タイトルなんて募集中ですよ   作:naow

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おやつ大戦争。
悲しみは繰り返されるのか。


ベッドは柔らかいほうがお好き?

 結果、ドーナツも取り上げられ、オリヤは侘びしく茶を啜っている。

 しかしその甲斐有ったのか、満足したらしい2人はにこやかに談笑している。

 先程までのギスギスは映像に残しておくべきだったかも知れない。

 オリヤはそう考えたが、漏れ出るため息は隠せなかった。

 

 

 

「色々質問とか在るかも知れないけど、まず言いたいのは」

 そう口を開いて、少年が言ったのは、改めて彼の年齢と、恐らく、と気を使うように前置きして。

 自分の方が年下だと思うから、呼び捨てで良い、そう言う事だった。

 何を言い出すのかと気の抜ける私の隣で、妹は元気に了解を伝える。

 本人がそれで良いなら、そうすべきだと思う。

 少なくとも私には異論はない。

 そう思いながら改めて室内を見回すと、非常に綺麗な……まるで新築の部屋だ。

 テーブルにも汚れはなく、グラスも綺麗で。

 見慣れない大きな箱と、食器棚。キッチンもあるが、見慣れない形状だ。

 あの銀色の曲がった筒はなんだろうか?

 (サリア)は初めこそさり気なさを装っていたが、いつしか興味の赴くままに室内に視線を走らせていた。

「あの……そろそろ本題、良いかな?」

 オリヤが、何故か少し恨めしそうに此方を見ている。

 何だろう? 何か気に触ることでも有っただろうか?

 ああ、きっと本題とやらを話したくて、待ちきれなかったのだろう。

 年相応に不貞腐れて居るのか、可愛らしいところも有るらしい。

「あ、そっか、そう言えば工房の話だったわよね」

 私が何か言う前に、アルメアが口を開く。

 私より多くどら焼きを食べた癖に。

 ドーナツも多く食べた癖に。

「うん。工房をこの空間に作りたいなって話をしたかったんだけど」

 オリヤは行儀悪くお茶を啜っている。

 お茶菓子は……ああ、そっか、私達にくれたんだっけ。

 何故か、オリヤが目を合わせてくれない。

「ここを、工房にするの?」

 私より多くお菓子を食べたアルメアが問う。

「いんや、ここは食堂だから。ここじゃなくて、別の部屋をね」

 オリヤは言いながら立ち上がると、入口の方へ向かう。

 入り口で立ち止まり、何か廊下の奥を見つめているようだ。

「……工房もそうだけど、2人の部屋も有ったほうが良いかな?」

 そう呟く声が聞こえた。

 部屋?

「オリヤの部屋も有るの?」

 食いしん坊がひょいひょいとオリヤに近づく。

 この子は、お菓子ですっかり懐柔された感がある。

 私の分も食べた癖に。

「ん? うん、この隣が俺の部屋だなぁ」

 オリヤが言うと、アルメアはひょいひょいと部屋を出ていく。オリヤの部屋に向かったのだろう。

 警戒心云々より、オリヤを置いてオリヤの部屋に向かうのは、どうなんだろう。

「……なんで俺の部屋に向かうんだ?」

 おお、オリヤが困惑している。

 何だか興味が湧いて、私も立ち上がる。

 オリヤが歩く後ろに付いて、オリヤの部屋とやらを覗きに向かうのだった。

 

 ひどく殺風景な部屋だと思った。

 ベッドがひとつ。

 開きっぱなしのクローゼットの中には、上着が何着か掛かっている。

 他には、壁にくっ付くように置かれた机がひとつ、そこに椅子が一脚。

 机の隣に、チェストが1台。

 他には……天井に、見慣れない照明が煌々と灯る、それのみだ。

 ベッドが寄り添う壁には窓があり、カーテンで遮られている。

「……なんにも無いわね」

 何故かベッドの下を覗き込んでいるアルメアが、どういう訳か残念そうに言う。

 そんな所に何が有ると言うのか。

 オリヤは何とも言えない顔で押し黙っている。

 何だと言うのだろうか。

「オリヤ、この部屋に私達も?」

 一緒に寝泊まりするのだろうか? それ程広くもなく、何より寝具がひとつしか無い。

「いやいやいや、それは不味いでしょ」

 苦笑しながら否定して、オリヤは部屋を出る。

「どうしようかなあ」

 なにか言っている。アルメアを置いて、私も廊下に出る。

 そこでは、オリヤが腕組みして何事かを考えていた。

「どうしたの?」

 声を掛けると、振り向いて、困った顔で頭を掻く。

「えっと、考えてみたら、2人がここに部屋が欲しいか、聞いてなかったなあと」

 何を言っているのか。自分の部屋に一緒はマズイ、そう言ったのはオリヤ本人だ。

 どうしたと言うのか。そこまで考えて。

 あ。

 この子、気を使っているんだ。

「俺はここでも、野営でも構わないけど。2人は……ここ、不安じゃないかと思ってさ」

 ここまで「案内」して、尚。

 私達の意思に任せると言うことなのだろう。

 ここまで一緒に、短い時間だけれど一緒に行動して。

 私達に命令なりしようと思えば、チャンスは有ったのに、それを自ら潰して。

 その理由は、私達に自由を与えるため。

 (アルメア)と目を見合わせる。

 アルメアも、似たことを思っているようだ。

 どうにも不器用で、捕らえ所が無くて、子供っぽさも相応に有って、変態で。

 総じて言えば、善人に近い変人。

 この子は、私達の自由意志を尊重しようとしてくれる。

「じゃあ……」

 私は少し楽しくなって、妹に目配せする。

「向かい側にある部屋がいいかな」

 アルメアも楽しそうに、オリヤの部屋の向かいの扉を指差す。

 オリヤはキョトンとして、直ぐに……妙な顔をする。

 強いて言えば、正気か? と問うかのような。

 よく判らないけど、失礼な子だ。

「うーん、いいけど、工房にしようかと思ってたんだよ」

 オリヤは頭を掻きながら、向かいの部屋に向かう。

 特に鍵は掛かっていないようだ。何故なら、オリヤを追い越したアルメアが堂々とドアを開けたからだ。

 我が妹ながら、物怖じしない子だ。

 つい数時間前までの悲壮感も絶望感も、何処かにやってしまったかのようだ。

 ……そんな訳ないのに。

 人を信じられる程の時間は経っていない。

 たまたま、綺麗な身体で居られただけで。

 この1ヶ月、商品としてぞんざいに扱われて、荷物は全て奪われ。

 首輪を掛けられ、そして始まった絶望。

 どう扱われるのか、想像して震えて。ろくに眠れず、今だってオリヤには悪いが、恐怖心が全く無い訳じゃない。

 そのオリヤは何も言わないが、気を使っているのだ。

「なんにもなーーーい!」

 部屋の中から、アルメアの声が響いてくる。

「そりゃあそうだろう……」

 オリヤはため息を吐いて部屋に入り込む。

「狭ーい! もっと広いのが良ーい!」

 アルメアは努めて明るく振る舞っているようだ。

 或いは、オリヤを試しているのだろうか。

 何処まで、オリヤが普通に振る舞えるのか。

「えぇ……。んじゃあ、隣の部屋とつなげるかぁ」

 オリヤの声がのんびりと響く。

 何処までも、オリヤはマイペースで、表情は色々変わるけど。

 怒ったり、脅したり、そういった事は一度もしなかった。

 部屋を覗くと、オリヤが奥の壁に向かって手を伸ばしている所だった。

 部屋全体に魔力の流れを感じる。

 それ以上に、オリヤが強い魔力を放っていた。

 何を、と考えていると、オリヤの前から壁が消える。

 ……本当に、やることがいちいちとんでもない。

 考えてみれば、ここもよく判らない場所だ。

 後で説明して貰おう。

 そんな事を考えている間に、アルメアはオリヤにベッドを作らせている。

 我が妹ながら、順応の早い子だ。

 無駄に広くなった気がするけど、まあ、いいか。

 ベッドが2台出来上がっている。

 なんだか見慣れないベッドだけど、揺れる床で寝るより遥かにマシだろう。

 寝具も創って貰って、アルメアもご機嫌だ。

 ついでのように、オリヤは部屋の継ぎ目だったところを綺麗にし、まるで元々ひとつの部屋だったように仕上げ、繋ぎ目だった部分の壁に窓を増設してくれた。

 カーテンの向こうはさっきの草原で、どうなっているのか非常に不思議だ。

 でも、暗い洞窟のようではないので、安心できる。

 チェストを2台創ると、アルメアのスイッチが入ったようだ。

 服をあれこれと要求している。

 アルメアのよく判らない抽象的な要求と、それを受けて(何故か)的確に服を次々と創り上げていく。

 それらは見たことのないデザインも有ったが、基本はひとりで着脱出来るものばかりだ。

 それなのに、やたらと豪奢であったり、清楚であったり、様々である。

 アルメアのあの指示で、よくもまあこれ程、と呆れる間に。

 ブラウスが、スカートが、パンツが、ジャケットが、山となって積み上がっていく。

 ご丁寧に私の分も考えているらしく、微妙にデザインや色が違う物を、2種類ずつ創っているようだ。

 さらなる(アルメア)の要求でクローゼットが大きくなり、チェストが更に2台増設される。

 二部屋に渡るカーペットを織り上げ、いかにもアルメアの好きそうなテーブルセットが創り上げられ。

 殺風景だった部屋は少しずつアルメア色に染まっていく。

 ちなみに此処まで、私は口を挟んでいないし何かを問われもしていない。

 (アルメア)(アルメア)だが、オリヤも少しは此方に聞いても良いのではないのか。

 少しムッとした私は、年甲斐もなく「大きなぬいぐるみ」を所望し、私達の身長に匹敵する、デザインだけは可愛らしいクマのぬいぐるみを2体作らせたのだった。

 

 どれくらい時間が過ぎただろう。

 少し。そう、少しはしゃいでしまったらしい。

 気のせいか、オリヤの顔色が悪い気がする。

「工房は、俺の隣の部屋にするかな……」

 青い顔で力なく呟くと、オリヤはすっかりファンシーな装いの部屋を、少しふらつく足で出口に向かう。

「とりあえず、適当に寛いで……キッチンの冷蔵庫に飲み物とか有るから、適当に飲んだりしてくれて良いよ……」

 そのままオリヤは自分の部屋に戻っていった。

 私達は見送ってから顔を見合わせ……取り敢えず部屋の扉を閉める。

 作業を終えてから、少し……オリヤの様子がおかしい。

 流石に……色々作らせ過ぎたのだろうか? 少し反省する。

 調子に乗ってソファまで作らせたが、私より調子によじ登っていたのはアルメアだ。

 ベッドのデザインが気に食わないと、2回作り直させていた。

 ふとオリヤの部屋の殺風景さを思い出し、ホントに同じ人間が創ったものか疑わしくなる。

 そう思って改めて部屋を見渡すと……。うん。

 作らせすぎだ。アルメアはせっせと上着やローブをクローゼットに掛けていく。

 あ、あのローブ可愛い。

 ちょっと興味を惹かれ、私も服をハンガーに掛ける作業を手伝う。

 ジャケット、ローブ、その他上着類と気に入ったデザインのスカート達をクローゼット一杯に掛け、一旦作業を止める。

 まだ床に散らばる物は後で畳んでチェストに入れるとして……なんでこんなにブラやショーツが有るのか不思議である。

 今、身につけている事実が既に如何ともし難いが、替えをこんなに用意してくれた、ありがとう! とは思えない私が居るのは否定できない。

 取り敢えず下着類については置いといて。

 あとで、ちゃんとお礼を述べねばならないだろう。

「オリヤ……どうしたんだろうね?」

 ベッドに腰掛けながら、アルメアは疑問を述べ、そしてすぐに奇声を発し、驚いたように立ち上がる。

「なに、どうしたの?」

 ベッドが思ったよりも硬いのだろうか。

 確認するように、何度もベッドを叩いている。

 何が気になるのか判らないが、もうちょっとオリヤの心配をしても良いのではないだろうか?

「姉さん、ベッド! ちょっと座ってみて!」

 何を興奮しているんだろう?

 子供じゃあるまいし……。

 ちゃっかりと窓側のベッドを取った妹を横目に、私は廊下側のベッドに腰をかける。

 柔らかいけど、思ったよりもしっかりしてるのね、そう思おうとした瞬間。

 私の体重を受けたベッドが、ふんわりと、ゆっくりと沈んだ。

「⁉ ? ⁉」

 初めての感触。思わず立ち上がる。

 そして気付く。これか。

 アルメアを見ると、意を得たりとばかりに、こくこくと頷いている。

「な……なに、これ」

「凄いよ! ただ柔らかいんじゃない、支えてくれるのに、ゆっくり沈むみたいに!」

 言うが早いか、アルメアはベッドに全身を投げ出し、感触を確かめている。

「ああああぁぁぁぁ……身体がぁ……沈むぅ……」

 いや、これは。確かめて居るんじゃない。

 完全に身を任せている。

「アルメア、あなたそのままじゃ寝ちゃうから、せめて上着は脱ぎなさい」

 声を掛けてみたが、遅かったらしい。

 アルメアはうつ伏せのまま、もう眠りに落ちていた。

 窒息しないか軽く不安であるが、多分……大丈夫だと良いな。

 少し心配だったのでアルメアをひっくり返し、それでも目を開けない様子に軽く慄きながら、私も上着を脱いでベッドに横になった。

 そうだ、考えてみたらこの1ヶ月、ちゃんと眠れていなかった。

 それでこのベッドの絶妙な柔らかさは反則だ。

 これではアルメアは勿論、私でも眠気に勝てる訳がない。

 沈み込むベッドに、私の意識も沈んでいくのだった。

 

 その頃、オリヤも「創造力」の使い過ぎで気分が悪くなり、自分の部屋でベッドに横になっていた。

 彼のベッドはこだわりの畳ベッドであった。

 

 

 

 ここは何処だろうか?

 オリヤは靄がかかったような頭で考える。

 たしか、あの2人の部屋を創って、なんかベッドとか色々創って。

 思いつく限りの好みの下着を創った気がするが、その後、部屋に戻って。

 自分のベッドに倒れ込んだのは覚えているが、それからどうなったのか。

 のっそりと、身体を起こす。

 そこは、見慣れ無いが見覚えの有る、白い世界だった。

 

 あっれぇ? 何、俺、また死んだの?

 オリヤはそう考えながら、頭を掻く。

 見回す視界の中に、白い扉が有る。

「織弥さーん、どうぞー」

 扉に気付いて間もなく、名前が呼ばれる。

 目を覚ますのを待ってくれていたらしい。

 立ち上がりながら、あれ、あのソファー無いなあと、どうでも良いことを考える。

 

「お久しぶりでーす」

 扉を押し開けて、気の抜けた挨拶を上げる。

 扉の向こうは……なんだか様子が違っている。

 前来たときより、何だか家具が増えている気がする。

 こんなソファ、有ったっけ?

 それに、室内の人も増えている。

「あ、オリヤ!」

 ここ数時間で聞き慣れた声が聞こえる。

 キラキラ輝く白銀の髪。

「あ、妖怪スィーツおいてけ」

「誰が妖怪か!!」

 元気で美人可愛いアルメアさんである。

 よく見ると、隣りにいるのは双子のお姉さんのサリアさん(金髪)である。

 妹さんと違って、少し不安そうな顔で此方を見ている。

 増えた人数が関係者という事で、途端に嫌な予感が大挙して押し寄せる。

 まさか。

 「移動拠点(シェルター)」が崩壊して、3人共……?

 それ程脆く創った覚えはないが、しかし不測の事態は起こるものだ。

 最悪の場合に備え、内部の生命体は自動的に排出する機能も付けていた筈だが、それも駄目だったのだろうか。

「やぁ、織弥くん。久しぶりだね」

 ハッとして顔を向けると、神様がにこやかに手を振っている。

「あ、神様、お久しぶりです」

 オリヤは考え事もそこそこに、ペコリと頭を下げる。

 すると、エルフ姉妹が声を上げる。

「えっ⁉」

「神様⁉」

 2人はワタワタと立ち上がり、神様に向かって深々と頭を下げる。

「あ、気にしなくていいよ、ケーキのおかわりはいるかな?」

 神様は相変わらず線の細い顔でニコニコと微笑んでいる。

 うーん、威厳を感じもするが、この線の細さ。

 この2人、一体何者と思っていたんだろうか。

「あ、是非ッ!」

「こらっ! アルメア!」

 物怖じしない妹さんが神様にケーキのおかわりを要求している。

 すごい光景である。

「あはは、気にしなくて良いんだよ。あ、ケーキを3人分お持ちして」

 神様、ただのイケメン説。

 爽やかに、そしてさり気なくオリヤの分も用意してくれるらしい。

 実は自分の分だったりしたら、寧ろ尊敬する。

「はい、では、お茶も用意しますね」

 助手? の、目のないお姉さんが返事して立ち上がる。

 何だろう、この和やかな空間。

 違和感しか無い。

 落ち着かない思いのオリヤは、さてサリアの隣に座るか、どうするか考え込む。

 そもそも、この空間に3人で呼ばれた理由は何だろう。

 やはり死んだのだろうか?

 しかし、輸出2回目と言うのは有るのだろうか。

「織弥くん、取り敢えず座りなさい」

 あれ?

 オリヤは神様の声にびくりと身体を固まらせる。

 あれ? 神様、何だか怒ってない?

 オリヤはおずおずと、テーブルの端に付き、その場に正座する。

「……オリヤ、あんた何してんの?」

 それを見て不思議そうに、不審そうにアルメアが口を開く。

 口にこそ出さないが、サリアも同じ事を考えているようだ。

 だが、これで良いのだ。

 古来より、説教を受ける側は正座するものと相場は決まっている。

 オリヤは生前、褒められるような少年時代ではなかった。

 説教を受けることなど茶飯事であったのだ。

 故に、断言出来る。これは、お説教コースだ。

 神様がやにわに纏った雰囲気が、怒っている父のそれとそっくりであるのがその証左だ。

「ふむ。心当たりはある、と言うことかな?」

 神様が怒りの空気を纏ったまま、にっこりと微笑む。

 怖いです、神様。

「すみません、判らないっす」

 変に賢しげに判った振りをするのは逆効果。

 生前の経験である。

 背中に嫌な汗を浮かべながら、縮こまるオリヤの前にお茶とケーキが。

 エルフ姉妹の前にも新しいケーキが置かれる。

 サリアはオリヤの様子と神様の雰囲気が変わったことを感じ取り、アルメアはケーキの甘さを口いっぱいに感じている。

「そっかぁ。判らないかぁ」

 そんな空気の中、神様は口調だけはのんびりと。

 表情は変わらずにこやかに続ける。

「今日の事なんだけどね?」

 今日……。

 オリヤは記憶を探る。

 今日した事で、怒られるような事?

「えーっと、連続殺人でしょうか?」

「ブーッ」

 軽い。

 神様の纏う雰囲気は変わらないのに、まるでクイズでも出しているような気軽さで。

 と言うか、殺人以上に神様を怒らせる事?

「……もしかして、俺の移動拠点(シェルター)が崩壊して……2人を巻き込んだとか、そういう事でしょうか?」

 考えたくない事だが、他に思い当たる事がない。

 恐る恐る、口の端に乗せる。

「残念! 君のその移動拠点(シェルター)での事ではあるんだけどね」

 というか、崩壊もしてないし死んでないヨ。

 神様はそこだけ雰囲気を和らげて教えてくれた。

 心底ホッとしたが、しかし、そうなると本気で判らない。

 移動拠点(シェルター)絡み? おかしい、特に不埒な事はしていない筈だ。

 そこで思い当たる。

「あっ! この2人の暴食ですか⁉」

 びしりと、音が鳴りそうな勢いでエルフ姉妹を指差す。

 7つの大罪にも数えられる暴食。

 この2人は、あろうことかおやつに用意していたどら焼きを7個平らげ、更に5個のドーナツを食べ尽くした。

 オリヤの口に入ったのは、ドーナツがわずか1個である。

 糾弾された方は納得がいかないのか、即座に応じる。

「ちょっと! 暴食って何よ⁉」

「私はアルメア程食べてないわよ!」

 そして始まる睨み合い。

 ただし、姉妹で。

「ブーッ。ハズレ」

 なんですと……?

 いよいよ判らない。

「まあ、正確には移動拠点(シェルター)だけの話じゃないけどね」

 神様は机に肘を置き、指を組んで顔を隠す。

 あれ? そのポーズ知ってるぞ?

「今日、何回「創造」したかな?」

 虚を突かれて、オリヤは素直に指折り数える。

 移動拠点(シェルター)での惨事を思い出して、すぐに計測を諦めた訳だが。

「さて。君の『創造力』は制限があるのは覚えているかな?」

 神様の指摘に、オリヤはぼんやりと考える。

「『創造力』で創る物は、基本的に材料(素材)と俺の魔力が有れば、想像するだけでOK。ですよね?」

 合っている筈だ。大丈夫、忘れてないよ神様。

「まあ、覚えてる様でなによりなにより。で」

 神様に、怒りに似た威圧感が戻る。

「君は、今日。()()()()()()()()()()()()()()?」

「……あっ」

 言われて気付く。

 そうだ。

 元々有った移動拠点(シェルター)の壁と、馬車の檻と鎖は素材に変換したからまだ良い。

 今日作ったもので、大物はベッド2台、チェスト4台。此処までで、金属は兎も角木材は足りていない。

 窓ガラス2枚も、素材ナシだ。

 更に、ベッド用のマットレスと、その他大量の服・下着類。あ、ぬいぐるみも。

 これらに必要な布など、当然のように素材無しで創っている。

 出来るから気にならなかった。しかし、考えてみれば妙である。

 なんで、素材もなしに作り上げることが出来たのか?

 空気中の分子を?

 いやいや、あれほど大量の服を作り上げる程の成分は含まれていないし、よしんば出来たとして、密室でそんな事をしたら即、窒息死だろう。

 では、何故可能だったのか?

「素材無しの『創造』は、実は可能だった。君が実践するまで、考えもしなかったけどね」

 神様は初めて、声から笑みの成分を消した。

「厳密には……素材は消費されていたんだ」

 神様は静かに、オリヤの瞳を見据える。

 オリヤは言葉を発することも出来ず、ただ神様に視線を返すだけだ。

「織弥くん。君が今日、素材を用意せずに創り上げたものは……君の魂を原材料としている」

 3人に、衝撃が走る。

 神様の言うことが本当なら。

 オリヤは今日、文字通り魂を削って2人のために服を創ったということになる。

 当の本人の様子を見るに、知らなかった様だが……知らなかったで済む事でも無いのだ。

 言われてみれば、今日、大量に「創造」を行った後、そこまでは大体マイペースに微笑んでいたオリヤが、異常なまでに疲弊していた。

 ……そう考えるサリアは、ダイニングでオリヤのお菓子を取り上げた時の彼の様子を覚えていない。

 奴隷商を「処理」した時も、特に表情に変化の無かったオリヤが、驚くほどに顔色を悪くしていた。

 ……記憶を辿るアルメアの脳内には、そもそもオリヤからおやつを強奪した記憶が無い。

 なんと言う事だ……。

 オリヤはワナワナと震える。

「俺は……」

 拳を握りしめる。

「魂を込めたつもりが、本当に魂でブラを! パンティを創り上げてしまったのかッ!!」

 なんと言う事だ。

 自分の才能、いや、違う。

 自分の情熱が恐ろしい……!

「サイッテー!」

「気持ち悪いからそういう言い方やめて!」

 エルフ姉妹には何故か不評である。

 肌触りが悪いのだろうか?

「馬鹿な事を言ってる場合じゃないんだよ、織弥くん」

 神様までバッサリと斬り捨ててくる。あんまりである。

 ショックを隠しきれないオリヤに、神様は静かに語りかける。

「君をこの世界に送った目的を忘れていないかい、織弥くん」

 目的? オリヤは脳をフルで回転させる。

 そもそも、目的というものは立てなかった。

 好きに生きて、好きに死ね。ざっくりいうとそういう「条件」でこの世界に輸出されてきたのだが、強いて言えば世界を旅する事が目的だろうか。

 いや……待て。そうじゃない、神様はその前に話してくれていた。

 魂のバランス。

 魂が増えすぎた地球から、その逆に――魂が減っているであろうこの世界へ。

 ヘッドハントと言う言葉の意味。

 輸出と言って間違いないと笑った意味。

 

 ヘッドハントとはつまり、この世界からヒトの大きな魂、其の物を求められたということで。

 輸出とは、作物のように実りすぎたヒトの魂をこの世界に送り出すということ。

 

 能力の話じゃない。魂の話だった。

 この世界では、死後世界に還元される魂が必要だったのだ。

 死して後、この世界に――分解され、生命の素として魂が還元される約束だからこそ。

 並外れたステータスが与えられ、タガの外れた能力を与えられたのだ。

 好きに生きて――人生を好きな様に、後悔のないように謳歌して。

 好きに死ぬ――納得して、魂を分解する、その為に。

 

 そして、だからこそ判った。

 こうして神様に呼び出され、説教を受ける意味。

 

 サリアは神様の言葉の意味がよく判らない。

 この世界に、送られた?

 どういう事だろうか。

 隣のアルメアを見るが、やはり判らない様だ。難しい顔で考え込んでいる。

 オリヤは黙し、神様も言葉はない。

 問うても良いのだろうか? そう思うが、声が出せない。

 喉が張り付くようで、そっとお茶を口に運ぶ。

 何なのだろうか。オリヤがこの世界に来た目的とは。

 あれ程の能力(ちから)を持ってこの世界に来た、或いはあの能力(ちから)が有るからこそこの世界に来たのか。

 神様に問いただされるほどの目的とは、何か。

 じっと見つめるサリアの視界の中で、オリヤは顔を上げ、ハッキリと口を開いた。

 

「この世界で好きに生きて、そして死ぬこと。ただし……魂をこの世界に還元させる形で」

 そうだ。魂を世界に還元し、生命の循環の一部となる。

 その為には、魂をきちんと残さなければならない。

 エルフ2人にとって、それは当たり前の魂のサイクル。

 だから、真面目くさって言うオリヤに共感出来ないし、続く言葉も想像出来ないのだ。

 無論、オリヤには理解できている。

 神様がこうして説教の場を設けると言う事、それはつまり。

「だから、素材無しで『創造』を続けると不味いんですね? 最悪、魂が消滅して死ぬ事になるから」

 オリヤが口にして、初めてエルフ姉妹の顔色が変わる。

 魂の消滅。世界に帰ること無く、文字通りに消滅すると言うこと。

 その恐ろしさは想像も出来ないのだ。

 長き時を生きるエルフも、死を免れることは出来ない。

 だから、己の生きた証を残したいと思うのは、程度の強弱はあれ人間と変わらない。

 それでも、死んだ後に自分の魂が大地に帰り、新たな生命を育む土壌と成る。

 その循環が有るから、死を受け入れることも出来るのだ。

 愛する者とを死が隔てても、なお、いつか循環の環の果てで再び会えると信じればこそ。

 だがそれも、魂其の物が消滅してしまえば叶わない。

「そうだね。君は今日、これくらい魂を使用した」

 神様が言うと、神様の後ろの空間に円が現れる。

 何事かと訝しむ3人の前で、円の中心から真上に線が走り、更にもう1本の線がスライドするようにずれて、線と線の間の部分の色が変わる。

 これは……円グラフ!

「総量の5%だね」

 わかりやすいが、円グラフにする必要は有っただろうか?

「心配だろうから教えるけれど、魂は生命を元に、回復できる」

 神様は笑っていない。

「条件は、生命に力があること。分かりやすく言えば、HPに余裕が有ること。そして」

 神様は続ける。

()()()()()()()()()()()

 音を立てて、オリヤは唾を飲み込む。

「生命に力が有っても、魂がなくなってしまえば回復できない。そして」

 神様は、静かにオリヤを見据える。

「魂がなければ、死んだ時に世界に還元されない――消滅ということだね」

 この世界で魂を失うことは即ち、即生命を失うという事ではない。

 だが、魂を失えば回復せず、死後、完全に存在が消滅する。

 サリアとアルメアが、青い顔でオリヤを見つめる。

「それは、僕がこの世界の神との約束を違えた事に成る。契約不成立と言う事だね」

「だから、困る、と」

 オリヤの問いに、神様は静かに頷く。

「そういう事。だから」

 神様が、再度にっこりと笑う。

 しかし、何故だろう。背筋が凍る、気がする。

「君が魂を使い果たしたりしないように、お目付け役をつけようと思う」

 なんですと⁉

 オリヤは視線を巡らす。まさか、この。

 視線の先では、目の無いお姉さんが小首を傾げている。

「や、違うよ織弥くん。僕の助手の子を連れて行かないでくれるかな?」

 こいつ正気か。神様は声にも顔にも出さない。

「なんでこの2人を一緒に呼んでると思ったんだい?」

 言われて、オリヤはエルフ姉妹に視線を向ける。

 向けられた先では、今ひとつよく判っていないらしい2人がきょとんとしている。

 この2人が……お目付け役、そう言う事か。

「君が素材無しで『創造力』を、最悪でも使いすぎないように。彼女たちに、監視をお願いしようと思うんだ」

 思った通り、彼女たちがお目付け役らしい。

 まあ、暫くは、一緒に……って、マズイ。

「神様、ちょっとまって、その2人はマズいっす」

 慌てて立ち上がる。ステータス補正か、両足は痺れとは無縁である。

「その2人は、故郷に帰る旅路の途中です」

 俺のような根無しとは違う、言いかけて口を噤む。

 自分も、根無しとは言えない。

 帰る家が有るのだ。いつか、帰る家と、その家族が。

 そう思うと、余計に2人にお目付け役をさせるわけには行かないと強く思う。

 なにせ、2人は。

 攫われ、故郷から遠く離れた地まで運ばれて来たのだ。

 2人には非は無い。

 ただ、奴隷狩りに遭遇した運の無さが有るだけで。

 罪もなく、囚われ、奴隷にされかけた……いや、一時は間違いなく奴隷であったのだ。

 そんな2人を、自分のミスで縛り付けるようなことはしたくない。

 

 珍しく、ぽつぽつと、たどたどしく。

 オリヤは、自分が痛みに耐えるような顔で言葉を紡ぐ。

 この2人には、自由になる権利が有って、それを行使すべきだと。

 神様は言葉もなくオリヤに目を遣り。

 エルフの姉妹はオリヤの言葉に偽りがないと感じた。

 だから、言葉を掛けようにも言葉が出てこない。

「だから、お願いします。この2人の自由を奪うことは、しないで下さい」

 オリヤは言葉を結び、神様に頭を下げる。

 真摯な祈り。

 のんびりとした、何処か抜けたオリヤとは別の。

 正面から向き合わなければならない、偽りの無い言葉でなければならない。

 そう考えたオリヤの、精一杯の誠実さであった。

「なるほど、織弥くんがそんな真面目な顔するなんてねぇ」

 神様は嬉しそうに微笑むと、さてどうしたものかと考える。

 アルメアは神様を見て、そしてオリヤに視線を走らせて、サリアに目を向ける。

 そこで、サリアと目が合う。

 オリヤの気持ちは解った。

 どこまでも、善人に近い変人。

 自分の事より、今日出会ったばかりの自分たちを優先している。

 だが。

「神様、お聞き下さい」

 サリアは静かに立ち上がり、そして神様の前で手を合わせ、膝を折る。

 それはまるで、祈りのように。

「私達は、オリヤの言うように、奴隷に落とされ、そして救われました」

 並んで、アルメアが同じく祈りの姿で膝を折る。

「望まぬことですが、それは私達の油断が招いた事。本来であれば、救われることなど有り得ない事でした」

「本当なら、最早帰郷など望めない事。救われた自由なら、その自由を思うままに使いたいのです」

 オリヤが何か言おうとするのを、神様は唇に人差し指を当てて止める。

 そのやり取りが見えていない2人は、祈りを続ける。

「それに、私達はエルフ。人間とはそもそもの寿命が違います」

「故郷に帰るのは、オリヤを見守り、見届けてからでも遅くは感じません」

 祈る2人は、揃って頭を上げる。

「私達は、神様の命を受け、オリヤの目付を行うことを、此処に誓います」

 完全に重なる声。

 オリヤのお目付け役を受けると言う事。

 それは、オリヤと共にあるという事。

 さっきまで自分が真面目に2人の自由を主張して居たのだが、何故か今は恥ずかしい。

「なるほど、2人の気持ちも良く判った。織弥くん、君はどう思う?」

 神様は楽しそうだ。

 こうなると判って居たのだろうか?

 神様には頭が上がらないのは、真実であるようだ。

「2人には、なるべく自由で居て欲しいのは本心ですよ。2人が自由意志で決めたのなら、止める権利なんて無いっす。ただ」

 オリヤは照れ隠しに頭を掻いて、それでも確認するように言う。

「俺への恩とか義理とか、そんな気持ちで」

「2人はその気持を第一に考えているんだ。その事も考えてあげなきゃいけないよ?」

 しかし、セリフは神様に遮られる。

「2人の自由を考えるなら、君が無理しなければ良いだけさ」

 自制が完全にできるなら、2人をお役御免にも出来る。

 神様に言われ、オリヤは考え込む。

 確かに、自分が無理しなければ、無理しないと神様に認定されれば、お目付け役は役目を終えるだろう。多分。

「判りました、俺が無理しなきゃ良いのなら願ったりです。あんな疲れるのはゴメンですしね」

 一旦言葉を切って、2人の方に目を向ける。

 サリアとアルメアは、オリヤに任せる、という目で――思い込みだろうなあと自覚しつつ――此方を見ている。

「なるべく早く2人が自由になれるように、俺も努力します」

 神様は満足そうに頷いている。

「お目付け役がこんな美人、しかも2人だ。もっと喜んだりしたらどうだい?」

「美人だから問題なんスよ。世の野郎どものやっかみなんざ、好んで受けたいもんじゃ無いっす」

 心底うんざりと、オリヤはため息を吐く。

 ひとり旅の夢は儚かった。

「贅沢な悩みだねぇ。まあ、自業自得と諦めて、お目付け役に迷惑を掛けないようにね」

 にこにこと、神様はオリヤを誂う。

「さて、そうと決まれば、2人にも少し能力(ちから)をあげよう。織弥くんはちょっと強い人間だから、振り回され過ぎないようにね」

 ちょっと? 今、ちょっとって言った?

「神様、あれ、ちょっとじゃ済んでませんよ。なんですかあのステ」

 不満ではないが、困惑したのは事実だ。

 この際だ、少し文句を言おう。

 そう思ったオリヤだが。

「君のはちょっとだよ。筋力で最強になりたい、とか、魔王になりたい、ってヒトも居たんだから」

 どうも、ホントに他の願いに比べたら些細だったらしい。

 筋力で最強ってなんだ。筋肉のうねりひとつで大地を割る気か。

 魔王ってなんだ。友好関係を結べたら、何の悩みも無くなりそうだぞ。

「その方々は、今は……」

 出来れば会いたくない、そう思いながらも問わざるを得ない。

「現役だよ?」

 現役らしい。

 現役の魔王とか、ホント会いたくない。

 筋肉至上主義者も、出来れば遠目で見る程度で済ませたい。

 俺も、もっと欲張れば良かった。

「もう1個くらい、なんかお願いすりゃ良かった……」

 素直に思った事を口に出してしまう。

 神様は聞こえないふりで流してくれた。

 残念な様な、有り難い様な。

 

 サリアが望んだのは、魂をも癒やすような回復力。

「それはそのまま叶えたら、君の魂をすり減らしそうだ。1日当たりの回数制限でどうだろう? レベルアップで回数が増える様な」

 果たして、言葉通りなのか、別世界の知的生命体に過剰な能力(ちから)を与えないように制限しているのか、オリヤには判断が付かない。

 アルメアは、オリヤが暴走した際に力尽くで止められる魔力を欲した。

 本音はオリヤを守る矛になりたいと望んだのだが、それは秘密である。

「なるほど、ただ通常の魔法も自分の限界を超えて使おうとすると魂の力を使ってしまう、お姉さんと同じく、使用回数制限付きの能力向上(ブースト)でどうだろうか?」

 どうも、能力(ちから)を与え過ぎる訳には行かない、というのが正解らしい。

 2人とも神様の提案に納得し、望む力を手に入れた。

 どうも基本ステータスも強化してくれたようで、どうやら2人とも運意外のステータスが平均で400程度に。

 サリアは精神力711、知力632とこの2つのステータスが抜きん出て居て、それに支えられた魔力(MP)は8万を超えたらしい。

 アルメアは精神力608、知力723でやはりこの2つのステータスが高い。魔力(MP)は同じく8万超え。

 ちなみに、2人のレベルは42。

 意外とレベルが高いが、元からこのレベルだろうか?

 あの奴隷商のレベルはどれほどだったのか、そう考えていると、2人が「レベルが20以上も上がったよー!」と喜んでいる。

 なるほど、そういう事ね。

 神様を見れば、神様はサムズアップでウインクしてくる。

 何の合図だ、何の。

「織弥くん、ちょいちょい」

 やべえ、神様に心読まれたか?

 冷や汗を流しながら、神様の方へと歩く。

 神様は口元に手を当て、わざわざオリヤの耳元まで寄って囁く。

「もう1個、能力(ちから)が欲しいんだって?」

 聞いてたのか。

 顔を巡らせると、判っているよ、という顔の神様。

 こんなに乗り気の神様を前に、遠慮するのも野暮だろう。

 とは言え、特に欲しい能力(ちから)も思いつかない。

「んー。じゃあ、こんな能力(ちから)って貰えるかな?」

 適当に考えた末、オリヤは神様の耳元に囁き。

 凄く呆れられた。

 

 

 

 目を覚ましたのは、朝日で明るくなった部屋の中だった。

 んー……夢……だったら良いなあ。

 最後に神様に貰った新しい能力(ちから)を試し、ため息と一緒に肩を落とす。

 夢で無かった事を確認し、軽く着替えて「身体洗浄」で身支度を整え、部屋を出る。

 さて……まだ2人は寝ているかも知れない。

 なら、まずは朝ごはんでも用意しよう。

 ダイニングキッチンに入り、テーブルの上にご飯を並べようとして動きを止める。

 ……待ってる間に冷めたら可愛そうだ。

 料理を作ってくれたテレジアとカテリナも、起きてきて食べるサリアとアルメアも。

 しかし、何もせずに待つのも暇である。

 小麦粉は有ったなあ……。

 ホットケーキでも作って、おやつ用にインベントリに放り込んでおこう。

 軽く伸びをして、ボウルが無いことを思い出したオリヤは、結局「創造力」でホットケーキを焼き上げる。

 材料は有るから問題ないのだ。有り難みは凄く減る気がするが、まあいいだろう。

 思ったよりも暇になったオリヤは早速手持ち無沙汰となり、2人が起きてくるのを待つのだった。

 

 カーテンの隙間から、朝日が差し込んでくる。

 アルメアは身体を起こしたが、何処かぼーっとした頭で部屋の中を見る。

 馬車の硬い床板でもなければ、白い部屋でもない。

 床に、畳んでいない服が散乱している。

 夢だったのだろうか?

「ほら、ぼーっとしてないで着替えちゃいなさい。オリヤを起こしに行こう」

 聞き慣れた姉の声がする。

 ぼーっと視線を巡らせると、姉が昨日とは違う服で立っている。

 服……そうか、やっぱり夢じゃないんだ。

 徐々に脳が覚醒し始める。

「久しぶりに、ゆっくり眠れた……」

 ぽつりと、唇から言葉が落ちる。

 サリアは、妹に歩み寄ると、そっと抱き寄せる。

 妹を抱き寄せたサリアの目から、一筋だけ、涙が溢れた。

 

「オリヤ? オリヤー! 朝だよー!」

 ドアをノックするが返事がない。

 2人は顔を見合わせ、まだ寝ているのかと、ドアノブに手を掛ける。

「キッチンだよー」

 せーの、と掛け声を掛けようとした所で、オリヤの声が予想外の方向から聞こえる。

 先に起きているとは思わなかった。

 しかもキッチンに居るとは。

「こらー! 起きてたんなら声かけなさいよー!」

 アルメアがパタパタとスリッパを鳴らして走る。

 意外と早起きなのね、そう思いながらサリアはその後を追って歩く。

「朝ごはんなーにー?」

「お姉さん、自分が作るくらいは言えないのかね?」

 キッチンからは既に2人の掛け合いが聞こえる。

 サリアはくすりと笑うと、自分もキッチンに駆け込む。

 

 オリヤは旅をしたいと言った。

 私達はそれに付いていくと決めた。

 やらなければいけないこと、生活のこと、今日のこと。

 やりたいこと、私達のこと、明日のこと。

 考えて、相談して、決められる。当たり前のこと。

 でも、まずは。

 

「ちょっと! 私もご飯たべたーい!」

「えっ、ちょっと、サリアさんまで?」

 

 今日の始まりに、ありがとうを。

 




これは……いい話風になってるけど。
話は進んでいない!
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