幻想白狼記   作:D-Ⅸ

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第二話です。
第一話ほど難産ではなかったような気がします。


第二話「銀の薬師と子犬」

「よかった……」

 

 ある日の夜、保護した子犬の様子を見に来て、起きていた子犬と目があった時、自然とそんな言葉が出てきていた。すでに保護してから二日以上は経っていた。その間ずっと目を覚まさなかったため流石に心配になっていた頃合いだったのだ。

 

 一歩ずつ、できるだけ驚かせないように近づいて行く。

それでもその子犬は体の大きな私が近づいてくるのが怖いようで、尻尾を丸めて縮こまっていた。

 

「怖くないわ……大丈夫」

 

 手を伸ばしてそっと抱き上げる。

 なんとなくの表情や尻尾の具合でやはり不安そうにしているのが見て取れた。その不安を溶かすように、今度は胸のあたりまで抱き寄せて指で頭を撫でる。

 さっきとはうってかわって目を細めてされるがままになっている子犬を見て、小さく笑みがこぼれた。

 

 私はそのまま近くの椅子に腰をかけてしばらく子犬を撫で続けていた。すると、どうやら子犬は私の腕の中で寝てしまったらしくスゥスゥと可愛らしい寝息を立てていた。

私は起こさないよう、静かに膝の上に下ろした。

 

 小さく丸まって眠るその姿が、ちょうど窓から見える今日の月のようだった。

 

 

 

 

 

 

 僕がここに来てからしばらく経った

日が昇っては沈んでを何回も繰り返していたから、結構な時間を彼女と過ごしていたように思う。

 

 ここに来てばかりの頃、僕は倒れていたところを人間に捕まったんだと勝手に思っていた。

 僕が群れから、母さんから置いていかれる前に一度、「神や人間には近づくな」「人間は敵だ」と教えてもらった事があったからだった。

 

 でも僕をここに連れて来た彼女はどうにも違うようだった。僕を殺そうと思えばいつでも殺せるほど大きいのに、一度も酷いことはしてこなかった。

 それどころか僕の傷を治してくれた上に、毎日ミルクの代わりに美味しい飲みものを飲ませてくれる。最近ではそれ以外にも柔らかいお肉なんかも用意してくれるようになった。

 それに何より彼女はとても暖かくて、一緒にいて心地良かった。

 彼女はとてもいい人だ。

 死にそうになっていた僕をこうして自分の巣に連れ込んで来たのも、きっと僕のことを助けたいと思っていたからなんだろうと思った。

 そう考えると胸の中がポカポカして来てもっと気持ちよくなって来た。

 まるで、もう一人の母さんができたみたいだった。家族に捨てられた種族の違う僕を助けてくれて、本物の家族以上に可愛がって大切にしてくれる彼女を、僕もいつしか家族のように慕っていた。

 

 家族といえば、この巣は僕の思っている以上に広くて、彼女以外にも人間が住んでいた。

僕が目を覚まして少しした後、何人かの人間と出会うことになった。彼女たちは僕を拾ってくれた人の仲間みたいで、この巣の中でたまに会ったりする。他にもこの巣に来る他の人間や神もいて、みんな僕を可愛がってくれている。

 そんな優しい人たちを、僕も次第に大好きになっていった。

 

 

 

 

 僕は今、最高に幸せだ。

 できれば、こんな毎日がずっと続きますように。

 

 

 

 

 

 

 あの子を拾ってからすでに半年以上が経過した。

 私はあの子の傷が完治したあたりから彼女(確認してみたら犬ではなく狼で、メスだった)に白(しろ)と言う名前を付け、ついでにいくらか芸を仕込み始めた。ペットを育てるのは今回が初めてのことだったのできちんとできるか不安だったが、そんな私の不安をよそに彼女は瞬く間に知識を吸収して芸を覚えていった。

 

 おすわりやお手から始まり、今ではいくつか物の名前と数字を理解できるようになっていて、その上教えてもいないのにドアや襖を開けたり閉めたりできるので、欲しいものを頼めば持って来てくれる。私の屋敷はそれなりに広いと自負しているが、彼女は案外すんなり覚えてしまったためほとんど迷う事もない。まさに天才的な頭の良さだった。

 白と一緒に暮らしていて思ったが、まさか狼がここまで賢くて愛嬌のある生き物だとは思わなかったというのが正直なところだった。もしかしたら白が例外中の例外なのかもしれないが。

 

 今思い返すと、彼女も随分と立派にすくすくと育ったものだと、本当に思う。

 拾って来た直後はひ弱で、両手のひらで問題なく抱き上げることが出来るくらいにかなり小さい子だったのだが、今では中型程度の大きさにまでなっている。生後一年もかからずにこれであれば恐らくはもう少しは大きくなるのだろう。

 あいにく私は薬学とか医学とか化学がメインで生物学や獣医学までは手が回ってないのだけど、これをきっかけに今後はそっち方面をもう少し真面目に勉強してみるのもいいかもしれない。

 

 狼らしい凛とした彼女の顔立ちにはまだ子狼ゆえの幼さが残るが、それがまた可愛らしく本人の温厚で懐っこい性格もあって屋敷の住人や客人の癒しとなっている。

 あの子が来てからは私の周りに笑顔が増えた。

 特に最近付き合いのある綿月家の姉妹や、私の上司でもある月夜見様はその毛並みに夢中と言った具合で、しょっちゅう白に飛びついてじゃれ合ったり昼寝したりしている。時折抱き枕のように扱われているのも見たことがあるが、本人は面倒臭そうな顔をする割には拒むようなことは一度もないらしいので本当によくできた子だと思う。

 

 ただし、まだ小さく幼い綿月姉妹はともかく、普通に大人の月夜見様まで当たり前のように姉妹に混じって「あ゛ぁぁぁもっふもふに癒されるわー!」とか心底情けない声を出すのは流石にやめて頂きたい。この間偶然居合わせた綿月夫妻が心臓ごと固まってしまって復活させるのにえらく苦労したのだから。

 まぁ、最近仕事が増えたせいでたまには羽目を外したくなると言うのも分からなくはないのだけれど。

 

 白は意外としっかりした体格で体力もそれなり以上にはあり、何より力の加減がわかっている節があるので姉妹のいい遊び相手となってくれていると、綿月夫妻からも度々感謝されている。

 かく言う私もあの子が来てからというものの、ストレスを感じにくくなりなんとなく仕事や研究がはかどりやすくなったような気がするのだから、本当に良いことづくめだった。

 

 

 

 最初はほんの気まぐれのようなものだったが、私はあの子を拾って心の底から良かったと思う。

 今では白はすっかり私の、私たちの生活の一部になっているのだから。

 

 

 




この後から少しずつですが東方っぽさを出していけたらなと思っています。

いくつか作りかけの文章がストックされていますので、次回の投稿も早ければ3日以内に上げられたらいいかなと考えています。
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