我が名は豪鬼! メイドを極めし者なり!   作:とんこつラーメン

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雨が降っただけで一気に気温が下がりましたね。

あと少ししたら、本格的にストーブやこたつの出番かもしれません。








メイド豪鬼 心配される

 予想外のトラブルなどがありはしたが、なんとか無事にデュランダルの輸送任務を終えた面々は、撤収準備を終えてから、そのまま二課の本部までやって来ていた。

 ベガやギース、バイトとして雇っていたリュウ達、そして…最後の最後に意外な増援として登場したアイアンマンことトニー・スタークも一緒に。

 

「ほぅ……これはまた見事なもんだ。驚いたな」

 

 アイアンマンスーツをアタッシュケース状に戻し、物珍しげに辺りを見渡すトニーに苦笑しながらも、弦十郎は無事に戻ってきた彼らを労った。

 

「お前達。よく戻ってきてくれた。一時はどうなる事かと思ったが、どうにかなったな」

「ありがとうございます。叔父様。ですが、それよりも聞きたいことがあるのではないのですか?」

「う……」

 

 姪からの一言で苦い顔になり、司令官としてではなく、一人の男として尋ねた。

 

「豪鬼くんは……大丈夫なのか?」

「あの子なら心配ないわ。デュランダルの力に触れて極度の疲労をしているだけで、それ以外には外傷の類は全く無し。今は医務室で静かに休んでるから安心していいわよ」

「そうか……よかった……」

 

 ここから安心したような顔を見せ、胸を撫で下ろす弦十郎を見て、オペレーターの二人が顔を見合わせてから微笑を浮かべる。

 

「さっきまで、ずっと豪鬼さんの事が気が気でなかったって顔だったもんな」

「ほんと、二人揃って素直じゃないんだから」

「何か言ったか?」

「「いえ、何も」」

 

 司令官は地獄耳。

 迂闊な事は言えない。

 

「にしても、まさか俺達が下水道でノイズ対峙をしている間に、そんな事が起きてたとはな」

「あの豪鬼が気を失ってしまう程の物なのか、完全聖遺物というのは……」

「いまだに信じられませんよね。あの豪鬼さんが気絶するだなんて……」

 

 普段から、いかなる時も強く、気高く、美しくがモットーになっている(と皆は思い込んでいる)豪鬼が倒れる。

 逆説的に、それ程に激しい戦いだったという事になる。

 

「サガット。お前から見てどうだった?」

「見た目自体は単なる古めかしい剣だったが、あれからは得体のしれない『力』を感じた。気の力とも違う、殺意の波動やサイコパワーとも違う何かをな」

「未知なる力を発する聖なる剣…か」

 

 今までにも武器を持った戦士と戦った事は何度もあるが、それでも今回の事態は異常だった。

 リュウやケンには、なんだか豪鬼の身に起きたことが他人事じゃないように感じられた。

 

「そうだ! ギースさん達に聞いたけど、響ちゃんが昇龍拳を放ったって本当っ!?」

「う…うん。我流な上に凄く不格好だったけどね……ははは……」

「それでも凄いよ~! いつか、響ちゃんともファイトしたいな~!」

「えぇっ!? そ…そんな、私なんてまだまだだよっ!?」

 

 興奮した様子で響と話し込むさくら。

 傍から見ていると女子高生同士の華やかな光景に見えるが、実際に話している事はかなり物騒である。

 

「貴方があの『アイアンマン』…トニー・スタークか。お会い出来て光栄だ」

「初めまして。ミスター・カザナリ。二課の事はこっちでもそれなりに知ってはいたけど、まさか君のような男が司令官をしていたとはね。君は後ろで命令を出しているよりも、前線に出てから暴れる方が性に合っているんじゃないのか?」

「そうかもしれん。だが、ここにいるからこそ出来る事もある」

「御尤も。成る程、あのミス豪鬼がここに来たのも頷ける。どうやら、君とはいい関係になれそうだ」

「アメリカの誇るスーパーヒーローの筆頭にそこまで言われるとは…嬉しい限りだ」

 

 男同士、熱い握手を交わす。

 二人揃って体格がいいので、それだけで不思議な迫力があった。

 

「あのトニーとかいう御仁は何者なんだ? 妙に堂々としているが……」

「翼、もしかして知らないのかッ!? あの人、物凄い有名人だぞっ!?」

「そ…そうなの?」

「あぁ!」

 

 ケンを初めとした格闘家の事を知っていたり、トニーの事も知っていたりと、実は奏はかなりのミーハーなのかもしれない。

 

「トニー・スターク。アメリカに拠点を置く巨大な軍事企業である『スターク・インダストリー社』の若き社長であり、同時に超天才的な頭脳を併せ持つ天才科学者。そして、あの『アベンジャーズ』の参謀の様な役割もしている…のよね?」

「まさか、あのミス・サクライから直々に紹介って貰えるとは」

 

 翼の疑問に答えるように、了子が割り込んできてトニーの事を軽く説明した。

 同じ天才同士、どこか通じ合うところがあるのかもしれない。

 

「軍事企業…という事は、まさか兵器の売り買いなどをして……」

「昔はね。今は違う」

「スターク・インダストリー社は彼がアイアンマンとして活躍し始めると同時に軍需産業から完全撤退することを大々的に発表しているのよ。確か、今は優れた家電とかを開発して売り出してるのよね?」

「その通り。よかったら、お近づきの印に御一ついかがかな? 我が社特製の目覚まし時計。どんな寝坊助も絶対に一発で起きれる優れ物だ」

「まさかの目覚まし時計……」

「私、それ欲しいです! これでもう学校に遅刻せずに済むかも!」

「それはいい。勉強、友情だけならず、学校で学べる事は多岐に渡っているからね。その時間を少しでも多くすることが出来るのならば、これは喜んで君に差し上げよう」

「ありがとうございます!」

 

 慣れた感じで自社製品である目覚ましを響に手渡すトニー。

 本人は歓喜しているが、それを上手く活用できるかどうかは本人次第である。

 

「そういや、どうしてトニーは日本に来てたんだ?」

「さっきも言っただろう? 単なる出張だよ。まさか、出張先でスーツを着て戦う羽目になるとは思わなかったが」

 

 やれやれと言った感じで肩を竦ませるトニーであったが、その顔は笑っている。

 仲間達のピンチに間に合ってよかったと思っているのだろう。

 

「なんだか仲良さげに話していますが、リュウさん達とトニー氏とは何か親交が?」

「彼等とは、今までに何度も一緒に戦った仲間なのさ」

「マグニートー…ウルトロン…オンスロート。アポカリプスにサノス。どれもこれもが強敵揃いだった」

「全てが想像外の超人ばかりだったが、俺達の力を合わせれば…ってな」

「本当に大きかったですよね~……」

「そういえば、あの時はさくらも一緒だったな!」

 

 当時の事を思い出して、リュウは拳を握って思いに耽って、ケンは遠い眼になり、さくらは青い顔になって、ベガは楽しそうにしていた。

 激しい戦いであっても、思う事は個々人によって違うようだ。

 

「キャプテンがリュウに会いたがっていたよ。機会があればまた来てくれ」

「勿論だとも! 再び彼と腕試しが出来ると思うと、今から修行がしたくなる!」

「ほんと……リュウは変わないよな」

「だからこそ尊敬できると思うけどね」

 

 アベンジャーズと同様に、これまでに幾度となく共闘してきたテリーと、その弟であるアンディが隣で呟く。

 生粋の格闘家気質であるアンディは、どこかリュウに共感できるものがあるのだろう。

 

「随分と大所帯になりましたね。普段はとても広い司令室も、こうしていると狭く感じます」

「豪鬼くんっ!?」

 

 話が盛り上がって来た所で、いつもと変わりのない姿で豪鬼が司令室に入ってきた。

 それに最も早く反応したのは弦十郎で、すぐに彼女の近くまで走っていった。

 

「もう大丈夫なのかっ!?」

「はい。御心配お掛けしました。ですが、この通り」

 

 腕を曲げて自分が元気である事をアピールするが、それでもまだ心配なのか、弦十郎は彼女の肩に手を当てて、その目を真っ直ぐに見つめた。

 

「おいおい……あの豪鬼にも遂に春が訪れたのか? これは一大事だ。早速、ウチの会社製のベビーベッドやらベビーカーやらを用意しなくては。後は、他のメンバーにも報告しないとな。特に、スティーブやバナー博士は喜んで式に参加してくれそうだ」

「いや、気が早過ぎだろ」

 

 珍しく奏だけのツッコミ。

 お笑い番組でも見て学んだのだろうか。

 

「頼む、本当の事を言ってくれ。大丈夫なんだな?」

「…………弦十郎さんには嘘はつけませんね」

 

 観念したように息を吐き、申し訳なさそうに豪鬼は苦笑いを浮かべた。

 

「実は、まだ少しだけ眩暈がするんです。日常生活には支障はないでしょうが……」

「矢張りか……」

 

 自覚はあった。

 自分達は豪鬼に無理をさせ過ぎているのではないかと。

 なまじ、本当に頼りになる上に、本人が全く弱音の類を吐かないから、日常的に彼女を頼りにしてしまう悪癖が生まれてしまっていた。

 

「無理もないわ。寧ろ、あれ程までの力の奔流に巻き込まれて、五体満足でいられた方が奇跡に近いわよ」

「そうなのですか?」

「つくづく、豪鬼ちゃん…いや、格闘家って人種は規格外よねぇ……」

 

 科学者たちの根本を真っ向から否定していく存在。

 だからこそ、非常に頼りになっているのだが。

 

「豪鬼君。体調が良くなるまで自宅療養をするんだ。バイトも暫く休んだ方が良い」

「ですが、そうなると……」

「向こうには我々から言っておいてやる」

「だから、貴様は遠慮なく休んでいろ」

「任せてください! 私達なら大丈夫ですから!」

「庵さん……デミトリさん…さくらさん……」

 

 頼もしいバイト仲間達からの言葉に、流石の豪鬼も折れざる負えなかったようで、大人しく従う事にした。

 

「分かりました。自身の体調管理もまた、メイドとして重要な仕事の一つ。万全の体勢になるまでは、ゆっくりと休ませて貰います」

「それがいい。君という人物が失われるのは今の世界にとっても大きな痛手だし、君が作ってくれる絶品のドーナツが食べられなくなるのは御免だ」

「ドア越しに聞き覚えのある声がすると思っていたら…やっぱり貴方だったのですね。トニーさん」

「お久し振りだね豪鬼。相変わらず…ではないようだな。前に見た時よりは物腰が少しだけ柔らかくなっている。とてもいい傾向だ」

「ありがとうございます」

 

 トニーと話している豪鬼に複雑な感情を抱きながらも、顔を振ってすぐにそれを振り払う。

 弦十郎も人間だったという事なのだろう。

 

「そういえば、例の彼女はあれからどうなったのですか?」

「あの少女なら、トニーがやって来てくれた時にはもう……」

「恐らく、場の混乱に乗じて逃亡したのだろうな」

「なに、また次の機会があるだろうよ。落ち込む必要はねぇよ」

「そうですね、ここでくよくよしていても始まりませんから」

 

 四天王から報告を受けて、内心ではホッとした豪鬼。

 知識として『未来』を知っている以上、無意識の内に安心してしまうのだろう。

 

「ですが、私が休むとなると、暫くはトレーニングは出来そうにないですかね……」

「それなら心配すんなよ」

「ケン?」

 

 笑顔を浮かべながら豪鬼に向かってサムズアップをするケン。

 何か考えでもあるのだろうか。

 

「お前さんが休んである間は、俺とリュウが嬢ちゃん達の面倒を見てやるよ」

「えぇっ!? あのケン・マスターズから直々に特訓して貰えるのかッ!?」

「おう! マスターズ式トレーニングをたっぷりと伝授してやるよ! お前もそれでいいよな?」

「事後承諾なのか……。まぁ、俺としても異論はない。これもまた修行の一環。真の格闘家への道だ」

 

 流れでコーチをする羽目になっても、ストイックに道を極めようとするリュウに、響とさくらはとても強い憧れを抱き、翼は尊敬する眼差しを見せていた。

 

「ならば、私も暫く日本に滞在するとしますか」

「貴様も?」

「日本のノイズ被害については知ってはいたが、実際に見て、体験して、情報以上だという事が判明したからな。最悪の場合、他のメンバーも招集しなくてはいけなくなるかもしれない」

 

 普段は飄々としているトニーではあるが、誰よりも平和と仲間達の事を思いやれる心優しい人物なので、日本で頑張っている同志達の事を見捨ててはおけないのだろう。

 それ以上に、未成年である装者達が最前線で戦っている現状に思うところがあるのかもしれないが。

 

「櫻井博士。ここに来る途中で話を聞いたデュランダルはどうなっているんだ?」

「あれなら、今まで以上に厳重な封印を施して、別の研究所に引き渡してあるわ。少なくとも、外部からの力の干渉で暴走する…なんて事は避けされる筈よ」

「それはいい。聖遺物に関しては流石の私も専門外だからね。神の祝福を受けた剣にアイアンマンスーツがどこまで通用するのか、全く検証が出来ていない以上、不確定要素は少しでも少ない方が良い」

 

 これまでにも『神』と呼ばれる存在や、それに近しい存在と幾度となく壮絶な死闘を繰り広げてきたが、『神話そのもの』と対峙をしたことは一度も無い。

 故に、これからの戦いに備えて『対聖遺物用』に向けたスーツの改良が必要であると考えているのだ。

 

「それはそうと、そろそろ豪鬼ちゃんは帰った方が良いんじゃない? ここにいるメンバーの中で一番疲れているのは間違いなく貴女なんだから」

「そうですね…では、お言葉に甘えて……」

 

 軽く挨拶をしてから豪鬼が司令室を去ろうとすると、いきなりトニーが弦十郎の肩を叩いて軽いアドバイスを。

 

「弦十郎。君も紳士ならば、弱った女性を一人で帰すような真似はするべきではないのではないかな?」

「む…それもそうだ。豪鬼くん!」

「はい?」

 

 実のところ、早く帰りたかった豪鬼は何事かと思って振り向くと、そこにはいつにも増して真剣な顔の弦十郎が。

 

「君が良かったら…なのだが、俺が家まで送っていこう」

「え? でも、弦十郎さんはまだお仕事が……」

「こっちなら私達で何とかするから、遠慮なく行ってきていいわよ~」

 

 ここで了子からの援護攻撃。

 これで断れなくなってしまった。

 

「でも、送り狼にだけはなっちゃダメよ?」

「分かっている! 豪鬼くん!」

「今度はなに……きゃあっ!?」

 

 何を思ったのか突然、弦十郎が豪鬼の事をお姫様抱っこ。

 メイドの美女を抱える筋骨隆々の男性という、何とも言えない構図が完成した。

 

「それでは行ってくる」

「ごゆっくり~♡」

 

 何が『ごゆっくり』なのか。

 奏と翼はその意味を正しく理解して顔を赤くしていたが、響とさくらはキョトンとした顔で小首を傾げていた。

 

「自分から焚き付けておいてアレだが、こりゃ、本格的に式場の手配とか考えていた方が良いのかな? ま、仲人ぐらいはしてやるか」

 

 この時、トニーが呟いた余計なお世話が本当に実を結ぶのかは不明である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回は、あの後の『少女』と、豪鬼&弦十郎カップル? のお話になるかもです。






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