ナンダーク・ファンタジー   作:砂城

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いよいよ当日を迎えます。
色んなキャラクターの名前が出てきますが、まぁグラブルではこれ以上の音楽関係キャラがいるんだよというだけでいいです。
この作品ではキャラソン由来も多いのが難点ですね。


EX:GMF当日まで

 そして俺は店を出てから一人考え込んで答えに至った。

 今日はあまり練習していないので楽器を触って一通りお浚いしつつ、その日は就寝する。

 

 夜は魔物による襲撃がなかった。

 

 翌日、俺の演奏を二人に聞いてもらって了承が取れたので、俺の心は間違ってはいないだろう。こういうのに正しいも間違っているもないのかもしれないが。

 しかし新たな問題が出てきた。

 

 それが単純な技量不足だ。

 

 アオイドスとバアルは偶然にも凄腕のギタリストであり、俺は数日前に始めたばかり。当然その演奏には差が出てしまう。

 二人の演奏は凄い。一緒に演奏しているこっちの気分まで高揚させ、俺の演奏に力を与えてくれる。これは聴衆が熱狂する演奏になるだろう、と思うのだが。

 

 二人が全力全開を出すには、俺の力量は足りなさすぎる。

 

 とはいえ焦っても仕方がない。熱意を持って残り二日を過ごすしかない。

 要するに、練習あるのみだ。

 

 そしてGMF前日になり、三人で音を合わせていく。

 ギターを演奏する『ジョブ』はないが楽器という括りで言えば『ジョブ』によって上達が早い。既に【エリュシオン】まで取得していたのが良かったのだろうか。『ジョブ』を極めれば楽器の扱いに長けるようになるので、割りとギターの演奏を覚えてしまえばそれなりの腕にはなった。

 そう、それなりの腕だ。

 

 前日になって本番前最後の音合わせをした後、俺は一人残っていた。

 

 アオイドスとバアルは本気で演奏しても問題ないくらいにはなったと言ってくれた。つまり今の状態でも、足を引っ張ることはないらしい。

 だがそれではダメだ。音楽に関わって思ったが、一緒に演奏するならバアルが言うところの共鳴(レゾナンス)として成り立つだけではダメなのだ。互いの演奏が互いの演奏を高め合って旋律(メロディ)を昇華させるに至らなければ。

 

 アオイドスはギターを弾きながら歌も歌う。

 アオイドスの持ち曲一つと、この場限りの特別な曲を一つ。それが俺達のステージ内容だ。アオイドスがやりたいように、というステージなので残念ながら俺とバアルも歌わされることになった。別に歌が上手いわけではないと思うのだが、一応【エリュシオン】って元々吟遊詩人的な立ち位置だからな。演奏と共に詩を口にする『ジョブ』だ。なので演奏と歌を両立するのは難しいことじゃない。

 

 演奏と歌、その両方の音に魂を込めろ。俺は確かに始めたばかりだが、あいつらに届くはずだ。なんたってそれが『ジョブ』の力だから。なんだってできるなら、あの二人のように演奏することも可能なはずだ。

 アオイドスのように、バアルのように。人々の魂を沸かせる演奏がしたい。俺だってあの二人と共にステージに立つなら、ついていくだけじゃなくて互いに高め合える存在でありたい。

 

 俺が抱える感情を乗せてギターを弾いていると、遂に。

 そして、

 

「……ははっ」

 

 俺は()()()

 もう日付が変わろうという時間に、ようやく俺は掴んだのだ。二人に届いたのだ。

 

「今日はもう寝るか。明日、見てろよ」

 

 俺はギターを担いでニヤリと笑う。

 

「……会場全員、驚かせてやる」

 

 内々で燃える炎が身を焦がすような感覚を味わいながら、宿屋で就寝するのだった。

 そして、GMF当日の朝を迎える。

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

 いよいよ、全空最大規模の音楽の祭典、Granblue Music Festaが開催される。

 通称GMFが開催される星晶獣サラスヴァティの加護を受ける島、イスエルゴには大勢の人が詰めかけていた。

 

 それは出場者然り、観客然り、商人然り、スタッフ然り。

 

 あらゆる人がGMFという祭を楽しむために尽力してきた。数日前まではゴミが散乱していた街もかなり綺麗になっている。そのおかげか魔物の襲撃も減ってきていて、中止になることなく当日を迎えることができた。

 

 俺達の出番は前半の後ろの方ということなので、取った席に着いて他の参加者のステージを眺めることにする。

 

 会場には最奥にステージがある。ステージから扇状の観客席が広がっていて、席は全員が見られるようにか階段式となっていた。かなり後ろの方を取ったのでステージを遠くから見下ろす形となる。

 

「って、あれ? ダナンさん。奇遇ですね」

 

 早めに来て座っているとリルルが声をかけて、隣に腰かけた。どうやら偶然にも彼女と隣の席だったらしい。“蒼穹”のヤツらはバラけているから遭遇することもあるだろうとは思ってたんだけどな。

 リルルの格好は私服に帽子とお忍びコーデ丸出しだった。

 

「なんでお前がここにいるんだよ。出場者はその枠で席取れるだろ?」

 

 俺は出場を決める前に席を取ったので使えなかったが。

 

「あっちにいるとわかって目を向けられたら、リルルがどこにいるかわかっちゃうじゃないですか。リルルは小さいので、ハーヴィンの出場者ってあんまりいないと考えれば、騒動を避けるために当然です」

「案外ちゃんとしてるんだな」

 

 プロ意識が高いというか。この間会った時は全然忍んでなかったのに。

 

「はい。……あと純粋に色んな人のステージが観られる機会ですから。リルルは全空一のアイドルを目指してますけど、今日だけは全員ライバルですから。客観的に観てみたかったんです」

 

 なるほど。まぁ俺もあっちへ行きたいかと言われれば否と答えるだろうが、彼女にも思うところはあるらしい。

 

「じゃあ折角だ。一緒に観るか」

「はいっ」

 

 こうして奇しくもリルルと一緒にGMFを観賞することになったのだった。

 

「レディース、アーンド、ジェントルメーーンッ!! 本日いよいよ開催される全空最大の音楽の祭典が、四年越しに帰ってきましたッ!!」

 

 ステージ上に上がった銀髪に赤メッシュ、サングラスをかけたキラキラ衣装の男がテンション高く、マイクで会場中に声を響かせる。

 

「音楽の聖地、ここイスエルゴにお集まりいただいた皆々様には、一丸となってこのGMFを盛り上げていただいたいと思いますので、何卒お願いします! 本日の司会・進行を務めさせていただく、シンガーソングライターのウタハです! どうぞよろしくお願いします!!」

 

 テンション高く名乗りを上げた男が一礼すると、会場から盛大な拍手が巻き起こる。その後もウタハがトークを続けて会場を温めていく中で、リルルはぽつりと言った。

 

「ウタハさんは司会として各所に引っ張りだこな人気ある人です。“歌わないシンガーソングライター"として親しまれています」

「“歌わない”ってなんだよ。シンガーソングライターじゃねぇのか」

「それは一応自称ですね。人前で歌ったことが全くないとされる徹底振りですが、本人曰く歌ったら超絶上手いからGMFにもオファーが来ちゃうかも、ということらしいのですが真偽は不明です」

「なんだそいつ」

「でも抜群のトーク力とミュージシャンっぽい見た目が理由で音楽のイベントとかによく呼ばれてますよ」

「へぇ」

「でもちゃんと音楽の知識はあって、本当に歌が上手いのでは? と実しやかに囁かれています」

 

 なるほど。ってかなんでリルルはそんなに詳しいんだ。

 

「リルルもイベントでお会いしたことがあって、色々調べたんです」

「ああ、それでか」

 

 俺の内心の疑問に答えてくれる。よくイベントに呼ばれるというあのウタハとかいうヤツは、全空最大の音楽イベントに呼ばれるくらいだから人気なんだろう。引っ張りだこな人物とイベントで関わりあるっていうことは、やっぱりリルルも相当に有名なのかもしれない。

 

「そろそろ会場も温まったかなぁ? それでは早速Granblue Music Festaを開始しよう! 皆様存分に盛り上がって、楽しんでいってくれ!!」

 

 ウタハの言葉に観客が雄叫びで応える。ウタハは手を振りながらステージを降りていった。

 

 最初の一組はバンドだった。大舞台の初っ端ということで緊張しているようだったが、流石にGMFに参加するだけはあってレベルが高い。曲を続けている内に緊張が解けていくと充分な盛り上がりを見せていった。

 

「おっ?」

 

 二組目を挟んだ三組目。俺が思わず声を上げたのは、いそいそと和太鼓が運ばれてきたからだ。十中八九和太鼓倶楽部の連中だろう。色々な出場者がいたのだが、和太鼓を使うのはあいつらだけのようだったし。

 三十近い和太鼓がステージ上に並べられて、紹介アナウンスが入る。

 

「和太鼓の分野を広めるため……今年もあいつらがやってきた……! 法被にふんどし! これぞ和太鼓演奏の正装! GMF五回連続出場の常連ッ!! 和太鼓倶楽部の登場だァッ!!!」

 

 あ、これは女性来ないわ。

 

 と聞いた瞬間にわかる紹介だった。むさ苦しいもん。あとふんどしを正装にするのがいけない。女性は恥ずかしいだろ、それ。明らかに嫌な顔をしている女性の観客がいますよ?

 

 とまぁ手遅れな和太鼓倶楽部の男性率の高さは置いておいて。

 ステージ上に上がった面々で、グランとジータの姿を探した。グランは最前列の真ん中だ。ジータは逆に最後列の真ん中だった。ステージに近い観客がやけにどよめいていたのは、男性率百%だったはずの和太鼓倶楽部にジータという紅一点がいたからだろう。

 

 とりあえず俺の言う通りジータを最後尾にしたのはいい。

 

「あ、団長さん達がいますね。最近一緒に出る人達と練習してたので会う機会があんまりなかったんです。和太鼓倶楽部の皆さんと一緒に出るんですね」

 

 リルルがそんなことを言っていた。まぁステージに向けて真剣になるのは活動に本気な証か。

 

 ともあれ和太鼓倶楽部の演奏が始まった。見た目的には暑苦しいだけの集団だが、その演奏は如何にというのは始まってすぐにわかる。

 なにせ一糸乱れぬ動きで太鼓にバチを叩きつけたのだから。そこから始まる演奏は言わずもがな、完全に動きをシンクロさせた状態で奏でられる。確かにこれは圧巻だろう。太鼓から重く響く音が鳴り、会場を飛び回る。正直アホな集団だと思っているが、腕は確かなようだ。

 

 そんな感じで一曲終われば、ふんどしへの嫌悪感も忘れて観客全員が拍手した。

 

 続く二曲目は先程と打って変わって少しずつズラして演奏する。周囲に引っ張られそうだが、三つに分けた演奏のブレは存在しない。サビと思われる一番盛り上がるところではズレていた演奏が一つにまとまり、サビが終わればまたズレる。

 そして二曲目も充分魅せてステージは終わった。確かにこれは凄い。魅せ方も悪くない。だが……。

 

「お、おい見たかあの最後尾にいた可愛い娘」

「ああ、見た見た。あんな娘のふんどし姿を間近で見られるなら和太鼓倶楽部も悪くないかもな」

 

 今年も女性の入部希望者はいなさそうだぞ。そしてジータ目当てで入る連中。あいつは多分今回きりの参加だぞ。

 

 残念だったな、ざまぁ。

 

 それはさておき、飛び入り参加の前半部は続いていく。

 

「あれが“蒼穹”の騎空団きっての歌姫、エジェリーさんです。この歌声に嫉妬して声を封じられるほど。聞いていて納得ですよね」

 

 リルルが丁寧に教えてくれるので、音楽に全く興味がない俺でも入っていきやすい。

 

「今回エジェリーさんと組んだのが、セレフィラさんとエルタさんですね」

 

 ステージの中央で金髪の女性がその圧倒的なまでの歌声を披露している。彼女は歌いながら演奏もするようだが、今の曲は演奏を減らし歌に集中していた。

 そんな彼女の歌声を支え、昇華しているのが他二人の演奏だ。赤がかった茶髪のエルーンがバイオリンを奏で、茶髪の少年がチェコを奏でている。

 

 圧倒的なまでの歌姫に目が向きがちだが、二人の演奏は素晴らしいモノだ。……俺もあの二人に負けない演奏で、意識されないで終わらせないでやる。

 

 その後二つを挟んで出てきたのが、俺の誘いを断った二人。

 

「今日限り、二度とお目にかかれないバンドグループ! 皆の衆、新しい歌姫の姿を見よ! 『ナイト・ディーヴァ』の登場だ!!」

 

 アナウンスの紹介にも気合いが入っている。ステージに上がったのはスツルム、ドランク、シェロカルテ。そして紹介にあった歌姫らしきエルーンの少女。青い癖っ毛で色白の少女だが、初の大舞台に緊張しているのかステージに上がる所作がぎこちない。

 

「あ、フェリさんです。結局出ることにしたんですね」

 

 リルルは俺が唯一名前を知らないエルーンの名前を呼んでくれる。どんな縁であいつらと組んだのか、経緯はわからないが。

 続けて「あ、あの人です! リルルが見た、ダナンさんプロデュースのメンバーの一人って」とスツルムを指差す。……だからなんか、完全に嘘だとは思えないんだよなぁ。

 

 俺も彼女に注目する。ぎこちない足取りでステージへと上がり――床のコードに足を引っかけて転んだ。

 

「ふきゅっ」

 

 マイクを持っていたせいでやけに大きく可愛らしい声が会場に響き渡る。……あぁ、ドランクが後ろで必死に笑いを堪えてるよ。やめてやれ。

 

「……」

 

 少女は慌てて立ち上がると何事もなかったように澄ました表情でステージ中央に立つ。顔が赤かったので恥ずかしいのは間違いない。こういうのは茶化さず温かく見守ってやるのがいい。

 

 会場全体がほっこりした空気になる中、シェロカルテがドラムを叩くためのステッキを打ち合わせて合図をして、合図に合わせて三人が前奏を開始する。

 

 その瞬間に少女の身に纏う雰囲気が変わった。弛緩していた雰囲気を一気に覆して凛々しい表情を見せるフェリに、観客は息を呑んで彼女の歌を待つ。

 

 そして知った。彼女が正しく歌姫であると。

 

「……転けたのも演技だったら、大したもんだな」

 

 俺はフェリの歌とあいつらの演奏を聴きながら、頬杖を突いて言った。

 

「フェリさんは最初、出る気がなさそうだったんです。それをあの青い人が口八丁で丸め込んでました。歌もあまり練習したことなかったと思いますよ?」

 

 天然物かよ。ってかあいつから誘ったのか。どういう心境なんだか、聞きたいところだが。

 

「……リルルも負けてられませんね」

「……俺も負けてられねぇな」

 

 俺と彼女がやる気を漲らせて言ったのはほぼ同時だった。思わず顔を見合わせて笑う。

 

 『ナイト・ディーヴァ』のステージはなかなかの盛況だった。あいつら『ジョブ』持ってない癖に始めたばかりでこれとは、なかなかやる。だが最優秀賞は俺達が貰う。

 その二組後だったろうか。

 

「さぁてお次は今日限りのアイドルユニット! 蒼い空の世界を笑顔で満たさんとステージに上がる四人! これはアイドル達への挑戦状だぁ! ()()()()()()()()、GMFに降臨!!」

 

 その紹介アナウンスに、

 

「……え?」

 

 隣のリルルが信じられないという表情をしていた。

 ステージに上がってくるのは、青い衣装に身を包んだ四人。金髪ショートボブの少女、蒼髪の少女、赤髪の少女、金の長髪の女性。

 

 そこかしこで「あっ、和太鼓倶楽部にいたふんどしの娘だ」という声が上がった。おそらく聞こえたのだろう、ジータの顔が仄かに赤くなっている。

 

「……なんで、ジータさん達が」

 

 リルルは未だ呆然としている。ステージに上がったジータ達は会場に手を振って挨拶した。

 

「それでは聴いてください。――キミとボクのミライ」

 

 リルルから聞いていた話と全く同じ曲名が、マイクを持ったジータの口から紡がれる。

 

 息の合った踊りと歌を披露する四人と、彼女らに釘づけになっている会場。しかし誰よりも『スカイブルー』のステージに夢中になっているのは、確実にリルルだろう。ファンクラブルなんてモノがあったなら間違いなく会員No.1だ。

 流石は『ジョブ』持ちと言うべきか、ジータは歌が上手い。他の三人も負けておらず、四人の歌が見事に調和していた。……しかしあのちょっと年上っぽい人、目の光が妖しい気がするんだが。遠くから見ているせいだろうか?

 

 彼女達の歌が終われば会場中から惜しみない拍手が送られた。

 

 ふと隣のリルルを見ると、

 

「……」

 

 超、号泣していた。涙を滝のように流しながら食い入るようにステージを見ている。……まぁ気持ちはなんとなく察せるが。

 夢にまで見たアイドルと歌が、今こうして目の前にいるんだからな。しかしやっぱりおかしいのは間違いない。だってリルルの幼い頃って言ったら少なくとも三年から五年は前だろ? となると俺もあいつらも今の仲間達と出会っていない頃なのだ。

 

「……また見られて良かったな」

 

 どう声をかけたモノかと迷ったが、そう口にした。

 

「……はいっ」

 

 リルルはごしごしと涙を拭って笑う。今までで一番の顔だ。

 

「でもどうしてなんでしょう。リルルでも歌詞を全部暗記できてなかったので、なかったことなら歌えるはずないんですけど……」

「さぁ、そりゃ本人に聞かねぇとわかんないが。でもなんつうか、リルルが見たのは確かに現実じゃなかったのかもしれないが、全くの嘘ってわけでもねぇんじゃねぇかな」

「?」

 

 俺の言いたいことはあまり伝わらなかったようだ。だがリルルは既に幻だったとしても、と思っている。完全に割り切れてはいないだろうがそう気にすることじゃないだろう。

 リルルは「……やっぱり、アイドルはこうでなくちゃ」と妙に意気込んでいる。憧れのアイドルの再現で火が点いたらしい。

 

「さてお次は炎と舞の合わせ技! 歌と踊りだけじゃなくパフォーマンス性も高いステージを魅せてもらおう! 『炎舞三人娘』の登場だ!!」

 

 紹介アナウンスがされて、二人のエルーンがステージに上がる。

 片や笑顔で観客に手を振りながら、片や恥ずかしそうに俯いて。前者が黒髪のエルーン、後者が水色がかった銀髪のエルーンだ。二人共尻尾が生えているが、エルーンに尻尾はなかったような気がする。

 三人娘と言っておきながら二人しか出てこないことに首を傾げていると、最後の一人が遅れて、しかし悠々とステージに上がってきた。

 

 燃えるような深紅の長髪に、同じく深紅のドレス。

 

 彼女が登場した瞬間に一部の男性観客から歓喜の咆哮が上がった。

 

「ユエルさんにソシエさんに、アンスリアさんですか。なるほど、確かに『炎舞三人娘』ですね」

 

 リルルが知っている様子なので、おそらく“蒼穹”の団員だろう。

 

「私の舞であなた達を魅了してあげるわ」

 

 妖艶に微笑んでそう告げた彼女はステージの中央に立ち、流れ始めた音楽に合わせてステップを刻む。左右の少し後ろにいる先に上がった二人もステップを踏み、歌い出す。

 真ん中の娘は歌わないらしいが、両手に炎を灯しステージの中央で熱く舞い踊る。

 

 男性客の大半から熱視線を、その身で一手に引き受ける彼女は熱く、艶やかに踊り続ける。しかしここがステージの全体を見渡せるくらいの位置だからわかったが、そんな彼女はある瞬間にちらりと一点へ流し目を送っていた。何度か見てわかったが、その視線の先には参加者席に座っていたグランの姿がある。角度も考慮したので間違いないはずだ。当のグランは彼女の視線を受けて少し顔を赤くしているようだったが。あいつリーシャの時もそうだったが初心すぎやしないか?

 

 それは兎も角大半の観客が魅了されるのもわかる。彼女の踊りはなんつうか、見ている者の心を掴み自分の虜にすることに特化しすぎている気がする。左右の二人も炎と共に歌い踊る姿は見惚れておかしくないモノで、他の参加者と比べても遜色ない仕上がりだ。

 だが中央の彼女の存在が大きすぎるな。

 

 曲が終わって一礼した彼女へと、「うおおおぉぉぉぉぉ!! アンスリアちゃーんッッ!!!」という野太い歓声が上がる。

 

「あ、リルルそろそろ行かないとなので、席を外しますね」

「ああ。ステージ、楽しみにしてるからな」

「はい。リルルのステージを見ててください」

 

 そろそろリルルのステージが始まる頃合いらしい。ちょこちょこと駆け足気味に去っていく背中を見送りつつ、俺は次の参加者のステージを聴く。

 

 そして二つ挟んでから、

 

「いよいよ登場です! 全空にその名が知れ渡りつつある小さきアイドル! 今回はGMF限定のコラボレーションを引っ提げての参戦だ! 『六花のキラメキ』!!」

 

 小さきアイドルと言われて登場したのは俺が思っていた通りの人物だった。

 

 リルルがステージ上に登場する。

 当然席に座っていた時とは違ってステージ衣装を纏っている。登場と同時に歓声が上がったのでやはり有名なアイドルのようだ。

 

 他の五人はリルルとは少し違った衣装になっていた。後でどういう人達なのか聞きたいが、これが終わったら俺も控室に向かわなければならないので後半との間の休憩時間にでも聞いてみよう。

 

「……リルルは今日、憧れのアイドルのステージを観ることができました」

 

 彼女はマイクを握り滔々と語り出す。

 

「時間が経っても色褪せないステージをまた観ることができて、やっぱりあの人達は凄いんだってわかりました」

 

 でも、と顔を上げた彼女は瞳に強い意志を宿していた。

 

「今日リルルは、あの人達を超えてみせます! この五人と一緒に!」

 

 そう告げたリルルに声援が送られる。……その一つがオイゲンのモノだったので驚いたのだが、これはアポロに持ち帰るネタが増えたな。

 

「じゃあまずは私達の曲から! 『Never Ending Fantasy 〜今日だけは六花〜』! いくよ、皆!」

 

 五人組のセンターらしき茶髪ポニーテルの少女が言って、音楽が流れ始めた。配置は五人がおそらく通常通りで、真ん中の一番前にリルルがいる。そうしないと見えないからだろう。

 俺は他の五人を全く知らなかったのだが、彼女達それぞれのパートの時にファンらしき人達が光る棒を振りながら「ディアンサ〜ッ」とか「ジオラ〜ッ」などと名前を呼んでくれたので誰が誰なのかはわかった。

 

 元々五人組の方の曲らしいが、特別バージョンということでリルルもパートが宛てがわれている。とはいえメインは彼女でないので、次を楽しみにしようか。

 一曲目で盛り上がったところで、

 

「じゃあ次はリルルの曲です。『夢色☆キセキ』。皆、いっくよー」

 

 リルルの持ち歌が披露される。

 五人組や『スカイブルー』の歌を聴いて持ったアイドルらしいという印象を与える歌。可愛らしさと上手さを兼ね備えた歌が披露される。……ホント、あいつらに負けてないアイドルなんだと、傍目から見てもそう思えた。

 しかし驚いたのは曲が終わった後のことだ。

 

「「「L・O・V・E! ラブリーリルルッ!!」」」

 

 盛大なリルルコールが響き渡ったのだ。確かに上手かったが、そんなに熱狂するほどだったかと首を傾げる。ほとんどの男性客がリルルに魅了されていた。グランは問題なさそうだが、あのアオイドスまでもが同じ状態だ。洗脳やら催眠の類いなんじゃないかとすら思えてくる。

 

「続いてはリルルの新曲を、GMF特別バージョンで。聴いてください、『水面の月はすぐそこに』」

 

 ワァーッと観客が湧く。ちょっと不思議ではあったが、納得のいくステージだった。ただ俺が思うのはファンになりそうという感想じゃない。俄然燃えてきた、だ。

 

 ステージを終え手を振りながら観客の声援と拍手を受けるリルルを眺めてから、そろそろ時間だと席を立つ。

 

 さて、行くか。目にモノを見せてやろう。




リルルの男性魅了は主人公を男にしてもそういうあれがなさそうだったので、ダナン君にもかからない設定にしています。

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