ナンダーク・ファンタジー   作:砂城

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少しずつ読んでくださる方が増えていっているようで、嬉しい限りです。
今後とも拙作をよろしくお願いします。


人形の少女編
血生臭い船出


 俺はナルメアの下を去り、育ってきた街へと戻ってきた。

 

 ……約半年振りに戻ってきたが、相変わらず淀んでやがるな。

 

 半年間過ごしたあの小屋と森が、同じ島のモノとは思えないくらいだ。だが俺にはこっちの方が馴染みがいい。

 

「よぉ、久し振りじゃねぇか」

 

 俺は街に入って談笑していたマフィアに声をかける。そのマフィアというのが、俺が最初に財布を盗み、そして散々ボコしてくれやがったドラフの男だ。

 

「あぁ? てめえ誰だよ。気安く話しかけてんじゃ――」

 

 向こうは俺のことを覚えていないようだ。ま、当然か。マフィアからしちゃ俺みたいな小汚いガキ一匹リンチにしたところで日常とさして変わらない。

 だが俺は悠長に会話をしに来たわけじゃない。近づき短剣で腹部を刺した。

 

「ぐっ、うぅ……!」

「半年くらい前だったか? 散々俺をボコしてくれやがったしな。とりあえず死んどけ」

 

 俺は短剣を抜いて男を地面に倒す。

 

「これから俺はマフィア共を皆殺しにしてくる。お前は助けてくれるヤツがいれば、もしかしたら助かるかもしれねぇな? ま、てめえらが今までしてきたことを考えれば、街の連中が助けるなんてことはねぇだろうが。そのことを後悔しながらゆっくり余生を過ごしな」

 

 俺は逃げられないように足にも短剣を突き刺して、男を放置する。

 男は血を流して何事か呻いていたが、無視して短剣についた血をヤツの服で拭った。

 

 人が刺されたっていうのに、この街は全くざわつかない。悲鳴も上がらない。この街では人の死が軽い。

 

 ……そうだ。俺は元々こういう人間だ。人を殺すことにも躊躇はしない。マフィア共も散々人を殺し、売り捌き、嬲ってきた連中だ。殺されて当然だ。

 

「さてと、道すがら始末を続けるとするか」

 

 俺は呟いて、街を練り歩きマフィアを殺して回った。皆殺しにする必要があるのかと聞かれれば、最悪皆殺しでなくともいい。ただこの街を牛耳っているマフィアがいる限り、俺は生きてこの島を出ることができない。だから背中から撃たれないように、確実に始末しておこうとは思っている。自分の身の安全を保証するにはいい手段だ。……まぁ、この先も同じ手口でやっていくのは無理だろうがな。この街だからこそ、それが通じるんだとは思う。

 

 ナルメアに鍛えられた俺は、大体半年で元の五倍くらいは強くなったと思う。武器持って粋がっているだけのマフィア共には負けないだろう。

 

 そうして俺は遂にマフィア共のアジトまで辿り着いた。街外れにある倉庫がそうだ。

 

 俺は両の手で扉を押し開ける。薄暗い倉庫の中は改造されていて、奥に図体のでかいドラフが居座ってやがった。そして、前列のヤツらが俺へと銃口を向けている。

 

「全部で、あー……五十人ってとこか? 随分と豪勢なお出迎えだな?」

 

 銃口は十三か。銃の避け方も教えてもらった。まぁ問題ないな。

 

「軽口を叩けんのも今の内だぞ、ガキ」

 

 ここのマフィアを取り仕切っている奥のボスが声をかけてきた。ソファーに踏ん反り返って座りやがって。余裕アピールかよ。

 

「街で手下共が狩られてるってんで気になってはいたが、まさか本当にこんなガキだったとはなぁ。いい腕じゃねぇか。どうだ、手下にならねぇか? 俺の下につけば、いい思いさせてやれるぜ? 酒も女も力も、全部好きにできる。悪くない話だろ?」

 

 おやおや。思わず笑っちまったよ。

 

「おいおい。マフィアってのは随分と生温いみたいだなぁ?」

「あん?」

「こちとら手下殺ってる時からてめえら皆殺しにするって決めてんのによ。今更勧誘とか悠長すぎないか? どうやらボスの頭の中はお花畑みたいだな」

 

 俺の挑発を聞いて、ボスの顔が怒りに歪んだ。

 

「いい度胸だクソガキ! てめえら、ありったけの鉛弾を食らわしてやれ!」

 

 号令があって一斉に引き鉄が引かれる。発砲音がいくつも重なり、銃弾が俺へと飛んでくる。俺は体勢を低くして銃弾を掻い潜りながら駆ける。銃弾ってのは反動があって弾がブレるんだと。少なくとも銃口の直線上より下には飛ばない。

 

 そして銃は一度撃ったら装填までに時間がかかる。俺ならその間に距離を詰められる。

 

 左端のヤツへと肉薄して足を払い後ろへ回転させながら喉元を掻き切った。すると血飛沫のカーテンが出来て後ろで武器を構えている連中にかかり、目潰しにもなる。その間に一人また一人と命を絶っていく。

 俺はただそれを繰り返すだけでいい。統率なんてロクに取れていない、烏合の衆だ。正規の軍ならまだしも、こんな廃れた街のマフィアやっている連中相手なら充分だ。ホントなら爆薬なんかで一掃したかったんだけどな。

 

「あー、クソッ。全身血塗れだ。なぁ、ボスさんよ。いい服屋知らねぇか?」

 

 俺は手下共を倒して、最後に残ったボスへと声をかける。

 

「……最後にもう一度聞くぞ。俺の下につく気は?」

 

 ソファーの横に立てかけてあった両刃の斧に手をかけて問いかけてくる。

 

「仲間散々殺した俺をまだ迎え入れる気があるなんて、ボスはお優しいな」

「俺ぁこの街で最強だ。頂点に君臨してる。てめえも、俺の次には強いからなぁ。それに、手下なんざまた集めりゃいい」

「はいはい。自分の強さ自慢は他所でやってな。手下はもう集まらねぇよ。言ったろ? 俺は、てめえらを、一人残らず始末しに来たんだって。もしかしてまだ理解できてねぇのか? その辺の子供の方がもうちょっと利口だぜ」

「てめえ……! 俺を怒らせたこと、あの世で後悔しやがれ!」

「うだうだ煩ぇよ。いいからかかってこい。強いんだったら強さで屈服させてみろ」

 

 スキンヘッドに血管浮かび上がらせて立ち上がり、襲いかかってくる。

 

「おらぁ!」

 

 右手で軽々と持ち上げた両手斧を、振り回してくる。……動きが緩慢だな。ただ力任せに武器を振るだけ。生憎と俺はあんたより力が強くて速くて鋭い攻撃を知ってるんだよ。

 大きく振り被るから動きも丸見えだ。まだ銃構えたヤツの方が強い。

 

「ちょこまか動きやがってぇ!」

「あんたが鈍いだけだろうに」

「減らず口を!」

 

 しかしただ避け続けているだけではダメだ。攻撃に転じるため振り切った後腕を斬りつけたりしてみる。

 

「痛くも痒くもないぞぉ!」

 

 確かに、短剣じゃ切り傷をつけるので精いっぱいだな。この筋肉ダルマ相手じゃ効果も薄い。

 確実に首を狙う必要があるな。心臓は……あの分厚い胸板じゃ刃が届くかわからねぇな。

 

「ふんっ!」

 

 ヤツが俺を両断すべく横薙ぎに斧を振るった。それを後退して避けるとすぐに前へ出て接近し左足を後ろへ振り被る。そして渾身の力を込めて、ヤツの股の間に爪先をめり込ませた。

 

「っ……か……っ!」

 

 ボスは悶絶して斧を落とし股間を押さえて蹲る。一気に顔から血の気が引き、冷や汗をだらだら流していた。

 

「これで、首が丁度いい位置に来たな」

 

 俺は悶絶するボスの首に短剣を添える。

 

「……てめえ、卑怯だぞ……っ」

「ははっ。傑作だな。マフィアのボスが卑怯なんて言うかよ。最初に言った通り、俺はてめえらを殺しに来たんだ。戦いに来たんじゃねぇ。どんな手を使ってでも息の根を止めてやる。そう宣言したつもりだったんだがなぁ」

 

 俺は刃を押しつけ薄皮を切る。

 

「わ、わかった。取引をしよう。俺はもうこの街から手を引く。なんならお前にボスを譲ってやってもいい。街を歩けば誰もが頭を垂れる。最高の気分になれるぜ」

 

 そうやって時間を稼ぎながら落とした斧を拾う算段か。懲りないヤツだな。

 

「下らねぇな」

 

 俺は一言切って捨てて、ボス首を掻き切った。

 

「俺は別に、富や名声が欲しいんじゃねぇよ。ただ、俺が何者なのかを知りたいだけだ」

 

 死体は捨て置き、アジトの中を漁る。金目のモノは盗むし、俺が一番欲しい船の情報も盗む。元々俺は盗っ人だからな。元を正せば盗品だろうし。

 

「おっ」

 

 手近にあった革袋に手当たり次第金目のモノや地図なんかを放り込んでいると、地下へと続く階段を見つけた。棚の下にある。……僅かな隙間すらも見逃さないみみっちい盗っ人精神が役に立ったな。

 棚を退かし湿っぽい空気を放つ地下へと降りていく。

 

 かつかつと靴底で階段を踏み鳴らす音が止まり地下へと着いた。

 

「……」

 

 俺はなにも言わず、ただ目を細めて眉間に皺を作る。悪臭と言えば悪臭だが、この街で育った俺からすれば嗅ぎ慣れた匂いだ。何日も身体を洗っていない時に出る、綺麗な身体だった期間があるからこそ気づけた臭さ。加えて糞尿の匂いに薬の匂い。様々な異臭が混じり合った酷い空間だった。

 

 そこには宝などなく、牢獄だけがあった。冷たい鉄檻の中に閉じ込められ鎖に繋がれた人がいる。ただ、そいつらを人と呼んでいいかどうかは微妙なところだ。

 

 階段を降りた近くに看守室と思われる一角があった。壁に鍵の束がかけられているのを見て、それを手に取る。

 ご丁寧に鍵には牢獄毎の番号と枷の番号が振られていた。残念ながら鉄を難なく斬るほどの実力には達していないので、鍵を使って開ける必要がある。

 

 まず一つ目。

 

「おい。お前は人間か?」

 

 懸命に股間を弄っている女に声をかけた。まるでそれが自分の全てであるかのようだ。答えはない。ただ聞くに堪えない嬌声を上げるだけだ。俺は短剣で喉を裂いた。

 

「おい。お前は人間か?」

 

 次の牢獄でも、その次の牢獄でも俺は同じことを繰り返した。……ただ命を助ければいいってもんじゃない。自我が崩壊したヤツは、もう死んだも同然だ。

 俺の問いに返事をする、または反応を示す。それだけの気力があるヤツだけを解錠し、自由にしていく。

 

 全ての牢獄を回って枷を外したのは、約半数か。

 

「マフィアは俺が潰した」

 

 牢獄全体に響く声で告げた。自我がある者しか残っていないので、全員が顔を上げてこちらを見る。

 

「だからお前達はここから出られる。だが、面倒は見ない。出るなら勝手に出ろ。そして自分の足で歩け。今更言うまでもないだろうが、誰かの助けなんて期待するなよ」

 

 生きる意味すら失っているだろうから、これだけのことを言うだけなら問題ない。

 そして俺は、彼らを放置してマフィアのアジトを去った。

 

 もう一つ、この街でやることがある。

 

「よぉ」

 

 俺は不敵な笑みを浮かべて、そいつに片手を挙げ声をかけた。

 

「……生きてたのか、ダナン」

 

 俺が世話になっていた店の商人だ。あの日、俺を売ってくれやがった野郎だ。まぁこいつの事情には大体予想がついてる。元々俺は、こいつに頼まれて稼ぎがいいからとマフィア専門の盗みを働いてたわけだが。多分それを繰り返し続けたせいでバレそうになったんだろうな。だからこの商人は、自分の身を守るために嘘を吐いた。多分「俺は盗品を売られただけで、協力関係にはない」とか言って。別に恨みはねぇ、とは言わないが。大して恨んじゃいない。

 

「ああ」

 

 俺は頷いて、素早く距離を詰めるとヤツの左手を掴みカウンターに叩きつけると同時に短剣で甲を貫いた。

 

「づぅ……っ!」

 

 痛みに顔を歪めるが、悲鳴は上げなかった。俺がこうして来た時点で、ある程度覚悟はしてたんだろう。

 

「悪いな。そんなに恨んではねぇが、仕返しはしとくぜ」

 

 俺が刃を抜いたら即座に回復アイテムを使って血を止めにかかった。それを邪魔するほど恨んではいない。

 

「なにより、あんたには長い間世話になったからなぁ。知識だけは、ここで学ぶ機会の少ないいい買い物だった」

「……そうかよ」

 

 俺に教養を与えてくれた、かけがえのない人物だ。裏切られただけで殺すのは忍びない。

 

「さて、商売の話をしよう。俺はこの街を出る。だがこの血塗れの服じゃダメだろ? 服を見繕ってくれ。代金はこれだ」

 

 俺は店主に笑いかける。刺されたせいか冷や汗を掻いてはいるようだったが、さっきのに全く反応できなかったことからも対面している限り命を握られているようなモノだからな。向こうとしても応じるしかない。

 アジトから奪ってきた革袋の中に手を入れて、宝石の散りばめられた懐中時計を取り出しカウンターに置く。ちゃんと血で汚れた箇所を避けて、だ。

 

「……こんなモノ、どこで」

「連中のアジトだ。知ってんだろ? 俺がマフィアを狩り回ってたことくらい」

「まさかマフィアに逆らったのか?」

「逆らったって。今更だろうが。あいつらなら今頃、全滅してるよ」

「……嘘だろ」

「ホントだって。なんなら自分の目で確かめてこいよ。街にいくつ、死体が出来上がってるかな?」

「……」

 

 商人は俺に対して畏怖したようだ。この街で逆らう者がいない力を持ったマフィアを全滅させたことか、殺人の話を笑ってする俺の人間性へかは知らない。あるいは両方かもな。

 

「……わかった。商品は売ってやる」

「助かる」

「お前は、なにがしたいんだ? 正義の味方にでもなるってのか?」

 

 商人の問いに、俺は思わず吹き出した。……笑えるな。こんな俺が正義だって?

 

「バカ言え。俺は、俺の道に立ち塞がるヤツには容赦しねぇってだけだ。マフィアだろうがなんだろうが、必要があるなら殺してやる」

 

 笑みを引っ込めて商人の怯えた目と目を合わせる。無駄だが、半歩後退っていた。

 

「……ほら、服取ってこいよ。これと一緒で、黒いヤツな。できれば下着と上下三つずつくらいは欲しいなぁ。あとこういう、フードついたヤツ」

 

 その後でにかっと笑って要求してやる。商人は俺を気味悪いモノを見るような目で見つつ、店の奥へと姿を消した。

 

 そして俺は、旅の支度を整える。

 

 黄ばんだ下着と血塗れになった上下の服には別れを告げ、新品の衣装に身を包んだ。

 

 黒い長ズボンに黒いTシャツ。加えて内側は暗い赤色の、フードがついたローブのようなモノだ。。脹脛の裏にまで丈が届いている。愛用の短剣はよりいいモノに買い替えて左腰へ括りつけた。ナルメアから貰った刀は背に負っている。革袋の中身を替えの衣類と飲食物、盗んだモノ達に変更してより大きなモノを買った。紐を右肩に担いで持ち、マフィアが提携しているため定期的に島を訪れる奴隷運搬船へと乗り込んだ。

 

「悪いが、俺の船出のためだ。乗っ取らせてもらうぜ」

 

 乗組員は半ば盗賊のようなヤツだから好戦的だったが、別の場所で捕えられた奴隷達を解放する代わりに船の操縦を手伝ってもらった。代わりのいなかった操舵士だけは乗っていたヤツの右耳を削いで言うことを聞かせる。

 

 そして俺は、晴れてと言うには少し血生臭いが、育った島を出ることに成功したのだった。


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