ナンダーク・ファンタジー   作:砂城

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以前にちらっとお話しした番外編。番外編の時系列は割りと適当ですが、本編でちょろっと触れることもあります。一応ここからの番外編は時系列順になっています。

音楽系イベントで、グラブル内にあるストーリーイベントと同様オープニング、本編六話、エンディングの全八話構成になっております。おまけでイベント設定みたいなヤツを書きましたので、合計だと九話分になります。

名前だけ出てくるキャラも多いですが、どんなキャラクターが出てくるか予め予想してみるのもいいかもしれませんね。先に言っておくと、ニオたそは出てきません。

・ストーリーイベントっぽい感じ
・EXジョブの取得
・あるキャラクターのシナリオ加入またはスキンか最終解放伏線
の三つが主題となります。

……こっちとゲーム、どっちが早く【ライジングフォース】を実装することになるんでしょうかね。


EX:『魂の音色を響かせよう』オープニング

 Granblue Music Festa。

 

 通称GMFと呼ばれるそのイベントは、全空最大規模の音楽の祭典である。

 

 全空から選りすぐりの音楽に関わる者達が集まり、盛大にコンサートを開く。

 しかもこの時だけのコラボレーションまで許可されているという、最高のイベントである。

 

 星晶獣サラスヴァティの加護を受ける島、イスエルゴ。

 

 その島で四年に一度開かれるのが、GMFだった。

 

 とまぁ概要の説明はそんなところでいいだろう。

 

 俺は適当に旅を始めたのだが、その途中で大々的にイベントの宣伝がやっていたので気になってそのイスエルゴという島に来ていたというわけだった。

 音楽にはあまり興味はなかったが、気になった点が一つあった。

 

 このGMFでは前半と後半が分かれており、後半は主催者側が読んだ実績ある音楽家の部となっている。前半は飛び入り参加オッケーで、無名であっても許されるという。懐の広いことだ。もちろん下手くそなら容赦ない罵倒は飛んでくるだろうし、イベントの規模が規模なので大人数の前で披露することになるため緊張は半端ない。

 それでも先着順で大人数が応募する。

 

 俺の狙いはそこ、前半部への出場だ。

 

 なんでもこのGMF、前半部には優秀なヤツらに賞金が出るという仕組みがある。

 要は金目当てということだな。だって騎空挺欲しいし。

 

 というわけでとりあえず前半出場の前日に島に到着したのだが。

 

「人が多いなぁ」

 

 流石に観客も出場者もいるとなるととんでもない人の数になる。というか応募直前で一緒に出場してくれるヤツ探すなんて無理じゃねぇか? 一応楽器得意の『ジョブ』はあるし一人でもそれなりにはなるだろうが。

 

「二人以上での出場しか認められてねぇんだよなぁ」

 

 問題はそこだった。

 

「こうなりゃオーキスでも連れてこれば良かったか?」

 

 聞いた話ではあるが、オーキスはあれで歌唱力があるらしい。俺が伴奏を担当して歌わせればいい線いくんじゃないだろうか。受付はできないので出場は無理だが。

 

「ま、いないモノは仕方ねぇ。誰か知り合いがいればいいんだけどな」

 

 そう思って俺は、イスエルゴにある街を練り歩くのだった。

 

 と、そこで偶然知り合いを見かける。

 

「……スツルムに、ドランク?」

 

 超見知った顔だった。どこへ行くかは言わないで別れてしまったが、まさかこんなところで出会うとはな。

 

「あれ〜? ダナンじゃ〜ん。こんなところで奇遇だねぇ」

「全くだ。お前は音楽に興味はないと思っていた」

 

 相変わらずな二人の様子を見て妙な安心感を得る。

 

「まぁ、ちょっとな。そうだ、お前らちょっと俺と組んで出場しないか?」

 

 丁度いいタイミングだと思って誘う。こいつらとなら急造でも息は合うし器用だから楽器もそれなりにできるだろう。

 

「あ、ごめんねぇ。僕達もうバンド組んじゃったんだ〜」

「えっ?」

「悪いな、ダナン。代わりに賞金は貰うから」

「……マジかよ」

 

 先約がいたらしい。

 

「因みにシェロちゃんも一緒だから、誘えないよ〜」

「あいつはホントどこにでもいんな。まぁいいや、先約がいるなら仕方ねぇな。お前らの演奏、楽しみにしてるよ」

「ふっふ〜ん。僕の超絶テクニックを見せてあげるよ〜」

「つい最近始めたばかりだろうが。ほら、行くぞ。今日も練習だ」

「はいは〜い。じゃ、またね〜」

「おう」

 

 シェロカルテとも組むらしい。だがあの三人で誰かがボーカルをやる様が思い浮かばない。いい声ではあるから誰がやったっていいとは思うんだが。

 まぁ当日まで楽しみにさせてもらうとしよう。

 

「……となると知り合いがいねぇなぁ。どうしようか、俺」

 

 あの二人も一応賞金目指して頑張ってくれてはいるようだが、任せ切りというのも癪だ。

 しかし組む相手がいないとなると出場は難しいか。団体にちょろっと出させてもらうとかできねぇかな。

 

 団体は団体で一丸となっているから、俺みたいな他所者が加わることを良しとしない可能性が高い。

 つまり急な欠員が出ない限り俺が出場することはできない。……無理では?

 

 秩序の騎空団に潜入した時の如く運に味方されないかなぁと思って街をフラフラしていると、厄介なヤツらを見つけた。

 

 “蒼穹”の連中だ。

 

 だがカタリナやラカムはいるが団長二人とルリアはいない。

 

「おっ?」

 

 引き返すのも負けな気がしてそのまま歩いていると、目のいい狙撃手に見つかってしまった。

 

「ダナンじゃねぇか。こんなところで奇遇だな。てっきりお前さんは音楽に興味ないと思ってたぜ」

 

 それスツルムにも言われたんだが、俺ってそんなに音楽に興味なさそうに見えるんだろうか。

 

「余計なお世話だっての、()()()()()

「っ!!?」

 

 俺が言ってやるとオイゲンが驚愕して身体を硬直させる。他の面々も驚いているようだ。

 

「……て、てめえ今なんて……」

 

 わなわなと震え出したオイゲンにいい笑顔で続けた。

 

「娘さんは貰ったんで、今後ともよろしくっ」

「ごはぁ!?」

 

 意味を理解したのかオイゲンが血反吐を吐き魂を口から吐き出してご臨終しかけてしまう。

 

「お、おいしっかりしやがれ!」

 

 ラカムが慌ててオイゲンの身体を揺さぶり、魂を身体に戻して現世へ留めようとする。

 

「お、驚いたな……。貴殿と黒騎士が……。てっきりオーキスかと」

 

 カタリナが薄っすらと頰を染めつつ言ってきた。……こういう初心なところも含めてローアインは惚れたんだろうな。

 

「そこはまぁ、な。どっちを断ってもどっちも傷つくことになるわけだし」

「な、なにっ? ……それはつまり、二人共?」

「ああ」

「こ、この女誑し!」

 

 カタリナの言葉に頷くと顔を真っ赤にしたイオが突っかかってくる。

 

「数百人規模の団員を持つ稀代の人誑しの団長二人についていってるヤツが今更なに言ってんだか」

 

 俺がやれやれと肩を竦めると、二人の仲間達は「た、確かに……」という顔をした。

 

「で、なんでお前らはここに?」

 

 オイゲンの介護はラカムに任せておいて、俺は話題を変える。自分から振っておいてなんだが、あまり深く突っ込まれるのはご免だ。

 

「私達は一応、参加目当てだな。私なんかは観に来ただけだが、この間入団した者達の中に音楽に関わりのある者がいて、彼らが参加したいと言ったんだ。飛び入りも認められているから、グランとジータなんかは出場する気らしいが」

 

 どうやらあいつらは参加するらしい。ということは傭兵二人と同じように練習のために今いないってところか。

 

「なるほどな」

 

 だが流石にあいつらと組むのは遠慮したい。ジータは歌上手いらしいからそっちで出るんだろうか。『ジョブ』唯一の楽器得意であるClassⅣ【エリュシオン】なら卓越した演奏技術を披露できるだろう。あの二人が出場するというだけで強敵確定だ。

 

「それで、ダナンはなんの用なの?」

「俺も出場目的だったんだが、組むヤツがいなくてな。スツムルとドランクには会ったんだが先約がいるらしい」

「ふぅん。ま、今回は諦めることね。“蒼穹"からも何組か出るから、賞金目当てならあたし達が全部貰っちゃうんだから」

 

 ふふん、となぜかイオが胸を張っていた。……そう言われると意地でも覆したくなってくるな。

 

「そうかい。ま、なるようになるさ。お前らの団から出場するっていうヤツらも、楽しみにしてるよ」

 

 俺はひらひらと手を振って彼らと別れた。……マズいな。これは無理そうだ。諦めるしかねぇか?

 一応【エリュシオン】に至るまでに楽器も踊りも歌もいけるようにはなってるんだが。でないと『ジョブ』取得できねぇし。戦力としては大丈夫だと思うんだが、どうしても組む相手がいなければ出場することができない。

 

「……どうしたもんかねぇ」

 

 八方塞の状態に頭を掻くことしかできない。どこかに欠員が出たとかそういう都合のいい話は聞こえてこないモノかと耳を澄ませて練り歩くくらいか。

 

「あ、ダナン君?」

 

 とそんな中、ふと背後から声をかけられた。くるりと振り返れば思った通りの人物がいた、のだが。

 

「……なんだその恰好」

 

 とりあえずツッコんでおく。

 

「ああ、これ? ……あ、そうだ! 丁度良かった、ダナン君も一緒にどう?」

 

 話を聞かないジータ。

 彼女の今の恰好は、はっきり言うとあまり人前に出てよろしくない恰好だった。

 

 青と白の鉢巻きに、青の法被。胸元にはさらしを巻いている。問題は下だった。なにせ布一枚だからな。前部分は布が垂れているが、後ろには布がほとんど見えない。周囲にいて彼女の後ろ側を見た男性がぎょっとして鼻の下を伸ばしているので、流石に丸見えではないだろうが際どい状態なのは間違いなさそうだ。

 

「なに言ってるかさっぱりなんだが……」

「いいからいいから」

 

 俺が戸惑うのも構わず、ジータは俺の手を取って強引に引っ張っていく。残念なことに、ジータは可愛いので手を繋いでいる俺を見て舌打ちするヤツもいた。……また誤解されんじゃねぇかよ。

 というか本当に後ろから見ると目に毒だった。具体的に言うと割れ目に捩じれた布があるだけだった。……よくこれで恥ずかしがらずに街を歩けるもんだ。無自覚天然はここにもいたか。

 

「着いたよ」

 

 ジータに連れられてきたのは、屋外で太鼓が並べられた場所だった。

 

「私達がちょっと参加させてもらう、和太鼓倶楽部の練習場所なんだ」

「へぇ。そういやカタリナがお前らも参加するって言ってたな」

「会ったんだ。まぁこっちはついでなんだけどね。折角だから、って」

 

 ついでってことは別にもう一つ出る予定があるってことか? とんでもねぇことするな、こいつ。確かに二回、別の団体として出場するのは違反じゃないが。あの器用なドランクですら俺との出場は断って一本に絞った通り、なかなか完全飛び入り参加で二つ以上のことを覚えるのは難しい。それに挑戦するんだからやっぱ凄ぇよ。

 

「あれ、ダナン?」

「お久し振りですっ」

 

 そこにいたグランとルリアが俺に気づく。ビィはリンゴを齧っていて気づいていない。……後で撫で回してやろう。

 

「よう。……ビィ。シカトとはいい度胸だなぁ」

「だ、ダナン!? や、やめ……!」

 

 とりあえずビィはふにゃあの刑に処しておく。

 

「グランも似たような恰好してんな。それが和太鼓倶楽部とやらの正装なのか?」

 

 グランもジータと同じく鉢巻きに法被を着ていた。下半身も同じ。ふんどしっつったっけか。だがグランの方は法被の裾が長いのでまだマシだった。加えて赤と白の縄を肩にかけており、木魚という木製の丸い道具がついている。

 

「ううん。これは団体なら混ざれるかな、ってやってたら取得した【ドラムマスター】の『ジョブ』衣装だよ」

「あん?」

 

 予想外の言葉に首を傾げた。

 

「僕達もびっくりだったんだけど、どうやら『ジョブ』の中にはパンデモニウムじゃなくても会得できるヤツがあるみたい。実際やってみるまではわからなかったんだけどね」

「急に取得して衣装変わるからびっくりしたよね」

 

 へぇ、そんなことが。つくづく『ジョブ』ってのは不思議な力だな。

 

「ClassはEXなんだけど、EXⅡはそのまま解放されるわけじゃないみたい。もっと楽器の扱いが上手くなれば解放されるのか、パンデモニウムに新しい武器が追加されるのかはわからないけどね」

「パンデモニウムに追加される、ってのもおかしな話だけどな。まぁあり得ない話じゃねぇが、できれば何度も行き来せずに取得したもんだ」

「ホントだよね」

 

 『ジョブ』という共通の話題で盛り上がっていると、ふと殺気にも似た視線を感じた。怪訝に思って見ると、法被とふんどし衣装の男達が俺を睨んでいる。……おそらく話にあった和太鼓倶楽部のヤツらだろう。なぜ初対面の俺を睨む? と思ったがすぐに思い至った。

 

「そういや、そのままになってたか」

 

 ジータに手を掴まれたままになっていたからだ。俺が掴んでいたわけではないので振り払うような形になってしまうが、誤解を与えないためにも必要なことだ。

 

「あっ……。ご、ごめんね」

「いや、別に。で、言ってた丁度良かったってのはその『ジョブ』のことでいいのか?」

「あ、うん。【ドラムマスター】取得してもらおうかと思って」

「なるほど、そりゃ助かる」

 

 未知の『ジョブ』を俺にも取得させようとしてくれていたらしい。敵に塩を送る、なんて行為の意味をこいつらに聞いたって無駄だ。なにせ極度のお人好しだからな。

 

「じゃあお前らがどこまでできるのかも含めて、二人で演奏してるとこ見せてくれよ」

 

 俺はグランとジータにそう告げた。

 

「うん、いいよ」

「丁度成果の確認も、和太鼓倶楽部の人達にしてもらいたかったしね」

 

 ということで、二人が並んで太鼓の前に立つ。そして二人息を合わせて太鼓を叩き始め、全く同じ動作でリズム良く太鼓の正面と縁を叩き二種類の音を使い分けていく。手首の使い方やタイミングなどを注意深く観察していた。

 通して最後までやって、最後の一叩きが決まり真剣な表情を崩して笑顔を見せる。

 

「ほーう。流石双子、息ぴったりだな」

「それほどでもないよ」

「うん。だって本番では全員が同じ動きをするんだから」

「へぇ、そりゃ凄そうだな」

 

 和太鼓倶楽部の人達は総勢二十数名くらいだ。二人を足しても三十人いくかいかないかくらいの人数だが、その全員が一糸乱れぬ演奏、となれば迫力あるモノに仕上がるだろう。

 

「しかもまだこれでも半分も覚えられてないんだよね」

「なるほど、確かに凄そうだ」

 

 圧巻の演奏となるだろう。……本番が楽しみだな。

 

「じゃあダナン君もやってみる?」

「ああ。太鼓貸してくれるか?」

 

 えっ、もう? という和太鼓倶楽部の人達の声が聞こえてくるが無視だ。

 

「じゃあこれ。僕が取得前に使わせてもらってたヤツだけど」

「おう」

 

 グランから太鼓とバチを借りてジータの横に置かれた太鼓の前でバチを構える。

 

「んじゃやるか」

「「うん」」

 

 言ってから、神経を集中させてさっき見た二人の動きを模倣する。バチの振り方一つ、体重の乗せ方一つ、呼吸のし方一つ。それらを統合して双子の演奏に混ざり、三人の演奏として成り立たせる。

 なんとか最後までやり切ることができた。

 

「ふぅ……っ。流石にさっき覚えたんじゃ間違えるかと思ったぜ」

「それはこっちのセリフだよ。意外とハイスペックだよね、ダナン君って」

「まぁでも【エリュシオン】まで取得してるならできて当然とも言えるのかな」

 

 三人で笑い合っていると、和太鼓倶楽部の面々が唖然としているのが見えた。ニヤリと笑う。そうだよ、その顔が見たかったんだ。

 ふと、俺の身体から光が漏れる。続いて身体の奥底から力が湧き上がる感覚――久し振りに味わう、完全新規の『ジョブ』取得の感覚だ。

 

 周囲の視線が集まる中、光が収まって俺がまず感じたのは、下半身がスースーするという点だった。……やっぱりか。

 自分の身体を見下ろして見ると、ほとんどグランと同じ恰好をしているのがわかった。色が青から黒に変わったくらいか。下はやっぱりふんどしだ。法被がある程度長いとはいえ落ち着かないな、この衣装。

 

「おっ。無事取得できたみたいだな」

「うん、良かったね」

「一発で、なんてちょっと複雑だけど」

 

 こうして俺は新たな『ジョブ』、【ドラムマスター】を取得したのだった。

 

「折角だからダナン君も一緒に出る?」

「いや、いい。お前らと一緒なんて真っ平だ。本番を楽しみにしとくよ」

 

 俺はジータの誘いに首を横に振って、【ドラムマスター】を解除する。

 

「そっかぁ」

 

 ジータは少し残念そうである。同じ『ジョブ』持ちということで、ある程度親近感があるからだろうか。

 

「ジータ。話してた列のことなんだけどよぅ」

 

 俺がまだいるというのにビィがそんなことを切り出した。……ルリアが俺に向けて少し「お願いします」という風に頭を下げているのが見える。

 

「? うん、私達の配置は決まったの?」

 

 そんなルリアの様子に気づいて首を傾げるジータだったが、今はビィの話を聞くようだった。

 

「そ、それがよぅ。折角唯一の女だからって、一番前にしようって話になってるんだ」

 

 ビィが非常に言いにくそうな顔で言った。……ああ、なるほどなぁ。

 俺がジト目を和太鼓倶楽部の連中に向けると全員が一斉に視線を逸らした。

 

 この様子を見るとビィやルリアも彼らを説得しようとはしたが、失敗したらしい。

 

「……おいグラン。てめえの妹だろうがなんとかしろよ。せめて指摘してやれ」

「……無理だって。凄く楽しそうだし、指摘して参加しないってなったらあれだし」

「……はぁ。ったく。今回は大目に見てやるがちゃんと教育しとけよ? あいつあの恰好で街出てたんだからな」

「……わ、わかった」

 

 グランにコソコソと内緒話をしたが、こいつは宛てにならないようだ。とりあえず頼りにならないお兄ちゃんの鳩尾に肘打ちを叩き込んでやった。

 

「?」

 

 俺達のやり取りが聞こえていないのかきょとんとしているジータ。悶絶するグランは放置して、俺は和太鼓倶楽部の連中のところへと向かっていった。

 

「なるほど、ジータを最前列に配置とはなぁ。途中参加の素人を一番前ってのは本番で失敗した時が怖いんじゃねぇか?」

「いいや、彼女は充分な技量を持っている。加えて和太鼓の分野はまだ女性が圧倒的に少なく、彼女が最前列で演奏することで女性も問題なく参加できるモノであるというアピールにもなるだろう。彼女には申し訳ないが、和太鼓という分野発展のため最前列で演奏してもらいたい」

「へぇ?」

 

 なるほど、口だけは達者なようだ。ドラフのこいつが和太鼓倶楽部の代表みたいな立ち位置なのか。

 

「ま、口ではなんとでも言えるよな」

 

 俺は言って、素早く男の股間へと強めに膝を叩き込んでやった。

 

「□#$▲!!?」

 

 男では逆らえぬ痛みを受けて、男が言葉もなく悶絶し股間を押さえて蹲る。他の面々も内股になって股間を隠そうとしていた。グランもだ。ルリアとビィは少し呆れた顔をしている。ジータだけは状況についていけてなかったのか戸惑っていたが。

 

「別にジータを最前列にするのは構わねぇが、万に一つも演奏に雑念が入らねぇように、全員のを()()ことになるが……それでも考えは変えないか?」

 

 普段とは少し笑みを変えて、ニタリと笑った。ひぃ! と和太鼓倶楽部の連中が怯えた表情をする。

 

「あ、一応俺が本気だってことを示すために、一人一発ずつやっとくな?」

「「「えっ……?」」」

 

 にっこりといい笑顔で告げ、呆気に取られる連中を一人残らず悶絶させ、地面に跪かせた。

 

「さて。ジータは一番後ろ。これでいいか?」

「「「は、はい……」」」

 

 大の男が跪いて顔面蒼白になっているという光景を生み出してしまったが、まぁいいだろう。

 

「あはは……流石ダナン、容赦ないね」

 

 グランが少し冷や汗を掻きながら苦笑していた。元々はお前のせいだろうがよ。

 

「え、えっと……」

 

 ジータを見ると、ようやく自分の服装の際どさに気づいたのか羞恥に頬を染めていた。服装も【ドラムマスター】を解除して普段のモノになっている。

 

「その、ありがとね」

 

 当然俺もそれに気づいていたという簡単な推測をしたからか、凄く恥ずかしそうではある。

 

「礼なんていらねぇよ。だがまぁ、あの恰好で街歩くのはやめとけよ? 痴女で変態な露出狂だったぞ」

「う、うん」

 

 ぐさり、とジータの心に槍が刺さったような音が聞こえた気がしたが、言っておかなければならないことは告げる。

 

「まぁとはいえ『ジョブ』で変わるモノは仕方ないしな。せめて人目くらい気にしとけよ。ジータだって充分、魅力的なんだからな」

「っ……!?」

 

 きっちりと自覚できるように忠告してやる。するとなぜかグラン、ビィ、ルリアからジト目を受けてしまった。ジータも俯いてしまっている。耳まで真っ赤なような……? いやそれはないか。それじゃあリーシャと一緒になっちまうもんな。

 

「まぁ精々頑張ってくれ。本番、楽しみにしてるからな」

 

 ぽんぽんとジータの頭を撫でてから用は済んだので立ち去る。触れた時身体を硬直させていたが、流石に気安すぎたか。さっさと立ち去ろう。

 

 俺はなにか言われる前にそそくさとその場から去っていった。

 一応会場の前にいた受付の人に単独で出場できないか聞いてみたが、残念ながら規則なので変えることはできないと言われてしまった。

 

 この受付とは、観客席の方だ。大半は既に決めているらしく、こんな直前に入れる人はいないのだとか。それでも席が空いていたのは動員できる人数が凄く多いからだろう。とりあえず適当に一人で席を確保しておいた。

 

 そろそろもう夕方だ。宿屋は基本空いていないそうだが、例年の如く増える参加者と観客に備えて増やしているそうなので少し離れた場所ならまだ空きがあるらしい。親切な受付の人だった。

 

「そこの君」

 

 俺が受付から離れて宿屋を探そうとしていると、青年の声に呼び止められた。振り返る必要はない。真正面から俺を見据えている。後ろのヤツという線も考えたが少し遠い。つまり俺に話しかけているようだ。

 

「ん?」

 

 赤い長髪を靡かせ赤い衣装に身を包み、ギターを背負った青年だ。そのすぐ後ろには黒髪をした、肌の白い青年が立っている。彼もギターに似た弦楽器を持っている。肩に乗っけている紫の猫らしき生物はちょっと触ってみたい。

 

「君、GMFに参加しようにも組む相手がいないんだろう?」

 

 事情を知っているらしい青年はすっと俺へ手を伸ばしてきた。

 

「――俺と世界を滅ぼさないか?」

 

 ……なに言ってんだこいつ。


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