ナンダーク・ファンタジー   作:砂城

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勝手ながら思いついたEXジョブ取得イベントを書きました。
……と思ってたんですがダナンだったらもうEXジョブの方は取得できるようになってるだろ、ということでEXⅡの方にしました。

本編にも一応出てくる、かも? まぁ戦闘職じゃないんであんまり重要な立ち位置にはならないと思いますが。


意識した点
・謎の老婆が登場する
・ダナンをグラン&ジータ、オーキスをルリアに変えれば一応代用可能

みたいな?
明日の更新ではオリジナルジョブのアビリティとか適当に考えたヤツをまとめたヤツを投稿します。


EX:新たなる英雄

 White Cloud CookFes。

 

 通称WCC。

 全空から腕自慢の料理人達が集まり競い合うこの戦いに勝てば『料理協会』から“シェフ”と呼ばれる特別な称号を得られるのだ。“シェフ”になれるかどうか。そこに人生を懸ける者だっているほどその称号は重要であり、店を出した時、店で働いた時。自分が“シェフ”であるかどうかによって立場や世間からの評価が一変するほどである。

 

 つまり、俺にとっての戦場というわけだ。

 

「上等。一人残らず蹴散らしてやんぜ」

 

 他にも腕利きの料理人が集うというこの祭に、俺が参加しないわけがなかった。

 

 旅の途中で噂を聞きつけ寄った程度だが、俺は燃えていた。音楽の時よりも俄然燃えていた。

 

 とりあえず料理協会の本部があるというドゥークという島に到着。早速会場へ向かって予選への出場登録を済ませておく。

 

 WCCは予選と本選に分かれている。

 予選は数の多い出場者を減らすためのモノ。本選は十六人のトーナメント形式になっており、そこに辿り着くための十六人を選別するのが予選だ。

 予選では出場者を十六グループに分けて時間制限あり、料理を出す速さと料理の出来を競い合って一人だけを選出する。制限時間は一時間だが、料理は審査する十人へと出さなければならない。割りとハードな課題だ。まぁ問題ないだろう。

 本選はその場で出されるお題に応じた料理をその場で考え、作る。制限時間はあるが五人分なので予選よりは作る量が少ない。しかし自分で料理を考えなければならないので、悩む時間は少なめにしたいところ。本選は一対一の対決になるため相手が考えついたモノよりいいモノを作らなければならないというプレッシャーもある。

 

 料理の大会だと言うなら出ないわけにはいかない。

 

 ともあれ、料理の島ドゥークは市場が大半を占めている。流石に食材が多く、俺の見たことのないモノもあった。知らない食材が出たら本選で詰んでしまうので、準備のために食材の知識も蓄えていく。

 料理の美味しさは食材の切り方、焼く茹でるなどの時間、調理量の分量など細かな要素が組み合わさって決まるモノだ。

 

 俺は確かにそういった要素を組み合わせて美味しさを作り出している。しかしまだ粗があり最適化できるはずだ。WCCが始まるまで、ちょっと練習しようか。

 そうして俺は料理を更に洗練しつつ、自由課題である予選で作る料理を考えていくのだった。

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

 WCC当日。予選会場へ向かう。応募があった四百八十人が十六グループ三十人ずつに分かれて予選を行う。本選へ進めるのはその内僅か十六人のみ……なかなか厳しい条件だ。それだけ“シェフ"の称号は重いということだろう。

 

 司会の人が開催を宣言し、事前に配布されたグループ名の会場へ通された。俺は十六個あるグループの内九番目、Iグループに分けられている。三十人が調理台へ順に並んだ。

 ガチガチに緊張している者、他は全員敵だとばかりに威圧する者など。色々な様子で立っている。合図があったら一斉に料理を作り始めるのだ。

 

 俺はWCCのために購入した紺のエプロンと紺のバンダナを巻いた姿で立っている。調理器具は自前のモノが必要なので、愛用しているヤツらを研いで持ってきていた。普段着込んでいる黒のローブは脱いできている。上着だからな、外の砂埃とかを受けていそうで料理中には適していない。黒い長袖シャツの上にエプロンをしている。腕捲りして気合いを入れ待機した。

 

 がこん、と音がしたかと思うと俺達のいる調理台の周りにある三方向の壁が自動で持ち上がり、山のような食材達が姿を現す。大がかりな仕かけだな。冷蔵や冷凍のために食材が積まれた棚から冷気が噴き出していた。

 

「“シェフ”の称号を得るべく集まった腕利きの料理人達よ。これより予選を開始する。ルールは簡単。一時間という制限時間内に十人分の料理を作り、審査員に提出する。審査員一人につき持ち点十点で採点を行い、その合計点がグループで一番高かった一人だけが、本選へと駒を進めることができる。料理人諸君。ここで大いに腕を振るい、そして挫折を味わうといい。では、予選開始ッ!」

 

 司会の人が発破をかけつつ合図しビーという音が鳴った。これが予選開始の合図だろう。これから一時間の内に料理を作り審査員に提出しなければならない。さて目当ての食材を取りに行こうか、と思っていると突然怒号が響いた。

 

「退け、邪魔だ!」

 

 バタバタとした足音が聞こえ、怒号があちこちから飛び交ってくる。……ああ、なるほど。全員同じスタートなのだから先に自分の欲しい食材を取った方が有利ということか。なるほどなるほど。

 

「んー……。人が少ないのは冷凍の方か」

 

 俺は完全に出遅れた形となり、調理台の前にいるのは最早俺だけとなってしまっている。言ってしまえばこれはWCC予選の洗礼というわけだ。

 人が一番押し寄せているのは野菜のコーナーか。逆に少ないのは冷凍のコーナー。解凍に時間がかかるから、できるだけ生の方が調理時間を短縮できるという目論見だろう。当然、それを見越して冷凍コーナーで選び放題の食材を吟味している者もいる。野菜に人が多いのは、肉や魚なんかは最悪冷凍コーナーから持ってこれるから、冷凍されていないモノを優先的に取っているのだろう。

 なるほど、よく考えている。対策と傾向を持って臨むのが正しい在り方なのかもしれない。

 

 俺はとりあえず人の少ない冷凍コーナーへ向かった。とりあえず肉を選択する。種類は鶏でいいかな。一旦調理台に肉を置くと、慌しく他の参加者が走り回って粗方の食材を取り終えている。野菜コーナーなんかはほとんど残っていないモノばかりだ。適当に何種類か取っておく。後の参加者も必要になるかもなので、一応取りすぎないようにはしておくべきか。一通りのコーナーを回って食材を集めて戻ると他の参加者達は既に調理を始めていた。気合い入ってるな。まぁ俺も負ける気はねぇんだけど。

 

 さて、始めようか。

 俺はニヤリと笑い調理を開始する。ここは料理人しかいない戦場だ。遠慮する必要はない。勝負の場では相手を蹴落とすのは当然。

 

「さて、各グループの状況を見てみましょう。Aグループには前回準優勝者、今回優勝候補筆頭のチェンがいますね。流石の手際です。近年の本選常連である彼なら、勝ち上がるのは難しくないかもしれませんねぇ」

 

 と司会をやっていた人が各グループの戦況を中継し始めた。Aから順に見ていくようだ。関係ないので俺は手早く調理を進めていく。練習期間中に調理を無駄を減らしていた成果もあり、元々速度と美味さを両立する俺なので、高速で料理が出来ていった。

 

「お次はIグループ――っと……うそーん」

 

 司会の人が俺のいるグループを見始めて、呆然とした声を漏らす。どうやら驚くべきことが見えたらしい。そんなことより俺は自分のやりたいように進めるだけだ。十人分の料理を皿に盛り分けて飾りつけを行った。そして料理を台に載せて審査員が並ぶ場所へと持っていく。

 

「これは、史上最速じゃないか!? エントリーNo.二百九十九番、所属なし! 開始二十分と経たずに料理を運んでおります!」

 

 おっと、まだ誰も届けていなかったらしい。それは好都合だ。最初の方がまだ食べ飽きていないので味つけが独特でなくとも美味しければ鮮明に感じる。後になればなるほど同じような味つけに感じてしまうという問題があるのだ。

 

「召し上がれ」

 

 俺は料理を十人の審査員に一つずつ料理を配る。

 全員が「早くやればいいってもんじゃない。そもそも料理とは……」という顔をしていたが、食べた瞬間歓喜に染まった。一瞬全員の服が吹き飛んだように見えたのは俺の気のせいだろう。誰がおっさん共の裸を見たいと思うか。一発目ということもあって全部食べ切ってくれる。聞いた話によると大勢の料理を食べるために少しずつしか食べないらしいんだが。まぁ腹を空かせてきてたんだろう。

 

「み、皆様。採点をお願いします」

 

 どうやらその場で採点してくれるらしい。審査員が一斉に札を上げる。……まぁ、上等かな。

 

「き、九十七点! 前年度優勝者が叩き出したのと同じ点数です! 無名の料理人ダナン! 圧倒的な調理速度と点数を見せつけてくれました!」

「お粗末」

 

 俺はバンダナを外して言い、終わったら退場していいという説明を受けていたのでさっさと出ていった。さて、無事本選にいけるといいんだがな。しかし九十七点か。前年度にも同じ点数のヤツがいたっていうし、俺もまだまだということらしい。もう少し詰めておくか。最悪本選にいけなくても、今後に活かせるのだからこの機会に練習してもいいだろう。

 

 約一時間後、俺の本選出場が確定した。各グループの最高得点を見ると、俺と同じ点数のヤツが二人もいた。流石に料理人が集まった大会だけはある。強敵揃いだ。

 本選へ駒を進めた者の中に見知った顔があった。久し振りに語り合いたいが、それは本選中の料理でか、本選が終わった後にしようか。

 

 本選のトーナメントは完全な抽選で決まる。もしかしたら初戦で予選に俺と同じ点数を出した二人のどっちかとや対決する可能性もあるのだ。本選は明日からだが、もう少し料理の最適化を図りたいところだ。

 

「……ダナン」

 

 ふと背後から声をかけられ、目を見張って驚き振り返る。聞き間違えるはずもないが、ロイドを連れ添わせたオーキスが立っていた。

 

「オーキス。なんでここに」

「……WCCが終わった後、希望した参加者全員で料理を振る舞ってくれるって聞いたから」

 

 料理目当てだったか。いや、オーキスなら当然だよな。

 

「それにしても、今回は話しかけてくるんだな」

「……ん。ダナンの料理、食べたくなった」

「そっか」

 

 オーキスの頭を撫でる。この感触も随分久し振りな気がする。と、妙案を思いついた。

 

「そうだ、オーキス。折角なら俺が本選に向けて料理した試作品、食べてくれないか? 率直な答えが欲しいんだ」

「……ダナンの料理なら、大歓迎」

「よし。じゃあ俺が厨房手伝う代わりに貸してもらってる店のとこ行くか」

「……ん」

 

 今までの俺の料理を食べてきたオーキスなら、美味しくなっているかどうかを判断しやすいだろう。そう思って歩き出す時手に触れる感触があった。オーキスが手を握ってきている。振り払うこともせず、ちゃんと繋ぎ直してからそのまま向かった。

 

「……ん。美味しくなってる」

「そっか」

 

 結果としてはオーキスに喜んでもらえたという大きな成果が得られたくらいだ。店の人もまさか本選に出場するなんて、と本選中も厨房を借りて練習する許可をくれた。優しい人達だ。バイト代は出ないが忙しい時に手伝ってくれればいいという条件なので破格と言える。

 本選は課題がわからないので、万全の準備を整えるというのが難しい。あえて言うなら知識を蓄えることと心構えをすることくらいか。

 

 肉の調理最適化は順調なので、今日は魚を行っていた。ある程度効率が良くなってきたので、そろそろ上がろうかと思う。明日も朝から会場入りしなきゃいけないからな。

 

「今日はもう上がるか。オーキスは宿取ってあるのか?」

「……ん」

 

 彼女はこくんと頷いた。

 

「そっか。じゃあまた明日、会場でな」

「……違う。ダナンと一緒の部屋、泊まる」

 

 俺の言葉に首を横に振り、オーキスが手を繋ぐではなく腕を絡めてくる。

 

「……そう、か」

「……ん。行こ」

「ああ」

 

 オーキスはその気なんだろうか、と思いつつ二人で俺の泊まってる宿屋に行った。宿屋の受付で「……二人部屋じゃなくても、いい」とオーキスが言ってしまったのでそういう目的で連れ込む気かと、受付のおばちゃんの視線が軽蔑したモノになったのは、誠に遺憾だった。俺もWCCで顔を知られてしまったので明日には“ロリコンダークホース”と呼ばれているかもしれない。まぁ、周囲の評価なんて気にしても仕方ない。

 というわけで二人で同じ部屋に泊まり、翌朝少し早めに会場へと向かったのだった。

 

 まず本選のトーナメントを決めるためのくじ引きを行う。遅刻厳禁なので早めに到着するようにしていた。観客席の方に向かうオーキスと別れて会場内に足を踏み入れる。案内を受けて本選会場へと入っていった。

 

 本選会場は丸い俺が案内されたフィールドを壁が囲み、その外側に階段式の観客席が並んでいる。料理人らしい恰好を、ということだったので昨日と同じ姿をしておいた。俺が入場すると歓声が強まった。どうやら昨日の予選で俺の顔を知っている人が増えたらしい。

 

「おっと、これで本選出場者全員が揃ったようです!」

 

 司会の人が並んだ料理人達の前に立っている。俺が一番最後だったようだ。少し早足で集まっているところに合流する。俺の知った顔は三人、か。

 

「さて! では本選トーナメントを決めるくじ引きを始めましょう! 誰と誰が当たっても恨みっこなし! この組み合わせに泣いた料理人は数知れず! さぁ運命の時を!」

 

 テンションが高い。司会ってのはこういう人ばっかりなんだろうか。

 順にくじ引きを引いていく。俺は最後になってしまったので一個前の人が引いたくじによって場所が決まった。

 

「本選トーナメントはこのようになりました! 第一戦から前年度準優勝者のチェンの対決だ! 史上最速無名の挑戦者ダナンは一回戦の最終戦! しかし二人と同じく予選九十七点を獲得したバウタオーダは十番、第五戦目に出てくるぞ!」

 

 知り合いの一人、バウタオーダが俺と同じ点数か。戦うとしたら強敵だが、その前に。

 

「おい、ダナン」

 

 俺は対戦相手である黒髪の少年から声をかけられる。

 

「よぉ、まさかお前が来てるなんてなぁ、()()()()?」

 

 そう。なにかと縁のある、声がほとんど俺と一緒の秩序の騎空団団員ハリソン・ラフォード君である。

 

「今回こそ、僕が勝つ!」

「やってみろ。叩き潰してやっから」

 

 ハリソンは予選八十九点。点数だけ見れば余裕だ。今までのことからも、俺の勝機は高いだろう。だからと言って容赦はしてやらない。完膚なきまでに叩きのめすだけだ。

 

 因みにもう一人の知り合いであるエルメラウラは、前回準優勝のチェンがいる側だ。彼女は予選九十五点なので勝ち目がある。準決勝でチェンと当たる位置なので、彼女と比較することでヤツの実力は明確になるだろう。

 

「続きまして本選の予定をお浚いします。本選は一回戦の半分、四戦を本日。残り半分を翌日。二回戦の四戦を翌々日に行います。準決勝の二戦をその次の日に。三位決定戦と決勝をその次の日に、という予定となっております」

 

 つまり俺は明日から本選開始ということだ。意気込んできたが、まぁ今日は他の料理人の腕前を見せてもらうとしようか。

 

 一日かけて行われた本選一回戦前半は、前年度準優勝者のチェンというヤツが勝ち上がり、三戦目に出たエルメラウラも勝ち上がっていた。

 本選の審査員はやや辛口なのか、俺と同じ点数を取ったというチェンが九十三点。九十五点だったエルメラウラも九十点だった。長い白髪に鬚を蓄えた厳格そうな老人が特に低めの点数をつけている。確かこのWCCを開催している料理協会の会長だったか。唸らせるのは骨が折れそうだ。

 

 今挙げた二人以外に九十点以上の者はいなかった。これはなかなか、俺も油断できない状況のようだ。

 本選一日目を見ていてバウタオーダを捕まえ話し合ってみたが、チェンというヤツはなかなかやるという評価に収まった。なにせエルメラウラよりも本選の得点が高い。前回準優勝の肩書きは伊達ではないらしい。

 その日もオーキスに付き合ってもらって料理の練習をしつつ、本選二日目を迎える。

 

 バウタオーダは難なく勝ち上がった。ただ得点は九十二点とチェンより一点下回っている。

 そしてようやく、俺の出番が来た。

 

「ダナン! 今日こそ負かしてやる!」

「上等だ。かかってきな」

 

 昨日ハリソンは宣戦布告をした手前か俺とバウタオーダの話に混ざりたそうにはしていたが、エルメラウラと話していた。指を突きつけて宣言するハリソンに対して不敵に笑う。

 

「双子?」

「誰が双子ですか!」

「誰が双子だ!」

 

 司会の人に首を傾げられてしまい、二人してツッコんでしまう。

 

「いやだって声ほとんど同じですし」

「こんなヤツと一緒にしないでください!」

「そうだそうだ。目元が違うだろ」

「し、失礼しました」

 

 とりあえずごり押しで乗り切ってしまった。

 

「では、気を取り直して。――十五番! 珍しくも秩序の騎空団からやってきた刺客! ファータ・グランデ空域の秩序を守る秩序の騎空団第四騎空挺団所属! 団員の食事事情を一手に引き受ける専属料理長、ハリソン・ラフォード!!」

 

 こんな風に一人一人紹介されていく。随分と大仰な紹介文だった。ハリソン君は今更ながら大舞台に緊張し始め、更には恥ずかしかったのか顔を赤くしている。

 

「――十六番! 予選では最も遅く調理を始めておきながら、全グループで最も早く料理を完成させた上に、参加者同率一位となる九十七点を叩き出した最速の料理人! 無名でありながら彗星の如く現れたこのダークホースの進撃はどこまで続くのか! ダナン!!」

 

 ……俺も俺で随分と恥ずかしい紹介だな。あ、オーキスが小さく手を振ってる。

 

「今回のお題は……ラーメン!! あまり広く知られていないこの料理! 参加者の中でも知らない者が多いのではないでしょうか! それでは第一回戦最終戦、開始ッ!!」

 

 おっと、お題はらぁめんだそうだ。俺はもちろんハリソンだってらぁめん師匠かららぁめんの真髄を受け継いでいる。相手に不足はない。早速調理に取りかかろうか。そうだな、魚介豚骨にしよう。

 

 時間制限があるので最高の出来は作れないが、それでも今持てる全てを使った。俺は早々にらぁめんを完成させて、審査員五人へと運ぶ。

 

「おぉっと、流石は最速の料理人! 開始二十分でラーメンを完成させました!」

 

 審査員が実食、採点。この流れは予選と一緒だ。慌てて作っても仕方がないが、早めに作れて自信があるなら出してしまえばいい。点数が高ければ対戦相手のプレッシャーにもなるからな。

 本選は予選と違って審査員の持ち点が二十まである。一人の評価の上下が大きく点数を左右するということだ。

 

「……まぁ、そんなもんか」

 

 俺は合計得点を確認して、ほっと肩の力を抜く。

 

「き、九十二点! 九十二点です! 最速にして高得点! これぞダナン!」

 

 大きな歓声が巻き起こる。……いや、まだまだだな。もう少し時間をかけて練れば九十三に届いたかもしれない。あと他の審査員の点数はバウタオーダより高かったが、会長の爺さんが上げた点数は二点も低かった。つまり、あの爺さんに俺の料理はそれなりのモノでしかないということだ。

 

 これでプレッシャーになれば、と思ってハリソンを見るが彼は一心不乱に自分の料理に取り組んでいた。……そうこなくっちゃな。

 対決ではあるが向き合うべきは自分の料理。相手のことなんて気にしたって仕方がない。

 

 しかし。

 

「おぉっとハリソン・ラフォード八十七点! 本選初戦で敗れましたぁ!」

 

 相手が違えば二回戦進出もできたかもしれないが、それが運。

 

「……負けた、か。でも次は負けないからな」

「安心しろ、一生そのセリフ言わせてやる」

 

 以前も聞いたような気がするセリフを受けて笑いつつ、握手を交わして退場した。

 その日もオーキスに試食してもらう。

 

「……?」

 

 しかし、オーキスは食べてからこてんと首を傾げていた。

 

「どうした、オーキス。美味しくなかったか?」

 

 不味いということはないと思っているが、試行錯誤の段階だ。美味しくなくなっているということは考えられる。

 

「……違う。美味しい」

 

 だがオーキスは首を横に振った。美味しくないわけではないらしい。

 

「なんか気づいたことがあったら言ってくれ。美味い料理を作るための試行錯誤なんだしな。失敗があったら、修正するし」

「……大丈夫。美味しく、なってる」

 

 オーキスの舌は信用できる。彼女が言うなら間違いはないだろうが。

 

「そっか。まぁもうちょっと作ってみるか」

「……ん」

 

 今度こそ美味しくなっているという評価を得られたので、その日は良しとして明日に備えた。

 二回戦。勝ち上がったのはチェン、エルメラウラ、バウタオーダ、俺の四人。今日の対戦相手は八十五点とハリソンより低い点数を出したので問題なく勝ち上がれた。ただ二回戦の点数は順に、九十四、九十一、九十三、九十二だった。同点だったバウタオーダに上回られた形となる。……準決勝の対戦相手だってのに。

 

 俺はその日、自分の対戦が終わってすぐ厨房を借りて試作に入った。俺の速さを活かすならもっと調理時間のかかる料理でも問題ないということは、二回やってわかっている。もっとじっくり考えて工夫を凝らしてもいい。そのための知識と技術を吸収していく。

 

「……ダナン、もう作ってる?」

「ああ、オーキスか。ちょっと相手が強敵だからな。色々試してみたいこともあって」

「……そう」

「試作品はその辺に作ってあるから、食べてみてくれ」

「……わかった」

 

 そうして試行錯誤を重ねること数時間。

 

「……ダナン」

「ん? なんだ、気づいたことでもあったか?」

「……」

 

 声をかけてきたオーキスだったが、尋ねてもなぜか言いづらそうにしている。

 

「どうした?」

「……」

「なにかあったら言って欲しいんだが」

「……やっぱり、なんでもない」

「?」

「……ダナンの料理は美味しい。だから、大丈夫」

 

 怪訝そうな顔をする俺に、オーキスはそう告げた。……まだ感覚は掴み切れていないが、オーキスがそう言うなら信じてみようか。

 

「ありがとな、オーキス。悪いがもうちょっとだけ付き合ってくれるか?」

「……ん」

 

 さて調理の練度を少しでも上げておくか、と調理を再開する。俺はその後オーキスが俯いていることに気づかないのだった。

 

 翌日。午前にチェンとエルメラウラの対決が始まる。

 

 エルメラウラはとっておきの料理を作り、チェンに追いつく九十四点を叩き出した。しかし追い込まれたチェンはここぞとばかりに九十五点を出し、勝ち上がる。……いい勝負だった。二人共凄腕の料理人であることは間違いない。

 

 そして俺とバウタオーダの対決が始まる。

 集中して、冷静に。本番になれば、全力を尽くす以外にやることはない。

 

「おや。今日はいつもの雰囲気が違いますね」

 

 バウタオーダが声をかけてくる。

 

「そうか?」

「はい。あなたが緊張するとも思えませんが……」

「さぁ、どうだろうな」

 

 俺は言って、自分の調理台の方に向かう。対戦相手と仲良く喋ってもあれだ。喋るなら後の方がいいだろう。

 開始の合図があって、二人同時に動き出す。お題は豚肉だ。今日は時間をかけて工夫を凝らそうと思っているので、早めに大方作り終えた上で豚肉に合う工夫を宿す。

 珍しく調理時間を長めに取って料理していると、開始から四十分が経過してバウタオーダが先に料理を完成させた。

 

「おっとダナンではなくバウタオーダが先に料理を完成させたぞ? ダナンは準決勝に向けて時間いっぱい調理に使う方向にシフトしたようだ」

 

 司会の人も俺の目論見をわかっていた。じっくり仕上げる段階なのでちらりとバウタオーダの採点を確認しておく。自分の料理は失敗しないように気をつけて。

 

「おぉ! これはバウタオーダここに来て本選での自己最高得点! 九十四点です! これはダナンも厳しいか!?」

 

 ……マジかよ。クソ、確認しなきゃ良かったか。プレッシャーが身体に重くのしかかってきて、料理する手がゆっくりになる。

 だが焦っても仕方がない。俺は自分の調理を進める。だがずっと自分の料理で敵うのか? 未だ九十二点しか取れていないのに、工夫を凝らしたところで残り二点を埋められるのか? という考えが頭の中をぐるぐる回っていた。だがやるしかないと割り切って調理を行い、工夫された一品を審査員に提出した。

 採点を待つ時間にこんなにも祈るような気持ちになるとは思わなかった。

 

「決勝へと駒を進めるのは果たしてどちらか!? いよいよダナンの採点です! ……二十、二十、二十、十九、十六!! 合計九十五点で、決勝進出はダナンに決定です!!」

 

 上がった札の点数を加算して、思わずガッツポーズ。それくらい余裕がない戦いだった。

 

「はは、やはりあなたは流石ですね」

「……いや、皮肉かよ。いっぱいいっぱいだったっての」

「はは。どうやらこれでチェンという方と技量で並んだようですね。決勝、楽しみにしていますよ」

「ああ」

 

 バウタオーダは敗者とは思えないくらい悔いのなさそうな笑顔で去っていった。

 嘆息し、歓声の中俺は退場する。点数としてはチェンに並んだが、これ以上は今の俺では難しい。一日でなんとかなるモノではない。だがチェンは対決を進める度に点数を上げていっている。九十六、九十七くらいは取ってくると見た方がいいか。俺がそれに勝つには……やっぱり練習あるのみか。

 

 そう思い、控え室で荷物なんかを持ち出ようとするところで、見覚えのない老婆が通路で仁王立ちしていた。横に避けて通ろうとしたが、

 

「迷っているようだね」

 

 婆さんの言葉を聞き、擦れ違うところで足を止めた。

 

「料理に迷いが見て取れる。最年少にしてあの腕前。WCCの決勝まで駒を進めたことは認めてあげてもいいけど。今のままではチェンには勝てないねぇ」

「……なんだあんた。料理人に助言していいのかよ」

「助言じゃないよ。ついてくるといい。見せたいモノがある」

 

 婆さんは断言すると歩き出す。ここで知らぬフリをするのは簡単だが、迷っているのは確かなのでついていくことにした。

 

 その先で見たのは、服を着た銅像だった。一室にそれだけが置いてある空間。会長はその銅像の傍に立つ。それは真正面に立って、白い服とコック帽を身につけた銅像の台座に書いてある文字を読み上げる。

 

「……偉大なる初代“シェフ”、グレオ・ドール」

「WCC初代王者にして、偉大なる料理人。彼は世の大勢を笑顔にするためにと料理を広め、料理を極めた。ある意味では英雄と呼ばれる者の一人だね」

「これを、なんで俺に?」

「大会最年少なら、まだ芽を摘ませることはない。チェンは強敵だよ。心して挑むがいいさ」

「……」

「言っておくけど、グレオ・ドール以来WCCでは百点を取った者がいないんだよ」

 

 初代王者にして歴代最高得点保持者、か。とんでもない人物のようだ。老婆は俺にこれを見せて、“シェフ”に求める人物像はこういうモノだと言いたかったのだろうか。だとしてもそれが俺の料理にどう関係あるというのか。俺は全力で最高に美味い料理を作る、それだけだってのに。

 

 その後オーキスが待っていてくれたので二人でいつもの厨房へ。

 

「さて。今日で最後になるが、もうちょっと付き合ってくれな」

「……ん」

 

 今日も今日とて試作し、オーキスに食べて評価を貰う。場所を貸してくれる人達にも食べてもらった。美味しいは美味しいが、果たしてチェンに勝てるのか、という疑問は変わらない。だが付け焼刃でなんとなる相手ではない。

 

「どうだ、オーキス。美味しいか?」

 

 俺は一通り食べ終えたオーキスに尋ねた。とはいえ少しではあったが手応えを感じていたので答えは予測できる。

 

「……」

 

 しかしオーキスは答えない。怪訝に思って待つと口を開きかけた。言いたいことはある、らしい。

 しばらく逡巡していたが、オーキスは俺の目を真っ直ぐに見つめて口を開く。

 

「……美味しく、ない」

 

 頭の中に空白が生まれる。なにを言っているのかわからず、頭が動き始めても疑問しか生まれない。

 

「……ど、どういうことだよオーキス? 今のは間違いなく俺の力作……」

「……美味しいだけの料理なんて、美味しく、ない」

 

 俺は口から否定材料を探すための言葉を吐くが、オーキスは撤回する気がないようだ。

 

「なに……?」

 

 俺が眉を寄せて聞くと、彼女はゆっくりと話し出す。

 

「……今のダナンの料理は確かに美味しい。でも、今までは美味しいだけじゃなかった。ちゃんと、心を込めて作ってた」

「今は、心を込めてないと?」

 

 そんなはずはない。愕然とする俺に、オーキスはふるふると首を振った。

 

「……心は込められてる。でも、いつもと違う。ダナンはいつも、誰かのためにがんばってた。でも今は自分のために作ってる。自分のための料理を、他の人が食べて美味しいとは思わない」

「……」

 

 オーキスの言葉が突き刺さる。

 

「……ダナンは料理してる時、楽しそうだった。それはきっと食べた人を喜ばせようとしてるから」

 

 ……だから、美味しくない、か。

 

 俺はようやく、オーキスの言葉を理解した。

 

「……そうか、俺は」

 

 最高に美味しい料理を作ることばかりに傾倒して、大事なこと忘れていたらしい。

 

 会長の爺さんも同じことを言いたかったんだろうな。

 つまり俺の高得点は、技術点が大半。ってことはワンチャン百点狙えるんじゃ? そう思うとニヤリとした笑みが浮かんでしまう。

 

「……ん。いつものダナンに戻った」

 

 オーキスが顔を綻ばせた。どうやら心配をかけてしまったらしい。

 

「悪いな、オーキス。助かった」

「……ん。いつも助けてもらってばかりだから、いい」

 

 頭を撫でて礼を言う。俺の助けになれたからなのか嬉しそうだ。……オーキスのおかげで俺に足りないモノはわかった。おそらく、これでチェンとも戦える。

 

「さて、じゃあ今日はもう宿に戻るか」

「……練習は?」

「技術はとりあえず及第点だ。なら後は心の問題。それに」

 

 とオーキスを見つめる。

 

「気づかせてくれたお礼もたっぷりしてやらないとな」

「……あ」

 

 俺が言うと、オーキスはなにを想像したのか顔を真っ赤にしていた。そこは茶化さず宿屋に向かう。翌日に決勝を控えているので、程々に。

 

 俺はオーキスのおかげもあり、晴れやかな気持ちで会場入りすることができた。午前でエルメラウラとバウタオーダの対決があったが、惜しくもエルメラウラの敗北となった。一点という僅差だったので、もうここまで来たら四人の実力はそう変わらないと見ていいだろう。出されたお題との相性とかで変わるだろうしな。

 

 午後になって決勝の舞台が幕を開ける。……ああ、そうか。昨日の時点でここが違っていたな。俺は凄いヤツと遭遇して燃えるタイプだ。もちろん俺が本気になる分野での話だが。なのにバウタオーダとの対決では勝つために、とばかり考えてしまっていた。折角だ、楽しまなきゃ損だな。

 観客席でまずオーキスを見つけて手を振る。その後バウタオーダ達を見つけて手を振っておいた。バウタオーダは昨日の俺の様子に気づいていたのか、うんうんと頷いている。だからって加減したわけではないだろうがな。

 

「さぁ、いよいよ決勝の舞台に、両者が揃いました!」

 

 司会の人も、それに応える観客も最高潮。

 

「片や前回大会にて惜しくも準優勝となった、現在最も“シェフ”に近い男! 四年連続準優勝の彼が、ようやく頂きに届くのか!?」

 

 チェンってそんなに出てたんだな。そしてずっと“シェフ”にはなれていないらしい。

 

「片や今回初参加にして史上最速での予選突破! 予選、本選共の最高得点はチェンと同点となっています! 更に最年少本選進出記録すら更新した彼が、“シェフ”の栄光を手にするのか!?」

 

 持ち上げてくれるねぇ。まぁそうしないと盛り上がらないか。有名と無名の対決なわけだし。

 

「ではいよいよ決勝戦の始まりです! お題は毎年お馴染みの、自慢の一品!! それではWCC決勝戦、開始です!!」

 

 これは店を貸してくれた人から聞いていた。ランダムなお題ではなく、渾身の一品で勝負をかける。料理人に相応しい決勝だ。

 

「〜〜〜♪」

 

 俺は食材を準備し、鼻歌を歌いながら調理を開始する。事前にある程度の品目は決めているが、その場の思いつきを取り入れるのは悪くない。

 一先ず巨大な魚を持ってきて、空高く放り投げる。すっと目を細めて空中の魚を丁寧に切り刻む。まな板に落ちる頃にはいい感じに切れていた。くるりと包丁を手の中で弄ぶ。

 

 俺が普段やっている高速調理に、今やったパフォーマンス的な包丁捌き。あと焼く時にワインで炎ボーッてヤツもやる予定だ。

 それが料理の出来以外で俺が考えてきたモノ。

 

 審査員は食べれば料理を楽しめるし、対戦相手は対決を楽しめる。作っている俺は料理を楽しめるが、観客は見ていることしかできない。スパイスを駆使して香りを楽しませつつ、今みたいなパフォーマンスで目を楽しませる。もちろん料理の腕を見て感心するヤツもいるが、興味本位で来たヤツもいるはずだ。速い、上手いだけじゃ伝わらない見ていて楽しい料理を、そいつらに提供してやる。

 もちろん食べてもらう人への心も忘れない。

 

 そうして俺の料理は三十分で完成した。

 

「やはり速い! 決勝戦にして尚制限時間の半分で料理を完成させたようです」

 

 俺は料理を五人へと運んでいく。

 

「答えは、出たようだな」

「ああ。おかげさまでな」

 

 会長は老婆と同じく俺が迷っていたことをわかっていたらしい。そんな彼に言ってやって、それ以外は食べて察しろと手で示す。爺さんが一口食べた瞬間……水飛沫の舞う断崖絶壁にふんどし一丁で立つ爺さんの姿が見えた気がした。……俺なんか料理のやりすぎで幻覚見えてきてないか? 根を詰めすぎたんだろうか。

 というかあの老婆、一体何者だったんだろうな。会場にもいねぇみたいだし……まぁ、気にしなくていいか。

 

「早々に料理を完成させたダナン! さてその得点は?」

 

 司会の人の言葉の後に、五人が札を上げる。その点数を見て思わず目頭が熱くなってしまい、誤魔化すためにバンダナを取り払って背を向ける。

 

「お粗末!」

 

 そして次第に会場全体にも理解が広がっていく。

 

「な、なんと驚異の、百点、満点! 私会長が二十点を上げているところ初めてみました! というか初代“シェフ”に並ぶ歴代最高得点が、ここに出ました! 歴史的瞬間が、今目の前に!!」

 

 司会の人が明言したことで会場を揺るがす大歓声が巻き起こった。

 

「そ、そんな……」

 

 チェンはがっくりと膝を突いてしまう。

 

「どうした、チェン。お前の料理を作らないのか?」

「……」

 

 会長が問うが、チェンは項垂れて動かない。どうやら心が折れてしまったようだ。

 

「……そうか。ならばそれが敗因と知れ」

 

 爺さんは言うとちらりと司会の人に視線を送った。

 

「チェン、百点満点に心折られ棄権! ここに新たな“シェフ”が誕生しました!!!」

 

 俺は歓声に応えて手を振った。その後興奮冷めやらぬ中授与式が行われ、俺は“シェフ”の伝統と格式ある衣装を貰った。証明書も貰い、今後の更なる活躍に期待している的なことを会長から言われた。

 

 優勝者挨拶なんかもあったが適当にそれっぽいことを言って済ませておき、お開きになったタイミングでいつも厨房を借りている店に顔を出した。大半が観客席にいたらしく人は少なかったが、新たな“シェフ”になったことを喜んでくれた。厨房の料理人からの要望もあり、オーキスも見てみたいとのことだったため貰ったシェフの衣装を着込む――すると身体の奥底から力が湧き上がってくるような感覚があった。……これはあれか、“シェフ”という英雄の力が『ジョブ』に昇華されたのか。【シェフ】はClassEXⅡで、ClassEXに【料理人】が追加されているようだ。俺は元々料理を作る時は同じような気持ちだったので、『ジョブ』になっていなかったのは料理の腕が足りなかったか、または『ジョブ』に落とし込む理想がなかったからか。どちらにしても今は獲得できる状態になった、ということだろう。

 

 コック帽にコックコートを身につけ、腰に紐で巻いて布を垂らす。雲のような刺繍の施された黒のスカーフと左胸のバッジが“シェフ”である証だ。

 

「おぉ……!」

 

 料理人から感嘆の声が上がる。いつの間に作ったのかサイズが俺にぴったりだった。……俺が“シェフ”になってから割りとすぐに渡されたんだが、一体どう用意してるんだろうか。とんでもなく仕事の早い裁縫師でもいるんだろうか。

 まぁ気にしないでおこう。

 

 今日はどうしようか、と思っていると厨房の料理人達は夕飯時間近になって調理に取りかからなければならなくなった。

 

「忙しいようなら言ってくれれば、手伝うよ」

 

 それだけ告げておく。……なんかちょっと柔らかい口調だったというか。ClassEXⅡもClassⅣと一緒で口調だけはどうも制御できないんだよなぁ。

 

「……ダナンの料理、いっぱい食べたい」

 

 オーキスがそんなことを言ってくる。もちろん、俺もそのつもりだった。

 

「もちろんだとも。君のためだけに作るから、存分に味わってくれ」

 

 笑顔さえ浮かべてそんなことを言っていた。……いや気持ち的には変わらないんだが、これはこれで『ジョブ』解除した時ちょっとハズいかな。

 

「……ん。ダナンの料理、毎日食べる」

 

 オーキスも照れて頬を染めている。その言葉の真意はどういったモノだろうか、というのは野暮になるんだろうか。

 

「うん。とりあえず明後日発つ予定だから、今日と明日は存分に、ね?」

「……ん」

 

 オーキスに食べさせるためだけの料理を作りつつ店の手伝いをして、また旅を再開するのだった。


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