感想をたくさんいただきありがとうございます。最初の方ではしらばっくれてましたが、当然の如くバレバレでしたね(笑)
はい、皆さんの予想通りです。
本当は直前まで明言しないつもりだったのですが、まぁわかりますよねっていう。
時系列が多少します。前話の前後に挟まるような感じで、ダナン視点です。
「私は一度アマルティア島へ戻ります」
黒騎士に一日中
顔つきが随分と良くなった。不安と自己不信しかなかった頃とは大違いだ。
「そうか。ま、色々言われるだろうが精々頑張れよ」
「はい。……次はその、あなたの隣で」
微かに頬を染めてそんなことを言ってきた。……いやまさか。俺はリーシャに優しくしてないはずだぞ? 少なくともこいつの知ってる限りでは。オーキスはまぁなんとなくわかるが、こいつはないだろ。
別のなにかに吹っ切れていそうな様子に当惑してしまう。
「で、ではその、私はこれで。ちゃんと私の枠も取っておいてくださいね?」
「お、おう」
俺がなにも言わないことで照れが来たのかリーシャはそそくさと立ち去っていった。
とりあえず心当たりが一切ないリーシャは、
「……あいつ、生粋のMなのか」
という結論にしておく。だってそれ以外にないし。不憫に思えてきたから今度からはもうちょっと優しくしてやろうかな……。
リーシャと別れた後、小柄な紫の髪の女性ドラフを見かけた。長い刀を携えており、なぜかキョロキョロしていた。声をかけようか迷っていると、向こうがこちらを見つけたらしくぱぁと顔を輝かせる。苦笑して歩み寄っていく。
「ダナンちゃん」
「よう、ナルメア。こんなところでどうしたんだ? “蒼穹”の連中はもう方々で仕事したりなんだりで忙しいんじゃないか?」
「そ、それなんだけど……」
確か“蒼穹”の騎空団は各地に散って依頼をこなし空域を超えられるように準備を進めているところのはずだ。その一員であるナルメアがこんなところでウロウロしていていいモノかと思ったのだが。
「?」
「え、えっと、ね……」
言いづらそうな様子のナルメアに首を傾げる。なにか俺に用があるんだろうか?
「……」
しかし待っても言い出さない。言い出したそうにはしているが。怪訝に思っていると物陰から「ナル姉ちゃんがんばれーっ」と声援を送っているフュンフとその傍に立つオクトーが見えた。……あいつらなにやってんだ。というかいつの間にか仲良くなってんじゃねぇか。
どうやら俺に用がある、という見解は間違っていないらしい。となればその用がなにか、というところなのだが。
もしかしてあれか? “蒼穹”に入ったからもうあんまり会えなくなるから別れを告げようってことなのか? だとしたら言いづらそうなのも頷けるが。
「よし、わかった」
「えっ?」
「まぁそう心配すんな。別に騎空団が違ってもまた会えるだろ」
「……ぁ」
頭を撫でて言うが、ナルメアは俯いてしまった。……ん、なんだ? なんか間違えたか?
「あーっ! もーっ! こらーっ!!」
俺が怪訝に思ってると物陰から飛び出してきたフュンフが俺の側頭部に跳び蹴りを放ってきた。いくらハーヴィンの子供とはいえ痛いモノは痛い。俺はフュンフのマントを引っ掴んで睨みつける。
「おい、なにしやがんだこら」
「こっちのセリフだよ! ちゃんとナル姉ちゃんの話聞いてあげなきゃダメだよ!」
「うん?」
理由なしに蹴ってきたわけじゃないらしい。フュンフも怒っている様子だったので一旦下ろしナルメアの方を見る。「ほら、ナル姉ちゃん。言わないとわからないよ」とフュンフが彼女を励ましている。
「……あ、あのね、ダナンちゃん」
「おう」
意を決したらしいナルメアに応えて、真っ直ぐに彼女を見つめた。
「私をダナンちゃんの騎空団に入れて欲しいの!」
「……あ?」
必死になって告げてきた言葉に、俺は聞き間違いかと思って訝しみ、しかし間違ってないかと思って尋ねることにした。
「……それはあれか? “蒼穹”と兼任っていう?」
「ううん。“蒼穹”の騎空団には入らない。団長の二人ともお話して、やっぱりやめるって言ったから」
「……」
「やっぱりその、ダナンちゃんと一緒にいたいって思って……。迷惑かもしれないけど」
なんとか自分の気持ちを伝えようとしてくれるナルメアの頭に手を載せる。
「……バカだな、ナルメアは」
「えっ……?」
「俺がナルメアと一緒にいて、迷惑だなんて思うわけないだろ? 嬉しいよ、一緒に来てくれるって言ってくれて」
「っ……!」
予想外ではあったが、その言葉に嘘はない。どうやら彼女も前を向き始めたみたいだし、来てくれるっていうならこれほど心強い人もいないだろう。
「良かったね、ナル姉ちゃん」
「うん。ありがとう、フュンフちゃん」
フュンフと喜び合うナルメアの姿を見るとこっちまで嬉しくなってしまう。と、のんびりしてる時間はあんまりないんだったな。
「悪い、ナルメア。俺そろそろ行かないと定期便出ちまうから」
「あ、うん。ダナンちゃんが騎空団作るまでにお姉さんもっともっと強くなって、きっと役に立つからね」
「ああ。じゃあ俺ももっと頑張らないとな。騎空団設立する時は必ず迎えに行くから」
「うん!」
ナルメアの嬉しそうな笑顔に見送られて、俺はパンデモニウムに近い島への定期便が来ている港へ走った。
そうして俺は、一緒に旅をしていた四人とは別に二人未来の団員を確保したのだった。
そしてパンデモニウムで修業兼素材集めを一週間籠もって行い、途中あいつらと遭遇しながらも素材を持ってシェロカルテのいるアウギュステまで戻ってきていた。
「……これを、最優先で武器にして欲しいと?」
「ああ。大変だろうが頼むわ。儲け話もちゃんと持ってきてるから」
「はぁ~。仕方ありませんね~」
苦笑するシェロカルテに今、後でグランとジータもそれぞれ同じ数の武器作らせるだろうからと言ったらどんな顔をするか気になったが、やめておこう。後の楽しみに取っておくか。
「それで、儲け話ってなんです~?」
シェロカルテは俺が渡した素材を選別する片手間に聞いてくれるようだ。
「簡単だ。この間話したレモンパイあるだろ?」
「あぁ、あれですか~。つまり本格的に商品として売り出す気になったんですね~」
「ああ」
流石に話が早い。
「俺も騎空団を起ち上げようと思ったはいいんだが、騎空艇を買う金がなくてな。金を稼ぐために、シェロカルテの手を借りたい」
「儲け話に噛めるとなればお断りする理由はありませんね~」
「そうか。で、あれから更に改良を重ねたレシピがこれだ」
俺は密かに書き溜めていたレシピを渡す。
「ふむふむ……」
「こういうのはどこでも出店できて誰でも作れるようになってるかってのが大事だろ? だから俺が作らなくても美味しくなるように改造した上で、保存の効く材料を挙げてみた。流通体制を調整できるんなら、もっといい材料を使ってもいい。その場合は使う素材に応じて多少手を加えるから言ってくれ」
「流石、いい仕事しますね~」
「だろ?」
満面の笑みを浮かべたシェロカルテと、不敵に笑って手をがっしりと組んだ。
「これなら大分早くに手を回せそうですね~」
「なら良かった。因みに料理を全くしたことがないヤツが、レシピを見ながら作って美味しくなるのは確認済みだ」
「いいですね~。では早速私の方で空域全体にお店を出しましょ~」
「もうか? もうちょっと客の反応を見てからでもいいと思うんだが」
「そこは、ダナンさんの腕を信用してますからね~。それにこれくらい簡単で美味しいモノが作れるなら、人気が出ても素早く店舗を増やせそうです~。これはいい商売になりそうですね~」
「お前がそう言うなら、問題なさそうだな」
とりあえず商品化できるモノにはなっていたらしい。
「しかし宣伝というのは大事ですからね~。あ、そうだ。折角なので露店の並ぶ祭りに出店してみましょうか~。まだ予約は入れられるはずですので、私の方で用意しておきますから。予定は空けておいてくださいね~」
「おう」
どうやら祭りというモノを利用して商品の名を挙げるという戦略のようだ。こういうのは最初が肝心だからな、全力でやってやろう。
「もし旅先で新しいレシピを思いついたら、店員さんにこれを見せてください~」
「ん? これは?」
彼女から、シェロカルテがいつも連れているオウムのゴトルが描かれた紀章を渡された。
「それは万事屋シェロカルテ特別商人の証ですね~。それがあればすぐ信用されますから~」
「なるほど、わかった」
「詳細の方は私の方で詰めておきますが、後は分け前の話ですね~」
「それは重要だな。とはいえお前と駆け引きする気はない。負けが確定してるからな。最初からお前の言う分でいい」
「……信用されてるのは嬉しいのですが、それで私が九:一だと言ったらどうするんですか~?」
「別に構わねぇよ。あと九:一でも俺は一切金を払ってないんだから利益しかないだろ?」
「一応言っておきますけど、元手のお金よりも発案の方が大事なんですよ~。私以外の商人にはそういうことしないでくださいね~」
「へいへい。で、分け前は?」
「う~ん。まぁ八:二にしましょうか~。とはいえそこまで比率を上げてしまうと赤字になりますからね~」
「わかった。じゃ、それで。また武器取りに来るから」
「はい~。シェロちゃんにお任せを~」
というようなやり取りがあって、割りと本格的に店を出すことが決まった。とんとん拍子で進んでいったので実感が湧かないが、湧かなくても金が入ってくるならいい。
そうして武器を全て受け取った俺は、ザンクティンゼルに向かった。因みにあいつらが来て武器を作ってくれと頼まれた時のシェロカルテの表情は良かった。いいモノが見れた、とだけ言っておこう。
「ふん。また来よったか」
「ああ。とりあえず今ある『ジョブ』全部だから、しばらく顔を見ることはねぇだろうよ、婆」
「だといいけどね」
相変わらず敵意剥き出しの老婆との修行を積んでいく。
「あ、そうだ。
「なにっ!?」
俺がそう言うとすぐに誰のことかわかったらしく険しい表情で詰め寄ってくる。
「今どこにおる!? ここの場所を告げ口したんじゃないだろうね!?」
「今は知らん。会話すらしてねぇよ。そういうヤツだってのはあんたも知ってるんだろ」
「……」
「二人の親父がイスタルシアにいるから俺も行くとか言ってやがったがなんか知ってるのか?」
「教える義理はないね」
「……そうかよ」
「それで、何回殺された?」
「数えてねぇよ、そんなの。少なくとも百は超えたんじゃねぇか? 半分以上覚えてねぇけどな」
「……ふん。そんなに殺されて今普通にしてられるのも充分異常だね」
「わかったからさっさと始めて、終わらせるぞ。お互い長い間見ていたくねぇ面だろ?」
「意見が合ったことの方が最悪だけどね」
ホントこの婆は。まぁ強くしてくれるってんなら別にいいんだけど。
とりあえずClassⅣと新たなClassEXⅡを会得した俺は、グランとジータに別れを告げてからメフォラシュへと向かった。
「……待ってた」
メフォラシュの王宮へ行きアダムの案内の下オルキスの自室へ着くと、俺を見るや否やオーキスが抱き着いてきた。
「悪いな。で、王女様はまだ目覚めないか」
オーキスの頭を撫でながらベッドで眠っているオルキスを眺める。
「ああ。十年も身体と精神が離れていたのだ。すぐに目覚めなくても不思議ではない。だが、衰弱し切らない内に目覚めて欲しいモノだな」
黒騎士はじっとオルキスの寝顔を見つめて言った。確かに、ずっと眠ったままだったとしてもエネルギーは使う。いずれ衰弱してしまうだろう。
「ま、そうならないように俺が飲める栄養食の作り方でも伝授してやるよ」
「ふっ、そうか」
流し込むだけで栄養が摂れるような料理を食べさせればいい。意味があるかはわからないが、回復や強化効果のあるヤツを、俺がいる間だけでも作ってやろう。あと俺にできることは……あれがあったな。
「よし、ちょっと診てみるか。【ドクター】」
新たに手に入れたEXⅡの一つ、【ドクター】。【アルケミスト】の上位だ。錬金術と薬学の知識を併せ持つ道具作成のスペシャリスト。
黒衣を羽織り、肩から提げたベルトに薬や器具を取りつけていつでも手に取れるようになっている。提げている紺の鞄にも様々な道具が入っており、黒のマスクをしている。
不思議なことに【ドクター】を発動すると頭が冴えてくるのだ。そういう『ジョブ』だからだろうか。
新しい『ジョブ』に怪訝そうな顔をする二人を放置し、眠るオルキスに黒い手袋をした手で触れた。
「視診、触診、共に問題なし。オルキス王女の身体は健康そのモノだな」
【ドクター】は平坦な声音で小難しい言葉を使う喋り方だ。バカが考える頭のいいヤツの口調と言うべきか。
「精神が飲める肉体から離れていた影響で眠っているのならば間もなく目覚めるだろう。後で魂魄を肉体に留める薬を処方しよう。少しは安定するはずだ」
【ドクター】でオルキスの状態を観察、把握すると状態を改善するために必要な薬とその作成方法が頭に浮かんでくる。超便利。
とりあえず診るべきところは診れたので【ドクター】を解除する。
「新たな『ジョブ』か」
「ああ。ClassⅣじゃなくてClassEXの上位、ClassEXⅡの【ドクター】だ。色々と便利でな。戦闘以外の方が活躍の場面は多そうだ」
「……大人っぽい雰囲気で、良かった」
「そうか?」
オーキスのは能力の話じゃなかった。
「……ん。でも普段のダナンが一番」
薄っすらと口元を緩めてそう告げられてしまう。……なんつうかこうも好意を真っ直ぐぶつけられることがなかったせいで調子狂うな。まだ敵意剥き出しの方が接しやすいかもしれん。
「そっか」
とりあえずこういう時は頭を撫でておくのがいい。なんだかんだ誤魔化せる。
「『ジョブ』は全て解放したか」
「ああ。で、ザンクティンゼルにいる老婆のとこで鍛錬して会得した。とりあえず武器が多くなったから新しい革袋にする必要が出てきちまったけどな」
「そうか。……あとは地力を鍛えるだけか」
「そうだな。まぁまだ見ぬ『ジョブ』があるかもとは言ってたし、なんなら俺が作れる可能性だってあるんだとよ」
「……ダナンならきっと、【料理人】の『ジョブ』を作れる。じゅるり」
「それお前が飯食べたいだけじゃねぇか」
オーキスにツッコミを入れつつ老婆の言葉を思い出す。
『ジョブ』ってのは基本的に、とんでもねぇヤツらの力を模倣するために段階を踏むためのモノだそうだ。
要は婆さんの言ってた英雄方と同じ力を手にするために、下積みしていくのがClassⅠからⅢというわけだな。
もし『ジョブ』にしてまで会得したい特殊な力を持っている者がいたら、『ジョブ』にできるとのことだ。
ただEXⅡはⅣと違って英雄の力じゃない。英雄と呼ばれなくともとんでもねぇヤツはいた、ということだろう。【ドクター】の元になったヤツがどんなヤツなのかわかんねぇが、もし実在したならきっと神とでも呼ばれていたんだろうよ。
「しかし料理がそのまま活かせるんだったら俺の得意分野だしな。ちょっと考えてみるか」
「……戦いでもご飯」
「やっぱそっち目当てじゃねぇか」
相変わらず食いしん坊なオーキスに呆れた。
「……お前達、仲良くなりすぎていないか?」
「……ヤキモチ?」
「私がヤキモチを焼く理由があるとでも?」
「……リーシャもアポロも素直じゃない。だから、二十超えても彼氏がいない」
「……っ」
なんか最近黒騎士がオーキスに煽られてるのをよく見かける気がする。
「……素直になってもどうしようもないこともある。ダナンの一番は貰ってく」
オーキスが少し妖艶な笑みを浮かべていた。内容はとりあえずスルーしておこうか。
「どこで教わったんだよ、そんなの」
「……ロゼッタ。正妻は周囲を牽制しながら常に一歩先を行くべし、って言ってた」
「……あいつ余計なことを」
ってか正妻ってなんだよ。そういうのとは無縁な人生送る予定だったのに。
「……私は、負けない。ダナンも覚悟してて」
「お、おう」
笑顔で言われては頷くしかない。いや今もそんな余裕ある風じゃねぇんだけどなぁ。
ふと黒騎士が考え込むような表情でこちらを見ていることに気づいた。顔を向けるとふいっとそっぽを向かれてしまったが。
「……アポロは、怖がりだから。待っててあげて」
「オーキス」
「……なに、アポロ」
咎めるような黒騎士とオーキスの視線が交錯した。だが先に目を逸らしたのは黒騎士の方で、嘆息するとつかつかと部屋を出ていってしまう。
「……難しい。私はただ、アポロにも素直になって欲しいだけなのに」
どうやらただ挑発していただけではなかったようだ。上手くいかなかったことを悔いるように俯いていた。
「じゃあ仲直りしてきたらどうだ? ちゃんと話さないと伝わらないことだってあるだろ。俺も王女様に薬作らないといけないしな」
「……わかった。アポロといっぱい話してくる」
「おう」
オーキスは意を決するととてとてと黒騎士を追って部屋を出ていった。
「……さて、俺はやるべきことをやるかね」
あいつらにはできるだけ仲良くして欲しいと思っている。アポロとオルキスが親友なのだとしたら、黒騎士とオーキスも親友になっていいはずだ。むしろ十年一緒にいたんだったらオーキスとの付き合いの方が長いんじゃないかと思う。
できれば俺がいる間にオルキスには目覚めてもらいたい。すぐには無理かもしれないが、何日かでなんとかしよう。
オーキスの身体を作ってくれていたらしいから俺としても礼が言いたいし、あの二人の喜ぶ顔が見たい。【ドクター】による薬と俺の料理でオルキス王女を目覚めさせてやる。なにせオーキスの前身だからな。きっと食いしん坊だ。美味しい料理に釣られて起きる可能性もゼロじゃないだろう。
そう考え、とりあえず【ドクター】を発動するのだった。
後で美味い飯も作ってやらないといけないし、さっさと済ませてしまおう。