ナンダーク・ファンタジー   作:砂城

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ナントカ・オブ・ザにしたかった。でも思いつかなかったのでこうなりました。

天上征伐戦はPROUDしかいけませんでした。いや強ぇあいつ。


EX:ライジング・オブ・ザ

「クロイドス、イタイドス。手筈通りに」

「ああ」

「わかっている」

 

 俺達は次にステージを控えてステージ裏にスタンバっていた。直前の打ち合わせは済ませた。音合わせも前日の内に済ませてある。後はステージで思いっきりやるだけだ。

 

「お待たせしましたぁ! お次は今回GMF主催側からオファーがありながら、まだ見ぬパトスとヘイヴンを求めて断った、あの人! 突如現れた天才ミュージシャン、アオイドス率いる『Trinity Soul』の登場だぁ!!」

 

 紹介アナウンスが熱い。というかお前オファーされるくらい凄いヤツだったのかよ。いや凄いのは知ってたんだが、まさかそこまでとはな。後半にオファーされる人は曲数を多く取るために数限りある。そんな中にいたってのか。

 しかも登場する前から大歓声が巻き起こっている。

 

 まず、打ち合わせ通りアオイドスはステージへ向かう。歓声が一際大きくなった。その後シューッと白い煙幕がステージ上に噴射される。そこで俺がバアルを連れてバニッシュで煙幕の中へ移動。俺が左、バアルが右に分かれて同時に足踏みをして煙幕を振り払う。

 

「あ、あれは……!」「あいつ確か各地でバンドの助っ人をやってる!」「バアルだ! 俺達のバンドにも参加してもらったことがあるぞ!」「いつだったかアオイドス様とツインギターやったんだっけか?」「ああ! まさか二度と見れないと思ってた演奏がまた聴けるなんて!」

 

 バアルを知っているヤツらが口々に呟いている。今まであまりなかった反応だ。おそらくあのアオイドスと一体誰が組んだんだ? という注目度合いの問題だろう。

 

「もう一人のあいつは……」

 

 と観客の注意が俺に向いたのがわかった。俺の顔を知ってるヤツらは驚いた様子だ。出場するって言ってなかったから当然か。

 そして観客のほとんどは俺の顔を知らないだろう。つまり有名なアオイドスと無名の俺が組んだことで「あいつ本当に足引っ張らないんだろうな?」という状態になるから、俺が演奏した時に驚く顔が見れるって寸法よ。

 

 しかし、

 

「あいつ、“股間クラッシャー”だ!」「なにっ!? 和太鼓倶楽部をたった一人で跪かせたあの!?」「違う! あいつは“黒衣の扇動者”だ!」「なんだと!?」「迷惑な連中を吊るし上げたっていうあの!?」「いや違ぇよ! あいつは“玉砕の料理人”だ!」「ああ、確かにそうだ! とんでもないスピードでとんでもない美味さの料理を作り、掴み取った銃弾で敵の股間を撃ち抜くという……!」「そ、そんなヤバいヤツが……。流石はアオイドス様だ!」

 

 あ、あれ?

 

 思わぬ反応にこっちが戸惑ってしまう。ステージ上の二人からもお前なにやったんだという視線を投げられている気配がした。

 

 ……おっかしいな。こんなはずじゃなかったのに。まぁ音楽関連の噂じゃないし、驚かせてやるのは変わらないか。

 

 とりあえず俺に関する噂には触れないでおこうと思う。

 気を取り直してアオイドスが喋り始めると意識がそちらを向いたので助かった。

 

「ここに集まった出場者は皆素晴らしいアーティストだ。不覚にも俺はヘイヴンしてしまった。だがここにいる二人は俺が最高に特別なステージを作るために選び抜いたヘイヴンの芽。ーークロイドス!」

「バアルだ」

 

 アオイドスの紹介に応じてバアルがギターを弾く。

 

「イタイドス!」

「ダナンだ」

 

 同じように俺もギターを搔き鳴らした。おっ? という雰囲気に変わったのを感じ取りニヤリとする。

 

「この三人で最高のヘイヴンを届けよう」

 

 アオイドスは手に取ったマイクをスタンドに戻すとギターを構えた。

 

「――俺達と世界を滅ぼさないか? 『Judgement Night』!!」

 

 最初の曲は掴み用。お馴染みらしいアオイドスの曲だ。基本アオイドスが歌い、俺とバアルはサビのハモり要因となっている。演奏は今回のために多少アレンジを入れているらしい。

 俺は俺にできる精いっぱいをギターに込めて会場へと放つ。遠慮なく、思い切り演奏していけばアオイドスとバアルも当然ついてくる。アオイドスの曲は激しく、並み大抵の者ではついていけないというのはファンの間で周知らしい。つまり俺が曲についていき、二人と演奏を溶け合わせられれば。

 

 会場の熱気を損ねることはない。むしろ熱狂させていける。

 

 観客達が盛り上がっている様子を見て、してやったりの気持ちを得た。

 

「ヘイヴン! ヘイヴン! ヘイヴン!」

 

 一曲目が終われば会場には盛大なヘイヴンコールが行われた。

 

 ……ああ。この熱気の中心にいるって考えると楽しいな。

 

 初のステージではあるが、緊張はない。とはいえ実際にステージへ立つと感覚が変わる。俺にしては珍しく、気分が高揚しているのだろう。

 だがまだだ。まだ足りない。まだ会場全体がヘイヴンしていない。ドランクやスツルム、グランにジータも、全員ヘイヴンさせなきゃならねぇ。それに、今はただアオイドスにヘイヴンしてるだけだ。俺とバアルには、まだだ。

 そのための次の曲だ。

 

「次は俺が二人のために作った曲だ。存分に聴いてくれ。『Black Convictor』!!」

 

 一歩前に出ていたアオイドスが下がり、逆に俺とバアルが前へ出た。

 この曲からが俺の本番。なにせアオイドスは歌わない。俺達だけで今のヘイヴンを維持、拡散できるかというところ。

 

 だがこういう時、俺はプレッシャーを感じるよりも燃えてくるタイプのようだ。

 

 俺とバアルに注目が集まる中、ちらりと視線を交わして二人同時に弾き始める。

 

 パート分けは比較的簡単に。俺とバアルが交互で歌いサビでは一緒に歌う。一番はバアルが先で、二番は俺が先。不慣れな俺に合わせてあまり難しいことはさせないでくれた。

 

 曲が終わってもヘイヴンコールはやまない。それどころか大きくなっている。……良かった。少なくとも興奮状態になった観客にとってはアオイドスとそう変わらない演奏には聞こえていたらしい。バアルが上手かったってのもあるだろうが、及第点と見ていいだろう。

 だがまだ足りていない。三曲目が最後になる。()()を使うか?

 

「名残り惜しいが、次で最後の曲だ」

 

 俺が考え込んでいると、アオイドスが前に進み出て俺達二人と並び立った。

 

「この曲は俺が、今の俺の全てを注ぎ込んで作った曲だ。さぁ、俺達と世界を滅ぼそう。『Ruin World』!!」

 

 うだうだ悩んでいる暇はない。盛り上がりを強くするために、最後のサビ前で使おう。それまでは今の俺の全力を注ぐ。

 曲が開始される。最後ということもあって二人の演奏も今までで一番いいモノだ。

 

 俺ももっと、魂を込めて。

 全てを出し切るつもりで掻き鳴らせ。

 観客全員を熱狂させる旋律(メロディ)を。

 聴いている全てがヘイヴンする共鳴(レゾナンス)を。

 

「「「Ahhhh――――!!!」」」

 

 一番の締めとなるシャウトを三人で行い、間奏に入る。ヘイヴンのコールが会場全体に響いている。

 いい感触だ。気分が高揚する。だがまだだ。もっと熱狂させてやりたい。今も澄ました顔で聴いているヤツらもだ。

 

 そう思って未だヘイヴンしていない連中がどこにいるのかを見渡していると、不意に入場口の扉が開かれた。

 

 今更なぜ? という疑問が湧いてくるが、それもすぐに吹っ飛んだ。

 

 入ってきたのは蒼髪に猫のぬいぐるみを抱き、傍に紳士然とした男が立っている少女だったからだ。

 彼女と俺の目が合い、明らかに驚いているのが見て取れた。

 

 ……今来たら足りねぇじゃねぇかよ。

 

 三曲分聴かせた今の観客達と同じくらいヘイヴンさせてやるには、このままじゃ圧倒的に足りない。三曲分を凝縮した上で更に昂らせないと足りない。

 そうなったらアレを使うしかねぇじゃねぇか。

 

 俺は、湧き上がる高揚感に任せて獰猛に笑う。

 

「アオイドス! バアル! 数段アゲるぞ! 置いてかれんなよ!」

 

 まず一緒に演奏する二人に発破をかけた。

 

「上等!」

「ああ、増幅(アンプリファイ)といこう!」

 

 二人から頼もしい返事が来たので、改めて入場口近くに佇む彼女を真っ直ぐに見つめる。

 

「そこで聴いてろ! 一人残らずヘイヴンさせてやんよ!! ――いくぜ、【ライジングフォース】!!!」

 

 俺が言った途端に衣装が変わる。

 上半身はほぼ裸なのですーすーする。ギターまで形が変わりツインネック・ギターへと変貌した。身体の奥底から高揚感が湧き上がってくる。

 

 ステージ中になぜか衣装が変わるという演出にもなるし、俺の演奏は数倍に跳ね上がる。やっぱり専門的な『ジョブ』かどうかで大分差があるモノだ。

 加えて演奏に周囲を熱狂させる効果があり、味方を大きく強化することもできる。

 

 劇的に俺の演奏が変わった直後、歌が始まる。明らかに変わった俺の演奏によって会場が更に熱狂した。今までとは違ってアオイドスとバアルが俺を追いかける構図となったことで種類が変わり、『ジョブ』の持つ力によって増幅(アンプリファイ)され最高のヘイヴンを巻き起こす。

 

 『ジョブ』の発動に驚いていたグランとジータもヘイヴンさせた。リルルも巻き込めている。ドランクとスツルムも順調だ。

 さぁ、後はあいつだけ。

 俺のありったけを込める。彼女を喜ばせる、なんて普段料理でやってたことと一緒だ。それを音楽でもしてやればいいだけのこと。

 

 ……多分だが、音楽ってのは届ける相手がいると輝くんだろうな。

 

 歌い切り全体漏れなくヘイヴンしていることを確認して、そんなことを思った。流石に全力を出し続けると疲労が大きい。汗もぐっしょりと掻いてしまっている。とりあえずアオイドスとバアルとハイタッチをしてから、次の参加者のためにさっさと退場した。

 去り際にオーキスが会場から出ていくのを見たから、おそらく俺と会う気はないんだろう。少し寂しい気もするが、元々一人旅と決めている。またどこかで会えることもあるかもしれねぇな。

 

 俺は演奏をやり切った後の充足感に満たされて控え室で着替えると観客席の方に戻っていった。前半もいよいよ大詰めだ。

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

「凄かったですね。思わずヘイヴンって言っちゃいました」

 

 俺が席に戻るとリルルが声をかけてきた。

 

「だろ?」

 

 俺はニヤリと笑って応え自分の席に座る。手応えはあった。後は結果を待つだけだが。

 

「こっちにいるのでてっきり出ないのかと思ってました」

「まぁ、参加を決める前に席取っちまったんでな」

「そうだったんですね。それにしても、まさか演奏の途中で衣装を変えるなんて……今度リルルもやってみたいです」

「あれはまぁ、お前らの団長と同じ『ジョブ』だからなぁ。煙幕に紛れて早着替え、とかか?」

「はい。でもアイドル衣装って着るの大変なんです」

「そうか。俺は普通の服なら一瞬で着替えられるんだけど、リルルには難しいか」

「……なんでそんなに多芸なんですか」

「秩序の騎空団に潜入する時に、ちょっとな」

 

 驚かせたかったから早着替えをする必要があった、ということだ。

 リルルはじとーっとした目で俺を見てくる。そんな目をされたって改める気はねぇが。

 

「もうちょっとで前半も終わりだよな」

 

 俺はあからさまに話題を逸らす。リルルは不満そうにしながらも俺が真面目に話す気がないと見たのか嘆息して話を合わせてくれた。

 

「はい、そうですね。次が最後の一組になります」

 

 次が最後、か。色んなステージを観たが、自分がやってた時が一番楽しかったとは思うが、終わると思うと寂しいモノだな。まさか自分でもこんなに嵌まるとは思ってもみなかったんだが。

 そんなこんなで前半のトリが終わり、さて飯でも食いに行こうかとリルルへ視線を向けたその時。

 

 頭上から轟音が響き、天井が崩れ落ちてきた。混乱と悲鳴が起こり観客席に座っていた者達が半狂乱状態で逃げ惑う。なにが起こったのかと天井を見上げれば原因は一目瞭然だ。

 

「……なんだってんだ」

 

 しかしソレを見て理解できるかはまた別問題だった。

 弦楽器を携えた巨大な女が天井を突き破って降りてきたとしか思えない。身長が十メートルを超えている時点でただの人でないのはわかる。だが一体なぜ、そしてこいつはなんだ?

 と考えて一つの心当たりが浮かんでくる。

 

「星晶獣サラスヴァティか……!」

 

 楽器を持っていることからも音楽関連であるのは間違いない。ヒトではあり得ない大きさなので、魔物か星晶獣の可能性が高くなっていくのだが。

 

 逃げ惑う観客達の避難誘導が始まる中、俺は立ち上がってそいつを見据える。なぜか降りてきたそいつはこちらを見ていた。目を瞑っているから多分にはなるが。……いや、俺じゃないか? どっちかと言うと隣のリルルを見ている気が。

 

 天井を破壊したそいつは会場内に入ってくると宙で停止した。俺達を襲撃しに来たのかと思ったが手を出してこない。避難が粗方完了して俺とリルルや“蒼穹”の連中ぐらいしかこの場には残っていなかった。

 

「――偶像の舞台。虚構の夢」

 

 大半が避難した後に、ようやく女は口を開く。抽象的なよく意味がわからなかったのだが、隣から「……え?」という声が聞こえた。

 

「――偽りの人気。芸術性のない歌声」

「っ……」

 

 続く言葉にリルルが顔を俯かせる。……なに言ってんだこいつ。

 

「サラス。一体どういうつもりだ? お前が自分を祀る祭典を壊すとは……」

 

 よく通る声で横槍が入る。バアルだ。あいつなに、サラスとか呼んでんの? っていうか本当にサラスヴァティなんだとしたらどういう知り合いなんだよ。

 

「――バアル。音楽と人の劣化。既に妾を祀る祭典にあらず」

 

 独特の話し方をするようだが、別に理性を失って会場に乗り込んできたわけではなさそうだ。バアルの方を向いて言葉少なくではあったが理由を答えている。

 要するに、音楽の質と人の態度が落ちてきて、サラスヴァティを祀る祭じゃなくなったから見るに見かねて登場したってわけか? それにしては、なんつうか。

 

「ならなぜこのタイミングで現れる? お前が度々魔物を使って襲わせていたのは、この祭典をいいモノにするために、不必要だと思うモノを排除するためだったのだろう? それに失敗して本番を迎え、なぜ半分が終わった今に現れる必要がある。お前の登場でお前と同じ音楽を愛する者が何人怪我を負ったと思っている」

 

 いつになく饒舌だ。おそらく怒っているのだろう。あのクールを気取ったバアルがやけに感情を露わにしていた。

 

「――問題ない。狙いはつけてある」

 

 しかしサラスヴァティの表情は変わらない。

 

「なにっ? ……つまり怪我をした者は全員、お前が今も排除したい連中だというのか」

「――然り」

 

 彼女の断言にバアルは絶句していた。……だからと言って怪我させていいわけじゃない、なんて俺が言うべきことじゃねぇな。

 

「だからって怪我をさせる必要はないと思います!」

 

 あいつらが言うだろうと思っていたら、ルリアが胸の前に両の拳を握って口にした。

 

「――彼の者が扇動して尚動くことのなかった者達が、説き伏せて改めると?」

 

 なぜサラスヴァティが俺を見てきた。ああ、煽ってやった時のことを言ってんのな。扇動ってほど大したことしてねぇんだが。

 

「は、はい。ちゃんとお話すればきっと……」

「――笑止」

 

 ルリアの希望的観測は切って捨てられる。

 

「――人は学ばぬ。人は過つ。人は簡単に変わらぬ」

 

 それは長い間この島に来る様々な人達を見てきた星晶獣の重い言葉だった。

 

「……だから、間引くというのか」

「――然り。音楽は大衆を魅せるモノではなく、芸術を宿すモノ」

「人は変わらなくても音楽の形は変わる。それでも永く続いていくのが音楽というモノだ」

「――否。断じて否」

 

 バアルの言葉を否定して、サラスヴァティは再び俯いたままのリルルを見据える。

 

「――音楽は芸術。アイドルなどという娯楽は必要ない」

 

 やはり、サラスヴァティはリルルを目の敵にしている。

 

「な、なんでリルルちゃんなんですか。私達だってアイドルですよ」

 

 リルルと組んでいた五人組の一人、確かハリエという少女が尋ねた。そう、そこだ。アイドルを認められないというならリルルだけに固執する必要はない。

 

「――然り。ただし、汝らは星晶獣ショロトルを慰むる巫女なれば」

「じゃ、じゃあ私達だって! しかも今日だけのアイドルですし」

 

 理由を述べるサラスヴァティにジータが告げた。

 

「――然り。ただし、汝らとは決定的に異なる」

 

 サラスヴァティはリルルを見やって言葉を続ける。

 

「――ありもしない、虚構の夢」

「っ!」

「――根拠の薄い夢追いほど身を滅ぼす」

 

 リルル自身彼女の言っていることが理解できたのか、ぎゅっと服を掴みながらも反論はしなかった。

 

「――汝は過去、現実にあり得ぬ夢を見た」

 

 サラスヴァティの言葉を受けて、俺は鼻で笑う。

 

「……はっ。なんの話をするかと思えば下らねぇ。過去どうだったかは問題じゃねぇだろ。大事なのは今、こいつがどれだけ本気かってことだ。それすらわかんねぇんだったら音楽を司る星晶獣なんか辞めちまえ」

 

 彼女の歌を聴けば、俺みたいな素人でさえそれが伝わってくる。だというのに、音楽を司る星晶獣とやらがそんな簡単なことをわかっていないはずがないんだ。

 

「……ダナンさん」

「――……。では偽りの人気については如何する」

 

 リルルがはっとする中、サラスヴァティは話題を変える。

 

「偽りの人気だと?」

「――然り。その者には男を魅了する力がある」

「あ……」

「――故に、アイドルとして人気であるというのはその力によるモノが大きい」

 

 その言葉を聞いて愕然とするリルル。

 

「俺は、普通に上手いと思って聴いてたぞ。バアルが『ラブリーリルル』って叫んでたのは笑えるが、俺はその力の影響を受けないみたいだ。だが、俺はリルルの魅力を知った。力なんてなくたって、こいつはアイドルになれる」

「僕も、そう思います。バアルさんだって魅了された歌を聴いて、そこまでじゃないですけどいいと思いました。リルルちゃんは間違いなくアイドルです」

 

 俺の言葉に同じく魅了されないグランが続いた。バアルは「なぜ二人共俺を例えに出す」とかなんとか言っていたが。

 

「それに、俺の【ライジングフォース】だって熱狂させる効果がある。そういう意味では俺も同じことやってんぞ。俺なんかもっと酷い、不純な動機で出ようとしてたんだぞ」

「――素晴らしき演奏。加えて、誰かに捧ぐ音楽は悪くない」

「さいですか」

 

 どうやら俺の腕が認められて、それプラスオーキスへ届かせることが加点になっているらしい。

 

「……つまり、リルルの歌があなたの基準に達してないから、怒ってるんですか」

 

 それまでずっと反論しなかったリルルが言った。

 

「――虚構の夢、偽りの人気、芸術性のない歌」

 

 サラスヴァティが思うリルルの気に入らないところを三つ挙げた。

 

「……例え現実じゃなくたって、あり得ないステージだって、リルルはアイドルであることを辞めません! あの日、リルルはアイドルに励まされたんです! その事実がある限り!」

 

 リルルは強い意志を宿してサラスヴァティを見据える。

 

「リルルの歌には確かに男の人を魅了する力があります。でも、それでもその力で皆さんが笑顔になるなら、励まされるなら構いません!」

 

 ダナーン、と呼ばれる声がしたかと思うとマイクが飛んできた。ドランクが投げてきたらしい。

 

「アイドルの歌が気に入らないなら聴かせてあげます! アイドルだって可愛いだけじゃやっていけないんです! アイドルの世界を嘗めないでください!」

 

 熱く語るリルルへとマイクを差し出す。

 

「存分に聴かせてやれ、お前の歌を」

「はいっ! ……聴いてください、リルルの歌を。『鏡花水月』」

 

 曲名からして知っている曲とは雰囲気が違う。マイクのスイッチを入れると、音楽もないまま彼女は歌い出した。

 可愛らしさを意識された歌ではない。ゆったりとしたバラードを、透き通るような歌声で奏でていく。今までのリルルの印象からはかけ離れていたが上手い。隣というこんな特等席で聴けていいのかと思ってしまうくらいだった。

 

 リルルがアイドルを目指している気持ちが現れている。

 

 例えば「ほら泣きやんで空見上げたら世界は変わる」の歌詞は当時リルルが観たという奇跡のステージを思い浮かべるだろう。

 

 彼女の気持ちが詰め込まれた、ステージで歌った『水面に映る月にも届きそう』と同じようなタイトルでありながら全く異なる曲調で歌い上げられる。

 歌い終わったら自然と拍手をしていた。俺以外もそうだ。

 

「……ど、どうでしょう。リルルの歌は、サラスヴァティさんにも届きましたか?」

 

 リルルは少し照れながら、サラスヴァティへと尋ねる。

 

「――見事」

 

 果たして、と思ったが案外呆気なく認めた。ぱぁとリルルの顔が輝く。どうやら認めるところは認められる星晶獣のようだ。

 

「……ふぅ。サラス。人も音楽も、移ろい変わりゆくモノだ。芸術としての音楽も大切だが、その変化を楽しんでみるのもいいだろう」

「――……」

 

 バアルをちらっと見てから、サラスヴァティはなにも言わずに姿を消した。

 どうやらこれで、一件落着と言っていいんかね。天井壊されちゃってるけど。

 

 星晶獣ってのも色んなヤツがいるんだなと思いつつ、俺が事後処理を手伝わされるのだった。




ということで、ライジングフォース取得及びリルルちゃんの別バー若しくは最終とかスキンとかのあるイベント、というような想定の番外編になりました。

イベント想定なら最後リルルちゃんが歌うところでサラスヴァティと戦わされる感じですかね。

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