ナンダーク・ファンタジー   作:砂城

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前回の丸っきり嘘じゃないふざけた次回予告。ちょっと本当が混ざっていてごめんなさい。真面目に書いてるつもりはなんですがこうなりました。

あともう一つ案があって、

リーシャ「風を纏うこれがスーパーリーシャ。そしてこれが……スーパーリーシャ2!」
ダナン「急にどうしたん?」

次回、ナンダーク・ファンタジー

「覚醒リーシャは父を超える夢を見るか」

っていうのがありました。


アマルティアでの決着

『ガンダルヴァが現れました。皆さんは行動を開始してください』

 

 彼らの行動は指揮する彼女の一言によって始まった。

 

 リーシャは誰よりも目立つように、そして敵に発見されやすいように、わざわざ庁舎への道を真正面の大通りから悠然と歩いていくことにした。そしてガンダルヴァは罠とわかっていても自分の方へ来て戦うことを選ぶと読んでいた。加えて戦いには来るが向こうから目の前に現れることなく、余裕を持っているフリをするために待ち伏せるだろうと考えた。

 そして、全てが彼女の思い通りになっている。

 

 待ち伏せされている間にわからないようにしつつも仲間へと連絡を取り、示し合わせて戦闘を開始する。そういう手筈となっていた。

 

 ガンダルヴァが庁舎から離れた段階で他の皆は監獄塔の周辺へと潜伏し時を待つ。監獄塔には帝国側の全戦力、二百人もの兵士が詰め寄っている。これ以上ない厳戒態勢だ。

 

 そして、リーシャがガンダルヴァと戦闘を始めたことを切っていなかった通信から察した一行は、遂に行動を開始する。

 

「お、おい! あれはなんだ!? 屋上に誰かいるぞ!」

 

 【アサシン】となり気配を消したグランに抱えられて兵士達の近くまで来ていたビィが物陰から兵士が声を上げたように偽装する。兵士達が屋上を見上げたことでビィはお役目終了とばかりにグランの下へと戻り、すぐに兵士達の近くから離れていく。

 

 周囲の建物の屋上を見上げた兵士達は、近くの三階建ての建物の屋上に人影があることを確認した。そして呆気に取られることとなる。

 

 屋上でステップを踏み歌い踊る少女の姿を見たからだ。

 どこからか楽器の演奏が響き渡る。他の仲間が監獄塔の周囲に設置したドランクの宝珠を介して兵士達からは見えない位置で楽器の演奏を行っていた。

 

 どこから持ち出したのか普段の装いとは違ったドランクとスツルムがそれぞれ、ギターとドラムを奏でている。

 見える位置にいる金髪の可憐な少女は右手にマイクを持ち、純白の衣装で軽やかに踊っていた。

 

 あまりの出来事に思考回路がフリーズしてしまう兵士達を他所に、【スーパースター】となったジータは舞い踊る。

 

 可憐な衣装に可憐な笑顔、可憐なだけではなく人を惹きつける歌声を披露しグランの『召喚』した楽器の効果を持つ短剣――ハウリングビートというマイクを握るジータ。

 

 異様な光景に誰もが唖然とし、そこにいるのが攻め込んできている敵だなどとは考えていなかった。そこに入り込んでくるジータの歌声と踊りが彼らの戦意を溶かしていく。

 

 彼女の歌は続く。

 可愛らしさを意識されたダンスによって、ジータの長くもないスカートがふわりと舞い上がり、兵士達は下にいることもあって、もしかしたら見えるのではないかという思いを抱かせる。男性率百%を誇る二百人の帝国兵。彼女の姿が見えている者は一部だったが、なんとか下心を満たそうと少しずつ前へと出てしまう。激しくジャンプした時にギリギリ見えなかったことで次あれが来た時は絶対に見えると確信しじりじりと前へ出て列が乱れていく。

 しかし秩序の騎空団団員によって絶対に下からは中が見えない位置であることも確認済みだ。……なぜその団員がそんなことを知っていたのかは置いておいて。

 

「……ミゼラブルミスト」

 

 グランは【ダークフェンサー】へと姿を変えて黒い鎧に身を包み、黒い霧を帝国兵達の足元に炊いていく。敵を弱体化させる霧が発生していても、上を見上げている兵士達は気づかない。

 ジータのいない方面の兵士達へも、イオが魔法でジータの姿を投影し映像に釘づけにしていた。

 

 こうして仲間達が着々と準備する中、歌はサビに差しかかる。

 

 その瞬間屋上に新たな二つの影が現れた。

 二人は蒼の髪を揺らす。二人共髪を下ろしてしまえば対になったような姿で、幼い見た目とは裏腹にサビを歌い始めた時の歌唱力たるや、圧巻の一言である。

 更なる盛り上がりを見せる中で、サビが終わる。

 

 三人の歌声が響き渡る中一番が終わり間奏へと入った瞬間、ジータが脇へ掃けて青いお揃いの衣装に身を包んだルリアとオルキスが前に出てそれぞれ左手と右手を繋ぎ、繋いで手を掲げた。

 その手から光が放たれるのに応じて多芸な傭兵二人が演奏を物々しいモノへと変化させる。

 そして、

 

「「リヴァイアサン」」

 

 二人共が持っている星晶獣を召喚、監獄塔の上空に青い竜が顕現した。巨大な影に覆われた兵士達は先程までの浮ついた雰囲気はどこへやら、理解が追いついていないのか呆然と空に現れた黒い影を見上げるだけだ。

 召喚されたリヴァイアサンは特大の水の球を地上へと放った。兵士達を激流が呑み込んでいき大半を呑むと中心に集まって空高く噴き上がった。宙へと放り投げられた意識ある兵士達の悲鳴が響き渡る。

 

 かくして二百人いた兵士達は一掃された。幸運にも残った十数人は慌てて退散していく。

 

「……わざわざ踊る意味があったのか?」

 

 というカタリナの呟きは誰に届くでもなく消えていく。ただまぁ、こっそりリヴァイアサンを召喚したとしたら確実に耐えようと対処した者が出たのは間違いないだろう。その点今回のような一歩間違えれば即座に撃ち殺されていたであろうが注意を引く作戦は功を奏した、のかも、しれない。

 

 ……ルリアが楽しそうだったから良しとするか。

 

 とはいえ歌い踊っている時のルリアを見てそう評価するくらいには身内に甘いカタリナであった。

 

 程なくして着替えなどが終わり普段着姿で監獄塔へと向かっていく。

 扉を開き中へ入る。歌声によって外へ出てきた者もいたためか、帝国兵は誰もいなかった。そして看守室から鍵を取り一階に囚われていた秩序の騎空団を解放していく。

 

「モニカさんはどこかわかりますか?」

 

 しかし一般の団員しかおらず、小柄だが貫禄ある補佐殿の姿がなかった。

 

「も、モニカ船団長補佐はおそらく黒騎士と同じ地下の特別監獄に幽閉されています」

 

 団員達の案内で地下への鍵と枷の鍵を見つけると、モニカが囚われているところへと降りていく。

 

「おぉ、ようやく来てくれたか」

 

 金髪の少女のような姿をした彼女は以前と変わらぬ朗らかな笑みを浮かべてくれるが、その顔は若干窶れていた。密閉された空間と碌に用意されない食事が精神を削ったのだと一目で理解できる。

 

「も、モニカ船団長補佐! 今枷を外します!」

 

 鍵を持った団員が駆け寄りモニカの腕を塞ぐ枷を外した。

 

「ご苦労。……それで、うちの有望な船団長がいないが?」

 

 彼女は身体を解しながらすっと目を細めて咎めるように尋ねる。

 

「今リーシャさんは一人でガンダルヴァと戦っています」

「なに?」

 

 グランの言葉に怪訝そうな顔をした。彼女の知るリーシャは間違ってもガンダルヴァを一人で相手するような、命知らずな真似はしない。

 

「リーシャさんが任せてください、って言ったんです。今のリーシャさんは強いですよ?」

 

 ジータの言葉にモニカは一瞬きょとんとなり、屈託なく笑った。

 

「……そうか。なら、我らが船団長の勇姿を見に行かなければな」

 

 そう言って武器を揃え地下を出ると、戦闘音の聞こえる方角へと全員で向かう。

 正しく残しておいた言葉を受け取ってくれた彼女の姿を見に。

 

「おらぁ!!」

「はあぁ!!」

 

 庁舎の正面前では未だリーシャとガンダルヴァの戦いが続いていた。流石のリーシャもダナンに倣った不敵な笑みを浮かべる余裕はなく、真剣な表情でガンダルヴァと打ち合っている。

 

 ガンダルヴァが避けたリーシャの一撃で家屋が真っ二つに裂ける。

 リーシャが避けたガンダルヴァの一撃で家屋が吹き飛ぶ。

 

 互いに必殺の威力を持った攻撃を、傍から見れば無数に見える一瞬のやり取りの中で放ち続けていた。

 

 姿だけで見ればリーシャの方が優勢だ。ガンダルヴァが傷だらけなのに対してリーシャは傷が少ない。だがそれは彼女が均衡を崩さないように回復しているからである。実際にはリーシャの方が被弾が多い。

 

 両者の戦いは拮抗し、拮抗しているが故に互いに互いを超えようと高め合って既に第三者の割り込める領域になかった。斬撃の応酬が絶え間なく続くあの中に飛び込むなど、それこそ災害の中へ突っ込むに等しい。斬撃の嵐とでも呼ぶに相応しい状態だった。

 

「……」

 

 モニカはリーシャの戦いっぷりを見て感嘆する。

 

 ……少し見ない間に、随分と強くなったものだな。

 

 元々才能はあった。だが自信のなさが才能に蓋をしていた。

 剣は時に強い者から盗めとも言われる。リーシャは父やモニカを含め偉大な先達に囲まれて育ったため、必死に彼らの技を盗もうと、真似しようとしてきた。だが盗んで益があるのは最初の内だけ。無論吸収し続けることで強さを手に入れる者もいるが、盗み形になった後は自分のモノにする段階へと移行する。

 リーシャは遠く及ばなかった先達ばかり見ていて、自分が培った力を自分のモノとして昇華していい段階だと気づかなかったのだ。

 

 それが今開花し、モニカをも超えようとしている。こんなに嬉しいことはなかった。

 

「……モニカ殿。あの戦いに、貴殿なら入れるか?」

 

 二人の戦いを眺めていたところでカタリナが尋ねてくる。

 

「いいや。万全ならまだしも今の私では足手纏いになってしまうだろう」

「そうか……」

「だが手助けならできる」

 

 援護をしようにも下手に攻撃すればリーシャをも巻き込みかねない。だがモニカには策があった。腰の剣を抜くと天へと切っ先を向け刃に紫電を集中させていく。

 近くにいる者達が眩しくて目を開けていられないほど強く溜まったところで紫電は全て空へと昇っていく。続けてモニカは叫んだ。

 

「リーシャッ! 避けろ!!」

 

 大声だったため戦いに集中していた二人が気づき、ガンダルヴァは舌打ちしながらも回避を選択する。それがわかっていたからこそ、わざわざ敵にも聞こえるように大声を出したのだ。

 

「ふっ……受け取れ!」

 

 ガンダルヴァが効果範囲にいないことを確認してほくそ笑み、避けなかったリーシャへと天空から紫電が落ちた。落ちた紫電は地表を焼き焦がすが、リーシャは焼かなかった。

 

「これは……」

 

 紫電はリーシャの身体へと纏われ、紫電が最大に溜まった時と同じように紫に身体が発光している。風に加え静電気も合わさり彼女の髪がふわりと浮いた。

 

「紫電纒雷。本来私にしか使えない紫電を人に纏わせ強化する。もちろん自在に操れるわけではないが、持っていた私の全魔力を費やした。生憎参戦できるほどの体力はなくてな。リーシャ、お前に託した」

 

 モニカは体力を削られた上に魔力も消費したからか、剣を杖のようにしてなんとか立ち続ける。その額には玉のような汗が浮いていて、限界であることを示していた。

 

「…………はいっ! モニカさんはそこで見ていてください。私が、ガンダルヴァを倒します!」

 

 未熟者の自分を後任にするためずっと面倒を見てくれた人。あまり会えない父と違って身近な存在でありながら、遠い人。いつも自分のことを支えてくれた恩人に背中を押されて、やる気が漲らないはずがない。

 

 戦闘で疲弊していた身体に力が戻る。そして忌々しくこちらを睨みつけるガンダルヴァへと視線を向けた。

 

「さぁ覚悟してください。今の私は、父さんだって超えられます!」

「吐かせ! そんならてめえを倒して、オレ様があの野郎より強いことを証明してやる!!」

 

 今ならなんだってできる気がした。ガンダルヴァと同時に駆け出して、ヤツが一歩を踏み出す前に脇腹を裂く。リーシャの視点では景色が一瞬にして変わり、目と頭が痛くなる。あまりの速度に身体がついていけていなかった。

 

「がっ!?」

 

 今までになかった致命傷だ。どぷどぷと血が流れガンダルヴァは呻く。

 

「クソがっ……! オレは、オレ様が……負けるなんてことは……!」

「ここまでです、ガンダルヴァ。あなたの負けです」

 

 威風堂々、胸を張り凛とした佇まいのリーシャを見て、彼の脳裏に()()()の記憶がフラッシュバックする。

 

『ここまでだな、ガンダルヴァ。お前の負けだ』

 

 そうだ。あの時もこうして、力の差を見せつけてから敗北を突きつけてきた。ガンダルヴァの中でなにかが燃え上がる。

 

「……ふざけんなよ。てめえはいつもそうやって見下しやがって! オレ様が最強だ!!」

 

 紛れもない渾身。己の全てを賭けた一撃を放つ。

 

「ブルブレイズバッターッ!!」

 

 ガンダルヴァの太刀に空気が歪むほどの炎熱が発生する。その太刀を横薙ぎに振ってきた。

 

「……お借りします、モニカさん」

 

 対するリーシャは冷静に呟くと太刀が当たる直前で背後へと回り込んだ。

 

「旋風紫電裂光斬ッ!!」

 

 モニカから託された紫電に自身の疾風を上乗せした全力の一振りをガンダルヴァへと叩き込む。天に昇るほどの紫の雷光と緑の竜巻が舞い上がり彼の巨体を呑み込んだ。それらが収まると流石のガンダルヴァもゆっくりと倒れていく。リーシャの身体から紫電も疾風も消え、彼女は膝を着いた。

 

「……くっ、はははっ……!」

 

 完全に意識を失ったと思っていたガンダルヴァだが、身体を震わせて笑い始め、ごろんと仰向けになる。

 

「……まだ意識があるのか。呆れた頑丈さだな」

「はははっ! ぐふっ、ぁ……。これが寝てられるかよ。今日は記念すべき日だ。オレと本気で戦えるヤツが、一人増えたんだからなぁ」

「とんだ戦闘狂ね、全く」

「これは性分ってヤツだ。オレ様が生きてる限り変えられねぇ」

 

 瀕死の重傷を負っているだろうが、彼は嬉しそうに笑っている。

 

「おい、リーシャ。てめえとはまたいつか戦いてぇもんだな。次はオレ様が勝つ」

「……二度とご免ですが、その時も結果は変わりませんよ」

「言うようになったもんだ……。楽しかったぜ、リーシャ」

 

 ガンダルヴァはそう言うと、目から光を失った。流石に意識を保ってはいられなかったようだ。

 

「中将閣下がやられた! 撤退、撤退しろぉ!」

 

 逃げていた帝国兵達が気絶したガンダルヴァを数人がかりで運んで撤退していく。

 

「ぐっ、くぅ……!」

 

 常に全力全開、しかも最後には紫電も使った。その反動が来たのかリーシャが苦しげに呻いてどさりと倒れ込む。できれば二度と敵に回したくない相手だったが、仲間の安全が第一だ。深追いせず、負傷者の治療に当たることとなった。

 

 こうしてアマルティア島での突発的な騒動は収まり本来の目的にようやく手をかけることができるのだった。




というわけでモニカさんの紫電も纏ったリーシャさんでした。リーシャ強くしすぎな気が……まぁ七曜の騎士の娘で才能あるからいいよね。

ゲームより先に最終上限解放したみたいになっちゃいましたけど。

カタリナ――ルリア
ラカム――ノア

なら

リーシャ――モニカ

だろうなとは思っています。
後はイオ――ザカ大公? またはゼエン様かな。
オイゲンは黒騎士だとこの作品を書いている身としては嬉しい。
ロゼッタは多分ゆぐゆぐでしょう。
と予想していますがどうでしょうね。

もしくはリーシャさんまた仲間外れ説もありますよね。だってリミ武器短剣だから持てないですもん。得意武器追加されない限りは。

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