ナンダーク・ファンタジー   作:砂城

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ようやく本番開始ってところです。


暗躍していそうな四人

 俺は奴隷運搬船を使って別の大きな島に辿り着いた。

 

 船に積んであった食料やなんかを元奴隷達で山分けしてもらい、当面生きるだけの備蓄は用意してやった。船が着いた港は隠された裏にあった。まぁ奴隷売買なんて表の港から入れるわけもねぇよな。

 ついでに奴隷商の本拠地だと思われる場所を襲撃、自我がはっきりとしている奴隷達を解放して回った。……最初船に囚われてたヤツらからしてみれば、俺が奴隷解放運動をしてるヤツにでも見えてるらしい。これは俺が悪いな。マフィアのアジト襲ったついでに奴隷解放して、船手に入れるついでに奴隷解放して、島での安全を確保するために奴隷解放してるわけだし。きちんと面倒は見ねぇから自分で生きろよとだけは告げておく。一部最近奴隷になったばかりの感情が豊かなヤツなんかが泣きながら感謝してきたが、俺は別にこいつらを解放しようとして回っているわけじゃない。

 

 ……あんま目立つと目をつけられるから嫌なんだが。

 

 ただまぁ、なんと言うか。見過ごしたら見過ごしたで胸糞悪い。やりたいようにやった結果なら受け入れるしかねぇ。

 

 ただ基本は隠密行動だ。もう遅いとか言わない。

 

 俺は人の多い街へと場所を移した。奴隷達は体力がないのでついてこようとしたヤツらは置いていく。

 街に入る時に身分を確認された。それだけでここの治安がいいと察する。あそこは出入り自由、ただしマフィアの気分次第だったからな。きちんと鎧を身に着けた兵士が入り口を見張っていた。俺は黒一色という怪しげな恰好だったが、気さくに「ここは治安良さそうだな、あんたら日々頑張ってるおかげかぁ」と言っておいたらちょっと態度が柔らかくなった。チョロい。

 

 奴隷運搬船の操舵士が言うには、この島はエルステ帝国の首都アガスティアから程近い。エルステ帝国の兵士がうようよいるせいで物々しく感じられるが、街の活気は悪くない。帝国はきな臭いかもしれないと聞いた気がするが、そうは思えないな。まぁ帝都まで行けばなにかわかるのかもしれないが、とりあえず俺には関係のないことだと思う。

 

 さて。

 俺がこの街に来てやりたいことはいくつかある。

 

 まず情報収集。世界の情勢やなんかの最新情報と、本来の目的である変な能力を持ったヤツがいないかという情報。

 あと装備も整えたいな。がっつり揃えるんだったらバルツ公国に行った方がいいとは思うが、胸当てが欲しいだけならこの街でも手に入るだろう。ということで早速盗品を換金して胸当てを購入した。ちゃんと黒に染めてもらう。

 そして協力者探し。これが一番の難関だ。俺には伝手もなければそこそこの金しかない。雇うにも頼るにも不安要素しかないだろう。あと我が儘を言えば、俺より強い人がいい。ナルメアの時みたく俺に異なる武器の修行をつけて欲しいからな。とはいえその条件に当て嵌まる連中に協力を頼むには、俺も素性の知れない怪しいヤツから抜け出しある程度の地位を獲得しといた方がいいか?

 

 ついでにこの街での信頼も得ておきたい。その方が動きやすくなるだろうからな。

 

 仕方ねぇか。やるだけやってみるとしよう。

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

 あれから一ヶ月が経過した。

 

 俺はこの街における拠点として、廃工場を選択した。誰も近寄らないので家賃はタダだし、ちょっと手間はかかったが居住空間として改造もしてある。廃工場と言っても機械の類いは全て撤去してあるので、入り口から入るとだだっ広い。奥の一階と二階に部屋があり、一階を工房、二階を居住スペースとして使っている。二階へは左手奥の梯子から上った通路を行くと入れる。一応床に穴を開けて梯子を通し一階と二階は繋いであるが。

 金については方々で依頼(雑用やなんかの)をこなし報酬として貰っていた。まぁそうでなくともまだ換金していないくらいには余裕があるので、問題ない。本来騎空士とやらがやるような仕事を、手が足りないのをいいことに請け負うことにしていた。まぁそれなりに顔が利くようになれば、「丁度いいところに。これちょっと手伝ってくれない?」という風になるので島々を旅する騎空士より信頼されやすいというのもあった。

 俺は汚い仕事も請けられるが、いいヤツを装おうと思えば装えるのだ。

 

 そして。

 

「よぉ。情報を買いに来たぜ」

 

 この街に来て最も世話になっているのが、情報を金で売ってくれる商人だった。

 

「はい~。今日はどんな情報をお求めですか~?」

 

 やけに間延びした口調で話すハーヴィンの女性だ。若く見えるのに、割りと深い情報まで把握している凄い人である。黄緑色の羽毛を持つオウムを連れているのが特徴だ。

 

「この街で有名なヤツを見かけたことはあるか?」

「? どういう意図ですか~?」

「なんて言うか、あれだ。強くて暗躍してそうな感じのヤツだよ。見た目がわかりやすいといいな、俺が見つけやすいし」

「いるにはいますけど~、なんでそんな情報を~?」

 

 いるのかよ。我ながら無茶な条件だと思っていたのだが。

 

「協力を取りつける。まぁその辺はこっちでやるから、そいつの情報をくれるだけでいい。信用できるかも俺が決めるから、最低限どんなヤツなのかの情報さえあれば充分だ」

「……怒らせたら命を落とすかもしれませんよ~」

「できれば怒らせる条件ってのも聞いておきたいなぁ」

「怒らせないために、ですよね~」

「ははは、もちろんもちろん」

 

 怒らせた方が隙が出来やすいからだけど。

 俺が嘘を言っていると察したのか、商人は深くため息を吐いていた。

 

「わかりました~。言っておきますけど、私が関与したことは言わないでくださいね~」

「その辺は心得てる」

 

 そこは信頼してくれていい。マフィアに殺されかけても言わなかったくらいだからな。

 

「……。この街にいる、ダナンさんの条件に合う人達を一組だけ知っています~。四人組で、黒い甲冑の騎士に、ぬいぐるみを抱いた少女に、へらへらした青髪のエルーンの男性に、表情の変わらない赤髪のドラフの女性という組み合わせですね~」

 

 うわ、なんか凄い暗躍してそう感ある面子だな。

 

「エルーンとドラフの二人は~、一部では有名な傭兵ですね~。魔法と剣、それぞれにおいてかなりの実力をお持ちみたいですよ~」

 

 魔法と剣か。剣は触れているが、魔法に関しては全く触れていない。俺が欲しい部分の一つだな。

 

「少女の方はわかりませんが黒い騎士は一目見れば誰かわかりますよ〜。なんと、エルステ帝国最高顧問を務める七曜の騎士が一人、黒騎士なんですよ〜」

 

 ……マジかよ。

 俺は絶句していた。黒騎士とやらが持つ肩書きの二つは大きすぎるモノだ。

 今やエルステ帝国と言えば数ある国の中でも最大勢力を誇っているが、元々は辺境の小国だったらしい。それをこのファータ・グランデ空域を支配する軍事国家へと押し上げたのは、最高顧問の存在あってとのことだそうだ。まぁ皇帝やら宰相やら、色んなヤツらが動いての結果ではあるだろう。だがそこで多大な貢献をしたことは間違いなかった。

 

 しかし問題のは後者、七曜の騎士だということだ。

 

 七曜の騎士とは空域一つを支配できるような化け物のことを言う。強さは常識で測れるモノではないらしい。七曜とつく通り七人いるようだが、七人で、という話ではない。一人で空域一つを支配できる化け物だそうだ。

 七曜の騎士は空域を分断する瘴流域と呼ばれる地帯を一人で抜けることができるらしい。瘴流域の中は飛行困難で嵐が常に吹き荒れており、その周囲には強い魔物が多くいるそうだ。その中を一人で、ってことは瘴流域でもぶった斬って進むんだろうか。どちらにしても、俺からしてみれば途轍もなく強いということしかわからない。ナルメアよりも強いんだろうな、くらいのもんか。

 

「そんなヤツがなんだってこんな街に来てんだ? 最高顧問ってんなら帝都アガスティアの方にいるだろ」

「黒騎士さん達はよく来ているみたいですよ~。帝都だと特別扱いされすぎて、肩が凝るんじゃないですか~?」

「そんなもんか。で、それぞれの弱点とかあるか?」

「七曜の騎士に弱点なんてほとんどないですね~」

「そりゃあな」

「でも一つだけ、耳寄りな情報がありますよ~。今なら二割引きにしましょうか~?」

「いいから話せ。どっちにしろ買うんだからな」

「わかりました~。実は黒騎士さん、傍にいる少女に手を出すと凄く怒るらしいですよ~」

「……弱点か、それ」

「はい~。黒騎士さんにはない弱点を少女が補っているんです~」

「……悪どいな、商人ってのは」

「人聞きの悪いこと言わないでくださいよ~。もちろん、手を出したら殺されますから命が惜しくないとできないですよね~」

「ふぅん。……ってことは黒騎士からその少女を奪えば誘導も可能か。戦えるヤツなら武器奪うだけでもいいかと思ったが、確実にいけるならそっちの方がいいよな」

「……あの~、なにか物騒なことを呟いているようですが~」

 

 これはいけるかもしれないな。罠もいくつか買い込んで有利な場所にヤツらを誘き出す。そこまで持っていくためには必要かもしれないな。

 

「……いやぁ、いい情報を聞いたぜ」

 

 俺はにやりと笑う。

 

「とんでもない人に教えてしまったような気がしますね~。勝算はあるんですか~?」

「あるわけないだろ、相手は七曜の騎士だ。だが、ちょっと驚かせることくらいはできるだろうな。殺されたら殺されたで仕方ねぇが、まぁなんとかするさ」

「悪巧みが似合いますね~。でも本当に気をつけてくださいね~」

 

 楽しくなってきた俺を見て、商人は少し真剣な表情をした。珍しいなと思って笑みを引っ込める。

 

「七曜の騎士は、執拗《しちよう》に追いかけてきますから~。うぷぷ~」

 

 言ってから、両手で口元を覆い自分で笑っていた。……こういうとこが玉に瑕なんだよなぁ。腕はいいだろうに。

 

「そうか。じゃあこれ情報料な。足りるか?」

 

 こういうのはスルーするのが正しい。さっさとルピを渡す。

 

「はい~。毎度あり~」

「あと罠いくつか欲しいな。どういうのが売ってる?」

「罠ですか~。それでしたらこういうのがありますよ~」

 

 その後は俺が行動に出る時使えそうな商品がないかを探っていく。流石と言うべきか、充実のラインナップだった。

 

「お買い上げありがとうございました~」

「ああ。いつもありがとな、シェロカルテ」

「いえいえ~。またお越しください~」

 

 いくつか稀少な品も手に入った。有用な情報も手に入った。……次は実際に四人組の姿を見ておくか。

 ということで、シェロカルテから聞いたよく四人が集まる酒場に入る。少女がいるのに酒場で集まっているのか。

 

「……」

 

 酒場に入ったらすぐにわかった。

 なにせまだ昼間なのに飲んだくれた野郎共がいる酒場で、全身黒甲冑の騎士が座っているのだから当然だ。しかもその傍らには幼い少女がいる。

 

 四人席を囲う彼らの近くにあった二人席に一人で座る。飲んだくれは多いが全体的には空いているので、すぐにウェイトレスが来た。

 

「あ、ダナンさん。この間はお店手伝ってくれてありがとうございました」

 

 顔見知りだったので、来てすぐにぺこりと頭を下げてくれる。

 

「いいって。また人手が足りなくて、俺が空いてる時には顔出すから。とりあえず飯先で、チャーハンと餃子とジャンジャーエールで」

「はい、またお願いしますね。すぐにお持ちします」

 

 とまぁ、こんな風に俺は各所に顔を出すようにしていた。この店が忙しい時に手伝おうかと声をかけて何度か働いたことがあるのだ。この一ヶ月で家事スキルを鍛え上げてきたので、大抵のアルバイトはできると思う。客との応対やなんかもやるだけなら問題ない。敬語も多少学んでいることだしな。

 料理と飲み物が来るまでの間に、四人の会話に聞き耳を立てる。

 

 禍々しいほど黒い甲冑で全身を包んだ騎士は、見たところお冷にも手を出していない。兜を被っていれば当然か。右隣に座る少女は全くの無表情だ。長い青髪を左右二つで結っており、紅い瞳はじっとテーブルの上にある料理を眺めている。その上で休まず料理を食べ続けているのだから、かなり空腹だったのだろうか。四人の中では一番小柄ながらに食べている量が多い。あれが通常だと食費が半端ないな。

 少女の左隣が赤毛のドラフだ。ちびちびと料理を摘んでいる。つまらなさそうな顔をしているような気はするが、確かあんまり表情が変わらないのだったか。その左隣の青毛のエルーンは、なにが楽しいのかへらへら笑いながら食事をしていた。

 

 ……さっきとこの位置から見た限りじゃ、黒騎士が剣と銃、少女がぬいぐるみを抱えていて、ドラフが三本の剣、エルーンはよくわからないな。魔法を使うんだったか? とはいえ杖らしきモノは見当たらない。青い玉を下げているが、あれがその代わりなんだろうか。

 

「それで、首尾はどうだ?」

 

 黒騎士が兜の中からくぐもった声を上げる。

 

「まあまあかな。ね、スツルム殿?」

「……ドランク。雇い主への報告くらいはちゃんとしろ。指示にあったことは完了している」

 

 エルーンがドランクで、ドラフがスツルムと言うのか。

 

「ならいい。計画通り進めるぞ。次はバルツか」

「彼らがそのまま行けばね。まぁ行くんだろうけど」

「そうだな。バルツでの首尾はどうだ?」

「……概ね問題ない。大公の弟子が嗅ぎ回っていたが、今のところ邪魔される心配はなさそうだ」

「そうか」

 

 バルツ公国の名前が出てきたな。火山がある暑い島を首都としている国だ。

 

 四人の様子を見ながらその後も観察を続けた。やがていなくなったので、食休みを経てから俺も酒場を出た。

 

 それから一週間、俺はヤツらの動向を探った。バレてはいない、とは思っているがバレているだろうな。あの街で長年やっていたとはいえ、所詮素人に過ぎない。相手は傭兵や七曜の騎士だ。おそらく俺のバックについているのが誰かなどを探るために泳がせているのだろう。

 そのおかげで、俺はじっくり観察することができた。罠などの準備は万端だ。

 

 これでようやく、行動に移せる。

 

 準備は念入りに行った。シミュレーションも怠っていない。いけるはずだ。

 ということで俺は四人が集まっている酒場に入る。フードを目深に被って顔を隠し、しかし目立たぬよう気配を薄くして。気配を消すまでいくと怪しいヤツとして四人に気づかれてしまう可能性が高いのだ。

 そして誰にもバレずに近づいて、意識せずなんの気負いもなく、料理を一つ食べ終えて皿を積み重ねた直後の少女の身体を抱え酒場の外へ走った。

 

「貴様っ!」

 

 黒騎士が叫んでくるが、止まるつもりはない。全速力で逃げ出し、裏路地に逃げ込む。その後右に曲がって一直線に走っていると、背後からがしゃがしゃと甲冑を着た黒騎士が追ってきた。その後ろには赤毛のドラフ、青毛のエルーンと続いている。

 少女は食事処で食べているところしか見たことはなかったが、案外と軽い。脇に抱えて走っても邪魔にならないくらいの重さだ。というかあんな重そうな鎧を着込んでいるのについてこれるとかおかしいだろう。

 

 そのまま俺はアジトに入って罠を起動、二階の部屋へと入った。

 

「よし、と。悪かったな」

 

 抱えていた少女をちょこんとソファーの上に座らせる。浚われたというのに大して抵抗もせず大人しくしていた。感情が薄いのか、自我が薄いのか。詳しいことはわからないので、俺にはわかっていることから作戦を練ることしかできない。

 

「まぁすぐあいつらが取り戻しに来るだろうから、大人しく待っててくれ。危害を加えるつもりはないんだ」

 

 俺の狙いはあくまでリーダーらしき黒騎士に挑むこと。他のヤツを傷つけるつもりはない。それで手を組めなくなったら困るしな。

 

「……」

 

 少女は反応を示さない。じっと座っているだけだ。……やりにくいな。まぁこうなることも考えておいて正解だったと言うべきか。

 

「ほら、これでも食べてな」

 

 俺は焼き上げ温めておいたアップルパイを取り出して机の上に置く。

 

「……アップルパイ」

 

 初めて少女の声を聞いた気がする。良かった、注意を引けそうだ。少女の食べているモノの中でなにが一番多かったかを調べておいた甲斐があるというモノだ。シェロカルテに美味しいアップルパイのレシピの情報を買っておいて良かった。三日で練り上げて店に出してもいいくらいの美味さになっていると思う、多分。

 

「そうだ。これやるから大人しくしてるんだぞ」

 

 俺が言うと、少女はこくんと頷いてアップルパイに手を伸ばした。その直後、轟音が耳に入ってくる。おそらく入り口の扉を蹴破られた音だな。

 

「出てこい!」

 

 黒騎士の怒りの込められた声が響いた。俺は大人しく部屋から出て二階にある通路の柵に寄りかかる。黒騎士に続いて、ドランク、スツルムが入ってきた。……完璧だな。ちゃんと考える連中で助かった。

 

「貴様……どこの所属かは知らないが、今すぐ人形を返し後ろにいるヤツの名前を吐け。そうすれば生かしてやる」

 

 ドスの効いた声で脅してくる。まぁ、そうくるよな。……人形ってのはあの子のことだったか。大切に思っているかと思ってたんだが、どうやら微妙みたいだな。なんか事情があるんだろうが。

 

「残念ながらそうはいかない。なにせ俺の後ろにいるヤツなんていないからな」

「なんだと?」

「俺はあんたらがどう思ったのかは知らないが、単独犯だ。誰かに頼まれてやったわけでもねぇし、用が済んだらあの子も返すよ」

「じゃあなんのためにこんな真似をしたのかな?」

 

 青い長髪のエルーン、ドランクが尋ねてくる。

 

「あー……。どう言えばいいか微妙なんだけどな? あんたらに手を組んで欲しいんだよ」

「組むと思うか?」

「それをちょっと考えてもらうために、こうして売り込みに来てるってわけだ」

 

 ここからは俺の腕の見せ所ってヤツだな。

 

「話中悪いんだけど、とりあえずそこから降りてきてもらおうかな」

 

 ドランクが懐から小さい玉を指の間に挟んで取り出し、俺へ向かって放ってくる。どうやら本当にあの玉を使って魔法を駆使するらしい。が、ころんころんと地面に落ちて転がるだけだった。

 

「あ、あれ? 魔法が使えないんだけど……もしかして君がなんかした?」

「ああ。入ってきたのが二番目のヤツが、魔法が使えなくなる罠だな。ちゃんと発動してくれて助かった」

「……。おっかしいな~。君が走ってくる順番を見てたから、わざわざスツルム殿と入ってくる順番変えたのにな~」

「そうだな。あんたらがそこまで考えて入ってくれるように、ちゃんと見ておいたんだ。まぁそうしなくても順番変えた可能性はあっただろうけどな」

「ということはスツルム殿~」

「……動けない」

「じゃあ今スツルム殿に悪戯し放題――」

「……腕は動くぞ」

 

 腰の剣を素早く抜いてドランクの鼻先に突きつけた。抜剣速度は速いな。こんなことでわからなくても良かったが。

 

「じ、冗談だよスツルム殿~」

 

 ドランクは引き攣った笑みを浮かべて後退する。……これで二人は封じたと言える。余計な邪魔は入らないだろう。

 

「さてと、付き添いの二人はこれでいいとして。どうだ? 付き合ってくれる気になったか? 黒騎士さんよ。まぁ断ったら戻ってあの子殺すだけだから、別にいいんだけどな?」

「貴様……」

「悪いがこの状況になった時点であんたに選択肢はねぇよ。強行手段に出たら万一にも死んだ場合を考えちゃうもんなぁ」

 

 俺がにやにやしながら黒騎士に対して優位に立っていると、不意に後ろからローブの袖を引っ張られた。……ん?

 

「……アップルパイ、もうない?」

 

 振り向くと件の少女がいた。

 

「まさか、もう食べ切ったんじゃないだろうな」

「……ん。美味しかった」

「そりゃどうも。ったく、しょうがねぇ。ちょっと待ってろ」

 

 俺は黒騎士に対して待つように告げて部屋に戻り冷蔵庫に入れておいたアップルパイを取り出し、レンジに入れて温める。

 

「これがチンって鳴ったら取り出して食べていいからな。あと、ちゃんと席に座って食べるんだぞ」

 

 俺は少女が頷いたことを確認して、ぽんと頭に手を置きさっさと部屋の外で戻る。

 

「というわけで今は無事だがあんたの選択次第によっちゃ殺すことになるわけだ」

「そ、そうだな」

 

 取り繕ってはみたが既に向こうも微妙な感じになってきている。あからさまににやにやしているドランクの顔をぶん殴りたいが、それはまた今度だ。

 

 俺は仕方なく、柵を跳び越えて一階へ降りる。膝を使って難なく着地し腰の短剣を抜いた。

 

「まぁごちゃごちゃ言っててもしょうがねぇか。さっさとやろうぜ。早くしないと罠の効果が切れちまう」

「ふん。手を組むに値するか、確かめさせてもらおうか」

 

 俺が構えたのに応じて黒騎士も剣を抜いた。研ぎ澄まされた所作だった。伊達に最強に手をかけていない。

 

 俺から突っ込む。正面から一撃加えると剣で受け止められた。ただそれだけでなく、微動だにしていない。相手は剣を抜いただけで構えもせず直立状態だってのに。手応えは全くない。壁に攻撃しているような感触だ。ふざけた力だな。とはいえこれでやめるわけにはいかない。俺は体勢を変えながら続け様に攻撃していく。しかしどれ一つとしてこいつを動かすにも値しない。膂力が違いすぎるんだ。クソったれ。短剣だけの勝負では埒が明かないと袖に仕込んでいた煙玉を指で弾き視界を潰そうとするが、剣の腹で打ち返され逆に俺が煙を浴びてしまった。

 

「げほっ、げほっ……!」

 

 クソ、ここまで歯が立たねぇとはな。手加減してるつもりはねぇってのに。

 

「この程度か?」

 

 侮蔑も嘲笑もない、ただの確認のような口調だ。……ああそうだよ俺はこの程度だ、残念ながらな。だがこのままじゃ手を組むに値しない雑魚と切り捨てられて終わり。賭けなんかには出たくねぇが、やるしかないか。

 

「……なぁ、黒騎士」

「なんだ?」

「オルキス王女は元気にしてるか?」

「っ……!?」

 

 薄ら笑いを浮かべながら発した俺の言葉に、黒騎士は明らかに動揺した。シェロカルテに聞いていた、もしかしたら隙を生めるかもしれない魔法の言葉だ。僅かな隙を狙って全力のタックルをかまし、なんとか体勢を崩させる――ここだ。

 

「ブレイクアサシン!」

 

 俺はある技を発動する。赤い雷が轟くように俺の身体が瞬間的に強化された。そして渾身の力を込めて、短剣の一撃を黒騎士へ叩き込んだ。籠手で受け止められるが、それでも構わない。

 

「っ!」

 

 黒騎士の身体が、体勢を崩していたとはいえ二メートルほど後退する。……おいおい。今のは相手の隙に攻撃することで威力を大幅に上げる技だぞ。それで籠手に傷一つついてねぇ。

 

「……嘘だろ。今のでそんだけしか下がらないとか、どんな強さだよ」

「私も、まさか動かされるとは思っていなかった」

 

 そりゃちゃんと構えていなかったからな。

 

「貴様の実力は充分にわかった。次はこちらから行くぞ」

 

 黒騎士の言葉の直後、俺の全身を悪寒が襲った。反射的に後ろへ飛んだが、当然目の前まで距離を詰めてきていた黒騎士に反応できない。

 

「我が剣にて万難を排さん――」

 

 黒騎士の身体から黒いオーラが噴き上がった。全身を襲う悪寒が強まり、汗が噴き出る。口の中が一瞬で乾いた。剣を振り被る黒騎士の姿が俺の命を絶ちに来た死神にしか見えない。

 脳が絶え間なく警鐘を鳴らす。死が間近まで迫ってきている――俺は短剣を捨てて両手を前に突き出した。力量差がありすぎて逃げられない。避けることもできない。かといって相殺も不可能。となれば防御するしかない。あれを使うしか生きる道はない!

 

「【ナイト】! ファランクス!!」

 

 【ナイト】と口にすることで光の粒子が衣服を包み俺の衣装が変化する。頭から爪先までを黒い甲冑が包んだ。加えてファランクスにより、俺の手の前に障壁が展開される。

 

「散れッ!」

 

 障壁に剣が叩きつけられる。瞬時に亀裂が入った。いや、この亀裂は障壁のモノじゃない。空間そのものにヒビが入っている。亀裂の近くにある俺の身体に激痛が走っていた。亀裂が広がっていくため痛みは全身に広がっていく。歯を食い縛って耐えていたが、やがて剣を振り抜かれると同時に障壁が砕けて黒いオーラの奔流が俺を呑み込む。呆気なく吹っ飛ばされて壁に激突したところで、俺の意識は落ちていった――。

 

 ◇◆

 

 壁に叩きつけられ、力なく地面に落ちるダナン。気を失ったからか変化した衣装が元に戻っていく。

 

「壁ごとぶち抜くつもりでいたんだがな」

 

 黒騎士の物騒な言葉に反して、ダナンの叩きつけられた壁は凹んでこそいたが穴はなかった。

 

「いやぁ、まさかこんなところで彼と同じ力を持つ子に会えるなんてねぇ」

 

 どこか楽しげなドランクが、散らばった玉を拾い集めながら言う。

 

「筋はいい」

「おっ。スツルム殿が褒めるなんて珍しいね」

「煩い」

 

 スルツムは茶化してくるドランクをぞんざいに扱って、黒騎士へと視線を放る。

 

「……で、どうする?」

「どういう目的かは知らんが、使えるかもしれんな。ドランク、そいつを上に連れていって治してやれ」

「はいは~い。人遣いが荒い雇い主様」

「貴様らは今回役に立たなかったからな。そういう点でも評価はできる」

「ひっど~い。まぁその点は僕も同意かな。いやぁ、甘く見てたね」

 

 スツルムはなにに対してかため息を吐く。

 

「そいつは次の作戦に加えるのか?」

「それはこいつの目的次第だな。とりあえず、目が覚めてからだ。さっさとしろドランク」

「早くしろドランク」

「え、僕だけ?」

 

 回復を行えるドランクがダナンを担いで梯子を上り、ベッドに寝かせて回復を行う。彼の代わりに通路に出てきた少女が上から黒騎士の方をじっと見つめていた。

 

「お前はそこにいろ。勝手に動くなよ」

 

 黒騎士の言葉に頷き、部屋の中に戻っていく。

 ダナンの目論見は一応、成功したようだった。




ということで、ダナン君はこちら側につく形となります。
こっちと組むグラブル主人公と対称的なキャラがいたら、というのがこの作品の元となっています。

本格的に動き出すのはもう少し先になるかと思いますが。

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