ナンダーク・ファンタジー   作:砂城

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船団長の作戦

 模擬戦を終えた日の夜、リーシャは一人建物のベランダに出て夜風に当たっていた。

 

「……」

 

 本当ならもう眠って身体を休めるべきなのだと、頭ではわかっている。

 ただ一行や秩序の騎空団を動かして帝国から庁舎を取り返しモニカを救わなければならない。加えてガンダルヴァは今のままでは倒せないので自分の強さを少しでも上げる必要がある。

 

 考えることが多すぎたのだ。

 

 根を詰めすぎるのは良くないと常日頃からモニカに忠告されていたため、今こうして一人夜風に当たって頭を冷やしていた。

 

 ……どう頑張っても戦力が足らない。

 

 いくら自分が頑張ったとしても、ガンダルヴァを倒せなければ自分達に勝利はない。捕らえられたモニカが五体満足でいるとも考えにくいので、よしんば助け出すことに成功したとしても皆でガンダルヴァを、となって勝てるかどうかは賭けに近い。できれば全戦力を以ってガンダルヴァと戦いたいが、そうなると庁舎へと攻め込む人員がいなくなる。なにより今の全戦力でも勝てるかどうかは怪しいのだ。

 

「リーシャさん、こんなところにいたんですね」

「……急にいなくなったら心配する」

 

 悩ましい問題に対して頭を抱えそうになっていると、ジータとオルキスがベランダに出てきていた。

 

「すみません、考え事をしちゃって……」

「戦いのことですか?」

「はい。ガンダルヴァの強さは底が知れません。全員でぶつかっても倒せない、と思います。そうなると戦力を補充する必要があるのですが、先にモニカさん達を助け出すにしてもガンダルヴァがそれを見過ごすはずがありませんし、例え救出できたとしても果たして勝てるかどうか……」

「リーシャさんはいっぱい考えてるんですね」

「はい。その、これでも一応船団長ですからね。勝つためにできることを考えないと」

「凄いですね、リーシャさんは」

「そう、でしょうか」

「はい。ClassⅣでも結局倒すことはできなかったですし、実力は私達の誰よりもあります。その上団員の指揮までするなんて、その歳で考えたら他にいないと思いますよ?」

「そうなんでしょうか……私はまだまだ未熟者で、この状況を覆す策も思いつかなければ強さもモニカさんや父さんには及びません」

 

 ジータが惜しげなく褒めるが、リーシャは額面通りに受け取らない。

 

「……リーシャは頼りない」

 

 そこでオルキスが口を開く。気にしていることを、と胸に刺さる一言だった。

 

「で、ですよね……」

「……と思ってた」

「えっ?」

 

 しかし続いた言葉が過去形だったためオルキスの横顔を見つめる。

 

「……最初会った時、ダナンが死んだと思って泣いてた時。慰めてくれたけど凄い狼狽えてた。気持ちは嬉しかったけど、頼りなかった」

「……」

「……でもここに来る前の時は落ち着いてた。リーシャは、変わった」

 

 前後をよく知っているオルキスの言葉を自分の中で反芻して、確かに自分の中で変化があることを自覚した。

 

「私も変わったと思いますよ。だってリーシャさん、最初アマルティアを歩いてた時魔物が出て私達に手を借りるのちょっと複雑そうでしたし。それが今はこうして一緒に戦いますし。なんて言うか、頭が固くなくなったと言うか、肩の力が抜けた気はしますよね」

 

 ジータの言葉も、落ち着いて思い返せば心当たりがあった。そしてそのきっかけは、間違いなく彼ということになるのだが。

 

 あの日の夜、彼が去り際に告げていった言葉の意味を考えることで、悩んでいるよりも目先のことに挑んだ方がいいのだと思い少しは前向きになれた。未だどうしても周囲と比べてしまうが、それでも自分にできることをやろうと思うことができたのだ。

 それがなければ、今もうじうじと悩んでガンダルヴァに勝てるわけがない、と諦めてしまっていたかもしれない。

 

 ……あの時の行動だけは、偽りの姿ではなくダナンとしての行動だった。

 

 一応敵対関係にあったのだから敵に塩を送るなんて、と思ったものだがそう言ったら言ったで「お前が下らねぇことで悩んでるからだろうが」と笑われそうだ。というかそう言われたような気がする。

 

「……ジータさん達のお父さんの話は、父から聞いた覚えがあります。父も一緒に旅をしていたそうですから、戦友のような関係だったとか」

「そうなんですね。……今七曜の騎士のヴァルフリートさんとダナン君のお父さんと、後はロゼッタさんも一緒だったって聞いたけど。お父さんがそんなに凄い人だったなんて、びっくりだよね」

「……ジータさんはその……重荷に感じたりはしなかったんですか? 凄い人の娘だから、とかそういう」

 

 リーシャの質問に彼女がなにを意図しているのか察する。だからと言って都合のいい答えではなく、偽らざる本心で答えた。

 

「……ありましたよ。お父さんは凄い人だったらしいですけど、私達の記憶にはあんまりなくて。でも周りの人からお父さんの話を聞いてたんですけど。お父さんみたいになる、って思って頑張り始めた矢先に挫折しちゃったんです」

「挫折ですか?」

「はい。お父さんはなんでも、どんな武器も魔法も扱えたらしいんですけど、どっちかって言うと武器、剣を得意としていたみたいなんです。でも私は剣より魔法かな、っていう感じだったので」

「ああ、なるほど」

「しかもお父さんに憧れるのはグランも同じですから。グランの方が武器を扱う腕が上がりやすかったんです。その時にお父さんみたいになるのは無理なんだなぁ、って思っちゃって」

「……そうなんですね」

「はい。でもそのことを悩んだりはしませんよ? 私達は双子ですからね。私ができないことはグランができるし、グランができないことは私ができればいいんです。それに、戦っても大体勝率が同じくらいになりますからね。武器の扱いで負けたって、総合的には負けてませんから」

「ジータさんは前向きなんですね」

「そんなことないですよ。……実際に私達の【ベルセルク】と戦ったリーシャさんならわかると思いますけど、グランの方が強かったでしょう?」

「そうですね……こう、攻撃の威力が高かったように思います。……どっちも怖かったですけど」

「すみません、【ベルセルク】使うとああなっちゃうんです。『ジョブ』は無数にありますけど、それぞれ誰が向いてるかは適性次第なんじゃないかと思います」

「向き不向きがあるってことですよね」

「はい。グランは近接攻撃寄り。私は魔法寄り。ダナン君はなんだろう? 基本が【シーフ】だからこう、トリッキーな攻撃とかになるのかな? 私とかだとあそこまで自由に動けないところあるから」

「なんとなくわかるような気がします」

「ならそれでいいんですよ。リーシャさんなりの強さを見つけ出せば、それを伸ばしていけばいいんです。オルキスちゃんもそう思うよね?」

「……アポロは全部強い」

「そうなんだけど……」

「……でもリーシャはアポロじゃない」

「うん」

「……リーシャはアポロじゃなくても、あの強い人に勝てると思う。同じことができなくても、結果を同じにはできる」

「オルキスちゃん……」

「……私は、“オルキス"じゃないから。アポロの傍にはいられない。いつか、消える」

「「……」」

「……アポロが一緒にいたいのは私じゃないから。“オルキス”じゃないとあげられないモノを、アポロは欲しがってる。それは私にはできないこと」

 

 声自体は平坦だったが少し寂しそうにも思えた。

 

「……そんなことないと思うよ?」

 

 ジータはそんな彼女の頭を優しく撫でる。

 

「今のオルキスちゃんも、昔のオルキスちゃんとは違うけど黒騎士さんは一緒にいて欲しいと思うんじゃないかな。目的達成のために必要だから、っていうだけで取り戻したかったんじゃないと思うなぁ」

「……ホント?」

「うん。オルキスちゃんはそう思わないの? 黒騎士さんは今のオルキスちゃんに優しくしてくれなかった?」

「……」

 

 そう聞かれてみれば、確かに優しくしてくれたこともある。口では仕方なく、というような形だったがあれは……というところまで考えて、ふるふると首を振って考えを打ち消す。

 いつかやってくる別れの時に駄々を捏ねて困らせたくない。きっと自分が拒絶してしまったら、本当は心優しいアポロは実行できなくなってしまうかもしれない。

 

「……私にはできない、でいい」

「……」

 

 オルキスの答えにジータも口を噤むしかなかった。今のオルキスは昔のオルキス分を差し引いて十年ほどしか生きていない。それでも抱いている覚悟に、少し圧倒されてしまった。

 

「……ほら、リーシャさんがいつまでも悩んでるから、オルキスちゃんがこういう結論になっちゃったじゃないですか」

 

 ジータは少しでも重くなって空気を変えようとリーシャへ話を向ける。

 

「えぇ? わ、私のせいですか?」

「はい。リーシャさんが今の態度で『ヴァルフリートじゃない私はガンダルヴァに勝てない』って思い続けているなら、オルキスちゃんがこう思うのも無理ないんです」

「……ちょっと暴論気味な気がするんですが」

「だからリーシャさんがヴァルフリートさんじゃなくてもガンダルヴァに勝てる、って証明してあげればいいんですよ」

「っ……」

「リーシャさんは七曜の騎士じゃありませんし、当時ガンダルヴァを追い出した本人でもありません。でもガンダルヴァに勝てば、偽物が本物にも勝る、って証明できると思いませんか?」

「それは、そうですけど……」

「自信がなくてもいいんですよ。あるフリをしたらいいんじゃないですか?」

「フリ?」

「はい。自信がなくても『私がガンダルヴァを倒します』みたいにあるフリを全力ですれば力になる、モニカさんが言いたいのも多分そういうことです。そういうことにしておきましょう」

「……私が」

「もちろん、今回の作戦指揮はリーシャさんに一任しています。私達もあなたの指示に従います。けど、鍵はリーシャさんなんです。最終決定はお任せしますが、リーシャさんがもし自信満々にガンダルヴァと戦うのでしたら、私達が人数不足を補って帝国兵の百や二百、倒してみせますよ」

 

 ジータの申し出は荒唐無稽にも思えたが、リーシャの悩む頭に一筋の光明を見出させた。

 

「……リーシャが真似しかできないなら、ダナンの真似すればいい」

「えっ?」

「……ダナンはいつも余裕があるように見える。自分より強い人と戦う時も、負けるなんて考えてない顔してる」

 

 オルキスの言葉で思い浮かんだのは、十天衆のシスと戦っていた時。マリスへと挑む時。いつだって彼は不敵に笑っていた。どちらもまともに戦えば自分が敗北するとわかっていながら、余裕を崩さなかった。

 

「……ダナンみたいに、自信があるように見せる……。私なりに全力で戦う……。後は私流の紫電……」

 

 ぶつぶつと何事か呟いていたリーシャだったが、しばらくしてはっとする。

 

「……いい作戦、浮かんだかもしれません! 明日皆さんの前で説明して、実行します! 今日はもう寝ましょう! おやすみなさい!」

 

 彼女は弾けるような笑顔を浮かべてベランダから室内へと入っていってしまう。残された二人は顔を見合わせて首を傾げつつ、なにか策が浮かんだようなので任せることにしてもう遅いので部屋に戻るのだった。

 

 そして翌日の朝になってリーシャは一行と団員達を集めて昨夜思いついたという作戦を説明する。

 

「この作戦が一番現実的だと思います」

「……しかしこれでは肝心な部分が……」

「大丈夫です。私に任せてください」

 

 以前の頼りない様子からは想像もできないほど自信たっぷりに受け答えするリーシャ。団員達も遂に船団長が船団長らしく頼もしい様子を見せていることに、嬉しさと戸惑いでいっぱいだった。一晩でなにがこうも彼女を変えたのか、二人にしかわからない。

 

「では皆さん、必ず仲間を救いアマルティアを取り戻しましょう」

 

 はきはきと話す、自信に満ちた表情、所作など全てが打って変わったように自信を表している。

 彼女の作戦は既に、始まっているのだった。


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