我が名は豪鬼! メイドを極めし者なり! 作:とんこつラーメン
装者二人は彼女の動きについてこられるのか?
二課の本部にある装者達が多用する専用のトレーニングルーム。
今回は前にも約束していた、奏さんと翼さんに特訓を課そうと思います。
そんな訳で、本日の私は珍しく、動きやすさ重視のジャージ姿となっております。
前に世界的にも有名な某衣服店にて購入してきた代物で、真っ黒で実に動きやすいです。
因みに、奏さんは赤いジャージを、翼さんは青いジャージを着用している。
二人共、自分のイメージカラーを意識して購入したんでしょうかね?
「流石は政府直轄の組織ですね。トレーニングルーム一つとっても素晴らしい設備です」
「で、豪鬼があたし達を鍛えてくれるのはいいけど、これから一体何をするんだ?」
「そうですね……」
実は事前に、弦十郎さんに頼み込んで彼女達の戦闘映像を見させて貰っている。
それにより、あくまで私の私見ではあるが、二人の問題点のような物が見えてきた。
その事を教えてから特訓するのもいいけど、その前にやるべき事がある。
何事にも順序という物が存在するのだ。
「まずはお二人の身体能力を計りましょうか」
「身体能力……ですか?」
「そうです。ギアを纏わない状態での基礎能力。それを知りたいのです。と言う訳で……」
二人から少し離れた場所で仁王立ちになる。
腕は後ろに回したままで、普通に見ればなんだこりゃって感じだが、今はこれでいい。
「お二人共、私に掛かってきてください。勿論、ギアを纏わずに……ね。私を倒す……じゃ少しハードですから……そうです。私に触れられたら合格としましょう」
「触れるだけ? それはちょっとあたし達を舐めてないかい?」
「いいえ。今はこれぐらいで丁度いいかと」
「言ってくれる……!」
「そこまで言うんなら……」
奏さんが腰を低くして、いつでも走れるような体勢になる。
翼さんも両手を広げて構えて、彼女の後に続く気が見え見えだ。
「遠慮無く行くぜ!!!」
私に目掛けて突進してきた奏さん。
ふむ。中々に脚力はあるようですね。でも……。
「甘いですよ」
「んなっ!?」
ひょいっと横に避けてから、バランスを崩した奏さんの足に自分の足をひっかける。
それによって足が絡まった彼女は、派手に前からこけた。
「奏!!」
「くっそ~……なんか普通に避けられちまった……」
「思い切りの良さは及第点ですが、それだけでは駄目駄目ですよ」
「くっ……! 次は私が! 風鳴翼……いざ参る!!」
奏さんとは違って、翼さんは私の後ろに回り込むように走って来た。
さっきのやり取りで、正面から挑んでも敵わないとすぐに悟って違う手で来ようとするのは見事ですが、問題はどのように仕掛けるか…ですね。
「はっ!」
「おや」
私の背後に回り込んだと思いきや、壁を蹴って三角飛びをして再び正面に。
成る程。相手の視線を多方向に向かせて混乱させる作戦ですか。
そのアイデアはいいですが、それが通用するのは三流のストリートファイター程度ですね。
少なくとも、私には通用しない。
「取った!!」
「……と、いつから錯覚してました?」
「なにっ!?」
私がやったのは実に簡単。
彼女の手が私に伸びた瞬間、翼さんの頭の上をバク宙しただけ。
まさか、自分の上を行かれるとは予想していなかったようで、面白いように驚いてから背後に回った私の方に振り向こうとするが、時既に遅し。
彼女がこっちを向いた時にはもう、私は彼女のおでこに目掛けてデコピンを放つ体勢になっていました。
「残念でした」
「あう!」
あらら。軽くしたつもりだったのに、翼さんが尻餅をついてしまった。
そんなに強かったかな?
「まさか……あそこまで身軽な動きをするとは……」
「まるで女版の緒川さんじゃねぇか……」
「私は忍ではなくてメイドですけどね」
「今時のメイドはああも身軽なのかよ?」
「当たり前です。メイドに不可能はありませんから」
「それ、前にも聞いた気がします」
そうですかね?
「ある意味で予想通りでしたが、お二人共、私が考えた通りの動きしてましたね」
「そうなのか?」
「はい。まずは奏さん」
「おう」
何を思ったのか、急にその場で正座をした二人。
これじゃあ、まるで私が説教をしてるみたいじゃない。
「奏さんのギアはガングニールということで、その主武装は槍ですよね?」
「そうだな」
「厳密には、奏さんの使用する槍は普通の槍ではなくて『ランス』と呼ばれる部類に属しますが」
「へ? それって何か違いでもあるのか?」
「大きく違います。通常、槍とは近接武器であるにも関わらず、その驚異的なまでの長射程により、近づいてきた相手を一方的に攻撃するのが主体となっているのです。それ故に、槍には先端にだけ刃が取り付けられている」
「よく漫画とかアニメ、時代劇とかに登場する槍がそうだよな。言われてみれば、確かにアタシが使ってる槍とは全く違うな」
「お分かり頂いて何よりです。奏さんが使う『ランス』は元来、馬上…すなわち、馬の上に乗って戦う騎兵たちが使用していた武器なんです」
「マジか。でもあたし、馬とか乗れないぞ?」
「その点はご心配なく。普通に歩兵も使っていた記録が残ってますから」
「そーなんだ。少しだけ安心」
前世にて無駄に溜め込んだ知識が、こんな形で役に立つ日が来るとは。
世の中、どこで何が必要になるか分からないもんだな。
「ランスとは他の槍とは違い、基本的な攻撃範囲は前方のみに限定され、その攻撃方法も『突き』が主になっています」
「そこら辺はあたしも理解出来るかな。なんかもう自然と突き攻撃ばっかりしてるし」
「ならば、ランス最大の攻撃とは何か分かりますか?」
「う~ん……突撃?」
「い…いや奏。幾らなんでもそれは……」
「正解です」
「やった!」
「うそ……」
「正確には、ランスを脇に抱えるように構え、そのまま騎乗している馬の脚力を最大限に利用した突撃戦法、俗に言う『ランスチャージ』と呼ばれる技です」
「馬ごと突撃か~。想像しただけでかなり強そうだな。んな事が出来れば、ノイズ共なんて一網打尽だ」
「弱点が無いわけじゃないですけどね。ランスチャージは非常に高い攻撃力を秘めていましたが、突撃と言う特性上、どうしても前方以外からの攻撃には弱いんです」
「左右や背後からは無防備な状態になってしまう訳か……」
「その通り。だからこそ、ランス使いは必ず弱点をカバーしてくれる仲間と共に行動することが大前提となっているんです」
「それが私……」
「そうです」
武門の出なだけあって、この手に関する知識の吸収力は素晴らしい。
これなら、意外とスムーズに特訓は進むかもしれない。
「よって、奏さんの当面の課題は突進力と瞬発力の強化。それと、観察眼を鍛える事も大事ですね」
「観察眼?」
「ランス使いとは、無暗矢鱈と攻撃はせずに、じっと攻撃に耐えながら相手の動きを見極め、一瞬の隙を狙って最大の一撃をお見舞いするのが本来の戦法なのです」
「一撃離脱ってやつか」
「力を溜めに溜めた渾身の一撃は、相手の防御なんて紙のように貫く程の威力を見せてくれるでしょう」
「一撃必殺か……! そう言われると、なんだかやる気が沸いてくるな!!」
「その意気です。ランスを支える腕もそうですが、足腰を徹底的に鍛えるだけでも、かなり違ってくると思いますよ」
「うっし! 自分のやるべき事が分かればこっちのもんだ!」
なんだかメラメラとやる気に満ちてますね。
これが若さでしょうか……。
「翼さんは奏さんとは逆に、主武装が刀剣という特徴を最大限に生かしたヒット&アウェイ戦法を身に着けられるようになればよろしいかと」
「ヒット&アウェイ……。つまり、一瞬でもその場には留まる事をせず、常に動き続けて敵を翻弄しつつ力を溜めている奏の露払いに徹しろと……?」
「それが最も理想ではありますね。本当ならばここに恒常的に飛び道具を使える人がいれば盤石なのですが。無い物ねだりをしても意味無いですし、今出来る事を頑張りましょう」
どうせ、後で嫌でも『遠距離主体の仲間』は加わるんだし。
「そんな訳で、翼さんの課題は基礎体力の大幅な向上と、奏さんと同じように脚力を鍛える事ですね」
「了解しました。豪鬼さん」
少し堅物っぽく感じてはいるが、それでも素直な所は非常に好感が持てる。
これはなんとも教え甲斐がありそうだ。
「どうも、お二人はギアの性能に頼りっきりになっている節が見受けられます。その場合、万が一にでも戦場にてギアが強制解除された時に何も出来なくなってしまいます」
「了子さんのギアに限ってそんな事は無いって思うけどな~」
「それでも…です。念には念を入れておいて損は無いですし、何事にも絶対はありません」
「うむ……豪鬼さんのお言葉は不思議と説得力があるな……」
一応、体は超一級の格闘家だしね。
「それに、生身の状態でギアを纏った時のような動きが可能になれば、実際にギアを装備した時はどうなるか。それは推して知るべし…です」
「「ゴ…ゴクリ……」」
「今はまだ想像出来ないかもしれませんが、それでもやる価値は大いにあります」
「おう!」
「はい!」
「いい返事です。では、今日はもう少しだけ基礎トレをしてから終わりましょうか」
「え? それだけか?」
「無理をしては意味がありません。適度な運動に適度な食事、適度な睡眠こそが最も大切なのです」
「豪鬼さんの仰る通りよ奏。特訓で体を壊しても意味無いでしょう?」
「それもそっか。んじゃ、とっとと始めようぜ」
どうも奏さんは焦っているようにも見受けられる。
彼女がノイズと戦う理由は知っているけど、それだけに捕らわれるような事だけにはならないで欲しいと願う。
こればかりは彼女の心の問題だから、私からは何にも言えないけど。
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・・・
・・
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風鳴本邸
その庭先にて、嘗ての二課の司令官であり、弦十郎の父であると同時に翼の祖父でもある男、風鳴訃堂が静かに佇んでいた。
「……いつまでそこにいるつもりだ。いい加減に出て来ぬか」
訃堂が目を閉じながら呟くと、庭に立っている木の陰から一人の男が音も無く現れた。
長い白髪で前頭部と頭頂部が禿げ上がっていて、その左眉の上に十字傷があり、立派なまでの髭を蓄えている。
見た目は完全な老人だが、その肉体はとても頑強で、年齢通りの体とは思えない程に引き締まっている。
「ばれておったか。その眼、未だに衰えてはおらぬようじゃな。訃堂よ」
「それはこちらの台詞よ……剛拳。貴様、態と気配を出したな? つい先程まで、お前の気配を微塵も感じなんだ」
剛拳。
そう呼ばれた男は、ゆったりとした足取りで訃堂の横までやって来て並んだ。
「よくもまぁ、この屋敷に入る事が出来たものだ。ここは厳重に警備されている筈だが」
「儂がそのような物に後れを取ると本気で思っとるのか?」
沈黙が流れる。
池で泳ぐ鯉が跳ねて、ポチャンと池に落ちた。
「ククク……」
「ふふふ……」
「「くはははははははははははははははっ!!!」」
いきなりの大笑い。
この場に他の人間がいたら、何事かと思ってしまうだろう。
「『あの頃』から全く変わっておらぬな。我が好敵手よ」
「お前もな。じゃが、儂の方がよりいい男になっておるがの」
「言いよるわ」
先程までの冷徹な雰囲気が一変し、まるで同窓会にでも来たかのような空気になる。
好々爺のような感じの剛拳はともかく、防人としての使命に燃えている訃堂がそのような空気を醸し出すのは本当に珍しかった。
「ところで、ここに何しに来た? よもや、昔話に華を咲かせに来たわけでもあるまい?」
「……どうやら、儂の不肖の妹がお前の息子の所で世話になっておるようでな。兄として貴様に挨拶でもしておこうと思ってな」
「報告ならば聞いている。確か、豪鬼…と言ったか。あの『殺意の波動』を完全に克服してみせた唯一無二の人間らしいな」
「格闘家としては紛れもない天才よ。少々、性格に難はあるがの」
「ふっ……兄にでも似たのであろうよ」
「抜かせ。あそこには貴様の孫もおるそうではないか」
「不肖の孫ではあるがな」
ここでまた場が静かになる。
別に話が詰まった訳ではない。かといって一色触発な感じになった訳でもない。
「因果よな……。儂の妹と貴様の子供が同じ場所に立つとは……」
「運命……の一言では片付けられぬ事柄ではあるな」
「何かの前兆か、あるいは……」
そう呟いてから、剛拳は背を向けて歩き出す。
「もう行くのか?」
「おう。いつまでもここにいる訳にもゆくまいて」
軽々と屋敷の屋根に飛び乗ると、最後にこう言い残してから姿を消した。
「儂も……隠居をしている場合ではないかもな……」
剛拳と訃堂の邂逅。
これが何を意味するのか。それはまだ誰にも分からない。
災いの前触れなのか。希望の先触れなのか。
どうしても訃堂と剛拳を会わせたいと思っていたので、ここで会わせちゃいました。
そして、メイド豪鬼による奏&翼の魔改造開始。
原作開始時にはどのように変貌しているのやら。