのは内緒だ。

 

「ダナンってば女の子泣かせるなんて最低~」

「オルキスにそこまで想われるとはたらしだな」

「全くだ。そこの小娘も絆されたようだしな」

「ほ、絆されてなんていません!」

 

 軽口がリーシャに飛び火する。

 

「……んんっ。とりあえずあなた方の事情はわかりました。しかしそれならそうと弁明すれば良かったのではないのですか?」

「それは多分あれだね、うちのボスってば人に助け求めるの下手くそだからね」

「……おい」

「強がっちゃって……そういうところも可愛げが――ごぼぁ!!」

 

 鈍い音と冗談ではない呻き声が上がって、細身の青年が撃沈する。

 

「……余計な口を開くな」

 

 流石にからかいが過ぎたようだ。倒れ伏したドランクはぴくぴくと痙攣して起き上がってこない。

 

「あと利用することはあっても頼る気がねぇんだろ。加えてあんたらはこれまで数多くの犯罪者を捕らえてきた集団だ。わざわざ弁解しなくても、調査に入れば真実に辿り着くっていう信頼もあるわけだ。そしてその頃には全部終わってるんだろうけどな」

「ふん。知ったような口を」

「これでもあんたの人柄ぐらいは知ってるつもりだ。必要なら利用する。必要ないなら利用しない。秩序の騎空団は別に協力してもらわなくても問題ねぇ、ってことだろ。それまでに脱獄して片をつけた方が早いってわけだ。なにをするつもりかってとこまでは知らなくても、どこへ行ってるかの宛てがあれば自分で行った方がいいしな」

「ふん、なかなかいい線いっているな」

「そりゃ付き合いそこそこだからな」

 

 ダナンの言葉を、黒騎士は否定しなかった。

 

「……あなた方は、これからなにをするつもりなんですか?」

 

 リーシャの真剣な言葉に、堂々と返答する。

 

「あの人形を取り戻す。あの女は人形とルリアを使って目的を果たすつもりだ」

「……あの女?」

「おいおい。リーシャ船団長は頭お花畑なのか? 大公の証言と今オルキスを手元に置いてる人物がわかるなら察するだろ」

「なっ! そんな言い方しなくてもいいじゃないですか! あなたという人は……!」

「リーシャ。あいつのことになると熱くなりすぎだ。もう少し冷静になれ」

「はい……」

 

 ダナンに煽られて激昂しかけたところをモニカに諭されしゅんとするリーシャ。ファンが増えたのは言うまでもない。

 

「つまり貴公らはそこの黒騎士ではなく、宰相フリーシアが全ての黒幕だと睨んでいるわけか」

 

 モニカが取り直して結論を出す。

 

「……信じるんですか、モニカさん」

「全てを信じるわけではないさ。ただ少しばかり信じる余地は生まれたと思っている。それにリーシャ。最初に私へ正しいのかと尋ねてきたのはお前だろう」

「それは……オルキスちゃんが凄く悲しそうな顔をしていて……」

「そうだな。無理に連れ回されていたならあんな顔はしない」

「はい」

 

 どうやら信じる部分も出てきたようだ。

 

「どうする、リーシャ? 今の船団長はお前だ。やはり黒騎士を捕らえるか、それとも別の選択肢を提示するか」

 

 モニカは彼女に判断を委ねる。顎に手を当て真剣な表情で考え込んだ。皆がリーシャの判断を待つ。流石のダナンも茶々は入れなかった。

 

「……決めました」

 

 リーシャは言って黒騎士を真っ直ぐに見つめる。

 

「黒騎士。あなたの罪状は全てではないにしろ、帝国の暴走を止められる立場にあって傍観していたことからも、無罪放免というわけにはいきません」

「ふん、だろうな」

「しかし、先に倒すべき元凶がいる可能性が出てきました。もちろんこの件は我々秩序の騎空団としても独自に調査する必要はありますが。ただ刻一刻と事態が差し迫っている場合あまり悠長にしていられません。ですので、あなた方にも協力してもらいます。黒騎士はフリーシア宰相がどこにいるか心当たりがあるようですから。もし彼女がなにか企んでいるならあなた方についていった方が早く辿り着けるでしょう」

 

 毅然として語っていく中、彼女の結論に対する理解が徐々に広がっていく。

 

「モニカさん。後のことは任せてもいいでしょうか」

「……うむ。船団長自ら出向くのは些か大胆すぎると思うが。そう決めたのなら思う存分やるといい」

「はいっ」

 

 秩序の騎空団側での方針は決まってしまったようだ。

 

「つまり、貴様がついてくるということか?」

「はい。あなた方を野放しにするわけにはいきませんが、かと言って捕えることはできませんから」

 

 それに、とリーシャはキッとダナンを睨みつけた。

 

「卑劣で最低なあなたを放置しておくことはできません! きちんと監視下に置いておくべきです!」

「私情かよ」

「私情ではありません。……強さとは違う異質な危険さをあなたから感じます」

「なるほど。リーシャは彼の危険さに惹かれたというわけか」

「も、モニカさん!? 急になにを……」

「違うのか? てっきり昨夜口説かれたのかと思っていたのだが」

「くどっ!? 違います! 全然! 全く! そんな事実はありません!」

「えー。俺の口説き文句に顔を真っ赤にしてた癖にー?」

「し、してませんから!」

 

 二人からからかわれるリーシャはすっかり翻弄されている様子だ。

 

「ほう。どのような口説き文句を?」

「モニカさん!」

「……星空より、俺はリーシャ船団長の方が綺麗だと思いますよ」

「っ!!」

 

 ダナンがあまりにもいい声と顔で言うものだから、リーシャは顔を真っ赤ににしてしまう。そしてその場にいた全員が納得した。

 

「ほら、こんな感じで」

「な、なってません! なってませんから!」

 

 苦し紛れに顔を両手で覆う彼女だったが、耳まで赤いので隠せていない。

 

「……しかしそんな歯の浮くようなセリフをよくも言えるものだな」

「リーシャをからかうためなら全然気にならんな」

「……貴公。いつか刺されるぞ」

 

 にっこりと笑う邪悪にモニカが呆れた。

 

「……まぁホントのことを言うと、だが。そこのリーシャ船団長が他人、特に父親と比べて下らないことで悩んでたもんだから、ついな」

「そうか。しかし敵地に潜入して塩を送るとは、料理もそうだがなにを考えている?」

「なにも。俺は黒騎士を救出するっていう仕事はこなした。後はやりたいようにやった。料理で手は抜かねぇし、リーシャはからかって遊ぶ。ただそれだけのことだ」

「……一つ余計なモノもあるが。しかしリーシャよ。一晩で大きく成長したのは彼のおかげと言えるな」

「えっ? えと、その……確かに励まされたのはそうですけど」

「そうかそうか。それで惚れ込んだわけだな」

「違います! なんでそうなるんですか!」

「違うのか? 明らかに意識しているだろう? 先程の戦い、何事かと思ったぞ」

「うっ……」

 

 痛いところ、剣を振って追い回していたことを指摘される。

 

「つまり、こういうことよね。昨日リーシャちゃんがダナン君に口説かれて“男”を意識させられた後に、敵だとわかって頭の中がぐちゃぐちゃになった、と」

 

 妙齢の女性、ロゼッタがそうまとめた。ダナンの言葉よりも効いたのか、湯気が出そうなほど真っ赤になる。言い得て妙だったからだろうか。

 

「なるほど。初めて異性を意識することができたのだな、リーシャ。……私は嬉しいぞ。まさかあのリーシャがなぁ」

 

 モニカは指で目尻を拭っている。

 

「も、モニカさん。ふざけてないで話を……」

「私は大真面目だ。……リーシャが一つ一つ大人への階段を登っていくようで、感無量だ」

「モニカさん!」

 

 地位の上ではリーシャが上のはずだが、モニカの方が圧倒的優位に立っているようだ。

 

「けど一日でそんなになんて、お堅そうで意外と惚れっぽいのね」

「だから違います!」

「あー、まぁなんだ。人は選んだ方がいいぞ、嬢ちゃん」

「選んでませんから!」

「リーシャ殿にもそんな一面があるとはな……。いや真面目そうだからこそ外れたモノに惹かれるということか」

「カタリナさんまで!?」

 

 遂にはグラン達側からもからかわれ始めてしまう。

 そして無垢なる竜の爆弾が投下される。

 

「つまりリーシャは黒い変な兄ちゃんが好き、ってことでいいのか?」

 

 ぼっと火が灯るようにリーシャが更に真っ赤になった。更にはその場で蹲ってしまう。……すると「お前が原因だぞ」とばかりにダナンへと視線が向けられた。彼は頭を搔いてリーシャへと近づいていく。

 

「……悪かったよ。からかいすぎた。だから落ち着けって」

「……いえ。こちらこそすみません」

 

 彼女にも動揺しすぎた自覚があるのか大人しく手を取って立ち上がる。が、もちろんそれだけで終わるダナンではなかった。

 

 左手をリーシャの腰に回して抱き寄せ、まだ赤いままのリーシャの顎を右手で持って上げさせる。挙句わざわざ魅力的な笑顔まで作って。

 

「しょうがねぇから、俺が責任取ってやるよ」

 

 くっつきそうなくらい顔を近づけて囁いた。……限界を迎えたのか、リーシャは目を回してかくんと力を抜く。

 

「……やりすぎたな。気絶したか。じゃあとりあえずこいつ借りてくな」

「あ、ああ。大事にしてやってくれ」

 

 ダナンは悪びれず言うとリーシャの背中と太腿に腕を回し抱え上げた。そして黒騎士達の方へ戻っていく。

 

「……随分と女慣れしているようだな」

 

 黒騎士の言葉にダナンは屈託なく笑う。

 

「いいや全然。付き合ったことすらねぇし経験もねぇよ?」

「「「はあ!?」」」

 

 そのセリフに一同が驚愕した。

 

「いやなに言ってんだよ。実際にあんなセリフ言うヤツいたら笑うわ。気障ったらしくて仕方ねぇ」

 

 先程まで口にしていた者のセリフとは思えない。

 

「ダナン、いつか刺されるからあんまりやんない方がいいよ?」

「大丈夫、リーシャほど見てて面白いヤツはあんまりいないだろ」

「……そ、そうだね。それならいいのかな?」

 

 ダナンの発言から考えて、しばらくずっとリーシャをからかい続けるようだ。飛び火しないために誰もなにも言わなかったが、リーシャの精神的負担は相当なモノになるだろうと、身を案じるのだった。

 そして彼はリーシャを抱えたまま歩く。どこへ行こうとしているのか察したらしい黒騎士とドランク、スツルムも彼と並んで歩いた。

 

 目で彼らを追ったその他大勢は、港に停まっている騎空艇グランサイファーへと乗り込んでいくのが見える。そしてダナンがこちらを振り返った。

 

「おーい、なにやってんだ? お前らの船だろ? さっさと乗って行こうぜ。じゃないと俺が操縦して墜落させんぞ?」

 

 大声で呼ばれて、真っ先に動いたのはラカムだった。

 

「あの野郎、勝手にグランサイファー弄ったら承知しねぇからな!」

「ラカムさん、待って!」

「一緒に来る気かよ……」

「賑やかな旅になりそうですね!」

「騒がしいの間違いじゃないかしら」

 

 それぞれに言って、苦笑しながらもグランサイファーの方へと駆け出した。

 グランサイファーが島を飛び立とうとするのを見送る中、

 

「モニカ船団長補佐」

「なんだ?」

「本当によろしかったのですか? 彼らの下にリーシャ船団長を行かせてしまって」

「ああ、そのことか。それなら心配はあるまい。あいつは少し、肩肘を張りすぎるきらいがあるからな。あれくらい緩い方がいいのかもしれん」

「……そうですね」

「まぁ我々としては重要な戦力を送り出すことになるのだ、不安に思うのも無理はない。だがリーシャの言う通り、彼らを見逃すわけにも丸きり信用するわけにもいかない。これは必要なことなのだ」

 

 モニカは言ってグランサイファーに、おそらく今まだ気絶しているであろう船団長に対して敬礼する。そんな彼女を団員達も倣った。

 やがてグランサイファーの姿が見えなくなり手を下ろしたモニカが団員達を振り返る。

 

「さて。では我々は此度の後始末と、帝国が攻め込んでくることを警戒して厳戒態勢を敷くとしよう。船団長が戻ってきた時にこのアマルティアが以前の通りでなければ情けないからな。気を引き締めてかかれよ!」

「「「はい!」」」

 

 秩序の騎空団はモニカの指揮の下、戦後処理とこれからの対応に追われるのだった。




※ハリソン・ラフォードの後日談。

 アマルティアでの騒動が沈静した後、医務室のベッド下で発見された彼はまず石化を解かれた。トランクス一丁という情けなさ極まる姿を配慮して布団がかけられている。

「……あ、あれ、ここは?」
「新入り……。良かった、目が覚めたか」
「先輩」

 ぼーっとする頭を振ると顔馴染みの先輩が安心したように微笑んでいる。

「あれ、どうなって?」
「お前は石化させられてたんだ。成り代わるために、な」
「そ、そうだったんですか……。じゃあ先輩が気づいて助けてくれたんですね。ありがとうございます」

 ハリソンは先輩に礼を言って頭を下げる、が先輩はあからさまに顔を背けた。

「せ、先輩……?」
「……すまん新入り。気づかなかった」
「!?」
「というか喜んでた」
「!!?」

 毎日顔を合わせていたのに気づいてもらえなかったというショックに追い打ちがかかる。

「よ、喜んでたって……嘘ですよね!? 嘘だって言ってください!」
「すまない……本当にすまない」

 ハリソンの悲痛な叫びは届かない。

「というかなんで新入りじゃなかったのか、って思ってしまったんだ」
「そ、そんな……」

 先輩の正直な言葉に打ちのめされていくハリソン。

「いやだって料理が上手くてな?」
「は?」
「とんでもない腕前だったんだ。凄かった。いやうちに是非欲しい人材だ。あと戦えるし」
「……」

 思い出すように微笑む先輩を見て、ハリソンはむっとする。先輩として尊敬していた彼に付き合いのある自分を差し置いてそこまで言わせるとは。
 そしてつい、言う気がなかったことを言ってしまう。

「料理くらいできますよ! なんたって実家がそこそこの料亭ですからね!」

 と言った次の瞬間、ハリソンの鍛え切れていない両肩を先輩が掴んだ。

「せ、先輩?」

 そして真っ直ぐに見つめてくる。会話の前後がなければハリソンが半裸なこともありイケない場面のようにも見える。

「……今の言葉、本当だろうな」
「えっ? まぁ、はい。元々嫌でここ来ましたけど、小さい頃から叩き込まれたんでそれなりには……」
「そうか」

 戸惑うハリソンに頷くと、先輩はかっと目を見開いて告げる!

「お前のその力が、俺達には必要だ!」
「……それ、実戦で言われたかったです」
「……すまん。いやでも実際厨房預かる人材が欲しくてな? やっぱりご飯が美味しいとやる気が出るっていうか。経費削減するにしても違うんじゃないかって話になってるんだ。是非お前のその辣腕を振るってくれ」

 正直、内容だけ聞けば気は進まなかった。一度は逃げた道だからだ。しかし今まで認められてこなかったのにここまで必要とされているという事実が、彼の背中を後押しする。

「ま、まぁいいですよ。俺がいて良かったって思わせてあげます。本場で鍛えた腕を見せてあげますよ!」
「その粋だ新入り! いやハリソン!」

 こうして秩序の騎空団第四騎空挺団成績最下位の新入り団員ハリソン・ラフォードは、ひょんなことから秩序の騎空団第四騎空挺団専属料理長へと昇格したという。
 因みに本人曰く、

「料理が嫌でここに来ましたけど、やっぱり自分が作った料理を喜んで食べてくれるのって嬉しいなぁと思うんです。大変ですけど、団員やるよりやり甲斐あるかもしれません(笑)」

 とのことだった。
 彼が料理長に就任してからというもの、第四騎空挺団の食事レベルは劇的に上がったという……。

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