ナンダーク・ファンタジー   作:砂城

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所々原作本編の大事なところを削って、遂にタワー最上階の戦いへと挑みます。
タワーでオイゲンとかラカムが一人ずつ残ったのは、なんとなくキリのいい十階までにしたかったからというのもあったりします。


タワー最後の戦い

 黒騎士と別れて十階に到着した俺だったが。

 

「あ……?」

 

 目の前の惨状に目を見張った。

 

「グラキエス・ネイルッ!」

「サンライズブレード!」

 

 カタリナとリーシャが強大な敵に向かって奥義を放つ。注意がそちらを向いた。おそらくそのために全力で囮に徹しているのだろう。

 

 グランは重傷で倒れており、それを【ビショップ】のジータが治療している。

 グランと痛みを共有するルリアが苦しそうに座り込み、ビィとオルキスが励ましている。

 意識がないのか倒れて動かないイオとオイゲン、ラカム。

 そんな彼らを守るために立ちはだかり茨の壁を展開するロゼッタ。

 

 スツルムとドランクもカタリナとリーシャと役割は同じらしい。だがあまり余裕はなさそうだ。

 

「【ビショップ】。ヒールオール」

 

 俺は誰も無傷なヤツがいなかったので全体に回復をかけて敵を睨み上げる。

 

「……どんな状況かは知らねぇが、なんでこいつと戦ってんだ?」

 

 疑問は尽きない。だが今は後回しだ。まずはこの、()()()()()()()をなんとかしねぇとな。

 

「ダナン君! 良かった、ありがとう!」

 

 グランの容態が安定したからか必死だったジータは顔を綻ばせて今のヒールオールに対して礼を言ってくる。【ビショップ】を解いて二人の下へ近づいていった。

 

「情けない姿だな、グラン?」

 

 俺は座り込んでいるグランに手を差し出す。

 

「はは……言い訳はできない、かな」

 

 苦笑しながらも俺の手を取ったので、引っ張って立ち上がらせてやる。……なんか妙にジータがにこにこしていたのは気にしないようにしよう。

 

「……ダナン!」

 

 ひしっとオルキスが俺に抱き着いてきた。

 

「……勝手にどっか行くの、ダメって言った」

「いやちゃんと理由は言っただろ?」

「……ここにいるってことは、嘘吐いた」

 

 確かに。少し責めるような目で俺を見上げてくるオルキスに苦笑する。

 

「まぁ来たんだからいいだろ? 真面目に言ったってどうせ別行動しただろうし」

「……ダナンは目を離すとすぐ無茶する」

「オルキスの中で俺ってそんな印象なの?」

 

 こくんと頷かれてしまった。……いや、少なくとも無茶無謀を詰め合わせたグランよりはマシだと思うんだが。

 

「まぁ気にすんな。単独行動は性分なんだ」

「……ダメ、一緒がいい」

 

 頑固になったモノだ。きっと一緒にいた頑固者の影響だろう。

 

「……とりあえず余裕ないので早く加勢してもらえませんか!?」

 

 そこでようやくリーシャからのツッコミが入った。

 

「だ、そうだ。まぁ待っとけ。どんな手を使ってでも勝つさ」

「……ん」

 

 ぽんと頭に手を置いて撫でてやると、こくんと頷いて離れてくれた。

 

「てめえらも寝てないでさっさと起きろ。俺が助けた命なんだ。ここで存分に使い果たせ」

 

 使い果たしたら死ぬのでは、というツッコミをジータが視線でしてくるが無視だ。ラカムとオイゲンを足蹴にしてイオを揺すって起こす。扱いの差はあれだ。大人かそうじゃないか。あと俺が助けたか否か。

 

「これでとりあえず体勢は立て直せたか?」

「うん。助かったよ、来てくれてありがとう」

「礼なんていらねぇよ。言ってる暇あったらあいつ倒せ。で、あれが例のアーカーシャなんだよな?」

「うん。暴走状態になったみたい。早く倒してフリーシアさんをなんとかしないと」

「わかってる。じゃあ皆、気を取り直していくよ!」

「「「おう!」」」

 

 ジータの声に呼応する。俺とスツルムとドランクはまぁ参加しなかったが。別に一緒にやんなくたって共闘する羽目になるんだからいいよな。

 

 そして三人で並び立ち、それぞれに英雄武器を携える。

 

「【ベルセルク】!」

「【ウォーロック】!」

「【義賊】」

 

 最初っから全力中の全力。『ジョブ』を持つ三人で最高戦力であるClassⅣを発動させる。

 

 獣の白い毛皮を頭から被った斧を持つ狂戦士。

 鍔の広いとんがり帽子に杖を持った魔導士。

 黒塗りした肌に珍妙で派手な衣装を纏い銃を持った傾奇者。

 

「強ぇ獲物だ。全力でぶっ倒すぞ!」

「魔法への耐久性とか、そういうのを確かめてみたいね」

「我が正義の名の下に、いざ行かん!」

 

 ジータは兎も角グランと俺は普段とテンションが違いすぎないか。制御できるようになって心までは染まらなくなったせいで余計にそう思う。オルキスがめっちゃ戸惑っている気配が伝わってきた。あと多分ドランク辺りは笑っている。さり気なく撃ってやろうかな。

 

「張り切ってやっちゃおうか。二人共、巻き込まれても知らないからね」

「はっ。俺に魔法が当たるかよ」

「我は銃故巻き込まれる心配はないと思うのだがなぁ」

 

 魔力を高めて挑発してくるジータをグランが笑い飛ばし、斧をぶん回しながらアーカーシャへと突撃していく。

 アーカーシャは巨大だ。しかも駆けつけた連中まですぐに倒されてしまうほどに強力と来た。

 

「おらぁ!」

 

 グランの一撃を受けてアーカーシャが甲高い悲鳴を上げる。それでも白い光を放って反撃してきたが、

 

「ブラックヘイズ!」

 

 ジータの放った黒い霧状の魔法によって弱体化、視界を潰されて避けたグランに攻撃を当てられない。

 俺は地道に銃弾を叩き込み続けるだけだ。

 

「アーマーブレイク!」

 

 その隙に接近したグランが衝撃波を放ちアーカーシャの纏っている白い衣が裂いた。これであいつの防御力は大幅に下がった状態になる。

 リーシャは魔力の関係でかあまり全力ではない。既にここに来るまでの戦いで消耗してしまっているのだろう。カタリナと合わせて側面から攻撃を仕かけている。適当に直撃させないよう援護してやろう。

 スツルムとドランクは大勢に合わせるのではなくいつも通り二人のコンビで戦うようだ。グランが前線に加わったことで余裕が出来たのか二人して攻撃し放題のようだ。とりあえずドランクの足元に一発撃ち込んでおいた。

 

 ラカム、オイゲン、俺の三人は銃を武器にしているのでちまちまと前衛の援護をしつつ適当に撃ちまくるだけだ。

 イオとロゼッタ、そしてジータが魔法で攻撃を叩き込んでいる。もし後衛が狙われたとしてもジータがいるなら咄嗟に【ホーリーセイバー】のファランクスで防げるだろう。ここは普段防御に徹するカタリナにも前線へ出てもらった方がいい。

 

「――――」

 

 ClassⅣが三人も、という戦力は相当なモノだ。明らかに戦況が安定した。思えばこうしてこいつらと一緒に戦うのは初めてかもしれない。ユグドラシル・マリスの時は一緒に戦っているという感覚ではなかったし。

 

「しぶといモノよ。星の獣は皆これほどのモノなのか?」

「ううん。歴史を書き換える、って言うなら相当な力を持ってるはず。どんな仕組みなのか解体したいところだけど、あんまり余裕はないかな」

 

 近くにいたジータが答えてくれる。ここに来るまでに消耗してるってのもあるが、安定させることはできたが余裕がない。一応敵が大技を使ってきそうになったら俺が【ホーリーセイバー】になることで後衛を守り、前衛にはそれぞれ回避してもらう。

 これでなんとか削っていたのだが。

 

「――――!」

 

 突如アーカーシャが耳障りな咆哮を上げた。何事かと注意深く観察していると、首がぽとりと落ちてくる。

 

「うぇ!?」

 

 ビィが後ろで嫌そうな声を上げているのが聞こえた。アーカーシャは引くこちらを無視して光を放ち形態を変化させる。

 下半身側は変わっていないが、上半身と思われる部分に変化があった。白い衣を纏い仮面のような二つの頭があったのだが、頭は地に落ち粒子となって霧散している。白い布を巻きつけたミイラのような姿が残った。先程までは衣の中にあったのか二本の腕が見えている。

 

「姿が変わった……?」

「マリスでもなんでもなく変わるなんて、そんな星晶獣いなかったわよ?」

 

 星晶獣相手なら百戦練磨のグラン達でも見たことがないらしい。……俺としては姿より強さに注目して欲しいんだがな。

 と思っていたら足元から白い光が漏れてきた。怪訝に思う間もなくぱっと見で全員が対象になっていることに気づき、直後身体が動いた。

 

 振り向いてオルキスの姿を認めると、全速力で駆け出して脇に抱える。横にいたルリアももう片方の手で回収した。次の瞬間、光が漏れていた地点から白く輝く剣のようなモノが突き出してきた。

 

「うわぁ!? お、おい! 助けるならオイラも助けてくれよぅ!」

「奇怪なトカゲは空を飛び避けると良いぞ」

「オイラはトカゲじゃねぇ! っていうか口調変わりすぎだろ!」

 

 ノリのいいトカゲ君だった。

 俺がオルキスを優先したのは当然、味方したいヤツらの中で唯一の非戦闘員だからだ。あの二人は自力で避けんだろ。あと不安なのはイオだが、そっちはジータが向かったのがわかっている。

 一先ず同じ攻撃は来ないようなので抱えていた二人を下ろす。その分前衛が狙われている。加勢してやらねぇと。

 

 俺が銃を撃ちながら元の位置に戻っていると、突如アーカーシャが白い炎を吐き出した。口がないので吐き出したと言っていいのかわからないが、なんにせよ放たれた白い炎は地面を這うように広範囲へ広がっていく。

 

「クソッ!」

「リーシャ、私の後ろへ……なにっ!?」

 

 グランが白い焔に呑まれ、リーシャを諸共障壁で守ろうとしたカタリナが圧倒的質量に呑まれていった。ドランク辺りは防御しているかもしれないが、範囲は後衛の俺達まで呑み込むほどだった。ジータはファランクスでは防げないと見たのか受けてから回復するつもりのようだ。……肌がチリチリと焼けるようだ。だがそこまでの威力はない。

 

「……無事と言って良いモノか」

「生きてるから無事なんだとは思うんだけど」

 

 炎が収まると全員生きてはいると確認できた。

 

「と、とりあえず回復しとくわね」

 

 イオが全体回復を行使して治療する。……なんだ? 妙な違和感があるんだが。しかし身体はなんともないように見える。

 

「……ダナン、ダメ。腕に印がついてる」

 

 オルキスはそう言ってくれるが、俺の目には見えない。だがルリアやビィ――つまりはさっきの白い炎が届かなかった面々には見えているらしく表情が強張っていた。なんらかの弱体だと当たりをつけ、

 

「クリアオ――」

 

 クリアオールを唱えようとした。しかし唱え切る前に金属板を引っ掻いたような音が響き耳から入ってきた痛みに顔を顰める。魔法は中断され代わりに全身を激痛が襲った。喉奥からせり上がってきたモノを盛大に吐き捨てると口の中いっぱいに錆びた鉄の味が広がる。……な、んだ? 身体中が痛い。身体が重くて立っていられない……。

 だが敵前でぶっ倒れるなんて真似をすれば死は確定だ。なんとか踏ん張って周囲を確かめると、俺だけでなく大半が大量に吐血し苦しそうにしていた。『ジョブ』持ちは瀕死になったせいか解除されていやがる。

 

 ……オルキスの言ってた印ってのがついた状態でさっきの音を聞くと瀕死になるってか? ふざけてんな。

 

 埒外の能力に顔を顰めるが、それどころではない。この攻撃の嫌なところは瀕死になるところではなく、次の攻撃で確実に死ねるってところだ。

 視線を走らせて状況を確認。ジータがクリアオールをしてくれている。後衛はイオが回復しており、前衛もドランク、リーシャ、カタリナが専門ではないとはいえ回復もできるので立て直しつつあった。だが一人だけぶっ倒れたまま動かないヤツがいる。

 

 グランだ。

 

 当然アーカーシャの次の行動は決まっている。瀕死にした俺達にトドメを刺すこと。しかし前衛にいる連中の回復力は【ビショップ】やイオと比べると少ない。続けての攻撃に備えるので精いっぱいだろう。

 

「……チッ。おいおっさん二人! 援護しろ!」

 

 光の弾なんかは遠距離からでも対抗できるが、直接攻撃をされたら危うい。だから誰かが救助してやった方が確実だ。

 

「誰がおっさんだ!」

「あいよ!」

 

 ラカムとオイゲンに頼み、俺は後ろを振り返る。

 

「オルキス! ()()()()()!」

 

 これで伝わるかどうかは微妙だったが、はっとしたオルキスは抱えたぬいぐるみの中からアレを取り出してくれる。……流石に伝わるだけの関係性にはなってたか。

 オルキスは取り出した黒紫色の短剣を俺へと放ってくる。俺は浄瑠璃を手放し、投げてもらったパラゾニウムを受け取った。

 

「【アサシン】、バニッシュ」

 

 俺が知っている限り最も性能のいい短剣を持ったままバニッシュで瞬時にグランの下へと移動。迫ってきていたアーカーシャの攻撃を前に集中して奥義を発動した。

 

「リゾブル・ソウル!」

 

 闇で出来た斬撃が一振り毎に虚空に刻まれていく。アーカーシャの攻撃を全て切り裂き相殺できた。……間違いなく性能がいい。初めて握ったのに手に馴染む。それに奥義を使った後に強化がかかるみたいだ。身体が軽くなって魔力で出来た刃が形成された。それが全員に、なのだから凄まじい。

 

「そら、受け取れ!」

 

 ともあれアーカーシャの攻撃を乗り切ったので、一旦回復可能なイオとジータがいる後方へとグランをぶん投げた。投げた時盛大にグランが血を吐いたような気はするが、世話をかけた罰だ。

 

「あ、ちょっ、もうっ! ヒールオール!」

 

 戸惑っていたジータだったが今のままでは落下の衝撃で死にかけないからか先に回復をかけていた。ラカムとオイゲンができるだけ優しく受け止める。

 

「……強いな、この武器は。ならもうちょいいけそうだ」

 

 このパラゾニウムがあればなんとかグランの抜けた穴を埋めることができそうだ。

 

「【アサシン】、バニッシュ」

 

 俺は瞬時にアーカーシャの肩甲骨の辺りまで移動し斬りつける。追随する刃と合わせて布をズタズタに裂いてやった。

 

「ほらお前ら、ぼーっとしてねぇでとっとと倒すぞ」

 

 俺は付き合いが一番長いスツルムとドランクへ声をかける。二人はようやく万全に動けるようになったらしく、ドランクは苦笑しながら俺の援護をしてくれた。スツルムは文句を言いたそうな顔で、しかし仕事だけはきっちりこなすべく周囲を駆け回りながら本体にダメージを与えている。

 

「解除、っと」

 

 アーカーシャの攻撃を避けながら『ジョブ』を解除。革袋に手を突っ込んで持っていたパラゾニウムを収納し代わりに刀のイクサバを取り出した。

 

「【侍】」

 

 黒い武者鎧が俺の身体を包み込む。動きは遅くなるが堅実に戦える『ジョブ』だと思う刀で攻撃も防御も担い、時を待って必殺の一撃を叩き込む。

 

「……ふぅー」

 

 深く呼吸して精神を集中させる。そのための時間はどうせお人好し共が稼いでくれるだろ。

 

「……よし」

 

 充分に集中力を高めてからイクサバを携えアーカーシャへと駆ける。

 

「無双閃」

 

 右腰に構えた刀を横一文字に振り抜く。火焔に剣閃が奔った。

 更に【侍】は他の『ジョブ】と違って奥義が二回連続で発動できる。

 

 加えてイクサバは奥義を放った後に自分を大幅強化することができる。赤いオーラが全身を覆い感覚ではっきりと力が溢れてくるとわかるほどに効果を発揮した。

 

「無双閃」

 

 その状態で二回目の奥義を叩き込む。

 攻撃力が大幅に上がるためかアーカーシャが仰け反って苦しそうな悲鳴を上げていた。

 

 だがそれで終わらない。

 

 なぜならイクサバは、奥義の後に攻撃力を大幅強化させる効果を持つから。二回目の奥義を使った後にも同じ効果が身に宿っている。

 極短時間、直後の攻撃にしか効果が乗らない分絶大な威力を発揮するのだから。

 

「【義賊】」

 

 再度武器をパラゾニウムに戻して俺が最も筋力を発揮できる『ジョブ』へと変える。

 

「フォーススナッチ」

 

 敵の強化を打ち消し自分を強化するアビリティだが、今回は敵の強化度外視だ。

 

「これでも、喰らうがいい!」

 

 パラゾニウムを振り被って渾身の三連撃をお見舞いする。アーカーシャは大きなダメージに後退さえした。

 

 しかしこれで終わらないのが、世界を変えるほどの力を持つ星晶獣たる所以か。

 

「ーーーー」

 

 耳を劈くような咆哮が聞こえたかと思うとアーカーシャの全身を光が包み込んだ。

 光が収まった後には、新たな形態のアーカーシャが鎮座しているのだった。




なぜ星晶獣アーカーシャが暴走して敵対しているのか?
この作品本編中には出てきませんが、簡単に言えば誤った起動方法をしたからです。……だったよね?

そこで仲間達が次々と存在を抹消されて消えていき……なんてことも起こりますがそれはグラブルを頑張って見てください。

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