あと番外編がこれ含めて二話で終わります。計算していたわけではなかったのですが、丁度100話で区切りがつくわけです。
キリがいいのでまとめて報告させていただきました。
というわけで次の章がそろそろ始まります。活動報告を読んでない方もいると思いますのでちびちび予告しておきます。
次の章は“黄金の空編”です。
最初はオリジナルルートで、後々原作の流れに合流します。
トォノシ島の光華大会当日には、大勢の客が詰め寄せる。
カワロウ祭りで観光客も多くなるのだが、本番は光華大会だ。光華大会に合わせて前日までは存分に祭りを楽しみ、日が落ちてから始まる光華大会当日に備えるのだ。
その人気振りは、夜空に咲く光華を見られるいい位置取りをしようと朝から場所取りをする人達がいるほどである。
そして、トォノシ島名物のスシを扱う人気店「みや里」も当日から開店する。
それまでは臨時休業ということで張り紙を出していた。外から見ると訪れてくれた人達がしょぼくれた様子で立ち去る様を見て、絶対に当日は笑顔にさせてやろうと意気込むのだった。
張り紙には光華大会当日まで臨時休業とさせていただきます、と記載していたため当日は朝から開店を待つ人が列を成していた。
それを紺のみや里従業員衣装を着込んだルリアと変わり映えのないビィが整列させ、列を管理していく。
いよいよ本番稼動ということで地下も慌しく準備を進めていた。
開店時間を迎え、ルリアの案内で扉を開き店内へと足を踏み入れる。
「「「らっしゃい!!」」」
本日初の客を、威勢のいい挨拶が出迎えてくれる。店内にいるのは四人の若大将。みや里の制服を着込んだグラン、ジータ、キュウタ、ダナンである。
大将は後ろで彼らを見守るだけで、実際には動かない。
奥の方から詰めてカウンター席に座っていくと、並んでいた人達で店内の席が埋まってしまった。ルリアは慌てて以降の客を押し留め、満席になったことを告げる。当然また時間を見て来ようと立ち去る客も出てくるが、それでも列は増えていく。最後尾担当のビィが只今満席であると告げてもスシを食べるために列の後ろにつく人は多い。
「こ、これは……! 噂に違わぬ美味しさだ……」
「大将が倒れたって聞いたけど、これなら大丈夫そうね」
第一陣の客は満足してくれたらしく、口々に喜びの声と笑顔を握った彼らに届けてくれる。それが更なる活力となって次のスシを握る。
大将は基本的に四人の仕事振りを眺めるのと、常連客に元気な姿を見せることが仕事だ。あと金勘定は大人がやった方が都合がいいと思ってのこともあり、会計を執り行うことになっている。
復活開店の噂と開店後の評判も相俟ってか、結局客足が途絶えることはなかった。
昼食時になるとまた更に客が増えてその対応に追われる。美味しいと言ってくれるのは嬉しいのだが、流石に延々とスシを握り店内を片づけてを繰り返していると疲労も蓄積していく。
「なにバテてんだお前ら」
……唯一の例外は何時間経っても同じ速度でスシを握り続けているダナンだけだ。こいつもしや料理をする時だけ人間辞めてるのでは? と同じ『ジョブ』を持っているはずの双子が思ってしまったのも無理はない。
スシを握るという肉体労働もあるが、客に対応するという精神的負担もある。見ず知らずの人とずっと話し続ける必要があるというのも心の疲労に繋がるのだ。
その点で言えば、経験があってバカみたいに持久力のあるダナンの参戦は打ってつけと言えた。
「……いや、これは大変だって。ダナンがおかしいんだよ」
「うんうん。いくら普段ルリアちゃんに料理振る舞ってるとはいえ、長時間ずっとなんてキツいよ」
「つ、疲れたッパ~」
まだ半分しか経っていないというのに情けないヤツらだ、とは思うがそろそろ休憩を入れるべきでもある。流石のグランやジータでも一日中スシを握り続けろというのは無理な話だ。
「うん? そういえば、食材が届いてないな……地下になにかあったのか?」
大将も少し疲れが見えてきているが、彼は過労後充分な休息を取ったのでまだマシな方だ。その彼が言った言葉にはっとする。
「じゃあ休憩がてらお前らで地下見てきてくれ。しばらく俺が回しておく。あとできれば外で頑張ってる二人も交代させてやるか、看板地面に突き立てておくかして休ませるんだな」
ダナンは平然と言った。おおよそ一人で他三人分のスシを握っているというのに全く疲れた様子がないのはやはりおかしいと思うが、こういう時には頼りになるモノである。
「わかった。しばらくお願い」
「ごめんね、助かる」
「任せたッパ」
ということで疲労も溜まってきていたグラン、ジータ、キュウタの三人が食材が届かないことを危惧して地下の作業場へと向かう。外で客の対応をしているビィとルリアも呼んで、行列は一旦放置する。ある程度並んでいれば後から来た客も案内がなくてもわかってくれるだろうと思ってのことだ。
「さぁて、存分にやりますかぁ」
一人残ったダナンは不敵に笑うと、腕捲りをして猛然とスシを握り始めた。およそ先程までの倍の速度である。それを見ていた客と大将は、え? まだ本気じゃなかったの? と呆れていたのだが。
一方地下作業場を訪れたグラン達は、地下での作業が全員で行われていないことを確認した。下準備を含めてずっとフル稼働だったため休憩しているかと思ったのだが、ジークフリードやゼタ達が集まって話し合っているのが見えた。声をかけるとこちらに気づき、申し訳ないような怒っているような顔でジークフリートが彼らを見つめた。
「団長。俺達がいながらすまない。食材を保管していた倉庫が何者かに襲撃され、魚の大半が焼けてしまった」
普段通りの落ち着いた声音ではあったが、申し訳なさが立っている。彼の言葉に五人は驚愕した。
「そ、そんな……じゃあ食材はもう?」
「ああ。今処理をしている、襲撃前に運び込んでいたモノで在庫が尽きてしまう」
「だ、誰がそんなことを……」
「それがわかんないのよね。轟音に気づいて私とベア、ジークさんの三人で様子を見に行ったら、って感じで。見つけてたらとっちめてやってるわ」
確かに、その三人がいて捕まえられなかったということはそもそも遭遇していないということになる。犯人が誰かやなぜこんな酷いことを、というのはまた今度にしなければならない。今は客のことが最優先だった。
「一応カッタクリさんが船を出してくれて、シェロカルテさんにも在庫があれば回してもらえるように要請したが。どこも今日が本番、既に万屋の在庫も底を尽きかけているようだ」
食材の確保に動いてくれた後だったようだが、流石にそんなすぐには用意できないようだ。スシ屋はみや里だけでなく、海鮮はどこも使いたがるモノだ。アウギュステの海をピックアップした上で外からやってくる観光客向けにとなれば誰もが考える手法である。
「つまり今用意してる分がなくなったら、店を続けられなくなる?」
「そういうことになるな。流石のカッタクリさんでもさっき出てすぐに戻ってくることはできないだろう。後は既に出ていたガンダゴウザさんとシグさんの二人が食材を確保して戻ってきてくれることを祈るくらいか……」
「そんな……」
絶望的な状況にショックを受ける五人。みや里には朝から客が詰めかけてくれていたが、本来最も客の来る時間帯は夕方である。夕食にスシを食べて夜光華を観る。それが一つの過ごし方として紹介されており、主流となっているところもあるのだ。その辺りをわかって常連は大将の様子を見に来ることも含めて朝から並んでいたというのもあった。
「それともう一つ、悪い知らせがある。キュウタにだ」
加えてジークフリートはしょんぼりした様子のキュウタを静かに見下ろす。
「君のお父さんが、大将と同じ過労で倒れたんだ。今は家で療養しているはずだが――」
ジークフリートの言葉を最後まで聞かないまま、キュウタは走り出した。名前を呼びはするが止まらず、また無理に止める気もなかったので一人で行かせてしまう。
「キュウタ君……」
「家族のことだから、仕方ないよね。でもどうしようか。とりあえず用意できてる食材でなんとかするけど、ピークはもうすぐ終わるとはいえいっぱい来てたし」
ジータは考え込み、答えの出ない思考に沈んでいく。
「とりあえず今ある食材を持っていってから、お昼休憩にしよう。そこで色々考えないと。と言っても仲間を信じて待つ、くらいしかないかもだけど」
「そうだね。じゃあとりあえず、私達で届けてじっくり考えよう」
双子の団長が言って、カッパ達にも労いの言葉をかけて用意された食材を持っていく。
「あれ、ダナン君がいない?」
みや里の方に戻るとここを任せていたはずのダナンの姿がなかった。大将が一人でスシを握っている状況だ。なぜかいたヤスは酢飯を混ぜている。
「ああ、戻ったか。悪いがもう少し手伝ってもらっていいかな? 彼はちょっと私用で抜けてしまって」
大将が少しほっとしたような顔で言った。どうやら休憩は後のようだ。彼が料理より優先することなんてあるのか、と首を傾げたがすぐに戻ってくるだろうと思い休憩せずにそのまま取りかかった。
「ところでヤスさんはなんでここに?」
「俺はあれだよ。倉庫の方で轟音が聞こえたから、祭り運営側の人間として見に行かされてな。もぬけの殻だったんだが、急いで報せねぇとと思って店の方に来たんだよ」
ヤスの言葉から、色々ジークフリートが対処してくれたのにかけた時間が少なすぎるので、持ち前の判断力でテキパキと行動してくれたのだろうと感謝を強くする。
「その後で金髪の嬢ちゃんが来て、『これでみや里も仕事を休むしかなくなるわね』とかそんなことを言ってきたんだが、それを聞いたダナンが嬢ちゃんを連れてどっか行っちまってな。こうして親父に手伝わされてるってわけだ。……スシは握らせねぇでな」
「当たり前だ。修行も碌にしてないヤツにスシを握らせて堪るか」
その様子に親子揃ってみや里で見かけるのは何年振りになるか、と長い常連客は微笑ましく見守っていたのだが。
「もしかして、フライデーさんでしょうか。だとしたらなんでみや里の倉庫を襲撃するなんてこと……」
話を聞く限りフライデーがみや里の倉庫を襲撃して食材をダメにした張本人だと思えた。
「まぁ、それを聞き出すためにダナン君が行ったんだと思うし大丈夫じゃないかな」
多少痛い目には遭っているかもしれないが、と内心で思ったのは内緒だ。
「よぉし、頑張って再開しようぜ!」
ビィはある程度元気を取り戻し、四人は少し腹ごしらえをしつつみや里の手伝いを再開するのだった。
しかし、結局昼の行列と引っ切りなしに客がやってきたことで、午後二時を回る頃にはもう在庫が底を尽き始める。夕食時はあと四時間ほど。混雑することを考えて早めに来るなら五時からラッシュが始まることだろう。
客足も穏やかになってはきたので満席とはいかないが、それでも人は来ている。一部のスシは「申し訳ありません。只今準備中でして」と断ることも増えてきた。それでもなんとか昼過ぎに来たんだからしょうがないか、と笑って許してくれる人ばかりだったのは不幸中の幸いか。とはいえ残念そうな顔をさせてしまったのは申し訳ない。
とそこで、がらりと扉を開けて一人の男が入ってくる。豪華な衣服は高貴な身分であることの証のようにも見える。おおよそ高級料理店にのみ出没しそうな見た目でありながら、彼は食の評論家である。どこへでも行き、どこへでも現れる。
「お、お前は……!」
行列がなくなったことで店内を手伝っていたビィがその人物を見て驚きの声を上げた。
「おや。こんなところで会うとは奇遇だね。君達がいるとは思わなかったが……これは期待できそうかな」
彼は有名な食の評論家であり、以前四騎士関連で関わりがあった。
彼が低い評価をすれば客足はほぼ途絶え、彼が高い評価をすれば直後は連日満席となる。食の世界において多大な影響力を持つ人物であった。
「あ、あの、今は在庫が……」
ルリアがなんとか今の品薄の状況では難しいと考えて待たせようとするが、
「席なら空いているだろう?」
彼は平然と言って他に誰もいないカウンター席へと座った。
席に座ったなら彼は客だ。とはいえ在庫の少ない今の状況で彼の満足する品を出せるか、と言われれば微妙なところだ。ほとんど在庫がなく、出せても五貫が精々だ。
「ご注文は?」
座ったなら対応しなければならない。グランが代表して彼に尋ねた。
「『おまかせ』で頼むよ。この店自慢のスシを、用意してくれればいい」
つまり、下手なモノは出せないということ。余り物で作ったその場凌ぎの『おまかせ』など評論家である彼は見抜いてしまうだろう。そうなったらみや里は終わるかもしれない。どうすれば、と大将とヤスが狼狽える中、彼らだからこう応える。
「「『おまかせ』一丁!」」
グランとジータは前向きさも取り柄の一つである。客に不安なところを見せまいと、笑顔で注文を承った。
「やりましょう、大将さん。これはチャンスでもあります」
「僕達もお手伝いしますから」
二人の笑顔には人を惹きつける魅力がある。大将は苦笑した。
「……わかった。『おまかせ』は頼めるかな。俺は他の客を捌こう」
「え、僕達が、ですか?」
「そうだ。今日のみや里を切り盛りしているのは君達四人だ。だから、四人で考えた『おまかせ』を見せて欲しい」
大将の言葉に顔を見合わせた二人だが、その後強く頷いてみせた。
今はいないもう二人の若大将が、なにかしらの具材を持ってくることを信じて。
そうして集まったのは。
ジークフリートが取ってきた貝。
カシウスが燃えた倉庫で見つけた、偶然残っていた炙りサーモン。
ヤスが以前からスシを諦め切れず研究していた玉子焼き。
シェロカルテの在庫に偶々あったというンニ。
カッタクリが友人伝に届けるように言っていたカツヲヌスの切れ身。
キュウタが父から託されたキュウリ。
だった。
最後の一品、戻ってこないダナンを待っていたのだが。
「まだ用意できないのか?」
痺れを切らした評論家が尋ねる。もうこれで出すしかないかというところで、みや里の扉が開きダナンが入ってきた……簀巻きにされたフライデーを引き摺って。
ようやく現れた彼に喜びフライデーの姿を見て硬直する。
「悪い、待たせた。とりあえずこいつはシメといたから安心してくれ」
ボロボロの状態で簀巻きにされ涙ぐむフライデーに、なにをしたのかは聞かないでおこうと心に決める彼らであった。
「状況を教えてくれ」
「えぇっと、そこにいらっしゃる評論家の方にみや里の『おまかせ』を出すところです」
フライデーを放置する彼に戸惑いながらも、ルリアが答える。
「なるほど。じゃあこいつの詫びの品を使ってみるか。あと昼飯用に作ったあれをおまけしとくか」
ダナンは言ってさっさと一つスシを握って用意された器に載せると、奥に引っ込んであるモノを取ってくる。
「他になけりゃ、これでいいだろ」
彼はあっけらかんと言って、返事を待たず器と自分の持ってきた椀を評論家に出した。
「「「『おまかせ』お待ちっ」」」
若大将を務めた四人が声を揃えて告げる。
「ほう。これはまた見て楽しむこともできるように」
スシと言えば刺身や貝を生で載せるのが主流だ。
彼らが仲間達の力を合わせて生み出した『おまかせ』は、そんな主流を抑えつつ新たな道を作り出していた。
カツヲ、貝は主流のモノ。キュウリとダナンがフライデーから貰ったエヴィフライは海苔と酢飯に巻かれている。サーモンは炙られ焦げ目がついており、ンニは普通なら零れてしまうところを横に巻いた海苔で縁を作り上手く載せている。
椀には白く濁ったなんの具材もない汁物が入っていた。
「して、こちらの汁物は?」
「スシに合うように作られたお吸い物です。今後はどうなるかさておき、一緒に味わうとより楽しめるかと」
「なるほど」
ダナンはしれっと答えたが、その実彼が魚の切れ身の余りや貝の残りなどをとりあえず全部ぶち込んで煮込んでいただけの汁である。素材がいいので海鮮の旨みが爆発し、尚且つ味つけは完璧と予想以上に美味しくなっていたのでついでに出したというだけのこと。
なのだが割りと好評でスシにも満足してもらい、評論家はお得意の独り言を連発して自分の世界に入り込みつつ堪能していった。
「ようやく仕留めたぞぉ!」
そこにガンダゴウザとシグが帰還する。入り口に捨てられていたフライデーがガンダゴウザに踏まれて生死を彷徨いかけたのは余談である。
「こ、これはゴッド・アルバコア、だと……!?」
外が騒がしいと思ったら、巨大で生きのいい魚が吊るされジタバタしているところだった。
そこに知り合いの漁師に手伝ってもらい食材を確保してきたカッタクリまでもが戻ってくる。これでフライデーがやらかしてダメにした食材の代わりは補充された。
では巨大なゴッド・アルバコアを誰が捌くのかというところになるのだが。
「俺に任せろ。あいつを切りたくてウズウズしてるんだ」
セリフは完全に人斬り狂人のそれであったが、ニヤリと笑うダナンに託された。
「よく見とけ。これが【シェフ】だ」
彼はグランとジータに告げると集まった大勢の野次馬を押し退けて【シェフ】の英雄武器である伝家の包丁を手に取り『ジョブ』を発動させる。
コック帽にコックコート、腰巻きエプロンと黒のスカーフ。そして唯一無二のバッジ。
「な、なんだと!? あれはまさか、今年度のWCC王者、“シェフ”だというのか!」
評論家の大袈裟な驚き方に野次馬もその正体に気づき大いに盛り上がる。
“シェフ"は毎年WCCが開かれることで任命されていくが、WCC自体が五十回と開催していない。つまり全空に五十人といない称号を持っていることになるのだ。その多くは有名料理店のオーナーになったり宮廷に仕えたりしているため滅多にお目にかかれない存在となっている。
しかし今年は旅する料理人が優勝を果たしたため、もしかしたら世界のどこかで“シェフ”の料理にありつけるのではと一部界隈で噂になっていたのだ。
「さて。皆様お立合い! 今宵はみや里のためにこのゴッド・アルバコアをこの一体が尽きるまでの期間限定として、スシを握りましょう! 滅多にお目にかかれない大物故値は張ってしまいますが、どうぞこの大物を是非食していただきたい!」
ダナンは大仰に野次馬へ呼びかける。
「た、確かにゴッド・アルバコアは滅多に食べられるモノではない。この機会に是非、食べたい!」
評論家も興味津々な様子だ。「食べていただきたい」ではなく「食べたい」が最初に出てくる辺り、彼がなにより食を愛している証拠と言えるかもしれない。
「では皆様。いよいよゴッド・アルバコアを捌こうと思います」
おぉ、という声が聞こえダナンが包丁を構えて集中する。誰もが固唾を呑んで見守る中、ゴッド・アルバコアの解体作業が始まった。“シェフ”として学んだパフォーマンスの観点も忘れず解体をする様は大いに観客達を湧かせたのだった。
そして夕食時を無事乗り切った一行は、客が来なくなる光華大会間近の時間になってようやくみや里の手伝いを終える。
因みにフライデーはゴッド・アルバコアを食べさせてもらえず目の前で美味しそうに食べる刑に処された後、反省した様子でエヴィフライに乗って去っていった。彼女の行いは決して褒められることではないが、彼女なりに働き詰めの大将達を想っての行動ではあったのだ。ただしやり方とタイミングだけは評価してはならないので、ダナンがきっちり言葉と暴力で教え込んでやったらしい。
仕事は早く終わるに越したことはないし、できれば残業なんてしたくない。けど、それでもやらなければ問題に発展するからやらざるを得ない状況というのはあるモノだ。なにより月から金まで働き土日に休む場合、休日に仕事を残すより残業してでも終わらせてしまった方が気持ちが楽になって良い休日を過ごせるというのもある。
ともあれ、飲食店は闇が深いのでフライデーがいくら頑張っても改善しない。
閑話休題。
みや里は今後従業員を雇って人手を増やすことで大将の休みを増やすという方針を作った。また安定してきたらスシの持ち帰りも検討して、より多くのお客様にスシを味わってもらえるように工夫するそうだ。スシを保存する容器などに関してはシェロカルテがテキパキと提案をしていた。仕事を増やすことにはなるが持ち帰って食べるなら多少待たせても問題ないし、ある程度決めた持ち帰りセットとして考えておけば握って用意するだけで済む。
なにより今回の一件でキュウタとヤスが大将の弟子として残ることになった。
みや里はスシの新たな道を開き、また健全に働き続けるのだろう。
来年からは持ち帰りで用意したスシを光華大会に食べる、ということも見受けられるのだった。