ナンダーク・ファンタジー   作:砂城

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三話目になるので中ボスが出てきます。モブです。
ライジングフォースを取りましたが、面白いジョブですよね。エピソードはちょっとアレな村が出てくるんですよねぇ。

あとアオイドスさんはやっぱり出てくるんだなって思いました。


EX:こんなヤツらが

「それじゃダメだ、イタイドス」

 

 GMFへの受付を行ったのが開催の一週間前。リルルと出会ったのもその日だったが、あれから四日が経っていた。

 “蒼穹”の騎空団全面協力の下、イスエルゴの警備は強化されその後は出場者の被害もなく港から街までの護衛を行って安全を確保し、とGMF開催に向けて順調に進んでいったのだが。

 

 日夜練習に明け暮れていた俺は、アオイドスにそうダメ出しをされた。

 

「ん? 今どっか間違ったか?」

 

 俺は教わった通りにやっていると思ったのだが、気づかず間違ってしまったらしい。

 

「いや、演奏は問題ない。楽譜通りに弾けている」

 

 しかしアオイドスはそう言った。ならなにがダメだと言うのだろうか。

 

「君の演奏には熱いパトスが感じられない。それじゃあ、ヘイヴンなんてできるわけがない」

 

 またアオイドスのよくわからない主張が始まった、と思うのは簡単だがやけに彼の顔は真剣だった。

 

「もう基本は教えた。あとは楽譜を覚えるだけ。なら教えることはない。君の演奏にパトスが宿る時まで、俺は一緒に練習をしない」

「なに言って……あ、おい!」

 

 アオイドスは俺が呼び止めるのも無視して立ち去ってしまった。……本番三日前だってのに、なに考えてやがんだ。

 

「……今回は、俺にもアオイドスの言っていることがわかる」

 

 バアルは難しい顔をして、ようやく口を開いた。

 

「ダナン。お前の演奏の腕は、凄い速度で上達している。一目見て和太鼓を覚え団長達と合わせられたのも驚くべきことだったが、どうやらお前には人の真似をする才能があるようだ」

「……」

 

 俺はバアルの話を神妙な表情で聞く。彼がなにを言いたいのか、これからなにを言うのかを考えながら。

 

「だが、お前には決定的に足りないモノがある」

「なに?」

「それは俺とアオイドス、音楽家に分類される者なら誰しもが持っているはずのモノだ」

「それは一体……」

 

 バアルの次の言葉を待つ。

 

「それは――熱意だ」

 

 彼は言った。

 

「極端に言えば、上手い演奏など練習すれば誰にだってできる。どれだけ長い年月がかかるかは個人差としてもな。なら無数に存在する音楽で、自分だけの音楽だと言わしめるモノはなにか? それがセンスと心だと思っている」

「センスと心、ね」

「そうだ。センスがなければ、もちろん人気になるのは難しいだろう。お前にはおそらく、センス自体は備わっている。アオイドスもそれを感じ取ったからこそお前を引き入れたんだ」

「……」

 

 そこまで買い被ってもらっていたとは、また複雑な気分だ。

 アオイドスははっきり言って変なヤツではあるが、腕はピカイチだ。バアルも当然、上手い。ちょっと調べてみたのだが、アオイドスは世界を股にかける音楽家だ。俺は興味がなかったので全く知らなかったのだがぽんと四百万ルピを出せるだけはあって大人気らしい。

 そんなヤツが俺のことを、と思うと本当に複雑な気分だ。

 

「つまりお前には、圧倒的に熱意が足りていない。熱意は音楽の道を歩む者にとって必須だ。アオイドスの言うパトスとはそういう意味合いだろう。よく使うヘイヴンは熱狂とか、気分の最高潮みたいな意味だとは思っている。多少違いはあるだろうが、概ねそんな意味だ」

「要は、観客を熱狂させるには演奏者の熱意が必要ってことか」

 

 バアルの解説を聞いてようやくアオイドスの言いたいことが理解できた。……そりゃ、俺にはないモノだわ。

 

「ざっくりと言えば、そうなる。魔物の襲撃があったことからも考えて、おそらく賞金目当てかなにかだろう? だがそれでは人の心を動かせないし、魂に響かない。俺達との共鳴(レゾナンス)は成立し得ない」

「……」

「だから残り二日の内に、自分の中で答えを見つけることだ。俺としてもぶっつけ本番は遠慮したいのでな。最低でも一日は合わせられるように、考えておいてくれ。俺達と共鳴(レゾナンス)を奏でるか、辞退するかをな」

 

 バアルは俺にそう告げて、アオイドスと同じように去っていった。

 

 ……なんだかんだ言って、バアルもアオイドスと同じように独自用語使うんだよなぁ。レゾナンスってなんぞ?

 

 と少し現実逃避をしながら考える。

 

「……熱意、か」

 

 一人になってぽつりと呟いた。バアルにも、おそらくアオイドスにも俺にそいつがないことを見抜かれている。確かに本気で音楽に取り組んでいるヤツなら、俺みたいに賞金目当てでやっているヤツとは一緒に練習したくないだろう。

 ここは下りるのが無難か。

 

 と思考を巡らせていたら唸り声が聞こえ魔物が接近してきていた。……なるほど、ね。音楽に熱意のないヤツは出場すんなっていう星晶獣様の意思ってわけか。

 思えば前回の襲撃も他の二人がいなくなってから起こった。つまりサラスヴァティとやらは俺の心を読み取って魔物をけしかけているということになる。

 

「なるほど、大体読めてきた」

 

 状況は掴めた。だがもう少し根拠が欲しいな。明日、街を回ってみようか。金目当てで音楽に熱意のない参加者の他にもサラスヴァティが行動を起こす要因があるかもしれない。

 

「オーキスはいねぇから、星晶獣の件はあいつらに任せるとするか」

 

 俺だけでは星晶獣について調べ回ることは難しい。ルリアならなにか感じ取っているだろうし、今日明日辺り動くだろう。

 

「ちょっと練習してから俺も寝るか。……熱意とやらもちょっと考えてみるかな」

 

 俺は独り言を呟いてから宿屋に戻るのだった。

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

 翌日。アオイドスは素っ気ない様子だった。元々今は仲良くする気がなかったので外出するとだけ告げて宿を出た。

 

 街をぶらぶらして会場周辺の様子を見れば、浮き足立っているのがわかる。

 出場者は一週間以上前に島へ来ているが、観客として参加する者達は開催直前でも、宿さえ取れれば問題ない。極端な話日帰りでも席が取れるなら問題はない。

 ただまぁ観てくれる人、聴いてくれる人がいないと成り立たないモノであるとはいえ、あまり見ていて気持ちのいいモノでないヤツらも存在していた。

 

「手伝いますよ、ただちょっと話を聞かせて欲しいんですが」

 

 俺はあまり使わない敬語を使って、袋と金鋏を持ち散乱したゴミを拾い集める老人に声をかける。

 

「え? ああ、悪いね。頼めるかな」

 

 少し戸惑ってはいたようだが、老人は柔和な笑みを浮かべて予備の袋を渡してくれた。

 俺は袋を広げてゴミを拾い集めながら老人に話を聞いていく。

 

「ゴミ多いですね。GMFが開催されるといつもこうなんですか?」

「まぁねぇ。毎回毎回、出場者も観客も増えていくから。その分ゴミも増えていくんだよ。音楽が盛り上がるのは嬉しいんだけど、節度は守って欲しいモノだよね」

 

 老人は切々と語る。道行く人達はゴミを拾う俺達に目もくれない。足元を見やればゴミが落ちていることに気づくのに、足に当たればゴミが落ちていることに気づくのに、誰一人として自分が動こうとはしない。

 それがゴミが散乱している原因だ。当然、一番悪いのはゴミをポイ捨てするヤツらだが。

 

「お爺さんはここで長いんですか?」

「そうだね。十開催は少なくともいるかな」

「四十年以上……」

「そうだね。昔からずっと、このイスエルゴの島に関わってきた。でも近年は若者の間で新しい音楽が生まれてね。GMFも若者の観客が増えてきた。最近の若者は、なんて言う気はないけど。マナーが悪いのは大抵、若者なんだよ」

 

 礼節を守るという点で、若者はまだ教育され切っていないことが多い。最近の若者ではなく、若者はいつの時代だってそういう生き物なのだろう。

 

「君みたいに優しい子がたくさんいるといいんだけどね」

「優しくなんてないですよ。ただ、話を聞きたかっただけです」

 

 好きで手伝っているわけではない。ただ必要だったからそうしているだけだ。

 

「そうかい? それでも手伝ってくれるだけ優しいと思うね」

 

 老人はそう言うが、事実俺は優しさを持ち合わせていない。少なくともこの老人や島に対しては。

 

「それより他の話も聞きたいですね。魔物が出場者を襲撃していることについて、ずっと島に関わってきた方の意見を」

「ああ、その話かい。あれは簡単だね。この島にいる音楽を司る星晶獣サラスヴァティ様がお怒りなんだよ。不純な動機や実力不足。自分を祀る祭典に相応しくない者に対してのね」

 

 それは身を以って知っている。

 

「あと最近流行っているジャンルには、あんまりいい顔してないんじゃないかなぁ。演奏や歌の出来具合が音楽を形作ると思っているところがあるからね。アイドルには否定的だと思うよ」

「アイドルですか。自分の聞いた話によると、音楽とは演奏技術もそうですがセンスと熱意で作られるそうですが。アイドルでも熱意を持ってやっている人はいるんじゃないですか?」

 

 アイドルと言えばリルルしか知らないが、彼女は確かな熱意を持ってアイドルをやっているように思えた。そこにアオイドスとバアルの話を考えると、アイドル全体が悪いとは考えられない。

 

「そうだね。でもアイドルそのモノを否定的に見ている可能性はあるんだよ。えぇと、なんて言うのかな。音楽性での人気じゃなくて、可愛さでの人気だと思われることも多いからね。特に音楽を司る身としては、否定的になってしまうかもしれない」

「……貴重な意見、ありがとうございます」

 

 老人の話を聞いて、一応頭に入れておこうと心に留める。後でリルルに魔物の襲撃を受けなかったか聞いてみよう。

 そうして老人と一緒にゴミ拾いをしていると、目の前に飲み物の容器が転がってきた。眉を寄せて顔を上げると派手な髪色にへらへらした顔、耳にピアスを着けた男三人の内一人が投げ捨てたようだ。……俺達がゴミ拾いしてるからって目の前に放り投げるかよ。どうやら痛い目に遭いたいらしい。

 だが俺が袋を置いてヤツらに近づこうとすると、袖を掴まれた。見れば老人が首を横に振っている。サラスヴァティを祀る祭典での荒事はやめて欲しい、ということなのかもしれない。もし俺がグランだったなら、唇を噛み締めつつ従ったのかもしれないが。

 

「悪いな、爺さん」

 

 慣れない敬語をやめ普段の口調に戻り、爺さんの手を振り払ってまずゴミを拾う。なんだ、ちょっと残ってるじゃねぇかよ丁度いい。

 

「すみませーん。ゴミ落としましたよっ!」

 

 俺は男達に声をかけつつ、全力で容器をぶん投げた。容器は真ん中の男の後頭部に命中して弾け飛ぶ。容器の中身が飛散し男三人の頭にかかった。容器が弾け飛ぶ音が響いたので周囲も何事かと思って男達を見て、おそらく憤怒の形相をしているであろう男達を避けていく。

 

「……あぁ!?」

 

 三人揃って男達が俺の方を振り向いた。額に青筋を浮かべて苛立ちを露わにしている。だが全く怖くない。弱いと丸分かりだからだろうか。チャラ男はチャラ男でもローアインの方が何倍も好感が持てるな。

 

「あ、すみませーん。手が滑っちゃいましたー。ま、でもいいですよねぇ。……ゴミは一箇所にまとめて捨てないと」

 

 おどけた口調で言った後に嗤う。だが怒りに囚われた三人は俺の笑みの意味に気づかない。

 

「あんだこらてめえ!」

「嘗めた真似してんじゃねぇぞこのボケが!」

「ぶっ殺されたいならそう言えやこらぁ!」

 

 口々に凄んでくる。野次馬が一定の距離を開けてこちらの様子を窺っていた。……グラン達が来る前に片づけないと面倒なことになるな。

 

「いや、てめえらこそなに言ってんだよ。先に嘗めた真似したのはてめえらの方だろ?」

「あ? なに訳わかんねぇこと言ってんだ?」

「だっててめえら、道端にゴミ捨てただろ」

「はあ?」

 

 男達が片眉を吊り上げる。そしてちらりとゴミを拾っていた爺さんを見やった。

 

「てめえバカじゃねぇのか? ゴミ拾う爺がいんだろ。ってことはゴミは自由に捨ててもいいってわけだ」

 

 どんな思考してやがんのか理解できねぇ発言だった。前提が違うってのに。

 

「ゴミを捨てるバカがいるから、誰かが拾わなきゃいけねぇんだろ? どっかの誰かさんみたいな、バカが」

 

 苛立ちは煽りへ変える。予想通り青筋をぴくぴくさせていますねぇ。

 

「てめえ。調子乗ってっと痛い目見んぞ?」

「そらこっちのセリフだわ。てめえらみたいなゴミカスでもここに演奏聴きに来てんだろ? 出場者を尊重する気持ちがないのかねぇ」

「はあ? さっきからなに言ってんだ? 俺らが聴きに来て()()()()()()()。その演奏ってのは俺ら聴衆がいねぇと成り立たねぇだろ?」

 

 なるほど。それは正しい。確かに演奏は聴く人がいなければ自己満足だ。聴衆がいなければ成り立たないという意見も頷ける。

 

「なるほどなぁ。だがそれが意見の大半だとは限らねぇし、てめえらみたいなゴミの言い分を信じるわけねぇし」

 

 そういう表現者と受け手の関係ってのは難しいモノだ。こいつらの言い分は、ある意味では正しい。だがそれが全てではない。逆に表現者が提供してやっている、という上から目線で受け手に対し高圧的になるのも印象は良くない。だからこそお互いに尊重してやらないとダメなんだとは思うんだが。素人考えだがこの俺の考えは間違っていないと思う。

 

「なに言ってやがる。俺らは聴衆の一人、つまり聴衆の代表だぜ? 知らねぇのかよ、聴衆一人一人が代表って言葉をよぉ」

 

 男がニタリとした笑みを浮かべて告げてくるのに対し、俺は笑みを深めてしまう。……釣れた、の一言に尽きるな、俺の心情は。

 

「そうかそうか。てめえらが聴衆の代表かぁ」

 

 うんうんと頷きながら言って、俺は大きく息を吸い込んだ。

 

「つまり! てめえらは! ゴミを道端に捨てて音楽の聖地を穢し! わざわざGMFのために遠路遥々イスエルゴに来ている全ての音楽家は! てめえら聴衆に自らの血と汗を流して生み出した音楽を! 献上しろと言うわけか! なるほど、随分と大きく出たなぁ!」

 

 俺は周囲にもはっきり聞こえるように、大きな声でそう言った。

 

「な、なんだてめえ。急に大声出しやがって」

 

 俺の行動に驚いてはいるようだが、真意には気づいていないようだ。

 

「そしててめえらはてめえらこそが聴衆の代表だと言ったな! 要するに、てめえらみたいにゴミを捨てて聖地を穢し、音楽家達を蔑ろにするファンの姿こそがこの島に来ている観客というわけだ! ――そりゃサラスヴァティが魔物をけしかけるのも頷けるなぁ! そんな人間のゴミしかいねぇ祭典なんて、潰れてしまえと願うわけだ!」

 

 できる限りの大勢に聞こえるように、俺は盛大に話す。

 

「て、てめえ一体なにを……」

「俺の言葉を聞いても理解できねぇんじゃ、これ以上話しても無駄だな。そしててめえらみたいなゴミカスと同程度の人間しかこの場にいないんじゃ、GMFは終わりだ。精々最後の祭典を楽しむといいさ。――下らねぇ観客のせいで、GMFは終わるってことを自覚しないままな」

「あ……? なに言って――」

 

 俺の言葉に怪訝な顔をする男達へと、一つの小さな石が投げつけられた。飛んできた方向を見ると幼い少年がいる。とはいえ怖いのか震えていたが、最初の勇気を踏み出すのはいつだって子供だ。

 

「クソガキが……!」

「クソなのはどっちだ! なにが聴きに来てやってる、だ! 出場者達をバカにするな!」

「そうよそうよ!」

 

 男が苛立ったように少年を睨むが、続けて周囲からモノを投げられてしまう。

 

「全くだ! リルルファンの風上にも置けん!」

「音楽を尊重できないヤツに、この島の土を踏む資格なんてあるか!」

 

 いやリルルのファンとは限らねぇよ? というツッコミは置いておいて、男三人は先程まで野次馬だった者達に揉みくちゃにされていく。

 

「あ、お爺さん。私もゴミ拾い手伝いますよ」

「えっ? あ、ああ……」

 

 爺さんのゴミ拾いにも協力者が現れたようだ。これなら多少はマシになるだろうか。じゃあ俺は目立つのもご免だし、さっさと退散しよう。できればあの三人の股間蹴り上げるくらいはしてやりたかったが、そのストレスは料理で発散させてもらうか。

 シェロカルテの店、借りよう。




はい、ということで中ボスはポイ捨て三人衆です。
三人で一体の敵なのでまとめて吹っ飛ばせる想定です。

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