ナンダーク・ファンタジー   作:砂城

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ごめんなさい更新するのを忘れてました。

一旦ダナンの方に戻ります。


一方の無人島生活

「おはよう、アポロ」

 

 俺の最近の一日は、目が覚めてからこの一言で始まる。

 

 数日経つと今のアポロの状態などがよりよくわかってくる。その一つが睡眠についてだった。

 初日俺が怪我で気絶した後に思ったことだったが、どうやらこいつは眠らない。試しに眠気を押し殺して一晩中見張っていたのだが、眠ることなくずっと虚空を眺めていた。ただ流石にずっとそれでは身体に悪いので、それからは寝かしつけることにしている。意思が薄いせいか俺の言うことを聞いてくれるので、魔物の毛皮を使った寝床に寝かしつけてやっていた。本当に眠っているか不安だったのだが声をかけても起きなかったので、きちんと眠ってはいるらしい。一度教えたことは自分でやる、と思っていたのだが一部俺が一々やってやらないとやらない行為があった。

 その一つが睡眠だ、ということだ。

 

 懸念していた排泄は一度やったら後は自分で行くようになってくれて助かったが、どうも水浴びはトロい。正直言って目に毒でしかないのだが、俺がばしゃばしゃと一気にかけてやるのが一番だった。……今は嫌がるという行為をしないので大丈夫なのだが、自分を取り戻したその時は殺されそうだ。

 

「じゃあ俺は入り口で朝飯温めてくるから、ちょっと待っててくれ」

 

 毎日毎日反応もないのに話しかけてきたのが功を奏したのか、アポロは話しかけると俺を向くようになった。とはいえ返事はないが。

 

 数日で居住スペースも多少充実してきた。

 魔物の毛皮を剥いで敷き詰めることで絨毯とし、寝床はふかふかのヤツを使っている。羊みたいなヤツはいなかったので仕方なく枕は丸めた毛皮を包むことで作ってあった。

 シェロカルテの店から取ってきた器具や道具などは、これまた店から取ってきた釘を使って簡単な棚を作り置いていた。鍋は重いので別にしてある。あと大体の場合昨夜の残りモノを入れてあるのだ。

 道具一式も付随してくる便利な【アルケミスト】の力を使い薬なども充実させてある。こんな密林で病気になったら大変だからな。できるだけの準備は整えておきたい。作成したアイテムなどは別の棚に並べてあった。

 

 俺は昨晩の残りモノが入った鍋を持ち上げて、洞窟の入り口に置いてやる焚き火の方へと向かった。火は消えている。炭の上に何本か枝を重ねておき、魔法で火を放つ。組んだ枝の基本はそのままなので、早速鍋をかけておく。蓋をしておかないと虫が入ったりするから大変だ。蓋もちゃんとあって良かったと思う。

 

 それはそうと、最近周辺で見かける魔物がめっきり減った。おそらくここら一帯を俺達の縄張りとして認め、踏み入らないようにしているのだろう。おかげで少し遠出しなければならなくなったのは面倒だが、最優先はアポロの身の安全なので悪いことばかりではない。

 煮立ったところでお玉で混ぜて様子を見る。一晩置いたことで当日とはまた別の美味しさが出てきていた。これはこれで美味しい。

 

「うん、美味い」

 

 熱くなった取っ手を握り火傷する前に洞窟の奥へ戻る。普段鍋を置いている毛皮の上に置き、手を息で冷ましつつ蓋を開け放って熱を逃がす。洞窟の中は涼しいが身体を冷やしてしまうため、多少熱いくらいが丁度いい。

 器に盛ってスプーンと一緒にアポロへ手渡す。こちらに手を伸ばして受け取ってくれるようにはなっていた。

 

「いただきます」

 

 普段過ごしている以上に挨拶をしている気がする。アポロはなにも言わず食べていたが。そうして黙々と食べ進めていると、最初の頃のオルキスを思い出す。皮肉なモノで、オルキスが感情を露わにしたのとは逆にアポロは心を閉ざしてしまった。かと言って俺にできることはこいつをあいつらが戻ってくるまで生かしてやることだけだ。できれば俺の手で目を覚まさせてやりたかったが、それは不可能だろう。彼女はオルキスを待っている。今とか昔とか関係ない、オルキスを。

 

「美味いか?」

「……」

 

 俺が尋ねてもこちらをちらりと見るだけで返答せずに食べ進める。前言撤回。当初のオルキスより素っ気ないわ。オルキスはあれで食には積極的だったからな。今のこいつは、全てにおいて気力がない。

 食事のペースが早くないアポロより先に食べ終えて立ち上がる。

 

「じゃあ俺は薪拾いと狩りに出てくる。昼までには戻るからな」

 

 話しかければこちらを見るが、返事はない。これまでと同じだ。ただ俺の言葉を聞く意思は生まれているようなので、とりあえずは良しとしよう。俺は革袋と汚れた器とスプーンを持って洞窟を出る。俺が出ている間は火を絶やさないように薪を追加しておいた。

 

 移動しているところで爆撃音が聞こえてきた。

 

「……おーおー。今日も派手にやってますなぁ」

 

 二日目以降はずっと聞こえている音だ。グランサイファーに三日も大砲を撃ち続ける装備はないので、おそらく帝国だろう。どうやら砲撃でルーマシーを覆う茨の檻を破ろうとしているらしい。マリスを回収したいというわけではないだろう。どちらかというと、神殿にいた白くてでかい星晶獣らしきヤツを回収したいのだろうが。

 茨の檻は頑丈なのか戦艦一隻が日がな大砲を撃ち続けても破れていなかった。援軍が来るまでは一隻で行い、帝都から何隻か呼び寄せたら一斉砲撃で打ち破るつもりだとは思う。援軍が来るまでの間にグラン達が戻ってきてくれた方が楽そうだ。マリスを倒したとしても島を帝国の戦艦に取り囲まれてたんじゃ脱出の危機だ。というかこれ、あいつらも入ってこれんのかね。俺も島全体を回って穴がないか探したわけじゃないから確かなことは言えないが、ロゼッタに仲間だけを引き入れる余裕があるとも思えない。

 

「……精々俺も鍛えておかねぇとな」

 

 確実に先を行かれはするだろうが、実力が凄く離れるのは気に入らない。できるだけでも差を埋めておいてやろう。

 生活は安定してきているので、そろそろ鍛錬もしていかなければならない。野生で感覚を研ぎ澄ますだけじゃダメだ。

 

 俺は決意を固めながらも外出し、生活を豊かにするために働くのだった。午後もまた同じ。夕食後は暗くなってくるので狩りなどはしない。朝と昼頃に食糧の確保へ動けば必要ないというのもある。きちんといくつかは保存食として取ってあるので飢える心配はないと思うのだが。

 

 夕食後はアポロを水浴びへ連れていってやり、戻ってきたらアポロへと話しかける時間にしている。

 無駄なことだとは思うのだが、それでもなにかしてやりたいという気持ちはあった。毎日夜のこれくらいの時間に、アポロへと適当な話を聞かせている。今日はなにがあっただとか、こういうバリケードでも作ろうかと思ってるとか、そんな下らない世間話だ。話をすればじっと顔を向けてはくれる。だが一切声を上げることはない。相槌って大事なんだな、とかそんなことを思う今日この頃だ。ちょっと虚しくもあるが、俺がそれを気にしている風に見せるのはあまり良くないだろう。二人いる内の一人が追い詰められている時、もう一人まで一緒になって落ち込んではならない。それは希望を捨てることに等しいからだ。

 残念ながら俺は昔のオルキスが戻ることはないという事実があったとしても、会ったこともないヤツにそこまでの情はない。むしろあの五人での日々を想えば、逆とも言える。とはいえ黒騎士に敵対することはない。彼女がどうしても今のオルキスを犠牲にする、っていうならそれは仕方がない。ただ、おそらくそこで俺との関係は終わるだろうが。

 

「……そろそろ寝るか」

 

 しばらく話していてネタも尽きてきたので、俺は就寝を取ることにした。

 

 まずは膝を抱えて座り込んだアポロをいつも通り寝床に寝かせる。大人しく従ってくれるので有り難い。更に俺が着込んでいたローブを布団代わりにかけてやった。最近はほとんどアポロが羽織っている。あまり日光を浴びず(外へ出ても茨の檻で浴びられないが)洞窟内で過ごしているので少し健康に悪そうだ。明日は散歩に連れていくのもいいかもしれない。俺も生きるために働いてのんびりした時間を取れていないからな。

 

「……大丈夫。俺が傍にいてやるから、安心して眠れ」

 

 そっと頭を撫でてやる。年上の女性にすることでもないような気はするが、今のアポロは年齢関係なく弱っている。なら問題ないだろう。後で文句を言われたら「じゃあちゃんと普段通りしてれば良かっただろ」と言えばいい。

 

「ここには俺しかいないんだ。弱くたっていい。お前が弱ってるんなら、俺が守ってやるから。絶対に死なせてやらないからな。頼って甘えてもいいから、今は生きてないとな」

 

 目を閉じたアポロは聞いているのかいないのかわからない。寝つきはいいので聞いていないかもしれない。だがそれでもいい。こうして聞かせた言葉はどこかに残って実を結ぶことだってある。

 

「おやすみ、アポロ」

 

 精々悪夢ではなく、いい夢が見られますように。

 

 これ以上精神を摩耗させるようなことはないように祈りつつ、俺も自分の寝床で横になった。眠れないということはない。日々二人分の食料調達だったり自分で動かないアポロの面倒を見たりと疲労している。寝床で目を閉じればすぐに意識は手放された。

 

 ◇◆◇◆

 

 翌朝。

 目が覚めた俺はいつも通り起き上がって目を擦り、同居人へと挨拶する。

 

「おはよう、アポロ」

 

 俺の外套を布団代わりにして眠っていた彼女は、俺の挨拶を受けてぱちりと目を開けた。いつも思うのだが、あまり熟睡するタイプではないらしい。疲労が溜まっていると浅い眠りを繰り返すことがあると聞くが、アポロもそれなのだろう。実際彼女ほど頑張った者は少ない。

 返事を期待してのことではない。ただ習慣として挨拶をしておくだけで良かった。だが、

 

「……おはよう」

 

 予想外の返答があった。思わずこちらを向いて僅かに口を開いたアポロを凝視してしまう。以前のような覇気はなく感情もない、それこそ最初のオルキスのような声音ではあったが、きちんと挨拶を返してくれた。一晩でどんな変化があったのか全くわからないが、それでも確実な成果を感じ取り感極まってアポロを抱き締めてしまう。

 

「よし、いい子だ。アポロはちゃんと挨拶できて偉いなぁ」

 

 身体は確実に俺より年上だが、今の精神状態ならこれくらいは許して欲しい。とはいえ意識ははっきりしていないのか振り解くこともなく、また抱き返してくるようなこともなかった。

 

「じゃあ飯食ったら散歩行くか」

「……散歩」

「そう、散歩だ。偶には外出ないと気が滅入るだろ」

 

 どうやらオウムのように俺の言った言葉をそのまま返すくらいはできるようになったらしい。これを快復していると言っていいのかはわからないが、どうやら俺の日々の話しかけは無駄ではなかったようだ。

 

「今飯用意するから待ってな」

 

 頷きは返ってこないが声で反応を示すくらいにはなった。この調子でアポロの心が少しでもマシになるように接しよう。

 

 優しく面倒を見ることは、あの人に教えてもらっている。

 自分でしろよ、ではなく私がしてあげる、の構えだ。それを実践すればアポロの心も良くなっていくかもしれない。今後も俺がなんとかしてやらなければ。

 

 本命のオルキスが戻ってくるまでに、少しでもその声を聞いてくれるように。

 そして、ひいては以前のアポロが戻ってきて、以前のように五人で日々を過ごせるように。


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