ナンダーク・ファンタジー   作:砂城

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長くなりがちなアガスティア編。……サクサク更新できるようにしといて良かったぁ。


殴り込み

 半ばやけくそになったラカムが操縦するグランサイファーは、帝都アガスティアから放たれる砲弾の雨をモノともせず突き進んでいた。

 

「ほう。流石にこれくらいはやってのけるか」

 

 黒騎士が感心したように呟く視線の先には、直撃するように飛んできたというのに不規則に軌道が変わり逸れていく砲弾があった。

 

「……」

 

 リーシャは全神経を集中させているのか無言で瞑目している。

 リーシャの操る風によって砲弾を逸らしながら突っ込んでいるのだ。

 

 しかしそれもまだ軽い部類の砲弾だからこそできていることであり、戦艦の並ぶ空を潜り抜けられているのはラカムの操舵技術があってのことだ。

 

「このまま停める! リーシャ、風でグランサイファーを受け止めてくれ!」

「わ、わかりました!」

 

 ラカムの操縦とリーシャの風が合わさって、無事一行はアガスティアへと着いたのだが。

 

「……は、吐きそう」

 

 グラン含む何人かはグロッキーになっていた。これ以上ないくらい激しい操縦だったせいで酔ったのだろう。

 

「情けない。さっさと行くぞ」

 

 黒騎士は平然と言い放つと早速集まってきた兵士達を剣の一振りで吹き飛ばす。

 

「できれば殺さずにお願いします。彼らもまた、私の守るべきエルステの民ですので」

「ふん。一応加減はしてやる。だが余裕がなくなったら知らんぞ」

「ええ。民を守ることだけに囚われて目的を失ってはなりませんからね」

 

 真っ先に黒騎士とアダムが船の前に降り立つ。かつての上官にして武力で最強に近い二人を前に兵士達は怖気づいた。

 

「侵入者及び裏切り者のアダム大将を殺せ!」

 

 しかし隊長の一声によって気を引き締め直す。

 

「ここは私にお任せを。皆様を兵士を蹴散らしながら、リアクターのある奥のタワーへどうぞ」

「わかりました。グランサイファーのことはお願いします」

「傷一つつけんじゃねぇぞ!」

 

 剣を構えて悠然と佇むアダムを置いて、黒騎士を先頭に兵士の群れを突破し始める。強引に道を切り開いていく頼もしい一行を見届けて、アダムはエルステの行く末を想う。

 

「頼みましたよ。ではお相手しましょう。ご存知ない方もいるでしょうから、私が大将である所以を味わっていってください」

 

 彼の放つ威圧感に尻込みしそうになる兵士達だったが、ガンダルヴァ中将と戦うよりはマシに見えるという事実が突き動かす。こうして大量の兵士とアダムによる終わりの見えない戦いが始まるのだった。

 

 そんな彼にグランサイファーを任せて大量の兵士が次から次へと押し寄せてくる中を、薙ぎ払うように突き進んでいく一行。

 

「下がれ! 戦闘車が来るぞ!」

 

 兵士の一人が叫んだかと思うと兵士達が一行の前から退き、代わりに手足のある機械が到着する。身体の部分に帝国兵が乗り込み操縦しているのがわかった。腕の先は銃火器になっていて、人では持ち込めない兵器に機動力を足したようなモノだった。

 

「この二八式歩兵戦闘車に平伏すがいい!」

「帝国の新しい玩具か。とはいえ相手にならんな」

 

 黒騎士がさっさと切り捨てようと剣を構えたが、それより前に動いた影があった。二人は息の合ったタイミングで戦闘車の腕を同時に切り落とす。

 

「な、あぁ!?」

 

 乗っていた兵士が驚きの声を上げ、兵器の爆発に巻き込まれる。

 切ったのは【ファイター】姿のグランとジータである。ClassⅣの恩恵が大きくなるように地力を鍛えてきた成果だ。ClassⅣを使いこなせるようになったとはいえ、強力故に消耗も激しい。長い戦いになる可能性もあって最初からは使っていない。

 二人の確かな成長が窺えて、自分達も負けていられないと士気を高める。

 

 一行は帝都の市街地に差しかかった。市街地にはまだ住人もいるようで、一行が兵士に追われているのを見て悲鳴を上げたり逃げ惑ったりしている。

 

「……帝国の人も普通に暮らしていて、なんか申し訳ないな」

「その帝都の人達を犠牲にさせないために走ってるんだから、大目に見てもらおうよ」

 

 グランの言葉にジータが前向きに返す。

 

「ま、待ってください!」

 

 そこでルリアが全員を制止する。

 

「今、なにか……!」

「……ずっと帝都を覆ってる力が、強くなった」

 

 ルリアの言葉に続きオルキスが補足したことで、二人が星晶獣の気配を感じ取ったのだと理解する。

 

「なに? まさかアーカーシャじゃないだろうな」

「……違う。あの時の星晶獣とは違う気配。多分、デウス・エクス・マキナの方」

 

 実際にアーカーシャを身近で感じたことのあるオルキスが黒騎士の懸念を消す。

 

「お、おい! こっちに人が倒れてんぞ!」

 

 ラカムの声に応じて彼の指す方を覗き込み、地面に倒れる人や壁に寄りかかって座り込む人などを見かける。

 

「おい、しっかりしろ! ……ダメか。生きてはいるようだが、反応がない」

「これはまさか、十年前のオルキスと同じ……」

 

 その人達に声をかけたり身体を揺すったりしてみるがなんの反応も返ってこない。その様子を見た黒騎士が言った言葉により、全員がデウス・エクス・マキナの影響だと察した。

 

「チッ。てーことは、既に宰相サンの計画は動き出してるってわけか!」

「おそらく一部にしか影響がないのは、そこまで力が強くないため一気に精神を奪うことができないからだろうな」

 

 帝国の追っ手も少なくなっているのは少なからず影響があったからなのではないかという推測も立てられるが、なんにせよ徐々にではあっても計画は進んでいる。一刻の早くフリーシアを止めなければならない。

 

「その様子を見るに、これをやったのはあなた方ではないようですねェ……」

 

 そこへ、聞き覚えのある声が聞こえてくる。

 

「ポンメルン!」

 

 因縁ある相手の登場に警戒を強めるが、彼の放つ気配は以前のような復讐に身を焼く者のモノではなくなっていた。

 

「……はぁ。それで、これをやったのはあなた方ではないんですねェ?」

 

 彼の後ろには住人と同じように精神を奪われたらしい兵士に肩を貸す者の姿も見えた。

 

「うん。と言っても、それを信じてくれるかわかんないけど」

「全部あのフリーシアってヤツの仕業よ! あいつが帝都全住人を犠牲にして、あんたがルーマシーから運び込んだアーカーシャってヤツを起動させようとしてるの!」

 

 グランが頷き、イオが糾弾するように告げる。ポンメルンは目を見開いてイオの言葉を受け、顔を伏せた。

 

「……そうですか。あの星晶獣が」

 

 そう呟くポンメルンの脳裏には、星晶獣を帝都へ運び込むように命じてきたフリーシアとのやり取りが浮かんでいた。

 

『……宰相閣下。この星晶獣は、エルステ帝国を守るために必要なのですよねェ』

『ええ、もちろん。エルステを守るために、必要な力ですよ』

 

 裏できな臭いことをやっているのは知っていた。魔晶もその一つだが、彼もその恩恵を受けている。それでも帝国を守るためならばと命令に従い動いてきたのだが。

 

「……フリーシア宰相は決してエルステを“帝国"とは呼ばなかった。つまりは、そういうことなんでしょう」

 

 思い返してみれば、「エルステ」とは言っていたが「帝国」とは絶対につけていなかったように思う。それは彼女がエルステ帝国を守るべく動いていたのではなく、エルステ王国を取り戻すべく動いていたからなのではないか。

 今まで見ようとしてこなかったモノが見えてきて、ポンメルンは静かに嘆息した。

 

「ぽ、ポンメルン大尉!」

 

 そこへ呼びかけてきたのは、帝都に住まう住人だった。

 

「? どうかしましたか? あなたも早く避難してください」

「わ、わかっています! ですがその、避難している内に何人かが突然倒れて……」

「そうですか。わざわざありがとうございます。――あなた達は街に倒れた方がいないか探しながら、避難所の方へ向かいなさい。私も後から向かいます」

 

 ポンメルンは冷静に住人へと対応して、自分の連れた兵士達に指示を出した。目の前に帝都を襲撃した敵がいるというのに、兵士達も一切疑問を挟まず指示に従い倒れた住人を抱え移動し、手の空いている者は周辺を探索する。

 住人がわざわざ走り回って彼に情報を伝えたことからも兵士達が素直に命令に従ったことからも、やけに彼の人徳が見えてくるようだった。

 

「貴様、どういうつもりだ?」

「……いえ、前最高顧問閣下。私は帝国の市民を守る軍人ですからねェ。とはいえあなた方の話を全て鵜呑みにするわけにもいきません。なにより今更全てを信じてあなた方を援護する、なんて真似できる立場ではありませんよォ。私にできるのは、精々市民が戦いに巻き込まれないよう避難させるくらいですからねェ」

 

 そう話すポンメルンの瞳には、理性の色が宿っていた。以前見かけたのはルーマシー群島でアーカーシャを回収しに来た時以来だが、その時とは様子が打って変わったように見える。

 

「ふん。まぁいい。貴様程度、魔晶を使ったところで相手にならん。邪魔をしないならそれでいい。さっさと行くぞ」

 

 黒騎士は鼻を鳴らして立ち去っていく。何人かはそのまま後をついていったが、ジータだけその場に残った。

 

「ポンメルンさん、ちょっといいですか?」

「?」

 

 彼に話しかけたジータはなんの用かと怪訝に思うポンメルンへと、強烈な平手打ちを見舞った。

 

「っ!? な、なにを……」

 

 かなり強かったために鍛え抜かれたポンメルンの身体がよろめいた。驚くポンメルンを他所にジータは裏平手を逆頬に叩き込む。その様子を、乾いた音を聞きつけた一行は眺めていることしかできなかった。

 

「ぶっ!」

 

 余程強くしたのか、ポンメルンの両頬が赤く腫れ上がっている。

 

「……今更いい人ぶっても、私はあなたを許しません」

 

 冷たい声音だった。ポンメルンは頬を押さえつつ、視線を逸らして呟く。

 

「……許してもらうつもりはありませんよォ。私はエルステ帝国を、そこに住む人々を守るためならなんでもやる覚悟でいますからねェ」

「守るために必要以上のことをしても、ですか? 随分と都合のいい覚悟ですね」

「……」

 

 ジータの怒りは尤もだ。田舎で多少鍛えた程度の少年少女と裏切った中尉を相手するのに、兵士達以外に巨大なヒドラを連れてくるのは過剰戦力というモノだった。そして呆気なく飛び出したグランは殺されてしまっている。

 

「何度も言うようですが、私はあなたを許しません。ですが、あなたはどうやら街の人や部下の人達に信頼されているようですから、今後のために必要な人だと思いました。なので、殺しはしません」

「……謝罪する気はありませんが、感謝します」

「いりません。さぁ、私の気が変わらない内にさっさと行ってください。ダサ髭」

「ダサ……っ!? わ、わかりましたよォ」

 

 最後に暴言を叩き込みつつ走り去るポンメルンを、後ろから撃つようなこともなく見送った。

 

「じゃあ行こうか」

 

 ジータが普段と同じ顔で振り返ったのだが。

 

「な? ジータは怒らせると怖ぇんだよ……」

 

 ビィの言葉に、大半が頷いていた。その様子を見てずかずかとグランの前に歩み寄ったジータは、同じくらいの威力の平手をグランへと食らわせた。

 

「っ!? な、なんで僕まで……」

「グランが勝手に飛び出したの思い出してムカついたから」

「そんな理不尽な……」

「いいから行くよ。むしゃくしゃしてきたから、私先頭で行くね」

 

 ジータはそのまま黒騎士より先に出ると、ずんずんと進んでいく。

 

「……うんと、こういう時は落ち着くまで好きにさせておいた方がいいかな」

 

 ビンタを貰った方の頬を撫でつつ長い付き合いのグランが言って、一行は一人で進んでいくジータの後ろをついていく。

 

 ポンメルン大尉率いる部隊の範囲を抜けたのかそれとも先の星晶獣の影響で部隊を再編成していたのか、また多くの兵士達が押し寄せてくる。先陣を切るジータとそれに続く黒騎士とグランがいるために問題なく突き進めていたが、見渡す限りの兵士達に囲まれてしまい進む速度が遅くなっていく。

 

「ああもう! キリがない!」

 

 黒騎士の強烈は一撃で一直線上の敵を吹き飛ばしたとしても、すぐに埋め尽くされてしまう。疲労が募るばかりで進む速度が遅れ、もしかしたらこのまま押されていってしまうのではないかという懸念さえ芽生えてくる。

 

「このままじゃ先へ進めねぇ!」

「クソッ!」

 

 いくら倒しても倒しても押し寄せてくる大軍に辟易していたその時、炎と共に一行の前に降り立った人物がいた。炎を撒き散らして帝国兵を退けたその人物は威風堂々と佇み炎の渦から姿を現した。

 

「家臣共、無事か?」

 

 紅の鎧に身を包んだ騎士を、彼らは知っていた。

 

「パーシヴァルさん!」

 

 心強い援軍の登場に、一行の顔が綻んだ。

 

「流石に全軍は連れてこれなかったが、代わりに強力なメンバーを選抜してきた」

 

 パーシヴァルの言葉に続いて、彼の近くに三つの影が降り立つ。

 

「お前達の窮地と聞いては、駆けつけられずにはいられないからな」

 

 黒い鎧を身に纏い、茶髪を流すおそらく最年長の騎士。

 

「団長達には助けてもらった恩があるからな。助太刀する」

 

 黒髪で真面目さが身体から滲み出る短剣を二本携えた青い鎧の騎士。

 

「ここは俺達に任せとけってことだな!」

 

 他三人とは違い完全な鎧ではないが、橙色の衣装を身に着け斧を担ぐ最もガタイのいい金髪の青年。

 

「四騎士の皆さんが来てくれたら、とても心強いです」

 

 パーシヴァル、ジークフリート、ランストロット、ヴェイン。彼らはフェードラッヘ王国の四騎士と呼ばれる者達で、それぞれ騎士団の団長や副団長であったり、以前は団長副団長であった者達だ。星晶獣シルフを取り巻く騒動などで一行と関わりを持っていた。一時とはいえ彼らが国を離れるのは大変だったと思うのだが。

 

「俺達だけではないぞ」

「えっ?」

 

 パーシヴァルの言葉に首を傾げた一行の声に、悲鳴が聞こえてきた。

 

「やぁめぇろおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 女の声が聞こえて、空から帝国兵の群れのど真ん中に縄で縛られた人が落ちてくる。兵士にぶつかって勢いを殺されつつも、成す術なく地面に転がった。あまりの出来事に兵士達も襲っていいのか困惑しているようだった。

 

「お、おい! 急になにするんだよ! 早く助けろ!」

 

 地面に転がったまま芋虫のようにジタバタする彼女だったが、なかなか縄が外れない。その上空には小型の騎空艇が滞空していた。どうやら彼女を突き落としたらしい褐色肌のエルーンの男は、変わらぬトーンで告げる。

 

「そっちは任せたぞ、癇癪玉」

「ふざけんな! ユーステス、おい! せめて縄を解いてくれ!」

 

 仲間割れとも取れる行動に困惑する兵士達を他所に、ユーステスと呼ばれた彼は手に持った銃を縄で縛られた彼女へと向けた。

 

「わかった。解いてやろう」

「待て! それじゃああたしも巻き添えに……」

 

 制止にも構わずユーステスは引き鉄を引き、雷撃を放ち縛られた彼女を撃ち抜いた。

 

「……痛、てぇっ! この、バカユーステスッ!!」

 

 放たれた雷で縄が吹き飛ぶと、痛みに堪えながらも立ち上がった彼女は剣を抜いて振り回した。その威力は圧倒的で、周辺の兵士を紙のように吹き飛ばした。

 

「これで着地できるな」

「……あんたはもうちょっと考えなさいよ」

「ああ。少なくとも仲間にする仕打ちではないな」

 

 ユーステスに続き、アウギュステで見かけたゼタとバザラガまで小型艇から降り立つ。

 

「ユーステス! いくらあたしが逆境に強いからって、酷いだろ!」

「だがおかげで足場ができた。お前の手柄だぞ」

「うん、流石ベア。やるじゃない」

「俺のでかい図体だと狭いのは面倒だからな、助かった」

 

 ユーステスに突っかかるポニーテルの剣使いベアトリクスだったが、三人に褒められて悪い気はしなかったらしい。

 

「へ、へへっ。まぁあたしにかかれば余裕だったけどな」

 

 鼻の下を指で擦り得意気な顔で胸を張った。……チョロい、と三人の意見が一致したのは言うまでもない。

 

「あはは……組織の皆さんも来てくれたのはいいんですけど、なんか相変わらずですね」

 

 ジータがその様子を見て苦笑していた。彼らは星晶獣を狩ることのできる武器を持った組織に属している。フリーシアが星晶獣を手駒にしている以上、有り難い戦力だった。

 

「団長達は先に行け。こんな兵士共に時間を費やしている暇はないだろう?」

「ありがとうございます、パーシヴァルさん!」

 

 強力な援軍の登場によって、一行に詰め寄っていた兵士達との間に隙間ができた。そこを一点突破で突き進んでいく。

 書状を読んで飛んできてくれただろう面々に感謝しつつ、後を任せてタワーへと突き進んでいく。

 

 彼らの戦いの喧騒が聞こえなくなったところで、聞き覚えのある声が二つ。

 

「おっと。これ以上先には進ませないよぉ?」

「強くなったみてぇじゃねぇか。ちょっとは楽しめるんだろうな?」

 

 ハーヴィンの少将フュリアスと、ドラフの中将ガンダルヴァ。二人が率いる部隊が待ち伏せしていた。

 

「ここで出てきやがるか!」

「勢揃い、ってわけじゃねぇがいいだろう。黒騎士のヤツもいるんなら、充分楽しめそうだ」

「ふん。楽しむ余裕があればいいがな」

「僕もいるんだって。どいつもこいつも皆殺しにしてあげるよ!」

 

 好戦的なガンダルヴァに続き、フュリアスも魔晶を使って変化する。

 

「はっ。上等だ。ならどっちが先に倒せるか、競争と行こうじゃねぇか」

「いいよぉ! 勝つのはもちろん、僕だけどねぇ!」

 

 二人が一行へと襲いかかってくる。

 

「僕達も以前のままじゃないんだよ。【ベルセルク】」

「いつまでも負けっ放しは嫌だもんね。【ウォーロック】」

 

 グランとジータがClassⅣを発動する。間違いなく全力で挑まなければならない相手だ。

 とはいえ周りの兵士達も黙って見てはいない。近寄れなくても援護射撃は可能だ。それらの攻撃をカタリナが防ぎ、イオ、ロゼッタ、ラカム、オイゲンが近くの敵と銃で狙ってくる敵を優先的に狙いながら対処する。

 

 必然的にグランとジータ、そしてリーシャと黒騎士が強敵二人の相手をすることとなった。

 

「何度だって、あなたを退けてみせます」

「援護しますよ、リーシャさん」

 

 ガンダルヴァの前にはリーシャとジータが。

 

「加勢の必要はないが……さっさと倒してガンダルヴァを仕留めるぞ」

「わかってるっての」

 

 フュリアスの前には黒騎士とグランが並ぶ。誰も彼もが人を超えた力を手にしている面々だ。故に周囲が加勢することは叶わない。

 

 ビィが弱体化していない状態のフュリアスの一撃を正面から受け止めるグラン。その度に衝撃波が巻き起こり人を近づけさせないでいた。その中を平然と歩き再生力の高いフュリアスをごりごり削っているのは黒騎士だ。

 圧倒的な強さでフュリアスを追い詰めていく。

 

 しかし反対にガンダルヴァと戦う二人は苦戦していた。

 理由は以前のようにリーシャがガンダルヴァの動きを遅くできないのと、ガンダルヴァが更に強くなっていたからだ。

 

「おらおらどうしたぁ? そんなんじゃオレ様に勝てねぇぞ?」

「くっ!」

 

 ClassⅣを持ってしても苦戦させられるガンダルヴァの実力は計り知れない。しかも以前はガンダルヴァにかつて敗北したヴァルフリートを意識させることで本来の力を発揮できないようにしようとしていたこともある。万全のガンダルヴァに勝てる者は、残念ながら黒騎士ぐらいしかいないだろう。リーシャも結局最後にはモニカの力を借りて勝利した。

 

 しかし苦戦する仲間達の下へ、更なる援軍が到着する。

 耳を劈くような()()の雷鳴が轟きガンダルヴァを引き剥がす。

 

「少しは成長したと思ったが、まだまだだなリーシャ」

 

 それと共に降り立ったのは、リーシャが慕う心強い援軍。

 

「モニカさん!」

 

 小柄ながらに七曜の騎士の右腕とも呼ばれた頼れる船団長補佐である。

 

「リーシャ船団長! ご無事ですか!?」

「皆さんも、来てくださったんですね!」

 

 秩序の騎空艇団が保有する騎空艇が帝都へと乗り込んできたらしい。モニカ率いる大勢の団員達が帝国兵達を蹴散らし援護していく。

 

「儂らもおるぞ!」

 

 更にドラフの老人が自らの拳に魔力を纏わせ兵士を蹴散らしながら突き進んでくる。そんな彼に追従する者達は一様に同じ軍服に身を包んでいた。

 

「し、師匠!? なんでここに……」

 

 イオが驚きの声を上げる。駆けつけたのはバルツのザカ大公だった。四騎士や組織、そして秩序の騎空団とは違い援軍を要請しなかったはずなのだが。

 

「儂の可愛い愛弟子のためとあってはどこへでも駆けつける、というのもあるがの」

「折角ですから私が呼んでおいたんですよ~」

 

 いつの間にか一行の近くにいたいつでもどこでも間延びした口調の変わらない商人が答える。

 

「シェロさんまで!? ここ戦場のど真ん中というか、最前線なんですけど……」

「騎空士のあるところに、万屋あり、ですよ~」

 

 戦闘力がないはずだというのに、焦りの一切見られない笑顔で答えられてしまう。もう苦笑するしかない。

 

「ボス~、お待た~」

「まだこんなところにいたのか」

 

 更には上空を飛ぶ小型騎空艇から二つの影が降りてくる。スツルムとドランクの二人だ。

 

「ふん。どうやら援軍は間に合ったようだな」

「もっちろん~。と言ってもシェロちゃんに任せちゃってたんだけどね~」

 

 二人の登場に黒騎士も笑みを浮かべる。

 

「さっさと行くぞ。ここはこいつらに任せて、鎧と剣を取り返しに行く」

「わかった。……オルキス、こいつらと一緒に先に行っていてくれ」

「……ん」

 

 ここは充分な戦力が揃ったかと、三人はオルキスを置いて別行動をする。その直前黒騎士が渾身の一撃でフュリアスとガンダルヴァを後退させた。

 そのまま周囲の帝国兵を蹴散らし、タワーではない方向へと進んでいく。どうやら宛てがあるらしい。

 

「あれ~? お二人だけなんですね~。ダナンさんは来てますか~?」

 

 スツルムとドランクが一緒にいたダナンを知っているシェロカルテは言うが、

 

「……ダナンも来てる?」

「えっと、私達は見てないですよ?」

 

 オルキスとルリアが反応するが、二人の様子を見てダナンの行方を知っていそうなのは傭兵の二人だけかと察する。

 

「そうですか~。とりあえず目の前の敵に集中、ですね~」

 

 黒騎士の一撃を受けたとはいえ二人はまだ戦えそうだ。援軍のおかげで後衛も加勢できるようになり、以前から連携していたモニカとリーシャ、グランとジータになったことで戦況が覆っていく。

 

 そしてフュリアスとガンダルヴァをなんとか退けると、

 

「お前達はこのまま先に行け!」

「時間がないのじゃろう? ここは儂らで食い止める」

 

 負傷した二人を連れて撤退していく帝国兵とは別にまだまだ兵士が大勢いる。強敵との戦いで疲弊した一行には少しキツいモノがあった。

 

「ありがとうございます、モニカさん!」

「師匠! 無茶しちゃダメだからね!」

 

 一刻を争う今、もたもたしている暇はなかった。後のことを秩序の騎空団とバルツ公国軍に任せて一行は突き進む。

 

 そしてようやくタワーが目の前に来たというところで、急に帝国兵の数が減った。

 

「……なんだ? 急に兵士がいなくなって、罠か?」

「だとしても進むっきゃねぇだろ」

「うん。油断せず行こう」

 

 妙な気配を感じ取りつつも、進むしかない一行はタワーの下へと急ぐ。

 

「来たぞ! 手配犯の連中だ!」

 

 待ち伏せしていたのは必要最低限の兵士四人。だがそれぞれに魔晶を持っていた。

 

「こ、この感覚は……!」

 

 ルリアが魔晶からなにかを感じ取ってはっとする中、魔晶を掲げた兵士達が一斉に唱える。

 

「「「出でよ、マリス!!」」」

 

 魔晶から解き放たれたのは、今までに出会ってきた星晶獣達の変わり果てた姿。

 

 ティアマト・マリス。本体である女性の姿をした部分は黒い仮面と鎧で覆われ、竜の部分も紫に染まっている。

 リヴァイアサン・マリス。海のように青かった身体は黒く染まり、ヒレは赤紫となっている。

 ユグドラシル・マリス。最初に一行を絶望に突き落とした姿そのままだ。

 ミスラ・マリス。歯車が複数重なった姿から、本体部分から鉤爪のようなモノが中央に向けて伸びた姿となっている。

 どれもこれも模倣品であり本物というわけではないのだが、マリス化させられそれぞれが圧倒的な力を持っている。

 

「こんな……」

 

 本体がマリス化したほどではなくとも強大な威圧感が一行を襲い、勝てるのかという疑念が頭をよぎるのだった。




実はこれを書いた直後ぐらいに本編でシュヴァリエ・マリスが出てきました。まぁ既存で通しましょう。六属性全部となるとコロッサス・マリスやらセレスト・マリスを考えなくっちゃいけなくなって面倒なので。

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