ただしアオイドスの通訳と化しています。ちょっと柔らかくなっている気がしますね。
あと本日ライジングフォースが実装されたので、流石にゲームの方が先でしたね。
「――俺と世界を滅ぼさないか?」
音楽の祭典、Granblue Music Festa。通称GMFが開かれるイスエルゴの地に来ていた俺は、手を差し伸べた赤髪の青年にそう尋ねられていた。
はっきり言って意味がわからない。胡乱げな顔でそいつを見やる。楽器は持っているので間違いなく出場者ではあると思うのだが。
「アオイドス。お前の言葉は独特なんだ。初対面では戸惑うことも多い」
後ろにいた青年は俺が戸惑っているのがわかったらしく冷静な声で告げた。どうやらもう一人の方は多少話のわかるヤツのようだ。
「パトスがあれば関係ない。さぁ、俺と一緒に世界を滅ぼそう」
「わかりづらいとは思うが、一緒にGMFに出場しないかということだ」
変わらぬアオイドスとやらの言葉に続いて、もう一人が翻訳してくれる。なるほど、有り難い。
「それは有り難いが……なんで俺なんだ?」
「君の身体から迸る熱いパトスを感じ取ったんだ」
「実は団長二人と和太鼓に興じてるところを見ていてな。卓越したセンスがあると知って是非加えたいと思ったわけだ」
抽象的なアオイドスの言葉とは違い、もう一人の言葉はすんなりと入ってくる。なるほど、あれを見てか。というか今団長って言ったなこいつ。
「ってことはあんたら“蒼穹”の一員か。いいのか、俺を誘っても。探せば団員の中に才能のあるヤツがいると思うんだが」
「問題ない。君の奏でる旋律には熱いパトスの欠片が宿っている。理由はそれで充分だ」
「元々二人でやるつもりだったが、まぁこいつと二人きりというのもな。折角の祭典だ、新しいことに挑戦するも悪くはない」
二人には二人の意志があるらしい。こっちとしてももう諦めるしかないかと思っていたのだから有り難いことではあるのだが。
「そっちが良ければ、断る理由はねぇな。俺も困ってたところだし」
「わかった。じゃあそうだな……クロイドス、はもういるし」
「それだと被るな」
俺が二人の誘いに乗ると、アオイドスはなにかを悩み始めた。
「今日から君は、イタイドスだ」
「俺が懸念していたクライドスよりも酷いな」
うん、と翻訳係の人まで頷いている。なにがなんだかさっぱりわからない。という表情をしているとようやく翻訳係が動いてくれた。
「アオイドスは認めた相手を勝手な芸名で呼ぶんだ。まぁ誰に対してもこういうヤツだから、気にしないでくれ」
「お、おう」
大丈夫なんだろうかこいつら、と俺が思ったのは言うまでもない。
「イタイドス。宿は取ってあるか?」
「いや、これからだけど?」
「そうか。なら行こう。俺達も取っていないんだ」
先が思いやられることばかりだな。
「……で、イタイドスの由来ってなんだ?」
「……ほら、和太鼓倶楽部の股間を蹴り上げていただろう?」
「……ああ」
納得してしまった。俺が痛いのではなく相手を痛くする方の意味らしい。
「イタイドス! ギターは持っているか?」
「いや?」
「じゃあ今から見に行こう」
「そんな急にかよ」
「世界は運命を待ってくれない」
「ちょっとなに言ってるかわかんねぇ」
「おそらく思い立ったが吉日、と同じような意味だろう」
「あんたよくわかるな。そういや名前聞いてねぇ」
「バアルだ。……まぁ、奇しくも同じギタリストだからな。本当は騒々しいヤツなど遠慮願いたいが」
バアルは俺の言葉に苦笑していた。つまりアオイドスの人柄はあまり好きではないが、音楽家としての才能は認めているということか。
ともあれ俺は先導するアオイドスに、バアルと並んでついていった。音楽の島だからか楽器を売っている店は多いようだ。とはいえGMF直前に購入するヤツなどいないのだろう。あまり人は入っていない。
「アキナイドス、いるか?」
「その呼び方は、アオイドスか。なんじゃ、遂にギターをぶっ壊したのか?」
「違うなアキナイドス。今日は新たなメンバーにギターを選んで欲しい」
「ギターだと? ……お前さんも、そっちのバアルもギターなのにか?」
「そうだ」
迷いなく答えるアオイドスに、楽器屋の店主らしき爺さんは盛大なため息をついた。
「アオイドス。わかってるとは思うが、バンドはギター、ベース、ドラムの構成だ」
「わかっている。だが彼の奏でる旋律に、ヘイヴンの芽を感じた。是非ギターを奏でて欲しい」
「はぁーっ。しょうがねぇ、ほれ兄ちゃん、こっちに来い」
「ああ」
アオイドスと店主の話にはついていけなかったが、とりあえ爺さんに手招きされたので前に進み出る。皺の多い手で俺の手を掴み、なにやらじろじろと見てきた。続いて俺の背丈を確認しているらしく全身を眺められる。
「ふむ。お前さんに合いそうな、アオイドスの演奏についていけそうなギターはこいつじゃな」
一通り眺めてから爺さんは店に飾られている楽器の中で、一つの黒いギターを手に取って見せてくる。
「わかった、買おう」
「四百万ルピじゃ」
「わかった、払おう」
「は!?」
とんとんと進んでいく話に素っ頓狂な声を上げてしまう。
「い、いや。流石にそんな金はねぇぞ?」
「問題ない。俺からの、才能ある音楽家へのプレゼントだ」
「受け取っておけ。金がないからギターが買えなくて出場できないとなるくらいなら、喜んで私財を投じる男だ」
「そういうことじゃな。精々、置いていかれないよう精進することじゃ」
戸惑っているのは俺だけのようだ。結局、アオイドスのポケットマネーでギターを買ってもらってしまった。……一応楽器武器に該当されるらしく、これを演奏して戦うこともできるようだ。
会場から遠めの宿屋を取った後、外で二人からギターの指導を受けた。ある程度できるようになったところで【エリュシオン】になればもっといけるんじゃ? と思って弾いてみたのだが。
「それじゃヘイヴンしないな」
「ああ。音楽の方向性が違うんだろう」
ということで断念することになった。因みに【ドラムマスター】でも同じ。一応楽器なら装備できるから、と思ってやってはみたんだが。どうやら地道に努力するしかないようだ。
「今日のところは休もうか」
「ああ。根を詰めすぎてもいけないだろう」
「わかってる。だがもうちょい触らせてくれ。すぐ戻る」
「熱心なのはいいことだ。おやすみ、イタイドス」
「身体を酷使しすぎるなよ、ダナン」
「わかってるって」
二人が宿に戻っていくのを尻目に今日習ったことを復習していく。しばらくギターを奏でていると、低い獣の唸り声が聞こえてきた。
「なんだ?」
「グルルルル……!」
見ると更けた闇夜に赤い目が浮かんでいる。……魔物か。丁度いい腕試しになるな。
「かかってこいよ魔物共。俺の奏でる音色はちょっと刺激的だぜ?」
二人の物言いが移ってしまったような気はするが、とりあえず容赦なくギターをかき鳴らして音による衝撃波で魔物を倒していく。
全部で五体。平和そのモノに見えるんだが、どうやら魔物の生息域は近いみたいだな。
宿屋に戻ってから気になって宿屋の店主に尋ねてみた。
「なぁ。この辺って魔物に襲われやすいのか?」
「うん? いや、そんなことはないよ。この島の魔物は星晶獣サラスヴァティ様が統率していて比較的大人しいんだ。GMFも近いし、サラスヴァティ様も楽しみにしておられる祭典だから、魔物が人を襲うなんてことはないと思うんだけど」
「そっか。詳しいところは知らないんだが、GMFは元々そのサラスヴァティって星晶獣に音楽を捧げる儀式だったりするのか?」
「ああ、そうだよ。よくわかったね」
「ふぅん。なるほどな。助かった、話を聞かせてくれてありがとう」
店主のおじさんに色々と話が聞けて良かった。
つまり、このタイミングで魔物が襲ってきたということは、その星晶獣サラスヴァティになにかあったということだ。
「……ホント、あいつらのいるところには災いが降りかかる運命にでもなってんのかね」
厄介なことが起こりそうだと思いながら俺は自分の取った部屋に入り、シャワーを浴びてから就寝するのだった。
◇◆◇◆◇◆
翌日。朝飯を宿屋で食べてから二人とギター練習。昨日楽器屋の爺さんが言っていたことについて聞いてみた。
「なぁ。本当にギター三人でいくのか? どっちかベースにして、俺がドラムっていう路線もあるだろ?」
「その通りだ。ただ俺にはかけがえのないベースとドラムがいる。アカイドスとキイロイドスだ」
「ラカムとビィのことだな」
名づけセンスが意味わからん。
「折角コラボレーションが許されたステージに上がるのなら、とクロイドスを誘ったんだ。だがクロイドスとは既にセッションを繰り返している。新しい風が必要だと思った。それが君、イタイドスというわけだ」
アオイドスの言い分も大体わかるようになってきた。相変わらずセンスはよくわからないが、意味は理解できる。要は自分と一緒にバンドをやるメンバーはラカムとビィだけだと思っているが、コラボでもいいステージならとバアルと俺を誘ったということらしい。三人全員がギターってなかなかないような。
「案外仲間想いっつうか。まぁいいか。昼から受付だろ? そろそろ行った方がいいんじゃないか?」
「そうだな。行こうか」
「ああ。誘ったのに出場できませんでした、じゃ格好がつかないからな」
まだ受付開始には早いかもしれないが、長蛇の列になる可能性を考えて早めに向かうことにした。
「うわ、多いな。だがそこまでじゃねぇか?」
着いて顔を顰めかけるが、想定していたよりはマシだとわかり最後尾に三人で並ぶ。
「ああ。……島のパトスが弱まっている。悲しい音色が聞こえてるよ」
「そうだな。どうやら昨夜の内に、なにかあったようだ」
アオイドスとバアルの表情が曇った。二人だけで通じ合っていないで俺にも教えて欲しい。
「そういや昨日お前ら二人が宿に戻った後に、魔物に襲われたんだ。それか?」
「「それだっ!」」
俺の言葉に二人が声を揃えて反応する。
「なるほど。ってことは出場予定だったヤツらが昨夜魔物に襲われて、出場を断念せざるを得ない状態になってる可能性が高いってことか」
「かもしれないな。あともしかしたら、だが。出場予定の音楽家だけが襲われたのかもしれない」
「クロイドス。一体どういうことだ?」
「ここの魔物は星晶獣サラスヴァティによって統率されている。その魔物が襲ってきたということは、音楽を司るサラスヴァティになにかあった可能性が高い。あいつは音楽を邪魔するモノと、音楽を穢すモノを許さないからな」
バアルのなにかサラスヴァティと知り合いのような言葉を怪訝に思ったが、今はそれどころではない。
「つまり俺や他のヤツらはそれに該当すると見做されたわけか」
「なにをバカな。イタイドスは確かに素人だが、練習への熱意は本物だ」
「ああ。それはわかっている。だがもしダナンの腕をGMFに出るほどでないと判断したら襲わせるかもしれない。または動機が不純だった場合、だな」
ちょっと心当たり出てきたかもしれん。なにせ賞金目当てだし。
「他の出場者も腕が足りないか、または不純な動機があるって可能性が高いわけだな」
納得した。しかし出場者が襲われるとなると、イベントの中止もあり得るのか?
「中止はないだろうがな」
しかしバアルは俺の心を読んだように言った。
「なんでだ?」
「“蒼穹”の騎空団が、総員で警護に当たることになったらしい。今朝方俺達の下にも連絡が来た」
「あー、なるほど。数百人規模の騎空団なら街の警備を行える、か。お前らみたいな音楽に関わりある団員は兎も角、関係ないヤツだっているだろうしな」
「そういうことだ」
シェロカルテも来ているらしいし、あいつの口添えもあれば問題なく続行を決めるだろう。あと聞いた話だが、マフィアを滅ぼしたらしい。国の要人やなんかも入団しているため、「あいつらマジでヤバい騎空団なんじゃね?」という噂が広まっているようだ。……そんなヤツらのライバルとか、大きく出すぎたかもしれんな。
「……」
「静かだと思ったら、どうした考え込んで」
アオイドスが黙り込んでいたので、バアルは不思議そうに尋ねる。彼は顎に手を当てて悩ましい表情をしていた。
「……Hell Or Heaven。いや、Blood Red……。Burst Devilも捨て難い」
「一体なんの話だ?」
魔物の襲撃とは関係なさそうだったが尋ねてみる。
「ああ、俺達の団体名だ。ステージに上がる前にアナウンスされるからな。ヘイヴンを感じる名前にしようと思っている」
「「……」」
異変については興味を失っていたらしい。そんなことを、と考えてしまうがそれが音楽家としての才に繋がっているのだろうか。
「まぁ、アオイドスはそれくらいの方が通常運転か。精々悩んでくれ。受付をするまでにな」
「任せておけ。俺には神すら妬む才能がある」
それは知らないが、俺はそういうのが得意じゃないので任せる他ない。
なんとか受付を済ませて出場枠を確保できてから、昼飯でも食べに行くかと二人と別れた。二人は“蒼穹”の騎空団としてやることがあるらしい。
「ま、待ってください!」
歩き出した俺の前へちょこちょこと小柄な体躯が回り込む。
ハーヴィンの女の子だ。ハーヴィンの中でも小柄に見える。
この島に来てからよく人に呼び止められるな、と思いながらその娘を見やった。銀髪の少女だ。
「あなたもしかして……『キミとボクのミライ』のアイドル達のライバルグループのプロデューサーのダナンさんじゃないですか!?」
少女の表情は真剣そのモノで、必死になにかを訴えようとしてきている。しかし少女の言っていることは、なにもわからない。
「……なに、言ってんだ?」
俺は正直に首を傾げるしか、ないのだった。
ダナン は ナンダク的 エイプリルフールネタ を ゲット した!
……書くとは言ってない。