ナンダーク・ファンタジー   作:砂城

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主人公と別れたグラン達側の話になります。
しばらくそういうパートが多くなりますのでご注意ください。


……これで毎日更新じゃなかったらダレるんだろうなぁ、と密かに思ってたりしますが。


再びのアマルティア

 黒騎士を置き去りにし、ダナンに殿を任せ、ロゼッタと離れ離れになってしまった。

 

 島全体を茨の檻が取り囲んだのを背にグランサイファーに乗って脱出していたが、甲板に集まった一行には重い空気が流れている。

 当然だ。旅の苦楽を共にしてきた仲間を一人、置いてきてしまったのだ。

 

「……っ」

 

 そしてずっとオルキスのすすり泣く声が聞こえていた。

 ダナンを置いてきたところで、グランサイファーに乗り込むという時にマリスを連れたフリーシアが迫ったのだ。その時に彼を殺したという言葉を受けて、信じたくはないが安否の確認もできずもし本当に死んでしまっていたら、という悲しみが涙として溢れ出していた。

 

「……オルキスちゃん」

 

 リーシャがそんな彼女の正面に屈み込み頭を撫でる。

 

「……?」

「大丈夫ですよ。ダナンは生きてますから。約束したじゃないですか。それに、死んだと思わせるのは常套手段ですよ」

「……リーシャが嘘吐いたみたいに?」

「わ、私は嘘を吐いたわけでは……まぁいいです。そうです、フリーシア宰相の言うことを真に受ける必要はないんです。死ぬ気はない、って彼も言ってたじゃないですか。オルキスちゃんはあの人とフリーシア、どっちを信じるんですか?」

 

 リーシャの言葉にはっとした様子で、あまり逡巡せずに答えた。

 

「……ダナン」

「でしょう? だったら信じればいいんですよ。ダナンが生きてる、って」

「……ん」

 

 敵と味方、どちらを信じるかなんて簡単だ。オルキスはダナンが生きている方に切り替えると目元をごしごしと拭って泣き止んだ。

 

「リーシャちゃんに言いたいこと言われちゃったなぁ。ま、そーゆーことだよオルキスちゃん。ダナンもボスも、殺しても死ななさそうだから大丈夫」

「ああ。あの二人が死ぬなんて考えられないな」

 

 セリフを取られてしまった二人が続けて言った。

 

「……ん。二人共、生きてる。だから、絶対助ける」

 

 立ち直ったオルキスは確かな決意を滲ませて告げる。そんな様子を見て励ましていた三人はほっとして笑った。

 

「そうだねぇ。僕達も本気でやらないとダメだよねぇ、あれは」

「次は勝つ。……二度も負けるなんて御免だからな」

 

 ドランクとスツルムの脳裏にはマリスに一撃で倒された苦い記憶が蘇っていた。

 

「……そうですね。私ももっと強くならないといけません。あの、ユグドラシル・マリスを倒すにはもっと力が必要です」

 

 リーシャも同じだ。無力を痛感させられていた。

 

「……と言うか、一つ聞いていい、リーシャちゃん」

「え、あ、はい。なんでしょう?」

 

 重い空気がまだ漂おうとしている時、ドランクがリーシャに声をかけた。

 

「……なんか、リーシャちゃん僕達の仲間みたいになってるんだけど」

「えっ?」

「本来あれでしょ? 僕達の監視もそうだけど、グラン君達の動向を見守る役目もあると思うんだけどねぇ。やっぱりダナンがいるからなのかなぁ?」

「ち、違います! それとこれは関係ありませんから! お、オルキスちゃんが泣いていたので、その……」

 

 ドランクの指摘に顔を赤くしては、肯定しているようなモノだ。

 

「……リーシャ、ダナンと仲良くなった?」

「えっ、いえ、あの……。別に仲良くなったわけじゃ……」

「オルキス。こいつはダナンに惚れてるんだ。その証拠に指摘されてすぐ顔が赤くなっただろ?」

「違いますから! こ、これはその、別に」

 

 スツルムの言葉を受けてオルキスはじっとリーシャを見上げた。見つめられる側としては顔が熱いのが引かずどうしたらいいのかと迷ってしまう。

 そしてオルキスが口を開いた。

 

「……ダナンはダメ」

「えっ?」

「……ダナンはダメ。絶対」

「えぇと……」

 

 きっぱりと告げられてリーシャは少し困惑する。

 

「なになに~。オルキスちゃんもダナンのことが好きなの~?」

 

 茶化すようなドランクの言葉に、オルキスは彼方を見て考え込む。リーシャは小声で「も、って言わないでください」と言っていたが巻き込まれたくはないようだ。

 

「……」

 

 余程悩ましい問題なのかオルキスは首を傾げていたが、多く間を取ってやがて小さくこくんと頷いた。その頬は微かに赤くなっている。

 

「……オルキスは偉いな。そこの娘より素直だ」

 

 スツルムがオルキスの頭を撫でた。

 

「わ、私は別に、ダナンのことを想っているわけではありませんから。確かに引っ掻き回されてはいますが」

「えぇ~? 引っ掻き回されるってこと自体がダナンを意識してるってことだと思うんだけど?」

「い、意識していません。次に会った時には全く動揺せずあしらってみせますから」

 

 リーシャは未だ少し頬が赤いままだったが、それでもきっぱりと告げた。

 

「へぇ? 随分と信頼してるんだね」

「え?」

「だって短い付き合いなのに生きてるって疑ってないよねぇ。リーシャちゃんはClassⅣについても知らなかったのに」

「そ、それは……」

「信頼してるってことだろ。ぞっこんだな。惚れっぽいヤツだ」

「違いますよ! そういうんじゃ、なくて……」

「そうなの? ちょっと信じられないな~」

 

 きっぱりと否定もできず、かと言って開き直ることもできずリーシャはあわあわと動揺し続ける。このままリーシャがからかわれ続け追い詰められるかと思っていたが、

 

「……なんで、なんでそんなに平然としてられるのよ!」

 

 グラン達の間に漂う重苦しい空気を引き裂くように声が響いた。全員の視線がそちら、叫んだイオの方へ向けられる。

 

「イオちゃん……?」

「……ロゼッタも黒騎士も、ダナンだって敵わなかったのに……。勝てるわけないじゃない……!」

 

 イオは幼いながらも天才だ。故により強く、正確にユグドラシル・マリスとの差を感じ取ってしまっていた。そしてこれまで力を合わせればどんな困難だって乗り越えてこれたのに、なす術もなく次々と倒されていくだけだった。それがより一層、彼女の恐怖を助長させていた。

 誰もが思ってはいたが口に出さなかったその事実に、誰も宥めることはできなかった――一人を除いて。

 

「……イオ」

 

 そっと歩み寄ったのはオルキスだった。先程までは一番動揺した姿を見せていたはずだが、その瞳には意思が宿っている。

 

「……不安?」

「……不安に決まってるでしょ……。あんなのどうやっても勝てない……」

「……よしよし」

 

 不安そうに泣きじゃくり始めたイオの頭をオルキスの手が撫でる。

 

「……こうされると凄く安心する」

「オルキス……」

 

 彼女が精いっぱい慰めようとしてくれているのだとわかり、多少イオの様子が落ち着いた。

 

「……わ、私はこうされると安心しますよっ」

 

 そこへルリアも近づき、イオの手を両手で握った。

 

「ルリアも……」

「手を繋ぐと一人じゃない、ってわかって安心、しない?」

「……うん、する」

 

 大分イオの様子が落ち着いてきた。

 

「……でも、皆と一緒でも勝てなかったのに……」

「大丈夫だよ。ロゼッタさんも言ってたでしょ? ユグドラシルを救えるのは私達だけだって」

「……強くなって、アポロとダナンも一緒だったら次は負けない」

 

 イオの不安を二人それぞれが和らげていく。

 

「……うん」

「……けど怖かったら泣いていい。泣きたい時に泣くのは悪くない」

「そうだよ。我慢しなくていいんだからね」

 

 励ましながらも、感情を吐き出させることも忘れない。

 イオは言われてからようやく、声を上げて泣いた。

 

 そんな様子を見て、グラン達に重くのしかかっていたモノが消えていく。彼らも差を実感してどうすれば勝てるのかビジョンが浮かんでいなかった。しかしそれを口に出すわけにはいかないと自分を律していた。そこをイオが口にすることで、きちんとユグドラシル・マリスの強さに向き合うことができたのだ。

 そして、イオが落ち着くまでしばらく見守っていた。

 

「……ダナンもアポロも助けたい。だから、力を貸して」

 

 オルキスはイオから離れるとグランとジータの前に進み出てそう告げた。

 

「うん。僕達も二人を助けたいし、ロゼッタさんも待ってるからね」

「目的が一緒なんだから、当然だね」

 

 二人も団長だからと、勝てないと口にするわけにもいかなかったという重荷がなくなり普段通りに振舞っていた。

 

「……つってもよぅ。あんな強ぇヤツがいるのにどうすればいいんだよ……」

 

 ビィがどうしようもない不安を口にする。

 

「全員で力を合わせりゃ、って次元じゃねぇよな」

「ロゼッタは……別れる間際にユグドラシルを救う力があると言っていたな」

「俺達、って意味っつーかビィに、って感じだったな」

 

 そこでビィに視線が集中する。

 

「お、オイラ……親父さんと会うまでの記憶がねぇんだ……。だからそんな力がオイラにあるかもわかんねぇし……。あったとしてもどうやればいいのかわかんねぇよぉ……」

「そうか……だがロゼッタにはなにか心当たりがあるようだった。マリスに対抗する手段の一つとして、できれば確保しておきたいところだが」

 

 カタリナの言葉に皆が考え込む中、リーシャが口を開いた。

 

「それでしたら一度アマルティア島へ来てみてはどうでしょう」

「アマルティア……秩序の騎空団のか? なんだってそんなとこに……」

「我々秩序の騎空団は、碧の騎士ヴァルフリートの下全空域において活動しています。そのため各地の情報が集まってくるんです。空域を越えないと考えると、最も多く最も広い情報が集まっているのではないでしょうか」

「なるほど……」

「それに……帝国に捕まっていた彼らも送り届けなければなりませんし」

「そうだな。他に行く宛てもない。異論はあるか?」

 

 カタリナが全員の顔を見回すが、他に意見のある者はいなかった。例え不確かなモノだったとしても、その僅かな可能性に縋りつくしかなかったのだ。

 

「じゃあ次はアマルティア島だね」

「うん。情報がいっぱいあるって言うなら、ClassⅣについてもわかることがあるかもしれないし」

 

 二人の団長が最終決定を下し、一行は秩序の騎空団第四騎空艇団が駐屯しているアマルティア島へと船を向けるのだった。

 

 そして、

 

「え――」

 

 帝国の戦艦三隻が上陸し、荒れ果てた姿のアマルティア島を目にすることになる。

 その惨状を呆然と眺め立ち尽くすリーシャ。

 

「一体どうなってやがる……!」

「団員の気配がない……見えている数は、既に息絶えているだろう」

 

 状況把握のためにグランサイファーは港に着く。島の港には見張りについている団員達がいるのだが、その全てが地に倒れぴくりとも動かなくなっていた。

 

「そんな……」

 

 リーシャはグランサイファーを降りるとふらふらと近くに倒れていた団員の下へ向かい屈み込む。そして死亡を確認した。

 

「……一体、私のいない間になにが……。モニカさんがいたはずなのに、どうしてこんなことに……」

 

 絶望するリーシャにかける言葉が見つからない一行だったが、彼女に答えた第三者が現れる。

 

「――そんなの決まってんだろ、リーシャ」

 

 声に驚き振り向いたリーシャの目には、ドラフの男が映った。白髪に褐色肌を持つ男だ。

 

「あ、あなたは……!」

「よぉ、探したぜ。まさかここにいねぇとは思わなかったけどなぁ」

 

 笑うその男を、カタリナは知っていた。

 

「エルステ帝国中将、ガンダルヴァ……!」

「ん? ああ、そうかてめえらも来たのか。なら丁度いい。モニカのヤツは鈍っちまってて相手にならなかったんだ。ちょっと相手しろよ」

 

 その発言から、彼がモニカを下しアマルティアを乗っ取った張本人だと理解する。

 

「気をつけろ、皆。ガンダルヴァは腕っ節だけで帝国の中将まで上り詰めた男だ。魔晶を使ったポンメルンよりも強いと考えてくれ」

 

 カタリナの言葉に、全員が警戒して武器を構えた。

 

「……モニカさんはどこですか?」

「あ? モニカなら監獄塔にいるぜ。不味い飯食わせてやってんよ。だが殺しはしねぇ。いい餌になるからな、あいつは」

 

 剣を抜き放ったリーシャに対して、面白そうに笑いながら答えた。

 

「てめえがここにいて隠れてんなら出てくるだろうと思ってのことだ。てめえが一緒に牢獄行きになってくれるんなら話は早いんだがなぁ。てめえを捕まえればあの野郎も出張ってくんだろ」

「……あの野郎?」

「惚けんなよ、てめえの父親のヴァルフリートに決まってんだろ? てめえを餌にヴァルフリートの野郎を誘き寄せて、再戦する。ここの制圧は上の命令ってヤツだけどなぁ。ついでにオレの望みを叶えるくらいの我が儘は許してくれんだろ」

「……そうですか」

 

 リーシャは剣を携えたまま歩き出す。

 

「お、おい! リーシャ殿、一人では……!」

 

 カタリナの制止の声も聞こえていないようだ。瞬間、リーシャの全身から風が巻き上がったかと思うとガンダルヴァの眼前まで移動していた。

 

「あん?」

「はぁっ!!」

 

 構えてもいないガンダルヴァへと力任せに剣を振るった。剣先に凝縮された風が斬撃に合わせて放たれて地面を割る。だがガンダルヴァは直前で回避している。

 

「っと、なんだやる気満々じゃねぇかよ。だがそんな大振りが当たるとでも思ってんのか?」

「……なら、避ければいいじゃないですか」

「っ――!」

 

 風に乗って素早くガンダルヴァの背後へと回っていたリーシャは、そのまま同じ威力の剣を高速で何度も振るう。しかし彼にはその攻撃が見えているのか、全てを回避していた。だが距離を取った時に着ていた服に一筋の切れ目が入る。

 

「チッ。完璧に避けたつもりだったんだがな。やっぱてめえもあの化け物の娘ってわけか。面白ぇ!」

 

 舌打ちしながらも予想外が嬉しかったのか、笑みを浮かべてリーシャへと躍りかかった。放たれた拳は避けられたが、遠くにあった看板を風圧で揺らす。

 

「……煩い」

「あ?」

「煩い、って言ったんです。倒せもしない遠くの敵なんか見ていないで、目の前の敵に集中したらどうですか?」

「はっ! 言うじゃねぇか。いい面だ、いいぜぇ! てめえには太刀を抜いてやるよぉ!!」

 

 仲間の団員達を殺された怒り。慕っているモニカを蔑ろにされた怒り。そして自分のことなど眼中にないと告げられた怒り。

 その全てが重なって彼女は、キレていた。

 

 ガンダルヴァがいよいよ持っていた太刀を抜いて挑んでくる。先程より明らかに速く、加減していたのだとわかって怒りが更に加速した。

 

 ……もっと! もっと速く……!

 

 ガンダルヴァと剣を打ち合わせてその力強さに吹き飛ばされかけるが、無理矢理纏う疾風を強めて留まった。

 父親が戦っているところは見たことがなかった。ただモニカの戦いは何度も見ている。だから彼女はモニカが紫電を纏うことに対して自分にできる物真似――風を纏うことによる強化を実戦していた。何度か練習で使ったことがあるとはいえ、実戦では初めてだった。

 

 しかも今は感情が荒ぶっているせいか、身に纏う風が自身の身体に切り傷をつけていることに気づいていない。

 

「いいじゃねぇか!」

 

 ガンダルヴァは受け切られるとは思わなかったのか、剣を引いてより速くより強く剣を振るう。それに合わせてリーシャも纏う風を強くしていく。ガンダルヴァはまだまだ余裕とはいえ、既にグラン達が割って入れる域を超えていた。割って入ろうにもリーシャの放つ風が凄まじく近寄ることができないでいた。

 

「よくも仲間を! モニカさんを!」

「弱ぇってのは罪だ! 生き残りたけりゃオレより強くなきゃなぁ!」

 

 感情と風が荒れ狂っているリーシャとの戦いを、じっくり楽しむようなガンダルヴァの様子に怒りが更に強くなっている。

 

「私はヴァルフリートじゃない! 私は、私なんだ!」

「知るかよ。弱ぇヤツには興味がねぇ。違うってんならあの化け物の餌以外の価値を見せてみろ!」

 

 互角に戦っていたかに思われたリーシャだったが、ガンダルヴァは更に加速しあっさりと彼女の背後を取った。それに対してリーシャが更に風を強めて加速しようとしたところで、リーシャの全身から血飛沫が上がった。

 

 ……えっ?

 

 なにが起こったのか理解できず、頭の中に空白が生まれる。

 

「はっ。所詮はモニカの真似事だな。勝負の結末が自滅なんてしょうもねぇなぁ。てめえにはヴァルフリートを誘き出すための餌がお似合いだ」

 

 ガンダルヴァの嘲るような声で状況を理解し、背後から食らった蹴りで呆気なく吹き飛び家屋へと突っ込んでいった。

 

「リーシャさん!」

「さぁて、次はてめえらの番か。少しは楽しませてくれよ?」

 

 リーシャを仕留めたガンダルヴァは、太刀を鞘に納めるとグラン達の方を向いた。そして一息にカタリナの眼前まで移動すると反応できていない彼女を殴り飛ばした。

 

「がっ……!?」

 

 金属の鎧を纏っていて重いはずだが、あっさりと吹き飛び家屋へと突っ込んでいく。

 

「カタリナ!」

「【オーガ】ッ!」

 

 リーシャと戦っていた時よりは加減されていたはずだが、圧倒的な強さを目にした。グランは【オーガ】と化してガンダルヴァの前に躍り出る。

 

「面白ぇ能力だな。次はてめえか!」

 

 嬉々として振るわれた拳を、グランは間一髪で避けながら自らの攻撃へと繋げていく。

 【オーガ】が持つ特有の技。敵の攻撃をかわした隙に攻撃することで、その瞬間のみダメージを何倍にも引き上げることができる、カウンター。

 

「ふっ!」

 

 グラン渾身の蹴りがガンダルヴァの脇腹に突き刺さった、のだが。

 

「痛ぇ痛ぇ。なかなかいい蹴りするじゃねぇか、小僧」

 

 ガンダルヴァは僅かに後退しただけで効いた様子がなかった。

 

「これならもうちょっと本気でやれそうだなぁ!」

 

 再び向かってくるガンダルヴァへと、ラカムとオイゲンの放った弾丸が向かうが最低限の動きで回避されてしまう。

 

「嘘だろ、この距離で避けるかよ!」

「チィ、とんでもねぇヤツがいたもんだな!」

 

 グランが真っ向から挑むことになる。

 

「【ヴァルキュリア】、デュアルインパルス!」

 

 そこを槍を携えたジータが横から援護した。味方全体の俊敏性を上昇させた上で槍を使いガンダルヴァの動きを邪魔しようとするが、彼の動きを捉え切れず全ての突きが空を切る。そこへグランも仕かけて双子の連携で挑むのだが攻撃がかわされ逆に拳をかわし切れずに後退されられてしまう。そこへラカムとオイゲンも隙を見て銃弾を放つが、当たらない。

 

「クソッ! どんな身体能力してやがる!」

「そう見えんのはてめえらが弱いからだ。七曜の騎士ってのはもっとヤベぇ化け物なんだぜ。次はオレ様が勝つがなぁ!」

「「っ……!」」

 

 ギアを一つ上げたガンダルヴァの拳を受けてグランとジータの身体が飛ぶ。次にラカムが殴り飛ばされ、オイゲンへと狙いを定めた。が、放った拳が紙一重で回避される。

 

「インターセプト、ってなぁ!」

 

 【オーガ】のカウンターと同じ敵の攻撃をかわした隙に発動させる技。銃がガンダルヴァの顎を跳ね上げた。

 

「……痛ぇじゃねぇか、爺さんッ!」

「がっ!」

 

 しかし大したダメージはなかったようで、すぐに振り下ろされた拳によって地面へと叩きつけられ、動かなくなる。

 

「……後はガキだけか。ん?」

 

 ルリア、イオ、オルキスに視線を向けてもう終わりかとつまらなさそうな顔をするガンダルヴァだったが、そこで二人の傭兵コンビに気づき口端を吊り上げた。

 

「なんだ、まだいるじゃねぇか! 確かてめえらは黒騎士が雇った側近だったか? あいつはどこだよ」

「さぁねぇ。教える義理あるの?」

「ねぇわな。だが丁度いい。七曜の騎士が雇った傭兵ってのがどんな腕前なのか、一回試してみたかったんだよなぁ」

「とんだ戦闘狂だな」

「ごめんねぇ。だとしたら僕達じゃ要望に応えられそうにないかな~」

「あん?」

「だって僕達の腕前を知ってて雇ってくれたわけじゃないからねぇ。僕達じゃ敵いそうにないなぁ」

「あぁ? なんだよ」

「そんながっかりしないでよ。こっちはもう強い人いないから見逃してくれない? 後でまた皆治して再戦させるから、さ。ね、お願い~」

「……なんだよ、消化不良だぜ。ならとっとと消えろ。弱ぇヤツには興味ねぇんだ」

「助かるよ~」

 

 ガンダルヴァはあっさりと踵を返した。

 

「だがリーシャは貰ってくぜ。あいつは貴重な餌だからな」

 

 しかしヴァルフリートを誘き寄せるためのリーシャは渡さないと言って彼女がいるはずの壊れた家屋の方へと歩いていく。

 

「え~? それじゃあ約束が違うんだけどな~。……そんなことされちゃうと、僕達もやる気出すしかないよねぇ」

「あん――っ!?」

 

 ドランクの言葉の真意を計りかねたガンダルヴァが怪訝に思ったところで、突如赤い玉が目の前に現れた。避ける間もなく雷が放たれる。

 

「がぁ!? て、てめえ……!」

 

 この戦いで初めてガンダルヴァにダメージが入った瞬間だった。

 

「まさかホントに騙されるなんて思ってみなかったよ。案外頭の中まで筋肉なのかな。ねぇ、スツルム殿?」

「全くだ。あと私達のことを知らないとは思わなかった」

 

 宝珠を指の間に挟んだドランクと、二本のショートソードを腰から抜き放ったスツルム。既に二人は戦闘態勢を整えていた。

 

「……チッ。てめえらがある程度戦えるのはなんとなくわかってんだよ。だが残ったガキ共を置いててめえらまで倒されちゃオレが手ぇ出さねぇとも限らねぇから、そんなリスク犯すとは思ってなかったってだけのことだ」

「あれ~? 意外と冷静なんだね~。ま、でもそれくらいの方がいいかな~」

 

 ガンダルヴァは改めて敵として二人を見据える。

 

「……ルリアに謝っておくことがある。あたし達は最初から、ルーマシーでオルキスを取り返したら逃げるつもりだった」

「えっ?」

「当初の予定では、ね。だからマリスが出た時は成り行き見守ろうかと思ってたんだけど」

「予想よりも強かった。あたし達が本気だったとしても結果は変わらないくらいにな」

「そうそう。だけど状況が変わって君達と一生懸命力合わせないとダメっぽいから、ちょぉっと罪悪感出ちゃってねぇ。だからここは僕達がなんとか凌ぐよ。イオちゃんが皆を回復して、隙を見て一緒に逃げよっかな~って」

「リーシャは放置でいい。あいつは大丈夫だ」

「あ、うん……」

 

 二人の様子に頷き言われた通りにするしかないイオ。

 

「はっ。オレ相手にできると思ってんのか?」

「もちろん。勝ち目がなきゃやらないよねぇ。できない仕事は請け負わないのも、デキる傭兵の条件だよ。ね、スツルム殿?」

「ああ。あたし達はできないことはやらない。お前と戦うくらいならできる仕事だ」

「ほぉ? じゃあその力、存分に試させてもらおうか!」

 

 ガンダルヴァは突っ込んでくるのを、スツルムが相対した。拳を剣で完全に受け止めてみせる。

 

「へぇ?」

「まだあたし達の実力がわかってないらしいな。安心しろ、ちゃんとバカにもわかるように身体に教えてやる」

「上等だ、やってみろぉ!」

 

 ガンダルヴァの拳でかかってくるのを、スツルムは二刀であしらい隙を作って肌を斬りつける。その上空中を浮遊した九つの玉がガンダルヴァの意識が外れた瞬間に魔法を放ってきた。嫌なコンビネーションだった。

 更に加速、更に――とガンダルヴァがギアを上げていくが、一向に差が開かない。どころか、それに合わせて二人の力も上昇していくようだった。

 

「てめえら……!」

「あ、気づいちゃった? 僕達ってぇ、時間をかけて身体を温めていくタイプなんだよねぇ。だから君みたいに実力を測りながら本気に近づけていくタイプと相性抜群、ってわけ。どぉ? 僕達強いでしょ?」

「ははっ! いいじゃねぇか、オレが武器を抜くに値する!」

 

 そう言ってガンダルヴァはリーシャの時に抜いていた太刀を手に取った。

 

「その自信もへし折ってやる」

「あんまり無茶しないでね、スツルム殿」

「わかってる」

 

 スツルムは変わらず突っ込んでいく。しかしより本気に近くなったガンダルヴァは彼女の背後へと回り込む。太刀を振るったが身を躍らせたスツルムが回避し、避け様に剣を振るった。頬に切り傷が入る。太刀を振り上げようとしたところでスツルムが彼の身体を蹴って退避した。

 

「ちょこまかと動きやがる」

「捉え切れないのをあたしのせいにするな」

 

 太刀を持ったガンダルヴァにも対抗できている。だが、既に二人は本気中の本気だった。時間をかけた強化も最大まで高まっており、ガンダルヴァにはまだ余裕が感じられる。

 

 退避したスツルムが着地したと同時に更に速くなったガンダルヴァが迫る。彼女は反応できなかったが。

 

「あ――?」

 

 踏み込んだガンダルヴァは僅かになにかを踏みつけて一拍体勢を崩す。ころころと玉が転がっていった。その隙を見逃すスツルムではない。

 

「レックレスレイド」

「うおぉ!」

 

 火炎を纏わせた斬撃を放ち、ガンダルヴァを後退させた……とその足の下にも玉が転がっている。

 

「っ……」

「足元がお留守だねぇ、中将サン。フェアトリックレイド」

 

 またも体勢を崩したガンダルヴァをドランクの魔法が襲った。

 

「ウゼぇなぁ!」

 

 僅かにでもダメージがあったのか、ガンダルヴァは激昂して瞬時にスツルムへと近づき蹴り飛ばした。

 

「っ……!」

 

 諸に攻撃を受けて吹き飛ぶ直前、剣が閃き彼の首筋を切りつけたがスツルムの身体は何度か地面を跳ねた後止まって動かなくなる。

 

「スツルム殿!」

 

 珍しくドランクが切羽詰った声を上げた。

 

「さぁて、次はてめえだな」

「……ははは、やっぱリーシャちゃんあげるから見逃して欲しいなぁ、なんて……」

「すると思うか?」

「ですよねぇ」

 

 ドランクは苦笑いを浮かべる。最後の攻撃、彼の目には捉えられなかった。宝珠を操って戦う手前、相手の動きを見切っていなければならないのだ。つまりこうなっては勝ち目がない。

 そしてガンダルヴァは空中にあった玉の一つを両断した。

 

「チッ。最初からこうしてりゃ良かったぜ。邪魔な玉っころを斬ってりゃここまですることもなかった」

 

 魔法発動の基点となる宝玉を両断されて、武器が一つ減った。ただでさえ不利なのにより窮地が迫ってくるようだが、ドランクは笑みを深めた。

 

「ま、僕の魔法対策としては、誰でも考える手だよねぇ。玉の方を攻撃すればいい、って」

「あん――がぁ!?」

 

 ガンダルヴァが怪訝そうに眉を顰めた瞬間、彼の身を焦がすほどの雷撃が襲った。流石に効いたのか片膝を突く。

 

「うん。いい位置にいてくれたね~」

「っ……てめえ」

「そう睨まないでよ。僕ももう魔力が今のでほとんど尽きちゃったから倒すだけの元気はないんだよね~。ってことで、ガンダルヴァ中将は卓袱台返し、って知ってる? ボードゲームとかやってる時に、負けそうになったらやってられるかーっ! ってテーブルごと引っ繰り返して勝負をなかったことにしちゃうヤツ」

「……なにが言いてぇ」

「それと同じことをしようと思って。じゃあ行くよ~。せーのっ!」

 

 ドランクのかけ声に合わせてガンダルヴァの足元に亀裂が走り、勢いよく跳ね上がった。ガンダルヴァはなす術もなく空を飛ぶことになる。

 

「てめえ……!」

「今度は皆で挑んであげるから、今回は撤退してね~」

 

 睨んでくるガンダルヴァに手を振って見送り、ドランクは嘆息する。

 

「……本気だったんだけど、全然倒せる気しないねぇ。もうホント、誰も彼も化け物すぎるよ。ねぇ?」

 

 ドランクが尋ねる先には、秩序の騎空団の団員が佇んでいた。

 

「あのガンダルヴァを退けただけでも凄いですよ。さぁ皆さん、こちらへ。リーシャ船団長はこちらで手当てしています。こうなった経緯と今の状況を、お伝えしましょう」

 

 イオに治療されて次々と目を覚ました一行へと、団員は告げた。そしてガンダルヴァという脅威と対面した一行はまたしても重い空気を漂わせて、今は彼についていくのだった。




何気にドラスツの初戦闘では?

如何だったでしょうか。
ガンダルヴァの強キャラ感は残しつつ二人も弱くはないんだよ、と思っていただけるようにし……たかった(笑)

キャラの力バランスって難しいですね。

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