理の律者は笑わない 作:バイクに乗ったまま戦闘だって!?
評価バーに色がつきました。私の強めの幻覚殴り書きを閲覧して下さりどうもありがとうございます。
EX(I)崩壊の産声
けたましい警戒音が響き渡り、警報灯が廊下を真紅に染め上げる。
その赤光の中を紫色の影が軌跡を残して疾駆する。
彼女の名はシーリン。この研究施設──通称バビロンの塔で実験を施された子どもの一人だ。
バビロンの塔はシベリアの僻地に建設された個性研究施設だ。とある財団が多額の支援をしていることで有名だが、これといって目覚しい成果を上げているわけではない──とされている。
その実態は個性の軍事使用を目的とした非人道的な実験を繰り返すブラックな研究施設だった。研究員の福利厚生はホワイトらしい。
個性増強薬、個性の『物質化』、精神的負荷による個性の変質 etc……。彼らはその研究成果をもってして死の商人としてやっていこうという魂胆だったようだが、いき過ぎた実験は彼ら自身の首を絞めることになった。
幼少期、シーリンは無個性と診断されていた。個性が発現しないことに肩を落とした両親だったが、そんな彼らにバビロンの塔の職員が接触する。
──我々の研究によって無個性の彼女も個性を発現できるようになるかもしれません
その口車に乗ってしまった両親は良かれと思ってシーリンを職員たちに引き渡した。全ては彼女の幸せを願ってのことである。
彼女も最初は両親が自分を気遣ってくれたことに感謝した。しかしその心は日に日にドス黒い感情で埋め尽くされていった。
形容するのも憚られるような狂気の実験に彼女の精神はゴリゴリと削られていく。
その溜まりに溜まった負の感情がトリガーとなったのか、はたまた彼らの研究が成功してしまったのか、今となっては分からないが、シーリンは個性を獲得した。
彼女の個性は『亜空掌握』。実数空間の裏側に存在する虚数空間を掌握し、様々な力を行使できる個性だ。
自分の個性の目覚めに気づいた彼女はひとまず、周囲に蔓延る塵芥を一掃した。彼女の実験を担当した職員が生きていた痕跡は壁と彼女に飛び散った血潮だけとなった。それまで人だったモノが辺り一面に散らばることを彼女が許すことはない。
そして冒頭の場面へと至る。現在彼女が向かっている先は彼女以外の子どもたちが収容されている部屋だ。
恐らく彼らは子どもたちを人質にするだろう。こいつらを殺されたくなければ大人しくしろ、と。
──しかし彼らは見誤っていたのだ。彼女が目覚めた力がどれほどのものかということを。
子どもの頭に銃を突きつけた職員は彼女の個性によるワープで外に放り出された。ここはバビロンの『塔』。塔と呼ばれる由縁はその天を穿つような高さに起因する。子どもたちが収容されていた部屋はスカイツリーを優に超える脅威の700mの地点に位置する。彼は最初で最期のスカイダイビング(パラシュートなし)を楽しんだことであろう。
シーリンは子どもたちを空間転移で安全な場所へと転送しようとするが、子どもたちはシーリンと一緒にこの場所を壊そうと僕も私もと口々に騒ぎ出した。
だが、シーリンは首を振った。「ダメだよ」と。
彼らも大なり小なりこの場所に恨みを抱いていることだろう。だけど、彼らはまだ引き返せる。もう事を成してしまった自分とは違って、その手は血に汚れてなどいないのだ。シーリンに残った最後の人間らしい心だった。
「あんた達の分までお姉ちゃん、頑張っちゃうんだから☆」
渋々納得した子どもたちを今度こそ安全な場所へと転送したシーリンはその目を、口を、狂気に歪ませた。
⚫
職員たちをなぶり殺していくうちにシーリンは自身の中の何かが崩れたことを感じた。
何が崩壊したのかは分からない。が、何か強い力を手にした気がする。シーリンは気の赴くままに空を裂くように手を振るった。
その宙に広がった時空の裂け目の中から不思議なモノが産まれ落ちた。
人とも獣ともつかない、白いボディに淡い赤色のラインをもつ何か。どうやら彼らは自分の言うことを聞いてくれるらしい。一個体に絞れば細かい指示をすることも可能だが、その個体数が増加するにつれて大雑把な命令しか出せなくなるようだ。
塔の全ての職員を駆逐した後、彼女は眼下に広がる世界を見下ろす。ああ、何もかもが妬ましく見えてしまう。私はもっと幸せになれたはずだ。
「多分あれで全員じゃない。まだ、もっといたはず」
「殺すわ。一片残らずに、ね」
統括者からの意志を受け取ったモノ──崩壊獣たちは彼女の意志を全うするためにゆっくりと行動を開始した。
────『個性災害:崩壊』発生
ブローニャが産まれるちょっと前のお話。たまにこっちも更新していきます。
個性『亜空掌握』
無個性と診断されていたシーリンが極度の精神負荷(精神汚染と形容しても過言ではない)をかけられることによって生まれてしまった常軌を逸した力を持つ個性。
①虚数空間を実数空間に投影する
虚数空間のあらゆる事象は実数空間(現在私たちが過ごしているこの世界)には影響を及ぼさないが、彼女の個性は虚数空間の事象を実数空間に『投影』することで実物へと『転化』することが可能である。
投影されたホログラムを実物に変換するような力だとお考えください。
投影するものは彼女が思い描くものに限定されるため、実物が存在するものや彼女の想像が至らないものは作ることができない。今作での崩壊獣はこの能力によって生み出されました。
②虚数空間を経由することでの擬似的なワープ
虚数空間と実数空間での距離の違いを利用してのワープ。自分以外にも他人や物もワープできる。黒霧と違って正確な座標がなくともワープはできるが、その場合は誤差が生じる。
NARUTOをご存知の方はフレンチクルーラーの万華鏡写輪眼を想像してもらえれば分かるはず。
ブローニャの方は絶賛推敲中です。今年中には出せると思います。