あと今更ですが本編重要キャラのフリーシアさんは割かし端折ってます。ごめんなさい。
「やぁ、君がダナンかな?」
よくわからんがタワーを上がっていったらグランの仲間やらを見かけたので救助したりしなかったりしながらようやく六階まで来た、のだが。
そこで待ち構えていたのは珍しい衣装を着込んだ肌の白い少年だった。傍には手を鎖で雁字搦めにされた青髪の少女もいる。耳と尻尾があって目つきが悪く唸ってくるので狼を連想した。
「誰だ?」
しかし見覚えはない。というかなぜこいつらだけここにいるのか不思議だ。いや、よく見ると傷がある。既に誰かと戦闘をした後、なのか?
「僕はロキ。この子は星晶獣のフェンリル。ああ、心配しなくても君と戦うつもりはないよ?」
ロキと名乗った少年は薄ら笑いを浮かべて言ってきた。
「酷いなぁ。僕も一応空の世界の敵を自称してるけど、躊躇なく撃つかな、普通?」
「いや、悪い悪い。俺の勘が、とりあえずお前殺しといた方がいいって言うからさ」
「……君ホントに世界を救いに来たの?」
「空の世界の敵とか自称してるヤツに言われたかねぇよ」
とりあえず『ジョブ』なしで勝てるような相手じゃないってことはわかった。俺は銃を戻してローブのポケットに手を突っ込む。
「で、わざわざ俺になんの用だ? 見たところ誰かさんに負けたとこだろ? そんなてめえらが俺を待ってたってことは余程大事な用があるんだろうな。言っとくが空の世界の敵さんよ。俺は世界なんかどうでもいいぜ」
薄ら笑いを湛えた、自称・空の世界の敵なんて怪しすぎる。星晶獣を連れていることもあるが、とりあえずこの短い間に得られた情報だけでも碌な人物じゃないのはよくわかった。……まぁそれは向こうから見た俺も同じかもしれないが。
「わかってるよ。空の世界の敵としての宣戦布告は、既に済ませてあるんだ」
「ん? ああ、今上にいる連中か。なるほど、そりゃ宿敵だな。まぁ精々頑張ってくれ。俺と敵対するようなことがなきゃなにもしねぇよ」
「うん、やっぱり君は面白いね。僕の考えは間違ってなかった。そうは思わないかい、フェンリル?」
「……はっ。知るかよ。どうせなに言ったってやるんだろ? なら勝手にしろよ」
なんかこいつらって仲間って言っていい関係なのか怪しいところがあるよな。信頼はしてる、みたいなんだが。
「そうだ。それで本題なんだけど」
ロキは薄ら笑いを深めて俺の方に手を差し出してきた。
「ダナン。僕の仲間にならないかな?」
……は?
「世界なんてどうでもいいと言える人間性に加えて、その特異な能力。……うん。やっぱり面白いよ。是非仲間に入れたいね。なにせあの双子と同じ能力を持った君だ。そんな君が敵の側にいる――面白い展開だと思わない?」
底の見えない笑みに心から楽しそうに語っていることがわかる程度の変化が加わる。……なに言ってるかわかんねぇ、が。要約するとあいつらと同じ能力を持ってる俺を仲間に引き入れたい、ってことでいいんだよな?
「……意味わかんねぇことは多いんだが、まぁ断るよな。お前みたいな得体の知れないヤツを組む気はねぇ」
「そっか。残念、振られちゃったみたいだよフェンリル」
「なんでオレが振られたみたいに言ってんだよ」
「……お前らもしかして仲いい?」
言い合うロキとフェンリルに尋ねると、ロキは真意の読めない薄ら笑いで、フェンリルは心底嫌そうな顰めっ面で答えた。
「もちろん。僕とフェンリルは絆で繋がった仲間だよ」
「ふざけんな。鎖がなけりゃ喉笛喰い千切ってやるところだ」
互いに答えて顔を見合わせる。
「酷いなぁ、フェンリル。そんな風に思ってたなんて」
「てめえこそなんだその思ってもねぇ言葉は」
ロキは変わらないがフェンリルはがるると唸っている。……やっぱりこいつら仲いいんじゃね?
「……ま、いいや。考えは変わらないかな?」
気を取り直してロキが聞いてきた。さっきの仲間の話だろう。
「ああ、もちろんだ。俺は世界のことなんざどうでもいいが、助けてやりたいヤツはいるんでな。まぁだがあいつらの仲間になる気はねぇよ」
「へぇ? じゃあ君は今後どうするつもりなのかな? 僕としては予定がないなら是非、と思うんだけど」
「はっ。これからのことなんて考える余裕はねぇよ。もし無事に明日を迎えられたら、また考えるさ。まぁ少なくともてめえの仲間にならないことは確定だ」
「釣れないなぁ」
当然の返答だ。
こいつが信用できないってのも理由の一つだが、こいつの得体の知れなさから伝わってくるのだ。
こいつとは“仲間”になれない、って。
見てて面白いとかそういうのはあるかもしれないが、こいつとドランクのように友達になれるかと聞かれれば否と答えられる。少なくともこいつが、自分の奥底に持ってるモノを曝け出そうとしない限りは。
「断っておいてなんだが、なんで仲間を集めてる? まさかあいつらを見て人恋しくなったとかそんなんじゃねぇよな?」
「まさか。君が彼らの敵に回った方が、楽しそうだと思ってね。折角だから騎空団でも起ち上げようかと」
「ほう?」
「まぁでも、聞いてくれそうにないから今日は大人しく引くことにするよ」
「二度と来なくていいっての」
話は終わったのかロキとフェンリルを光が包んでいく。
「じゃあまた。君とはこれで終わりじゃないと思うんだ。あと気が変わったらいつでも、歓迎するよ」
薄ら笑いを引っ込めないままどこかへ消えていった。……なんだったんだあいつら。
警戒は一応したままだったが完全に消えていることを確認しただけだった。
「騎空団、ねぇ」
そんなことを言われても実感が湧かない。だが知らない世界を見て回るのも楽しいかなとは思っている。だがあいつらの団に入れてもらうのは嫌だし、ロキも同じだ。かと言ってあんな特殊な連中を知っているせいでそんじょそこらの騎空団じゃ満足できなくなる可能性が高い。というか団長なら俺より強いヤツじゃねぇとな。黒騎士が団起ち上げてくれたら楽なんだがなぁ。
「……まぁ、いいや。先のことなんか考えても仕方がねぇ。どうせ今を乗り越えなきゃない話だしな」
俺は考えるのをやめて七階に続く階段を上がる……誰もいねぇな。戦闘痕はあるから戦ってはいたんだろうが。
じゃあ次、と八階の階段下から上を見上げると上から赤い光と警報が鳴っているのが聞こえてきた。なんかマズい状況なんじゃ、と少し慌てて駆け上がると案の定、床に血塗れで倒れるジータとジータに狙いをつけたらしいレーザー四つが放たれようとしているところだった。……なんて状況だよクソったれ。
「【ホーリーセイバー】」
『ジョブ』を変えながらジータとレーザーの間に割って入るように構える。そしてファランクスを展開しレーザーを防ぐ、と危ねぇな。階段を悠長に歩いて上ってきてたら間に合わなかったぞ。
「――……」
まだ息はあるのか、微かに息を漏らす音が聞こえてきた。
「戦士交代だ。大人しく寝てろ。……すぐに片づけてやる」
一応グラン一行の中では最も気の合うヤツだしな。グランの武器召喚が羨ましい同盟とでも名づけておくか。
だからまぁ、なんだ。
「死なせやしねぇよ」
残念ながらぱっと見たところ無差別に攻撃してるみたいだし、意識のない状態で放置したって撃たれる可能性がある。カッコつかないがちょっとだけ死んでいてもらおう。最悪のパターンはジータを治してる間に俺も撃たれて共倒れだ。
「……俺の余力的に、リヴァイヴで蘇生できる限界は一分ってとこか」
流石に完全回復とはいっていない。リヴァイヴは死者蘇生を可能とするとんでもない魔法だが、生き返らせることのできる範囲には時間制限がある。あと身体の損傷だな。俺が今のジータを蘇生できるのは一分だけ。
「つまりそれまでにこいつぶっ壊せばいいってことだな」
「自爆フェーズ完了マデ残リ三〇秒」
「は!?」
一分の制限時間が半分にまで短縮された。……ふざけてやがる。
「魔力を温存してこいつをあと三十秒足らずでぶっ壊せってか! やりゃいいんだろ!?」
半ば自棄になって【アサシン】を使用する。わざわざ言うまでもないが装置の真ん中の方にある赤い球体を壊せばいい、と思う。というかそれ以外にあったら俺の火力じゃ間に合わねぇ。
「二〇」
「クソッ!」
無駄に十秒も使ってしまった。俺は本気で球体に向かって真っすぐに駆け出す。駆けながら投げナイフを投擲して球体に刺した、が大して損傷していないらしく動作に変わりはない。
ずがががっ、と無数の銃口が俺の身体へ銃弾をぶち込んできやがるが、それを全て無視した。
「痛ってぇ! ってふざけられる状況じゃねぇよな!」
本気で痛い。スツルムといい感じになってた友人のようにはいかないか。だが足を止めることだけはしなかった。ジータが命懸けで開いてくれた道だ。命懸けで繋げなくてどうする。
時間がない。
目標は決まっている。
なら俺の行動は簡単だ。
即ち最短距離で突っ込む、ということ。
「十」
そんなカウントが聞こえてきた頃に赤い球体の前に辿り着いた。
だが四つの砲口がこちらを向いている。自分のレーザーで破壊することはない角度なのだから嫌らしい。投げナイフで内三つを防ぎ破壊する。……元々一つ間に合わないことはわかっていた。だから利き手じゃない右手側を残したんだからな。
「【オーガ】」
レーザーが照射される。右手に出現した籠手でレーザーを受けた。当然防御力という点では心許ないので融解し、腕も焼けていく。歯を食い縛って激痛に堪えながら腕が消し飛ぶ前に左脚を大きく振り上げた。
「痛ってぇ、つってんだろ!!」
渾身の踵落としを、事前に刺しておいた投げナイフの柄に落とす。踵がめり込む威力だったのでナイフは内部まで切り裂き、その亀裂は広がりぱきぃ……んと球体を真っ二つにした。レーザーの照射もようやく止まる。
「……クソ、痛いぇ」
激痛と破壊した達成感に座り込みそうになってしまうが、まだやるべきことがある。
急激に重くなった身体を引き摺りながら倒れるジータの方へと向かう。
「……ま、もう息はねぇ、よな」
致命傷だった。放置して悪いとは思っているが、俺は最優先事項を見誤りはしない。
俺は【ビショップ】に姿を変わると無事な左手を翳す。
「リヴァイヴ」
回復魔法の終着点とも言える蘇生。それを最上級ではなく上から二番目で会得してしまうのだから『ジョブ』というのは恐ろしいモノだ。だがそのおかげで一人の少女の命が救われる。
ジータの身体にあった傷が全て消える。抉られたグロテスクな脇腹も元に戻ったようだ。更には青白くなっていた血色まで良くなった、のだが。
「意識が戻らねぇな」
口元に手を翳すが息をしていない。怪我人ではなくなったのでごろんと片腕で仰向けにしてやる。
……これは、あれか。身体は生きてる状態に戻った、ってだけなのか。
「救命措置、はまぁ仕方ねぇよな」
自分に言い聞かせるようではあったが今の俺に下の階からカタリナを連れてくるだけの元気はない。
俺は一つため息を吐くとやりにくい片腕の状態でジータの胸元を上から押すようにして刺激する。一定間隔で行なった後は気道確保のため顎を手で支えて口を合わせると息を吹き込むように大きく呼吸する。
それを何度か繰り返した。
もしかして手遅れなのでは? と思い始めた頃、俺が人工呼吸をしている最中にぴくりと指が動く。口を離して意識が戻ったかの確認をした。
「……けほっけほっ!」
息を吹き返したせいか大きく咳き込んではいたが、なんとか命を繋いだようだ。双子揃って悪運の強いヤツだ。グランも確か一回死んだらしいし。
「わ、たし、は……」
まだ意識がはっきりしないのかぼーっと天井を見上げている。……これでようやく俺も少しは休めるってもんだ。
「……目ぇ覚めたんならできればヒールオールしといてくれ。生憎俺ももう、限界なんでな」
自分のことを後回しにしていたせいで撃たれた傷からの出血や焦げた右腕から来る絶え間ない激痛がずっと続いていた。しかもリヴァイヴを使ったせいでごっそり魔力を持っていかれた。残念だが残りカスみたいな量しかない。
とりあえずやるべきことはやったので、後はジータに任せて意識を手放す。ゆっくりと倒れ込むとおそらく彼女の腹部と思われる場所に頭が乗ったが、気にしてはいられない。すぐに意識が途絶えていった。
あ、そういえばなんですが。
追加が決まったライジングフォースについてなんですが、ダナンの取得イベントを既に書き終わってます。人形の少女編が終わった後の幕間かなにかで出します。衣装だけは書かずにおいてあるんですが。
雰囲気としてはグラブルのストーリーイベント的な感じプラス取得イベントみたいな感じですね。一応オリジナルの話です。
あとは半分以上悪ふざけのオリジナルEXジョブ取得イベとか。
今はカッパサマー・クロニクルのナンダク版を書き中です。
気になる方は、もうしばらくお付き合いいただければと思います。