「じゃあ、手術の日程が決まったら、一報入れるよ」
「ありがとうございます」
次の定期検診の日、灰は医師に決意を伝えた。急な心変わりだったにも関わらず、医師は迅速な対応を見せ、手術は一週間後に決まった。学校へは休学届を出し、連絡をとっている菜乃花や湊には、しばらく電話での連絡をお願いした。
手術のための準備で、一週間は一瞬で溶けた。その間、菜乃花からは応援のメッセージが送られてきた。しかし湊からは、ついに反応はなかった。
手術は滞りなく進んだ。灰は全身麻酔で眠らされ、気が付いたときにはどこかに横たわっていた。視界は真っ暗で光の一筋も見えない。ただ黒く、静かな空間が広がっていて。手術の前は無理やり押しつぶしていた恐怖心が、今更ながら灰を襲った。静寂が耳に刺さる。吐息の音がやけにうるさい。包帯できつく巻かれているためわからないが、きっと泣いているのだろう。涙腺ににぶい痛みが走るのを感じた。
どれだけ経っただろう。ガラリとドアが開いた。
「やあ、灰くん。お目覚めかな」
「いったい、どうなったんですか?手術は………手術は成功したんですか?」
取り乱して、やってきた男………医師の藤堂に縋り付こうとして。灰は虚空をつかむ。
「失敗はしなかったよ。あとは君の運次第………といったところかな」
医師は、よくある『根拠のない励まし』はしなかった。灰にとってそれが無意味だと知っていたのかもしれない。灰も自分の欲しい回答を聞けて、冷静になることができた。
「落ち着いたかい?あまり大きな声をだすと、隣の部屋の人が起きてしまうから」
静かにね、と医師は灰の耳元でささやいた。落ち着きを取り戻した灰は少しそれが………気味悪く感じた。
「今は夜だから、もう少しお休み」
さっきまで寝ていたので眠気を感じていなかったのだが、安心感を覚えたからだろうか。灰は再びベッドに横になる。甘い香りに包まれて、灰は朝まで眠りに就いた。
*
太陽光の温もりを感じる。うめき声を漏らして、ベッドから上体を起こす。暖かな紫外線と頬をなでる風が心地よい。目を閉ざされているのに目覚めが良いとは、皮肉なものだな、と灰は独りごちる。
「なに独り言言ってるの?」
「へひぁっ!?」
独り言を誰かに聞かれたときほど、恥ずかしいものはない。それが意中の相手であったのなら、なおさら………
「おはよっ、灰くん!」
「おま、菜乃花か!?」
なぜか菜乃花が、灰の病室に居る。気取って口にした言葉を、誰に聞かれることもないと思っていた台詞を、よりにもよって、菜乃花に。
「はい、リンゴ剥いてあげたから、口開けて。ほら」
まだ恥ずかしさに悶えている灰の顔に菜乃花の手が近づいてくるのを感じる。唇で受け取った林檎は、火照った頬のおかげかひんやりと感じられた。しっかりと、菜乃花の優しさと林檎を噛み締めてから、ようやく疑問が灰の口を衝いた。
「なんで菜乃花がここに?」
「なんでって、私が来たかったから?」
「お、おう………変な奴だな、菜乃花って」
苦笑する灰に、菜乃花は頬を膨らます。本当は嬉しいはずだが、思春期の男子にそれを表現する術は無かった。
「そんなこと言うんだったら、もう来ないでおこうかなー」
「ごめんごめん、来てくれてありがと」
感謝の言葉を聞き、菜乃花は得意気に鼻を鳴らす。
「それで、さっきの独り言はなんだったの?」
「忘れてくれ、あれは……思春期特有のアレだ」
灰は甦ってきた恥ずかしさを振り払い、残りの林檎を受けとる。飲み込むと、菜乃花がすぐに次の欠片を灰の口元へ持っていく。幸せな空間が、病室を満たしていた。
「じゃあ私、そろそろ帰るねー」
しばらく………時間を忘れるほど灰と菜乃花は話し込んでいた。今何時か、灰にはわからなかったが、そろそろ昼飯時だろうか。
「おう、じゃあな」
灰の挨拶に、帰ってくる声はなかった。菜乃花の足音は聞こえなかったが、もう帰ってしまったようだった。
廊下とおぼしきところからカツカツと足音が響いてくる。
「灰さーん、夕食の時間ですよ」
*
菜乃花はそれからも毎日、病室にやってきた。灰にとってそれは唯一の楽しみであった。何をする訳ではない。他愛もない日常のこと、未来のこと、この間読んだ本の世界のこと。彼女と話をしているだけで不安や現実から目を背けることができた。
そんな生活をしていた、ある日のこと。灰はいつも寝ているであろう時間になっても、眠れなかった。大したことではない。目の辺りがとてつもなく痒かった。
「誰もいません………よね?」
瞼の上から掻くだけだから、と目の包帯に手をかける。医師から触るなと言われていたが、このままでは寝付けないと灰は判断した。そっと包帯をほどく。巻き直しやすいように、ほどいた端からきれいにたたんでゆく。結構な長さをほどいたところで、目が露出した。灰はそっと瞼を掻く。
ふと、魔が差した。少し、少しだけでいいから、この部屋だけでもどうなっているのか見てみたい。好奇心は、灰には止められなかった。
少しずつ、少しずつ。
視神経を刺すような痛みが灰にちょっかいを出す。
少しずつ、少しずつ………………
しかし、どこまで目を開いても、黒塗りの画面は変わることはなかった。全く、光のない世界が広がっていた。
「っ!」
痛みが瞼を無理やり閉じた。目の奥が痛い。今見たものは真か、それはわからない。失敗したんじゃないか、その恐怖感が灰を満たした。いままで見ていた、魅せられていた希望は、手の届かないところにあった。そう思うと、菜乃花に申し訳なく思えてきてしまった。いや、遅かれ早かれ結果は変わらなかったのかもしれない。
「――――!っぁ――――――!!」
言葉にならない声を布団で噛み殺し、出ているかもわからない涙を流し、包帯を巻き直した。これが夢であったら、なんて思いながら、灰は無理やり眠りに就いた。
*
菜乃花は今日も明るい。いつものように元気な声を灰に届ける。しかし、灰はとても明るい気分にはなれなかった。数日前のあの出来事………鮮明過ぎるほどに覚えている。
「それでね―――ん、灰くん大丈夫?なんか元気ないけど………」
「あ、ああ。最近うまく寝付けなくて」
数日前の出来事………灰は鮮明過ぎるほどに覚えていた。どこまでも続く暗闇。神経の焼けるような痛み。
「そうなの?わかった、先生に言っておくね」
医師に言ってなにか変わるものなのか、灰は疑問に思った。が、自分で話せばあの事がバレてしまいそうだったので、素直に頼む。
「たのんだ」
「まっかせて!大丈夫、なにがあっても私が全力でサポートするから!!」
「ほんとに、ありがとな」
やはり、菜乃花は人を元気にする力がある。何気ない会話で灰の沈んでいる気持ちを引き上げる。灰は手を差し出して、握手しようとした。それを見て、菜乃花も手をさし出す。
カランッ
乾いた音が部屋中に響いた。
「なんか倒れた?」
「ああっ。私のだ。ちょっと………んしょ、待ってて………」
菜乃花は足元に落とした
「ふうっ、ごめんね。」
思いの外時間がかかっていたため、二人とも握手のことは忘れてしまった。菜乃花がおもむろに立ち上がる。
「じゃあ、今日は帰るね。また明日」
「じゃあな」
そういって菜乃花がドアに近づいたときだった。
「ひゃっ!」
「あらあら、大丈夫?だめじゃない、こんなところに居ちゃ」
「すみません、今から帰るので」
「同じ病棟に居るからって面会時間過ぎてるんだかr」
「すぐ帰りますから!!」
「………あ、ごめんなさいね。気をつけて」
菜乃花にしては鬼気迫る声であった。その場にいる誰もが驚きを隠せなかった。
看護師が道を空ける。菜乃花は髪を振り乱してその部屋を後にした。
………タイヤの音を響かせながら。
「いまのって、どういう………」
灰は、いわゆる難聴系主人公ではなかった。そのうえ、視界を遮られ、聴覚が敏感になっている状態である。聞き逃すはずがない。
しかし、看護師はその答えを濁した
「何でもないのよ。女の子の秘密だから、聞かなかったことにしてあげて」
「はい………」
その場ではうなずいたが、灰は食事中、ずっとそのことを考えていた。
*
それは一つの、可能性ともいえない、ただの妄想に過ぎなかった。きっと違うと、灰はそう思っていた。
だが、今までの菜乃花の行動、仕草、発言。なぜかそれらと符合する妄想が、灰の手元にはあった。
たぶん、わからないけれど。菜乃花はきっと―――――
「おはよ、灰くん。今日はもう起きてるみたいだね」
上体を起こして考え事をしていた灰は、声のほうへ首を動かす。菜乃花がやってきた。だが、今日は一層元気がないように聞こえた。
「体調………悪そうだけど、大丈夫か?」
「ああ、うん。エレベーターが点検中でね。階段を登ってきたから、疲れちゃった」
えへへ、と菜乃花ははにかむ。しかし、菜乃花の元気アピールは、その困憊し切った声を隠せていない。灰の妄想への疑念は、確信へと換わりつつあった。
「それより、灰くんの方は大丈夫?昨日はちゃんと寝られた?」
「いや、うん。まぁ、大丈夫だよ」
「本当かなぁ」
そう言いつつ、菜乃花はいつもの場所(椅子と机のある)に向かって歩み始める。今まで灰は気にも留めたことはなかったが、その歩みの遅さと、
「なぁ、菜乃花………」
問いかけようとして思いとどまる。どう聞くのが正しいのか、どう聞けばさりげなく聞けるのか。灰には圧倒的に経験が足りなかった。
「?」
言葉が詰まり鯉のように口を開閉する灰を見て、不思議そうな顔をする菜乃花。
「あ………のな、少し、聞きたいことがあって」
「なぁに?」
言い淀んでいたが、灰は決心する。小細工なしに、素直に聞く、決意を。
「菜乃花、お前、脚が悪いのか………?」
確実なところから聞いていく。
「え、え?そんなこと、ないよ?」
唐突な質問に取り乱す菜乃花。
「なんで隠そうとするんだ?別に脚が悪くても、菜乃花への評価は変わらない。なのに」
「ほ、ほんとうに違うんだって!ほんとうだよ………」
カランッ
またあの音が聞こえた。
「あぁっ!また……」
「それ、松葉杖だろ?さっき、歩くときの足音が三つだった」
菜乃花は黙っていた。もう言い訳もできまいと、悟ったのか。
「昨日、部屋を去る時に聞こえたタイヤの音。あれは車椅子か?」
返事はない。
「正直、毎回足音も立てずに居なくなるから、不思議には思ってたんだ。なぁ、なんでそんなに隠したがってるんだ?」
「先に、私から質問させてもらうね」
菜乃花は立ち上がり、灰に歩み寄る。
「私の体のことは、あの看護師に聞いたの?」
「いや、俺の勝手な想像だ。想像、だった………」
悲しげな顔を浮かべ、菜乃花にもう一度問う。
「どうして秘密にしてたんだ?」
「灰くんに、心配かけたくなくて………」
「こうやって隠されたほうが、余計心配するだろ」
「でも………」
およそいつもの菜乃花からは想像できない弱々しい声は、灰の言葉に圧力を加える。
「でも、じゃないだろ。なんだ、俺じゃ力になれないのか?俺はそんなに足手纏いか?」
「そう、だよ」
菜乃花の、先とは打って変わって力のこもった声。まさか肯定されるとは思ってもいなかった灰は、何も言えずにいた。
「灰くん、いや、誰も私を助けることなんてできないの。手を差し伸べられたって、踏ん張る脚が、手を握る力が無ければ、立ち上がることなんてできなくなる。痛い体を無理やり支えても、体は悲鳴を上げ、やがて崩れ去る。よりひどく、より痛く、より醜く」
「な、なにを………」
「ねぇ、灰くん。これは比喩なんかじゃないんだよ。実際、私の体に起こっていること。脚力が、握力が、やがて心臓を動かす力さえも。まるで胃液が肉を溶かすように、じわじわと、筋肉が溶けていくの。そんな人間に、灰くんはいったい何ができるのかな?」
「それは、」
自分に何ができるのか?灰だけではない。いったい誰が彼女を癒すことができるだろうか。今更になって、菜乃花の凄さが理解できた。誰にも除くことができない絶望を背負う彼女は、それを抱えたまま、出会う人皆に希望を振りまいていた。そして、その希望に最も助けられていたのは自分であったと、灰は気づいた。
菜乃花は、あくまで諭すように、事実を口にする。
「何もできないでしょ?だって誰も治せないんだもん。あの、藤堂先生でさえ、治療はできないって。それに………」
菜乃花はベッドに体重を乗せ、灰の頬に触れる。
「灰くんの目、視えてないんでしょう?」
「なんでそのことを……!」
「先週から様子おかしいもん。さすがにわかるよ、先生の言いつけ破って、目を開いちゃったんでしょう?」
菜乃花にはバレていた。もしかしたら医師もこのことは把握しているかもしれないが、それは灰にとってどうでもいいことだ。重要なのは、自分があまりにも無力な存在だと、菜乃花に知られているということだった。
「目が視えなくなっちゃったのは、本当に、本当に残念な気持ちでいっぱい。こういうときになんて言葉にしたらいいのか、私にはわからないけど………。でも、少なくとも灰くんは、まだ生きてる。生きていける」
涙を浮かべながら、菜乃花は灰に語り掛ける。
「生きてるってことはつまり、まだ諦めないでいられるってことなんだよ?私はもう、あと一か月ももたないけど………。灰くんは諦めないで進んでいける人だって、私、知ってるから」
「なんだよ、それ」
菜乃花の言葉にそれまで何も言わなかった灰が、ようやく口を開いた。
「なぁ、なんなんだよ。どうしてそんなこと言いうんだよ。どうしてそんなこと黙ってたんだよ!あと一か月!?聞いてねーよ、そんな話!!」
菜乃花と同じ世界を、彼女と並んで見たい。灰はそのために手術を受けたのだ。その結果見えなくなろうと、菜乃花さえ居れば、どんな山も越えられる。そう灰は信じていたのだ。
「ごめんね、秘密にしてて。でも灰くんが手術を受けてくれるには、こうするしか………」
菜乃花もわかっていた。灰のきっかけになれるのは自分しかいない、と。
「どうして、どうしてそこまで、自分を捨てられるんだよ………。菜乃花がいない世界なんて、なんの意味ねぇよ………」
絶望する灰に、ただ菜乃花は謝るしかなかった。
「菜乃花、頼みたいことがある。なにか……刃物を、持ってきてくれないか?」
「ぇ………?」
「俺は、自分で命を絶つことにする。
灰なりの意思表示だった。どうして欲しいわけでもない。ただの、子供のわがまま。支離滅裂なまでのその主張に、菜乃花は。
「なんで、そんなこと言うの?ねぇ!!」
すさまじい怒号が飛んだ。部屋中に響き渡る憤り。菜乃花は続ける。
「生きたいって言ってる人の前で、どうしてそんなこと言えるの!?どうして、どうしてわかってくれないの!!どうして私の願いを聞いてくれないの!?私は、灰くんが好きだから、愛してるからこんなにも言ってるのに!!灰くんは昔から何も変わってない!小学校の時も、手術前も、手術した後も!!結局何も見えていない、視ようとしていない!!そうでしょ!?ほかの人のことが理解できないからって逃げ塞がって、人が勇気づけようとしてるのも踏みにじって!!ねぇ、何とか言ったらどうなの!?ねぇ!!?」
感情が昂ぶり、松葉杖で灰を叩く。その手には力は入っていない。
「ねぇ、生きてよ………」
やがてその手にも力が入らなくなり、灰への攻撃は止んだ。
「菜乃花なんかと、最初から出会わなければ………」
小さな声で、灰がつぶやく。おそらく、今、一番言うべきでない台詞を。
手術をしたことを後悔しているわけではない。ただ、刹那の幸せに溺れ、直後に叩き落されるのであれば、最初から虚無的な人生を送っていたほうがましであった、と。その程度の言葉であった。が、その発言は、菜乃花をもっとも傷つけることとなる。
「そ、そうだよね!私なんていなければよかったのにね!ごめんね、灰くん。手術受けようなんていっちゃって!もう灰くんとは会わないって約束するから、うん………。さよなら」
「あっ、ちが、ごめん、まって!!違うんだ!誤解だ!!」
鼻声で、大粒の涙をこぼしながら、彼女は言い放った。自責の念に押しつぶされそうになり、菜乃花は、彼女の体で出すべきではない速さで、その部屋を駆け出した。
灰が気づいた時には遅かった。声は届いていても、彼女はもう戻ることはないだろう。
彼女にとって長い、永い廊下を走り抜け、階段を下り………
「あっ」
躓いた。盛大に。救いようがないくらいに。
「きゃあああああああああああああああっ!!!」
*
悲鳴が聞こえた。菜乃花の声だ。
「菜乃花!?!!」
とっさにベッドを飛び降りる。声が聞こえたのは部屋を出て右手だった。灰は壁伝いに進む。
「菜乃花!おい!!菜乃花!!」
包帯が解けた。だが、かまってられない。菜乃花からの返事はない。
「菜乃花!!大丈夫か!!?」
目の奥に激痛が走る。頭が割れそうなほどの痛みのなか、以前は見えなかった光がみえる。世界が黒ではなく、白く見える。光を、感じ取れる。
ああ、神様。どうか、菜乃花を助けるために、この世界を見せてください。この痛みを耐えて見せますから、どうか。
「菜乃花!菜乃花!!」
世界が開ける。見えた。見えた、階段だ。ぼんやりとだが、階段が見えた。非常灯が見たこともない光で彩られている。
「菜乃花!!なの………」
菜乃花がいた。階段の踊り場でうずくまっている、
周辺が、紅く彩られている。菜乃花は返事もしない、ピクリとも動かない。
「ぅ………あぁ………………」
背中の松葉杖から垂れ下がったホースのようなものが、ずるり、と落ちる。
「なの………か…?」
階段に、雫が滴る音だけが響いていた。
「は、はは……。こんな………こんなものが赤色だなんて………………。《思い出したく》、なかった……よ…………………」
乾いた笑い声が反響する。
「消えろ………」
震える両手を、顔前に。
「今見えるもの全部きえろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」
自らの、眼球を。抉り取った。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁああぁぁああぁああぁああぁああぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁああぁっぁああぁぁあああああああぁぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁっぁあぁぁぁああぁぁああぁああぁああぁああぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁああぁっぁああぁぁあああああああぁぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁっぁあぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
嫌だ、菜乃花が死んでしまうなんて。
消えろ。
いくら掻き出しても、映像が脳裏にちらつく。
消えろ。
母親の姿と菜乃花が重なる。
消えろ。
菜乃花のこと、昔のこと、赤色。
消えろ。
もっと、ふかくまで。
消えろ。
思い出せなくなるまで。
消えろ。消えろ。消えろ。消えろ。消えろ。消えろ。消えろ。消えろ。消えろ。消えろ。消え
ろ。消えろ。消えろ。消えろ。消えろ。消えろ。消えろ。消えろ。消えろ。消えろ。消えろ。
消えろ。消えろ。消えろ。消えろ。消えろ。消えろ。消えろ。消えろ。消えろ。消えろ。消え
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ろ。消えろ。消――――――――――――――――――
*
*
*
「脳の損傷、出血性ショック、
レポートをまとめ、ため息を吐く。
「録音記録によると切除したはずの記憶のフラッシュバックの兆候も見られました」
追加事項を書いていく。
「強いトラウマは表層の記憶除去では完全に取り除けない、トリガーを認識できなくすれば改善可能、と」
ペンを放り投げ、天井を仰ぐ。
「さーあ、貴重な検体を消費して新規情報はこれだけか」
席を立ち、診察室の奥へと足を運ぶ。白くくぐもっているカプセルの中に、藤堂は話しかける。
「もう少し、もう少し待っていてくれるかな」
返事は、なかった。
種明かし編、「虹色の灰」絶賛執筆中。
かみんぐ すぐ………