ナンダーク・ファンタジー   作:砂城

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三連休ですがあんまり進む気がしない……。
ペルソナのせいです。


VSガンダルヴァ

 五階では室内だというのに暴風が吹き荒れていた。

 

「おらおらぁ!」

「はあぁ!」

 

 全力全開で戦うガンダルヴァとリーシャが原因だ。

 常人では目に追うことすらできない域の接近戦が繰り広げられている。

 

 しかもその一撃一撃は一般人を粉微塵に砕け散らせるだけの威力を持っていた。そんな強力な破壊の応酬を絶え間なく続けているのだ。これを暴風と呼ばずしてなんと呼ぶ。

 

(……強いとは思っていたが、ここまでとはな)

 

 共に戦うためにこの場に残ったカタリナだったが、二人の速度についていけるとは思わず静観することとなっていた。共闘と言えば聞こえはいいが、正直実力が開いていることもあって混ざるのは難しいだろうか。

 だが手は出さなければならない。戦いを見守るためにこの場に残ったのではないのだ。

 

 そして、現状リーシャが若干押されている。

 

 リーシャは周囲に風を放つことでガンダルヴァの動きを遅くし、風による強化で自身を高めている。だが相手に合わせて力を制限することなく最初から全力を出しているガンダルヴァの方が少しだけ速いようだ。百回打ち合ったら一回直撃するような僅かな差ではあったが、彼らほどの高みにいればその差は決定的である。

 リーシャもダメージを受けたらすぐ体勢を立て直して応急回復を行い凌いでいるが、押されているという事実は変わらない。

 

 つまりガンダルヴァを倒すには、リーシャの他に要素が必要だった。それをわかっていてカタリナが残ったというところはあるのだが、実際戦いを目の当たりにしてみて尻込みしてしまっているというのが現状だった。

 

 果たして自分はあの戦いに加わって、リーシャの足手纏いにならないのだろうか、と。

 

 戦いが始まる前は彼女についていけるのは団長二人を除いて二人だけだと考えていたのだが、現状を鑑みればどうだろう。ついていく前に傍観してしまっている。無論加勢し手助けしたいという気持ちはある。だが入っていったところで味方の足を引っ張っては意味がない。

 リーシャよりも自分が弱いという事実と、彼女がなんとか拮抗させている状況を悪い方向に変えてしまわないかという不安がカタリナを足踏みさせていた。

 だが動かなければ敗北するという確信も相俟って、動けずにいる。

 

「きゃあっ!」

 

 短い悲鳴が聞こえたかと思うとカタリナのすぐ横を通ってリーシャが後方の壁まで吹っ飛ばされていった。はっとしてガンダルヴァの追撃を警戒し身構える。しかし彼も余裕はないようで、乱れた呼吸を整える時間にするようだ。

 リーシャはすぐに立ち上がると応急処置を行いながら前へ進みカタリナの横まで戻ってきた。回復くらいは自分が、と思ったのだが。

 

「――カッコ良くしようとしなくていいんじゃないですか?」

「えっ?」

 

 不意なリーシャの言葉にきょとんとする。彼女は回復して衣服を払うと笑みを浮かべたままカタリナの方を見ずに言葉を続けた。

 

「ここにはルリアちゃんはいないんです。イオちゃんも、団長さん二人も。だったらカッコつけずに、無様でもいいから足掻いてみるといいと思うんです。カタリナさんは私に力を貸してくれると言いました。私はもう、あなたの力を借りると決めています」

「っ……」

「誰が見ているとか、自分が周りと比べてどうだとかをかなぐり捨てて。そしたらカタリナさんのやりたいことだけが残ると思うんです。もしカタリナさんが明確な意思と覚悟を持ってそれを実践してくれるなら、私は全力でやりたいことの手助けをしますよ」

 

 リーシャはそう言うと再び風を纏ってガンダルヴァへと向かってしまう。

 その後ろ姿を眺めながら、カタリナは苦笑してしまった。

 

(……いつの間にか精神的にも抜かされてしまっていたとはな)

 

 最初出会った時、リーシャは本当に船団長を任せてもいい人材なのだろうかと怪訝に思う部分も多かった。後進育成とは言うがまだモニカが船団長をやっていた方がいいような気がすると思ったものだ。

 実力自体には問題なかったのだが精神的に未熟な面が目立っていたように思う。しかし今、彼女の心は地に足が着いている状態だ。

 

 島の魔物を相手にすることさえ協力されることを嫌っていたというのに、翌日には騒動を鎮圧するためにむしろ力を貸して欲しいと申し出てきた。思わず仲間内で顔を見合わせたのは言うまでもない。

 それからも自信がないことが欠点ではあった。再び訪れたアマルティア島では一人で全員を相手できるガンダルヴァに敗北しまだ精神の問題が残っているようであった。しかしその翌日にははきはきした様子で作戦を立案し、一人でガンダルヴァと戦ってみせた。

 

 それらを経た今を見ればその成長振りは明らかだ。

 

「……私のやりたいことは簡単だ」

 

 ガンダルヴァをここで倒し、一刻も早くルリアの下へ駆けつける。その後フリーシアを止めてあの子を守る。

 ただそれだけのことを、これまでも続けてきたのだ。帝国に反旗を翻したあの日から変わっていない決意で今ここにいる。

 その信念をなにがなんでも通してみせると決めていたはずなのに、今こうして尻込みしていた。

 

 情けない、と自分を笑う。

 

 こんなわかり切ったことで悩む必要など、最初からなかったのだから。

 考えが変わるだけで頭の中がすっきりとしてくる。同時にいつかの老婆の言葉を思い出していた。

 

『主役に上がる心構えが必要だと思うね』

 

 様子を窺っていて言われた言葉だ。その言葉の意味を今身を以って理解した、のかもしれない。

 状況から一歩退いて考える必要はないということだ。無論そういった視点も重要なことはあるが、そんなことよりも大事な意志(モノ)がある。

 

 それがわかった今、こうして尻込みをしている場合ではない。

 カタリナは瞳に確かな決意を滾らせて剣を携え戦う二人の方へ駆けていく。

 

「リーシャ殿!」

 

 今加勢する、という強い意思を込めて呼んだ。僅かに振り返った口元にふっと笑みが浮かんだかと思うと、()が背中を押してくる。走る速さが一気に増して身体が軽くなったように感じた。視界に映る景色が一層目まぐるしく変わり、思っていたよりも早く二人の下へ辿り着く。

 

「チッ!」

 

 ガンダルヴァは舌打ちしてリーシャを強めに弾きカタリナを迎撃しようとする。しかし迷いのないカタリナの剣は隙間を縫って流れる水のようにガンダルヴァの剣を抜けて切っ先を身体へと迫らせた。軽い傷ぐらいならつけられるかと思われたが、突きを放った切っ先から敵の巨体を壁まで吹き飛ばすほどの強風が吹き荒れる。

 

「ぐおっ!」

 

 ガンダルヴァが呻く中、カタリナは怪訝な目を自らの剣へと向けた。視界の端でリーシャが薄く笑ったのが見えて顔を向ける。

 

「すみません、ちょっと細工させてもらいました。でもほら、カタリナさんの剣も充分ガンダルヴァに届くでしょう?」

 

 悪戯っぽく微笑んで小さく舌を出す彼女に、カタリナは思わず苦笑してしまった。名前を呼んでから接近するまでの僅かな間に仕かけていたのかと納得しかけて、否定する。突然のことだったが素早く対応した、のではなく()()()()()()()()()()()から事前に準備していたのだろう。

 

(全く、敵わないな)

 

 思い返してみると出会った当初以外優位に立ったことがないのではないかと思ってしまう。だがそれでもいい。そんなリーシャでも一人ではガンダルヴァに打ち勝つのが難しいのだ。なら最善の結果を目指すために、彼女の手を借りてでもガンダルヴァに勝利することが重要だ。

 

「すまなかった、()()()()。不甲斐ないところを見せてしまったな」

 

 改めて敬称を取っ払い、謝っておかなければ気が済まないため謝罪を口にする。

 

「いえ。未熟なのは私も同じですし。当然ですけど、カタリナさんの方が剣の練度は上ですからね。頼りにしてますよ」

「ああ。任せてくれ」

 

 並び立った二人へとガンダルヴァが突撃してくる。

 

「ライトウォール・ディバイド」

 

 細かく分けた障壁を出現させ、二枚重ねて太刀を受け切った。その間にリーシャが迫り剣を振るう。巨体を屈めて回避し足払いを仕かけてきたのをカタリナが残りの障壁で受けた。

 

「小賢しいもんだな!」

「生憎、堅実すぎると柔軟性に欠けると思い知ってな」

「そりゃそうだな!」

 

 立ち上がったガンダルヴァは二人を相手に拮抗する、のも僅かな間のみでリーシャと互角より少し上程度の力では対応し切れず押されていく。

 彼が内心で「もっと、もっと強く……!」と願っていても現実は無情なモノで、押され傷が増えていった。

 

 カタリナが参戦したことによってリーシャに少し余裕ができたため、風を読み取って味方の動きを把握し完璧な連携を演じることができている。

 故に全力以上を出し切るカタリナとリーシャに敗北するのは必至だった。

 

 それは意地や矜持だけで埋められる差ではない。

 力の差が明確になり、ガンダルヴァに傷が増えていった。

 

 そして幾度か剣を交えた後にガンダルヴァの太刀が大きく弾かれる。彼の目には剣を振り被った二人の姿が映し出された。

 

「……クソッ」

 

 届かなかったことに表情を歪めて吐き捨て、

 

「「はあぁ!!」」

 

 カタリナとリーシャが同時に放った突きで吹き飛ばされる。なす術もなく壁にぶち当たり、壁を破壊した次の壁に衝突し受け身を取る余裕もなく四枚目の壁に激突して停止した。

 

「……かはっ」

 

 力なく吐血し勢いを失ったことで地面に倒れ伏す姿は、完全に敗北者のそれだった。

 

「……個は無力、だからこそ共に戦う、か」

 

 以前所属していた秩序の騎空団で同僚が口にしていた言葉だ。仲間だとか協力だとかそんなモノ必要ないと切り捨ててきたが、彼の前に立ちはだかってきたのは常に“その力”を持った者達だった。

 ヴァルフリートとの一騎討ちでさえも真王から賜った力の存在がある。リーシャも結局はモニカの力を借りた。とはいえヴァルフリートが七曜の騎士でなくともガンダルヴァより強いというのは否定できない。

 

 今、彼の懐にはフリーシアが無理矢理持たせてきた魔晶が入っている。それを使えば二人を殺し、それどころか先に行った者達もまとめて始末できるだろう。

 だがそれはしない。

 

 魔晶を使うという行為はガンダルヴァという男の矜持を捻じ曲げるということ。使った時はきっと、彼がなにがなんでも勝ちたい相手に遭遇した時だろう。矜持をかなぐり捨てて挑む相手が出来た時だ。

 しかしガンダルヴァは是が非でも己の力のみで最強を示さなければならない。

 

「……だが、オレ様も落ちぶれたもんだ。こんな短い期間に何度も負けちまうとは、な」

 

 個の力で言えば彼は最強に近い。誰かに借りた力を除けば個の最強は十天衆が挙げられるだろう。

 この後どうなるかはわからないが、己を高める旅に出なければならない。いつか個の力を高めた先にいる十天衆、“刀神”オクトーとも手合わせしたいモノだと思いながら、意識を落とした。

 

 その機会が早い内に訪れることを知らずに。

 

「……なんで負けたのに、この人は穏やかな顔をしてるんでしょうね」

「さぁな。私が彼について知っていることなどほとんどないからな。精々、部下に慕われてはいたということだけだ」

「まぁ確かに、味方を苛立って撃ったり、目的のために帝都全住民を犠牲にしたりするようなことはしてませんからね」

「そうだな。……そういう意味ではポンメルンと、ここにいない私の元上官は比較的まともな部類だったのでは?」

「もちろん帝国では、の話でしょうけどね」

 

 反撃の一手を打ってこないかと警戒しガンダルヴァの飛んでいった方へ来ていた二人は好き勝手言い合っていた。

 意識を失ったガンダルヴァはやけに穏やかな顔で倒れていたのだ。負かしたはずなのに達成感が削がれるというモノだ。

 

「彼は後程、モニカさん達に捕らえてもらいましょう。私達はできるだけ早く……いえ。少し休んでからにしましょう。流石に、疲れました」

「そうだな。この状態では足手纏いになりかねん。休息しよう」

 

 全力で戦っている間は気にならなかったが、意識すると途端に身体が重くなったように感じる。

 ガンダルヴァから離れた上階へと続く階段の近くで壁に寄りかかって座り込んだ。

 

「……すみません、少し、休憩します……」

 

 ゆっくりできる状況になったせいかリーシャを強い睡魔が襲う。

 

「まぁ、全力を出しながら私の戦いまでフォローしていたからな。疲労しているのも無理はない。私が見張っているから、ゆっくり休むといい」

 

 そんな様子に苦笑したカタリナの言葉を聞き終わったかどうかすら怪しい内にリーシャは瞼を落とし小さな寝息を立て始めた。

 

「……私ももっと、強くならなければいけないな」

 

 三つ年下である彼女におんぶに抱っこの状態で戦うことになってしまった。無論カタリナがいなければガンダルヴァを倒せなかったという事実はあるが、この体たらくでいていいわけがない。

 

 そんな風に決意を固め自分も身体を休めているところに、階段を上がってくる足音が聞こえてきた。

 先に入ったはずなのにタワーから落とされて始めからやり直すことになってしまったダナンだ。

 

「流石。強いって話だったが中将を退けるとはな」

 

 カタリナの目から見ても、装備が良くなっているとはいえ変わった様子は見られない。あんな別れ方をしたというのに平然と合流してくる点にも、相変わらずだと思うくらいだ。

 

「リーシャのおかげだ。私は正直、力不足だった」

「そっか。……呑気に寝やがって。ま、そんだけ頑張ったってことだな」

 

 カタリナの答えには適当な返しをしたが、座り込んで眠っているリーシャを見ると笑みを浮かべた。それは普段のにやにやした笑みではなく、それこそオルキスに向けるような優しげな笑みだった。普段からそういう風に接してやればいいモノを、と思わないでもない。

 

「じゃ、適度に休んだら来てくれ。ほいポーション」

「ああ、助かる。……というかやはり来たのだな。黒騎士は随分と憤っていたようだが」

「そりゃな。まぁ援軍を期待して気を緩めてもらっても困るってことにしとくれ」

 

 ひらひらと手を振って上の階へと上がっていくダナンだったが、ふと足を止めて振り返った。

 

「……やっぱりリーシャの顔に落書きでもしとこうかな」

「……貴殿は一度刺された方がいいのでは」


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