真・恋姫†無双異聞 皇龍剣風譚     作:YTA

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どうも、YTAです。
今回も短めな事と、元の文章が比較的、整っていたので、早目に投稿できました。

感想、評価、お気に入り登録など、大変、励みになりますので、お気軽に頂戴できればと思います。

では、どうぞ!


第七話 深紅 中篇

 

 

 

 

 黒狼は、黄金の魔人が裂帛の気合と共に放った右八双からの斬撃を受け止めた刹那、本能的に脚の力を抜いて、その衝撃に身を任せた。

 次の瞬間には、異形の双刀が軋みを上げ、黒狼は凄まじい速度で背にしていた峡間の壁に身体をめり込ませていた。

 

 『薩摩者と対する時は初太刀を外せ』とは、(かつ)て薩摩藩の剣士達と死闘を演じた新撰組局長、近藤勇の言葉である。

 薩摩藩と佐土原藩の者にしか伝える事を許されていなかった示現流の初太刀は、受けたが最後、剣を折られて頭蓋を割られるか、()しんば受けきれてもそのまま押し込まれ、自分の刀の峰が頭にめり込んで絶命する程の威力を持っていたと言う。

 

 黒狼は、その一撃の危険性を受けた瞬間に察知して、苦肉の策に出たのだった。

「(危ナカッタ……)」

 ガラガラと身体から岩の破片を落としながら、黒狼は無理やりに自分の脳細胞を動かす事に注力する。

 もしも今の一撃を腰を落としてまともに受けていたら、間違いなく双刀の刀身ごと、頭蓋から身体を両断されていただろう。

 

 それ程の、斬撃だった。

 黒狼は、完全に感覚の無くなった手を支えにして如何にか身体を起こすと、周りを取り囲んでいた下級種たちを次々と切り捨てている黄金の魔人を、茫然と見つめていた。

「天縛鎖!!」

 

 神刃を左手に持ち替えた皇龍王が叫ぶと、右の掌の付け根から高速で射出された鎖が、マシラの中の一体の腹を撃ち貫いた。

 皇龍王は天縛鎖を握ってスナップを利かせ、断末魔の叫びを上げるマシラの腹から引き抜くと、瞬時にそれに氣を流し込こんで輝く鞭へと変化させ、群がるマシラ達を真横に薙ぐと、閃光の刃となった鎖は触れる異形の(ことごと)くを両断し、黒い泥になって消滅していく。

 

 

「ギィィィィィ!!」

 不意に、不気味な叫び声を上げた数体のマシラが、皇龍王の右腕にしがみ付いた。

 どうやら、振るわれる閃光の鞭を、その根元から止めようとしているらしい。

「成程、猿にしては良く考えた。だが―――」

 

 皇龍王はそこまで言うと天縛鎖を切り離し、右腕に力を込める。

 瞬間、魔人の右腕が白熱して、マシラ達が苦悶の声を上げた。

「輝光拳!」

 しがみついたマシラごと突き出された拳は、白い光を纏いながら、その射線上に居た五十にも近いマシラたちを、轟音と共に文字通り吹き飛ばす。

 

「所詮は猿知恵、だったな」

 右の手首を軽く振った皇龍王が視線を巡らせ、残った敵の様子を確認しようとしたその時、狼の遠吠えが大気を切り裂いた。

 皇龍王を取り囲んでいた低級種たちは、その遠吠えを聞いて一瞬動きを止め、一斉に一刀に背を向けて走り出す。

 

「お、おい!何だってんだ、一体―――」

 マシラたちの向かって行った方向を見遣った一刀は、小さく舌打ちをした。

 そこには、断崖を背にして円方陣を布き、マシラの大軍の攻勢を凌いでいる呂布隊の姿があったからだ。

「狼は森の賢王なんて言うらしいが、あながち間違っちゃいないみたいだな?」

 

 皇龍王は忌々し気に吐き捨てて、後ろを振り返った。

 そこには、傷付いた身体を双刀で支え、静かに佇む黒狼の姿があった。

 

「ドノ道、アレ等デハ貴公ノ相手ハ務マルマイ。ナラバ、役立ツ場所ニ配スルノガ適切ダロウ?」

 黒狼の言葉を聞いた魔人は、神刃を右八双に構え直す。

「ならこれは、世間様で言う所の、『往くなら俺を(たお)してからにしろ』ってヤツか?」

「然リ……」

 

 黒狼も再び双剣を肩に担ぎ、二人の間の空気が張り詰めようとしたその瞬間、魔人の黄金の二の腕に、何かが触れる。

「恋?」

 それは呂布こと恋の、しなやかな左手だった。

 

「ご主人様、ダメ……」

 恋はそう言って左手に僅かに力を込め、右手に持った方天画戟を一刀の前に掲げて見せる。

「これは、恋の、勝負……」

 恋はそう言って、呂布隊が奮戦している方角に、熾火(おきび)を宿した瞳を向ける。

「ご主人様は、ねね達を、助けて……」

 

「恋―――」

 皇龍王は、仮面の下から恋の紅い瞳を見返して逡巡すると、やがて小さく頷いた。

「分かった。信じるぞ、恋」

 

「深ク繋ガッテイルノダナ、貴公タチ主従ハ……」

 土煙を上げ。凄まじい速度で呂布隊の方に走り去って行く黄金の魔人の背中を見ながら、黒狼がそう呟いたのを聞いて、恋は不思議そうに黒狼を見返した。

「俺ニハ、俺ノ主ノ事ガ解ラヌ。ドレ程ノ忠義ヲ尽シテ仕エヨウトモ、“何カ”ガ決定的ニ違ウ気ガシテナ」

 

「恋も……一緒……」

 黒狼の独白に、恋は静かに答えた。

「恋も、ご主人様の全部なんて、解らない……でも……」

「デモ?」

 

「ご主人様は、約束……守ってくれた。恋たちのところに、帰って来るって。だから、今度は恋が約束を守る……それだけ」

「約束―――カ。ソレハ、ドノ様ナ?」

 

「恋は、ご主人様の傍では、天下無双」

 

 消えかけていた筈の覇気を再び身体に漲らせ、方天画戟を構える恋を暫く呆然と見ていた黒狼は、どこか悲し気に、僅かに口を歪めた。

「ソウ、カ。デハ、参ル!」

 その言葉を契機に、激しい剣戟の音が再び大気を震わせた。

 

 

 

 

 

 

 陳宮こと音々音は、陣形の崩れそうな小隊を的確に見つけて指示を出して鼓舞しながら、先刻こちらに大量の罵苦が雪崩れ込んで来たあとに、主である恋の戦っている筈の場所で起きた光の爆発と、それに続く轟音について考えていた。

 轟音の方は、恋が本気で方天画戟を振るったのだと考えれば説明が付くが、光の方はどう考えても解らない。

 

 敵の新兵器か、(ある)いは、高位の罵苦の超能力の類かも知れない。

 しかも、それから暫くして、更に増援の罵苦が現れた。

 主たる恋の武威を考えれば、多少は贔屓目に見ても、短時間の内に二度に渡って、この規模の増援は不可解である。

 考えられる答えは、二つ。

 

 一つは、敢えてこちらを先に潰し、恋を孤立させる策。

 もう一つは、既にあちらに戦力を裂く必要が無くなった、と言う事。

 音々音は、自分の不吉な憶測を頭を振って追い散らすと、革と鉄で補強した頑強な大盾で辛うじて阻まれている罵苦の大軍に視線を戻した。

 

 如何な百戦錬磨の呂布隊でも、馬を捨てた今の状態で二千余りと一万前後と言う彼我の戦力差を考えれば、近い内にジリ貧になるのは目に見えている。

 会敵の前に放った伝令が城に着いてから、最速で準備を整えて此処に向かっていると仮定して、呂布隊の騎馬の質と手綱捌きを考慮に入れても、一刻(二時間)から一刻半は確実に掛かる。

 

 矢を殆ど撃ち尽くしてしまった今、呂布隊に残された反撃の手段は、大盾の間から隙を見て()や槍を突き出して、眼前の敵を減らす位しかない。

 加えて、異形の怪物と戦うと言う、戦慣れした兵達ですら経験した事の無い極限状態の中、体力も限界に近いこの状況で、それだけの時間、確実に耐えられるかと問われれば、実に微妙であると言わざるをえない。

 

「(詠なら……)」

 音々音は、今まで必死に押し殺していた想いを、とうとう心の中で呟いた。

 詠だけでない、朱里や雛里ならば、この状況を打開出来るような策を考えつけたのではないか?

 いや、もしかしたら、この様な状況に陥る事さえなかったかも知れない。

 

 音々音はそこまで考えると、血が滲むほど強く、唇を噛み締めた。

 それでも如何にか自分を奮い立たせて、弓兵に最後の一斉射を指示しようとした刹那、耳を(つんざ)く凄まじい爆音と熱風が炸裂し、最前線で大盾を構えていた重装歩兵と、その後ろに控えていた軽歩兵達を吹き飛ばした。

 

 衝撃で吹き飛ばされた音々音は、軍師としての責任感から、瞬時に起き上がり、耳鳴りと揺らぐ視界を(こら)えて、兵達に視線を向けた。

 不幸中の幸いか、炸裂した“何か”は前方から大盾に直撃した為、パッと見た限りでは命に関わる様な怪我を負った者は居ない様だった。

 

 しかし、鞣革(なめしがわ)を何重にも重ね、更に表面を鉄の金具で覆った大盾は、黒く煤けて無残に破壊されていた。

 兵達の鎧も同様に、煙を上げて焦げ付いている。

 まるで、“火に焙られた”様に。

 

 だが、火薬を使った兵器でこれほどの威力がある物など、聞いた事がない。

 音々音が、(ようや)く晴れ出した煙の先を見ると、そこには、異形の黒馬に乗った、人の様な骨格をした獣が、右の掌をこちらに向けていた。

「相済まぬな、小娘。どうやら、手段を選んでいる場合では無い様なのだ」

 

 獣―――音々音には(たぬき)の様に見えた―――はそう言うと、音々音に向けていた掌を空に掲げた。

 すると、何もなかった筈の中空に、突如として炎の球が轟々と逆巻きながら出現した。

「まさか、人間如きにここまで軍勢を崩されようとはな。この上は速やかに撤収し、体勢を立て直さなければならぬ……」

 

 実のところ、中級罵苦の魔魅(まみ)も、音々音に劣らぬ程に焦っていたのである。

 黒狼があの紅蓮の髪の少女を引きつけ、魔魅本人と本隊の半数近くをこちらに通す事に成功した時点で、勝利は確定したようなものだった。

 いかな豪傑とて、孤立無援で“八魔”二体と一万にも近いマシラを相手に生き残る事など、出来よう筈が無い。

 

 ましてや、こちらには“吸収”と言う絶対的なアドバンテージがあるのである。

 しかし、あの光の奔流が起こった辺りから、状況は刻々と悪化していた。

 詳しくは分からないが、黒狼の闘気が一瞬で弱体化し、残してきたマシラたちの気配が瞬く間に減り出したのである。

 

 しかも、残った兵力の殆どがこちらに回されて来た。

 これは最早、黒狼を以てしても御し難い事態が起こったと考えて、間違いない。

 そもそも、電撃的な奇襲を想定した編成だった少数精鋭をここまで失った時点で、今回の侵攻作戦は失敗しているのである。

 

 この上は、出来得る限り無事な兵を纏めて撤退するのが最善だった。

 黒狼が、あれ程の猛者の幻想を吸収するつもりである以上、魔魅は自身の吸収を極力抑えねばならない。

 黒狼と並ぶまでの許容量こそ無いが、魔魅の吸収能力も、万が一、黒狼が紅蓮の髪の少女を仕留めそこなった時の切り札に成りえるものだからだ。

 

 魔魅はそこまで考えて、自身の力で事態を迅速に収拾すべく前線に出て来たのである。

「難儀な話ではあるが、これも巡り合わせよ。よく戦線を持たせたものだが、それもここまでよ――さらばだ、小娘!」

 魔魅の手が、極限にまで膨れ上がり、火球を音々音に向かって放とうとしたその時、鋭い風切り音を伴った物体が火球を貫いて、轟音と共に音々音の前の地面に突き刺さった。

 

 それは、鋭い刀身の左右に三日月を横にした様な鎌を持った、一振りの槍だった。

 

 穂先は澄んだ水面の如くに一点の曇りもなく、純白の柄の中央と石突には、不思議に白みがかった黄金の装飾があしらわれている。

 生命の危機に瀕していた事も忘れてその美しさに見惚れていた音々音は、魔魅の絶叫で我に返った。

 視線を戻すと、馬から転げ落ちた貉の怪物が、右手を胸に抱き抱えながら地面に(うずくま)っている。

 

 音々音が余りの事態の急変に茫然としていると、その身体にふわりと影が差しす。

「よう、ねね。暫く見ない内に、佳い女になったなぁ」

 空から降りて来た影の主は、酷く懐かしそうな口調でそう言った。

 

「へ?」 

 音々音は、突然に真名を呼ばれた事に怒るのも忘れて、その人物の顔を覆った黄金の仮面を見つめる。

「声で解らないか?」

 黄金の鎧の人物は少し残念そうにそう言うと、傍に突き刺さっていた十文字槍を引き抜いて音々音に背を向け、未だ蹲っている狸と怪物たちに正対した。

 

「あ……あ!!」

「話は後だ。今は兵たちを下がらせて隊列を整えさせるんだ」

 音々音がハッとしてその人物の名を呼ぼうとすると、黄金の魔人は振り向かずにそう言った。

 音々音は、その言葉の意味を察して頷くと、膝の砂を払いながら立ち上がる。

 

「全軍、今の内に隊列を態勢を整えるのです!怪我の無い者は負傷者に手を貸してやるのですよ!!」

 音々音と同様に事態の急展開に戸惑っていた兵士たちは、その号令で我に返り、百戦錬磨の精兵ならではの迅速さで、戦線を立て直すべく行動を開始する。

 

「へぇ。ホントに軍師らしくなったんだな」

 一刀は仮面の下で僅かに微笑むと、漸く起き上がった狸を見遣った。

「きっ、貴様!よくも儂の手を!!」

「ふん。その程度で済んで幸運(ラッキー)だったな。もしもお前があいつの顔に火傷の一つでもさせてたら、そのまま脳天ブチ抜いてたとこだ」

 

 魔人は、魔魅の怒りを涼やかに受け流しながら、十文字槍をくるくると回して答えた。

「貴様―――貴様は一体何者だ!」

 

「蒼天よりの使者、皇龍王。見参……!」

 

 黄金の魔人は十文字槍を腰だめに構え、眼前に群がる異形の大軍に向かって、高々と名乗りを上げた。

「おのれぇぇ!!いけ、マシラ達よ!!」

 魔魅は切り落とされた腕を抱いて後ずさりながら、未だ周囲の大地を埋め尽くしているマシラに号令を発する。

 

「やれやれ。こっちは本格的な初陣で、流石に疲れてきたんだけどな……まぁいい、相手してやるさ!!」

 一刀は、飛びかかって来たマシラの鋭い爪を槍の柄で受け止めながらそう言うと、左脚に具現化させた刃をマシラの腹部に突き立ててそのまま吹き飛ばし、異形の群れの中に身を躍らせた。

 

 魔魅は手首から先が失われた右腕を握り締めながら、目の前の光景を信じられない思いで見つめていた。

 圧倒的。

 全ては、その一言に尽きた。

 あの紅蓮の髪の少女と言い、この皇龍王と名乗った男と言い、余りにも圧倒的過ぎる。

 

 正面切っての戦では、八魔クラスの中級種が二人以上組んで相手をしなければ、打ち倒す事は難しいのではないか?

 しかも、その姿に士気を取り戻したのか、息を吹き返した兵士たちも、再び少しずつ前線を押し上げて来ている。

 

「(もう、いかんか……)」

 魔魅はそう呟くと、小さく溜め息をついた。

 かくなる上は、何とか残りの兵だけでも帰還させなければ、主に申し訳が立たない。

 この命に代えて戦えば、あの皇龍王とか言う男の足止めくらいなら出来るだろう。

 魔魅がそう考えて腹を括った瞬間、その身体に何処からか放たれた鎖が生き物の様に絡まり、瞬く間に締め上げた。 

 

「捕まえたぞ、カチカチ山の狸さん」

魔魅の視線が辿った鎖の先には、右の腕から伸びた鎖をしっかと握り締める、皇龍王の姿があった。

 

 

 

 

 

 

「何だと!?」

 魔魅は、我が耳を疑った。

『取引しないか?』魔魅を鎖で捕えた魔人は、友人を酒にでも誘う様な気軽さで、そう(のたま)ったのである。

「―――どう言う意味だ?」

 

「いや、取り合えずさ、話聞く気があるなら、“こいつら”を大人しくさせてくれないか?」 

 皇龍王は鬱陶しそうにそう言いながら、背後から飛びかかって来たマシラを裏拳で叩き落とした。

 

 頷いた魔魅が獣の声を上げた瞬間、マシラたちはピタリと動きを止め、皇龍王と魔魅の周りを取り囲む様に動き出す。

「どうも。狸の鳴き声なんて初めて聞いたよ」

「戯言はよい。早く先程の言葉の意味を聞かせてもらおうか」

 

「なに、難しい事じゃない。あんたとあの狼、それにこの猿ども―――みんな纏めて、“あそこ”からアジトに還してやろうって言うのさ」

 皇龍王はそう言って、峡間の向こうに僅かに覗く空を顎で示した。

 

「貴様、“あれ”が視えているのか!?」

 魔魅は、狼狽した声で叫んだ。

 皇龍王が差し示した場所の空中には、檮杌(トウコツ)が微に入り細に入り編み上げた不可視の結界を張った、巨大な転移陣が浮かんでいたのである。

 皇龍王は静かに頷くと、言葉を続けた。

「あぁ。このままお前を絞め殺すのは簡単だが、指揮官を失ったこいつらに散らばられたりすると、後mの始末が面倒だしな。その代り、お前らが“あれ”を通った後は、きっちり壊させてもらう。どうだ?」

「ふん、儂は兎も角、黒狼があんな小娘にやられると思っておるのか?それに、数では未だにこちらが有利である事に変わりは無い。一丸(いちがん)火の球となって攻め続ければ、例え貴様でも、全ての兵を護りきる事など不可能なのではないか?」

 

「ふむ……」

 皇龍王は暫く逡巡する素振りを見せて俯くと、やがて視線を魔魅に戻した。

「まず、最初の質問の答えだ。あの狼―――黒狼、だったか?あいつは、あの娘には絶対に勝てない」

 皇龍王は、絶対的な自信の込められた声で、そう言った。 

 

「何故?」

「彼女の名は呂布奉先。この国で最強の武人だ。俺なんぞより、よっぽど強いぞ」

疑り深い眼差しで問い返した魔魅に、皇龍王は事もなげに言い放った。

「な―――!?」

 

「それに、約束したからな」

 皇龍王は口の中で小さくそう言うと、仮面の中で微笑んだ。

「大体にして、俺が何の勝算も無しに彼女を放り出してこっちに来ると思うのか?」

「うぅむ……」

 

 魔魅は、自信に溢れた皇龍王の言葉に、迷いを含んだ唸り声を漏らした。

「それから二番目の質問の答えだが、その脅し文句は、もう少し前なら効果があったろうな、と言っとくぜ」

「なに?」

「折角、立派な耳が付いてるんだ。耳を()ませてみなよ」

 

 皇龍王に促された魔魅は聞き耳を立て―――そして、獣の瞳を驚愕に見開いた、。

 未だ僅かにだが、かなりの数と思われる馬蹄の音が聴こえて来ていたのである。

「さて、そろそろ“時間切れ”だ。このまま徒花(あだばな)咲かせるなら、それも良い。面倒だが付き合ってやるさ。だが、今なら引き返せるぞ?」

 

 皇龍王はそう言うと、魔魅を縛っていた鎖を自分の腕に巻き戻し、両手を広げて『さぁ、どうする?』と言うジェスチャーをする。

 魔魅は、小さく唸り声を上げた。

 

 

 

 

 

 

「往くで、往くで、往くでぇ!!」

 曹魏の誇る堯将、張遼こと霞は、紺碧の張旗を翻す旗本の騎馬を突き放す程の勢いで、愛馬を走らせていた。

「こら、待たぬか霞!そんなに急いでは、稟や費禕が付いて来れんじゃろう!!」

「そうですよぉ~。少し落ち着いて下さ~い!」

 

 布地を赤く染め上げた黄旗をたなびかせた旗本を従えた呉の宿将、黄蓋こと祭と、同じく赤い布地の陸旗を翻す旗本を従えた、軍師の陸遜こと穏が、大声でそれを諌めながらも追走している。

「アホ抜かしなや!恋が危ないかも知れへんねんで!しかも、久し振りに帰って来た一刀に会えて、おまけに罵苦の大軍と大喧嘩出来るっちゅーのに、燃えへん訳にいくかい!当分、つまらへん巡回に付き合わされるだけの貧乏クジ引いたかと思てたけど、どっこい大当たりやったわ!」

 

 霞は大声でそう叫ぶと、飛龍偃月刀の刀身の腹で馬に鞭を入れ、更に速度を上げて疾走した。

「やれやれ、気持ちは解らんでも無いんじゃがなぁ……」

 祭はそう言って、霞の姿を見失わない程度の距離を保ちながら苦笑いを浮かべた。

「でもぉ、こんな調子じゃ私、戦場に着く前に倒れちゃいますよぉ~」

 

「どうせお主は腕っ節では大して役に立たんのじゃから、馬に乗って起きてさえおれば良いわい」

「祭様、ヒドイ~~!!」

 穏は、祭の手厳しい言葉に大きな瞳を潤ませながら、栗鼠の様に頬を膨らませた。

「しかし、後ろの稟と費禕は付いて来れるかの?」

 

「きっと大丈夫ですよぉ~。百戦錬磨の呂布隊さんが並走してくれてるんですからぁ~」

 穏は表情をコロリと変え、ほにゃっとした笑顔で祭に答える。

「うむ。では、少し速度を上げて往くぞ、穏よ!」

「へ!?」

 

「儂も、北郷に良いところを見せたいでな!」

 祭は、驚く穏に向かって豪快に笑ってみせると、剣の鞘で馬の腹を叩いた。

 

 

 

 

 

 

「モタモタするな!もっと急ぐぞ!!」

 美しい切れ長の眼をした女性が、その髪の色にも似た銀色の戦斧を掲げながら、雄々しく追走する馬群を鼓舞する。

「将軍、これ以上は無茶ですよ!」

 

「そんな事は、やってみてから言え!我が主の恩人と戦友の危機に間に合わなかったら、今度こそ天を照らす日輪に顔向け出来んわ!」

その女性は、士官らしき人物の言葉を叩き斬るように退けると、前を向いてそう叫んだ。

 




 如何でしたか?
 当時、恋のエピソードなどを見直して、出来るだけキャラクターを上手く描写したいなぁと頑張った記憶があります。
 気に入って頂けると良いのですが。
 また、過去に投稿した分の誤字や文章が不自然だったところなど、修正したりしておきましたので、もし宜しければ、お時間がある時にでも読んでやって下さい。

 次回も、早目に投稿できると思います。 

 では、またお会いしましょう。
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