ナンダーク・ファンタジー   作:砂城

84 / 106
今回から番外編になります。

まずは少し長めな一話完結の話。
番外編は頭に「EX」ってつけましょうかね。

きくうしの皆様は今頃古戦場だと思います。私はもう100HELLフルオート放置で回るだけにしてます。しんどいので。
実質最終日ですので、お疲れ様でしたにしておきましょう。終わってから読むと思われるので。

あと思いつきでこの作品を書くに当たっての話なんかを活動報告に載せようかと思っています。この作品で書きたいと思っていることやなんかを適当にだらだらと書き綴ったモノになる予定ですので、興味のある方はご覧いただければ幸いです。多分今日中には載せるはず。


今回のはシリアスっぽく見えるコメディの想定。
実は最初の感想に関わる、それ記念に思いついたヤツですね。
独自解釈を多分に含みます。


EX:マフィアよりもヤバい

 帝国を巡る一連の事件が解決し、団員の大幅増員やグランサイファーとは別の騎空挺の購入など、様々な準備を行った“蒼穹(あおぞら)”の騎空団。

 

 ただし彼らには大きな問題が立ちはだかっていた。

 

 それはつまり、

 

「あ、ごめん。星屑の街の妹達が気になるからついていけない」

「僕も同じ理由で辞退します」

 

 たった十人でありながら最強の騎空団として名を挙げられる十天衆。十ある武器種それぞれの扱いに長けた最強の十人が集まった騎空団だ。

 彼らは天星器と呼ばれる特殊な武器の力を覚醒させ、使いこなす者に勝負を挑む。天星器を使いこなせる者など数少ない。特殊な武器を手に入れて扱えるということは、それまで愛用し手に馴染んだ武器と変えるということだ。つまり色んな武器を器用に使いこなせる者が候補に挙げられる。

 

 そしてその条件に合致する双子が、“蒼穹”にいた。

 

 当然二人は互いに天星器を十種全て使いこなせるようになり、十天衆を相対する。

 見事勝利を収めたら騎空団に入ってくれるという言葉もあり、二人は全力を尽くしてなんとか十人全員に一回ずつ勝ちを捥ぎ取ったのだが。

 

 そこで先程の言葉である。

 

 既に新たに増えた団員を含めて充分な空室が出るように騎空挺を購入、部屋の割り振りまで終わっていた。

 そろそろ一箇所に集合していて、とお願いするために各地を回っていたのだが。

 十天衆の二人が断りを入れたのだった。

 

「十天衆は十人全員仲間にしたい」

 

 そう豪語するのは収集癖のあるグランである。知り合った十二神将もいずれ十二人全員騎空団に加入させるんだ、とフラグめいたことを決意している彼は、欠けていることを許容しにくかった。

 

「この間十天衆全員で帝国のところへ行ったでしょ?」

「その時も星屑の街に手を出すマフィアがちょっかいをかけてきたみたいなんです。やっぱり僕達がいないと」

 

 という事情のようだ。

 家族が危ないから、という理由であれば無理に頼み込むことはできない。

 

 彼ら姉弟が暮らしている星屑の街という場所は、スラム街だ。貧しい孤児達が身を寄せ合って、しかし強く生きている街だ。だがその星屑の街は、近くを陣取っているマフィアの連中によって脅かされていた。

 昔からマフィアには悩まされてきたが、エッセルとカトルの二人が最強の十天衆であるという事実を持ってしても活動を抑制することはできず未だにちょっかいをやめていない。

 

 それはシェロカルテ情報によると、各国がマフィアの後ろ盾になっていことが理由だった。

 

 後ろ盾がある限り、手を出したら血を血で洗う戦争になんぜ、とマフィア共は調子に乗っているようだ。

 

 秩序の騎空団などがいて、騎空士も荒くれ者を捕縛する依頼を受ける世の中で未だマフィアをやっているのは地方の小物か余程力のある大物かのどちらかである。因みにダナンのところにいたのは前者。

 

 正直なところそうであっても十天衆が全員いれば殲滅はできるかもしれない。フュンフがいるからほぼ無敵だし。

 ただそれでは報復が行われて、結果守るべき子供達が危険に晒されてしまう。さしもの十天衆といえど国規模を相手取るには手が足りなくなる可能性もあった。

 

 だからこそ現状を維持するのが、最も確実に守るための手段となるのだ。

 

 だが、それで諦めるグランではない。

 

「……わかった。マフィアを根絶しよう!」

「「えっ?」」

 

 彼の言葉に二人は聞き間違いかと首を傾げた。

 

「まず情報収集が得意な人ーっ!」

 

 グランが声を張り上げると、集まっていた団員達の中から何人かが歩み出てくる。

 

「星屑の街を狙うマフィアがどの国と繋がっているか、援助の代わりになにを得ているのかを調査。よろしくね」

 

 彼の言葉に頷くと、彼らはしゅばっ! とどこかに消えてしまった。因みにシス君もいました。

 

「次は全戦力の結集。念には念を入れてかけられるだけの団員には声かけとこう」

 

 ジータも同じ考えらしくテキパキと指示を出していく。

 

「あの、ちょっと」

「皆、落ち着いてください」

 

 その場にいる全団員が動き始める中、当人であるエッセルとカトルはオロオロしていた。

 

「落ち着いてますよ、僕達は」

「はい。冷静に、これ以上のさばらせないためにここで壊滅させて方がいいと思ったんです」

 

 しかし双子の団長はむしろいい笑顔で告げる。

 

「私は団員ではありませんが、お二人の力になりますよ~。さっきの方々が集めた情報は私にいただければ、少なくとも同じ方達が二度と関わらないようにさせるくらいはできますよ~」

 

 笑顔で一番物騒なことを口にするのは神出鬼没な大商人、シェロカルテである。

 

「あはは、それは心強いです」

「大変でしょうけど、頼らせてもらいます」

 

 心強い味方に苦笑する。既に団員の大半は騎空艇に乗り込んでいた。

 

「なんで、そこまで……」

「これは僕達の問題でしょう」

 

 未だ戸惑っている二人に、双子は満面の笑みで返す。

 

「「仲間ですから」」

 

 単純明快、しかしこれ以上ない理由にエッセルとカトルも言葉が出なかった。

 

「まぁ純粋にお二人にも仲間に加わって欲しい気持ちもありますけど」

「後顧の憂いは断っておかないと、ですからね」

 

 二人の団長に、十天衆の姉弟は顔を見合わせて苦笑した。

 

「私達も行くよ」

「はい。今まで散々好き放題されてきた恨み、晴らしてあげます」

 

 一番マフィアに対して腸煮えくり返っているのは彼らだ。もしかしたら根本的解決に乗り出せるかもしれない。そのことが、二人を動かした。

 

「さて、じゃあ“蒼穹”の騎空団全体の、最初の仕事だ! 総員、出撃ッ!」

 

 改めてグランサイファーに乗り込んだグランが威勢良く号令を上げる。兄が「一回言ってみたかったんだこれ~!」と内心歓喜していることをサブの騎空挺から察して苦笑しつつ、こっちに乗り込んでいる団員達が自分を見ていることに気づき、表情を引き締めた。

 

「こっちも行くよ! 困ってる仲間のために、力を振るおう!」

 

 負けじと号令をかけて、二隻の騎空挺が発進する。

 

 各地を旅して関わってきた曲者達が大集合した騎空団が今、愚かなマフィアの下へ向かったのだった。

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

 そして。

 星屑の街の近く、件のマフィアが屯している場所ではなにも知らない構成員達が普段通りに過ごしていた。

 

 盗賊に扮して税の収めが悪い村を滅ぼしてやっただの、滅ぼした村の何人かは奴隷として献上してやっただのという胸糞の悪い話を、下卑た笑い声を上げながら雑談のように話している。

 人格には問題があっても彼らの武装は立派なモノだった。彼らを有効活用する国からの支給品である。剣、銃、大砲。装備だけで言うなら軍も顔負けの質となっている。彼らに隊列を組み戦うという軍と同じ練度があるかどうかはさておき。

 

 しかし彼らは狡猾だ。いつ襲撃があってもいいように、奴隷として売る者達を常に一定数確保してすぐ人質に取れるよう用意してある。自分達を襲撃するようなヤツらが下らない義憤に駆られた愚か者であることはわかっていることだからだ。

 そうやって「くっ、卑怯者めっ!」と言いながら身包み剥がれて奴隷に身を落とし、もし男で女の仲間がいたら目の前で犯してやると最高にいい表情をするのだ。

 

 そんなバカの顔を見るのが、なにより楽しかった。

 

 だが、そんな彼らの楽しい人生にも、終わりが近づいている。

 

「あん?」

 

 始まりは何気なく見上げた空がきらりと光ったことからだった。眉を寄せて光の正体がなんなのか掴もうとしていると、ようやく見えてくる――光の矢だ。どこから!? という疑問よりも先にマズいと勘が告げてきて回避を選択するが、視認できる距離まで来ている時点で常人には避けることなど不可能。

 光の矢は高速で飛来すると男が動くよりも先に心臓部を撃ち抜いた。途端に走る激痛と視界の下から溢れてくる鮮血に思考が奪われる。

 

 まさか、自分が視認できないような距離から矢で心臓を狙い撃ったというのか?

 

 死にゆく頭が回転して一つの結論を出すが、そんなことはあり得ない。あり得るとしたらそれは最早人ではない。

 

 ……化け物め。

 

 最期の力を振り絞って血に塗れた唇でそう呟いた。

 

 そんな彼の言葉を、見えていた唇の動きで察した化け物は、しかし微笑んだ。

 足の下に出した光輪で空に浮かぶ彼女は、以前なら暗い表情をしていたその異名を嬉しそうに受け入れる。

 

「ええ、私は化け物。でも、そんな化け物()の仲間がそっちに向かってるから気をつけた方がいいわよ」

 

 聞こえるはずもない忠告を述べて、彼女とは別方向からマフィアの根城に近づいている二隻の騎空艇を見やるのだった。

 

「総員、撃てーッ!」

 

 女性の厳しい号令が響き、マフィア達の上空を飛ぶ騎空艇から魔法や弾丸、爆発物などが降り注いでいく。しかし、まるで事前に調べていたかのように、奴隷達の入れられている建物には飛んでいかない。逆にマフィアが使っている家は爆破させ炎上していく。

 

「手を休めるなよ! 持てるだけを下にいるマフィアの汚いクソ穴にぶち込んでやる気でやれッ!!」

 

 黒髪のエルーンが口汚く罵倒して攻撃の手を急かす。

 

「……初対面の人もいるだろうに張り切ってるわね」

「マフィアの連中がやっていることに腹を立てたんだろう」

「でもあんな風にするから婚期逃すんだよなぁ」

「「「あっ」」」

 

 彼女をよく知る組織の面々が口々に言う中で、自爆したヤツが一人いた。言わずもがなベアトリクスである。

 彼女の言葉を聞いた瞬間指示を出していた女性の耳がぴくりと反応した。振り返った彼女の表情は修羅の如し。

 

「……癇癪玉」

「は、はいぃ!」

 

 底冷えする声音で呼ばれたベアトリクスは訓練時代の癖で背筋をピーンと伸ばした。

 

「そんなに働きたいなら働かせてやろう。おい、鎧チキン」

「む?」

「放り込め」

 

 バザラガを呼び、いい笑顔で言い放った。その言葉の意味を理解したベアトリクスの顔から血の気が引いていく。

 

「い、いやしかし……流石のベアトリクスでもそれは……」

「一緒に逝きたいならそう言えばいいんだ。よし、二人同時に逝くか」

 

 「いく」の字が違っているような気がしたので、バザラガは巻き込まれては敵わないとベアトリクスの後ろに立ってがしっと肩を掴む。

 

「……う、嘘だよな? バザラガ、嘘だよな……?」

「すまん、ベアトリクス。心から冥福を祈っている」

 

 彼女の顔が絶望に染まる。しかしバザラガはベアトリクスの身体を冗談抜きで甲板の外へと放り投げた。

 

「……あ、あぁ、あああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」

 

 当然落下していくベアトリクス。しかし彼女はピンチの時ほど輝くタイプである。落下しながらもエムブラスクの剣を握ると空中で身を翻し

 

「え、えぇ、エムブラスクの剣よぉ!!」

 

 声から必死さが伝わってくる。それでもなんとか地面に激突する直前で剣を振るい、その落下の衝撃と斬撃をぶつけて相殺した。

 

「はっ、はっ、はぁ……!」

 

 なんとか着地に成功したベアトリクスは浅い呼吸を繰り返す。てんやわんやで着地した彼女とは正反対の者が一人。

 

「団長。俺も出よう」

 

 グランサイファーの甲板にいた深紅の衣を纏う金髪の男はグランに一言断ってから駆け出すと騎空艇から飛び出した。先程の彼女と同じように落下するかと思われたが、その心配はない。

 

 空中に身を飛び出した彼の身体が発光し始める。否、放電していた。瞬間、雷鳴が轟いたかと思うと彼は落雷と化して地面に着地していた。しかも着地と同時に周辺にいたマフィアを数人雷によって倒している。

 片膝を突くように着地した彼は放電の余韻を残しながらゆっくりと立ち上がる。

 

「――レヴィオン王国雷迅卿の騎士団団長、アルベール」

 

 アルベールと名乗った男は静かに離れた位置で慄いているマフィア共を見据える。彼の視線に射抜かれた男は畏怖を覚えつつも奮い立たせるために強がった。

 

「はっ! おっさん一人でなにができるってんだ! 殺っちまえぇ!」

「……お、おっさ……!?」

 

 予想外の口撃に、アルベールがショックを受けた様子でよろめく。それを隙と見た男達が襲いかかるが、

 

「はぁ!」

 

 少女らしき気合いの声が聞こえて男達がまとめて薙ぎ払われた。

 

「なにをしているでありますか! 今は目の前の敵に集中するであります!」

 

 声のした方を向けば子供にしか見えない身長、ハーヴィンの女性が屋根の上に立っている。金の長髪を風に靡かせ青のドレスの上に鎧を纏っていた。左腕に小さな盾をつけており、右手には小柄な体躯に見合わぬ青い大剣を持っていた。なにより四十センチほどもある頭に載った冠が特徴的だった。

 

「あ……? 子供?」

「子供ではありません! 私は立派な大人であります! ――リュミエール聖国リュミエール聖騎士団団長、シェルロッテ・フェニヤであります!」

「なに!? あの歴代最高の騎士団長と呼ばれる!?」

 

 男の驚きっぷりに胸を張るシャルロッテ。

 

「……いや、そんなまさかな。こんなお子様が騎士団長なわけないし。おらぁ、さっさと畳んじまえ!」

「お子様ではなく大人だと言っているのであります……」

 

 信じてくれない男の様子にしょんぼりとした様子を見せる。そこを襲いかかったのだが、シャルロッテは一つため息をつくと軽やかに懐に潜り込み大剣を振り回して叩きつける。

 

 一般的にハーヴィンは小柄故力がない。

 

 だがそれを血の滲むような努力で覆し、歴代最強と謳われるのが彼女だ。

 

 大剣の一撃を受けた男は彼女の身長の二倍ほどもあったが、勢いよく吹き飛んでいく。屋根の縁に当たって面白いように飛び、少なくとも戦闘不能になったのは間違いなかった。

 

「残念ですが、シャルロッテ団長は私より断然強いですよ」

 

 ひょっこりと顔を出したのはドラフの男性、ダナンと料理で意気投合した一人であるバウタオーダである。

 

「ほら、ランちゃん。騎士団長がこっちにいっぱい集まってるみたいだぜ」

「お、おいヴェイン。押すなって」

 

 そこにアガスティアにも駆けつけたランスロットとヴェインもやってくる。

 

「ここは俺もフェードラッヘ王国元黒竜騎士団団長、とか名乗った方がいいか?」

「必要ないだろう」

 

 四騎士の残る二人、ジークフリートとパーシヴァルもいた。

 その場に残っていたマフィアはなぜ各国の騎士団長がこんなに? と疑問符を浮かべていることだろう。

 

「これだけの精鋭が集まっていれば問題はなさそうだな」

 

 おっさんショックから立ち直ったアルベールが持ち前の美声で戦況を告げる。

 

「ああ。あとは本体だけだ。さぁ、十天衆の力を見せてもらおうか」

 

 パーシヴァルは頷くと、マフィア共の本拠地がある方へと視線を向け笑った。

 

 雑魚の制圧を担当してはいたが、本拠地の大きな建物にはまだ多くのマフィアがいる。しかしそこを担当するのは、あの二人。

 

 地上で雑魚を制圧していた他の者達も本拠地のある方へと目を向けた。多くの視線が集中する中、グランサイファーから二つの人影が舞い降りる。

 彼らは本拠地手前の屋根に着地してわらわらと出てきていたマフィア共を見下ろした。

 

「て、てめえらは……!」

 

 マフィアの連中は二人を知っている。奴隷確保の大半を担っていた星屑の街での仕事を邪魔してくる厄介な二人だからだ。

 

「――十天衆、エッセル」

「――十天衆、カトル」

 

 マフィアに終わりを告げる二人の化け物がマフィア連中の眼前に降り立ったのだ。

 

「あなた達は今日、ここで終わる」

「今まで散々好き勝手やってくれやがって。ぶっ殺される覚悟はできてんだろうなぁ!」

 

 意気込む二人を見て、しかしマフィア達は笑い出す。

 

「ぷっ、ははははっ! 粋がるんじゃねぇよ! たった二人でなにができるってんだ?」

 

 二人が星屑の街にいることは知っていた。二人が十天衆であることも知っていた。しかし最強の騎空団に属しているとは言っても一向に仕かけてこないことから、所詮は眉唾。若しくは最強とは名ばかりの雑魚であるという認識になっていた。

 十天衆を嘗め切った様子に、しかし二人は口元を緩めた。

 

「たった一人でも殲滅できるよ」

「だってそれが十天衆なんだから」

 

 余裕ぶった二人にマフィア達苛立ちが募る。

 

「じゃあやってみろや! ぶっ殺せ!!」

 

 マフィアが一斉に銃を構えて二人へと撃ち込んだ。

 短剣を両手に携えたカトルは銃弾に構わずすっと屋根から下りる。銃弾が一斉に向かってくる形となったエッセルは冷静に銃を構えると躊躇なく乱射した。向かってきた全ての銃弾を弾くように放たれた銃弾は、自分へ直撃する軌道からズラすためのモノでもあり、その弾いた結果変わる軌道を予測してマフィア達を穿つモノでもあった。

 

「ぐあっ!」

 

 眉間をぶち抜かれたマフィアは即死だが、運良く即死しなかった者は悲鳴を上げて蹲る。

 

「クソったれ!」

 

 他の者が銃を撃つがそれも同じ結果に終わった。

 こちらが銃を撃っても弾道を逸らされ、向こうの放った弾丸だけが当たる。それを左右の銃で寸分違わず繰り返し行う。

 

「化け物めっ……!」

 

 思わず呟いたマフィアの喉元を接近していたカトルが切り裂く。血が噴き出るがその時には既に近くにはいない。

 

「だから十天衆だって言ってんだろうが。銃の扱いで姉さんに敵うわけねぇだろ」

 

 カトルが吐き捨てた通り、ただ相手が悪かっただけだ。

 そして瞬く間に、外に出てきていたマフィア達は駆逐された。

 

「おおおおぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 

 突如本拠地から雄叫びが上がったかと思うと最上階の部屋が吹き飛んだ。吹き飛んだ部屋の中に立っていたのは額から左目を通って唇まで傷痕のある大柄なドラフの男だった。

 

「……ふん」

 

 そいつはニヤリと笑って瓦礫を蹴飛ばし手下共を倒してくれやがった襲撃者共を見下ろす。

 

「よぉ。星屑の街の十天衆姉弟じゃねぇか」

 

 マフィアのボスは簡単だ。

 手下が逆らえないほど強くて、逆らったらどうなるかわからないほど残忍で、マフィアがどうやったらやっているかを考えるくらいに狡猾で、手下をたくさん従えられるほどの器量があればいい。

 

「残りはあなた一人」

「手下の弱小共は死んだか伸びてるな。山を切り崩された気分はどうだよ、小さなお山の大将」

「はっ。手下なんざいくらでも集まるだろ。それよりいいのか? 俺達に手を出して。報復を受けることになるぜ? 星屑の街はどっちにしろ終わりだ」

 

 それが彼の自信。無論自分が負けるとも思っていないが。

 

 ――だったらその自信を根底から覆してしまえばいい。

 

「それってアイレム王国のこと? それともスザール商会かな」

「いやマレン法王国じゃない? あとはキッチル財団とか」

 

 別のところから声が上がり、マフィアのボスははっとした顔でそちらを見る。茶髪の少年と金髪の少女が話していた。

 

「いやいや、古代ソビエルト連邦も捨て難いよ」

「でもミハネ帝国っていう線もありそうじゃない?」

 

 それら一つ一つの名前を聞く度に男の顔から血の気が引いていく。話し合って案を出すように会話していながら、なにせその全てとマフィアは繋がっていたのだ。

 つまり今回の襲撃者は、マフィアの後ろ盾を把握した上で襲撃を仕かけている。

 

 マズい、とボスの頭は急速に回転していく。

 要は襲撃者共を一人残らず撃退しなければならない。一人でも逃して後ろ盾に関する情報が漏れたらおしまいだ。自分が死んでも死ななくても、後ろ盾ごと全滅させられる。

 

 十天衆二人が子供達を守ろうとしていることは知っている。だからこそそれを利用して押し留めることができた。そんな二人に手を貸している連中なのだからそういう、偽善に駆られた者なのだということは理解できる。

 人質を取って全員を殺すか奴隷にして乗り切る。これしかないと判断した。

 

 マフィアのボスは鋸のような巨大な剣を手に取ると素早く視線を巡らせる。

 人質に取りやすそうな者を見極めるためだ。そうしてボスは、先程後ろ盾の名前を挙げていた二人に目をつけた。十天衆の二人もまだ若いが、更に若い子供と言っていい年齢だ。少なくとも十天衆などという肩書きを持つ二人よりは弱く見える。

 

 当然、それは間違いである。

 

「うえあぁぁぁ!!」

 

 気合いの雄叫びを上げて少年と少女の方へと突っ込んだ。十天衆の二人が行動を起こす前に少年を殺し、少女を人質にして投降を促す。これしかない。

 

 ボスは凶悪な武器を振り上げ少年に向かって躊躇なく振り下ろす。

 

「やめておいた方がいいですよ」

 

 すっかり武器を収めてしまったカトルが丁寧な口調で告げる。哀れな、獲物を間違えた愚か者へ。

 

「その二人、私達より強いから」

 

 エッセルももう自分がやることはないとわかって銃を提げている。彼らの呟きは、マフィアのボスには届かない。

 

「「【【レスラー】】」」

 

 剣が当たる直前で呟いた言葉の直後、マフィアのボスの腹部に二つの重い衝撃が来る。

 

「っ……!?」

 

 ずどん、と叩き込まれた拳に彼がよたよたと後退した。そして内側からなにか込み上げてきたらしく頰を膨らませて耐えようとするが、決壊し地面へと吐瀉物と血液を吐き出す。

 冷や汗を掻き痛みと嫌悪感に歪めた顔を上げれば、先程とは衣装の違った少年と少女が立っていた。

 

 少年はなぜか色が赤と青それぞれ半分に分れた覆面を被っており、腰巻とマントを羽織るために必要な最低限の布以外は服を着ていない。腕を組み無言で仁王立ちする様は妙な威圧感を放っている。

 

 少女は白い目元だけを隠す仮面をしており、ボディラインを強調する白とピンクを基調とする衣装に身を包んでいる。

 

「貴様らのやったことはわかっている。残虐非道、残忍無比。到底見過ごせるモノではないな」

 

 静かな怒りを滲ませてグランは告げる。

 

「正義の拳は悪の心を打ち砕く! さぁ、覚悟してね」

 

 ジータがはつらつと言って、二人同時に拳を構えた。重い攻撃を受けているマフィアのボスにそれを避ける術はない。

 双子故の息の合った拳が打ち出されて男の顔面を捕える。巨体は呆気なく吹き飛び建物の壁を突き破って見えなくなった。

 

 マフィアのボスまで一人残らず制圧したことで、二人も発動した『ジョブ』を解除する。

 

「あ、ごめん。エッセルとカトルに任せるって言ってたのに」

「元凶だから二人に任せたかったところはあったんだけどね」

「ううん、いいよ」

「まぁ団長さん達も怒ってるとは思ってはいましたので」

 

 無事制圧を終えて四人が集まった。近くに騎空艇を停めたらしくぞろぞろと他の団員もやってくる。

 こうしてマフィア達は一人残らず絶命、または捕縛されたのだった。

 

「じゃあこれで安心できるね」

「うん。……でも、ここには残ろうと思う」

「はい。団長さんのお誘いは有り難いんですが、やっぱり星屑の街の子供が心配ですし」

「「えっ?」」

 

 結局断られてしまった二人はがっくりと肩を落とす。流石にそこまで落ち込まれると二人としても心が痛むのだが。ついていきたいという気持ちはあるが、元々二人は星屑の街の子供達を守るために力を欲した身だ。

 

「ちょーっと待ったぁーっ!」

 

 そこに、幼い少年の声が聞こえてくる。その声はエッセルとカトルにとって聞き馴染みのある声だった。

 振り返ればオイゲンに連れてこられたらしい子供達がいる。

 

「皆、どうしてここに?」

 

 幼い女の子がエッセルへと抱き着き、彼女は戸惑いながらも頭を撫でてやった。

 

「どうして、って簡単だよ。いつまでも妹弟離れができない二人を、見送りに来たんだよ」

「「……え?」」

 

 少年の言葉に二人がきょとんとする。少年はしょうがないなぁ、という顔をして言葉を続けた。

 

「マフィアがいなくなって、その上の人達も手出しできなくなるんでしょ? だったら二人が残る必要なんてないって。後は俺達だけでもできるよ」

「そうそう。もう心配いらないの。二人は心配しすぎなんだから」

「それに、二人共皆と一緒に行きたいって言ってたじゃん」

 

 他の子も少年と同じような顔で二人のことを見ている。

 

「でも……」

 

 まだエッセルは迷っているらしく、自分に抱き着く小さな子を見やった。すると女の子は顔を上げてエッセルの目を見つめる。

 

「ほんとはいっしょにいたい。でも、わがままでこまらせるのはやなの」

 

 純真な言葉をぶつけられてエッセルの瞳が揺らぐ。

 

「姉さん。どうやら僕達の負けみたいです」

 

 カトルはもう心を決めたらしく、どこか諦めたような顔で言った。

 

「もちろん、私の方でも援助はさせてもらいますよ~」

 

 どこからか現れたシェロカルテも言ってくる。

 

「……そっか」

 

 そこでようやく、エッセルは諦めたように笑った。

 

「じゃあ私達がいない間星屑の街のこと、頼める?」

「もっちろん!」

「お土産買って帰ってきてね!

「しんぱいかけないように、がんばる!」

 

 子供達の様子を見て温かく微笑んだエッセルとカトルはこうして、“蒼穹”の一員となるのだった。

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

「……新進気鋭の大騎空団、“蒼穹”か」

 

 暗がりの一室で物々しく口を開く。

 

「彼らもバカなことをした」

 

 室内には円卓があり、円卓を六人が囲んでいた。

 

「全くだ。ヤツらはいい手駒だったのだ、それを潰すなど。名を全く知らないが、無名の新しい騎空団なのだろう? 起ち上げ早々我々の報復を受けるとは」

 

 クククク、と五人の笑い声が室内に響く。笑わなかった一人が、重い口を開いた。

 

「……今回の報復だが、私は降りさせてもらう」

 

 その言葉に、五人が怪訝な顔をする。

 

「どうしたというのだ? 我々の権威を示すためにも、報復は必要不可欠だろう」

「そうだ。今更怖気づくとはどういう了見だ?」

 

 言葉にはしていなくても、降りることなど認められるかという意思が込められていた。

 

「……アイルスト王国を知っているか?」

「? ああ、知っているが?」

「“蒼穹”の騎空団には、その王子と王女が入団している」

「なに? ……ふん。だが国王が死に権力が地に落ちた亡国の王族に、今更なにができるというのか」

 

 他国の王族が入団する騎空団と知って驚きはしたが、所詮取るに足らないと告げる。

 

「――リュミーエル聖国。フェードラッヘ王国。レヴィオン王国。バルツ公国。神聖モンタギュー国。キャピュレット王国」

「は……?」

 

 男が告げた国々の名前になんの意味があるのか、五人が一瞬思考を停止した。

 

「彼の騎空団が関係を密にしている国の名前だ。挙げた国の要人も入団しているという」

「で、出鱈目を言うな!」

「そうだ! 国の要人がただの騎空団に入るなどとそんなことが……!」

 

 男の告げた言葉を切り捨てるが、彼は真剣だった。

 

「諸君らも関わりのあるアルビオンの城主とも懇意にしているそうだ。なによりファータ・グランデ空域最大勢力だったエルステ帝国を滅ぼしたのは、その騎空団の主力だ」

「「「……っ!?」」」

 

 絶句。商会のボスを務める彼の情報網は確かだと知っている。つまり、それら眉唾にしか思えない情報が真実であるということだ。

 

「個人で良ければもっと名が挙がるだろう。彼の伝説の騎空団、十天衆がマフィアと関わりがあるのは知っているだろうが、その全員。更には剣の賢者など個人で一個隊規模の力を持った猛者も確認されている」

「ば、バカな……」

「信じる信じないは勝手だが、私は降りさせてもらう。彼らに楯突いてエルステ帝国のように滅ぼされたくはないのでね」

「「「……」」」

 

 たらり、と五人の頰に冷や汗が伝う。

 

「い、いやぁ、今時マフィアなんて流行らないなぁと思ってたんですよねー」

「いや全く。悪事、良くない。うん」

「ビジネスは安全が第一」

「全くだ。もう手を切って証拠を消してしまおう。そうしよう」

「よし撤収。我々はなにも関与していなかった。オッケー?」

 

 ここに彼らの気持ちは合致した。しかし既に時遅し。マフィアが滅んでから三日後のこの会議では、もうチェックではなくチェックメイトのタイミングだったのだ。

 

 ぱちん、と部屋の明かりが点けられる。何事かと思っていると、場にそぐわぬ呑気な声が聞こえてきた。

 

「それじゃあ困るんですよね〜」

「「「っ!?」」」

 

 一斉に視線を向ければオウムを連れたハーヴィンの女性が笑顔で佇んでいる。いつの間に? ここの警備は厳重で場所は秘匿されているはず、という混乱が内心で湧き上がる。

 

「万屋の、シェロカルテ……!」

 

 商会のボスとして名を知っていた男が苦虫を噛み潰したような顔に変わる。

 

「はいはい〜。万屋のシェロちゃんですよ〜」

 

 いつもの笑顔で応えた彼女は、円卓に座る彼らの周りを歩きながら語る。

 

「あなた方がしてきたことの証拠は既に抑えてあります〜。あなた方が会議を開く今日までの間に国や団体に問い合わせて、『マフィアと関わっていたという事実などなく、あるとしたならばその者の独断である』という言質をいただきました〜」

「「「……っ」」」

 

 彼女の言葉に、もう国などには戻れないのだと悟る。

 

「秩序の騎空団に入手した情報を流し、あなた方に協力していた方達は順調に逮捕されています〜。ご安心を、今は離れ離れでもすぐ同じところに行けますからね〜」

 

 シェロカルテは全く変わらぬ声音で告げていく。それが恐怖を煽った。

 

「だ、誰か! 誰かいないのか!?」

「無駄ですよ〜。私はただの商人ですので、たった一人で潜入なんてとてもできません。ですので、先に制圧させていただきました〜」

「……終わりだ。もう、終わりなんだ」

「はい〜。あなた方は汚職の証拠を握られ、孤立無援の状態です〜。ここから逃げようなんて思わないでくださいね〜。取り押さえられるのは痛いですよ〜」

 

 シェロカルテの言葉に慈悲はない。

 

「……お前の言葉が全くの嘘という可能性もあるな」

「はい、そう言われると思ってこんなモノを用意してきました〜」

 

 商会のボスが唯一冷静そうに言うが、シェロカルテの余裕は変わらない。

 部屋が再び暗転したかと思うと、再度点灯した。

 

「うっ……!」

 

 明るくなった円卓の上には人の生首が置かれていたのだ。何人かが口を押さえている。

 

「……な、んだと」

 

 最も驚いていたのは商会のボスだった。なにせその生首は、腹心の部下のモノだったからだ。

 

「因みに今この場で大人しく捕まってくださるなら、彼の蘇生だけは行ってあげますよ〜。決断するならすぐ、お願いしますね〜」

「……わかった」

 

 変わらぬシェロカルテの言葉に商会のボスが折れた。

 

「良かったです〜。これで一件落着ですね〜」

 

 そう、唯一変わらぬ商人の笑顔で言ったのだった。

 

 因みに。

 シェロカルテはその後管理責任があるとかで彼らの属していた国に星屑の街への援助を求め、了承を取ったという。

 

 これが“蒼穹”の騎空団としての最初の行い。これによって彼らの名は空域内に轟くのだった。


 ▲ページの一番上に飛ぶ
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。