ナンダーク・ファンタジー   作:砂城

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最近ランキングから作品を読んでいるのですが、二次創作って色々あるんですねぇ。

で、そんな中見つけたのですがこの作品が週間ランキングに入っていました。日間はなかったんじゃないですかね、多分。
それも読んでくださっている皆様のおかげです。ありがとうございます。

ただまぁ更新頻度補正だと思っているのでストックが切れてからが本番ですね。
ストック切れて頻度落ちてからも読んでいただけるように、頑張っていきたいと思います。


森の奥へ

 空を全力で翔るグランサイファー。

 全速力でルーマシー群島へ向かうと、草木の生い茂る樹海と共に帝国の戦艦が停泊しているのが確認できた。

 

「帝国のヤツら、ここに来てるみたいだぜぇ」

「うん。いよいよだ。皆、気を引き締めていくよ!」

 

 ビィとグランが言って、表情を引き締め決戦へと気合いを入れる。……俺そういうの向いてないんだよなぁ。というか、団体行動が苦手だ。

 

「悪い。俺別行動するわ」

 

 ということで、上陸したところでそう申し出た。

 

「どういうつもりだ?」

 

 案の定黒騎士から睨まれてしまう。他も少し意外そうなと言うか、驚いた様子だ。

 

「そう睨むなよ。隙見てオルキス掻っ攫えた方がいいだろ? 人質として取られないとも限らない。もちろんあいつもオルキスが必要だからそんなことはしないと思うが、二人じゃなくてルリアとどっちかだけいればいい、っていうんだったら話は別だ。オルキスを人質に取った上でお前らを始末し、ルリアだけを捕らえばいい」

「……確かに、その可能性は否定できないが」

「だろ? だから俺が一人回り道して背後を取る」

「それなら僕達も行った方がいいんじゃないの?」

「悪いが【アサシン】で気配消せた方が見つからずに済む。道中帝国兵がいないとも限らないしな」

「じゃあ私かグランのどっちかが……」

「お前らはダメだ。片方しかいなかったらバレる。その点俺はフリーシアと会ったことがないからある程度いなくても誤魔化せる」

「……わかった」

「で、ルーマシーのことならなんでも知ってるロゼッタさんや? フリーシアはどこだ?」

「……さぁ、どこでしょうね。ルリアちゃんなら、オルキスちゃんの居場所がわかるんじゃない?」

 

 残念ながら答えてくれなかった。島にいるなら有効じゃねぇのかよ。

 彼女の言葉を受けて両手を前に目を閉じ集中したルリアは、

 

「……はい。リヴァイアサンの共鳴を感じます。森の奥、以前黒騎士さんやユグドラシルと戦った場所の近くにいます」

 

 便利な力だ。だがおかげでオルキスと、おそらく共にいるフリーシアの居場所もわかった。

 

「へぇ。結局ユグドラシルとも戦ったんだな」

「言ってなかったか? あの後撤退する時に人形が呼び起こしたのだ」

「聞いてない気がする……そうか、それでねぇ」

 

 嫌がってたのに起こしたってことはオルキスの意思ってことになるのか。なんだか申し訳ないな。

 

「まぁいいか。とりあえず俺は迂回して奥に回り込む。多少遅れるだろうが不意打ちなら任せとけ。得意分野だ」

「ふん。精々道中の魔物に殺されるなよ」

「はっ。誰が鍛えたと思ってんだ、当たり前だろ」

「そうか。頼んだ」

「おう」

 

 黒騎士と言い合って、俺は森の中を駆け出した。大きく迂回して裏を取るために。【アサシン】になって足音を消し、気配を潜めて敵に見つからず回り込む。やっぱり、こういう方が俺の性に合ってるよな。

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

 ダナンと分かれた後、グラン達と黒騎士達は早足で森の中を進んでいた。

 

「ダナンは大丈夫なんでしょうか」

 

 リーシャは彼が一人で行ったことに対して不安を口にする。

 

「心配に呼び捨てとは、随分仲良くなったモノだな」

「そ、そういうんじゃありません!」

 

 黒騎士に指摘されて頬を染めたリーシャを見れば、嘘なのではないかと勘繰ってしまう。

 

「ただ森には帝国兵もいるでしょうし、やはり誰かついていった方がいいんじゃないかと思ってしまって……」

「そうだな。通常、その考え方は正しい」

「?」

「ただあいつは単独の方が自由に動ける。人の気持ちを汲み取るのが上手いヤツだが、それ故複数人で戦う時は相手に合わせてしまう。その場合あいつの長所が潰れることが多い」

「随分と高く評価しているんですね」

「当然だ。なにせ、秩序の騎空団に潜入して私の脱獄に貢献したからな」

「……」

 

 黒騎士の皮肉に不満そうな顔をしつつも、鍵を盗まれた張本人だからか言い返さなかった。

 

「大丈夫ですよ、リーシャさん。ダナン君は結構強いですから」

「対応力、っていう点なら『ジョブ』を持ってるから僕達と同じだし」

「それに黒騎士さんと手合わせしてる時、ClassⅠ相当――『ジョブ』を使って強化された状態じゃない強さで加減したとはいえ奥義を相殺してますから。多分私よりも断然強いですよ」

「ちょっと悔しいけど、二人がかりで戦ってもいい勝負されるんじゃないかな」

「そ、そうなんですね……」

 

 事前の情報では敵対しているとのことだったが、どうやら二人はある程度実力を買っているようだ。同じ能力を持っていることからその便利さを理解していて、更には個人の実力も見せつけられていた。とはいえあまり心配していない、信頼した様子に少し面食らっていた。

 

「そこの二人が言ったように、あいつは成長速度がこの二人並みでありながら一人で戦った時の方が強い。それに、いざという時のための備えだと考えればあれほど人格的に適任はいないだろう」

「能力ではなく人格、ですか」

「ああ。人を騙す、人に取り入る、嘘を吐く、本心を見せる。貴様が身を以って体験したように、そういうのが上手いヤツだ。取り分け潜入捜査に向いている。そこの胡散臭いエルーンのように怪しい雰囲気を出さないこともできる。確実な隙を見つければ容赦なく突く、貴様がからかわれるのと同じようにな」

「……話はわかるんですが私に妙に当たりがキツいような気がするんですが」

「さてな。未熟者を見ていると苛立つという、アレだろう」

「私は確かに未熟者ですが、それでもできる限りをやると決めています。以前と同じとは思わないでください」

「ダナンに言われたからだろう、単純なヤツだ」

「ち、違います! 確かにきっかけはそうかもしれませんがちゃんと自分で考えてますから!」

「きっかけがなければ考えることもなかっただろう? だから簡単に絆される」

「絆されてませんから! というかやっぱり私への当たりがキツいと思います。なにか私情でもあるんですか? これから共に戦うのですから、後顧の憂いは断っておきたいんですが」

 

 リーシャとしては、なにか言いたいことがあるならはっきり言って欲しい、というスタンスだ。確かに言われてみればリーシャへの当たりがキツいような気がする。無論それ以上にキツく当たられているおじさんはいるのだが。

 

「……そんなにキツく当たっていたか?」

 

 黒騎士は自覚がなかったのか、リーシャ以外に尋ねた。

 

「まぁ、確かにそんな気もするよね~。僕達みたいに協力者じゃないにしても、妙に突っかかってる気はしてるよ?」

「ああ。何気なく突っかかってることが多い。長い付き合いになるがそんな相手はいなかったと思う」

 

 最も彼女と付き合いの長い二人が言った。

 

「そうか……。それは悪かったな。自覚はなかった、特に貴様に対して思うところはない」

 

 自覚がなかったとはいえ悪いことをしたと思ったのか素直に謝罪を口にする。

 

「いえ、もしや私の父となにかあったのかと勘繰ってしまって……なにもなければ構いません。やめていただければ」

「ダナンがそうしていた影響かもしれんな。茶化されるのが好きなのかと思っていたのかもしれん」

「好きじゃありませんから!」

「ああ、そうだったな。あれはダナンだからか」

「違いますから! そういうところですよ!」

 

 変わらぬ物言いで言い合う中、ドランクはいつものように軽い調子で言う。

 

「いやぁ、これでボスの突っかかる理由が、ダナンがリーシャちゃんばっかり構うから、とかだったら可愛げがあったんだけどねぇ。ヤキモチ焼いちゃって、とか~」

 

 瞬間、恐れ知らずだなこいつ……という視線が一斉に彼を向いた。

 

「……貴様。どうやら一度頭を捻り潰した方が良さそうだな」

「一度でも潰されたら終わりだからね!?」

「問題ない、そこに【ビショップ】で蘇生のできる者がいるからな。一回殺っておくか」

「ちょっと待ってぇ! ボス、冗談だって、冗談!」

「……ふん」

 

 ドランクの必死な懇願が効いたのかあっさりと引き下がる。

 

「これで必死になって否定すればそこの小娘と同列に扱われかねないからな」

「やっぱり私に突っかかるじゃないですか!」

 

 妙に言い合う二人だったが、全く負い目のなさそうな彼女らを見て、緊張していたグラン達の心が解れていた。そのために軽口を叩いていたのかと大人組が納得しかけるが、おそらくそんなことを考えずただ話していただけなのだろうと思い直す。

 

 そのまま歩く中で半ばまで来たかという時に、話がなくなった一行の静かな歩みを遮る者がいた。

 

「……あの人形を助けに行く前に、貴様らには私の目的を話しておこう」

「えっ……?」

 

 黒騎士だ。取り返しに行く目前でそんなことを言い出した彼女を、ルリアが不思議そうに見上げる。

 

「急にどういうつもりだ?」

「特に理由はない。ただ、貴様らには聞く権利がある」

 

 そう言って、振り返らず先頭をずんずんと進む黒騎士は語り始めた。

 

「ルリアとお前……グランの方だったか。グランが死んだ時にルリアが生き返らせるため命を共有しただろう。あの力の本質は、そうではない。魂を分け与える能力だ」

「魂を……」

「魂を分け与えられた者は、魂があればグランが生き返ったような形となる。だが受け取った側に魂がない場合は、分け与えた側――つまりはルリアの人格が発現する」

「……」

「だから私はルリアにかつてのオルキスの人格を再現し、その力を使って今のオルキスに魂を与えその人格を移す……」

「でも、それじゃあ……」

「ああ。今いるルリアとオルキスは、消えるだろうな。だが止まる気はない。そうして、かつてのオルキスを取り戻せるのならな」

 

 話を聞いた当人のルリアは悲しげに顔を伏せる。他の面々も、怒りや悲しみなど様々な感情が渦巻いているようだった。

 

「……なんで、今その話をしたんですか……?」

 

 ルリアは悲しそうに聞く。これから協力してオルキスを取り戻すという時に、わざわざ決定的な決別を告げなくてもいい。そう言外に告げていた。

 

「……さぁな。お前達には、話しておかなければならないと思った。ただそれだけのことだ」

 

 黒騎士は努めて淡々と語る。一転して重苦しい空気になっていた。

 そんな中、ルーマシー群島のことならなんでも知っていると嘯くロゼッタが、余裕ある態度で一人一人に声をかけていく。

 

 まるで、自分がいなくなった後のことを考えているかのように。

 

「今は進むぞ。オルキスを取り戻さなければ、私の目的もなにもない。いずれ雌雄を決するとしても、今は協力するのだろう?」

「……そ、そうは言いましたけど……」

「なら一度口にした言葉には責任を持つのだな。軽い気持ちで、覚悟など背負えんぞ」

 

 ルリアが言う中、妙に温かく見守るように黒騎士は微笑んでいた。微かにだったため、落ち着きを払ったロゼッタと傭兵二人以外は気づかなかったのだが。

 

 そうして、いつかその場所で戦った者同士が協力して、そこへと辿り着く。

 

「随分と、大仰なお出迎えだな。だが私も迎えるには少々足りないようだ」

 

 森の中で待ち受けた帝国兵の集団を見て、黒騎士は獰猛に笑った。集団の最後尾には、眼鏡をかけた銀髪のエルーンの女性が佇んでいる。集団で見えないが、その隣には蒼髪の少女もいるはずだ。

 

「指名手配犯と裏切り者、黒騎士が来ました! 総員、かかれーッ!」

 

 先頭の兵士が合図し、武器を構えた一行に大勢の兵士が押し寄せてくる。

 

「温いな。私の指導を受けておきながら、たったこれだけの人数でかかってくるとはな。舐めるなぁ!」

 

 黒騎士は言うと、渾身の力で剣を振るった。衝撃で兵士の半数が空高く吹き飛び、地面に激突して着込む鎧の重さに押し潰される。たった一振りの甚大な被害に兵士達の足が止まる。倒れた兵士もいる中を、黒騎士は悠々と進んだ。

 

「い、今だ! やれっ!」

 

 無事な兵士の内一人が号令を出すと、グラン達の左右の茂みから一斉に銃を構えた兵士が姿を現した。

 

「ライトウォール!」

「ファランクス!」

 

 カタリナと【ホーリーセイバー】になったジータが左右それぞれに障壁を張り、弾丸を防ぐ。第二射が放たれるまでの間にオイゲン、ラカム、イオ、ドランクの後衛が兵士の数を減らし、二射をまた二人が阻んだ。

 正面の残った兵士達が黒騎士へと襲いかかり切り伏せられる中、左右を通り抜けようとする者を【ウエポンマスター】のグラン、リーシャ、スツルムが倒していく。

 

 フリーシアの周りにいる兵士達が次々に倒れていく中でも、フリーシアは不気味な笑みを湛えたまま佇んでいた。

 銀髪に眼鏡をかけたエルーンの女性。ただ双眸は冷たく暗い雰囲気さえ発している。黒の制服の上に宰相だからか白のコートを肩にかけていた。

 

「それにしても、随分と時間がかかったようですね。我々がルーマシー群島にいることは秩序の騎空団から聞いたと思うのですが……」

「えっ?」

 

 思わぬ名称が出てきて、船団長リーシャが怪訝な声を上げる。

 

「おや、違うのですか? では、こうして使うとしましょう」

 

 フリーシアはそう言って、奥から磔にされた秩序の騎空団の団員を運ばせる。

 

「っ!」

「す、すみません……リーシャ船団長。不甲斐ない我らを、許してください……」

「あなた達、なぜここに!?」

「モニカ船団長補佐の指示で帝国を、宰相フリーシアの動向を探っていたんです。そこでルーマシーに来ていることがわかったのですがこうして――うがっ!」

 

 怪我をした団員が話すのを、銃声が遮った。彼の太腿を近くの帝国兵が撃ち抜いたのだ。

 

「っ……!」

 

 リーシャが思わず飛び出そうとするのを、黒騎士が手で制した。

 

「待て。あんな雑魚共、引き鉄を引く間に殲滅できる。不用意に近づかないことだ」

「…………はい」

 

 リーシャはぎゅっと目を瞑り長い間を置いて前傾姿勢を解いた。

 

「おい、フリーシア。あの人形はどこにいる?」

 

 黒騎士は兵士達の動きを警戒しつつ尋ねる。

 

「ここにはいませんよ。ただこの島には来ています。あれも起動には欠かせない存在ですからね」

「オルキスちゃんを返してくださいっ!」

「無理な相談だとわかっているでしょう。……それにしても『器』が彼女のことを気にかけるとは……覚醒の影響なのでしょうか? なかなかに興味深い」

 

 フリーシアはルリアを冷たい笑みのまま見つめた。それをカタリナが前に出ることで遮る。

 

「貴様……なにを言っている?」

「余所見をしている余裕があると思うな!」

「あらあら。しょうがないわね。こっちから片づけてしまいましょう」

 

 ロゼッタは帝国兵が襲いかかることにコメントするも自分は手出ししないようだ。

 

「しかし流石に島々の星晶獣を収めてきただけのことはあります。あなた達の手に負える相手には思えませんが?」

「い、いえ! ここは我々が……!」

 

 フリーシアが酷薄な笑みを浮かべる先は味方であるはずの帝国兵達だった。その言葉に攻撃が苛烈化する。

 

「ほう? あなた達であの連中を止められるとでも?」

「はっ! 必ずや! 必ずやルリアも手中に収めてご覧に入れましょう! ですので閣下……。どうか『マリス』のご使用は……」

「検討はします。ですが私の目的はあなた達の身の安全を確保することではありません。必要だと判断すれば『マリス』は使用します。よろしいですね?」

「はっ!」

 

 フリーシアとの会話後帝国兵に気力が漲ったかのようだった。いや、どちらかと言うと決死の覚悟がそうさせているのか。

 動きが劇的に変わる帝国兵に戸惑いつつも、一行は「マリス」という聞き慣れない単語に嫌な予感を覚えた。味方すらも恐れる兵器、なのだろうか。正体はわからなくとも逸早く兵士を片づける他なかった。

 

 決死だろうとなかろうと、絶対的な実力差は埋まらない。

 帝国兵は数を減らし、黒騎士とフリーシアの間にはもう兵士がいなくなっていた。しかし彼女が笑みを絶やすことはない。

 

「フリーシア……貴様、なにが目的だ? 答えてもらうぞ。あの人形とルリアを利用して、このルーマシーでなにをするつもりだ?」

「私が望むのは正しい世界です。私はあるべき世界を取り戻そうとしているに過ぎない。汚点はその存在を抹消され、道を誤った歴史は正しい姿を取り戻さなくてはならないのです」

「どういうことだ? まさか貴様……」

「やいやい! わけわかんねーこと言うんじゃねーやい! つまりどーいうことなんだよ!?」

 

 黒騎士にグランが追いつき、そこについてきていたビィが会話に割り込んだ。帝国兵は数を減らし一行全体がフリーシアとへ近づいている。

 

「兵達では相手になりませんか。ではこれならどうでしょうね」

 

 フリーシアは懐から二つの魔晶を取り出す。

 

「魔晶だと!?」

「魔晶自体の力も強くなっているわ。気をつけて、皆」

 

 一行が警戒を強める中で、

 

「出でよ! 星晶獣リヴァイアサン! 星晶獣ミスラ!」

 

 フリーシアは魔晶を掲げて二体の星晶獣を顕現させる。青の竜と、緑の歯車が組み合わさったような奇妙な姿。グラン達が相対したこともある、そしてオルキスが力を吸収した星晶獣達だった。

 

「チィ! こりゃちぃとばかしキツそうだぜ!」

「ふん。老いぼれたのなら島で畑でも耕していろ。ここで立ち止まることはない! 行くぞッ!」

 

 オイゲンの弱音を切り捨てて、黒騎士は先陣を切り星晶獣の前へと躍り出る。

 

「黒騎士さん! そっちのミスラはデフラグでこっちの行動に合わせた対応をしてくる! あと無尽蔵に修復してくるから、決めれるなら一撃でお願いします!」

 

 戦闘経験のあるグランが黒騎士へ声をかけた。

 

「わかった。私はミスラをやる。そちらは任せたぞ」

「はいっ!」

 

 今いる戦力で最も高い攻撃力を誇るのが黒騎士だ。彼女がミスラを相手取る間に、他でリヴァイアサンを倒す。

 

「じゃあ僕達で援護かな~。ボス、きっちり決めてよ?」

「誰に言っている」

「強い癖して、やたらと手のかかる雇い主にだ」

「ふん。お前達こそ足を引っ張るなよ」

「それこそ、誰に言ってるって話だよねぇ」

 

 黒騎士を側近二人が補助する形で戦うようだ。

 

「僕達はあの頃よりも強くなってる! それに完全な再現じゃないみたいだ! 油断ならないけど、勝てない相手じゃない!」

「うん! 私達の力、見せてあげよう!」

 

 二人の団長が先頭を切る。グランが『召喚』で宝剣アンダリスとパラシュを呼び出し、ジータが【ウエポンマスター】へと姿を変えた。宝剣アンダリスをジータが手に取る。

 

 本来よりも小さいサイズの星晶獣だったが、とはいえその力は絶大だ。全力で戦う必要がある。

 

「いくぞ!」

 

 グランの声に応じてそれぞれが行動を開始した。

 グランとジータが前衛でアタッカーとなり、カタリナとリーシャが中衛で後衛を守りつつ前衛のフォローをする。後衛はラカム、オイゲン、イオだ。

 

「私が最初にやります! 続いてください!」

 

 守られるような立ち位置のルリアが言って、両手を前にグランなしで星晶獣を呼び出した。

 

「お願い、バハムート!」

 

 黒騎士曰く魂を分けているためか、二人で呼び出した時よりは小さな体躯だったが、それでも同じ星晶獣である。拘束具で腕を封じられ目隠しをされた状態ではあったが、必殺の一撃を放つために仰け反った。

 

 ――大いなる破局(カタストロフィ)

 

 咆哮と共に開いた口から破壊の波動が放たれる。リヴァイアサンも迎撃するように口から水を吐き出すが、拮抗したのは僅かで押し返され、直撃した。

 

「今だよ!」

 

 ジータの合図で、一斉に奥義を叩き込む。というところでもう片方の決着がつく。

 

 黒騎士が闇のオーラを纏って悠然と近寄るのを、ミスラは歯車を飛ばし迎撃しようとするが、スツルムとドランクがさせない。二人の攻撃方法に対応しようと変化し続けているミスラだったが、戦闘経験が豊富な二人にとって事前情報があれば問題ない相手だったようだ。一度行った攻撃は覚えられてしまうが、黒騎士がミスラの眼前に辿り着くまでの間対処し続けていた。

 そして。

 

「万に一つも残さないために全力でいくぞ。――散れッ!!」

 

 黒騎士がミスラへとブルドガングを振るう。空間に亀裂が走りミスラの身体が軋んだ。空間が割れて闇の奔流が襲うとミスラを呑み込み欠片も残さず消滅させた。そのまま森を破壊するかに思われた攻撃だったが、茨の壁が分厚く展開されて森を守る。

 

「所詮は紛い物か」

 

 黒騎士は吐き捨て剣を払う。

 彼女の凄まじい一撃を目の当たりにした面々に気合いが入り、それぞれの奥義を放った。

 

 火焔と岩石の銃弾が、冷気の竜巻が、青の剣と風の奔流が。そして上から下へ真っ直ぐに伸びた斬撃と幾重にも重なった斬撃が。

 各々の全力の一撃が怯んだリヴァイアサンへと直撃し、消滅させる。

 

「……はぁ……はぁ」

「……やっぱりキチぃな」

 

 しかし全力を尽くした彼らは渾身を放ったためにやや疲弊していた。

 

「これで貴様の頼りにしている魔晶も下したか」

「ええ、流石ですね。この程度では相手にもなりませんか。……ですがこの目でしかと確認しました。星晶獣も問題なく扱えていますし……『器』の覚醒は充分、ということでしょう」

 

 フリーシアはルリアを見つめて不気味に笑う。魔晶すら敵わなかったというのに、未だ余裕は剥がれていなかった。

 

「待った甲斐があったというモノです。これで全ては整った……。あなた方には歴史の分水嶺に立つ資格があるようですからね」

「資格だと? なにを言っている。誤魔化さず貴様の企みの全てを話してもらうぞ!」

「口を慎みなさい、小娘が。企む? そのような言い草はやめていただきたい。我が悲願はエルステ王国の再興……アーカーシャによる歴史の修正こそが、私の目的なのですから」

「アーカーシャだと!? バカな……あれが実在するというのか!」

 

 アーカーシャ。その単語を聞いた時黒騎士が目を見開き動揺する。

 

「な、なんだぁ? あんなに狼狽えた黒騎士、初めて見るぜ」

「あの侵略達者達の言葉を鵜呑みにしないのは賢明ですね。しかしながら、アーカーシャは実在します。このルーマシーの遺跡にこそ、アーカーシャは眠っているのです」

 

 フリーシアは黒騎士をせせら笑うように告げた。

 

「え、えと……アーカーシャってなんなの?」

「……星晶獣アーカーシャ。私は伝説上の存在だと思っていたのだが……。アーカーシャは覇空戦争末期に星の民によって最終兵器として作られた星晶獣であり、歴史そのものに干渉し世界を書き換える力を持つ星晶獣だ」

 

 イオの当然な疑問に黒騎士が答え、一行に衝撃が走る。

 

「……世界を、書き換えるだぁ?」

「それはつまり……過去に起こった出来事を改竄し、今の世界を作り換えるということか……? しかしそんなこと……そんなことは最早、創造神の所業じゃないか!」

「その通りだ。だから私は話を聞いていても伝説上の存在だと思っていた……」

 

 彼らの驚きに黒騎士が同意する。

 

「あの侵略者達は忌々しくもこの空の歴史に大きな汚点を残しました。しかし、その技術は正に神にも等しいモノだったのです」

「おいおい、冗談じゃねぇぞ……。星の民ってのはそこまでとんでもねぇ連中だったのか?」

「ふふふ……しかしそれ故、その神にも等しい力を以って私は世界を取り戻す。星の民という異物を、歴史の侵略者を……その存在ごと抹消する。アーカーシャを使い、歴史の汚点を……星の民の存在自体をなかったことにする。そして、我らがエルステ王国は悠久の繁栄を取り戻すのです」

 

 驚く皆に、フリーシアは自らの目的の全容を説明し切った。

 

「け、けどよぅ……! 歴史から星の民の存在が消えてとして、なにが起こるってんだ?」

 

 ビィが全員の気持ち代弁する。

 

「なにが起こるかは誰にもわからない。最悪の場合、今のこの世界そのものが消滅することもあり得る……」

「バカな……たった一体の星晶獣で世界を滅ぼすだと!?」

「仮に星の民の存在の抹消が上手くいったとして、それでも世界は大きく変わるだろうな。フリーシアの狙い通り星晶獣にその座を奪われたゴーレムは、再び空の最大戦力として返り咲き……。ポート・プリーズ、バルツ、アウギュステも、全て今とは違った姿になるだろう」

「私達が旅してきた島が……」

「ましてやルリア、お前の存在も……。星の民を父に持つオルキスもどうなるかわからない」

「そんな……」

 

 仮定を並べたとしても、彼らの守りたいモノが変貌し、今と異なる今へと変わることは間違いないだろう。

 

「要はとっととオルキスを取り戻して宰相サンの計画を潰しちまえばいいってことだろ!」

「そうだね。ルリアは渡さないし、オルキスちゃんも取り戻す!」

 

 ラカムに呼応してグランも強く宰相を睨みつける。

 

「宰相殿。あなたの計画には賛同しかねる」

「理解を求める気はありません。しかしこのままでは不利なようですね。――命を張って足止めを。計画を変更し『マリス』を使用します」

「はっ!」

 

 カタリナが代表してきっぱりと断言する。フリーシアは元々賛同してもらう気はなかったのか、残った兵士達に命じると踵を返した。

 

「ま、待て!」

 

 後を追おうとするが兵士達が行く手を遮ってしまう。

 

「チッ! 蹴散らすぞ!」

 

 舌打ちした黒騎士に続いて、グラン達も兵士達を薙ぎ倒して囚われていた秩序の騎空団団員を救助しグランサイファーの場所を伝えると、フリーシアの後を追うのだった。




次回は満を持してのオルキス回。

兼本編で言うところの「悪意の謀略」……でしたっけ? あの辺です(適当)

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