ナンダーク・ファンタジー   作:砂城

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十天衆VSマリス

 タワー前。ティアマト、リヴァイアサン、ユグドラシル、ミスラ。それぞれの劣化コピーが魔晶によってマリスと化した状態で、同じマリス以外の周辺にいる全てを壊そうと暴れ回っていた。

 

「手分けした方がいいと思うかい、ウーノ」

 

 それら四体の化け物を相手に絶え間なく剣拓を放ち続けるシエテは、正面で後衛を務める者達を守っているウーノへと声をかけた。

 

「そうだね。フュンフと僕、ニオはそれぞれに役割がある。エッセルとソーンは遠くから射撃してもらうのがいいだろう。となるとサラーサ、オクトー、シエテ、カトル、シスの五人が前に出てそれぞれと戦ってもらった方がいいかもしれないね」

「そうだねぇ。じゃあカトルとシスはあの変な形のヤツをお願い」

「なんでこいつと組まなきゃいけねぇんだよポンコツ頭目が!」

「……ぽ、ポンコツ頭目って……流石に傷ついちゃうんだけどなぁ……」

「……俺は構わん。誰と組もうがやることは変わらないからな」

「カトル。ここでシエテに従って」

 

 苛立つカトルをエッセルは窘めると、姉には逆らえないのか舌打ちしつつも変な形をしたヤツ――ミスラ・マリスへと目を向けた。

 

「足引っ張んじゃねぇぞ」

「……当然だ。お前こそ足手纏いになるなよ」

「はっ! 上等だ。その辺の素人に倒されやがった負け犬が、なにが最強の十天衆なんだか」

「……ふん。最初に気絶したどこかの十天衆も、充分情けなかったがな」

「チッ……!」

「けんかはダーメ。敵はあっちでしょー?」

 

 共闘するというのに言い争う二人をフュンフが諌める。流石に最年少の彼女に言われては子供っぽく言い合うことはできないようで、

 

「……お前は動きを鈍らせろ。その隙に俺が叩く」

「……悔しいですがそれが一番良さそうですね」

 

 ようやくまともに共闘する気になったようだった。

 

「よぉし、だったら誰が一番早く倒すか競争だっ!」

 

 自分の身長ほどもあるのではないかと思う斧を担ぐのはドラフの少女だ。サラーサは最強の斧使いとされながら武器が剣に変形するという特異な十天衆である。

 

「ではサラーサよ。どの獲物を狙う?」

 

 顔を白塗りした白い長髪のドラフが刀を携えて尋ねる。

 

「んー。あの水出してくるヤツがいいぞ。あいつ焼いたら美味そうだ」

 

 少し悩んでから、サラーサはリヴァイアサン・マリスを指差した。

 

「あいわかった。では儂は龍と共にある女子を狙うとしよう」

「オクトーがそっちなら俺があの木を操る子、ってことになるね」

 

 刀使いオクトーの言葉にシエテが余ったユグドラシル・マリスを見つめる。

 

「じゃあウーノは防御。隙が出来たら攻撃に回ってもいいよ。フュンフは回復。いざって時のためにあんまり攻撃はしなくていいかな。エッセルとソーンは俺達の援護を頼む。ニオは支援で」

 

 シエテが指示をまとめると、早速全員が動き出す。

 

 最初に動いた、流れてきたのは琴の音色だった。

 

「手伝うからその子達の嫌な旋律、早く消して」

 

 ハーヴィン特有の小柄な体躯でありながらもどこか大人っぽさを感じさせる女性が琴を爪弾き澄んだ音色を響かせる。

 

「クオリア」

 

 楽器使いの十天衆ニオは旋律による強化と弱体を得意としている。彼女の奏でる旋律を味方が聞けば普段以上の身体能力を発揮することができる。

 そしてその上がった身体能力で、主力となって四体に挑む五人が戦闘に入る。

 

「ヴォーパルレイジ!」

 

 最初にサラーサがリヴァイアサンへと斧による一撃をくわえ、同時に自身を強化する。ドラフ由来の怪力で叩きつけられた斧によってリヴァイアサンが大きく怯んだ。

 

「まだまだいっくぞーっ!」

 

 そのままリヴァイアサンへと続けて斧を振るう。大振りで一見隙だらけに見える攻撃だが、リヴァイアサンが反撃に出ても寸前で回避されてしまう。彼女はシスのように技を極めた者ではない。むしろそういったモノには縁のない戦い方である。ただ力いっぱい、獲物へと攻撃を叩き込む。それでも戦いが成り立っているのは、彼女の類い稀な身体能力と、野生で培ってきた勘のおかげだった。勘が働けば攻撃の予兆を感じ取り攻撃が発動する前に身体を動かすことができる。そしてその勘に見合った動きのできる身体だからこそ、彼女は強い。

 

 弱肉強食、弱ければ淘汰されるだけの野生で生き抜いてきただけの強さを持って、リヴァイアサンと互角以上に渡り合っていた。他と違って手加減など考える人柄ではないのだが、その強さはグランが【ベルセルク】を使いこなした時に匹敵する。

 

「うむ。いつでも元気なのが、童の特権よ」

 

 そんなサラーサの戦い振りを見守っていたオクトーも、己が使う武器を携える。

 彼は刀神と呼ばれるほどの刀の使い手で、片手に一本ずつの刀を使う上に長い白髪でも刀を握る。髪を自在に動かすことができるという点でも、仙人の域に達しかけているほどだった。

 

「――心解。では参ろうか」

 

 自己強化も忘れず、(まみ)えた強者へと近づいていく。彼と対峙するのはティアマト・マリス。竜を従えた緑髪の女性である。

 近づいてくるオクトーに対してなにもせず見ているだけではなもちろんなく、ティアマトは竜の口から風を凝縮した砲弾を発射した。直撃を受ければ身体が細切れになるようなそれを、オクトーはタイミングを合わせて刀を振るうだけで応える。難なく真っ二つに裂けた風の砲弾は切れた半分が丁度オクトーの巨体を避けるように飛んでいく。

 

「――――」

 

 この程度児戯に等しいと言わんばかりにオクトーが近づいてくる。怒りを込めてティアマトは咆哮し竜の口から一斉に砲弾を放ち続けて乱発してきた。

 

「無駄よ」

 

 静かな言葉と共に接近してきた砲弾を振るった刀で両断、淀みなく動き続けて真っ二つにしていく。両手と髪で持った刀を容易く、そして静かに振るいながら徐々に近づいていく。緩やかではあったが淀みのない動きに彼が砲弾を放たれた時点でどう動くのか視ていることが理解できる。

 

 ティアマトは砲弾では埒が明かないと思ったのか、竜の口から砲弾を放ち続けながら両手を上に掲げて特大の風の塊を作り出す。時間稼ぎの砲弾をやめ、その塊をオクトーへと放つ。塊がティアマトの手から離れた瞬間に人を呑み込む竜巻と化した。地面が剥がれ巻き取り粉々に砕く災害の顕現を、オクトーは静かに見上げると口元を吊り上げた。

 

「ははははは、面白い……!」

 

 両足でどっしりと地面に踏ん張ると身体を大きく回して髪で持った刀に遠心力を加算する。そして竜巻が近づき間合いに入った瞬間にその刀を振り上げた。

 

 暴風を撒き散らす竜巻が縦に両断され、霧散する。

 

「――――」

 

 これにはティアマトも驚いたらしく、顔に感情が少しだけ見えていた。

 

「星の獣と斬り合う機会は多くなし。存分に奮おうぞ!」

 

 出会ったことのない強者と相見えた高揚感に身を昂ぶらせながら、接近したオクトーとティアマトによる戦いがより激化していく。

 

「シュリーヴァトサ!」

「惡門・羅刹。鬼門・修羅。迅門・紫電」

 

 カトルの攻撃がミスラ・マリスを襲うと敵の動きが遅くなる。その間にシスが持てる強化を全て行い攻撃に備える。しかし、相手はミスラだ。じじ、という不快な音がしたかと思うとミスラの動きが回復する。

 

「クソッ! こいつ弱体を!」

「仕方ない。俺が削る。攻撃が当たらないようにフォローしてくれ。治されるまでの間は効果があるだろう」

「偉そうに命令すんじゃねぇよ根暗暗殺者! ……チッ。やってやるよ」

 

 弱体を自動的に回復するミスラとカトルの相性はすこぶる悪い。とはいえ治るまでの僅かな時間だけでも効果があるなら問題ないのがシスであった。悪態は吐きつつも理解しているのか断りはしない。

 

「ふん」

 

 シスが本気で駆け出す。強化を十全に行った状態のシスが本気を出すと、同じ十天衆であるカトルでさえ姿を捉えることが難しくなる。爪で正面から一撃当てた直後には背後から一撃が入る。ダナンと戦っていた時が如何に手加減していたかがわかる速度と威力だった。

 それでも巡り合わせによって攻撃が当たることもあるので、そういうのを先読みして弱体をかけるのがカトルの役目だった。そのタイミングと命中精度から、これも同じ十天衆にしかできないことであるとわかる。

 

 ミスラがシスの攻撃に対応しようにも速すぎて捉えられないこともあり、今はまだ一方的な戦いとなっていた。

 

「皆張り切ってるねぇ」

 

 頭目のシエテは剣拓を放ってユグドラシル・マリスの伸ばしてくる木の根の触手を切り裂きつつ情報を収集していた。

 

 ……桁外れの再生力だけど、強度は問題なさそうかな。

 

 切り飛ばした側からすぐに再生していくのは厄介だが、剣拓を無数に操るシエテにとっては造作もない。

 

「問題は削り切れるかだよねー」

 

 絶え間なく剣拓でユグドラシルを牽制しつつ考え込む。桁外れの再生力を持つユグドラシルを倒すには再生力を上回る火力が必要だ。おそらく通常通り奥義を撃っただけでは倒せまい。シエテの奥義は剣拓を無数に叩き込むというモノだけに、一瞬で敵を消し飛ばすには向いていないのだ。

 とはいえ他の手を借りるとなると頭目としての威厳に関わる。折角リーダーっぽく指示なんかも出してみたというのに、最後は自分だけ他の手を借りて敵を倒しました、じゃ格好がつかない。

 だが彼最大の自己強化である剣光を付与しようにも手数の多い敵に対しては使いづらいという欠点がある。剣光は集中力を要するため攻撃を受けてしまうと解除されてしまうのだ。発動にも集中が必要なので剣拓で牽制しながらだと厳しい相手もいる。それが目の前の敵だ。

 

「ま、でもやるしかないよね」

 

 必要とあらばどうにかして実現する。それだけの力が彼には備わっているはずだった。

 

 百本の剣拓を出現させユグドラシルを襲う。そうして切り刻んでいる間に集中して剣光を発動させた。すぐに再生した触手が襲ってくるが一振りで切り捨てる。

 

「じゃあ俺も、本気でやっちゃうよ」

 

 ニヤケ顔を真剣なモノへと変えて、シエテが駆けた。直後に伸びてくる木の触手を瞬時に出現させて剣拓で細切れにして接近するが、すぐさま再生してしまいシエテへと接近してくる。しかし剣拓を飛ばすだけで勝てるからそうしているだけで、彼自身の剣の腕前はそのままオクトーとも打ち合えるほどである。剣閃を瞬く間に二度三度と閃かせるだけで触手が吹き飛び彼が接近するまでの道を拓かせる。

 接近すると少女のような本体近くをゆらゆらしている口のある触手が牙を剥く。すかさず放った剣拓でも切り落とすまでにはいかず多少削るだけで動きを止めることは敵わない。それでも剣が振るった剣によって真っ二つに裂けると再生のための時間を稼ぐことができた。その間に、更にシエテは懐に潜り込む。そして本体へ向けて渾身の一振りを叩き込んだ――のだが、直前で集まってきた触手が本体を守るように塞いでおり、ダメージは通らない。再生すれば一斉にシエテに襲いかかってきて、軽やかに後退することとなった。

 

「ま、そう簡単にはいかないよね」

 

 苦笑しつつ、やはり本体ごと倒すには剣光の段階を最大まで上げる必要がありそうだと目安を立てる。

 シエテは更に情報を集めるため、ユグドラシルとの戦いを続けるのだった。

 

 一方、演奏中のニオは兎も角エッセルとソーンは比較的手持ち無沙汰だった。単体ならClassⅣでも対応可能に思える程度の敵に十天衆が出張っているのだ。相性の問題こそあるが基本的に一人一体で充分な戦力だ。加勢する必要もないと思えるくらいに善戦していた。

 それでも攻撃の出鼻を挫かせたり弾いたりはしているが、全力で戦ってはいない。

 

「ねぇ、エッセル。気づいてる?」

「ん。敵が来てるね」

 

 後方支援に徹していた二人が、背後から迫る複数の足音を聞きつけ振り返る。

 

「帝国兵ね」

「そうみたい。ソーン、任せていい?」

「ええ、もちろん」

 

 エッセルはソーンが抜けた分の援護のフォローをして、彼女に後方からの敵襲を任せた。

 ソーンは両足に光の輪を作って空を飛ぶと、弓に光の矢を番える。後ろから大勢の帝国兵が列を成してこちらに向かっているところへと矢の先を向けた。

 

「ふっ」

 

 引き絞った矢を放つ。高速で飛んだ矢は無数に分裂して帝国兵に降り注いだ。矢は鎧を容易く貫き、混じっていた歩兵戦闘車ですら穿つ。

 

「ひ、ひぃっ!」

 

 たった一発でほぼ壊滅状態に陥ったことで、僅かに残った兵士達は怯え足を止める。その間に第二射を構えていたソーンはもう一度矢を放ち、残る兵士も全て片づけた。

 

「残念だけど、化け物に対抗するなら化け物じゃないと相手にならないわ」

 

 どこか寂しそうに言い放つと、元の位置にまで降りて離れていたマリス達との戦況を確認する。

 

「お疲れ様。問題なく終わったみたいだね」

「ええ。こっちも、変わらないみたいだけど……」

 

 エッセルが先程より忙しなく援護しているのを見て、ソーンも援護射撃の役割に戻る。そうすると余裕が出てくるため、雑談することができた。

 

「それにしても、十天衆と渡り合えるほどの相手が四体もいるなんて、あの子達も随分凄いことに巻き込まれてるのね」

「うん。でも団長達も強くなってる。天星器も使えるようなったみたいだから」

「エッセルも気づいたの。……団長さん達と戦う日も近いのかもしれないわね」

 

 そう呟く彼女の顔には嬉しさと悲しさが表れている。自分と同じ領域にまで上がってきているという嬉しさはあるが、人格的に問題ないとはいえ十天衆に差し迫る力の持ち主の出現は警戒しなければならないことだ。ウーノは十天衆を全空の抑止力として見ている。実際に効果が現れているとは未だ言い難いが、それでも効果自体がないわけではないはずだ。その強さを揺らがす存在は少ない方がいい。

 

「団長達の話?」

 

 そこに強化と弱体を終えて手持ち無沙汰になったニオが加わってくる。

 

「ええ。あの二人は強くなったから、近い内に私達と戦うことにもなるかもって」

「そう。でももし九界琴を使いこなせるようになったら、二人と一緒に演奏してみたい。勝ち負けは二の次」

「ん。ニオはそれでいいと思うよ」

 

 心の在り様が旋律として聞こえるニオはグランとジータの類を見ないほどいい旋律を好いていた。直接会えば二人の人の良さがわかるので、他の十天衆もそうだろうとは感じていたのだ。

 

「これでは本当に、シエテの思ってる十天衆になってしまうね。もちろん、君達の実力は知っているけど」

 

 四体それぞれに頼りになる戦力が挑んでいることで攻撃の手が止まり、防御を一手に担っていたウーノがよっこらせと腰を下ろす。

 

「ウーノ。あなたは戦闘に参加しないの?」

「参加しなくても充分だよ。それに、加勢しようものなら怒られてしまうね」

 

 ソーンの問いにウーノは苦笑して四つの戦いを眺めた。

 

 獲物を狩るべくリヴァイアサン・マリスと戦うサラーサ。

 強者と戦うことに楽しげなオクトー。

 言い合いながらも連携ができているシスとカトル。

 そして無理に剣光を上げようとはせず戦うシエテ。

 

「それもそうね。サラーサは獲物を横取りするな、って怒りそうだし」

「オクトーは楽しそうに戦ってる。無粋な真似を、って言いそう」

「シスとカトルはもう二人で戦わされてるから、プライドがちょっと傷ついてるんじゃないかな。ウーノが加勢したらいらないって言うと思うよ」

「そうだね。シエテも頭目の威厳を保つなら一人で勝って然るべき、ということだ」

 

 四人がそれぞれの戦いに対して述べると、確かにどの戦いも割って入るのは味方に悪いのがわかる。

 

「僕は余波や流れ弾から君達を守る役目があるから、ここを動かなくてもいいという理由にもなる」

 

 ウーノは穏やかな声で続ける。彼とシエテで選んだ十天衆なら問題なく勝てると確信しているようだった。もちろんそれは他の三人も同じ気持ちである。

 

「あちしも参加しない方がいーい?」

 

 誰かが怪我をした時のために、という備えが役割のフュンフは暇そうにしている。できれば参加したいという気持ちが強いようだ。

 

「そうだね。いざという時のために。君達は最後の一押しが来るまでお喋りしていてもいいと思うよ」

 

 ウーノは言いながらも立ち上がり、お喋りの邪魔をしないためか少し前に出て槍を構えた。

 彼の厚意に甘えて、ただし援護は忘れずにお喋りに花を咲かせる四人であった。

 

 そしてしばらくして、互角の戦いを傾かせるために動き出した。

 

「ソーン! ニオ! 敵の動きを封じてくれ! 一気に決める!」

 

 シエテから珍しく勇ましい声が飛んでくる。流石に無傷とはいかないのか、お揃いの白いマントが所々切り裂かれていた。雑談していたとはいえ油断はしていない二人はすぐに行動を起こす。

 

「ディプラビティ!」

 

 まずソーンが無数の弱体を一気に付与する特製の矢を四体へと放つ。動きを止めるのなら麻痺か睡眠が欲しいところだが、ティアマト・マリスに麻痺がかかったのみだった。それでも大幅に弱体化できるので、そこをニオが旋律を奏でて補強する。

 

「私の旋律で、ゆっくりお休み」

 

 強化とはまた別の穏やかでゆったりとした旋律が奏でられ、思わず寝入ってしまいそうになった。ソーンのディプラビティによって弱体がかかりやすくなっていることもあってか、四体全てに彼女独自の弱体である、昏睡が付与された。昏睡状態は睡眠と同じく無防備な状態となって大きな隙を晒す上に、ちょっとやそっとのことでは目を覚まさないという強力な弱体である。

 

「クオーレ・ディ・レオーネ! さぁ皆、これで決めるよ!」

 

 剣光を最大まで上昇させていたシエテが奥義の威力を高める強化を全員にかけて、準備は整った。

 

「あちしからいっくよー! スーパーミラクルエクストラハイパーアタック!!」

 

 フュンフが特大の魔法をティアマト・マリスへと放つ。強大な光の奔流が現れた魔方陣から発射され、ティアマトの巨体を大きく後退させる。声にならない悲鳴を上げてティアマト・マリスが目を覚ました。

 

「ではトドメといくか。――捨狂神武器(しゃっきょうかぶき)!!」

 

 白波を蹴立てるような雄々しく振り回される髪で握った刀がティアマトの弱った身体を八つ裂きにする。ティアマト・マリスは消え去り、後には魔晶だけが残った。

 

「息を潜めて、研ぎ澄ます……。アストラルハウザー!!」

 

 ソーンは集中力を高めて強化を行うと上空に矢を放ち、矢は無数に増殖して降り注ぐと三体のマリスを同時に撃ち貫く。幸運に、と言うべきか三体共目覚めることはなかった。

 

「ネビリューサ・フリューデ」

 

 ニオの奏でる旋律が激しさを増し、応じて動き出したビット達が一斉にユグドラシル・マリスを襲った。本体ではなく触手を全て吹き飛ばすように動かしたのは、次へと繋げるため。

 

「助かるよ。――奥義、ディエス・ミル・エスパーダ!!」

 

 触手が再生し切る前にシエテが万にも及ぶ剣拓を一斉に放ち、その上放った端から補充して放ちを繰り返して剣拓の奔流をぶつける。触手は削られ成す術もなく、剣拓が本体まで到達する。確実に倒すまで放ち続けた結果、ユグドラシル・マリスは消滅した。

 

「じゃあ僕も少しだけ。天逆鉾(あめのさかほこ)!!」

 

 槍で放った一突きにウーノが持てる最大の攻撃力を込める。それは特大の一撃となってリヴァイアサンの胴を抉った。

 

「あっ! あたしの獲物なんだぞ! このっ、アストロ・スプレション!!」

 

 文字通りの横槍に文句を言いつつも、きっちり決めるところは決めるようだ。斧による渾身の一撃がリヴァイアサン・マリスを打ち据えると、長く大きな身体がのたうち回った。奥義の直後、サラーサの持つ斧が一人でに変形し巨大な剣へと姿を変える。

 奥義は渾身の一撃であるため直後の隙が大きくなるのだが、サラーサやオクトーなど奥義の連発を得意とする者も数少ないが存在していた。

 

「メテオ・スラスト!!」

 

 続け様にもう一度奥義を放つ。振り下ろした剣に合わせてどこからか隕石が落下してきて、リヴァイアサンの巨体に飛来した。熱気と衝撃を辺りに撒き散らして着弾した隕石は、リヴァイアサンを間違いなく仕留める。

 

「ラストオーダー。ダンス・マカブル!!」

 

 未だに眠りこけるミスラ・マリスへと赤雷を纏ったエッセルの銃弾が迫る。放たれた場所は一箇所だが、ミスラを四方八方から攻撃した。その一撃で目を覚ましたらしいミスラは損傷のある身体を修復しようとし始める。

 

「チッ。治される前に倒すぞ、人見知り暗殺者!」

「わかっている。遅れるなよ」

「てめえがな!」

 

 修復され切る前に決着をつけようと、戦っていた二人が同時に奥義を放つ。

 

「メメント・モリ」

「天地虚空夜叉千刃!!」

 

 死角から襲ったカトルの一撃がミスラにダメージを与え、その動きを遅くする。そこを三人に分身したのではないかと思うほどの残像を残したシスが、縦横無尽にミスラを切り刻む。カトルの奥義によってスロウがかかっていることもあり、その速度はより効果を発揮しミスラに修復し切れぬほどの損傷を与え、討伐した。

 

 これによってマリス四体全てが倒され、モノ言わぬ魔晶と化す。

 

「よし。これで俺達の勝利だね。……サラーサ」

 

 シエテが敵の反応がなくなったことに勝利を宣言したのだが、なぜか一人膝を突いている姿を見つけ声をかける。

 

「……あたしの、あたしの肉が……」

 

 どうやら食べる気満々だったリヴァイアサン・マリスが消えてしまったことを嘆いているらしい。なんとも“らしい”落ち込みに思わず笑ってしまう。

 

「サラーサ。今回協力してお礼に、シェロさんに頼んでいっぱいご飯奢ってもらおうよ。手助けした手前、彼女も嫌とは言えないんじゃないかな」

 

 シエテは落ち込む彼女へと言葉を放る。それを聞いてサラーサはがばっと立ち上がり目を輝かせてシエテを見る。

 

「ほ、ホントか……!?」

「うん。折角十天衆が皆揃ったんだし、団長ちゃん達が無事に戻ってきたら盛大にパーティでもやりたいよね。食べ放題騒ぎたい放題の」

「食べ放題……」

 

 シエテの言葉にサラーサの口から涎が垂れ始めていた。気が早い、と大半が苦笑する。

 そこへ招かれざる者が声をかけた。

 

「ったくよ。まだ終わってねぇってのに勝った後の話とか、呑気なもんだな。これから最前線行く身にもなってくれよ」

「「「っ!?」」」

 

 突如声をかけられたことでなぜここまで誰も接近に気づかなかったのかと警戒して、声のした方を向く。そこには黒いフードを被った黒髪の少年が立っていた。

 

「お前は……」

「ダナン君。こんなところにいたんだ?」

 

 シスが反応し、シエテが名前を呼んだことで不意を突いてシスを倒したという少年だと理解が広がっていく。そもそもシスの不意を突くということがどれほど難しいかという問題があるのだが。

 

「ああ。ちょっと吹っ飛ばされてな。寝てたんだ。終わったんならタワー登ったあいつらを追うべきじゃねぇのか?」

「それがそうもいかないんだよねぇ。俺達は確かに全空の脅威に対抗できる十人だけど、ルリアちゃんやビィ君みたいに必要で特別な能力は持ってない。余計な手出しは無用だよ」

「そうかい。まぁ俺は行ってくるとするわ」

 

 シエテと会話し、ダナンはひらひらと手を振ってタワーの方へと歩いていく。

 

「待て」

 

 しかしそれをシスが呼び止める。

 

「ん?」

「今はいい。だがこの戦いが終わったら、俺と再戦しろ」

「あ? あー……まぁ、生きてたらな」

「ああ。精々死ぬなよ」

「はいはい」

 

 ダナンとしては「あれ負けたと思ってんのかこいつ」と思い適当に流した。なにより今の戦いを見ていて全力で戦ったら瞬殺されるのが目に見えたので、しばらくは適当に誤魔化して避けようとは思っていたのだが。

 

「じゃあ、彼含めて皆が無事に出てくるのを、待っていようか。タワーの外にいる兵士達が彼らを追わないように、ね」

 

 シエテはタワーへ兵士達が集まることを警戒して、残るように指示し後を任せた若者達の行く末を案じるのだった。


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