タイトルなんて募集中ですよ   作:naow

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話的には続いてますが、息抜き程度に短いやつを書きたかったので。

短いやつを書きたかったので。

短……


2020/05/16
 文章が情緒不安定でしたので、語尾を統一させました。
 というか最初に気づこう自分。


閑話・オリヤの実力判定

 大通りの人の流れを眺めながら、少年を先頭に、私たちは見慣れぬ街を物珍しげに歩きます。

 先程ギルドハウスで聞いた、商店街への順路を、かの少年ことオリヤさんは反芻して居るのでしょうか。

 まずは肉屋を覗いて、あとは雑穀扱いのある店で小麦と、あ、石材、それと鋼材、無ければ鋼石。

 ギルドハウスで買い物に行きたいと言ったあと、続けて並べた取り留めもないラインナップに呆れましたが、恐らく似たような物を再び脳内に並べているのでしょう。

 賑わうギルド前通りをひょいひょいと征く軽い足取りを追いながらそんな事を考えていると、不意にオリヤさんが振り向いて口を開きました。

「あ、みんな欲しい物とかある?」

 特に何か裏の有る表情ではありません。

 単純に思い付いただけなのでしょう。

 ですが、それは今言うことでは無いと思います。

 もっと早く、ギルドハウスを出る前に確認するか、もう少し後、商店街に着いてからで良いでしょう。

 そう思いますが、それを伝えるか考える間もなく、敬愛する馬鹿魔王様がそれに反応していました。

「服!」

 オリヤさんが振り返り切る前に、トシロウ様が勢い込んで答えています。

 勢いが付きすぎて、オリヤさんの両肩を掴み持ち上げ、と言うか吊り下げ、なおその勢いは弱まっていません。

「いででででで⁉」

 大げさな、とも思いましたが、アレは……指先が肩に食い込んでいる?

 そうだ、普通あの様な掴み方で、いかな小柄と言え、人間1人吊り上げるなど不可能。

 流石は魔王様。その握力、膂力の無駄遣い。

 尊敬は出来ませんが、ああ、敬愛致します。

「俺には服が必要だ! 解るな? 服だ!」

 そんな私の心など、例え聞こえた所で当然気にする事も無いでしょう。

 鬼気迫りすぎて、なぜか泣きそうにも見える形相でトシロウ様はオリヤさんに詰め寄っています。

「肩がもげる! 両方もげる! 離して、つーか離せ‼」

 不自然で強引な吊り下げが齎すのは、当然の様に激痛。

 オリヤさんは不意に訪れた理不尽に激しくイラつきながら、余裕の無い表情で苦情を述べます。

 ほぼ怒声に聞こえるのは、きっと気の所為、考え過ぎというヤツでしょう。

「ふんぬ!」

 トシロウ様は何故か掛け声とともに、大地に押し付け寄るようにオリヤさんを地面に立たせます。

 普通に手を離せば良いのに……。

 そう思いはしますが、勿論進言等しません。

 過ぎたことに小言を述べても、どうしようもないのですから。

「普通に下ろしてよ……。んで? 服って、トシロウ兄ちゃん洗浄魔術使えるんでしょ?」

 オリヤさんも同様の事を考えたようですが、過ぎたことを気にしてもどう仕様もないと思いますよ?

「当然だ! 洗浄(クリア)修復(リペア)は基本だろう!」

 若干のイラつきがハッキリ解る表情で尋ねるオリヤさんに、トシロウ様は自信満々に応じます。

 魔王様、今そのドヤ顔は不要です。

 その遣り取りに案の定イラつきを加速させながら(推測)、オリヤさんは吐き捨てるように言葉を投げつけます。

「んじゃ、いつでも清潔、どこでも新品に近い状態だね?」

「応とも! 身嗜みは紳士の基本よ!」

 トシロウ様はやや大仰とも思える程の自信満々の表情で、両腕を広げて見せます。

 大通りで、迷惑な事です。

 所で魔王様。

 流石にこれは、オリヤさんの次のセリフが容易に想像付くのですが、宜しいのですか?

 当然声にしないので、魔王様が私の考えに気が付くことは無いのですが。

「んじゃあ、新しい服、無くても良いじゃん」

(ぁン)だとこの野郎⁉」

 なんで予想できなかったのですか魔王様。

 なんだかもう泣きそうな……いや、放っといたら血涙でも流すんじゃないかと言わんばかりの魔王様の表情をほのぼの眺めて居ると、私の隣でエルフの姉妹が呆れ顔で(バカ)二人を眺めて居ました。

 

 

 

「結局いの一番で服屋に駆け込んで、予算有るんだろうね魔王サマよぉ」

 結局ゲンコツまで落とされて、オリヤさんは不機嫌と言うより不貞腐れた様子で店内を歩き回るトシロウ様の後ろに着いて歩きます。

 私としても服に興味がないと言えば大嘘になってしまいますが、紳士服コーナーでは私の琴線に触れる物は無いのが正直な所です。

 そう思いながらも周囲を見渡していると、少し離れた所で、エルフ姉妹がなにやら服を見繕っているようで、あーだこーだと言い合っています。

「……どうされました? 男装にご興味が?」

 エルフの趣味は良く判りません。

 そう思うものの、それならそれでどういった服を好むのか純粋に興味が湧いた私は、トシロウ様を放っておいてエルフ姉妹に話しかけます。

 そう言えば、この姉妹に意図的に話しかけたのは、初めてかもしれませんね。

「えッ⁉ あ、ミキさんかぁ。 びっくりしたぁ」

 飛び跳ねそうな勢いで、銀髪の……確か妹のほうが振り返ります。

 ちょっと気配を消して背後から声を掛けただけなのに、そんなに驚くものでしょうか?

「あの、私達が着たいわけじゃなくて、ですね?」

 同じく驚いたはずなのに、金髪の姉の方は愛想笑いを浮かべて気丈に答えます。

 双子というだけ有って本当によく似た顔立ちなのに、反応に違いが有るのは当然といえば当然ですが、今まで身近な所に双子が居たことがないので、なんとも新鮮な気分です。

「オリヤに似合いそうな服が有るかな、って」

 そんな姉エルフの方から返ってきたのは、思っても居なかった返事でした。

 きっと、私は間の抜けた顔をしてしまったのでしょうが、エルフ姉は其処に触れずに居てくれました。

 優しい。今度一緒に料理を教えて貰おう。

 そう決意した私は、改めて店内、と言うより店内の商品を見渡し、口元に手を添えて少し考え込んでしまいました。

 あの少年に似合う服、ですか……。

 見回しては見ますが、私には少年向けの服の良し悪しは良く判りません。

 魔王様の着ている、スーツとやら言う服を見慣れたせいか、どうにもそういった感覚の疎さに磨きが掛かった気さえします。

 が、流石にそれは責任を押し付け過ぎかも知れませんね。

 ()()()()()()で「責任」は取って貰う予定ですので、些細なことは我慢致しましょう。

「これなんかどうかな?」

 耳に滑り込む声に意識を現実に戻すと、エルフの妹の方――確かアルメアさん? アルテアさん? どちらでしたか――が、ジャケットを広げて姉に見せているところでした。

 革製のそれは、肩や肘、上腕部、背中と、着込んで前を閉じてしまえば胸部と腹部にも、革で補強を施してあります。

 軽戦士向けのそれは、やや簡素な装着方法から、街中で着込んでいても違和感は少なく済むでしょう。

 そうは思いますが、あの少年には些か無骨に過ぎないでしょうか?

 何よりも、先程も会ったあのケーレとか言う軽薄そうな軽戦士――恐らく技能は盗賊系統――に似通った格好は何となくイヤです。

「もうちょっと動きやすいほうが良いんじゃないかな?」

 妹の広げるジャケットを眺めながら、姉のサリアさんは細い顎に手を添えて考えつつ答えました。

 うんうん。

 

 姉の方とは、恐らく気が合う予感がします。

 

 今決めたから間違いありません。

「オリヤは動けるから、防御的なのは最低限で良いかな……って」

 動ける……。

 それは、あの森狼撃退の時の事でしょうか。

 実は魔王様の遠見の魔術である程度は見ていたのですが。

 確かに剣を振るいながら駆け回り、大暴れしていた割には周囲の状況が良く見えていたように思えます。

 あの年頃で、少しばかり出来すぎではないでしょうか?

 私のプライド的な都合上決して口にはしませんが、あの体捌き、そして判断速度。

 いずれも私を凌駕しています。

 その後の、ウサギ狩りではまた違った動きをしていましたし。

 見慣れない武器もそうですが、動きそのものが違っていました。

 狼達と対峙した時の、注意を引きつけるようなやや大きな動きではなく、隠密に徹した小さく無駄のない動き。

 その手並みにも、「命を奪うことに躊躇が無さ過ぎる事」にも甚く感動したものです。

 おっとイケない。

 知らず、ついつい戦闘的な思考に嵌りそうになっていました。

 今はそれは置いて、服の選定です。

「そうね……これなんか良いんじゃないかなあ?」

 一瞬意識を横道に逸らしている間に、サリアさんのお眼鏡に適う一着が見つかった様子です。

 それは薄手とは言えませんが、過剰な装甲も補強も無い、他愛もないベストでした。

 なるほど、身軽に動くにはこれ位が丁度良いのかも知れませんね。

 と、先程までの私なら完全に同意していたでしょう。

 ですが、サリアさんがそのベストを広げようとしている最中に、私は見つけてしまいました。

 最低限、心臓を守る防御性と、重量を極限まで落とした速度重視の機能美。

「オリヤさんなら、こちらの方が……」

 私の差し出した革製のブレストプレート(防御面積狭め、背面部装甲なしのベルト止めタイプ)を目にしたエルフ姉妹は直後、何故か私に可哀相な眼差しを向けました。

 

 納得致しかねます。

 

 

 

 エルフ姉妹に「露出を増やすのが目的じゃない」「街中を一緒に歩ける程度の格好にして欲しい」と言われて、なるほどと思い至りました。

 確かにあんなブレストプレート、半裸と変わりありません。

 確実に街中では離れて歩いて欲しい格好です。

 そんな事を考えたり他に服やら装備やらを見繕ってわいわいやっていて、気がつけばトシロウ様とオリヤさんが実に冷ややかな目でこちらを見つつ、所在なさげに立ち尽くしていました。

 

 寂しいのなら、会話に加わって来れば良いと思いますよ?

 

「寂しいんじゃ無ェよ。まァアレだ、こっちは取り敢えず用件は済んだんだが、お前さん方の気は済んだか?」

 おっといけない、心の声が音を伴っていたようです。

 それはそれで気をつける所存ですが、とは言えしかし。

 用件は済んだと言いながら、素直ではない魔王様も、その隣のオリヤさんも特に何も手に持っていません。

 用件は買い物ではなかったのでしょうか?

「何もお買いにならなかったのですか? 冷やかしとは流石、良い御趣味ですね?」

「あのな……いや、買い物が済んだんだよ。服じゃなく、布をちょいと多めにな?」

 溜息を吐いた後、オリヤさんの頭をわしゃわしゃと撫でながら、魔王様はちょっと楽しそうに笑いました。

 布? 服では無く、布?

 疑問符が湧く私を尻目に、エルフ姉妹が弾かれた様にそれぞれ一歩づつ前に出ました。

「布⁉」

「たくさん⁉」

 単語1つにあまりの反応です。

 さしもの私も暫し呆気にとられ、まるで子供のように瞳を輝かせた2人を眺めるしか出来ません。

 一体何だと言うのでしょう?

 状況を掴めない私が説明を求めて視線を巡らせると、其処には同じく状況を掴めって居ない魔王様と何やら思案顔の少年が居ました。

 どちらからも、回答を得ることは困難であろう様子が手にとるように伝わってきます。

 表情でそう判断してしまいましたが、私はきっと悪くないです。悪くないと思います。

 

「つまり、オリヤさんが」

 状況の整理のため、一旦移動拠点(シェルター)への帰還を提案し、食堂でオリヤさん手作りの「ホットケーキ」と紅茶を頂きながら話を伺い、私は口を開きました。

 関係ないですが、このホットケーキとやらも良いものです。

 これは個人的に、絶対に製法を知りたい所ですね。

 それはさておき。

 余計な混乱を避けるため、人気の無い路地裏で更に人払いの魔術まで使って(使ったのは魔王様)、急遽拠点へと戻ってみれば。

 それはなんとも下らない話でした。

「ああ。コイツ、素材さえ有れば何でも作れるって言うしな? んじゃあ、布がありゃあ服も出来るんだなと」

 洋服屋へ行って布を買う。

 店の人間もさぞ困惑した事でしょう。

 

 そういうのは専門店が有るから、そちらへ案内すれば良さそうなものですが、よほど慌てたのでしょうか。

 

「ああ、反物屋とか教えてもらったけどな? それはそれとして、在庫のダブついてそうなモンを譲ってもらったと」

「俺の金でね」

 私の心の声(肉声)に、律儀に答えて下さる魔王様。

 それを受けて、不機嫌極まりない表情、だと言うのになんともかわいらし……緊張感の無い表情でオリヤさんが不満を述べていますが、当然のように皆が聞き流しています。

 流石に可哀相なので、今度ホットケーキの作り方を教わって、作れるようにはなっておこう、と、小さく心に決めました。

 決して私が食べたいからではなく、そう、オリヤさんの心のケアと言うやつです。

「じゃあじゃあ、新しい服作れるのね!」

「ちょっと、落ち着きなさいよアルメア」

 そんな事を考える私を他所に、待ちきれないとすら言いたげに椅子から立ち上がるアルメアさんを、サリアさんが姉らしく嗜めます。

 しかし、サリアさんも服が気になるのか、少し落ち着きを欠いているように思えるのは邪推が過ぎるでしょうか?

「姉さん方の服はいっぱい作ったでしょうよ……まだ要るの?」

 げんなり顔に溜息を添えて、オリヤさんは面白くもなさそうにホットケーキを(つつ)いています。

 こんなに極端に不機嫌そうなのは、魔王様にイジられている時位のものですね。

 ……そう考えて思い返してみると、口で言うほどイヤがっている訳でも無いのかも知れません。

「なんと言うか、アルメアの気持ちも、判らなくもないの」

 努めて冷静に、サリアさんがそんなオリヤさんに、宥める様に答えました。

「可愛い服とか、たくさん有ると、こう……心がね?」

 しかし、本人が思っている程、冷静にはなれていない様に見受けられます。

 情熱が独り歩きしている感すら有ります。

 サリアさん、それではアルメアさんの気持ちとやらも判りませんし、貴女が言いたい事も判りません。

 ここで必要なのは嘲笑なのか冷笑なのか、割と本気で考え込んでいると、オリヤさんが非常に気になる事を呟きました。

 

「下着だったら幾らでも創るけど」

 

 その呟きを耳にした瞬間、エルフ姉妹の表情が険しくなりました。

 そのあまりにもな表情の変化に、私は素で笑いそうになりながら自制しようとして失敗し、咳払いの後、一呼吸置いて尋ねました。

 エルフの御姉妹がちょっとキツい眼差しを私に向けているのは、オリヤさんへの反感が収まっていないだけであって、笑われたことに対するものではないと信じます。

「そんなに具合の良くない下着なのですか? サイズが合わないとか。肌触りが悪いとか」

 私が尋ねると、今度は困惑顔でエルフ姉妹が顔を見合わせました。

 うん? その反応はどういう事なのです?

「具合は、悪くないというか……」

「サイズもぴったりで、肌触りも、今まで着けたこと無いレベルだけど……」

 言い難そうに、姉妹の発言は歯切れが悪いです。

 つまり問題は無いという事なのでは?

 それなら何故、其処まで嫌悪を顕にするのでしょうか?

 疑問を胸に、何となく魔王様を見れば、なぜか気の毒そうなものを見るようにエルフ姉妹に視線を向けていました。

 どういう事でしょう?

 何故、魔王様が同情の様子を?

「サイズぴったりて。オリヤ、おま、どうやってサイズ調べたん?」

 そう考え掛けた私の耳に、魔王様の困惑した声が滑り込みました。

 ああ……そういう事ですか。

 サイズを知るには、本人に聞くか測るしかありません。

 「より正確に」知るには、やはり測るしか無いわけで。

 つまりは測定と称したセクハラ紛いな事でも有ったのか、と邪推する私に放り投げられたのは、おおよそ信じられない一言でした。

 

「そんなの、見れば判るじゃん」

 

 ごめんなさいオリヤさん、貴方が何を言っているのか解りません。

 魔王様も同様の心持ちらしく、なんとも言えない不審げな眼差しをオリヤさんに向けています。

 ではエルフ姉妹はと言えば。

 ゴミを見るような目とはああいうのを言うのでしょう。

 大変勉強になります。今後、あの表情を活用する日がきっと来るでしょう。

 それはさておき、やはりオリヤさんの発言では解らないので、再度質問を投げてみました。

「あー……オリヤさん、その、聞き難いのですが」

 私が声を発すると、オリヤさんがのっそりとこちらに視線を動かしました。

「それは、裸を見ればサイズを推察出来る、と言う事ですか?」

 エルフ姉妹がここまで嫌がるのは、そういう事ですよね?

 そう考えた私の視界の端で、しかしそのエルフ姉妹が首を横に振っているのが視えました。

 え?

 エルフ姉妹の反応の方に気を取られ、恐らく揃って間抜けな顔をしてしまったであろう私と魔王様の耳に、その言葉は滑り込んできました。

「え? わざわざ脱いで貰わなくても、見れば判るじゃん」

 いや。

 いやいやいやいや。

 

 流石に意味が解りません。

 

「え? 服の上から? 見てサイズが判る?」

 魔王様が呆然と呟きます。

 それはそうです。

 なにせ、オリヤさんの発言の意味が分からないのですから、多少面食らうのも仕方がないことです。

 それは良いのですが。

 なんでその発言の後、無言でサリアさんの胸の辺りを凝視しているのですか。

 端的に言って非常に気持ち悪い行動ですし、サリアさんもドン引きです。

 今すぐその視線を止めて下さい。

「うん。サイズとか、型とか」

 フォーク片手にそんな事を考えている私に、オリヤさんの声が届きました。

 サイズ。型。

 一瞬何のことか、不覚にも理解し損ねた私でしたが、魔王様の先程の行動ですぐに気がつけました。

 そして。

 エルフ姉妹が嫌がる理由が解りました。

 非常に、純粋に物凄く気持ち悪いです。

 そう言えば、魔王様に出会う前に、何人か居ました。

 

 服の上から裸を想像するとか堂々語る類の変態が。

 

「いや、想像するというか、どっちかと言うと計算のが近いかな」

 またしても考えていたことが声に出ていたようですが、この際それは良いでしょう。

 寧ろ、手間が省けたというものです。

「いいえ、貴方のそれは想像、いえ妄想の域を出ません。例えば貴方は、私の下着のサイズを測れません」

 そういう類の変態性には、ここで自制を覚えて貰ったほうが良いです。

 私は決意を胸に、自信を持って断言すると、オリヤさんに指を突きつけました。

 挑発とはこの様にするもの。

 さあ、下着マイスターでしたか?

 その称号、手にした早々で恐縮ですが、奪わせて頂きましょう!

「え? 創れって?」

 しかし私の挑発に、気乗りのしない様子でオリヤさんは質問を返してきます。

 ふふ。私の自信の拠り所が解らないので混乱していますね?

 売り言葉に買い言葉で乗ってこない辺りは流石ですが、逃がす気はあまり御座いませんよ?

「はい。私としても、替えの下着が少々少なくなりまして。作って頂ければ幸いですが?」

 訳:創れるものなら創ってみよ。

 服の上からサイズが分かる?

 ふふん、その「根拠不明の自信」が貴方の足元を掬うのです。

 ()()()()()()()()()()()()等、誰が決めたのですか。

 私の態度に不審を感じるなら疑心暗鬼にも成るでしょうし、気にしないなら罠に嵌るのみ。

 そうして、()()()()()()()()()()()()で下着を創って御覧なさい。

 貴方のそのプライドは、粉と砕かれるでしょう。

 そんな私の謎の上から目線の嘲笑はしかし、直後のオリヤさんのセリフで地に堕とされ、凍りつきました。

 

「そっか、了解。俺も気になってたんだ、()()()()()()()()()()()()()()()()って言うし」

 

 背筋が、ぞわりと粟立つのが解りました。

 今、オリヤさんは何と言いました?

 オリヤさんの隣では、魔王様が信じられないと言う顔で私とオリヤさんを見比べています。

 視界の端では、サリアさんが同情顔をこちらに向けています。

 割と「型崩れ」という単語に動揺を誘われた私の目の前で、オリヤさんは目を閉じ、私を無視するように集中して押し黙りました。

 武器を創って貰った時と同じ、スキル「創造」を使っているのでしょう。

 しかし、武器の時とは違い、今は寒気が止まりません。

 オリヤさんは言った――見抜いた――のです。

 私の下着……ブラのサイズが合っていない、少しサイズが小さいのだと言う事を。

 この下着は魔王様がどこからか、しかし自信満々に選んで持ってきたものです。

 その時点で正直気持ち悪いと思いましたが、背に腹はかえられませんでした。

 それに、その、正直には口にできませんが。

 魔王様が態々選んで、持ってきてくれた事が、少し嬉しくも有ったので。

 だから黙って身に着けていました。

 感想も聞かれませんでしたので、不満を言う事も当然無く。

 故に、魔王様すらサイズが合っていない等、夢にも思っていない事でした。

 それを、オリヤ少年は、服の上から見ただけで、看破しました。

 いや、あの言いぶりは「看破していた」のでしょうか。

 言い出せず黙っていたが、気になっていた。

 そういう事なのでしょう。

 1人、考えてみれば割とどうでも良いことで戦慄する私の前、テーブルの上に、オリヤさんは静かにそれを置きました。

 それを手に取り、その手触りの良さと出来に肌を粟立たせながら、私は声を絞り出します。

「……なんで上下セットなのです」

 黒い下着セット、フリル付き。

 というか、なんでこんなに、無駄に豪華にフリルが……。

 その出来栄えに、魔王様は目頭を押さえ呟きました。

 呟きにしてはやけに声が大きいですが。

「見事なフリル……! これが……これがマイスター……!」

 感極まって涙を流すとか、すごく素直に気持ち悪いので今すぐ辞めて下さい。

 エルフ姉妹がドン引きだった気持ちがはっきりと判りました。

 そんな気がする私はきっと、その姉妹と同じ表情だったのだと思います。

 男性(バカ)2人の名誉のために、どんな表情であったかは明言を避けることにします。

 

 

 

 結果から言えば、着け心地は最高でした。

 え? 身に着けたのかって?

 そうしないと、本当にサイズが合っているのか判らないじゃないですか。

 そう思い、一度部屋に戻り着替えてみた感想を素直に言えば、着け心地はまさに極上で。

 サイズが合っていると言うことは、こんなにも感覚が違うのだと理解させられました。

 そんなぴったりのサイズ感と、更には今まで身につけたことが無い、柔らかで優しい肌触り。

 それが合わさった感覚は、一言では言い表せません。

 なるほど、だからこそ。

 それだからこそ。

 

 感情的にすごく気持ち悪いです。

 

「オリヤ。お前、やるじゃねえかよ」

 私の忌憚のない感想を聴いた魔王様は、意味不明の労いの言葉でオリヤさんの背中をバンバン叩いていました。

 それは良いとして、なんでちょっと顔を赤らめてるんですか。

 エルフ姉妹には完全に同情されています。

「いやいや、サイズを合わせるのは基本ですよ基本」

 その魔王様に応えるオリヤさんの、小憎らしい表情と言ったら……。

 どこか得意げなその顔、具体的に言えばその鼻っ柱に拳を叩きつけたい気持ちが溢れますが、忍耐を総動員して耐えます。

 両手が腰の左右に下げられている脇差の柄に添えられているのは偶然です。

 耐えなければいけないのです。

 耐えねばならぬ理由が、恥を偲んでも遂げねばならぬ物事が其処に出来たのですから。

「んじゃあ、今度は石材を買いに行こう」

「まってよ、その前にご飯!」

「え⁉ さっき食べたよね⁉」

 俄に賑やかになる食卓……そう言えば、さっきオリヤさん、新品とは言え下着を食卓に……。

 ……細かいことは置いておきましょう。

 今を逃せば、また後で恥ずかしい思いをすることになります。

 そんな事なら、今恥をかいてしまった方が、一時の恥で済む筈ですから。

「オリヤさん」

 恥ずかしいし気持ち悪いしもう、本当はこんな事頼みたくなんか無いのですが。

 ですが、この着け心地は反則です。

 こんなもの、1度着けてしまえばもう、今までの下着は無理に決まっています。

 そう、反則は行ったほうが悪いもの。

 つまり、悪いのはオリヤさんなのです。

「はい?」

 急に賑やかになった面々に辟易顔で、オリヤさんはこちらに顔を向けました。

 なんだかその表情も気に入らない私は、小さく舌打ちしてから徐に告げました。

 確実にオリヤさんの耳に届いた筈ですが、もう取り繕うのも面倒です。

「先程と同じサイズの下着類を6揃え、取り急ぎ用意して下さい。デザインはお任せします」

 今の自分の表情を想像するのが恐ろしいです。

 きっと柄にもなく、恥ずかしさに顔を赤くしてしまっている事でしょう。

 そんな私の言葉に、最初は何を言っているのか理解できていない様子のオリヤさんでしたが、隣の魔王様とアイコンタクトを取ると。

 魔王様とオリヤさん(変態と変態)が何やら意味ありげに押し黙ると、次の瞬間にはイヤラシくニヤリと笑い合いました。

 その遣り取りも、心の底から腹が立ちます。

 なんですかそのニヤけ顔は。

 というかなんで魔王様も乗り気なんですか。

 私は貴方の、貴方だけのメイドなんですよ⁉

 ……良いでしょう。後で覚えていて下さい。

 今は兎に角、利用できるものは利用します。

 割り切ることは大切なのです。

 ふと視線を感じて顔を向ければ、アルメアさんが目を輝かせて私を凝視していました。

 ……何がどうしてその表情なのか、理解が出来ませんが説明も欲しくありません。

 エルフ姉妹に「全てを受け入れる聖女」認定されていたなど知る由もなく、照れ隠しに腕組みしながらオリヤさんを睥睨し、気持ちを落ち着けることに腐心する私でした。

 

 

 

 後日、私のための下着類の出来に甚く感動した魔王様が、自分用にスーツを仕立てさせていました。

 ……下着類は頼んだのでしょうか?

 疑問は湧きますが興味は湧きませんので、特に聞くこともなく放置する事に決めたのでした。




いつもよりは短いんだよ?
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