リーシャがガンダルヴァを誘き出し、隠れていた主人公達や秩序の騎空団全員で挑みます。
結局本気になったガンダルヴァに次々とやられていき、最後主人公とリーシャで勝つ、みたいな感じだったと思います。
当然変わっていますが、ご了承ください。
場所は変わって、秩序の騎空団の庁舎を陣取ったガンダルヴァ中将率いる帝国兵達。
戦中故完全に気を緩めることはないにしても、ほとんど勝利を確信していたため心持ちに余裕があった。
なにせ秩序の騎空団の団員は残り自分達の戦力の十分の一しかいない。
その上このアマルティアで最強と思われるモニカは幽閉し、昨日現れたリーシャや指名手配犯一行もガンダルヴァ一人に敗北した。撤退させられたのは単に最後粘った二人が「倒す」ことではなく「撤退させる」ことを目的としていたからである。本気を出したガンダルヴァには誰も敵わないのだという事実がそこにはあった。
二十人で二百人を相手するという精神的疲弊も相俟って、確実に反抗勢力を始末できるという確信が彼らにはあったのだ。
無論ガンダルヴァを除けば星晶獣さえ操る者もいるために二百人を相手にしてもお釣りが出るほどの戦力ではある。しかし帝国最強と言われていた緋色の騎士バラゴナ、元帝国最高顧問の黒騎士、そして軍事最高権力者である大将アダム――彼らを除けば間違いなく最強の実力を誇っているガンダルヴァがいる。七曜の騎士二人は命令通り動くか微妙な立場であり、アダムに至っては帝都アガスティアから離れることはない。
自由に侵攻できる身では間違いなく最も実力が高いのだ。
既に一度勝利していることもあり、覆されないという自負があった。
一度ドランクに撤退させられたガンダルヴァだが、深追いせず時を待っている。
……やっぱりあの化け物の娘だけはあるな。
その理由はリーシャだ。激昂し自傷するような力の使い方をしてはいたが、あの中で最も強いと確信した。
しかしあの年齢で片鱗を見せるだけではないとも思う。ありゃ化けるなぁ、と思いを馳せる度口元に笑みが浮かんだ。とはいえたった一晩で変わるモノでもないかと思っていたのだが。
「が、ガンダルヴァ中将!」
懐かしき船団長室を臨時執務室として使っていたのだが、そこへ帝国兵が慌てた様子でノックもなしに扉を開けてきた。無礼だ、と罵るよりも先に将としてやるべきことがある。器の小さいフュリアス当たりは目くじらを立てるのかもしれないが。
「どうした?」
「お、おそらく罠だと思われるのですが……」
「推測はいい。事実だけを述べろ」
「は、はいっ! ……第四騎空艇団船団長リーシャが、真っ直ぐ庁舎へと向かってきています!」
「なに?」
部下の報告に、ガンダルヴァは眉を寄せた。
「数は? 他の連中はどうした。団員はまだゲリラ戦を続けてるのか?」
なにが狙いかを知るために他の状況を尋ねていく。
「姿が見える限りではリーシャ一人。他の指名手配犯などは見つかりません。団員も姿を消し、他一切音沙汰のない状態です!」
「……なるほどな」
この時点でガンダルヴァが浮かべた作戦は二つ。リーシャが囮となって彼女に目をつけているガンダルヴァを誘き寄せ、他の連中で庁舎や監獄塔を襲撃するか。リーシャが一人だと勘違いさせてのこのこ出てきたガンダルヴァを、隠れていた他のヤツらと共に倒そうとしてくるか。
となるとどちらにしてもガンダルヴァが出ていかず部下にリーシャを始末させてしまえば問題ない、ということでもある。どちらにしても他の連中が自分に勝てるとは思えなかった。
「リーシャを狙え。狙撃もしろ。到着までに始末しちまえばいい」
「い、いえ。それが……狙撃は既に行っているのですが、全く効果がなく。襲いかかった兵士は全て切り捨てられています。リーシャが微動だにせず対処しているところを見ると、風の防壁でも作りながら移動しているのではないかと思うのですが……並みの銃弾では突破できないようで」
「……チッ」
そんなことならアドウェルサかなにかの兵器を持ってきておくんだったか、と舌打ちする。だがないモノ強請りをしても仕方がない。しかし防壁を展開しているのであれば、すぐに魔力が切れてしまうと思われる。可能性としては要所でしか発動していないか、他の魔法使いが展開しているかのどっちかとなる。どちらにせよすぐに切れるということはないだろう。
「……流石にただの兵士がいくら集まろうとあいつを殺すのは難しいか。オレが行ってさっさと倒して戻ってくるのが一番手っ取り早い、か。仕方がねぇ。おい、リーシャを狙うのをやめて監獄塔の警備に全兵力を集中させろ。他のヤツらが襲撃してくるだろうからな」
「はっ。ご武運を」
「で、肝心のリーシャはどこだ? そんだけ無敵っぷりを発揮してんならもう近くまで来てるんじゃねぇか?」
「いえ……リーシャは悠々と歩いてここまで向かってきています」
「……チッ。余裕のつもりか。まぁいい、すぐに兵を監獄塔に集めるよう伝令しろ。オレは出る」
「はっ」
部下に指示をして正確な位置情報を聞くと、ガンダルヴァはリーシャが飾っているらしい机の上のヴァルフリートの写真に目を向けた。
「……待ってろよ、ヴァルフリート。娘をやった次はてめえの番だ」
獰猛な笑みを浮かべて告げると、颯爽とリーシャのいる場所へと向かう。
どんなつもりかは知らないが、昨日今日で変わるわけもない。すぐに下して監獄塔へ戻ってくる。例え他の連中が束になってかかろうが関係ない。昨日の時点で実力は知れた。一杯食わされたが実力の底さえわかれば対処は可能だ。疲労も全くない。
そしてガンダルヴァは港から庁舎までの一本道に出て歩き出した。リーシャが悠々と歩いている以上、彼が慌てて駆けつけたようになってはならない。相手が余裕を見せるならこちらも余裕を見せ返し、手の内など全てお見通しだと態度で伝えてやるのがいい。
庁舎から離れすぎない地点でリーシャを待ち構える。ここからでもその姿が見えた。
悠然とした足取りで遠く見えるガンダルヴァを見据え、剣を抜いたまま歩いてきている。表情は自信に満ち溢れ、口元に不敵な笑みさえ浮かべていた。風の防壁とやらは視認できない。おそらく一定範囲まで来たモノ全てを手動で対処しているのだろう。
後ろからであろうとどんな攻撃をも通さない。それを実践しながら堂々と歩く姿は敵に畏怖さえ与えるだろう。
――一瞬、ガンダルヴァはヴァルフリートがそこにいるような錯覚を受けた。
「っ……」
そんなはずはない。昨日戦ってわかったがあの化け物の娘である片鱗こそ感じられたものの、化け物と同列なわけがない。しかしあまりにも威風堂々とした様がヴァルフリートを幻視させていた。仮にも親子、似ている部分も多いため堂々とした振る舞いが錯覚を起こさせる。
リーシャはガンダルヴァが見えてきても余裕そうな態度を崩さないまま歩いて近づき、二十メートルほどまで迫ったところで足を止めた。
「……解せねぇなぁ。ここまで来ても周囲に人の気配が感じられねぇ。まさか本当にオレ様と一人で戦う気か? 囮にしてももうちょいマシな策があるだろうよ。昨日力の底は知れた。てめえはオレ様には敵わねぇ」
昨日の一件から注意している玉っころがあるようにも見えない。確実に周辺一帯には自分達二人しかなかった。
しかしそんな彼の言葉を聞いたリーシャは、笑みを深める。その態度が気に食わなかった。
「……勘違いしてくれてるようで助かりました。確かに私一人であなたと戦い、その間に他の皆さんが監獄塔にいる皆さんを救出する……その読みは間違っていません。ですが――私はあなたを倒します」
「……はっ」
自信たっぷりになにを言うかと思えば、倒すだと? バカげた発言に思わず笑ってしまう。
「なんの冗談だ、それは。お前がオレ様に一人で勝つ? 昨日全力で戦って負けたのを覚えてないわけないだろうが」
「昨日とは一味違いますよ。そこは語るより実際に剣を交えればわかることでしょうが。ほら、さっさとかかってきたらどうですか?」
あろうことか挑発してきた。苛立ちに任せてかかりたいところだが、こうも余裕を見せ苛立ちを煽ってくるのには理由があるはずだ。罠か? ガンダルヴァをリーシャが一人で倒すことは不可能だ。だが風を操って島の外へ放り出すことくらいはできるかもしれない。例え強かろうと空の底へ落ちてしまえば終わりだ。近づいた瞬間昨日のように空へ打ち上げられてリーシャの風で運ばれ死に追いやられる、なんて無様な死に方をするつもりはない。
なにが狙いなのかと考えあぐねて逡巡していると、
「来ないのですか? ではこちらから行きますよ」
リーシャから迫ってきた。太刀の柄に手をかけいつでも抜刀できるようにしていたつもりだったが、気づいた時にはリーシャが眼前で剣を振るっている。
……は?
予想外の速さに一瞬頭に空白ができてしまう。その間にも刃は進みガンダルヴァの首の薄皮一枚を裂いた。そのままぶつりと筋を切ったところでようやく身体が反射的に反応し、全力で後方へ跳んだ。
「っ~~……!」
首に手を当ててみれば、確かに血が出ている。
「流石に速いですね。あそこから避けられるとは思っていませんでした」
驚愕するガンダルヴァと変わらず余裕そうなリーシャ。
「……てめえ、どういうことだ? 明らかに昨日と全然違うじゃねぇか……!」
「だから言いましたよね、昨日の私とは一味違いますよ、って。まだわかってないみたいなので言いますが」
リーシャは笑みを引っ込めてガンダルヴァを睨みつける。
「あなたの前に立っているのはあなたを負かしたヴァルフリートの娘ですよ? 一般常識で測らないでもらえますか? ……あなたは誰より、父さんの強さを知っているはずでしょう?」
彼女に言われて、ガンダルヴァは自分の認識が甘かったのだと思った。
……そうだ。こいつはあの化け物の娘だ。たった一晩で変わらないとなぜ言い切れる。
自棄になった様子もない。ただ一晩経ってなにかを掴み、昨日の危うかった力を昇華させたのだ。間違いなく昨日よりも強い。強敵だ。
改めて認識し直して、ガンダルヴァは笑った。
雑魚を何人薙ぎ払うよりも楽しいことだ。強いヤツとの戦い。それが目の前にあるのだから笑わないはずがない。
「……なんでてめえはオレが戸惑ってる間に押し切らなかった? 本気になったらてめえに勝ち目はねぇよ」
一つ疑問に思ったことを尋ねると、リーシャは鼻で笑った。
「なにを言ってるんですか? 本気のあなたを倒せないで、父さんを超えるなんて不可能でしょう」
「――」
絶句した。そんな当然のこともわからないのかと言ってきている。
今のリーシャならモニカと同等、いやそれ以上の力を持っている可能性すらある。ならばこの勝負は簡単だ。
――勝った方がよりヴァルフリートに近い。
「……いいじゃねぇか。オレ様も本気でいかせてもらうぜ!」
ガンダルヴァは嬉々として太刀を抜き放ちリーシャへと襲いかかった。全力にかなり近い形で迫ったが、振るった剣はリーシャに受け止められてしまう。後退するでもなくきちんと受け止めていた。昨日との明らかな差に笑みを深めたガンダルヴァは、遠慮なく攻撃を仕かけていく。しかしリーシャはそれら全てに対応してきた。
しかも動きがガンダルヴァよりも速い。互角どころか余裕を崩さず上回ってすらいた。
ガンダルヴァに傷が増えていく。紛れもなく本気に近い力を発揮しているが、それでもリーシャを圧倒することができなかった。
ただ次の瞬間、ガンダルヴァの身体が軽くなり行きすぎてしまったことで隙が生まれる。そこをリーシャに深く切り裂かれ、後退した。
昨日と打って変わってリーシャが有利に見える。その理由を、実際に戦ったガンダルヴァは理解した。
「……風でオレの動きを遅くするとはな。考えたじゃねぇか」
「流石に数度手合せをすればわかりますか。そうです、これが風では雷に速度で追いつけないなりの、一つの答えです」
リーシャは元より隠し通す気がなかったのか、笑みを湛えて答える。
「私自身が台風の目になる」
悠々と歩いている間ずっと、リーシャはそれを実践していた。道中も使っていたのは昨夜思いついた手の一つであるため、少し感覚を掴んでおきたかったからだ。
「……自分から周囲へ台風のように風を操り近づけば近づくほど風は強くなって動きが鈍る、か。本当に一晩で覚えたってんなら大したモンだが」
斬られていながらも、ガンダルヴァにはまだ余裕がある。
「オレ様の動きを遅くしたところでこれっぽっちしか上回れねぇんじゃ、勝ち目はねぇな」
彼は腰を低く落として構えると、
「フルスロットルッ!」
ガンダルヴァの巨躯が闘気を纏う。身体能力を格段に上昇させるだけではあるが、元々地力の高いガンダルヴァだけにその効力は絶大だ。
「ふふっ。あなたが全力でないことくらいはわかっていますよ」
しかしリーシャは変わらず余裕の笑みを浮かべている。
「だからさっきも言ったじゃないですか。私が台風の目になる、って。それはつまり周囲に風を放ってはいますが、私自身の強化は行っていない、ということです」
そう言って、不可視の台風とは別にリーシャ自身が風を纏っていく。
「昨日から改良してありますので、ご安心を。自滅なんて無様な真似はしません。どうぞ遠慮なく、かかってきたらどうですか?」
「はっ! 上等だ、いくぞッ!!」
ガンダルヴァが咆哮しリーシャへと突っ込んでいった。先程の何倍にも強化された彼の一撃を、リーシャは正面から受け止める。今度は僅かに後退したが、吹き飛ぶようなことはなかった。
碧の騎士に力で及ばないと突きつけられた彼と、父に全てで及ばないと決めつけていた彼女の戦いは更に苛烈になり、周囲の被害を省みず激化していく――。
次回予告(半分嘘)。
敗北の必至の秩序の騎空団団員の耳に入ってくる可憐な歌声。
天使のような彼女の歌声を聞けば勇気百倍元気凛々。意気揚々と帝国兵を薙ぎ倒すに違いない。
そう――彼女は絶望的なアマルティア島に舞い降りたアイドル。
次回、ナンダーク・ファンタジー
「舞い歌うジータ」