ナンダーク・ファンタジー   作:砂城

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原作と同タイトル第二弾。


ザ・補足説明(昨日忘れてたヤツ)。
グラブルをご存知の方はわかったと思いますが、前話で老婆がフェンリルを殴り飛ばした時のヤツは【レスラー】の被ダメカウンターです。
敵の攻撃を回避して反撃は今まで何回か出てきてますが、あれは被ダメージを受けた時に反撃、とちょっと違うヤツです。まぁ別に意味はありませんが。

なにが違うかと言われると……自分が痛いか痛くないか、ですかね。


小さな勇気

 一行はロキとフェンリルが去った後に聞こえた声に驚き、物陰に身を隠して近づいていく。

 

 いつの間にか老婆は姿を消していた。

 

「……え? 森に火を、ですか?」

 

 村に屯していたのは、やはりと言うか帝国兵だった。

 

「チッ……もういいよ、君。ねぇ誰かこいつ縛って森と一緒に燃やしてきてよ」

「はっ」

 

 上官が告げると隊長らしき他の兵士とが違い黒い鎧に身を包んだ兵士が進み出てその兵士を捕まえる。兵士が喚くのにも応えず縄で縛りつけていった。

 

「……帝国兵がなんでこんなところに」

「……しかもあれって」

 

 物陰から様子を見ていた一行は予期せぬ事態に困惑が隠せない。しかも兵士を率いているのは味方すらもあっさりと切り捨てる非道さを持つ、フュリアス少将だった。

 

「何人かついてきてくれ。村人が潜伏している可能性がある場所、森に火を放つ」

 

 隊長が指示を出して本格的に森を燃やしに行くというところで、グラン達は顔を見合わせて頷き合う。

 

「待て、フュリアス!」

 

 大声で燃やしに行く部隊も足を止めるようにしながら、一行は物陰から姿を現した。

 

「んん? 誰君達。僕を呼び捨てなんていい度胸じゃないか」

「は?」

 

 しかし彼の言葉に怪訝な顔をしてしまう。間違いなく、彼とは何度も顔を合わせている。因縁ある相手と言っていいかもしれない。ポート・ブリーズ、アウギュステ、アルビオン。幾度となく相対している。一行の記憶と照らし合わせても彼がフュリアスであるのは間違いないはずなのだが。

 

「ヤツらは指名手配犯で、機密の少女を奪い……」

 

 森に火を点けに行こうとしていた隊長がフュリアスの疑問に答えようとして、銃口を向けられる。唖然とする間もなく引き鉄を引かれた。

 

「うあっ……」

「あのさぁ、僕君に答えろって言った? 言ってないよねぇ。なんで僕の言う通りにできないのかなぁ。……もういいや。折角新しい力を手に入れたんだ。もう、僕の手で、全部、全部……ッ!」

 

 フュリアスは情緒不安定なまま懐から禍々しい光を放つ結晶を取り出す。魔晶だ。しかし以前の魔晶よりも光が増しているように見えた。

 

「い、いけません、将軍閣下!」

 

 撃たれた隊長は怪我を負いながらもフュリアスを引き止めようとするが、その声は届かない。フュリアスは自分の身体に魔晶を埋め込むようにして、変化する。

  右手に丸盾、左手に槍を携えた白い巨体となった。胸部からフュリアスの顔が見えており、その体長はハーヴィン特有の小柄さから三メートル近い巨躯へと変わっている。

 

「あはははっ! 力が湧き上がってくるよ! これはいい……実にいいねぇ! どいつもこいつも虫けらみたいに見えるよ!」

 

 フュリアスは上機嫌に高笑いした。

 

「魔晶か……! けど以前より力が増してねぇか?」

「これは特別製、最新の魔晶なんだよ! もちろん僕以外が使いこなせるわけないんだけどねぇ!」

 

 彼はそう言っているが、既に記憶障害と以前よりも感情の起伏が激しく情緒不安定になった状態では説得力がない。

 

「ねぇ、君達さぁ。前から僕のことチビだからって見下してたよねぇ。僕のこと策謀しかないヤツだって思ってたよねぇ……! 今の僕はどう? 大きくなって、強くなって、君達なんか蟻んこみたいに潰せちゃうんだよ? ねぇねぇねぇ……! 今どんな気持ち? どんな気持ちぃ!?」

 

 フュリアスは上機嫌に舌を回すが、その矛先がグラン一行ではなく周りの兵士達に向けられていることを危惧してか、隊長が怪我を押して進言する。

 

「し、将軍閣下。あまり興奮なされては魔晶の作用が……」

 

 興奮状態にあり力を持った彼に声をかけられる者など他にいなかった。

 

「はぁ? あのさぁ、君。今僕発言しろって言った? 言ってないよねぇ。なんで僕の許可なく喋ってんの?」

 

 フュリアスの巨体にある目が赤く光ったかと思うと、目から熱線が放たれて隊長を焼いた。頭の天辺から股座までを熱線で焼き切られ、鋼の鎧が融解する。隊長の後ろにいた兵士も真っ二つに裂けていた。

 

「ひ、ひぃっ……!」

「こ、こいつ! 味方を……!」

 

 兵士達が怯え一行が顔を青褪める中、

 

「ああもうッ! いいや、君達もいらない! 僕が、僕だけでやってやる! 僕の邪魔をするヤツは、僕がこの手で自ら殺してあげるよッ!!」

 

 怒りを露わにして叫ぶと、逃げ出せなかった兵士達を踏み潰し、串刺しにしながらグラン達へと向かってくる。

 

「っ! み、皆、構えて! 来るよ!」

 

 阿鼻叫喚の地獄絵図に一瞬思考が固まってしまうが、なんとかグランが指示を出したと同時に動き出す。

 

「はあぁ!」

 

 グランとジータがどの『ジョブ』で戦おうかと考える中、まずリーシャが風を纏って突撃した。渾身の一撃をフュリアスへと放つのだが。

 

「なにその蚊が刺したような攻撃。攻撃って言うのはさぁ、こういうのを言うんじゃないのかなぁ!」

 

 一切ダメージの通っていない様子のフュリアスは右手の槍でリーシャの身体を薙ぎ払う。呆気なく吹き飛ばされて地面を何度か跳ね止まった時には地面に倒れ伏したまま動かなくなる。

 

「リーシャ殿! ……私が治療に向かう、イオは回復に専念してくれ!」

「う、うん、わかった」

 

 カタリナが倒れたリーシャの回復に回り、イオは攻撃ではなく怪我した時の回復として待機する。

 その間にグランが【ウエポンマスター】、ジータが【ホーリーセイバー】となってそれぞれ武器を握った。

 

「抵抗してみなよ! できるものならさぁ!」

「ファランクス!」

 

 フュリアスの一撃をジータが障壁で受けようとするが、強固なはずの障壁はあっさり砕け散ってしまう。

 

「え――きゃぁ!」

 

 驚くジータを槍が突き刺し吹き飛ばす。頑丈な鎧に包まれていたからか身体を刺し貫くことはなかったが、吹き飛び転がって動かなくなってしまう。

 

「クソッ! とんでもねぇ強さじゃねぇか!」

「あはははっ! いいね、その表情! もっと僕を恐れて、平伏(ひれふ)してよ!」

 

 ラカムとオイゲンが気を逸らしつつグランを援護して、ようやく戦えるような状態にはなった。だがそれはグランがなんとか攻撃を避ける方に切り替えたからだ。ファランクスさえあっさり砕くほどの威力を受けられるモノは今のグラン達になかった。

 

「【マークスマン】、アローレイン!」

 

 イオの治療によって回復したジータは攻撃を受け切れないと見て弓を携える。そして矢を上空に放った。フュリアスの頭上まで飛んだ矢はそこで無数に分かれて降り注ぐ。本来なら当たった箇所から敵の筋力を下げる効力を持っているのだが、フュリアスには意味を成さなかった。

 

「もう、弱体まで無効なんて!」

 

 毒づくが手は止めない。たった一人で前衛を務めるグランの負担を軽減するためだ。

 

「アイシクル・ネイルッ!」

「サンライズ・ブレード!」

 

 青の巨大な剣と竜巻の斬撃がフュリアスを襲い、僅かながら後退させる。

 

「このっ!」

「皆さん! ここは一旦退きましょう! 態勢を立て直して策を練らないと!」

 

 カタリナに治療してもらったらしいリーシャはグラン達へと駆け寄りながらそう告げる。彼女の言う通り圧倒的な強さを持つフュリアスに敵う手が思いつかなかったグランとジータはすぐ撤退を決意した。

 

「わかった、ここは退こう!」

「祠のある場所……巫女の森の方に行ってみよう」

 

 二人の団長が決断したことで、一行は撤退するために動き始めた。ラカムとオイゲン、ドランクが遠距離からフュリアスの牽制をしつつ、グランとジータが先行して祠があるという巫女の森へと逃げ込む。

 

「逃がさないよ、一人残らず……!」

 

 上手く制御できていないのか、逃げる獲物を追いかける愉悦感に浸っているのか、それとも走れないのか。どちらにせよフュリアスはゆっくりと一行の後を追ってきたので、かなり距離を取って巫女の森へと入っていくことができた。

 

「っ! こ、ここ……なにか変な感じがします」

「……私も」

 

 森に入った途端ルリアとオルキスが不思議な気配を感じ取る。

 

「星晶獣とも違う……これは、私達を拒んでる……?」

「……ん。近づくな、って言ってるみたい」

 

 二人がなにか感じ取ったということは、この森にはなにかあるということである。

 

「祠はもうちょっと先だね。とりあえず進んでみようか」

 

 ジータの案内に連れられて、なにが待つかわからないため慎重に森を進んでいく。

 

「……うぅ」

「……」

 

 進むに連れてなにかを感じ取っている二人の顔が険しくなっていく。

 

「ルリア。辛いならここで私と待っているか?」

「……ううん、大丈夫」

「……私も、行く」

 

 カタリナが声をかけるが、二人もついてくる気はあるようだ。ここは本人の意志を尊重し、共に祠へと向かう。

 

「あった」

 

 先頭を歩くジータが祠を見つける。味気ない祠には小さな扉がついていた。人の手が入っている様子はなかったが、不思議とその祠の周囲だけ草木が避けているかのように開けている。

 

「……これが」

 

 ビィはふよふよと進み出て祠の前まで行く。

 

「これは憶測ですが、ロゼッタさんは星晶獣のコアに魔晶を埋め込むことでマリスになるとおっしゃっていました。そしてビィ君にはユグドラシルを救う力がある、と。それはつまり、魔晶をコアから切り離すことができる、ということではないでしょうか。もしそうできるなら、あのフュリアス将軍にも通用するかもしれません」

 

 リーシャが前置きしながらも推論を述べた。……今のところ、あのフュリアスを倒す策は浮かんでいない。純粋に倒せるだけの力を持っていないのだ。

 

「じゃあこの状況を打破できてルーマシーでも役に立つ、一石二鳥ってヤツだね~。トカゲ君、ばーんと景気良く開けちゃってよ」

 

 ドランクがいつもの軽い調子で言うが、祠の前にいるビィの表情は暗い。

 

「……オイラ、怖いんだ」

 

 そこでようやく、彼は己の思いを口にした。

 

「ここにオイラの力が眠ってるとして、ここにオイラの力を封印したのは親父さんなんだろ? 親父さんがどういう理由で封印したかはわかんねぇけど……そこには理由があるはずなんだ。だからオイラが勝手に解いちまって、オイラがオイラじゃなくなっちまうんじゃねぇか、って思ったら……」

「ビィ……」

「だってよぉ、オイラ親父さん達と出会うまでの記憶がねぇんだ。だから、力を封印するまでのオイラと今のオイラは別物で、ここを開けたらオイラ消えちまうんじゃないか、って怖くなるんだ」

 

 彼の独白を痛々しく見つめる者が多い中で、長い付き合いの二人が同時に俯く彼の頭を小突いた。

 

「「ビィのバーカ」」

 

 示し合わせる必要もなく、二人は声を揃えた。

 

「な、なんだよぅ……オイラだってすっごい悩んで……」

「ビィはビィで変わらないよ」

「力が戻ってきたくらいで絆が壊れるわけないよ。それともビィは、私達との関係がそんなことで壊れるような脆いモノだと思ってるの?」

「……それは」

「あ、でももしグランサイファーよりおっきくなっちゃったら困るよね。ビィだけ街に出られなくなっちゃう」

「そうだね。でもそうなったらビィに乗って空を旅できるから、それはそれで面白そうじゃない?」

「……グランとジータは、オイラがどんな化け物になってもいいのかよ」

「うん。僕達はビィがどんな姿になっても気にしないよ」

「今まで通りずっと一緒。そこは変わらないからね」

 

 二人は優しく微笑んで、考える必要もないとばかりに即答した。

 

「わ、私もビィさんがどんな姿になっても受け入れます!」

「私はそのままの方が……」

「カタリナ、空気読んで!」

「う、うむ……。まぁ少し惜しくはあるが、どんな姿になろうとビィ君が仲間だということに変わりはないよ」

「わかんねぇ先のことなんて考えるだけ無駄だ。やりたいようにやりゃいいんだよ」

「そうよ。もしかしたらもっとちっちゃいトカゲになるかもしれないじゃない」

「ははっ。そういうこった。安心して選びな」

 

 二人に続き今まで旅を共にしてきた仲間達までも背中を押してくれる。それでも決断することができないでいると、

 

「まぁでもビィがどうしても嫌だ、って言うならしょうがないよね。まずはこの局面をどう切り抜けるか、だけど」

「う~ん……。今持てる全戦力じゃキツいかなぁ。いざとなったらClassⅣか、少なくとも天星器ぐらいは使わないと」

「だよね。どっちも完全には使いこなせてないから、一か八かの賭けになっちゃうけど」

「でもこの場を切り抜ければビィにも考える時間ができるから、悪いことばっかりじゃないよね」

 

 二人は言い合って、全力のリーシャですら敵わなかったことからこのままでは勝てないと判断する。それでもビィのためになんとか活路を開こうと考えを巡らせた。それは仲間想いのとても優しい選択肢だったのだが、それを許さない者がここにいた。

 

「それじゃあ困るんだよね〜」

 

 軽い声が聞こえたかと思うとビィの喉元に剣が突きつけられる。

 

「っ!?」

「動くな。動いたらこいつを斬る。死ななければいいなら、加減する方法はいくらでもあるぞ」

 

 硬直するビィと、剣を抜いていたスツルム。

 

「ど、どういうつもりだ!」

「どういうつもりもなにもないよ。ねぇ、スツルム殿?」

「ああ。あたし達は元々、道中オルキスを守るため、そしてルーマシーで待つ雇い主とダナンを助けるためにお前達と行動を共にしているだけだ」

「そーゆーこと。僕達は君達ほどあのロゼッタさんを信用してるわけじゃないからさぁ。ぶっつけ本番でルーマシーに行きたくないんだよね〜。機会があればトカゲ君の力を試したいと思ってるわけ。で、今がその機会なわけでしょ? 今封印解かないでいつ解くって言うのさ」

 

 ドランクとスツルムは今は利害の一致から共に行動しているが、本来仲間ではない。そこに旅で培われた絆はなかった。

 

「感動的な場面を邪魔して悪いが、あたし達はこいつがどうなろうとどうでもいい。ただあの二人を助けられればな」

「……スツルム」

 

 スツルムの言葉にオルキスは制止できなくなってしまう。ビィがどうでもいいわけではないが、彼らの気持ちもわかるからだ。

 

「……だからってビィ君の気持ちを蔑ろにしていいわけではありません」

「恨むなら恨め。だがあたし達はあいつらを助けるためならなんでもする。悪いが引く気はない」

「僕達も色々調べてたからねぇ。どうしてもトカゲ君に力を取り戻してもらう必要があるんだよね。悠長に君の覚悟を待ってるわけにはいかないの。今にも死んじゃうかもしれないからね」

「……」

 

 二人の決意は固いようだ。ビィは俯きなにも答えなかった。

 

「その手を退けろ、下衆が! 貴様らを一時でも信じた私がバカだった!」

 

 カタリナが激昂して剣を抜き、他の戦闘態勢を取る。とはいえ二人も引かず武器を構えた。一触即発の状況で、仲間達を制したのはジータだった。

 

「……やめましょう、カタリナさん」

「ジータ! だが……!」

「二人がいくら強いとはいえ、私達全員でかかれば勝てるとは思います。けどそれじゃダメなんです。人数と力で二人を捩じ伏せるだけじゃ、意味がありません。これは、力だけで解決できる問題じゃないんですよ」

 

 ジータの冷静だが強い言葉に、カタリナは一旦剣を下ろした。

 

「冷静だね、随分。君の大切な存在じゃないの?」

「大切ですよ。でも二人の気持ちは理解できる気がします。ただビィは離してください。無理強いで封印を解いても、ビィが心で拒絶しちゃったら変な風に作用して良くない結果を起こす可能性もあるんじゃないですか? 望んで手に入れるか入れないか、この違いは大きいと思います」

「確かにねぇ。でもどっちにしても化け物になっちゃうんだったらそこの余地はないかな〜」

「……ビィは不安なんです。それがわからないドランクさんじゃないでしょう」

「もちろんトカゲ君が不安なのはわかってるよ? でも自分の感情だけで仲間を見捨てるのはどうかと思うなぁ。ルーマシーにはあの二人だけじゃなくて、ロゼッタさんもいるでしょ?」

「わざと追い込むような言い方しないでください。ビィもそれはわかってると思います。けど気持ちの整理をつける時間が必要だって言ってるんです」

「その時間に皆死んじゃってたら元も子もないと思うけどな~」

 

 ジータが言葉で説得しようと試みるが、ドランクも引く気はないようだ。かと言ってカタリナのように下衆と言い切れるほど怒れないのは、彼女が仲間を確実に助けたいという気持ちを持って行動を起こしているからだろう。

 

「……ま、でもちょっと遅かったかなぁ」

「……チッ。仕方ないか」

 

 ドランクとスツルムは言い合いに決着をつけたわけでもないのにビィから離れたのはなぜかという理由を、ばきばきと木々を薙ぎ払って接近していた者が答える。

 

「見ぃつけたぁ……! こんなところに隠れるなんてダメじゃないか。さっさと僕に殺されないとさぁ!」

 

 魔晶を使って変化したフュリアスである。既に目前まで迫っていた。

 

「ほらほら、ちんたらしてたからフュリアス将軍が来ちゃったよ~? どうする? ClassⅣ使って僕達も一緒に殺しちゃうの?」

「迷った結果が共倒れか。どっちも救われないな」

 

 二人にも余裕はないのか、普段よりも煽りが辛辣だ。

 

「こうなったら【ウォーロック】を使うしか……!」

 

 ジータがClassⅣへと至るための杖を手にする【ベルセルク】よりは性格がマシと思える『ジョブ』なので、使うならこちらだと思ったのだろう。

 

「……お、オイラ……」

「皆! なんとか退けよう! ジータ、悪いけどお願い! 僕も七星剣使うから!」

「わかった!」

 

 ビィが微かに声を上げることにも気づかず、グランとジータはビィの力なしでなんとかしようとそれぞれ危険を冒してフュリアスへ挑もうとする。

 グランの挙げた七星剣を含めた十種の途轍もない力を秘めた伝説の武器を、天星器と呼ぶ。天星器も英雄武器と同じように段階を経て強化していく必要のある強力無比な武器となっていた。特に奥義を放った時に味方へと齎す効果が大きいとされている。

 

「……オイラだって、オイラだってぇ……」

 

 グランとジータが準備をするまでの時間を稼ぐために、リーシャとカタリナがフュリアスへと襲いかかる。ラカムとオイゲンが援護しているが、分が悪い状態だった。

 

 そんな中、ビィは一人思い悩んでいた。脳裏に浮かぶのは、今までに言われてきた言葉だ。

 

『ビィ。てめえはいつもいつも戦えねぇ癖に偉そうにしやがってよぉ』

 

 グランではないグランにそう告げられた。もちろん彼が本当にそう思っていないことはわかっているつもりだが、それでも感情を抜きにしてグランの記憶からビィを見ると、役立たずなのだと客観的に思われる存在なのだ。

 

『ビィ。お前は戦えないんだからせめて激励してやれよ』

 

 わかったような口を利かれたこともある。

 

 いいや、誰に言われなくても自分が一番わかっているのだ。戦う力なんて、仲間を守る力なんて自分にはないと。

 自分はただ守られるだけの存在。ルリアですら星晶獣を従えることができるというのに、自分がただ戦う仲間達を見て、見ることしかできない。

 

 仲間達は優しいから、戦う力がなくても旅の仲間として迎えてくれる。心のどこかで自分を蔑んでるんだ、なんてネガティブすら起こらない。それでも堪らなく嫌だった。仲間達が苦しんでいるのになにもできず、ただ見ていることしかできない自分が。

 

 確かに自分が自分でなくなってしまうかもしれないというのは怖い。今までの思い出もなにもかもが消え去って別の自分になってしまうのが怖い。だがそんなことよりも怖いことがあると、ルーマシー群島の一件で知った。

 誰も彼もが倒れて、もう逃げることなんて一切できず全員殺されてしまうような圧倒的な差を見せつけられて、その様子をただ眺めていて、なにもできないまま仲間達を見殺しにしてしまうことへの恐怖が芽生えていた。

 

 だからどんな自分になろうとも――いや、それは考えないでおく。

 

 頭に思い描くのは、完全なハッピーエンド。

 皆で生き残って今ここにいる仲間達も、離れ離れになってしまっているロゼッタも、目的は一致しているオルキスやドランク、スツルムも。置いてきたダナンと黒騎士も。そして、自分も。

 皆が皆笑って勝利を祝うような、そんな結末を思い浮かべた瞬間に、ビィの心は決まった。

 

「オイラだってぇ……!」

 

 心に巣食う恐怖を打ち消し、祠の扉に手をかける。人は彼の心に灯った感情を、“勇気"と呼ぶ。

 

 次の瞬間ビィの身体が赤く光り、なぜかその姿に巨大な竜を幻視した。

 

「な、なんだよ! 今の……!」

 

 近くにいたフュリアスにも見えたのか、気圧されたように半歩後退する。仲間達も一斉に動きを止める渦中にいたビィは、

 

「……お、オイラ、オイラのままなのか……?」

 

 以前と変わらぬそのままの姿でそこにいた。

 

「え? し、失敗?」

 

 イオが戸惑いを口にするも、他ならぬ本人から否定される。

 

「確かにオイラの中に力がある。これなら……オイラだって、皆を守るんだ!」

 

 決意を口にしてビィが赤く光り周囲を明るく照らす。眩しさに目を瞑るフュリアスだったが、光が収まってもなにかが起こったわけではなさそうだった。

 

「? ……あはははっ! びっくりさせないでよ! なにも起こってないじゃないか! ほら、抵抗してみせてよ!」

 

 フュリアスはビィの放った光を怪訝には思っていたが、なにも変化がないことを見ると高笑いをして前にいたカタリナへと攻撃をする。

 

「ライトウォール」

 

 カタリナが障壁を出現させるがそんなモノで防げるわけが、なかったはずなのに。

 

「は? なんで、なんでッ! なんでそんなちんけなモノで僕の攻撃が防げてるんだよ!」

 

 間違いなくカタリナのライトウォールがフュリアスの一撃を防いでいた。一つのヒビも入っていない。

 

「……私が急激に強くなったということはない。つまり、貴様が大幅に弱体化したということだ」

「そんなバカな! 僕は……ッ!」

 

 フュリアスはまた半歩後退する。今までは紙切れにも等しかったモノが、壁として現れているのだ。そんな力の差で勝てる連中でないことを狂いかけた頭の片隅の、理性的な部分が訴えかけている。

 

「……ビィが勇気を見せてくれたんだから、僕達も頑張らないとね」

「うん。いくよ、グラン」

 

 グランは黄金の七星剣を持った【ウエポンマスター】。ジータは黄金の短剣、四天刃を持った【ハーミット】となっている。二人は天星器を初めて手にした時、力を制御し切れず暴走させてしまい仲間ごと大怪我を負ってしまった。それから天星器という武器に対しての恐怖が無意識の内に生まれていたのだが、それをビィの勇気ある行動によって払拭した。

 

「一緒に皆を守ろう、七星剣」

「絶対勝つよ、四天刃」

 

 途轍もない力を持った恐れる武器としてではなく、共に戦う相棒として認識すれば自然と天星器は応えてくれる。

 

「北斗大極閃ッ!」

「四天洛往斬!」

 

 二人の奥義が放たれる。

 七つの斬撃が突き刺さり印をつけた後に、その全てが線で結ばれ衝撃と化す。

 四つの斬撃が印をつけてから、印を頂点とした幾何学模様が描かれ模様が回転して敵を襲う。

 

「ぎゃあああぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 確実にダメージが通ったようで、フュリアスは悲鳴を上げて倒れる。

 

「オイラに任せろぉ!」

 

 ビィがすかさず再度光を放つと、ダメージを負ったフュリアスから魔晶が出てきて地面へ転がった。

 

「そ、そんな……魔晶が勝手に離れるなんて……!」

 

 フュリアスは呆然と転がった魔晶を見つめる。その視界に、何者かの足元が映った。

 

「ひっ……!」

 

 倒れたフュリアスへと倒した二人を始めとする面々が立っていたのだ。

 

「僕はこんなところで……おい! 助けろ! 僕を助けろよ!」

 

 フュリアスはそう喚くがこの期に及んで往生際が悪い、と一行は冷たく見下ろすばかりだった。ここはグラン達の出番じゃないなと思ったドランクとスツルムが歩み出て彼にトドメを刺そうとするが、

 

「おっと。彼は回収させてもらうよ」

 

 突如姿を現したロキが飄々と言ってフュリアスの首根っこを掴み上げる。

 

「こ、皇帝陛下……!」

「彼には他にも使い道があるんだ。じゃあね」

 

 ロキはそう言ってフュリアスを掴みつまらなさそうな顔をしたフェンリルと一緒に忽然と姿を消した。

 

「ま、待て……ってもういないか」

 

 呼び止める間もなく逃げられてしまう。そして大きな影が頭上を通ったかと思うと、帝国の戦艦が島から離れていくところだった。

 

「……とりあえず、一難去ったってとこかな」

「うん。ありがとね、ビィ。おかげで助かっちゃった」

「お、おう。これでオイラも守る側だぜ!」

「ふふっ、そうですね。ビィさんすっごく頼もしかったです!」

「さっきのを見ると魔晶の力を弱めて、本体を弱らせると魔晶を分離させられる、ってところでしょうか。これなら確かに魔晶をユグドラシルのコアから分離して救い出すことも可能かもしれません」

「けどそれには相応の実力が必要、ってことでもあるわね。今のあたし達で弱体化されるとはいえあのマリスに勝てるのかしら」

 

 憶測を述べる中でイオの懸念が一行に突き刺さる。

 

「……やっぱり、ClassⅣを使いこなせるようになるしかない、かな」

「決定打を求めるならそれしかないよね。天星器はあくまで武器の性能頼りになっちゃうから、私達自身が強くなるには、どっちにしてもClassⅣは必要だよ」

 

 今後の戦いのためにも。そうつけ加えるジータの顔には決意が宿っていた。団長の顔で仲間達を見渡す。

 

「ロゼッタさんを助けるのに逸早くルーマシーへ行きたい気持ちはある。でもビィの力だけじゃ足りないかもしれない。だからちょっとここで鍛え上げようと思うの」

 

 グランも異論はないようだ。続けてジータはドランクとスツルムの方へと向き直る。

 

「二人の逸る気持ちはわかります。でもここは力をつける時です。同じことを繰り返さないためにも」

 

 強い意志を込めて二人を見つめた。

 

「それに、ダナン君が言ってたじゃないですか。黒騎士のことは任せろ、って。私は能力的に彼なら大丈夫だと思ってますけど、私より長い付き合いの二人が彼を信じないなんてことはないですよね?」

 

 どこかジータは不敵に笑う。その言葉に二人は顔を見合わせた。ドランクがわかりやすく肩を竦めてみせる。

 

「そう言われたら説得されるしかないね。ダナンが死ぬなんて想像をつかないよ」

「雇い主もな。二人共、どう考えても諦めが悪い」

 

 無事喧嘩することなく言葉だけで傭兵二人を説得することができたようだ。

 

 とりあえず、話が落ち着いたところで一旦グランとジータの生家まで戻る。

 その扉の前に、フェンリルを殴り飛ばした老婆が立っていた。

 

「ご婦人は確かフェンリルを……」

 

 カタリナが記憶を辿ってそう口にすると、なぜ家の前で待ち構えていたのかと一行に緊張が走る。

 

「な、“なんでもお見通し婆ちゃん”じゃねぇか!」

 

 不安で周りが見えていなかったらしいビィが声を上げて驚いた。

 

「“なんでもお見通し”……?」

「そう。この人は小さいことではある家の食事メニューからなにまで、色んなことを見通しちゃう人なんだ」

「あんなに強いなんて知らなかったけどね」

 

 ザンクティンゼルに住んでいた三人の反応から、もしやここに戻ってくると見通して待ち構えていたのかと納得する。……家なのだから帰ってくるのは当然なのだが。

 

「やっぱりあたしの思った通り、帝国の人達はあんたらが追い払ってくれたんだねぇ。襲撃されることを見越して村人全員避難させておいて良かったよ」

「道理で誰もいないって喚いてたわけだ。婆ちゃんが先に逃してくれたんだね。ありがとう」

「ふぇっふぇっふぇ。礼なんていらないよ。あたしもここの住人だからねぇ。黙って見てるわけにもいかなかったんだ。でもあたしは直接戦うのはあんまり良くなくてね」

「?」

「まぁあたしの事情はいいんだよ。それより、随分強くなったじゃないか。そろそろ実が生る頃合いかねぇ。【ベルセルク】に【ウォーロック】。元々素質はあると思ってたけど、こんなに早くとは思わなかったよ」

「「「っ!?」」」

 

 老婆が口にした『ジョブ』の名前に一行が驚く。それはあり得ないことだった。ClassⅣは英雄武器を手にしないと解放されない。二人もアウギュステで武器を作るまでは存在すら知らなかった。つまりこの老婆は二人の父親からなにかを聞いている可能性が高いということだ。

 

「どうしてClassⅣの名前を……」

「ふぇふぇふぇ。それは内緒だよ。気が向いたらあたしの家においで。彼の英雄方の力、使いこなしたいんだろう?」

 

 老婆は理由を話さなかったが、確実になにか知っているようだった。二人は顔を見合わせて、互いの気持ちが同じであることを悟る。

 

「「よろしくお願いします!」」

 

 二人は深々と頭を下げて頼み込んだ。

 

「はいよ。じゃあ今日は疲れただろうし、帰ってきた挨拶もまだだろう? 明日以降、うちにおいで」

「「はいっ」」

 

 老婆はそう言うと背中を丸めた姿勢で帰っていく。

 

「やった! これでClassⅣに近づけるかも!」

「うん!」

 

 燥ぐ二人を他所にカタリナは眉を顰めていた。

 

「……しかしあの御仁、信用できるのか?」

「心配ねぇよ、姐さん! あの婆ちゃんは悩んでる時とかすぐ話を聞きに来てくれたり、すっげぇ優しいんだ! それになにもかも話すわけにはいかない事情だってあるだろうしよ。他に宛てもねぇしな」

 

 すっかり元気になったビィに押されて、カタリナも一旦様子を見るくらいならいいかと思ってしまう。こうして思わぬ協力者を得られた一行は三人が暮らした家に泊まり、疲労していたこともあって挨拶は後回しにして就寝するのだった。




「ねぇ今どんな気持ち?」がグラブル一が似合う男フュリアス(作者調べ)。

他者を蹴落として成り上がっているとはいえ彼は二十三歳にして少将の地位を獲得している割りと有望な人だったりします。
二十三と言えばカタリナの一個下ですからね。

帝国の出てきてる偉い人の中では最年少の気がします。それで満足しておけばいいものを……。

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