人形の少女編が終了するまではストック書き終えれたので、適当な番外編書きつつ、
ゲームの暁の空編を読み直して構成練ろうかなという段階です。
構成練ってる間に多少追いついていくと思いますが、できるだけ長く毎日更新を続けていきたいですね。
一行がザンクティンゼルの老婆に師事を受けてから一週間が経過した。
「ありがとうね、お婆ちゃん」
「おかげでClassⅣの取得ができたよ」
ようやくClassⅣの取得に漕ぎ着けた二人は、早速仲間の待つ地へと向かうべく老婆へ別れを告げていた。
「ふぇふぇふぇ。力になれて良かったよ。英雄武器を作って別のClassⅣが習得したくなったらまたおいで」
「あっ。そうだ、お婆ちゃんに一個だけお願いがあったんだった。グランは先行ってていいよ、すぐ戻るから」
「? わかった」
別れを簡潔に済ませたグランは立ち去り、まだ用があるらしいジータは老婆の前に残る。
「あのね、お婆ちゃん。もしここに私達以外の『ジョブ』の使い手が来たら、同じようにClassⅣを習得させてあげて欲しいんだ」
「二人以外の……まさか……」
ジータの言葉に老婆は目を見開く。
「……それはできない相談だね。ヤツの肉親がいるなら、それは放置しておいた方がいい。始末してしまってもいいくらいだよ。あたしには彼の英雄方を穢すようなことはできないね」
それは予想以上に冷たい言葉だった。
「彼を、ダナン君をその人と一緒しないで。確かにちょっと荒んでる部分もあるけど、ダナン君はお婆ちゃんや他の人が言うような人じゃない。ダナン君のことをなにも知らないのに、お父さんがどうだってだけで言わないで欲しいな。親と子だからって性格まで一緒とは限らない、なんてお婆ちゃんならわかるでしょ」
バラゴナといいこの老婆といい、ダナンの父親がどんな人物だったにせよ本人の人格を知らないのに決めつけるのはどうかと思う。それも父親がどんな人間なのかわかっていないからだと言われてしまえばそれだけだが。
「……まぁ、考えておくよ。でもあたしの目で伝授するかは決めるからね」
「うん、お願い。偏見さえ持たなかったら大丈夫だと思うから。ダナン君はちょっとわかりにくいけど、ちゃんと優しい人だよ。ここにいないのだって、私達を逃がすために殿を言い出してくれたからだし」
「……」
「じゃあ、お婆ちゃんまたね」
ジータは言いたいことを言い切ったからか手を振って仲間達の待つグランサイファーのある場所へと駆けていく。その背中を眺めつつ、
「……優しい、殿を務める。確かにヤツには絶対ないことだねぇ」
殿を務めるどころか殿が疲弊して生き残ったところへやってきてトドメを刺すような男だ。それが違うと言うのであれば、確かに一考の余地はあるだろう。
老婆へとダナンについて頼みごとをしたジータは駆け足でグランサイファーへと乗り込む。
「ジータも来たね。皆乗ってる? 忘れ物はない?」
グランが甲板にいる全員を見渡して乗り遅れた者がいないか確認する。
「よし、皆いるね。じゃあ行こう、途中途中で装備を整えつつ、ルーマシー群島へ!」
「うん! 全てを取り返しに!」
二人の団長にほぼ全員が「「「応!」」」と答え、グランサイファーは島を離れ空を飛ぶ。置いてきてしまった仲間を取り戻すために。
◇◆◇◆◇◆
経過日数は洞窟の壁に線を引いて数えていた。今日であれから二週間が経過したことになる。
なんだかもうアポロと二人きりの生活にも慣れてしまった。洞窟の前に木を組んだ扉なんかも作ってみたが、すっかり生活拠点と化している。
ただそれ以外にも変化はあった。
茨の檻を砲撃する戦艦の数が増え、遂に破ったらしい。戦艦の一隻が空いた穴に割り込んで無理矢理停泊していた。……昨日はまだ破れてはなかったから、今朝破ったのか。防音のために木の皮を繋ぎ合わせて入り口の方に貼ったりもしていたが。
「……帝国が上陸したのか」
目的はなんだ? 俺達の始末、は考えにくい。そんなことをするために戦艦大量投入するわけがない。となるとあれか。
「あの白い星晶獣が目的か?」
あのクソ宰相があいつを呼び出すことを目的としている場合、なんとしてでも回収したいところだろう。マリスはフリーシアが命令すればついていくだろうから、おそらくそれで合っているはずだ。
「……邪魔してやりてぇが、アポロが一緒じゃな」
兵士だけならなんとかできるかもしれないが、魔晶を持った連中が出てきているなら俺の手には負えない。そうなってくると俺にできることはアポロを守り抜くことくらいだ。とはいえここでじっとしていても事態が把握できない。
「仕方ねぇ。ちょっと様子見てくるか」
俺は言って立ち上がる。すると服の裾を引っ張られた。ここには他にアポロしかいないので、当然彼女が掴んでいることになるのだが。
「……」
多少今のように反応を示すようになったとはいえ、表情は全く変わらず喋ることもしない。オウム返しに俺の言葉を呟くことは多々あるようになったが、自分からなにかを言うことは依然としてなかった。
今もじっと俺を見上げてくるだけだ。だが言いたいことはなんとなくわかる。行かないで、というところだろう。
「大丈夫だ、すぐ戻ってくる」
そういう時は屈んで視線の高さを合わせ、頭を撫でてやりながら優しく掴む手を解くといい。そうすると大人しくしていてくれる。
「じゃあ行ってくる。ここで大人しく待ってるんだぞ」
俺はそうアポロに言い聞かせて洞窟を出る。【アサシン】になって息を潜めて帝国兵がいないか探りつつ移動していく。二週間もルーマシーで過ごせば大分地形にも詳しくなってくる。戦艦が停泊した場所がわかっていれば、どのルートで崩壊した建物のところへ行くかが大体わかる。というか建物は上の方にしかないため、登れる場所が限られてくるのだ。
「……お、いたいた、っと」
遠くからでもわかった。なにせあの星晶獣を運んでるんだからな。でかくてよーく目立つ。
「……兵士しかいねぇ、か?」
近づいて確認したが特別強そうなのはいなさそうだった。隊長らしき黒い鎧の兵士はいたが、俺一人でも余裕で勝てるだろう。腹いせにあの星晶獣を運ばせない、ってのも手なんだが。
と考えている内に厄介なヤツがやってきやがった。
「ま、まだこんなところにいたんですねェ! 撤退、速やかに撤退するのですよォ!!」
顎鬚の軍人、ポンメルン大尉だ。見たところなにかしらの負傷をした後みたいだな。必死になって走ってきたようで、汗を掻いている。余程慌てていたのか服のあちこちに枝や葉が引っかかっていた。
「ヤツらが来ましたねェ! 目的のそれを回収したらすぐにこの島から離脱しますよォ!」
やっと来やがったか、と俺は口端を吊り上げる。そうとわかればこんな場所で呑気にやってる意味はねぇ。疲弊しているとはいえポンメルンを俺一人で倒せるとは思わないからここはさっさとあいつらと合流するのが先か。危険を冒した結果アポロが行方不明になってオルキスを悲しませたんじゃ意味がない。
そうと決まればとっとと戻ってアポロを連れ出すしかねぇ。
ということで俺は来た道を引き返し拠点としている洞窟へと戻っていくのだった。
「おーい、アポロ? いるかぁ?」
俺は洞窟の扉が開けられた気配がないとわかりつつも、声をかけながら中へ入っていく。アポロは洞窟の奥からゆっくりと歩いてきていた。
「よし、ちゃんと留守番してたな」
俺はアポロの頭を撫でてから、奥に戻って必要な道具を手に取る。革袋に装備品やサバイバル中に作成したポーションなどを詰め込んでいく。
「出るぞ、アポロ。こんなとことはおさらばだ」
「……出る」
「ああ。お前が待ち望んでた人に会いに行くんだ」
「……」
そう言って彼女の手を引き洞窟を出ようとするが、動かなかった。
「アポロ?」
怪訝に思って尋ねると、アポロがじっと俺を見つめてくる。
「……嫌」
相も変わらず表情にも瞳にも感情が見て取れないが、はっきりと自分の意思を口にした。……そこまで心が残ってないと思って油断してたが、これはあれか? 今の生活がそれなりに気に入ったってことでいい、のか? だとしてもそれはいただけないな。
「……悪いな、アポロ」
俺はこの時に見せる最後の優しさとして、彼女を抱き締める。
「俺は今のお前があんまり好きじゃない。別にたまーに弱さを見せてくれるくらいならいいんだが、ずっとこのままでいいなんて思っちゃいない。俺はどうやら、強気で肩肘張ってるお前の方が好きみたいだ」
「……」
はっきりと自分の気持ちを声にして伝えてやる。
「だから、ここでの生活はもう終わりだ。俺が取り戻したいモノに、今のなんとなく生きてるだけのお前はいないんだよ」
彼女には酷なことかもしれないが、きっぱりと告げておく。俺は悪いが基本人に優しくはないので、今のままでいいかなんていう甘えは許さない。
「……ほら、行くぞ。どんなお前だってお前はお前だろうが、俺がいいなって思ったのは今のお前じゃない。なにがあっても目的を成し遂げるっていう強固な意志を持って生きてるお前だ。だから、停滞なんてさせてやらねぇよ」
俺は言いたいことを言い切って再度手を引っ張る。今度は抵抗しなかった。俺の発言についてどう思っているかはわからないが、拒まれたのだから多少傷ついてはいると思う。言ってしまえば、黒騎士が普段オルキスにしていることと同じなわけだからな。とは言っても違うのは今のオルキスは一から作られた人格で、今のアポロは記憶喪失ではないので元のアポロをちゃんと知っている、という点くらいか。つまり戻ったとしてもこれまでのことは覚えている、ということになる。それはちょっとばかし気まずいが互いに知らないフリをすることにはなるだろう。
一先ず、抵抗のなくなった彼女を引き連れて洞窟を出た。
「明るい、と思ったら檻がなくなってやがんな」
二週間もまともに日の光を浴びなかったせいか、久々の太陽は以前より眩しく感じられた。……これはつまり、あいつらがロゼッタを助け出した、ってことでいいんだよな? 星晶獣なんだったら多少無茶しようが死にはしないだろうから、急になくなるってことはそれでいいはず。帝国の戦艦は見当たらなかった。目的を達したからだろう。まぁこれで敵が一つに絞れるからやりやすくはなったか。
建物のあった場所へと足を向ける。ロゼッタと星晶獣のロゼッタは同じ存在であっても分身体みたいな感じで別々に存在できるようだったので、あいつらがロゼッタを救出したのは壊れた建物とは別の場所かもしれないが、おそらく最終目的地はあの場所だ。
マリスとやらがいる、あそこ。なんとかできる算段がついたから来たんだろうが、万全を期すために黒騎士も復活させておきたい。オルキスもそっちにいるだろうから、そこへ向かうで間違っていないはずだ。
そうして高台の方へ登っていると、不意に近くからがさっと茂みを掻き分ける音が聞こえてきた。警戒しそうになるが、そこから感じ取れる気配が見知ったモノだったためそのままそちらへ向かった。
「あれ~? こんなところで奇遇だね~」
「やっぱり生きていたか」
見覚えのある軽薄な笑顔と、ややほっとしたような無表情。たった二週間ではあるが、ちょっと懐かしい二人だった。
「おぉ、やっぱお前らだったか。擦れ違いにならなくて良かったぜ」
俺達の前に現れたのは見知った傭兵コンビ、スツルムとドランクだった。この二人が来てるってことは、あいつらが来てるってことで間違いない。
「ちょっと見ない間に随分と仲良くなったねぇ、って言える雰囲気じゃなさそう」
ドランクは軽口を叩こうとするが、俺に手を引かれているアポロが彼らの知っている状態でないとわかり少し眉を寄せた。まぁ虚ろな目で俯きがちに歩いていれば、そりゃそうなるよな。
「ああ。こうなった理由はフリーシアのせいだが、まぁ後で詳しく話す。それよりもオルキスはどこだ?」
ここにいるのは二人だけのようだ。できればマリスの遠くで二人きりの時間を作ってやりたいのだが。
「オルキスちゃんならグラン君達と一緒にいるよ」
「そうか……じゃあしょうがねぇ、案内してくれ。つってもあいつらのいるとこなんて決まってるか」
「ああ。ユグドラシル・マリスのところへ向かっている。その前にロゼッタを助け出しただろうが、それは檻がなくなったことで達成済みだとわかるな」
「そうだね~。じゃあ僕らも行こっか。ボスをなんとかするには、オルキスちゃんが必要ってことだもんね」
「ああ。……どうしても、オルキスじゃなきゃダメだ。俺じゃどうしようもねぇ」
実力や精神の問題じゃない。それでもなにもできないというのがわかるのは苦しいモノだ。
ともあれ、合流した俺達四人はルーマシーでの最終決戦、対ユグドラシル・マリスの戦闘が行われているであろう場所へと急ぐのだった。