我が名は豪鬼! メイドを極めし者なり! 作:とんこつラーメン
果たして、彼女のメイド力の前に2課の皆は太刀打ち出来るのか?
病院で診察を終えた響さんを帰らせた直後、病院の玄関に待ってましたと言わんばかりに2課の人間と思わしき黒服連中が待っていた。
その中でも一人、明らかに常人とは違う雰囲気を出している男がいた。
「申し訳ありませんが、僕達に御同行願えますか?」
外見だけはどこにでもいそうな優男だが、私の中にあるメイドとしての勘が言っている。
この男は只者ではないと。見た目で判断してはいけないと。
(倒そうと思えば出来なくはないけど、彼女達に約束をした以上、ここで抵抗する事はしたくないな……)
という訳で、私は大人しく彼等に連れていかれる事にした。
「分かりました。ツヴァイウィングのお二人ともお約束しましたからね」
「ありがとうございます」
「お礼を言われる事ではありません。メイドは決して約束を破らないのです」
「そ…そうですか」
簡単に話をした後に、なにやら書類っぽいのを渡された。
なんでも、今回の事や今までの事に関して口外しないように約束させる為の紙のようだ。
ご丁寧にそんな事をさせなくても、私は誰にも言わないんだけど。
だって、知り合いにシャドルー総帥とハワード・コネクション総帥がいるんだよ?
その時点で相当に世界の裏事情に足どころか全身浸かってるんですけど。
「書きましたよ……あ」
「どうしました?」
「しまった……ノイズの事で頭が一杯になって忘却していましたが、今日私が出かけた本来の目的は買い物なのでした……」
「とても心苦しいのですが、それはまた後日と言う事に……」
「しかし、明日はまたバイトがありますし、食料品や消耗品が少なくなってきてるんですよね……」
「う……! わ…分かりました。では、こちらの用事が終了し次第、貴女を近くのスーパーまでお送りします。これでいいですか?」
「感謝します」
何時になるかは分からないが、少なくとも閉店時間まで拘束するって事は無いだろう……と信じたい。じゃないと、明日から今度の休みまでカップラーメンで生活をしなくてはいけなくなる。
健康管理はメイドとしても格闘家としても最重要項目の一つ。
可能な限り、それを怠りたくはないのです。
「おや?」
いつの間にか私の手首に手錠が掛かっている。
手錠なんて現物は初めて見たかもしれない。
「これは?」
「一応、念の為に向こうに到着するまでの間、貴女の事を拘束させていただきます。ノイズと素手で戦える貴女相手に効果があるかどうかは疑問ですが……」
「はぁ……」
疑り深いというか、用心深いというか。
これも彼等の仕事なのだから、仕方がないのか。
「では、参りましょう」
こうして、私は彼等が用意した真っ黒な車に乗せられ一路、特異災害対策機動部二課の本部に連れていかれるのであった。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「あら」
なんて驚く振りだけはしておく。
だって、車が向かっているのは、もう少ししたら響さんや未来さんが通う事となる【私立リディアン音楽院】だったのだから。
「到着しました。こちらです」
「ここは学校ではないのですか? 私のような完全な部外者が入っても大丈夫なので?」
「ご心配なく。今日のこの時間帯には誰もいませんし。それに、万が一誰かがいたとしても見つからなければいいだけの話ですから」
「そうですか」
この男……真面目そうに見えて、中々に強かな性格をしている。
成る程、これが本当の『昼行灯』ってやつか。
伊達に現代で忍をやってる訳じゃないな。えぇ? 緒川慎二さんよ。
「こっちです。僕についてきてください」
「はい」
彼の後についていくと、隠し扉的な物があり、そこには何やら重々しい鉄の扉が。
そこはエレベーターとなっていて、明らかに今から行く場所が地下だと告げていた。
「そこの手すりに掴まっていてください。僕が言うのもアレですけど、このエレベーター……かなりの速度がありますので」
「ご心配なく」
エレベータが動き出すと、彼が言った通りの普通では考えられないような速度で降りていく。
といっても、メイドである私にはこの程度なんてことないんですけど。
「あ…あの、大丈夫ですか?」
「メイドなので平気です」
「はぁ……(意味が分からない……)」
私の言っている事が分からないって顔をしてますね。
今はそれでいいんです。いずれ必ず分かる日が来ますから。
エレベータが止まってから中から出ると、そこはまるで秘密基地のような未来感溢れる廊下があった。
これがあの二課の本部の中か……。
「こちらです」
「私はどこに連れていかれるのですか?」
「取調室です。貴女の事を信用していない訳ではないのですが、これまでの事があるので、まずは色々とお話を伺いたいと思いまして」
「成る程。道理ですね」
まさか、私のような普通のメイドが、何の特殊な装備も無しに素手でノイズを撃破しているのですから、そりゃ事情を聴きたくもなりますか。
「ここです。中に入って少しだけお待ちください」
「分かりました」
暫く歩くと、そこにはこれまた機械的な扉があった。
彼に言われるがままに中に入ると、室内は鉄の机と椅子が二脚あるだけ。
これじゃあまるで警察の取り調べ室みたいだ。
「ん?」
この床……汚れている! いや、床だけじゃない! よく見たら部屋の角には埃が溜まっているじゃないか! まさか……この部屋、掃除してないのかっ!?
おのれ……これはメイドである私に喧嘩を売っていると判断する!
「いいでしょう……! メイドの真の力……思い知るがよい!! ふん!!」
裂帛の気合を込めて、内側から手錠を木っ端微塵にしてから手を自由にする。
それから、私はスカートの中から霧吹きタイプの洗剤と布巾、それからゴム手袋を取り出して装着する。
え? なんでそんな場所にそんな物があるんだですって?
何を言ってるんですか。メイドたる者、いつ何時でも掃除道具を常備するのは当たり前でしょうに。
「さて、やりますか」
まずは、壁の上の方から洗剤を掛けてからゴシゴシとな。
部屋を掃除する時は、このように上からしていくのがコツです。
埃を初めとする汚れが下に行き、後で纏めて片付けられますから。
「すまない、遅くなった。俺は……って、何をしてるんだ?」
「掃除です。見て分からないんですか? その立派な目は節穴なんですか?」
「……手錠は?」
「そこに転がってます。それも後で不燃ゴミとして出しておかないと……」
「………話をしてもいいか?」
「ご勝手に」
あ! ここになんだかしつこい汚れが!
気のせいでしょうか? この汚れ……人の顔に見えるような気がします。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
掃除をしている私の背中を見ながら、赤い髪の大柄な男は椅子に座り、ゆっくりと話し始めた。
「あ~…俺は『風鳴弦十郎』。特異災害対策機動部二課の司令官を務めている。君の名前を聞いてもいいか?」
「私は豪鬼です。以後、お見知りおきを。むむ……このような隅に溜まった埃を取るには、この割り箸にティッシュを輪ゴムで固定した棒を使って……」
よしよし。綺麗に落ちてる落ちてる。いや~…掃除って気持ちいいな~!
この勢いでこっちもゴシゴシっと。
「えっとだな……特異災害と言うのは、先程も出現していた……」
「知ってます。ノイズの事を指しているのでしょう?」
「そ…その通りだ。本来ならば『特殊な装備』に適合した者にしか倒せないノイズを、あろうことか君は素手で倒した。流石の俺達も、これには本気で驚いたよ」
「実際には私だけじゃないですけどね……っと」
その『特殊な装備』って、間違いなくシンフォギアの事でしょ。
この場で説明する気は無いようだけど、私は気にしない。だってもう既に知っているから。
ベガもサイコパワーで倒してましたし、ギースも気を駆使して普通に戦ってましたしね。
そりゃ気にもなりますか。
「本来ならばそっちの方も聞きたいのだが、相手はあのシャドルー総帥とハワード・コネクションの総帥だ。俺達でもそう簡単に手が出せない程の大物だからな。だから……」
「最も接触が容易そうな私に目を付けたと」
「そうなる。善意の協力者とも言うべき君にこのような目に遭わせてしまい、申し訳ないとは思っている……」
「気にしないでください。こうなる事は予想してましたし」
「そうか。そう言ってくれると、こっちとしても少しは気が軽くなる」
場の空気が軽くなった所で、私は何を話せばいいのだろう?
取り敢えず、プロフィール関係の事になったら原作豪鬼の設定でも話しておくか。
「……座って話せないか? 掃除をしてくれることは純粋に有難いが、君だけが立って俺が座っているのは、なんだか心苦しいんだが……」
「そう思うのなら、ちゃんとここを掃除しておくべきですね」
「ちゃんと専門の業者に頼んではいるのだがな……」
「確かにプロならば問題無いでしょう。しかし、業者の方々が毎日毎日掃除をしてくれるわけではありません。彼等にだって別の現場があるのですから」
「う…うむ……」
「ならば、自分達でこまめに掃除するしかないでしょう? 別に隅から隅まで徹底的にやれとまではいいません。ですが、暇な時間が出来た時や、ふと目に付いた時などに軽く掃除するだけでもかなり違ってくるものなんですよ?」
「そ…そうだな。君のいう通りだ」
「ご理解頂けたのなら、今度から二課で年に一回、大掃除の日でも設ける事をお勧めします。貴方達だって、綺麗な職場で仕事をしたいでしょう?」
「……善処しよう」
本当に分かってくれたのだろうか?
いや、この風鳴弦十郎という人物、原作でも相当に真っ直ぐな人物だったから、割とマジで検討してくれるかもしれない。
「それでだな……どうして君が素手でノイズを打倒出来たのか教えて貰えないだろうか?」
「メイドだからです」
「は?」
「メイドだから出来た事です……と、冗談はさておき、少しは真面目にお答えしましょうか」
まだやり残しはあるが、これは真面目に答えないといけないだろうと思い、私も彼に向かい合うような形で椅子に座った。
「私も自分で確証を得ているわけではないのですが、恐らくは私の身に宿る『殺意の波動』の恩恵かと思います」
「殺意の波動?」
「はい。分かりやすく説明すると、通常の格闘家達が持つ『闘気』よりも暗く、殺意等の禁忌的な感情が物理的に発露した、典型的な『闇の力』ですね」
「闇の力……。そんな物を宿して、君はなんともないのか?」
「嘗ては、殺意の波動の暴走により命を落とした者もいると聞いた事があります。ですが、私は違います。修行の末に殺意の波動を完全に克服し、自身の支配下に置いていますから」
自分で言っておいてなんだけど、改めて豪鬼という人物の出鱈目さが浮き彫りになるよね。
己の中にある『闇』をコントロールして使役出来てるんだから。
どんだけチートなんだよって話。
「以前、私の師が言っていました。『殺意の波動とは【人の世を乱す力】を持つ者を倒す為に【人の世】が生み出した、人のみに許された【力】なのだ』と」
「人の世を乱す力……間違いなくノイズの事だな」
「でしょうね。厳密にはノイズだけが対象ではないでしょうが」
「だろうな。だが、納得はいった。なんてことはない。君は自らの闇に堕ちることなく、その【闇の力】を人の世を守るために使っている。それが分かっただけで十分だ」
「随分と簡単に納得するんですね。これまでには科学の力によって殺意の波動を再現しようとする輩や、私を初めとする殺意の波動を潜在的に宿している人間達から殺意の波動を奪って自分の物にしようと企む連中もいたというのに」
「生憎と、俺はそんな事は考えないし、考えようとも思わない。そんな人道に背くような事は死んでも御免だ」
本当に真っ直ぐな信念を持つ人物ですこと。
だからこそ、こんな曲者揃いの組織の司令官なんてやってられるんだろうけど。
「ところで、先程の話で気になった事があるのだが」
「なんでしょうか?」
「君はその……嘗ては格闘家をやっていたのか?」
あ~…やっぱそれ聞いちゃいますか~。
うん。分かってたよ? 確実にそれにはツッコまれるな~って。
こうなったら、豪鬼の過去設定を適当にもじって説明するか。
「そうですね。昔は山に籠って兄と一緒に師と共に修行に暮れる毎日でした。殺意の波動を克服した後は、私は山を下りて世界へと飛び出して様々な強者と拳を交え続け、兄は二人の弟子をとって後継を育てていたようです」
「そうか……ならば、どうして今はメイドに?」
「……言葉で語るのは難しいですね」
言えるわけないだろ! 神様転生してチートな美少女メイドさんになりました~なんて!
ちょっとシリアス風味に誤魔化してみたけど…大丈夫かな?
「……いや。誰にも言えない事情、言いたくない事はある。無粋な事を聞いて済まなかった」
「いえ。ちゃんと分かってくれるのならば、それでいいです」
あぶね~! なんとかなった~!
豪鬼の設定以上の事をここで即興で語れって言われても無理ですから!
「他にも色々と聞きたい事はあるが、それは追々聞いていくことにして……」
それって間違いなくベガやギースの事ですよね。分かります。
「最後に一つ、君に頼みたい事がある」
「なんでしょうか?」
何を言うかは大体、想像がついてるんだけど。
まずは聞いてみようじゃないですか。
「よかったら……なのだが、二課に所属してくれないだろうか? 勿論、無理強いはしない。君が嫌だというのであれば、こちらは素直に諦める事にする」
「そうですね……」
自分の顎に手を当てて考える振りをするが、本当はもう答えは決まっていた。
「流石に所属をするというのは無理ですね。こちらにもこちらの生活や仕事がありますから、それを崩すわけにはいきません」
「それもそうだな……」
「ですが、民間協力者としてなら手伝ってもよいかと思っています」
「い…いいのか?」
「はい。これまでにも自分の意思でノイズを倒してきましたし、やる事はさほど変わらないでしょう? 変わること言えば、これからは『あの二人』と一緒に戦うという事ぐらいですか」
「すまない……ありがとう」
「どういたしまして」
これで私も本格的に原作介入か~。
最初の段階から相当な原作改変しちゃったし、これからどうなるのか本当に見当もつかないや。
「俺個人として質問をしてもいいか?」
「さっきのが最後じゃなかったんですか?」
「司令としてはな。今言ったように、これは俺個人が聞きたい事だ」
「屁理屈ですね……なんですか?」
「どうして君はノイズに立ち向かうんだ? 誰かに言われたわけでもない。どこかに属しているわけでもない君が……」
「そんなの、決まってるじゃないですか」
こんな時、私が答えは常に一つ。
胸を張ってハッキリと口にできる。
「私がメイドだからです」
~その後~
緒川「どうでした、彼女は?」
弦十郎「色々と話は聞けたし、こちらに協力する事も約束してくれたが……」
緒川「どうかしたんですか?」
弦十郎「……今度から、定期的に皆で本部の掃除をする事になった」
緒川「何をどう話したらそうなるんです?」
弦十郎「俺にも分からん…が、なんか普通に説教された。あの時の彼女……本気で怒った親父と同じぐらいの迫力があったぞ……」