「あはははっ! 君達に逃げ場なんてないんだよ!」
「そういうこった。オレ様とやり合いな」
魔晶の力で巨大化したフュリアス少将と、ドラフの男――身に纏う凄まじい闘気から考えても残るガンダルヴァ中将だと思われる。
帝国が誇る上官二人が、一行の前に立ち塞がっていた。……それを少し離れた物陰から見ている俺。
いやぁ、追いつくもんだな。まぁあいつらに邪魔されるわけにはいかないから、全戦力を足止めに投入するのは当然だろうが。
がんがん走っていた俺は、なんとかタワー前で足止めを食らっている連中に追いつくことができた。どうやら黒騎士と、合流したであろう二人はいないようだ。そういや鎧を確保したいとか言ってた気がする。おそらく二人と共に別行動しているのだろう。
……劣勢、でもねぇか。大勢いる帝国兵達は秩序の騎空団とザカ大公率いるバルツ公国軍らしき軍服の連中が相手にしている。十天衆と共に黒騎士捕縛に協力したモニカのヤツもいることだし、おそらく勝てる。
「……じゃあここは俺の出る幕じゃねぇなぁ」
いなくても勝つことが決まっている場所へ参戦しても無駄にしかならない。負けそうなところに助力しなけりゃならないからな。
「よし、頑張れグラン」
戦況を把握して問題ないと理解し、俺は仲間が一緒ならいけるぜぇ、みたいな盛り上がりを見せるあいつらとは関わらず一足先にタワーへと向かった。
「……【アサシン】」
潜入に適した『ジョブ』に変えてこっそり忍び寄り、裏口の見張りをしていた帝国兵の一人を昏倒させ、続けて麻痺針でもう一人も落とす。さっさと中に入っていった。……さてと。使えそうなモノは全て利用する。とりあえずできるだけ見つからずに上まで行きたいところなんだがな。
「……誰か地図持ってると有り難いんだけどな」
そんな都合のいいことはねぇか。仕方がない。適当に通気口などを駆使して潜入してやろう。……いや待てよ? リアクターってのはどんな大がかりな仕かけかはわからないが、とんでもない装置であることは間違いない。つまりそれを動かすには大量の燃料が必要ってことじゃないか? 最終的にフリーシアは倒さなくてはならない存在とはいえ、リアクターが動かなくなったら元も子もなくなるはずだ。うん、あいつが嫌がりそうなことだ。絶対やろう。
「リアクター自体は上階にありそうだが、動かすために必要なモノは下だといいな。とりあえず先に地下行ってみるか」
島という地形を考えても地下がそこまで大きいということは考えられない。タワーを建設する都合上、地下の空洞が大きすぎると安定しないからだ。どうせあの真っ直ぐ兄妹はタワーの上へ上へと向かうだろうから、俺が下を調べておくのは悪い選択肢じゃない。
ということで早速失礼させてもらった。当然地下にも兵士達はいるが、雑魚しかいなかったので俺の敵ではなかった。
「……燃料っつうか、研究施設か」
地下へ降りた俺を出迎えてくれたのは研究に勤しむ多くの学者達。もちろん既に昏倒させている。非戦闘員なので余裕だった。
地下にあった装置や資料を調べて回り、なんの研究をしていたか理解する。
「魔晶を作ってんのかよ」
正確には、魔晶を更に高性能にしようと研究しているようだ。魔晶自体がここで全て作られているのかはわからないが、ポンメルンやなんかが強大な力を手に入れ、星晶獣のコアに埋め込むことでマリスへと変化させ、リアクターに組み込まれて精神を擬似的な星の力へと変換し、粉末状にすることで魔物すら操ることができる魔晶。
様々な用途に応じて微妙な変化をつけているようだ。元となる素材やなんかが同じため、総じて魔晶と呼んでいるらしい。
貴重な資料なんだろうが、俺の頭じゃ半分も理解できないな。狡賢さはそれなりだと思うが、こういう純粋な頭脳を求められるとどうもな。
「……これが最新の魔晶か」
俺は研究員達が作り出した一つの魔晶を手に取る。禍々しい光を放つ結晶は今まで見てきた他のモノと違うようには見えないが。
「姿形を変えない代わりに、デメリットを削減した魔晶か」
ポンメルンのような化け物になる心配はないが、帝国の作った魔晶だ。その効力を信じて良いモノかとは思う。……まぁいいや。とりあえず貰っておこう。いざとなったら俺が使えばいいし。
ということで、俺は危険の少ないらしい魔晶を入手するのだった。異変に気づかれない内にさっさと地下から出て上へ向かおう。
俺は地上に戻りできるだけ見られないように階段を上がり通気口を駆使してどんどん上がっていく。……いや、そうだ。俺帝国兵に化ければいいんじゃね?
こそこそするより秩序の時みたく背丈の近いヤツから服奪って潜入すりゃいいんじゃねぇか?
「……そうだよ。帝国の作法なんかは黒騎士から学んでるし、そっちの方がこそこそしなくていい」
俺はそう考え、通気口の中で部屋の上を通るヤツを探し眼下の部屋に帝国兵が一人しかいないタイミングを探す。流石にあの時のように声までそっくりとはいかなかったが、背丈の似通ったヤツが一人でいるタイミングを発見し、通気口と繋がる金網を退けて音もなく飛び降り、背後から首を絞めて意識を奪った。恰好をパンツ一丁に変えてやる。そして装備一式を奪い革袋に入れてから、そいつの身体を縛って箱に入れ来た通気口へとよじ登り立ち去った。そして一階へと戻ってから人目のない内に着替える。俺の服は革袋に入れておいた。
「……ここからが俺の本領発揮、ってなぁ」
兜の奥でにやりと笑い、俺は革袋を担いでこれからの行動を組み立てる。平然と歩いていてはこの緊急時になにをしている、と怪しまれてしまう。なら丁度いいし、地下の施設が何者かに襲撃されたと慌てた様子で報告しに行こう。
「よし、やるか」
気合いを入れてがちゃがちゃとわざとらしく音を立てながら走り出す。まだ疲れていないが感情の乱れを表現するために呼吸を荒くする。……できればこのままフリーシアを暗殺しに行きたいが。そう簡単にはいかないかもしれないな。まぁその辺は気にしないでおこう。どうしても行き当たりばったりになるからな。俺が慌てているのを見てか横を通っても敬礼するヤツはいても引き止めるヤツはいなかった。おかげで楽に四階まで上がることができた。
「止まれ! この先は上官のみが立ち入りを許されている!」
しかし五階へと続く階段の前には槍を携えた兵士が二人見張りをしている。……チッ。
「き、緊急事態につきフリーシア宰相閣下のご判断を仰ぎたく存じます! 地下の魔晶研究施設が何者かに襲撃、いくつか魔晶を強奪されました!」
俺はびしっと敬礼して大きな声ではきはきと報告する。
「なにっ!? それは本当か!?」
「はい! この目で見ましたので間違いなく! 魔晶は宰相閣下としても重要なアイテムとなるはずですので、研究員も全員昏倒させられており、如何したものかと思いまして……」
尤もらしい理由をつけてみた。
「……機密の少女を連れたヤツらの仕業ではないのか?」
「いえ、それはないかと。タワーの外でフュリアス少将及びガンダルヴァ中将率いる我が軍と交戦中の出来事でしたので」
「そうか。なら仕方あるまい。フリーシア宰相閣下は執務室におられるはずだ」
「はっ!」
俺は姿勢良く答えて五階へと駆け上がる。……いやぁ、チョロいチョロい。有り難くフリーシアの下へ行かせてもらいますわ。
兜の中でほくそ笑みながら、五階にある部屋の内執務室を書かれたプレートのある部屋の前へと辿り着く。残念ながら厳重なことにまた見張りが二人もいやがった。
「緊急事態につきフリーシア宰相閣下へお取次ぎ願います!」
敬礼し中に聞こえる声で告げる。
「ここでなんの用か言え」
「はっ! 地下にある魔晶の研究施設が襲撃され、魔晶がいくつか強奪された可能性があります! 機密の少女を連れた者共とは別のようで、判断を仰ぎたく思います!」
俺が一息に報告すると、中から「入れなさい」という声が聞こえてきた。なんだ、あっさりだな。
部屋の主の許可が出たのであっさりと兵士達は退いた。従順で結構。
「失礼致します!」
俺は先に言ってから扉を開け中へと入る。奥の執務机には以前見た通りの、銀髪に眼鏡をかけたエルーンの女性が座っていた。
「……随分と久し振りですね。しかもそんな恰好までして……流石は秩序の騎空団に潜入して黒騎士を助けただけのことはある、ということでしょうか」
彼女は扉が閉まったところで酷薄な笑みを浮かべてそう告げてきた。……なんだよ、もうバレちまったのか。
「……チッ。流石にてめえは騙せねぇか」
俺は舌打ちして兜を取り素顔を晒す。
「忌々しいことにあなたの声を聞いてわかったわけではありませんがね。今しがた通信が入ったんですよ、地下の魔晶研究施設が襲撃されている、とね」
「なるほど。もたもたしてたせいで見つかっちまったってわけか。んで? なんで俺を入れた?」
正体を察したなら、俺を入れる理由はないはずだ。その場で殺してしまえと命令しちまえばそれで良かった。
「私はあなたを甘く見てはいません。外の兵士に命令したところで、あなたは強行突破できるでしょう」
「無駄に命を減らさせないってか? あんたの目的から考えりゃ別にたった二人減ったところで変わりはしねぇだろ。帝都の住人以外に攻め込んできてるヤツらもいる。何人か殺されようが計画に変更はねぇはずだ」
「ええ。私が普段兵士へ命令し襲わせるのは、時間稼ぎや私自身に戦闘力がなかったことが理由です」
「つまり今回はその必要がねぇと?」
「ええ、その通り。ーータイミング良く完成していて良かった」
意味深な笑みを浮かべたフリーシアが懐に手を入れた瞬間に、俺は腰の銃を抜いて眉間目がけて引き鉄を引いた。だが間に合わなかったようで、銃弾が弾かれる。
「チッ……! 遂にはてめえ自身もかよ!」
ヤツの手にあったのは魔晶だった。既に身体に変化が起き始めている。
「さぁ、折角ですから試用といきましょう! あなたは私の計画を潰してくれた一人! あの時は仕留め切れませんでしたが、ここで確実に、私の手で殺してあげましょう!」
フリーシアの姿形が変わる。ポンメルンやフュリアスは巨大な騎士という姿に見えたが、こいつのは違う。おそらくそれらのデータを集めた上で改良した魔晶なのだろう。簡単に言えば造形は黒い蜘蛛だった。蜘蛛の頭にフリーシアの上体が埋まっている。
「……いいぜ、やってやる。俺もてめえを仕留めておきたいんでな」
俺は革袋から浄瑠璃を取り出す。紛れもない敵に対して試したいことが二つある。
「【義賊】。んで、こいつだ」
会得した『ジョブ』を発動し研究施設で手に入れた魔晶を使用する。ClassⅣで跳ね上がったチカラが更に増大していった。力が湧き上がってきつつも身体にあまり負担がない。姿こそ変わらなかったが、今までにない力を発揮しているのがわかる。
「仇敵の道具を使うのは些か滅入るが、正義を成すために仕方なし。いざ尋常に、勝負!」
「その珍妙な姿を、今度こそ消し去ってあげましょう!」
口調はどうしても変わってしまうが、ダナンという意識ははっきりしている。婆さんとの模擬戦以外では初めて使うが、問題なさそうだ。
こうして俺とフリーシアの戦いが幕を開けた。
「まず一発!」
俺は浄瑠璃の引き鉄を引いてヤツを狙うが、前足に当たるとかきんという音がして銃弾が弾かれる。……チッ。足の部分は堅いな。狙うならフリーシアの身体か蜘蛛の目、または腹の部分ってことになるか。
「無駄な足掻きはやめることですね!」
フリーシアが俺に向かって前足の鉤爪を振るう。斜め上から振り下ろしてきたのを回避すると、
「ひぎゃぁ!」
後ろから悲鳴が聞こえてきた。ちらりと振り返ると壁が裂かれ鮮血が噴いているところだった。そういや見張りがいたんだったな。
「折角助けた命を自ら奪うとは、なんたる外道」
「威力偵察になったのだから本望でしょう」
部下に慈愛もなにもない女だ。
魔晶で変化したフリーシアは前足を鎌のように振るい、蜘蛛の八つある目から赤い熱線を放ち後ろの足で進みながら俺を殺そうと襲いかかってくる。
だがClassⅣの上に得体の知れない魔晶まで使ったんだ。この程度で倒されるわけもない。……だが。
「弾が通らないとどうしようもなきことではある、か」
「ふふふ……! どうしました? 避けるだけでは私を殺すことなどできませんよ!?」
「わかっていることをそう嬉しそうに叫ぶ必要もあるまいて」
しかしヤツの言う通り、ただの銃弾では歯が立たない。とはいえ【ウェポンマスター】でこいつに対抗できるとは思えない。【義賊】でできることでやっていくしかないが。
……【義賊】固有の技と言えば、敵が隙を見せた時に攻撃の威力を大幅に増加させるブレイクアサシン。敵の強化効果を解除した上で自分を強化するフォーススナッチ。煙幕で敵の攻撃と弱体効果を無効化するホワイトスモーク。魔物などが相手の場合はいいアイテムが落ちやすくなるらしいトレジャーハント。そしてルピをぶん投げ消費したルピに応じてダメージを与えるルピフリップ。
――うん、戦闘職じゃねぇんじゃねぇかな、【義賊】って。
というか【ベルセルク】や【ウォーロック】と比べて明らかに戦闘が本業ではない。文献によれば“義賊”とは闇の権力者から高価なモノを奪って金に換え、貧しい者達に配って大勢を救ったとされる英雄だ。盗みとか逃げるとかそういうことに特化したヤツだったんじゃねぇかなぁ。俺に相応しくはあるが、二人ほどの力が出せていないような気がした。
はてさて。とはいえブレイクアサシンは強力無比な一撃を放つことができる技ではある。完全に火力が出ないわけではないのだが。
……つまりなんとかこいつに隙を作らなきゃいけねぇってわけか。それが難しいんだけどな。
無理とは言わないが、姿形が異なる新しい魔晶の力がわからない以上厳しい可能性はある。
とはいえ今のままなら敵の攻撃を避け続けることに苦はないのだが。どうやら相手は初めての変化なので使いこなせていない可能性がある。となると時間をかければかけるほど使いこなせるようになってしまうだろう。
ということは戦い慣れていないこいつの隙を作るような手を使えばいいわけだ。
なら早々に手を打つとしようか。
「ホワイトスモーク」
煙玉を地面に投げつけるとそこから白い煙幕が噴き出し、部屋全体を覆っていく。戦闘経験のないフリーシアなら、視界に頼って戦う他ないだろう。そして俺の姿に気づかない状態なら、充分な隙と言える。
煙幕で俺の姿を見失ったのかフリーシアの動きが止まった。その隙にフリーシアの身体が埋まっている蜘蛛の頭を攻撃しようと、正面から逃れつつ狙いを定める。おそらく煙幕の中に俺の影がいくつも浮かび上がって見えているはずだ。しかも俺自身がいる場所には影が出ないようになっている。つまり気づかず見当違いの方向に攻撃を仕かけてしまうだろう。俺はブレイクアサシンを小さく唱えて攻撃を大幅に上げる。
「っ!」
いざ奥義、というところでフリーシアが動き俺目がけて前足を振るってきた。避け損なってダメージを浅く切り裂かれる。続けて前足が振るわれると、煙幕が切り裂かれて消えていってしまう。……クソッ、どうなってやがんだよ!
悪態を吐きつつ奥義は放とうと銃をフリーシアへ向ける。しかし一足早くフリーシアが蜘蛛の尻をこちらに向けていて、生物の蜘蛛と同じように白い糸を放ってきた。糸が網と化して俺を襲う。思っていたより速く広範囲だったために絡め取られてしまった。……クソ、身動きが取りづれぇ。
「光彩奪目ッ!」
だがそれでもなんとか狙いをつけて奥義を発動するのだが。引き鉄を引いたにも関わらずなにも出てこなかった。……は?
「おや、どうかしましたか? 攻撃しないなら、こちらからいきましょうか!」
フリーシアの嫌らしい笑みに苛立つが、どうにもできず深く前足に切り裂かれ吹き飛ばされる。壊れかけの扉を突き抜けて後退させられた。……あの糸、行動を阻害するだけじゃなくて奥義を封印する効果もあんのかよ。クソ、油断した。戦闘経験ない癖によく考えていやがる。煙幕の中でなら弱体を無効できるから問題なかったが、先に破られたんじゃ元も子もない。
「……やりおる。敵ながらな」
「随分と潔いですね。なにを企んでいるのですか?」
「さぁて。こうも追い詰められてしまっては余裕を見せる余裕もないというだけのこと」
とはいえこのまま負けるのも癪だ。一泡吹かせてから行くとしようか。
「そう言われると尚更怪しいですね……。あなたのことはよく知りませんが、諦めることとは無縁だと思っていますよ」
「そうかそうか。なるほどよぉーくわかっているというわけだ。ならしばし付き合ってもらおうか。手傷の一つでも与えんと負けたのでは、顔向けできんからな」
俺は言って、後先考えて余力を残そうとするのをやめる。ClassⅣになって得た身体能力を使い全力で正面から駆ける。相手が俺を小細工重視のヤツだと思ってるなら、有効な手だ。案の定思っていた行動と違ったのか困惑した気配を感じる。
俺は駆けた勢いをそのままに跳び上がり、思いっきり蜘蛛の頭を蹴飛ばした。
「っ……!?」
銃弾よりも威力が高いのはどんな皮肉か。フリーシアの巨体が大きく後退する。
「我をただの盗っ人と思うなよ。こう見えても肉弾戦もいける性質でな」
「……いいでしょう、どう足掻いても勝てないということを思い知らせてあげます!」
フリーシアも近接をする気で襲いかかってくる。最初からこうすれば良かった。銃でフリーシアの身体を狙い、蜘蛛の身体に対しては蹴っ飛ばす。あれこれ考える必要なんてなかったんだ。ClassⅣと魔晶。この二つによって俺の身体能力は格段に上がっている。おそらく攻撃力という点で最も強い【ベルセルク】とも互角に殴り合えるくらいだ。
戦い方を変えると思いの外余裕が出てくる。銃弾を避ける動作の無駄が多いおかげだろう。むしろ戦闘初体験で俺に攻撃を浴びせたことが凄いのだ。攻撃しながら足を動かすことなど、到底できもしない。これまで戦いに縁がなければ、どちらかに集中してしまうだろう。
俺はただその隙を突いているに過ぎない。
「光彩、奪目ッ!」
俺は真正面から奥義を叩き込んだ。
いくつもの銃弾がフリーシアを襲う。これなら多少ダメージはあったかと思っていたのだが、フリーシアは左の前足で自分の身体を守りつつ被弾しながら突っ込んできた。……マジかよ。
奥義直後を狙われた俺は身体が動かずフリーシアの一撃を受けてしまう。
「ぐっ……!」
防御することもできず吹っ飛び、向かいの壁を貫いて宙に投げ出される。……ヤベぇ。ここ五階じゃなかったか? 落ちたら流石に死ぬぞ。
「クソッ……やはり戦闘が本業、ではなかったか……」
まるで俺がシスにやったような状態じゃねぇか。もっとマシに戦えたはずなのに。
……これじゃあ暗躍もクソもねぇな。
【義賊】を解除し身を捻って人のいるところに落ちないよう、【ナイト】のファランクスを使って勢いを殺しつつ移動する。それでも強かに身体を打ったがなんとか命はあった。
「……痛ってぇ……」
身体を斬られ吹き飛ばされ落下する。なんて体たらくだ。近くに転がった魔晶を回収し【ビショップ】で回復させ物陰に隠れた。どうやら性能を落とす、という部分に再生能力も含まれているらしい。
「……怪我が治っても疲弊しちまったから、ちょっと休ませてもらうか」
俺がいなくても、多分あいつらならやれる。とはいえなにもせずにいるというのは気に入らないので手助けがしたい。
もうあいつらはタワーに乗り込んでいるかもしれない。それは構わないが、上で戦っていたのを知られてしまうと自分達以外の誰が? となってしまうかもしれない。できればバレずにこのまま行動していたいのだが。まぁあいつらがタワー登っていくなら決着も近づいているってことだ。焦らずきちんと休んで、いざという時フォローできるようにしておかないとな。
そして俺は帝都アガスティアに聞こえる遠くの喧騒を聞きながら、少しの間だけ意識を落とすのだった。