理の律者は笑わない 作:バイクに乗ったまま戦闘だって!?
「ぼ、ぼぼぼぼ僕の名前はははは」
「緑谷出久、ですね。オールマイト、本当に彼なんですか? ヒーロー志望が初対面の人にこれは少し難ありかと」
「単に女性が苦手ってだけじゃないかな? ……多分」
何時ぞやにブローニャのオリジンが始まった不法投棄多めの海浜公園に集まったのはナチュラルボーンヒーロー、その力を受け継ぐ予定の少年、そしてウラルの銀狼。
今回の目的は出久がオールマイトの個性『ワンフォーオール』を受け継ぐためトレーニングの目標と初日の訓練、そして同じくヒーロー志望のブローニャと顔合わせをするためだ。
ちなみにブローニャは既に『ワンフォーオール』のことをオールマイトから教えられていた。ブローニャがその内容を聞いた時、彼女はうっすらと笑みを浮かべていた。オールマイトの信に自分は値するのだということがブローニャの心をくすぐった。
オールマイトは同じヒーローになるという志を持った者が集まれば自然と士気も上がるのではないかと考えブローニャと出久を会わせることにしたが、結果は冒頭のようになってしまった。
二週間ほど前に起こったヘドロヴィランの事件でオールマイトに生来の正義感を見込まれて彼は今この場に立っているはずなのだが、ブローニャにはとてもではないがそうは見えなかった。
「いつまで震えてるんですか。取って食ったりしませんから普通にしてください」
「は、はぃぃぃ!!!」
「重症ですね」
「緑谷少年はブローニャ少女と普通に対話するところから始めようか」
ブローニャはオリジン以降からオールマイト以外の人にも接するようになっていた。
感情の起伏は未だに止まった心電図のように動くことはなさそうだが、時折ジョークのようなものを交えたり彼女なりに努力はしているようだ。
オールマイトからすればそれは喜ばしいことなのだが、如何せん何かトゲのある言葉遣いが多い気がする。一応養親としての立場もあるために少し、ほんの少しだけ不安になるオールマイトだった。
それから三日間、ブローニャが出久に電話をかけたり訓練中に積極的に話しかけることにより出久は何とか女性への(現状対ブローニャ用にしかならないが)耐性をつけることが出来た。
「長いようで短かったがやっと訓練に入れるな!」
「お、お手数お掛けしました……」
「謝るのはオールマイトじゃなくてブローニャにですよ」
「ごめんねザイチクさん」
「……ブローニャでいいです。いえ、むしろそっちでお願いします」
そして出久の血の滲むような特訓の日々が幕を開けた!!
出久はオールマイトが考案した『これで君もパーフェクトボディ! アメリカン式雄英合格トレーニング!!』という名目の常人がやってもキツイと思われるようなメニューを日々こなしていく。
途中でオーバーワークでぶっ倒れる日もあった。
しかし彼はそのヒーローになりたい、オールマイトの後継に相応しくなりたいというガッツで必死に食らいついた!
だがここから原作通りの彼の頑張りを記しても、それはさほどの意味を持たない。
よってここからはブローニャが入試に至るまでの日常生活、その一部分をご紹介させて頂こう。
Bronya File.1『株』
それはある日の昼下がり。特にパトロールもないためオールマイトはリビングで一人珈琲を嗜みながら優雅なひと時を過ごしていた。
「オールマイト、少しいいですか?」
ソファに座っていたオールマイトの頭上に影が落ちる。ふぃと上を向いて見ればそこにはブローニャがいた。あと数センチ近づけば額がくっついてしまうような距離にブローニャがいた。
オールマイトは飛び上がりそうになった心臓と身体を落ち着かせる。珈琲を机に置いておもむろに彼女から距離をとった。
「何か用かい?」
「お金を貸して欲しいのです」
「いくら?」
「ざっと200万強くらいでしょうか」
「……何て?」
オールマイトの養子になって少しして彼はブローニャにPC一式をプレゼントした。聞くところによると彼女は機械類には強い方らしくコミュニケーションの一助になるだろうかと思って買ってきたのだ。
それから数日でルーターとHDDの買い替えを希望してくるとはさすがのオールマイトも予想していなかったが。しかも希望品のメモまで添えて。
そして更にブローニャの注文は続く。外付けHDDを頼んだかと思えば次は計算ソフトを要求してきた。無表情なので彼女が何を考えて機械類を吟味しているのかはオールマイトは点でわからなかった。
いくらか物を買った後、彼女はそれ以上の要求をしなくなった。ちなみにオールマイトは彼女に年相応のオシャレ等が出来るようにとお小遣いは渡していた。
なりを潜めたかと思えばこれである。一体彼女の思考はどこへ向かおうとしているのだろうか。彼は養父として心配でしかたなかった。
「ゴホン! 流石の私もそれは容認出来ないな。一応、理由を聞かせてもらってもいいかな?」
「そうくるとは思っていました。こちらをご覧下さい」
ブローニャはオールマイトの膝にノートパソコン(これは彼が二番目に買ったもの)を置いて、少しだけ得意げにそれを開くようにジェスチャーした。
その画面には大きめの右向き三角形のマークが映っていた。この動画を再生しろということだろう。
カチリとその三角形をクリックしてみるといきなりタイトルが表示された。題名は『ブローニャの! 安心、安全、高収入の株取引講座!』とある。オールマイトはこめかみを抑えながら瞑目した。
彼女のその知識は半端なものではなかった。あまりこの手のものが分からないオールマイトに向けての懇切丁寧でわかりやすいスライド形式の動画での説明。そしてメリットデメリットの例を挙げつつデメリットのみを限りなく低くする革新的な手法の解説。
ここまでの知識を会得するのにどれほど努力したのだろう。オールマイトはそれがひしひしと伝わるその動画を見るだけで頭ごなしに否定する気は失せてしまっていた。
「……と、言うわけです。まずはデトラネットとFGIの株からいきたいと思っています。最近の二社はきな臭い話がありますが、そのうちまた株価が上がってしまうでしょう。故に今が好機です」
オールマイトは迷いに迷った末に、妥協に妥協を重ねてその重たい口を開いた。
「……100万からだぞ」
数ヵ月後にはそれがオールマイトの貯金の半分に匹敵しそうな程に膨大になっていたのはまた別のお話。
次でやっとブローニャの戦闘がお披露目できます。
Bronya File(ブローニャの日常)はこれからもいくらか続く予定です。それの内容のアンケートにご協力お願いします。
崩壊3rdやってる人少ない?少なくない?
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