ナンダーク・ファンタジー   作:砂城

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野望を止めて

 エルステ帝国、帝都アガスティアが誇るタワーの六階の戦いは数分で決着した。

 

「ぶっ殺してやる!」

 

 なにを目的としているかわからないロキと、彼に付き従う星晶獣フェンリル。その二人を相手にしている黒騎士の戦いだ。

 

「……ふん」

 

 突っ込んできたフェンリルの首根っこをあっさり掴むと、黒騎士は力任せにぶん投げた。投げた先に佇むロキは黒騎士の考えでは避けると思っていたのだが、予想に反してフェンリルの身体を抱き止める。

 

「クソッ! フローズンヴィニトル!」

 

 フェンリルはロキに構わず氷のトゲを乱射するが、剣を持っていない方の左手から発せられた炎の壁に阻まれてしまう。

 

「……流石に強いね。一応、この間はフェンリルだけで彼らと戦えてたんだけど」

「ふん。あの後劇的に強くなったのだから指標にはならんな。なにより連中が全員でかかろうとも、私を倒すことはできない」

 

 内心で今はわからないが、と付け足したのは彼らには伝わらない。

 

「嫌になるね。でもまぁ、もうちょっと頑張ってみようか、フェンリル」

「当たり前だ。……鎖外さねぇなら手を貸せ、ロキ」

「うん、いいよ。元よりそのつもりだ」

 

 ロキの傍に屈んだフェンリルが狼の遠吠えに近い咆哮を行うと、空気が凍てつき室内に霜が降りた。

 

「喰らえッ!」

 

 冷気で満たされた室内の天井と床から牙のようなモノが生えてくる。氷そのモノが黒騎士を噛み砕こうとしているような光景だったが、

 

「温いな」

 

 黒騎士は右足を振り上げて渾身の力で床を踏みつけ地ならしを行う。するとあまりの振動に凍てついた室内の霜が払われ氷の牙も粉砕された。

 

「チッ!」

 

 やはり直接攻撃しか、とフェンリルが駆け出す。黒騎士の姿が消えたか見えなくなったかと思うと駆けるフェンリルの背後に回っていた。足首を掴むと風切り音が鳴るほどの速度でぶん回し背中から床へ叩きつける。床が陥没するほどの膂力で叩きつけられたフェンリルは肺からほとんどの空気を一気に吐き出した。

 直後ロキの魔法が乱れ飛んでくるが、叩きつけたフェンリルの腹を踏みつけて動きを封じた上で剣を振るい魔法を薙ぎ払う。そのままフェンリルに凍らされる前にロキへと迫り剣を振るった。

 

 直前で転移したロキは同じ転移によってフェンリルを傍らに回収している。

 

「……強いね、七曜の騎士は」

「時間稼ぎに付き合う義理はない」

「それもそうだよね。だって、世界の存亡が懸かってるんだし」

 

 一人を残して先に進む、などというお遊びの如くタワーを登らせてきたロキだが、今もそのスタンスは変えないらしい。

 

「わかっているなら大人しく倒されろ」

「もう少し付き合って欲しいんだけど」

「食い殺してやる!」

 

 戦力に差はあるが戦う気はあるらしい二人の様子に嘆息し、左手に赤、青、緑、茶という四色の玉を出現させた。

 

「まとめて消し飛ぶがいい。――クアッドスペル」

 

 黒騎士が四つの玉を一箇所に集め特大の魔力の奔流を放つ。避ける隙間のない一撃にロキ達は反対方向へ転移するのだが、

 

「黒鳳刃・月影」

 

 もう片方の手で奥義を放ち反対側を闇の奔流で埋め尽くす。……強引な手だがこの階には避ける場所のない攻撃だった。転移などという便利極まりない行為がそう何度も使えるわけがないと踏んで、余力の続く限り同じことを繰り返していれば追い詰められる、という大分大雑把且つ脳筋な作戦だったのだが。

 

「……ああもうホント、七曜の騎士は桁違いだね」

 

 微妙に掠れてはいたが間違いなくロキの声だ。転移して戻ってきた、というわけではないのだろう。彼の前にはボロボロになったフェンリルが立っていた。隙あらば噛みつきそうな態度ではあるが、意外と主人を守るだけの忠誠は持っているのかもしれない。

 

「終わりだな」

 

 黒騎士は声色を変えずに告げる。ロキ一人で黒騎士を抑えられるとは思えない。転移をし続けられるなら兎も角。

 

「……すまねぇ、ロキ……」

 

 最後に一言そう呟いたフェンリルがばたりと倒れた。身を呈して守った結果力尽きてしまったようだ。そんなフェンリルと変わらないように見える瞳で見下ろしたロキは、一度瞬きすると肩を竦めて見せた。

 

「フェンリルをあっさり、か。まだ君と戦うには早かったかな」

「全力で立ち塞がったなら話は別だろう。フェンリルを縛る鎖、力を制限するモノだな。お遊び気分でいるなら、私に勝てるはずもない」

「なるほどね。じゃあ僕達はここまでにしておくよ。またいつか、もしこの世界を救えたならまた戦おう。あの子達にもそう伝えといて。――いつか、世界の命運を懸けてね」

 

 終始薄ら笑いを浮かべたままのロキは、光を放ち倒れたフェンリルと共にどこかへ転移していった。

 

「……ふん」

 

 呆気なく撤退した、と見せかけて後ろから襲ってくる可能性も考えたが気配が完全に消えている。準備運動にもならなかったかとつまらなさそうに鼻を鳴らして剣を腰に収めた。

 

 大して死闘にもならなかったので余力は充分にある。下の階に残った連中を心配する義理もない。いざとなれば、余裕だと思われるタワー前の十天衆達と傭兵コンビがフォローするだろう。あとは()()()()……と考えかけて思考を止める。余計な期待はしなくていい。なにより今の戦力でも問題なく突破できるはずだ。

 そしてそのままつかつかと階段を上がっていく。

 

 階段を上り切るとそこには、倒れ伏した傷だらけのフリーシアと見送ったグラン達がいた。

 

「もう終わっていたか」

 

 自分の存在に気づかせる意味も含めて声をかける。

 

「……アポロ。怪我はない?」

 

 とてとてと駆け寄ってきたオルキスに尋ねられた。

 

「問題ない。向こうが本気ではなかったとはいえ、相手にならんな」

「……ん。良かった」

 

 黒騎士の堂々とした答えにオルキスは薄く微笑む。随分と感情がわかりやすくなったモノだと思いつつ、今はフリーシアのことだと言い聞かせて傷だらけの彼女に歩み寄った。

 

「無様だな、フリーシア」

「……く、ろ騎士……っ」

 

 血に塗れて倒れ伏す宰相の瞳からは光が消えたわけではなかった。だが元々戦闘員ではない彼女がその傷で動けるとは思えない。

 

「これからリアクターを止める。それで貴様の野望は潰えるというわけだ」

「……」

「大人しく指を咥えているといい。十年前に貴様がしでかしたことの重さを感じながらな」

 

 黒騎士はそう告げると興味を失ったようにフリーシアから目を逸らす。

 

「行くぞ。全てを終わらせる」

「「はいっ」」

 

 黒騎士の言葉に二人の団長が揃って頷いた。

 そして黒騎士を加えた七人は八階へ続く階段を上がっていくのだった。

 

 階段を上がった先にはぶち抜きの空間が広がっている。その代わりに巨大な装置が壁を覆うように鎮座していた。今もごうんごうんと音を立てて稼働しており、休むことなく冷却装置が働いている。

 

「これが、リアクター……?」

 

 イオが巨大な装置を見上げて呆然としていた。高さにして十メートルはある装置が鎮座していれば呆けたりもする。

 

「……うん。感じるよ、ここにたくさんの魔晶があるから」

「……ん。間違い、ない」

 

 特殊な力を持つルリアとオルキスが確かな魔晶の気配を感じ取り、イオの疑問を肯定した。

 

「じゃあこれを破壊すれば」

「うん。早速やろう」

 

 フリーシアの野望を阻むにはオルキスの確保とリアクターの破壊が必須だ。各々が武器を構えてリアクターを修復不可能なくらいに壊そうとする。

 だがフリーシアが計画に重要な装置を裸で置いておくわけがなかった。

 

「敵性反応アリ。敵性反応アリ。警備システムヲ起動シマス。従業員ハ直チニ避難シテクダサイ。警備システムを作動シマス」

 

 抑揚のない無機質な女性の声のようなモノが聞こえたかと思うと、警報が鳴り響き赤いランプに室内が照らされる。装置のあちこちに取りつけられていたらしい兵器達がじゃこん、と顔を出していく。いくつもの銃身が束になった重火器から近接用らしき腕のついたブレードまで飛び出してきた。

 

「うげっ!」

 

 星の力だとか魔晶だとか関係ないただただ凶悪な兵器の出現にビィが嫌そうな声を上げる。

 

「ふん。この程度が今更脅威になるはずがないだろう」

「いや、だってよぅ……」

 

 渋るビィの不安を拭うようにグランとジータの二人が前に出た。

 

「大丈夫。破壊は僕達で、ルリアはティアマトかなにかで皆を守って。イオは全体のフォローをお願い」

「こういう時こそ【ウォーロック】の出番だよね」

 

 ベルセルク・オクスを担いだグランとデモンズシャフトを掲げたジータの焦りを一切感じさせない声にビィの不安が霧散した。

 

「今更怖気づくことはない。一気に片づける」

 

 黒騎士は言い放つとリアクターを破壊するために行動を開始した。

 黒騎士が渾身の奥義を放てば巨大な装置が兵器ごと半壊するので、思いの外あっさりと終わった。しかし八割方破壊したというところで、びーびーと耳障りな警報が鳴り始めた。

 

「……損傷率八〇%ヲ超過。システムノ正常起動ニ支障。警備システム最終段階ヘ移行――不可。破損ニヨリ駆動デキズ。主流システム――エラー。サブシステム――エラー。エラー、エラーエラーエラーエラーERROR。ERRRRRORRRRRRRRRRRRRRR――」

「お、おい! なんかヤベぇぞ!」

 

 煙を噴き上げながら壊れかけのリアクターが残った兵器をぶっ放した。しかし今までのような狙いを定めた銃撃ではない。主砲と思われるレーザーは天井へ放たれ、瓦礫を降らしてきた。

 

「きゃっ!」

「チッ。暴走を始めたか。一思いに壊して――」

 

 黒騎士が残った二割を消し飛ばそうと剣を構えた時、少し離れた位置にかつんかつんというヒールらしき靴の足音が聞こえてきた。ヒールか? と考えて誰が該当するかを思い浮かべえはっとし音の出所を振り返る。

 

「フリーシアッ!」

 

 そこには、傷だらけの状態ではあったが壁に手を突きよろよろと部屋を歩いている彼女の姿があった。黒騎士の声に気づかれたことを悟ったのかフリーシアは無理を押して階段へ走りそのまま駆け上がっていってしまう。

 

「くっ! まだ動くだけの余力があったか……!」

「まだ策があるとは思えないけど、追った方がいいんじゃない!?」

 

 トドメを刺しておくべきだったかと黒騎士が悔やむ中、イオが懸念を口にする。満身創痍ではあるが無理に魔晶を使って再生すれば立ち塞がることができるだろう。それなら後ろから襲えば誰か一人でも殺れた可能性はあるので、まだなにかあるのではないかという推測が有力だ。

 

「破壊。粉砕。裂傷。死ナバモロトモ。自爆フェーズへ移行シマス」

「自爆だと? ……あの女のことだ。このタワーを吹き飛ばすくらいの威力は想定した方がいいか」

「なっ!? じゃあどうすれば……!」

 

 暴走を続けるリアクターの警備システムの対処とフリーシアの追跡。できればどちらにも対処したいところだが。

 縦横無尽に放たれるレーザーが迫ってきているのを、

 

「【ホーリーセイバー】、ファランクス!」

 

 ジータが重厚な鎧に身を包んで障壁を展開し防ぐ。

 

「今の内に行って!」

 

 レーザーが逸れてもジータだけはリアクターから目を逸らさない。

 

「ジータ!?」

「自爆する前に完全に破壊するから! グラン達はフリーシアさんを追って! あの人は逃がしちゃいけない!」

 

 フリーシアのような頭の回る人物は時間を置かせるのが一番危険だ。それを理解しているからこそ、最高戦力である黒騎士と鍵を握るルリア、ビィ、オルキスを先に行かせたかった。ルリアが行くならグランも一緒の方がいい。だからと言って年下のイオにこの場を任せるようなことはしたくない。

 そういう彼女の思いが起こさせた行動だ。

 

 他が動くまでは攻撃から守ることに集中するらしく視線を走らせる妹の横顔を見て、グランはわかってしまった。

 

「一度こうと決めたら動かないもんな、ジータは」

「だな。そういうとこばっか似てるんだ」

 

 昔から知っているグランとビィは苦笑して言い、リアクターから背を向け上へ続く階段に足を向ける。

 

「行こう。ここはジータに任せておけば、大丈夫」

「グラン……」

 

 最も心配しているであろう彼の言葉に、他は追従するしかない。せめてもの声援を送ってからフリーシアの上がっていった階段へと向かった。ファランクスで彼らを守りつつ見送ったジータは【ホーリーセイバー】を解くと落としておいたデモンズシャフトを拾い上げる。顔を上げれば暴走するリアクターが残ったレーザーや銃火器を乱射している。

 

「……よし、やろう。【ウォーロック】」

 

 自爆までの時間がどれほどなのかはわからないが、短期で決着をつける必要がある。ジータが得意としていて、最大の火力を誇るのは間違いなく【ウォーロック】だ。

 

「エーテルブラスト」

 

 魔力の奔流を放つ。暴走しているせいか迎撃という行動には出ず直撃した。今までであればエーテルブラストでも壊せていたのだが、手応えが薄い。いやこの場合は手応えありと言った方がいいのか。

 エーテルブラストによって表面の装甲が剥がれた奥には他の部分とは異なり頑強そうな黒い装甲があった。

 

「あった……!」

 

 ジータが探していたのはそれだった。リアクターのコア。リアクターを動かすのに必要不可欠な部位。当然ながら他の部分より頑丈に守られてはいるようだったが、残り短時間でそこを裂いて中にあるであろうコアを破壊さえしてしまえば、リアクターは完全に停止する。

 

「コアヘノ衝撃ヲ感知。最終防衛システムヲ起動」

 

 最後の防壁が露出したからだろう。じゃこん、とレーザーを発射する砲口は四つ姿を現した。その部分はまともに動いているのかジータに狙いを定めている。

 

「っ、エーテルブラスト!」

 

 四つのレーザーに対抗するが、押し切れず押され返されることもない。

 

(負けはしないけどこれじゃ攻撃が通らない!)

 

 いつ流れ弾が跳んでくるかわからないこの状況ではフォーカスを行うことも難しい。通常撃てるエーテルブラストであっても押せないとなると、別の手段が必要だ。

 奥義でも確実にコアを守る壁を破壊するにはレーザーに阻まれては無理だろう。

 

 そう考えてからの行動は早かった。ジータはデモンズシャフトを投げ捨てると迫ってきた四つのレーザーを回避する。【ウォーロック】の『ジョブ』は杖だけを得意とするのではない。短剣も得意とする、近接戦闘もいける魔法攻撃主体の『ジョブ』なのだ。

 ジータは腰の後ろに提げてあった黄金に輝く短剣を手に取る――天星器の一つ、四天刃である。

 

 これは老婆から聞いた話だが、ClassⅣは使いこなせるようになれば専用の武器を使わなくても使えるようになる。それだとまた制御が難しくなる上専用武器も強いので問題ないと踏んでいたのだが。

 この話を聞いた時二人揃って「じゃあClassⅣで天星器を使えるようになれば最強じゃん!」と思い試して身体にかかる負荷を受け這い蹲ることになったのは記憶に新しい。

 

「うっ、ぐぅ……!」

 

 専用武器はClassⅣを扱えるように補助をする役目を持っている。それがなくなった状態で、更に扱いの難しい武器を装備すれば当然難易度は跳ね上がった。

 ジータは身体にかかる負荷に顔を顰めながらもレーザーや銃弾を掻い潜ってコアのある場所を目指す。

 

「ブラックヘイズ!」

 

 【ウォーロック】固有の魔法を発動すると辺りが黒い霧のようなモノに包まれる。これによって敵の視界を潰し、毒を与え、更には弱体化させるのだ。今回の敵は装置なので暗闇と毒は効果がないが、銃弾が暴発するリアクターに接近して攻撃するなら弱体化させて確実に決めた方がいい。チャンスがそう多いわけではないだろう。

 

「チェイサー」

 

 攻撃に追随する刃を形成する。銃弾の雨やレーザーを避けて進みながら、四天刃へと魔力を集中させていく。一撃で断ち切るつもりだ。

 

 コアを守る装甲まであと五メートル。銃身がいくつもついた兵器が偶然こちらを向いていて銃弾を乱射してくる。身を翻して避けると身体には当たらなかったが衣装に穴が空いた。レーザーが横向きに放たれたまま進んでくるのを跳躍して回避すると眼前に黒い装甲が見えた。

 

「……ふっ!」

 

 暴発する兵器の懐に潜り込むという危険度の高い行為を最低限の行動で手早く済ませる。そのためにジータが考えたのは、渾身の一撃で切りつけるというモノだった。

 こちらを狙ってこない銃弾を予測するのは難しい。奥義の発動最中に撃たれれば「なんの成果も得られませんでした!」と涙ながらに倒れ伏すことになるだろう。

 

 故に魔力を集中させた四天刃で黒い装甲を切り裂いた。追随する刃も相俟って装甲が裂けて中から煌々と輝く赤い球体が姿を現した。つまり、刃はコアに届いていない。

 

「っ!?」

 

 止めらないリアクターの暴走を確認してすぐに二発目を叩き込もうとしたが、その時彼女の死角にあった銃器がくるんと向きを変えた。

 予想だにしていない攻撃を、まともに受けてしまう。

 

 鉛弾が柔肌を貫き血を滴らせる。

 

「ぐ、あぁ……」

 

 治療は後だ。今は気合いで、歯を食い縛って、コアを破壊しなければ。必死の形相で赤い球体を睨むジータの腹を打ち据えるモノがあった。身体がくの字に折れて吹き飛んでいく。堪らず空気を吐き出したジータの視界には先端が切断された細いアームがあった。元々はブレードをつけていたモノだ。

 受け身も取れず地面に叩きつけられ跳ねる。その間に回っていたレーザーが右の脇腹を抉った。

 

「……ごほっ」

 

 ようやく勢いが弱まり床にうつ伏せになる形で倒れるジータ。抉れた脇腹から絶え間なく血が流れ瀕死の状態になったために【ウォーロック】の姿が解除された。

 

 身体から力が抜けていく。

 

 体温まで失っていくようだ。武器は既に手元になく、喉奥からせり上がってきた血を吐き出すと口の中いっぱいに錆ついた鉄のような味が広がった。

 

(……ごめんね、皆)

 

 薄れゆく意識の中で先に行かせた仲間達を想う。それはここで息絶えることへの謝罪か、それともリアクターを自爆前に破壊できなかったことへの謝罪か。

 暴走の中にあって彼女の小さくなっていく生体反応を感知したのか四つのレーザーを向けてきた。砲口に光が集束していく。発射されるまでの時間は死への秒読み、回避不能のカウントダウン。

 

 抵抗する手立てが残っていないジータは重くなってきた瞼を閉じる。そしてやがて訪れる死を静かに待った。

 

 ――しかし。

 

「ファランクスッ!」

 

 気迫の込められた声が聞こえてくる。はっとして思わず瞼を持ち上げてなんとか声のした方を確認すると、そこには黒い鎧に身を包んだ黒髪の少年の背中があった。

 

「――……」

「戦士交代だ。大人しく寝てろ。……すぐに片づけてやる」

 

 呆然とするジータを振り返らず、普段の軽い様子もない言葉だけを放る。

 

「……」

 

 ジータは彼の言葉を聞いてから、今度こそ瞼を落とし意識を失った。

 ただし諦観ではなく、安心を抱いてのことだったが。




タイミングがいいのも主人公の資質(って何回言ってるんだろうか)

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