我が名は豪鬼! メイドを極めし者なり! 作:とんこつラーメン
これまでは少し会話をする程度でしたから、まともな接触がこれが初めてになります。
「もう用事は終わったのではないですか?」
「そうなのだが、もう少しだけ付き合ってくれないか?」
「と、仰いますと?」
「民間協力者となった君の事を、他のメンバーにも紹介しようと思ってな」
「名前と顔だけでも知っておくだけでも有難いですから。あ、僕の名前は『緒川慎二』と申します。改めて、これからよろしくお願います。豪鬼さん」
「こちらこそ。よろしくお願いします」
事情聴取と取調室の掃除が終わり、これでやっと買い物に行ける……と思っていたのだが、そうは問屋が卸してくれないようで、あれからまた私は彼等に連れられて廊下を歩いていた。
いつの間にかスーツ姿の忍者君も戻って来てたし。
「しかし驚きました。何らかの武術を修めているとは思っていましたが、まさか世界を股にかける程の格闘家だったとは」
「今時、嘗ての私のようにまだ見ぬ強敵を求めて世界中を旅している人間は割と多いですよ? しかも、そういった連中に限って、世界の危機が訪れた時には国境を越えて一致団結して戦ったりするんですから。それと、今の私はメイドです」
「凄いですね……」
「拳と拳を交える事で繋がる絆……か。格闘技に国境は無いからな。俺も、ノイズなんていなかったら、そうして世界中を旅して多くの強敵達と戦ってみたいもんだ」
「弦十郎さんならば、きっと『彼等』ともいい試合をする事でしょう」
原作でも相当なチートっぽいしな、この人。
普通に格ゲーのキャラとしていても違和感無いわ。
「よし。着いたぞ」
連れてこられたのは、これまた重厚な鋼鉄製の扉。
これは間違いなく司令室的な場所じゃないんですかね?
「ここは?」
「この本部の中枢とも言うべき司令室だ。基本的には俺達はここで仕事をしている」
「そうですか」
ここで私は少~しだけ
(新しいメンバー……司令室……あ。なんか猛烈にイヤ~な予感がする)
多分だけど、これはアレだ。間違いない。私の中のメイドとしての勘がそう告げている。……前にも同じような事を言いませんでしたっけ?
私が心の中で気を引き締めていると、弦十郎さんが扉を開く。
その中にあった物とは……。
【ようこそ二課へ! 熱烈歓迎豪鬼さん!!】
……最早……何も言うまい……。
入った途端にクラッカーが鳴り、宙に飛び交う紙の紐。
中にいた人間達の殆どがスーツを着てはいるが、それとは対照的に頭にはパーティー用の三角帽子が乗っかっている。
そして、沢山並んでいるテーブルには皿に乗せられた多くの料理が。
「私の名を話したのはさっきじゃ……?」
「あの部屋での会話はこっちにも流れていてな。黙っていて悪かった」
「いえ。それは別に構わないのですが……」
まさか、私が来てからの短い間にこれの用意をしたのか?
いや、流石にそれは有り得ないか。じゃあ、最初から私が二課に協力すると読んでいた? もしかしたら断られる可能性もあったのに?
(いや……深く考えるのは止めよう。考えたら負けな気がしてきた)
取り敢えず、私と一緒にいる二人に状況説明をして貰おうか。
「お二人共、これは一体?」
「なぁに。豪鬼くんが我々に協力してくれると言ってくれた以上、まずは二課のメンバー全員で歓迎をしようと思ってな」
「それで、この騒ぎですか……」
「その通りです」
よく見たら、料理とか出来立てじゃないのか?
あの北京ダックとか湯気が立ってるし。
「ちょっとお待ちを」
ポケットからスマホを出して時間を確認する。
ふむふむ……この時間ならまだ大丈夫かな?
「どうした? 何か急ぎの用事でもあったのか?」
「いえ、そうじゃありません。ただ、もう少ししたらスーパーのタイムセールが始まるな~と思いまして」
「そう言えば、君は本来、買い物の為に外出をしたと言っていたな」
「そうです。でも、まだ大丈夫です。最悪、買い物さえできれば問題無いですし」
「最近は24時間営業のスーパーも増えてきましたからね」
「はい。お蔭で助かっています」
一昔前までは24時間営業なんてコンビニだけだったのに、各企業も本気で私達のような消費者の声に耳を傾け始めたって事だな。
「へぇ~…この子が例のメイドちゃんね」
興味深そうに目を光らせて私に近づいてきた一人の女性。
白衣を着て眼鏡を掛けている彼女は、見るからに科学者ですと言った風貌だ。
ま、その正体を私は知っているんだけど、ここでは敢えて言うのは止めておこう。
「貴女は?」
「おっと。まだ名乗ってなかったわね。私は櫻井了子。この二課における技術顧問的な立ち位置にいる人間……って言えば分かるかしら?」
「大体は」
「私は主にこの本部の防衛システムの構築とか、聖遺物の管理、他には彼女達…シンフォギア装者の子達のメディカルチェックなんかもやってるの」
「随分と沢山の事をお一人でやっているのですね」
「出来る女ってのは、やれると思った事は自分で全部するものなのよ。貴女だってそうじゃないの? 豪鬼ちゃん」
「ちゃんって……。私は別に、やれると思ったからやっているわけではありません。自分がしなければいけないと思った事をしているだけです」
「似ているようで違うわね。まぁ、深くは追及しないけど。それよりも!」
ここでグイっとくるな。ちょっと仰け反ってしまった。
「凄いわね、『殺意の波動』…だったっけ? まさか、体内に宿る気の力でノイズと戦えるなんて、誰も考えもしなかったわよ!?」
「それは私も同じです。でも出来てしまった以上は仕方がないのでは?」
「確かにそうだけど……科学者としては猛烈に気になるのよね~」
「あの部屋での会話を聞いていたのならば知っているでしょうが、これまでにも似たような事を言った科学者は星の数ほどいます。ですが、そのいずれもが殺意の波動の事を科学では解明できず、結局はその『力』のみに注目して軍事利用を企んだりしてましたよ」
「私はそんな事はしないわよ~。ただ、純粋な好奇心で知りたいだけだし」
「好奇心は猫を殺しますよ?」
「心配しなくても、私は猫じゃなくて天才だから大丈夫よ」
「別に心配をして言ったわけじゃないんですが……」
「そんな事言って~……ホントは照れてるんでしょ? あんもう! 可愛いわね~♡」
「貴女は酒に酔ったOLですか。私に絡まないでください」
「いいじゃないの~ちょっとぐらい~。この胸……何センチぐらいあるの?」
「知りません」
なんだ、このセクハラ女は……。
こんなんで本当に本編における最重要人物の一人なのか?
全く腹の底が見えない以上、警戒をして然るべきなのは確かだけど。
「そうだ! 折角こうして協力してくれることになったんだし、私から直々にシンフォギアシステムの事を教えてあげるわ!」
「ご丁寧にどうも。でも、私に理解出来る事なんてたかが知れているので、出来れば素人にも分かるようにお願いします」
「分かってるって」
そこからは、櫻井了子監修によるシンフォギアシステム講座(簡易版)が開かれた。
大体は私もよく知っている知識ばかりだったので、ここでは省略するが。
「……と、言う訳なの。分かった?」
「大体は。要は、聖遺物から作られた対ノイズ用の特殊兵装…と言った感じですか?」
「大凡はそれで間違ってないわ。本来ならば、シンフォギアこそがノイズに対抗する唯一無二の存在だったのに、豪鬼ちゃん達がそれを見事に覆しちゃったのよね~。もしかして、意外とそんな人間って多いのかしら?」
「一応、該当しそうな人間は他にも何人も知ってはいますが……」
どこぞの中国人な麻薬捜査官のお姉さんや、アメリカの空軍少佐どのとか、ロシアの赤いサイクロンとか。
後はもう、普通に白い道着と赤い道着のあいつ等でしょ。
私の『身内』に限定しなきゃ、もっと沢山いるけどね。
「了子さん! もうそろそろ私達とも話させてくれよ~!」
「おっと。そうだったわね。これからは一緒に活動する事が最も多くなりそうになる二人なんだし、コミュニケーションは大事よね」
「あぁ~……その発言でもう、今後の展開が予想出来てしまいました……」
了子さんは、場の空気を読んだのか、私達に手を振りながらこの場を去り、弦十郎さん達を話しをし始めた。
それと入れ替わるように、装者の二人がやってきた。
「よっ! さっき振りだな! こうして話すのは初めてだよな」
「そうなりますね」
「改めて礼を言わせてください。先程は本当にありがとうございました」
翼さんが丁寧に頭を下げてお礼を言ってきた。
礼儀正しい人間はとても好感が持てる。
「頭を上げてください。私はメイドとして当たり前の事をしただけに過ぎません」
「あれ程の武勲をそのように言えるとは……」
「やっぱ凄いな、アンタは」
「メイドですから」
何をどう言われても、最後にはそれに帰結するんですよ。
「もう知ってるとは思うけど、一応の自己紹介はさせてくれ。アタシは天羽奏。『ガングニール』の装者をやってる」
「私は風鳴翼。『天羽々斬』の装者を務めています」
「ガングニール……古代ノルド語で『剣撃音』の意味を持つ、北欧神話の主神オーディンの武器。俗に言う『グングニル』の事ですね」
「よ…よく知ってるな」
「メイドですので。そして、天羽々斬は日本神話に登場する荒人神『素戔嗚尊』が八岐大蛇を討伐する際に振るったとされる聖剣。その名の由来は『大蛇を切り裂いた聖剣』の意……ですよね?」
「お…仰る通りです。なんだか私以上に詳しかった……」
「メイドとして、当然の嗜みですので」
「アンタ、それさえ言ってれば大丈夫って思ってないか?」
「滅相も無い。私は事実を申しているだけです」
「ホントかよ~?」
いつかは誰かにツッコまれるとは思ってたけどね。
でももう、このセリフは私の決め台詞みたいになってるし。止められないんだよね。
「そういや、あのガングニールの欠片を飲み込んじまった子。大丈夫だったのか?」
「病院に行って、念の為にレントゲン等をやって貰いましたが、何の異常も見られなかったようです」
「そっか……それならいいんだ。よかったよ」
一安心している所で悪いが、実は一つだけ気掛かりな点がある。
実は、レントゲンで調べて貰った時、彼女の体内の何処にもガングニールの欠片が見当たらなかったのだ。
原作のように突き刺さって体と一体化してしまったのなら一応の納得も出来るが、今回は完全に口から飲み込んだ形となる。
それなら、絶対に胃の中に欠片がある筈にも関わらず、それが何処にも存在しなかった。
幾らなんでもこれはおかしすぎる。これから先、何も起こらなければいいのだけれど……。
「にしても、格闘技でノイズを圧倒出来ちまうとはな~。なんか、アタシ等の立場が無くなっちまうな」
「そんな事は無いでしょう。貴女達には貴女達にしか出来ない事が必ずある。今もこれからも、それをしていけばいいだけの話では?」
「豪鬼さんの言う通りよ、奏。幾ら豪鬼さん達が凄いからって、私達のやるべき事が無くなった訳じゃない」
「そう…だな。うん。ちょっち卑屈になってたわ。ゴメン」
「お気になさらず。若い内には誰もが一度は経験する事ですから」
「若い内って……そういや、豪鬼って何歳なんだ?」
「私の年齢……ですか……考えた事もありませんね」
「「えぇっ!?」」
公式では明らかになってはないけど、見た目的に40代ぐらいって噂されてた事があったっけ。
でも、今の私はメイド豪鬼だからなぁ~。それには該当しないような気がする。
だとすれば、マジで私って何歳なんだ?
バイトの面接の時は適当に書いて誤魔化したけど。
「昔は本当に修行、修行の毎日でしたから。自分の歳の事なんて考える暇もありませんでした」
「そうですか……豪鬼さんも私と同じで……」
おや? なにやら翼さんが暗い雰囲気に? 私、なんか地雷踏みました?
「ま、別に豪鬼が何歳でも関係無いか。重要なのは、これから一緒に戦う仲間って事だろ」
「そう…だな。うん。奏の言う通りだ。歳なんて関係無い。豪鬼さんが心強い仲間である事実は揺らがないのだから」
彼女……少し危ういですね。場に流される事に何の疑問も感じてない。
これは、どこかでどうにかする必要がありそうです。
「どうせなら、豪鬼に鍛えて貰うか? なんせ、元は世界中を駆け巡っていた格闘家なんだろ?」
「か…奏。幾らなんでも、それは少し図々しい気がするんだけど……」
「別によろしいですよ?」
「「え?」」
「普段はバイトもありますから、今日のように暇な時限定となりますが。それでもよろしければ」
「ほ…本当にいいのですか!?」
「メイドに二言はありません」
「おぉ~! 正直、ダメ元で言ってみたんだけど、意外となんとかなるもんだな!」
「豪鬼さん程の格闘家から直々にご指導して頂けるとは……防人としての血が騒ぐ!」
「それは関係ありますか?」
なんかとんでもない事になってしまったけど、これはこれで彼女達と仲良くなる機会を得たと思えばいいか?
私にどこまで出来るかは疑問だけど。
「どうせなら、メイドとして翼の部屋も掃除して貰えば?」
「ちょ……奏っ!?」
「それはどういう……?」
「聞いてくれよ~。翼ってさ、一人暮らししてる癖に生活能力が壊滅的なんだ。部屋なんかいっつも散らかりまくりで、緒川さんに掃除して貰ってるんだよ」
「ほぅ……? それはそれは……見逃せませんね……」
「ご…豪鬼さん? なんだか目が怖いですよ……?」
私も原作知識として、彼女の部屋が相当に汚いことは知ってはいたが、今の自分の耳でそんな事を直に言われてしまったら黙ってはいられない。
私の中にあるメイド魂がメラメラと燃えがって業火となっていますよ……!
「翼さん……」
「は…はい……」
「明日……貴女の部屋へとお伺いします……いいですね?」
「いや……しかし……」
「い・い・で・す・ね?」
「はい……」
これでよし。
全く……共闘以前にメイドとしてやるべき事があったようですね。
自身の部屋の環境を整える事と健康管理はイコールであると、ちゃんと認識しているんですか?
掃除と一緒にお説教もしなくてはいけませんかね?
「奏さんも御同行願いますか? 私は彼女の部屋の場所を知りませんし、人数は一人でも多い方がいいので」
「わ…分かったよ……(こ…怖え~! 気のせいか、背中に『天』って文字が見えたような気がするし……)」
因みに、一時間後に歓迎会はお開きとなり、私は緒川さんが運転する車にて家の近くのスーパーまで送って貰った。
ナイスなタイミングでタイムセールが行われていたので、上手い具合に安く買う事が出来た。
次回、翼死す! デュエルスタンバイ!