ナンダーク・ファンタジー   作:砂城

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本編、蒼の少女編で言うところの最終決戦です。

ふと私が第63章クリアしたのって何年前だっけかな、と感慨深く思ってみたり。

ではどうぞ。バトル中心回です。


鬩ぎ合う願い

 以前訪れた時と些かも変わらぬ砂漠の都メフォラシュ。

 

 王宮へと訪れた俺達は、アダムの墓を作って埋葬した。

 そしていよいよ、黒騎士がグランとジータの前に立ち塞がる。その様子を見て一行にも緊張が走った。ある程度察してはいるのだろう。

 

「……お前達に頼みがある」

 

 しかし黒騎士の言葉を聞いて、少しだけ怪訝そうな顔をした。もっと敵意剥き出しにされると思っていたのだろうか。

 

「私はこの鎧と剣にかつてのオルキスを取り戻すと誓った。だが今のオルキスも失いたくない存在となってしまっている」

「黒騎士さん……」

 

 語り始めた黒騎士にルリアは悲しそうな目をした。

 

「しかしだからと言って過去の自分の信念を蔑ろにすることはできない。とはいえ私の中でどちらかを決めることは、できなかった」

 

 黒騎士は剣を抜き放ち、両手で柄を握り胸の前に掲げると真っ直ぐ上に刃を向ける。

 

「だからお前達と、今のオルキスを守るという意志と戦い決着をつける――そうするしか、私が納得する答えは出ない」

 

 一人で決めた答えというのは、残念ながら自分の中でその後もそれで良かったのかとつき纏うことが多い。

 

「お前達が束になってかかれば、私にも勝つ可能性はあるだろう。無論加減をするつもりはないが……頼めないだろうか」

 

 珍しく鎧を着込んでいるのに殊勝な態度だった。スツルムとドランクが温かく見守っている。オルキスは少し瞳に見える感情が揺れていた。色々と複雑なんだろう。

 

「俺からも頼むわ。ボスたっての、珍しい我が儘だしな」

 

 俺は受けてくれるとは思っているが、一応援助しておく。

 

「……ダナン君も、加勢するの?」

「いいや。俺は手出ししない。こいつ一人と、お前らだ」

「……そっか」

 

 ジータに尋ねられて首を横に振った。

 

「私はいいですよ。黒騎士さんが悩んでるのはわかってるつもりです。ただ全力で、今のオルキスちゃんのために戦おうと思ってます」

「それでいい」

 

 ジータが真っ先に答えを出して四天刃を取り出す。【ウォーロック】の上で天星器を使うつもりだろう。

 

「そういうことなら僕も。それで納得してもらえるなら、協力します」

 

 グランも続いて答え、七星剣を構えた。ジータと同じく【ベルセルク】で天星器を使うのか。

 

「私は……貴殿の気持ちを理解できるとは言えないが、悩むだろうとは思っている。だからこそ、過去ではなく今に目を向けるべきだと思う」

 

 カタリナは傍らのルリアを見つめてから言って、剣を抜き黒騎士を見据える。

 

「ま、俺は昔の嬢ちゃんを知らねぇから、当然戦うぜ」

 

 ラカムはあっけらかんと言って銃を肩に担いだ。

 

「あたしだって、オルキスとは友達だもん。友達を守るために、って言うなら断る理由はないわ」

 

 そういえばルーマシーで友達になったんだった、と思い出すイオの発言を聞いて、オルキスは少しだけ俯いた。アポロもそうだが、オルキスも迷ってるんだろうな。

 

「アタシは団長さん達の味方だもの。それだけよ」

 

 ロゼッタも参戦するようだ。とはいえ彼女は仲間の助力という体のようだが。

 

「オイラも、役に立たねぇかもしれねぇけど、戦うぜ!」

 

 そういやビィがいたんだった。魔晶を使っても弱体化させられそうだな。充分、役に立ってしまう。

 

「他人として、ってのは複雑な気分だが。まぁ娘の頼みとあっちゃあ断ることはねぇな」

 

 オイゲンは片眉を上げていたが、笑って請け負った。

 

「私も戦います。黒騎士さんの頼みを聞いてあげたいという気持ちと、もう半分は私自身のためです」

 

 リーシャは凛とした表情で剣を抜き黒騎士へ鋭い視線を向けた。父と同じ七曜の騎士と全力で戦えるからだろう。最初会った頃と比べると、随分前向きになったモノだ。

 

「わ、私も……戦います。黒騎士さんの気持ちは全部はわかりませんけど、それでも辛いのはわかります。でも、オルキスちゃんを見捨てることはできません」

 

 ルリアはしばらく迷っていたようだが、他の仲間達の言葉を聞いてか決心したようだ。強い目で黒騎士を見据えていた。

 

「……そうか。――では始めるとしよう。最後の戦いをな」

 

 おそらく兜の奥で笑っているのだろうなと思いつつ、されど気を引き締めて全身から威圧感を放つ。そして俺が以前に渡した魔晶を取り込んだ。

 

「デメリットを軽減する代わりに変貌しない魔晶だ。遠慮は無用だ、全力でかかってくるがいい!」

 

 魔晶を使ったことに驚いていた者も多かったが、精神を侵すモノでないとわかると黒騎士の放つ気迫に圧されて気を引き締めた。グランとジータはClassⅣを発動し、手加減一切なしの戦闘が開始される。

 

「汝の名は、バハムート!」

 

 初手、ルリアが単独で黒銀の竜を召喚した。彼女も本気だということだろう。

 強大な星晶獣の容赦ない破滅の一撃が放たれるが、黒騎士に慌てた様子はない。

 

「はぁっ!」

 

 両手で握った剣を、渾身の力で振るう。ただそれだけでバハムートの攻撃を両断してみせた。……魔晶使って強くなりすぎじゃねぇか? 俺の時とは全然違う。地力の差だろうか。

 しかしグラン達もそれで黒騎士が倒されるとは思っていなかったのか、【ベルセルク】のグランと【ウォーロック】のジータが左右から襲った。

 

 二人の一撃を、黒騎士は剣と籠手で受け止める。二人も加減はしていないだろうが、微動だにしていなかった。

 

「ふん!」

 

 黒騎士が力を込めると二人が弾き返される。そこへ風を纏ったリーシャとカタリナが迫った。

 風を纏っているからか速さで言うならリーシャはかなりのモノだ。それこそClassⅣに匹敵する。カタリナも剣の腕だけで中尉までのし上がっていた実力は本物で、今前衛に出ている者達と比べると見劣りするが足手纏いにはなっていない。二人の剣戟を先程と同じように剣と籠手で受けていく。流石に二人同時だとリーシャの攻撃は全て捌き切れないようで、多少鎧にも当たっていたが大してダメージはなさそうだ。

 

 しかしあいつらにはまだ仲間がいる。

 

 発砲音が二つ聞こえたかと思うと、カタリナの剣を防御しようとしていた籠手が銃弾に弾かれた。もう一方は兜が撃たれて弾かれる。籠手を撃ったのがラカム、兜を狙ったのがオイゲンだ。オイゲンは躊躇なく急所の位置を狙った。娘だろうが本気で戦うぞという意思表示のつもりだろうか。

 しかし威力のほどがわかってしまえば耐えることはできる。黒騎士はカタリナの手首を掴み取り膂力に任せてぶん回す。その先には駆け寄ってきていたジータがいた。そのまま手を離して二人を吹っ飛ばすと、一人になったリーシャに集中して剣を交えていく。ダメージを度外視すれば問題ないと言わんばかりに剣をリーシャの脇腹へと滑り込ませた。間一髪戻した剣で受け止めたが、膂力の差は激しいのかリーシャが吹っ飛ばされていく。器用にもくるりと宙で身を翻して着地したが膝を突き負った傷の手当てを始める。

 前衛を退けた黒騎士の下へグランが突っ込む間に、足元から生えた茨が絡みついた。その上でパキパキと氷漬けにされていく。だが黒騎士は焦ることなく【ベルセルク】の荒々しい剣をいなすと柄で腹部を殴りつけて後退させた。そうしている間に彼女の全身が氷漬けにされる。しかし当然これで終わりではなく、凍っているはずなのに兜の奥の瞳が動いたように見えた。

 

「北斗太極閃!」

「四天洛往斬!」

 

 団長二人の奥義を合図として全員がすかさず奥義を叩き込む。床が破壊された影響が砂埃が巻き上がって黒騎士の安否をわからなくする。

 

 しかし、かちゃという金属の擦れる音が聞こえた。続いて空気を切る音が聞こえてきたかと思うと、砂埃が払われる。

 

「どうした? これで終わりではないだろう?」

 

 そこには見た目は万全の黒騎士が立っていた。とはいえダメージは流石に通っている、はず。見てもあんまりわかんないんだが。

 

「……流石に強いね。ビィ、頼んでいい?」

「おう!」

 

 ジータが苦笑して後衛より後ろにいるビィを呼ぶ。身体から赤い光を放つと黒騎士から感じる威圧感が軽減された。

 

「始めから使っていればいいモノを。そうでなくては、勝負にもならん」

 

 弱体化しても依然として強者たる黒騎士は堂々と告げて、戦闘の第二ラウンドが開始された。

 

 ……ああ、強ぇなぁ。

 

 どっちが? いや、どっちもだ。

 弱体化したとはいえ魔晶を使った黒騎士と互角以上に渡り合う連中も、魔晶を使っているとはいえたった一人であいつらと渡り合っている黒騎士も。

 少し離れた位置で見ていると、なぜか自分からは遠く離れた戦いのように感じてしまう。

 

 黒騎士は過去を取り戻すために戦っている。何年経っても色褪せない当時の決意を胸に、七曜の騎士にまで上り詰めた。

 

 グラン達は常に前を向いて戦っている。グランとジータは子供の頃に抱いた夢を、今になっても追い続けている。それでいて色々な世界を見ても捻じ曲がらず、そのままの決意で前に進んでいる。

 

 揺るぎない覚悟。生涯で成し得たい目標。変わることのない決心。そして己の人生の指標となる、確固たる信念。

 

 そういうモノが、俺にはないんだ。だから、この戦いに加われない。そこまでする必要はないと思ってしまう。

 そういう時に現れる感情がある。その名前はおそらく、“寂しい"というモノだ。

 

 ……人生を通じて、成し遂げたい目的か。

 

 それがなければ、実力というだけなら兎も角その先に行った時、追いつけなくなってしまう。

 同じ能力を持っていて置いていかれるなんて真っ平ご免だ。

 

 それを探す旅に出るのも、いいかもしれないな。

 

 そんなことを考えている間にも戦いは続いていく。

 最初は黒騎士がダメージを負っている様子すらなかったが、次第に体勢が崩れることが増えてきた。

 

「黒鳳刃・月影ッ!!」

 

 黒騎士の声にも余裕がない。前衛の四人を怯ませてから溜めを少なく奥義を放った。直撃コースにいるのはリーシャだ。リーシャは一瞬回避を選択したようだったが、亀裂が走ることによる痛みに乱された結果、意を決して神経を研ぎ澄まし剣を構えた。

 やがて空間を割って闇の奔流が襲ってくるが、タイミングを見計らって剣を振った。結果、奔流が風の刃に両断されていく。

 

「なにっ……!?」

 

 流石の黒騎士も、これには驚きを隠せない。俺も驚いているところだ。俺が訓練でやったヤツに近い。だがリーシャは俺の訓練を見ていないはずだ。つまりあいつは黒騎士の奥義を見て、斬れると思ったからやったということになる。

 そして隙を見せた黒騎士に、残りの三人が襲いかかる。

 

「エンチャントランズ!」

 

 水を束ねた突きがカタリナから放たれ黒騎士の腹部に直撃した。が黒騎士は呻きながらも踏ん張って剣を振り被り、

 

「ドレイン!」

 

 闇のオーラを纏わせた剣で攻撃し返し、自身を回復させる。グランとジータの攻撃は無視したので回復がなかったことになってしまうが、被害を抑えるための攻撃だろう。

 

「クアッド・スペル!!」

 

 続けて剣を握っていない左手の前に四属性を司る球体を出現させ、拳を握るように融合させる。左手を前に突き出すと同時に特大の魔法として放った。後衛のルリアやビィを巻き込む威力の攻撃だ。それをイオとロゼッタが茨と氷の壁を築き、オイゲンとラカムが壁になることでなんとか凌ぎ切る。

 

 強大な魔力の高まりを感じて振り返る、とそこには風を纏い集中させたリーシャが立っている。

 

「いきます。――トワイライトソードッ!!」

 

 膝を曲げて駆け出した、かと思うと黒騎士の眼前まで迫っていた。

 

「ッ――クアッド・スペル!」

 

 流石にただ防御しただけでは威力を最大限に集中させたリーシャの一撃を受け切ることは難しいと見たのだろう。相殺に魔法を放つが完全に打ち消すことはできず大きく吹き飛ばされた。

 

「いって、ください! 皆さん!」

 

 高めすぎた反動か膝を突くリーシャの言葉を受けて、最初からそのつもりだったらしいカタリナが剣を構え青の巨剣を出現させる。

 

「グラキエス・ネイル!!」

 

 体勢を立て直せていない黒騎士へと奥義が叩き込まれた。

 

「クリスタル・ガスト!」

「クアッド・スペル!」

 

 イオも追撃を行うが、黒騎士が放った魔法により相殺される。しかし、

 

「エンドレス・ローズ!!」

 

 ロゼッタの攻撃によって地面から生えた茨が直撃し黒騎士はよろけて後退した。

 

「デモリッシュ・ピアーズ!!」

「ディー・ヤーゲン・カノーネッ!!」

 

 その隙を突くべくラカムとオイゲンの奥義が放たれる。

 

「舐めるなぁ!! 散れッ!!」

 

 しかし黒騎士が両手で剣を握り放った奥義によって二人の奥義が打ち砕かれ、奔流がラカムとオイゲンを呑み込んだ。

 大技の連発で疲労が蓄積し呼吸を荒く乱した黒騎士へと、グランとジータが迫っている。身体が既に限界近かったのか、それとも……。ともあれ黒騎士は防御することもできずに二人の渾身の奥義を受けてしまった。

 

「北斗太極閃!!」

「四天洛往斬!!」

 

 息の合った二人の攻撃を諸に受けて吹き飛び壁に激突する。それでもすぐにがちゃ、と金属音がして黒騎士が姿を現したが、よろよろと歩を進めただけだった。

 剣を杖のようにして進んだが、吐血したのか兜の隙間から大量の血を流して崩れ落ちるように膝を突く。取り込んだ魔晶も乖離されて転がった。

 

 もう戦える状態じゃない。それは、黒騎士にもわかっているだろう。

 

「……私の、負け、だな……」

 

 どこか笑っているような、仕方がないと思っているような声がそう言った。

 こうして生涯を懸けて成し遂げようとした黒騎士の目的は、ここに潰えるのだった。




次回、オルキスメインヒロイン回。

可愛いと言ってくださる方がいるか、それともちょっと違うという意見が多いか、ドキドキなとこです。

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