タイトルなんて募集中ですよ   作:naow

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冒険者ギルドって、どんなところなんだろう?
なんか、冒険者が常に酒飲んでそう(偏見)。


称号(タイトル)これから募集中なの

 ディアクーフ冒険者ギルド。

 思い思いの装備を纏い、剣を差し、或いは佩き、クエストボード前に屯し、それぞれの仕事を探し、仲間と談笑し、或いは共に行く仲間を探している。

 目に映る人々は皆覇気に富み、それぞれの道を征く冒険者なのだとその評定が語っていた。

 大河の街のギルドハウスに勝る活気に、オリヤは知らず笑みが零れる。

 いいねぇ、これだよコレ!

 続くエルフの姉妹は人の多さに当てられたのか、落ち着き無く建屋の中に視線を走らせている。

「やれやれ、ギルドは何処も喧しいな」

 最後尾につく長身の魔王はオリヤと同じく楽しそうに、泰然と歩を進める。

 その魔王の隣では、周囲に全く興味なさそうなメイドさんが付き従っていた。

 魔王さまとメイドさんの組み合わせが在るだけで、とたんに纏まりの無い集団に見える。

 世界観無視な服装と相まって、目立つ事この上ない。

 しかしオリヤは全く気にせず、建物奥のカウンターへ向かう。

 目的は、都合4人の冒険者登録だ。

 カウンターで要件を伝え、それぞれが登録申請書類に記入し、それを受け取ったカウンターのお姉さんが、不意に動きを止めた。

「トシロウ・オカザキ……?」

 ……魔王さんよ、あんた何書いたんだ?

 お待ち下さい、って言ったかと思ったら、受付のお姉さんが、ダッシュで奥に消えて行った。

「なんだぁ……?」

 カウンターの様子を眺めていた冒険者が、オリヤの内心を代弁してくれたが、それで何かが解る訳でも無い。

 仕方なく待つオリヤ達を5分程待たせて、お姉さんはやはりダッシュで戻ってきた。

 

「はぁ?」

 

 そのお姉さんの、息を切らせた言葉に。

 オリヤも面食らうしかなかった。

 

 

 

 思った以上に殺風景と言うか、装飾とかそういうの全然無いのな。

 通された別室で視線をウロウロと走らせながら、オリヤは益体もない事を考える。

 何しろ、今の彼は完全についでの存在、たまたま同行していただけだからだ。

「よォ、随分と慌てた様子じゃ無ェか。何かあったのか?」

 トシロウが硬いソファにふんぞり返りながら、楽しそうに口を開く。

 そう、オリヤはこの魔王と同行していたが故にギルマス部屋(こんなところ)に連れ込まれているのだ。

 直属の部下? であるミィキィ以外の3人は、完全に巻き込まれた格好である。

「魔王が冒険者登録しようってんだ、慌てもするだろうが」

 不機嫌な表情を隠そうともせずに、ギルドマスター、ウトクと名乗った男は腕組みで答える。

「んで? なんだってお前が冒険者に?」

 不審げだが恐れや不信感とは別種のその視線は、魔王と言う存在より、トシロウという男をよく知る、そんな色合いだ。

 何を企んでいる、と警戒しているのではなく。

 何を仕出かすつもりだ、と。呆れているかの様な。

「ヒマだから」

「……」

 揺るぎなく、まっすぐに答える言葉に、荒くれを取り仕切る冒険者ギルドのマスターと言えど憮然と閉口するしか無い。

 対する魔王は悪びれもせず、ニヤニヤと笑みを絶やさない。

「頼むから暇を持て余しててくれよ……。魔王が忙しい時なんざ、大体碌なことが無いんだよ」

 苦々しげに言うが、そんな言葉で考え直すほど、目の前の魔王(おとこ)が殊勝だなどとは思っては居ない。

「魔王なんつっても、せいぜい俺の自称だしな。部下が居る訳でも無ェ。せいぜいが称号(タイトル)止まりだろ」

 そう言ってせせら笑う。

 だが、この室内に居る誰も、釣られて笑うような事はない。

 誰もが、その「自称」が過剰で有ると考えていない――オリヤは単にピンと来ないだけだ――からだ。

 て言うか、アンタ自分で魔王になりたいって言ったんだろ?

 そう思うが、それが通じるのが恐らく自分と魔王さまだけなので、黙っているというのも有る。

「ただの自称で、魔王殺しをやってのける馬鹿は居ねえよ」

 うんざりした様に吐き捨てると、ウトクはタバコを取り出すと咥え、火を点ける。

 そう。

 単に魔王を名乗るだけでなく、別の魔王を。

 それこそ、人を滅ぼしかねない魔王を実際に殺害し、その実力をすでに示しているのだ。

 50年前の話とは言え、現在もその名は色褪せては居ない。

 ある者は尊敬の対象として。

 ある者は超えるべき壁として。

 その他様々な感情を胸に、その名――魔王殺しの魔王、岡崎斗志郎(トシロウ・オカザキ)――を刻んでいる。

「ま、単なる気紛れでは有るんだが。コイツの目付って意味も有ってな」

 そう言うと、トシロウは手首を返すような動作で親指を立て、隣のオリヤを指し示す。

 思いがけない言い草に、さしものオリヤもとっさには反応できない。

 故に、ウトクに先制を許してしまった。

「目付? この坊主の?」

 値踏みするような眼差しに居心地の悪さを感じつつ、オリヤは一応、反応を返す。

「坊主って、一応15で、成人してるんだけど……」

「はぁ⁉」

 ささやかでどうでもいい反論に、ウトクは大げさに驚いてみせる。

 そんなに意外なのか。オリヤは懐からギルドカードを取り出すと、つい、と、ウトクに差し出す。

「え、あ、お前、見習いの荷物持ちとかじゃないのか……はぁ⁉ レベル38⁉」

 カードを受け取り、内容に驚愕し、もう一度オリヤに目を向ける。

 15歳、剣士。レベル38。

 言われてみればなるほど、たしかに剣を持っている。

 やけに細い……細剣(レイピア)にしては、反りが妙に思える。

 反りが有ると言えば一般的なのはシミターだが、ウトクの知るシミター(ソレ)とは身幅が違いすぎる。

 武器も異質だが、何より気になるのは。

 思わずマジマジとオリヤの顔を眺め、オリヤの居心地の悪さを助長しながら顎を右手で擦る。

 それにしても、こんな、まだ子供(ガキ)にしか見えない男がレベル38。

 上級レベルと言っても遜色ない。のだが、見た目では何度見ても、とてもそんな強者には見えない。

「荷物持ち……ある意味そうだけど……」

 驚かれた方は、どこか遠くを見るような目で韜晦する。

 移動拠点(シェルター)は非常に便利な荷物入れだ。そう言う意味でなら、何も間違っていない。

 思い至ってしまえば、自分は便利な荷物持ちだ。目線も遠くを彷徨うというものである。

 しかし、隣の魔王は軽く笑うと、口を開く。

「単なる荷物持ちなんかじゃねえよ。コイツは、まあ、アレだ。魔王見習いだ」

 既に驚き疲れているウトクと、投げやりに思考を遊ばせているオリヤを始め、室内の誰もが一度はトシロウの言葉を聞き流す。

「えっ」

 おやつの時間がそろそろかな、そんな事を考えていたアルメアが、どうでもいい思考を放棄して、しかしどう言って良いのか分からない感情そのままの表情でオリヤを見やる。

 同じく驚きを覚えつつも、しかし何処か納得顔のサリアも静かにオリヤに目を向ける。

 エルフ姉妹の見つめる先では、二人よりもはっきりと驚愕の相を浮かべたオリヤがトシロウを見つめていた。

「何言ってんの、このオッサン⁉」

 驚きすぎて思ったことを素直に口に出し、早速魔王印のアイアンクローを食らっている。

「……なあ、おい。この小僧が……魔王見習いだって?」

 自分で口にして、それでも尚、信じられない思いでトシロウに言葉を向ける。

「あ、俺の後継者とか、そういう意味じゃ無ェぞ? 俺はまだまだ現役だぜ」

 その視線を受けて、ニヤリと一層不敵に笑みを深める。

「……余計に厄介じゃねえか。単純に魔王がもう一匹増えるとか、悪夢かよ」

 ウトクはがっくりと肩を落とし、オリヤはやっぱり、どうでも良い事を考える。

 魔王って、匹で数えるもんなのか。

 てっきり(はしら)とか、そうもんだと思ってたんだけど。

「俺が引退なんざ有り得無ェよ。ほれほれ、人間。絶望しろ」

 ぎゃははと笑いながら、魔王は不穏なことを言う。

「え。オリヤがこんなのになったらヤなんだけど」

 成り行きを見守っていたアルメアだが、耐えきれず口を挟む。

 ひどい言い草だが、サリアも同意せざるを得ない。

 見れば、ミィキィすらもうんうんと頷いている始末だ。

「……お嬢さんがた、酷くね?」

「いや、正しい反応だろうが」

 流石にショックを隠し入れない魔王の嘆きに、ギルドマスターは然りげ無いトドメを添える。

 その魔王が何か言い返してやろうと口を開きかけた所で、ドアをノックする音が控えめに響く。

 実に良いタイミングだ。

 もっと早くても遅くても、この姦しいメンバーが騒いでいる中では気付かれなかった恐れがある。

 ……実は少し前からノックされていた疑いも有るのだが、室内の全員が敢えてその可能性を無視した。

「おう。入って良いぞ」

 軽く咳払いしてから、ウトクがノックに応える。

 丁寧に答えてから入室してきたのは、ギルド職員であろう女性だ。

 手に小さな盆を持ち、静かにギルドマスターに歩み寄ると、盆を手渡し、一礼して部屋を出ていく。

「おう、さすがはウチの職員だ、仕事が早いね。お前らのギルドカードが出来たぞ」

 盆から一枚カードを取り上げ、ひょいひょいとそれを振ると、トシロウに向けて差し出す。

 あれ?

 オリヤはそのカードに違和感を覚え、すぐにその違和感の正体に気付いた。

 カードの色が違う。

「……おい。なんで上級カード(きんいろ)なんだよ。実績なんざ何も無ェぞ」

 トシロウの手元のカードを眺めて、オリヤは自分の銅色のカードを眺める。

 確か、ギルドカードの色である程度クラスが判る。

 D・E・Fランクは赤銅色、B・Cランクが銀色、そして。

「え。なんで魔王さまはAランクスタートなの。収賄?」

「人聞きの(わり)ィ事言ってんじゃ無ェ。つーか俺が聞きてェよ」

 オリヤの言い様に、流石にバツの悪い面持ちでトシロウが反発する。

 トシロウ自身がFランクスタートのつもりだったので、何故こうなってるのか意味が判らない。

「つーか。そもそもAランク自体が、絶対数が少ないんじゃ無かったのか。なんだAランクスタートって。聞いたこと無ェぞ」

 Aランク。

 黄金色のギルドカードは最高位冒険者の証。

 冒険者達の、ひとつの到達点だ。

 当然其処に至る道は険しく、易々と手にすることの出来るものでは無い。

 そのはずの代物が、トシロウの手元でささやかに輝いている。

 答えるのは、街の冒険者を束ねる長の声だ。

「なんで、じゃねえよ。お前、もっと自分の名前のデカさに気付けよ」

 口調とは裏腹に、諦めと呆れの混じった表情でウトクは続けて口を開く。

「各都市の冒険者ギルドで決まってたんだよ。魔王格の連中が何かの気紛れで登録に来たら、即Aランク(きんいろ)ってな。で、実際に来そうな代表格がお前だ」

 やれやれと、わざとらしく溜息を吐きながら説明を続けてくれる。

 曰く、魔王を名乗る中でも目立つ幾人かは風体画と名前が各冒険者ギルドで共有されており、訪れた場合は各ギルドマスターが対応の上Aランクカードを与え、大人しく出ていってもらう方針なのだと言う。

「何だそりゃ。小遣い貰うガキじゃ無ェんだ、そんな投げ遣りな対応が有るかよ」

 実際に対応されている魔王は面白くも無さそうに口をへの字に曲げるが、眺めているオリヤはその適切で適当な対応に、なんだかニヤけてしまう。

 自分は普通扱いで良かったと、心底感謝した。

「何ニヤついてんだ、適当に握っちまうぞコラ」

「いやいや、それは八つ当たり、っていうかもう顔面握って(いた)い⁉」

 そんな表情で居るものだから、即座にアイアンクローの餌食となってしまうが、誰も助けてくれないのだ。

「ちなみに、ホントに来そうなのはお前さんだけだと思ってたが」

 オリヤとトシロウの漫才を無視し、ウトクは残り3人にギルドカードを渡す。

 残りの3人はオリヤと同じ、赤銅色のカードだ。

「実はお前は3匹目だ。随分出遅れたな」

 矯めつ眇めつ自分のカードを眺める3人を他所に、トシロウはオリヤを開放して不審げに「あん?」等と呟きながら、ウトクの方に向き直る。

「なんだ? 俺以外に、そんな暇な奴が居ンのか?」

 自分を棚に上げず、きちんと暇人の自覚を持っているのは素晴らしい。……のだろうか。

 一瞬称賛し掛けたが、褒められたものでもない気がしてオリヤは首を傾げてしまう。

「ああ。そいつらも最近の事なんだが。アレイスタと、マクマホンだ」

 事も無げに告げるウトクの言葉に、トシロウの眉根が寄る。

 エルフ姉妹も顔色を変え、ミィキィでさえ、無関心では居られないのかウトクとトシロウを眺める表情が僅かに引き締まる。

 一方、名前を聞いても皆目見当もつかないオリヤは、隣の魔王ではなく、対面に座るサリアに目を向ける。

「ねえ、知らない名前なんだけど、有名な人?」

 話の流れで言えば魔王、という事だろう。

 しかし悲しいかな、オリヤはどちらの名前も聞き覚えがない。

 魔王が幾柱か顕現している事は知っているが、此処最近で最も名を馳せた魔王トシロウと、そのトシロウに殺された魔王アイアザルドの名前くらいしか聞き覚えがないのだ。

「あァ? なんだ、最近の若ェのは魔王の名前も知らねえのか」

「そう言うな。人間にとっちゃ、魔王なんざ禁忌だ。大体の街じゃ、魔王が居るとは言っても名前までは知られちゃいない」

 オリヤの無知を鼻で笑うトシロウに、ウトクが嗜めるように声を被せる。

「冒険者でもなけりゃ、それも上位者でもなきゃ関わることも無い名だしな」

 いつの間にか2本目に火を点け、紫煙をゆっくりと吐き出す。

「ま、それもそうか。魔王も色々居るしな。俺やアレイスタはまだしも害の無い方だろ」

 トシロウは何が楽しいのか、ニヤニヤと応える。

「お前が無害だったら、人間なんざ空気ですらないな」

 タバコの灰を灰皿に落とすと、ウトクがオリヤに向き直る。

「アレイスタもマクマホンも、トシロウと同じく『はぐれ』の魔王だ。まあ、割とおとなしめな方、かな」

 言葉の割に、主に目が笑っていない。

「はぐれ?」

 人間寄りだが、完全に味方と考えることは出来ない、そういう事なのだろう。

 オリヤは漠然とそんなことを考えながら、ふと気になったことを疑問の形で言の葉にのせる。

「ああ。アレイスタもマクマホンも、軍勢を持たない。面倒くせェんだとさ」

 トシロウが思い出すように天井に視線を向け、その言葉を受けたウトクが頷いてみせる。

「だな。アレイスタは気紛れで、マクマホンは気の合った冒険者の勧めで登録したそうだ」

 なるほど自由人らしい。

 言い方を聞いても、トシロウに近い感性の持ち主に思える。

 所詮は伝聞なので、断定は危険では有るが。

 オリヤはちらりとトシロウに目を向け、だがしかし、納得顔で頷く。

「……なんだよ」

 オリヤの視線に何か言いたげな気配を感じ、精々不機嫌そうな顔を作って応える。

「いんや? どっちが筋肉の人かと思ってね」

 ニヤリと笑う。

 推理の結果ではなく、単なる勘である。

 今までどうにも「聞いた範囲」の事柄しか起こっていない。

 輸出の際に聞かされた、魔王になりたいと願った男と筋肉の力を願った男。

 育った街を出てすぐに出会ったエルフ姉妹と、その二人がオリヤの目付役になった事。

 そして次の街への途中で出会った、冒険者たちと魔王になりたかった男。

 その魔王が「知っている街」と言ってのけた、目指していた街、デイアクーフ。

 どう考えても、起こる出来事がいちいち作為的だ。

 誰の意図かは知らないが、これだけ続けば勘繰らない理由がない。

 だから、その二柱(ふたはしら)の魔王も、どうせトシロウの知り合い、片方は筋肉の人なのだろう。

 今までがそんな感じで浅めとは言え繋がってきたのだ。今回もそんなところだろうと勘ぐったのだ。

「ああ、なんだ気が付いたのか。マクマホンだな。多分、そのうち顔合わせる事もあるだろ」

 多分、近々会うんだろうな。

 トシロウのなんとも言えない表情に、オリヤはそう確信する。

 好きに生きろと言われて来たが、さて、ここ3日程度の時間で、すでに敷かれたレールが見える気がするのは気のせいだろうか。

「マクマホンさんねぇ。日本人っぽくない名前だなあ。まあ、好きに名乗っただけだろうけど」

 少し投げ遣りな気分で、オリヤは思った事を、流石に小声で漏らす。

 当然聞き逃さなかったトシロウは、今度はきょとんとした顔でオリヤの顔をまじまじと見やる。

「好きに名乗る? また訳の判ん無ェ事を。アイツはアメリカの生まれって言ってたぞ」

 トシロウの言葉に、今度はオリヤが呆けて見せる。

「はぁ? え? アメリカ?」

 それだけを口にした所で、オリヤは自分の声のボリュームが上がったことを自覚する。

 さり気なく周囲を見渡すが、仲間は皆自分のギルドカードに夢中でオリヤの奇声に気が付いた様子はない。

 ギルドマスター氏以外は。

 軽く咳払いをすると、ウトクの視線を気にしつつもやはり小声でトシロウに問う。

「ねえ、異世界転生モノて、日本人が巻き込まれるモンじゃないの?」

「はァ? 何だそりゃあ? なんで日本人限定なんだ、アホなのかお前は」

 問を向けられた魔王様は驚きつつも小声で、しかも罵声付きで反応してくれた。

 いつか晩飯に唐辛子フルコース振る舞ってやる。

 黒い笑顔で聞き流すオリヤに、トシロウはやれやれと言葉を続ける。

「アレイスタは確か、あれ? あいつはイギリスだっけか……いや、うん? 確かそうだよな」

 途中で自問になってしまっているが、そちらも詰まるところ、日本人ではないと言うことだろう。

 そしてつまり、冒険者登録している魔王は3柱とも輸出組と言うことか。

 まあ、自由に生きて死ね(ゆしゅつひん)と言う事の代価として、高ステータスとある程度望む能力(スキル)を手にして居るのだ。

 やろうと思えば、魔王になる事も出来る程度の。

 改めて、輸出組で有ることをぼんやりと考えるオリヤの隣で、トシロウは溜息を吐いて天井を見やる。

「アレイスタはまあ、取っつき難い奴では有るが……しかし、アイツが冒険者ねェ」

 へぇ、と、トシロウは他人事のように呟いて天井を見上げる。

「知り合いなんでしょ? そんな意外なの?」

「あ? あァ。まあ、知り合いっちゃ知り合いだが……2~3回会った程度だ。イケ好か無ェ、スカした野郎て印象だァな」

 トシロウの面白くもなさそうだが不機嫌という訳でもない、微妙な表情に、オリヤは素直に首を傾げる。

「なんだ坊主。お前、この魔王サマと一緒に居るのに、その辺の事知らねえのか」

 そりゃまあ、会って1日だし、そう思うが素直に言うと色々詮索がキツそうだ。

 そう思ったので、多少表現をぼかすことにして応える。

「そりゃそうだよ、出会ったばっかに近いからね。偉そうな自称魔王様って事しか知らないよ」

 オリヤの意図を汲んだトシロウが、フォローに動く。

「自称たァ言ってくれるじゃ無ェか。こンのクソガキが」

 グシャグシャと乱暴に頭を撫でると、ガハハと笑って見せる。

 魔王の話は知っているが眉唾な子供と、気にもしない豪快な魔王、と。

 周りから見ればそうとしか見えない関係を見せる。

 なにしろ、本当にその通りなのだから。

 だから、表現の多少の曖昧さも、誤魔化せるというものだ。

「まァ、成程だ。なんでギルドマスターの事務室(こんなところ)まで案内されたかと思えば」

 トシロウはオリヤを開放すると、ティーカップを口元に運ぶ。

「魔王さんや、警戒されてるねぇ。タイミング的にも、魔王が徒党を組んで何かすると思われても仕方ないね?」

 オリヤがその言葉を受けて引っ掻き回すように笑って見せる。

「全くだ。野郎ども、ホントに余計な事しやがって」

 更にそれに乗って、トシロウは図々しくも言ってのける。

 自分の事を乗せる棚には、きっと仕立ての良いベッドも乗っているのではないだろうか。

「まあ、疑って無ぇって言ったら嘘になるがよ。少なくとも無闇に暴れるような連中じゃ無ぇ事だけは確かだからな」

 ウトクもティーカップを持つと、思う所を一息に言い切ってから喉を湿らせる。

「だからまあ、それ相応のランクをくれてやるから、大人しく言うこと聞いてくれ、って事だな」

 言いながら、カップをソーサーに戻す。

 なるほどね。

 オリヤは改めて黄金色のギルドカードに目を向ける。

「具体的なランクで言えば、Sランクなの?」

 何気ない一言。

 オリヤが「生前」目にした作品は、大抵Fランクからスタートし、そして最終ランクはSないしSSランク。

 SSSとかはあまり見たことがないが、無いこともなかった。

 なので、この世界も似たような物だろうと当たりをつける。

 だが、返ってきたのは予想と違う答えだった。

「いや、ギルドの最高ランクはAだ」

 おや?

 ウトクの返事に、オリヤは意外そうな顔をそちらに向ける。

 オリヤがSランク以上が有ると思い込んだ事には、生前の偏った読書遍歴の他にも理由がある。

 2年間生活した、大河の街のギルドで耳にしたことが有ったのだ。

 この街には、Sランクは居ないからな。Aランクもほとんど居ねぇけどよ。

 オリヤの背中をバンバン叩きながら、オリバーが言っていた。

 他の冒険者が、傭兵が口にしていたのを聞いたことも有る。

 或いは、各街毎に、ランクのシステムが異なるのだろうか?

「解せ無ェってツラだな?」

 声に顔を上げれば、隣ではトシロウが、テーブルの向こうではウトクが何やら不敵に、ニヤニヤと笑っている。

「Sランク、SSランクなんてのは、ギルドでは設定してない。だが、そう呼ばれてる奴らは居る」

「まあ、曖昧なもんだがな」

 ふと気がつけば、エルフ姉妹や魔王のメイドまでが、興味深そうにギルドマスターと魔王を見ている。

 アルメアに関して言えば、多分出された焼菓子(フィナンシェ)が無くなって暇になったのだろう。

 例によってオリヤの分は取り上げられている。

「結局は、Aランクの中でも、腕の立つ奴を、周りが勝手に盛り上げてるだけでな。ホントに洒落にならん奴から自称レベルの胡散臭い奴まで、まあ色々居るな」

 肩を竦める様に、トシロウが口を閉ざすと、ウトクがそれを受けて口を開く。

「だからまあ、Sランクなんて名乗られても、案外アテにならん。他所から流れて来た奴がSランク名乗ってそこらのBランクにノされたなんて話はザラだ」

 だから自称Sランクの名乗りはアテにならない。

 逆に周囲がSランクと持ち上げてる奴は、人格は兎も角腕が立つことが多いのは確かだ。

 そう付け加える。

「腕が立つかどうかは、むしろ称号(タイトル)を見たほうが早い。ギルドカードに付与されてる魔法で、確認できる」

 称号(タイトル)

 耳慣れない単語に、オリヤは気を引かれる。

 タイトル……?

 表題? なんの事だ?

「称号の事だよ。例えば、俺で言えば『魔王』、『魔王殺し』、この辺だな」

 言いながら、トシロウはギルドカードをオリヤに差し出す。

「相手の許可を得てから、『称号(タイトル)オープン』で、相手が公開してる称号(タイトル)は全部確認出来る」

 複数の称号(タイトル)を持つ者が居て、かつ、表示できる称号(タイトル)は任意で選べるらしい?

 オリヤはここに来て増える情報に、些か混乱を来しつつも、言われるがままに言葉を紡ぐ。

「た……タイトルオープン」

 途端に、ギルドカードの上に、まるで空間にウインドウを開いたかのように文字が踊る。

 「魔王」「魔王殺し」を筆頭に、様々な単語が、つらつらと並ぶ様は思ったよりも圧倒的だった。

「中には下らねェモンも有るが。まあ、こんだけ並べて見せれば、上々だろうよ」

 笑うトシロウの向こうで、ウトクが溜息を吐く。

「上々どころの騒ぎじゃねえよ。『勇者』持ちだって、そんなアホみたいに称号(タイトル)抱えちゃ居ねぇよ」

 勇者?

 ふい、と視線を走らせる。

 トシロウの称号(タイトル)一覧に、ぱっと見た限りでは、勇者の文字はない。

 蛮勇とか突破者とか、なんかそれっぽいけどちょっと違う系の物は有るが、勇者やら英雄やら言う物はない。

 それに。

「……魔王とか勇者って、職業じゃないのか」

 生前読んだラノベなんかでは、結構鉄板で存在した気がするのだが。

 職業魔王は兎も角、職業勇者は結構普通に。

 だが、この世界のギルドマスターと魔王の反応は思ったよりも冷淡だった。

「はぁ? 職業が勇者?」

「なんだそりゃ、勇者が職業って、そいつは何するんだ?」

 馬鹿にしている、というより、心底判らない、そんな表情で二人がオリヤに顔を向ける。

 或いはトシロウなら乗っかってくれるかと期待したのだが、50年前に輸出されてきた先輩は、「職業:勇者」は出来の悪い冗談にしか聞こえないらしい。

 うーん、隔世の感。

 とは言え確かに、職業としての勇者とはなんなのか、聞かれると答えに困る。

 何をする人なんだろう。魔王を倒すのが仕事かな。

称号(タイトル)としては有るけどな、『勇者』。まあ、戦争で活躍したとか、そんなトコかな。街によっては、魔物をぶっ殺しまくって得ることも有るらしいが」

 トシロウがそう言えば、と口元に手を添える。

「だな。つーか寧ろ、魔物を差別してる街やらでシゴトしてたって証拠に近いな。『勇者』持ちは、アイアザルド大戦の影響もあってここらじゃあ酷く評判が悪い」

 魔王アイアザルドが人間を滅ぼしかけたのは、人間が不要な戦争を仕掛けたからに他ならない。

 「勇者」の称号を持つ者は多くが死に、或いは逃亡した。

 戦場で生きて終戦を迎えた「勇者」は少ないのだ。

 そして、「勇者」を多く抱え、魔族を迫害し魔王を怒らせた「国」は王諸共滅んだ。

「まあ、そんな訳で、街によっては勇者持ちは嫌われるし、逆に勇者持ちがチヤホヤされてる街じゃあ魔王は嫌われるって訳だ」

「嫌われるっていうか、魔王持ちが行くとパニックになるな」

 カラカラ笑うトシロウに、テーブルを挟んでウトクが腕組みして応える。

「ナルホド、そういうトコで騒ぎを起こしたくないときに、隠したりとか出来るのね」

 ふむふむ、頷きながらオリヤはトシロウの称号(タイトル)一覧を眺める。

「ま、俺は面倒だからフルオープンだがな。寧ろ、不名誉なモンは無――」

 言いかけるトシロウの言葉を遮って、オリヤが声を上げる。

「ねえ。この『フリル大好き』ってなんの称号なの」

 他にも色々おかしな称号はチラホラ見受けられるが、オリヤにはその称号が非常に引っかかった。

 読み飛ばしてはいけない、そんな気がするのだ。

「あ? またそんなもん、よく見つけたな」

 答えるトシロウの方は、少し気恥ずかしそうな、それでいて何処か誇らしげに見える。

 そしてオリヤの視界の外では、ミィキィの表情が消えていた。

「そいつはな……」

 フリル? なんでフリルなんだろう。

 サリアは魔王とフリルの関係性が見出せず、首を傾げるばかりだ。

 

「あちこちでイイ女見かけては、フリル付きのおぱんつをプレゼントしてたからだ」

 

 自信満々の魔王様の説明に、エルフ姉妹も表情を消す。

 流石に魔王がどんな称号を持っているか、細部までは知らなかったウトクも気まずい表情だ。

「お前、やっぱりただの馬鹿だろう?」

「なんだとお前、おぱんつは大事だろうが!」

 ぎゃいぎゃいと騒ぐオッサン二人に、オリヤは暫し呆れの視線を向けていたが、ふと思い至って自分のギルドカードに目を落とす。

「タイトル……オープンッ!」

 今まで、それなりに色々やってきた。

 冒険者として街を出てまだ3日だが、この世界に落ちて2年。

 その間、世界について学びながら、己の能力を知るために様々「創造」してきた。

 少なくとも、創造系? の称号(タイトル)が有ってもおかしくは無い、のではないか。

 オリヤを眺めるウルクの目は、いつも新人冒険者に向けいているそれと変わりがなかった。

 称号(タイトル)に憧れるのは良く分かる。

 だから、特に若ければ若い程、ギルドカードを受け取ってまずするのは自分のステータス確認。

 そして、称号(タイトル)の有無の確認だ。

 当然、駆け出しの冒険者に称号が有ることは少ない。

 しかし、称号(タイトル)の説明はギルドカード発行時にしてる筈だ。

 聞いていなかった、と言う風でもない。

 であれば、説明されていなかったのだろう。

 ウトクは溜息混じりに、オリヤの目の前に展開された称号群を眺めて考え込む。

 街毎にやり方は有るだろうが、必要な説明をしない理由はない筈だ。

 ウトクはボーッとオリヤの、多くはない称号の文字列を目で追いながら考え込む。

 ほれ、称号(タイトル)に興味持つのは自然な事だ。まだ有りもしない称号(タイトル)を探して、目を輝かせて……。

 そこまで考えて、ウトクの思考が現実に戻る。

 オリヤの目の前に、タイトルウインドが出ている。それは良い。

 見過ごせないのは、其処に既に、いくつもの称号(タイトル)が並んでいる事だ。

「な……んだ小僧! お前これ!」

 登録したての冒険者が、称号を持っていることはほぼ無い、と言った。

 だが、絶対に居ない訳ではない。

 犯罪系の称号は、犯罪歴に応じてつく。そこに年齢による加減はない。

 魔術アカデミーや錬金術工房の出なら、称号を持っている天才肌も居なくはない。

 だが、それでも。

 10と少しの称号を既に持っている、齢15の駆け出し冒険者。

 ウトクの長い冒険者生活でも、ギルド職員からギルドマスターとして働いていた時間の中でも、そんな者を見たことはない。

 幸いなのは、一見して犯罪に関係の有りそうな称号はなさそうな事だ。

 だが、尋常の事ではない。

「だから言っただろ」

 驚愕のウトクの耳に、トシロウの楽しげな声が転がり込む。

「そいつは魔王見習いなんだ。普通なわきゃ無ェよ」

 得意げなトシロウの表情に、ウトクはひらひらと手を振って降参の意思表示をするしか無かった。

 

 

 

 ギルドカードを全員が受け取り、晴れて全員が冒険者となった。

 オリヤの持つ称号(タイトル)の中に、「下着マイスター」と「神域の目測者」という物を発見したエルフ姉妹がゴミを見るような目をオリヤに向け、不審に思った魔王とメイドにその理由を丁寧に説明されたり、エルフ姉妹やメイドさんにもさり気なく1つ2つの称号(タイトル)が有ったりと、ワイワイ騒ぎながら職員通路を抜け、ギルドハウスの受付ホールに戻って来た。

 ちなみに、ここまでの短い道中でトシロウとオリヤには、「女の敵(弱)」という称号(タイトル)が増えていたりする。

「面白いなあ、この称号(タイトル)っての。表示するやつも選べるし」

 脳内にタイトルウインドウを展開しながら、オリヤは確認するように様々な操作を行う。

 どれを表示させ、どれを隠すか。

 まあ、女の敵(弱)は隠そう。

 そんな事を考えながらつらつらと並ぶ文字をなぞると、気になる物が1つ。

 忘却者。

 酷く、心に引っかかる物がある。

 忘却。何を忘れて、得た称号なのだろうか。

 名前を失った。だが、果たしてそれだけだろうか。

 そもそも、「名前を思い出せない」という事態そのものが異常だと言うのに、慌てこそしたものの特に気にせず新たな名を名乗り、ちゃっかりそのまま生活していた。

 その事まで含めて、大変な異常事態である。

 記憶ではない、もっと根本的な……もっと別の何かが失われているのではないだろうか?

 新しい能力を使用した際に感じた、故郷(にほん)の記憶の僅かなブレ。

 いや、アレはブレというよりはもっと……記憶が朧になっていたと言う方がしっくりくる。

 だが、衝撃を受けたのは其処の事に関してではなかった。

 当たり前の様に受け入れ、受け流そうとした自分の心の働きだったのだ。

 特に思い入れが強い覚えもないが、それでも38年生活した世界、親しい人間も思い出の場所もあった。

 それをロクに思い出さなかった事もそうだが、既に「別の世界」の出来事として自分の中で切り離している事実に気付き、愕然としたのだ。

 幾ら異世界へ「輸出」されて来たとは言え、まだわずか2年だ。

 記憶が遠く霞むには、まだ早いだろう。

 では。

 この記憶の不自然な程の遠のきは、一体何だと言うのだろうが。

「オリヤ? どうかしたの?」

 思いがけず考え込んでしまった様だ。

 掛けられた声に意識を現実に戻せば、すぐ目の前にアルメアの顔があった。

「うひょえあ⁉」

「どっからなんちゅう声出してんだお前は」

 悩んでたことなど一瞬で吹っ飛んだオリヤに、トシロウが呆れたような顔でそれだけを言う。

「だって、ちょっとボーッとして気が付いたら目の前におもしろ顔が」

「誰がおもしろ顔よ!」

 反論の言葉を言いかけたオリヤの顔面に、アルメアの右拳が叩き込まれる。

 流石は近接格闘系回復職(グラップルヒーラー)の実の妹、負けず劣らず手が早い。

 ぎゃあぎゃあと騒がしい5人組に、案内役の受付のお姉さんは困った顔をしつつ、深く踏み込んだりはしない。

 受付嬢としてのバランス感覚なのか、面倒臭いから関わらないようにしているのか些か疑念の湧く所だが、気持ちは解らなくもない。

 まるで他人事の様に考えながら、ふと、ミィキィはカウンターの向こう、ホールへと視線を走らせる。

 こちらを見る幾人かの冒険者の中に、見覚えの有る顔がこちらを見ていた。

 

「なんでアイツ等、奥に連れてかれてたんだ?」

 随分戻るまで時間が掛かった様に感じ、ケーレは思わず疑問を口にする。

 勿論、明確な回答など期待しては居ない。

 軽く受付に聞いてみたが、犯罪絡みではないらしい。

 そうであれば、もはや見当もつかないのだ。

「さてなぁ。まあ、聞けば良かろ」

 ルブランはヒゲを撫でながら待ちくたびれた表情を隠しもせずに答える。

「……なあ。なんでオリヤ、あの姉ちゃんに顔面イかれたんだ?」

 アロイスはアロイスで、なんとも言えない光景に頬を掻きながら、しかし何処までも他人事で尋ねる。

「……多分、オリヤくんが余計な事言ったんじゃないかな」

 アロイスの疑問に関してはある程度予想できたので、クレイオスは溜息混じりに答える。

 しかし、その視線はしっかりとサリアを捉えて離さない。

 4者4様の呆れ顔を見合わせると、肩を竦めて待ち人を迎えに動くのだった。

 

 

 

「はぁん? 結局、特に何もナシだったって? んじゃなんで奥まで引っ張って行かれたんだよ?」

 ディアクーフ名物の焼パスタを頬張りながら、ケーレがオリヤに問の矛先を向ける。

 冒険者ギルド併設の食堂――夜には酒場となる――の一角、テーブル2つを並べて陣取った2パーティは「遅めの朝食」を楽しんでいる。

 

 ……たしか俺、朝食振る舞ったハズなんだけどなぁ……。

 

 オリヤはひっそりと疑問を胸中に抱えながら、困った様な笑顔をケーレに向けて応える。

「あー、俺はなんも無かったんだけどね? 連れがね?」

 答えを聞いたケーレはオリヤの仲間たちへと目を向け見渡してから、訳が解らないとオリヤへ向けた表情で訴える。

「エルフ姉妹が暴力的で」

「誰が暴力的よ!」

「お姉ちゃんと一緒にしないで‼」

 オリヤののんびりした返答に食い気味で反応するエルフ姉妹は、ついで姉妹で睨み合う。

 暴力というか、多分それはオリヤの自業自得なんだろうと聞き流すアロイス一行。

「お前さんの問題じゃ無いなら、んじゃあ何なんだよ?」

 焼パスタを食す手を止めること無く、ケーレはオリヤへの追求も止めない。

 塩と胡椒とトマトソースで、多めのベーコンと玉ねぎやピーマンをパスタと共に炒めたその一品に粉チーズをたっぷりと振り掛け、アルメアも満足の味だ。

「俺が答えて良い範囲を超えてるんだよ……。誰が何を、って所でもうね」

 今度は困ったように笑顔のままで眉根を寄せると、どうしようもない風に肩を竦めてみせる。

 多分、オリヤがハッキリと答えてしまっても当人は気にしない予感は有るが、昨夜の時点では「街中で魔王と呼ぶな」と言われている。

 ギルドカードを見られたら追求必至な状況で、どう答えたものか、他人事のオリヤの手元に答えは無いのだ。

 うっかり視線を向けるのも不味いので、ケーレの方を向いて居るが、オリヤは仲間が意外と粗忽だと言うことを失念していた。

 食べ物大好きなエルフ姉妹の妹の方が、チラチラと長身の男――トシロウの方へと視線を走らせているのが丸わかりなのだ。

 

 この姉ちゃん、腹芸出来無ェのな。

 

 ケーレとトシロウは同じ事を考え、なんとなくお互いに視線を合わせる。

 誤魔化すのは良いが、正直面倒臭ェな。

 トシロウはコーヒーを口に運びながら、手早く考える。

 しかし其処は短気で損をしながら生きてきた現魔王、割とどうでも良い事でアレコレ悩むのがバカバカしくなってくる。

 そもそも隠そうにも、ギルド側が面倒臭いもの(A級カード)なんぞを用意して居るのが悪いのだ。

 F級スタートで遊んでやろうという思惑を1歩目で挫かれた魔王は、考えるほどに投げ遣りな気分になって行く。

 カップをソーサーに戻すと、小さくため息を1つ。

 懐から渡されたばかりのギルドカードを机の上に滑らせ、殊更に小さく呟いた。

「他言無用で頼むぜ」

 黄金色の、A級冒険者の証。

 アロイス含め、4人は声もなくそのカードを見やり、そして刻まれる名に言葉を失くす。

 岡崎斗志郎(トシロウ・オカザキ)

 その名は、子供の頃より耳にした名。

 西の大河の街と此処ディアクーフを含む国家を文字通り半壊させ、戦火を免れた城塞都市が辛うじて街の体を成している現状を生み出した張本人。

 人に対して戦争を仕掛けた魔王と主だった家臣を、殺してのけた魔王。

 まさか、その当人なのか?

 豪胆で鳴らすルブランですら息を呑み、咄嗟に言葉を並べることが出来ない。

 基本情報はギルドカードに刻まれている。

 名前、年齢、ランク、職業。

 それらを眺め、尚言葉の出ない4人に、トシロウはやはり小声で囁く。

「タイトル・オープン」

 そして表示される、魔王・魔王殺しと例のアレを含む称号群。

 その時点で、確定だった。

 クレイオスが緑茶を注いだカップを慎重にテーブルに戻しながら、何とも言えない顔で口をパクパクとさせている。

 なにか言いたいのだが、言葉が出てこないのだろう。

「なんつーか……え? マジで?」

 ケーレが代表して感想を述べようとして失敗している。

 地域が変われば評価は反転するものの、ディアクーフ近辺で言えばトシロウの名は英雄に近い。

 魔王の名にあやかって名付けられた子供は皆無だが、わずか20年前の出来事。

 色褪せるには時間の経過が短すぎる。

 大げさに声を上げる事をしない代わりに、無言で説明を求める4つの顔を眺め、そりゃァそうだよなァ、トシロウは溜息混じりに呟くと、ギルドマスターとの遣り取りを掻い摘んで説明する。

「……とまァ、そういうこった。あんま大声で言わねェでくれよ? 流石に恥ずかしいからよ」

 全然恥ずかしくも無さそうな顔でそう言う魔王に、アロイスもどう答えたものか判らない。

 だが、当時7歳だった自分が、遠目に見た「魔王殺し」。

 その、ひょろ長い見た目は、確かに目の前の男に酷似している。

「そ、その魔王が……なんだって冒険者なんぞを」

 ルブランが落ち着き無く自分の髭を撫で擦りながら問う。

 ギルドカードの偽造は出来なくはないが、バレればタダでは済まない。

 二度と冒険者として登録できないどころか、犯罪者として街を追われる。

 当然身分証としてのギルドカードの所持は出来ないので、別の町での身の証には他の手段を講じなければならないが、ギルドカードのシステムが共有であるため、傭兵・魔術・錬金各ギルドでもカードを作ることが不可能になる。

 そうなると、()()()()()()()()の盗賊ギルドや暗殺者ギルドに名を連ねるか、タダの野盗として街の外で生き、野垂れ死ぬか討たれて死ぬか、どちらかが大半である。

 軽い気持ちで手を出すには、ペナルティが重すぎるのだ。

「ヒマだから。あー……ホントはFランク(あかいろ)から始めたかったんだがなあ……」

 何が気に入らないのか不満げなトシロウに、オリヤがニヤニヤと笑いながら声を掛ける。

「良いじゃん、これやるからカエレって渡されるのがAランクカードとか、愛されてるねぇ魔王サマ」

 トシロウが思った通りに物事が進んでいないのが楽しくて仕方がない、そんな表情を隠しもしない。

 隠しもしないものだから、即座に顔面を握り込まれてしまうのだ。

 痛いの何のと文句を述べるオリヤを全員が無視しながら、魔王の話を聞いてそれぞれに考え込む。

 アルメアは当然のように、サリアはやや控えめに焼きパスタのお代わりを注文しつつ。

「……んで、魔王さんは、なんかヤらかす予定なのかい?」

 ケーレが、空になった大皿を小脇に避け、ジョッキを傾けながら問う。

 飲まずにやってられない、という訳でもないのだが、シラフで聞くには冗談が過ぎると考えたのだ。

「やらかす予定は有りゃし無ェが、まあ、そうだな。適当に旅でもして、なんか旨いモン食いてえなァ」

 そう口に出して、思い出したように焼パスタを器用にフォークで絡め取り、口いっぱいに頬張る。

 多少冷めてしまったが、なかなかどうして旨い。

 ベーコンの油の旨味だろう、罪な味わいだ。

「なんだぁ、食追い人か? オリヤが居れば大体は美味いモンになるんじゃないかね?」

 言いながら、昨夜の唐揚げを思い出したルブランは遠い目になる。

 まあ、あの唐揚げはさり気なく醤油が使用されているから、そう簡単に真似できる物ではないだろう。

 そうである以上、またありつける見込みは薄いのだから、ルブランの悲嘆もひとしおだ。

 エールの友に出会えたと言うのに、その邂逅はあまりにも短すぎた。

「……魔王さんや、どうせそれだけ仲間が居ればオリヤ1人くらい手放しても良かろ? ウチにくれ」

 割と真面目な顔で、ルブランはトシロウに切り出すが、流石に首を縦に振ることは無い。

 特にエルフ姉妹の妹のほうが(食事的な意味で)猛反対であったし、そもそも冗談の範疇なのでルブランも苦笑いで引き下がる。

 その裏で、こそこそとオリヤに唐揚げのレシピを尋ね、昨夜のは無理だが代替案として塩唐揚げのレシピを入手し、1人ほくそ笑むアロイスが居たりした。

 同時に、柔らかいパンの製法は大河の街に有ると聞き(オリヤが説明を面倒に思った為伝えなかった)、クレイオスとアロイスは顔を見合わせて頷きあう。

 

「なんか悪ぃなぁ。急にウチの連中が目の色変えちまってよ」

 ケーレがオリヤの頭をグリグリと撫で回しながら言う。

「大河の街に行くって聞かねぇんだ。何事なのかね」

 あー。そんなにパンが欲しいのかー。

 撫で回されて揺れる視界の中で、アロイスとクレイオスが向こうを向いている。

 というかこっちに顔を向けない。

 どんだけパンに、というか唐揚げパンに夢中なんだ。

 あの街にはハンバーガーがある。

 衝撃を受けて帰ってくるが良いわ。

 唐突な旅立ちの準備に向かうアロイス達を見送り、オリヤはエルフ姉妹にハンバーグを振る舞っていない事に気がつく。

 となると、今晩はハンバーグと言う手も有るな。

 そんな事を考えているオリヤの視界の中で、サリアが何やら難しい顔で押し黙っている。

 お腹でも空いたのだろうか。

「サリア姉さん、どしたの? お腹すいた?」

「さっき食べてまだ30分経ってないよね⁉」

 オリヤの的外れな質問に憤慨しながら、サリアは頬を膨らせて見せたが、不意に表情を戻す。

 それが何か考え込んでいるようで、どうにも気に掛かる。

「……あのね、オリヤ」

 4人の冒険者を見送った一同と、周囲の喧騒。

 取り巻く騒音の切れ目に差し込まれるように、サリアの声が耳を打つ。

「私の持ってる称号(タイトル)に、『癒やしの精霊』って言うのが有ったの」

 ポツリと呟く声。

 一拍置いて、喧騒が耳に戻ってくる。

 だから、オリヤは耳を澄ます。

 サリアの言葉には、続きが有るのだから。

「私達エルフの、癒やしの使い手でも、なかなか得られない称号……私、癒し手くらいは付くって自信は有ったんだよ? だけど、この称号(タイトル)はそれ以上の……」

 呟く声を聞くトシロウは何時になく優しい笑顔を浮かべ、ミィキィは神妙に聞き入る。

 アルメアもまた真剣に、姉の言葉を受け止める。

 視線が集中する先で、サリアはオリヤに身体ごと振り返る。

「オリヤに出会って、神様に会って。そうして得られた称号(タイトル)だけど。精一杯、それに恥じないように頑張ろうと思うの」

 なんで、今。

 サリアがその気持を、オリヤ達に明かしたのかは判らない。

 だが、茶化してはいけない気がした。

 称号というものは、心の有り様にも影響を及ぼすのだなあ。

「そうだね。私も『流麗回路』と『無唱の理』っていう称号(タイトル)貰えてたし! オリヤのお目付け役として、何処までもついて行けるから!」

 アルメアも元気いっぱいに、オリヤに向けて杖を掲げて見せる。

 その行動は「無詠唱でこれから魔法食らわすぞ」と言ってるようにしか見えないので、控えて下さい。

 そう思いながら、オリヤはいつもの様に困った様な笑顔を浮かべる。

 特にアルメア姉さんの方は何か勘違いしてる感がある。

 称号を得たから力を手にしたんじゃなくて、力を得たから称号がついてきたんだよ? 解ってると信じるけど。

 そうは思うものの、エルフ姉妹の心遣いが嬉しくも有る。

 なるべく、危ない目には合わせないようにしたいもんだ。

「おーおー、意気込みは結構だがね。まずは全員、Eランクくらいには上がっておかねェと。旅してる間にギルドカードの期限失効なんざバカバカしいからな」

 珍しく、柔らかい笑顔のまま、トシロウは全員に発破を掛ける。

 意気を削ぐ程、野暮な真似をする気は無いのだ。

「そだね! んじゃあ早速、依頼(クエスト)受けちゃう?」

 何処までも元気いっぱいのアルメアの勢いに頷きそうになるが、オリヤはぐっと堪えて答える。

「いやいやいや、悪いんだけど明日にしよう。今日は必要なものの買い出し、特に食材を揃えておきたいんだ。最低でも、今日の晩ごはん分くらいはね」

 オリヤの返答に、不満げに口を尖らせるアルメアと、楽しそうにそれを制するサリア。

 そんな仲間を見る、なんだか急に年寄りじみた笑顔の魔王と、その傍らで変わらずクールなメイド。

 一人旅だったら、気楽だった反面、称号なんてもっとずっと先まで気が付かなかった恐れがある。

 全員分の食事を用意するのも考えるのも、面倒といえば面倒だが、楽しくもある。

 成り行きであれよと集まった仲間だが、今となってはそう悪いものとも思えない。

 一人旅への未練は根深いが、何事も諦めが肝心とも言う。

 そうであれば、気持ちを切り替えて進むほうが建設的と言うものだろう。

 それに。

称号(タイトル)、集めてみるのも面白いかもな」

 今日まで知らなかった称号と言うものに、興味を引かれていた。

 知らず、声に出して呟く程に。

 行動に伴って得られるのか、行動の結果に応じてに獲得するのか、まだ詳しくは判っていない。その辺も、調べて見るのも面白い。

 さしあたって魔王サマに聞いてみても良いだろう。

 大抵のお宝は「創造」出来る自信があるが、称号はそうも行かない。

 簡単には得られない。だから欲しい、だから楽しい。

 この世界に来た当初の目的は冒険だった。

 今、その冒険に更に目的を重ねられた。

 冒険して。旅して。称号を手に。

 そのためには冒険者ランクを上げて、色んな街を、平野を、山を駆け回ろう。

 エルフ姉妹から晩御飯のリクエストを投げ付けられながら、オリヤは冒険に胸を踊らせていた。

 明日は、堅実に依頼(クエスト)をこなそう。

 その為にも、今晩は美味いハンバーグを作ろう。

 歩き出すオリヤの表情は、見た目の年齢相応の、希望に満ちた笑顔だった。

 

 

 

 

 

 称号(タイトル)「冒険に踏み出した者」を獲得しました。

 獲得経験値に5%の補正、パーティメンバーのステータスを常時3%補正します。




タイトル回収にここまで掛かりました。
勿論、この先のことはざっくりとしか決まってません。
てへ☆
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