トゲトゲしてましたよね、あの頃は。この作品ではあんまりそういう部分ないような……あ、主人公のせいか。
しかしオルキスとフリーシアは見つからなかった。
「クソッ! なぜだ……なぜいない!」
粗方回って誰も見つけられなかったために一旦入り口まで戻ってきている。そこで黒騎士が焦燥して毒づいていた。
「隠し部屋とか隠し通路とかはねぇのか?」
「それは私が回った。だがどこにもいないだと……そんなはずは……!」
俺が声をかけるが全然周りが見えていない。焦りだけが募っている状態だ。
「クソッ……ここにいないわけが……っ!」
焦りだけを募らせる娘にどう声をかけていいのかわかっていない様子の父親がいる。他も取り乱した様子の黒騎士に困惑しているようだ。
「ん? なんだ貴様らっ! その顔、指名手配中の……ぐあっ!」
「……黙れ。今私がすこぶる機嫌が悪い。元よりないが慈悲などあると思うなよっ!」
入り口まで来ていた巡回中だったらしい帝国兵の一団がこちらに気づくが、黒騎士は容赦なく斬って捨てる。そのまま怒りに任せて次々と止める暇もなく斬り伏せていった。……荒れてんなぁ。
「一体どこにいる、フリーシア……!」
黒騎士は外へと飛び出してしまった。……こういう時には真っ直ぐな言葉が一番よく効く。俺にはできねぇから誰かにやって欲しいんだけどな。
「追おう!」
放っておけないお人好し達が次々と走り出していく。
その途中街を通ったせいか、
「アポロちゃん!」
走っている黒騎士を通りかかった老婆が引き止めた。流石に無視するわけにはいかなかったのか、黒騎士の足が止まる。
「アポロちゃん。王宮の方でなにかあったみたいだけど……。まさかとは思うんだけどねぇ。アポロちゃんはオルキス様を見つけたのかい?」
「っ!?」
「十年前のあの日から街を離れてたのも……全部オルキス様のためなんだろう? それでこの王宮の騒ぎだけど……アポロちゃんとオルキス様になにか関係あるのかい? それならあたし達にも……」
昨夜泊まらせてくれた老婆の言葉を受けてアポロは向き直った。
「それには……及びません。オルキスは必ず、元気な姿で連れて帰ってきます。必ず、どんな手段を使っても、どんな非道に手を染めようとも……。街の皆が、この国の皆が望んでいる、底抜けに明るい、あのオルキスを連れて帰ってきます。誓って……それを約束します。だから、もう少しだけ時間を……」
彼女は真剣な顔で婦人に告げるも、優しく微笑み返されてしまう。
「ふふ……アポロちゃん、あなたは本当に変わらないねぇ。いっつもオルキス様のことばっかりで」
どこか微笑ましい視線を受けて、アポロはなにも返せずにいた。
「でもね? よーくお聞き。あたし達が心配しているのは、アポロちゃん、あなたのこともなんだよ。だってあなた、ちっとも笑わないじゃないか。おかげですぐには気づけなかったよ。昔はあんなに、オルキス様と一緒に楽しそうに笑ってたじゃないか」
「それは……昔の話です」
「いいや。今も昔も変わらんよ。なにか辛いことでもあるのかい? そんなに眉間に皺寄せて……折角の別嬪が台なしじゃないか。あたし達が心配してるのはオルキス様だけじゃないんだ。なにか辛いことがあったのなら、いつでもこの街に帰っておいで。あたし達はこの町で待ってるから。この街だって、もう何千年も変わらないんだ……いつまでだって、あなたを待ってるよ」
「ッ……!」
優しい言葉だった。そしておそらく、他人のフリをしようとしていた彼女にとってはよく効く言葉だった。
アポロはなにも返事をせず走り去ってしまった。……相当に心掻き乱されてんだろうな。今のあいつに貫禄もなにもねぇよ。
「アポロちゃんのこと、どうかお願いね」
婦人は後から追いついてきた俺達に向かって頭を下げてきた。
「はいっ!」
ルリアが元気良く返事をして、皆で去っていった彼女を追う。
「くっ……! 私は……私はもう、立ち止まれないのだ! 私の手は汚れてしまった。もうあそこには帰れないというのに……クソッ! もう私のはなにもない……彼女を取り戻すまで、私のこの手にはもうなにも……」
黒騎士の独白に誰もが口を噤む中、ルリアが一歩歩み寄った。そして黒騎士の握り締めた拳を両手で包み込むように握る。
「そんな風に……思ってたんですね」
「ルリア……」
「大丈夫ですよ、黒騎士さん。ううん、アポロニアさん。あなたには私達がいます。すぐ傍にいます」
「だからなんだと言うのだ!? お前達はいずれ私の敵になる! 私達は同じ道を歩むことはできない!」
「まだできます! いつか……どこかで道を違えなくちゃいけないかもしれない。でも、今は一緒です。ずっとじゃなくても……今だけでもある私達は一緒です」
「お前は……それがどういうことを意味するのか、わかっているのか……? お前が取った私のこの手は、いつか剣を握りお前達に刃を向ける! それがわかっているのか!?」
「わかってます! でも……それでも、私はこうしていたいんです」
「っ……!」
ルリアの言葉に、黒騎士は全身から力を抜いた。
「クソ……ルリア、お前は強いな」
「当然です。だって私の傍にはいつだって、私を強くしてくれる人がいますから。知ってますか? 一人じゃないってそれだけで無敵なんです」
「ふ……お前だって、それを知ったのは最近だろう」
「ふふっ……ですね。でも、ようやく気づけました」
微かに笑みを作る黒騎士と、はにかむルリア。ルリアは言った後にグランやジータ、仲間達の方を見ていた。
「ったく。一人だとかなんとか言ってるが、今まで誰があんたの傍にいたと思ってんだか。なぁ、ドランク?」
「ホントだよね〜。ボスったら長年側近として頑張ってきた僕達のこと忘れちゃったの? それは薄情じゃないかな〜。ねぇ、スツルム殿?」
「全くだ。いつまで経っても手のかかる雇い主だな」
呆れた様子で口にする。
「お前達……」
「それに、言わなかったか? 俺はお前達の味方をする、って。その中にあんたが入ってねぇわけないだろ」
「……そう、だったな」
黒騎士は驚いていたようだが、やがて目を閉じて笑った。
「だがここにもいないとなるとフリーシアはどこに……」
「彼女の目的がわかればそこから導き出せそうなモノだが」
「ヤツの目的か……。全容は知らん。密偵を送り込みはしたが知れたのは手段の一部だけだ。ヤツはなんらかの目的達成の手段として、あの人形やルリアを欲している。それは間違いない」
「僕達も調べてみようとはしたけど、踏み込みすぎないようにしてたから同じような感じだね~」
フリーシアの目的か。
「ルリアとオルキスを手段として用いるのであれば、おそらく星晶獣絡みだとは思うのだが……」
「星晶獣、つっても島ごとに違うわけだろ? どこのどんなヤツのチカラで目的を成し遂げるかなんて見当もつかねぇ」
「今から島を回ったって間に合わないものね」
星晶獣ねぇ。具体的な目的がわかればどんな星晶獣が必要なのか推測を立てることはできるんだろうが、それもわからないと来た。じゃあ憶測を並べ立てるしかねぇよなぁ。
「黒騎士がここだ、って思ったのはここがフリーシアもいたエルステ王国の王都だったから、ってのと事件によってオルキスの両親を殺しオルキスの心やらを奪った星晶獣がいるから、王国を取り戻すっていう目的なら達成できる可能性もあると踏んでたんだと思うが、どうだ?」
「ああ、そうだ。ヤツにとってもエルステ王国は取り戻したいモノではあると思っている」
フリーシアの昔を知っているのが彼女しかいない今、推測でしかない状態だ。ただ今はできるだけ情報が欲しい。
「なるほどなぁ。だがここにはいなかった。ってことはさっきから話してる通りなんらかのチカラを持った星晶獣に宛てがあってその星晶獣のいるところへ向かった、ってことになるわけだ。じゃあ仮にエルステ王国を取り戻す、という目的だったとして、どんなチカラがあれば達成できると思う?」
「……エルステ王国が滅んだ原因の一つとして、王族が失われたことが挙げられる。死者を生き返らせる星晶獣でもいれば建て直すことは可能かもしれんな」
黒騎士が考えを口にする。
「じゃあ死者蘇生ができそうな星晶獣に心当たりは?」
全体に尋ねてみるが、誰も心当たりはないようだった。
「幽霊でならできるかもしれないけど、それじゃ王国の再建には程遠いだろうし。今は大人しくなってるから無理かな」
「オッケ。じゃあ次だ。他にはどんな能力でならエルステを復活させられると思う?」
「過去に遡るとか、どうでしょうか」
リーシャが口を開いた。
「星晶獣が事件を起こしたというその直前に戻って、王族を助けるとか」
「いい案だ。じゃあその線で心当たりは?」
「……そんな星晶獣とは会ったことないな。ガロンゾのミスラはダメージを巻き戻すように修復してきたけど、時を遡る、っていうほど強力な星晶獣じゃないと思う」
グランが心当たりを口にするが、実行するには程遠いようだ。
「そういうダナンはなにかチカラの案はあるの?」
「俺は全然。あるんだったら自分で言うわ」
知識も経験も俺には不足しているモノが多い。俺より色んなところを旅してきたグラン達や、年上で情報に長けたドランク達でも思いつかなければ俺にはなにかこいつらが発想に辿り着くまでのきっかけを作ることしかできない。
「じゃあ島を守る星晶獣じゃねぇ、とかで考えてみたらどうだ?」
ビィがそう告げてくる。……島を守るヤツじゃない、か。
「例えばあれか? 星の民が昔に封印した星晶獣が眠っている……とかそんなんか?」
「そんな話聞いたこともねぇ。遠く離れた土地だってんならもう間に合わねぇぞ」
「星の民に関わりのある島、土地ねぇ……。ここはどっちかって言うとあれだよな。空の民側だよな。どこかに星の民
流石に歴史の勉強とかは優先してやってこなかったからなぁ。俺の頭にはちっともない。しかし、黒騎士は考え込むように顎に手を当てていた。他はわかっていないようだ。……いや、ロゼッタはなんか妙な顔をしている。俺が見ていることに気づくとすぐ普段通りの余裕ある顔に変わったが。
「……一つ、心当たりがある。だろう、ロゼッタ」
黒騎士は静かな声で言った。話を向けられた彼女の方に視線が集中する。
「ええ。ということは、あなたも同じ場所を思い浮かべたのね」
「ああ。憶測に過ぎないだろうが、行く価値はある。――ルーマシー群島には、星の民の遺跡がある」
二人だけでわかったような会話をしていたが、黒騎士がそう告げてくれた。星の民の遺跡、か。そうなれば俺の推測に沿った場所ではあると思うんだが。
「いいのか? 俺の半端な予想を宛てに考えた場所で」
「構わん。どうせ他に行く宛てもない。いなければアガスティアにでも乗り込んでやればいい」
「脳筋かよ。まぁ、いいか。あんたの好きにどうぞ」
「元からそうするつもりだ。貴様らも、それでいいな?」
「うん。僕達じゃわかりませんし」
「私も全然見当つかないから、心当たりがあるならそこで」
黒騎士は団長である二人にも確認を取って、行き先を決定する。さて、本当にルーマシーにいるかは知らないが。……そういやロゼッタはあの島のことならなんでも知ってるとか言ってなかったか? それは島の外でも有効なんだろうか。
「なぁ、ロゼッタ」
俺は皆が移動する中、最後尾のロゼッタの隣を歩き声をかける。
「あら。珍しいわね、あなたが声をかけてくるなんて」
「今までなかったから当然だ。あんた確か、ルーマシー群島のことならなんでも知ってるとか言ってたよな。あれは島の外にいても当て嵌まるのか?」
「残念だけどわからないわ。島にいれば、もちろんわかるけど」
「そうかい」
真偽は兎も角、行くしかないようだ。できるだけ無駄を省きたかったんだがな。
「あ、そうだ。グラン、ジータ」
俺はロゼッタの隣から先頭に近い二人へと声をかけた。
「お前らシェロカルテが今どこにいるか知らねぇか?」
振り向いた二人に尋ねる。
「シェロさん? どうして?」
「俺の短剣壊れちまっただろ? どうにかして調達したいんだが、手っ取り早くいいモノを買うならあいつのとこがいいかと思ってな」
「なるほど。僕も新しい武器を持っておいた方がいいと思うんだけど。でも時間がないから」
グランもシェロカルテのところへは行きたいようだったが、寄り道している時間がなさそうだ。確かに無駄足を踏んでおいて寄り道する時間はないよなぁ。
と、半ば諦めていたのだが。
「あれれ~? 皆さん、こんなところで奇遇ですね~」
噂をすればなんとやら。ハーヴィンの商人は神出鬼没だ。
「……なんでこんなとこいんだよ」
「商人は商売のできるところならどこへでも行きますよ~」
「ってかグランサイファーだってわかってて待ち伏せしてたんだろ?」
「バレちゃいましたか~。では物資補給や情報など、懇意にしている皆さんへの特別価格でお売りしますよ~」
用意のいいことで。
「情報ってんならフリーシア宰相のいる場所知らねぇか?」
ダメ元で聞いてみる。
「フリーシア宰相ならルーマシー群島に向かいましたよ~」
……あっさりと回答しやがった。さっきまでの話し合いいらなかったんじゃないか?
「……マジかよ」
「はい~。黒騎士さんならあの子を探しに行くと思って、目撃情報を貰ってたんです~」
「……シェロさんって普通の商人じゃないよね、いつも思うけど」
大半が苦笑する羽目になった。
「で、グランサイファーを追いかけてここまで来たのか?」
「そうです~。商人は、商機を見逃さないモノですよ~」
儲けと善意が合わさってのことだとは思うが、とんでもないタイミングだ。この商人と関わりを持てたことは俺達にとって幸運、いやおそらくそれすらもシェロカルテから目をつけたのかもしれないな。
「じゃあお言葉に甘えて補充するとするか」
「はい~。食糧や装備など、様々なモノを取り揃えていますよ~」
そうして、彼女の思惑通りに俺達は物資の補充を行った。俺は短剣の購入と足りなくなっていた素材やアイテムの調達。そして例のモノを依頼しておく。
これで、俺ができる限りの準備は整った。
他もその日の内に補給を済ませて各々できる限りの準備を整える。そしてフリーシアとオルキスのいるルーマシー群島へとグランサイファーを発進させた。