真・恋姫†無双異聞 皇龍剣風譚     作:YTA

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 とうとう、リライトに際して一番悩んだパートに差し掛かって参りました。
 楽しんで頂けたら幸いです。
 また、感想やお気に入り登録、評価など、大変に励みになりますので、お気軽に頂戴出来ればと思います。

 


第十話 天馬幻想 前篇

 

 

 

 

 

 北郷一刀の剣帯に収まっている古めかしい通信機がビープ音を吐き出したのは、実に一ヵ月ぶりの事。

 罵苦の軍勢を退けた件を報告して以来だった。

「んん?一刀、なんか変な音なってんで?」

 張遼こと霞が杯に口を付けながら、不思議そうな顔でそう言った。

 

 現在、一刀は、霞の他に、呂布こと恋、陳宮こと音々音、黄蓋こと祭、高順こと誠心の五人と共に、宿場の一刀の部屋で風呂上りに一杯引っ掛けながらミーティングの最中だったのである。

「あぁ、これな。遠くに居る奴と話が出来る装置だよ。卑弥呼から連絡だと思う」

 一刀はそう言って通信機を剣帯から抜き出すと、プレスボタンを押した。

「卑弥呼。お客さんも聴いてるからな。お行儀よく頼むぞ」

 

「人が普段は行儀が悪いかの様に(うそぶ)くのは止めてもらおうか、ご主人様よ」

 小さな箱状の物体から卑弥呼の声が響くと、五人から小さな驚嘆の声が上がったが、一刀は特に関知しない事にして返事を返す。

「自分のぶ厚い胸に手を当てて―――いや、やっぱいい。で、要件は?」

 

「うむ。以前、貂蝉がご主人様の力となり得る幻想の欠片を探している、と言う話をしたであろう」

「あぁ、憶えてるよ。それが?」

「実は、貂蝉から連絡があってな。今のご主人様に必要な存在を見つけたので協力を仰いだらしいのだが―――」

「ちょっと待て。協力を仰いだって、ソレ、意志があるのか?」

 

「まぁ、そうだ。で、ご主人様の話をしたら、自分で勝手に“そちら”に向かってしまったらしくてな」

「おいおい……まさか、大陸中を探し回れなんて言わないだろうな」

「まぁ、心配するな。超常のもの故、あちらがご主人様を探し出すであろう。案外、すぐ(そば)まで来ているやも知れんぞ」

「そんなアバウトな……」

 

「なに、貂蝉も、ご主人様が成都に到着する頃に支給品を持って様子を見に行くと言っておった故、向こうから接触がなかったら、あやつに手伝わせれば良かろう」

「了解了解。じゃ、悪いけど煙草とコーヒー、あと9mmパラベラム多めに頼むわ。師匠はお変わりないか?」

「愚問だな。あの御方がどれほど生きておられると思う」

 

「だよな。宜しく言って置いてくれ」

「うむ。要望は承知した。しかと貂蝉に持たせよう。因みに、珈琲の豆に注文は?」

「マンデリンのシティーローストで頼む。パンツの中には絶対に入れるなって、念押ししといてくれな」

「分かっておる。ではな」

 

 一刀は、手の中で沈黙した通信機から視線を外すと、興味津々と言った様子でこちらを眺めている一同に向かって肩を(すく)めてみせた。

「だってさ」

「いや、『だってさ』て……」

 

「面妖ですのー」

「原理を説明しろとか言わないでくれよ」

 一刀が微苦笑を浮かべてそう言うと、誠心は呆れた様な顔で虎髭をもしゃもしゃと掻いた。

「まぁ、どうせ聞いても理解できるとは思えませんしなぁ」

 

「ねぇ、ご主人様」

「ん、何だ恋」

「それで、桃香たちと話せないの?」

「うぅん、桃香が同じのを持ってたら話せるけどなぁ」

 

「……残念」

「俺もだよ」

 一刀は笑って、杯を両手で包んで持ったまま悲しそうな顔をしている恋の頭をポンポンと撫でてやる。

「それにしても、いつぞやの“すまーとふぉ”と言い、天の国とは何とも不可思議で便利なもんが溢れとるんじゃなぁ」

 

「あれ?話して無かったっけ。スマートフォンも同じ事できるよ。つーか、遠くの人と話すのが主な機能で、あの肖像画はオマケ」

「なんと!?まっこと、益々もって便利よなぁ」

「まぁ、それは兎も角、何か来るかも知れないって話だから、寄り道もあり得るなぁ。ねね、その辺り、調整する事になったら頼めるか?」

 

 一刀が、この場で唯一の知恵袋にそう尋ねると、音々音はやれやれと溜め息を吐いた。

「むぅ。伝書鳩でも使えれば楽なのですが……差し当たり、予定に支障を来たしそうになったら早馬を立てる位しか手なんぞありませんぞ。まったく、面倒ばかり起こすヘボ主ですの~」

「毎度世話になるよ、軍師殿。じゃあまぁ、ちょうど飲み物も無くなったし、今日は解散にするか」

 

「御意に。では、(それがし)はこれにて。皆様、ご無礼(つかまつ)る」

 誠心はそう言うと、勝手知った様子で自分の急須や茶器を盆に載せて、慇懃に礼をして部屋を出て行った。

「何だろう。とても気恥ずかしい」

「別にええやん。気ぃ利かしてくれたんやから、素直に受け取っときぃな」

 

 霞は、照れ臭そうに頬を掻く一刀にニヤリと悪戯っぽく笑い掛けると、残った三人に挑戦的な眼差しを向けた。

「ほな、ジャンケンでええか?一回?三回?」

「三回でよかろう。人も多いしの」

「……頑張る」

「あぅ。ねねはその……明日、馬に乗れなくなると困るですから、辞退で構わないのです……」

 

「なんやぁ。随分と弱気やんか、ねね」

 意気軒高(いきけんこう)な武闘派たちを前に、音々音が頬を染めて辞退を宣言すると、霞は玩具(オモチャ)を見つけた猫の様な不穏な微笑を浮かべて音々音を見遣った。

「う、うるさいですぞ霞!ねねは軍師として、ちゃんと明日の事を考えてですな!」

 

「ま、逃げるんやったら好きにしたらええけど?主を残してさっさと撤退するクソの役にも立たん軍師なんぞ、信用してもらえるんかな~」

「おい、霞。ねねを揶揄(からか)うなってば。ねね、お前は間違ってないんだから、別に無理しなくても―――」

「喧しいのです、ヘボ主!」

 一刀が割と本気で心配して、プルプルと震えている音々音に声を掛けたが時すでに遅し。

 まんまと霞の挑発に乗ってしまった音々音は、遂に小さな火山と化した。

 

「上等なのです!軍師にジャンケンで勝負を挑もうなどと笑止千万!コテンパンにしてやるのです!!」

「おっ、根性みせてくれるやんか~。楽しみやなぁ♪」

「いや、軍師にジャンケン関係ない……まぁいいや。じゃあ、俺はちょっと一服してきますね」

 一刀は、音々音で遊ぶ気満々の霞の言葉を背に、今にもオゾンの匂いの立ち込めて来そうな部屋の扉を閉めると、自分も明日は馬に乗れるだろうか、などと考えながら、外の空気を吸う為に歩き出したのだった。

 

 

 

 

 

 

「こんな山に暴れ馬なぁ……」

 その翌々日、既に昼も近くなり、簡素な宿が併設された峠の茶屋で小休止を取る事にした一刀は、自分の席に着いた霞の言葉を繰り返した。

「せやって。酷い打ち身で済んだらしいけど、エラい馬鹿でかい馬だったらしいで。よう死なんかったもんやでホンマ」

 茶屋に入って菜譜を眺めていた時、たまたま従業員たちが怪我をして寝込んでいる客の話をしているのを横で聞いて、追い剥ぎや山賊の類かと心配した一刀が、誰とでも直ぐに打ち解けられる霞に頼んで、怪我人の相方という人物に聞き込みを頼んだのである。

 

 話の当事者の二人の名は陳良(ちんりょう)李順(りじゅん)といい、巴の郡都である安漢に住む商人だった。

 二人は、安漢と成都の間を行き来しながら道中の集落で行商を営んで生計を立てているそうで、今は成都からの帰りなのだそうだ。

 霞の話によると、四日ばかり前の事、二人は何時も使っている街道を歩いていたのだが、僅かに近道をしようとして、以前に何度か使った事のある獣道に()れた所、折り悪く濃霧に見舞われ道に迷ってしまったのだという。

 

 仕方がないので、せめて身体を暖められる場所を探して休もうと話し合い、森を歩いていたのだが、そこで唐突にぽっかりと空き地の様になっている場所に出くわして、(くだん)の馬を見つけたらしい。

 二人は、その馬のあまりの異様さに息を呑んだ。

 その馬は十一尺(約3.5m)にのもなろうかという偉容で、毛色は真珠の如き純白に輝き、(たてがみ)と尾は、焔を背負っているのかと見紛うばかりの紅蓮色をしていたと言うのだ。

 

 折しも、長年、苦楽を共にして来た驢馬(ロバ)を老衰で失ったばかりだった陳良が、どうしても捕まえたいと言い出し、もしやすると妖の類かも知れないからと引き留める李順の制止を振り切って近づいた所、読んで字の如く一蹴されてしまい、相方を背負った李順は、()()うの体で逃げ出して、この茶屋に辿り着いたというのが顛末らしかった。

 

「紅蓮の鬣、ねぇ。それって、恋みたいな、か?」

 一刀はそう言いながら、隣の卓で音々音に甲斐甲斐しく世話を焼かれながら、大皿に山と積まれた団子(因みに第三波である)を相手に殲滅戦を繰り広げている恋に視線を遣って微笑みを浮かべる。

 

「詳しゅう聞いてみたけど、そうらしいわ。どうも盛っとる様には思えへんし」

 霞は訝しそうにそう言って、自分の前に置かれている真っ当な量の団子の串を取り、もしゃもしゃと咀嚼する。

「なぁ、霞。俺、こっちに来てから何十万て馬を見て来たけど、そんな鬣の馬なんて見た事ないぞ。霞はもっと見てるだろ?どうなんだ、そこんとこ」

 

「ウチかて見た事あらへんよ。赤に近い茶ならあるけど……まして白馬やろ?そない珍しい馬やったら、それこそ空丹様に献上されててもおかしない筈やもん。でも都におった時もそんな噂は聞いたことないし、華琳のとこに来てからの話なら、当然、一刀にも話してたやろしなぁ」

「だよな。それに十一尺って……」

「うん。馬車馬でも、そんな馬鹿デカいのおらんで」

 

「でも、間違いないんだよな?」

「おう。ウチかてまさかと思て、ちゃんと確認したわ。それに商人やし、一尺も二尺も目算を間違えるなんて考え辛いやろ?」

「確かになぁ」

 

 行商ともなれば反物なども扱うであろうし、一寸や二寸(一寸は約3cm)なら兎も角、一尺(約30cm)レベルで目算を誤るとは思えない。

 “あちら”に居た時に乗馬を嗜んでいた事もある一刀も多少の知識は持っていたが、重種と言われる大型馬ですら体高(肩までの高さ)が六尺(約180cm)あればかなりの大きさであり、頭まで入れても精々九尺(2.8m)程だろうし、そもそも、この世界より遥かに育成環境の整った“あちら”であっても、そこまでの大きさに育つのは稀である。

 

 記憶によれば、インストラクターに教えて貰った世界最高記録の馬ですら体高220㎝程で、全長は3mあるかないか位だった筈だ。

3.5mと言うのであれば、間違いなく世界記録更新である。

「祭さんと誠心はどう?」

 一刀がそう話を振ると、二人も揃って首を振った。

 

駿馬(しゅんめ)を探すのが一苦労な呉にそんな馬が居るなどとなれば建業で噂に上らん訳が無いが、少なくとも儂は知らぬなぁ」

「だよね。祭さんが知らないなら、恐らく誰も知らないよなぁ。誠心は?」

(それがし)(とん)と存じませぬな。我ら呂布隊は、洛陽の都では霞殿の隊と並んで最精鋭の騎馬を有しておりましたから、そんな馬の話が人々の口に登れば必ず耳に届いていた筈ですが」

「それに、や。どうも妙な事が他にもあんねん」

 誠心の言葉を引き継ぐ様に、霞が食べ終えた団子の串を振りながら眉間に皺を寄せながら口を開く。

 

「何が?」

「うん。陳良が蹴られてたの、腹の辺りやねん。あいつの身長、五尺(約160cm)もない位やのに」

「成程。蹴られた箇所が低すぎるな……」

 一刀の言葉に、霞は茶を啜りながら頷いた。

 確かに、全長が3.5mもある馬なら、体高だけでも間違いなく2m以上はある筈だ。

 

 野生の馬が、近づいて来た身長160cm程の陳良を力任せに蹴り上げたのなら、頭か、最低でも胸を蹴られていなければおかしい。

 馬が後ろ足で攻撃する時には、前脚で下半身を持ち上げるから、それでなくとも上方に角度が付く筈なのに、だ。

「そもそもの話、仔馬ならまだしも、そんな巨大な野生の馬に力任せに蹴られてあの程度の怪我で済んでいるというのが、()ず奇妙と言えば奇妙ですな。頭と言わず胸と言わず腹と言わず、本来ならどこを蹴られても生きてはおられますまい」

 

「おぉ、確かにそれはそうじゃな。現実に蹴られた当人が生きておるから、その事にすっかり思い至らなかったわい」

 誠心の言葉に、祭がポンと掌に拳を打ち付けて頷いた。

 言われてみれば確かに、そんな小振りな象ほどもある大きさの馬でなくとも、そこいらの普通の馬に蹴られただけでも、人間は容易に死ねる筈である。

 

「ホンマ、どないなっとんのやろな」

 霞が茶を啜りながらそう呟くと、一刀は独り言ちる様な口調で口を開いた。

「そりゃ、手加減したんだろうさ」

「はぁ?慣らされた馬なら兎も角、野生の馬がかいな」

 

「霞。天の国の天才が『ありえない事を全て除外してしまえば、後に残ったものが、それが一見してどんなに有り得なさそうな事であろうと真実なのだ』って有名な格言を残しててな」

 架空の、とは敢えて言わず、一刀も霞に(なら)って、すっかり(ぬる)くなった茶を啜った。

 そもそも、一刀が今こうして存在している世界からして正史の人間からすれば架空の存在なのだし、そんな事は大した問題でもあるまい。

 誰の言葉であろうと、確かに真実を含むからこそ語り伝えられているのだ。

 

「十一尺もの体躯を誇る馬?まぁ、これは百歩譲って存在するかも知れない。しかし、だ」

 一刀は、団子の串を咥えて指を振る。

「紅蓮の鬣の野生の白馬?まさか。しかもその馬が、自分を捕らえようとして近づいて来た人間から逃げもせず、わざわざ窮屈な筈の角度で急所を外して、打ち身で済む程度に加減した蹴りを入れる?まさかまさか」

 

 椅子の後ろ脚を支点にして体を伸ばし、ぼんやりと天井を見上げて手を頭の後ろで組み、思考の波に身を委ねる。

「通常の倍近くの体躯があるとなれば、それこそ大人が幼子(おさなご)を相手に遊んでやる位の気遣いが必要だった筈なのに」

「まぁ、そうやな……」

 

「ところが、陳良と李順の話が事実であると仮定するなら、これらは全て現実に起きた出来事な訳だ。なら、『この世すべての幸運と神が味方して、熊よりデカい馬に蹴られた陳良を守った』もしくは『馬が殺さない様に細心の注意を払いつつ、陳良を追い払った』のどちらって事だろ。どっちと言われれば、俺なら後者を取るね」

 

「要するに、主は一昨日(おとつい)の話に出て来た幻想の欠片とやらの正体が、その暴れ馬だと考えていると言う事でしょう?」

 いつの間にか、恋の殲滅戦が完了して役目を終えたらしい音々音がそう言って、如何にも一仕事やり切ったという顔で一刀たちの卓の開いた席に座り、急須から茶碗に豪快に茶を注ぐなりゴクゴクと喉を鳴らして飲み干し、愛らしいげっぷを一つして口を拭った。

 

 一刀が音々音の言葉に肩を(すく)めて恋の方を見遣ると、どうやら恋は壁に寄りかかって、うつらうつらと船を漕いでいるらしい。

「あー、あの話なぁ!まー確かに、漢女絡みやったらそないな事もあるかもしらんな。なんせ漢女やし……」

「やれやれ。では結局のところ、暴れ馬を探しに行くという事じゃな」

 祭が溜め息を吐いて杯を舐めると、音々音はがさごそと懐を探って、折り畳んだ地図を取り出し、卓の上の食器を豪快に隅に寄せてからそれを広げた。

「面倒至極ですが、どうせコイツは言い出したら聞かないですからのー。霞、その商人が使った獣道と言うのは、どの辺りから入るのか訊きましたか?」

 

「おう。えぇと……この集落から二十五里(約10km)ぐらい進んで、この分かれ道をこう来て……確か、この辺りやな」

 霞は、地図に記された街道を指でなぞって、商人たちから聞いた獣道の入口があると思わしい地点をトントンと叩いた。

「ふむふむ―――では、この茶屋に着く前、商人たちが街道に戻った地点は?」

 

 音々音は、ポケットから取り出した碁石を霞が指した地点に置きながら、再び霞に尋ねる

 霞は眉を(しか)めながら、今度は茶屋の辺りから地図をなぞり始めた。

「う~んと、こっから十二里(約5km)くらい行って、この集落に行く道標(みちしるべ)の手前って言うとったから……うん、大方この辺りやな」

 

「ほうほう。では、と」

 音々音は、また霞の指さした箇所にもう一つ碁石を置き、その中間に広がる森林地帯に、指でぐるりと輪を描く。

「この辺りに、(くだん)の暴れ馬が居ると推察できますのー」

 一刀は、音々音の指先から視線を上げて、霞を見た。

 

「霞。商人たちは、何刻(なんどき)ごろに獣道に入って、どの位で街道に戻れたか言ってたか?」

「確か、四つ半(午前10時)ごろに集落を出たって言うとったな。で、『昼餉の時に相談して』って話やったから、獣道に入ったのは昼八つ(午後1時)過ぎから昼八つ半(午後2時)くらいちゃうかな。で、街道に出た時には日が暮れかけてたらしいから、暮れ六つ(午後5時~7時の間の二時間)」に入ってすぐ位やろか」

 霞はそう言って、音々音によって追いやられた自分の茶碗に手を伸ばし、茶を啜る。

 

「ふむ。と言う事は、二人が森を彷徨(さまよ)っていたのは、正味(しょうみ)、二刻(四時間)から二刻半ほどですな」

 誠心が地図を眺めながらそう言うと、祭も瓶子(へいし)から酒を注ぎながら頷いた。

「うむ。行商人の健脚を考慮しても、道は獣道、霧に巻かれ、途中からは片方がもう片方を担いでおったと言う事も考えに入れれば、そこまで深入りをしていたとは思えん。恐らく、獣道からはそう外れておらんじゃろう。この茶屋の者なら、獣道の近くにある空き地とやらについて何か知っておるのではないか?」

 

「どうでしょうなー。この茶屋は、開墾と街道整備が進んでから出来た店ですからのー……二人が滞在していた集落――今日、我々が宿を取る予定の所ですな。そこは昔からある比較的大きな村邑(そんゆう)なので、住んでいる猟師なら何か知っているやも知れませんが」

 音々音はそこまで言って、『どうするのか』と問う様に一刀を見た。

 一刀は(しば)し黙考し、窓から太陽の位置を確かめる。

 太陽はじきに、中天に差し掛かろうとしていた。

「よし。じゃあ、俺が今から会計ついでに店の人間に話を聞いてみるよ。それで何か成果があれば幸運だけど、まぁ、なくても、その獣道を通ってみよう。次の宿に着いてから聞き込んで行動じゃ、流石に時間を無駄にし過ぎるし」

 

「まぁ、それでええんちゃう?村邑で聞き込んでも、確実に情報が手に入るか分からんもんな」

「しかし、この大人数で森の中に分け入る訳にも参りますまい。それに、報告してある道程から全員が居なくなると、成都や巴郡からの急使があった時に差し障りましょう。組み分けが必要かと愚考いたしまするが、如何?」

 誠心のその言葉に、一刀は一瞬、逡巡してから口を開いた。

 

「それなら、俺と恋で獣道に行くよ。誠心と音々音は兵たちの面倒を頼む。霞と祭さんも、万が一、魏や呉から追っ付けの使者が来たりした時には俺の代理で対応して貰わないといけないから、誠心たちと一緒に居て欲しい」

「一応、護衛やねんけどな、ウチら」

「まぁ、北郷じゃからな。では、その集落の手前で合流するかの」

 霞が苦笑いを浮かべて肩を竦めると、祭も呆れた様に笑いながら最後の一杯を(あお)る。

 

「愛されておりますなぁ、御大将」

 誠心が珍しく悪戯っぽい笑みを浮かべて一刀に向かってそう言うと、一刀は照れ臭そうに頭を掻いて席を立たった。

「ありがたい事だよ、ほんと。んじゃ、ねね~財布」

 

「ヒモですか貴様は!」

「だって俺、こっちの金なんか持ってないもん。全部、三国と都の金庫に仕舞(しま)ったままだし」

「まったく……甲斐性のないヤツですのー」

 音々音は、渋々と自分の巾着を取り出して、一刀に放る。

 受け取った一刀は、(こた)える風もなく、音々音に笑顔を返した。

 

「どうせ経費で落とすんだから良いだろうよ」

「ふん。ちゃんと領収書を貰ってくるのですぞ!」

「へぇへぇ。あ、宛名は?」

「返事は一回!上様でいいのです!馬鹿正直に名前を教える気ですか、お前は」

 

「へーい」

 一刀は、音々音の「伸ばすな!」と言う声を背中に、微笑を浮かべたまま会計を済ませに歩き出す。

 こんな何気ない遣り取りの、なんと懐かしく心の暖まる事か、と思いながら。

 

 

 

 

 

 

「本当に、こっちで良いのですかぁ?」

 音々音はそう言い捨てて、肩で息をしながら髪に絡まった木の葉を鬱陶(うっとお)しそうに摘まんで捨てた。

「多分、間違いないよ。何だろうな、これ。頭の中に……声、じゃないんだけど。『こっちに来い』って呼び掛けられてる感じがするんだよ」

 

「本当でしょうな……まったく、これで道に迷って野宿でもする事になったら承知しませんぞ~」

「だから、大変だぞって言ったじゃないか」

 獣道に入ってから、おおよそ一刻ほど。

 茶屋を出発して直ぐに、『よくよく考えたら、お前と恋殿を山の中で二人きりになどさせられるか!』と言い出した音々音は、一刀どころか恋の制止も振り切って強引に付いて来た割りに、(当然と言えば当然の事ながら)一番最初にスタミナが切れ、特に獣道を外れて完全に森の只中を移動する事になってからは、大自然を相手に盛大に呪詛の言葉をまき散らしていた。

 

 ともあれ、茶屋では何の情報を得られなかったものの、一刀の勘は当たった。

 獣道に入って半刻ほど進むと、遠くから何かに呼ばれる不思議な感覚に襲われたのである。

 呼ばれている、とは言っても言葉で呼び掛けられているのではないので、(むし)ろ鯨たちが使うという反響定位(エコーロケーション)の様なものに近いのかも知れないが。

 

「ねね、おぶって上げようか?」

 恋は、音々音を心配そうに見つめて何度目かになる提案をするのだが、音々音は音々音で、頑としてそれを受け付けない。

「いいえ!恋殿におぶって頂くなど、畏れ多いのです!ねねの事は心配無用ですぞ!」

 と、こちらも何度目かになる答えを返す。

 (もっと)も、必ずしも表情は言葉と噛み合っているとは言えず、それで恋も気になって何度も声を掛けているのだろう。

 

 とは言え、そんな事を不用意に口にするとキックが飛んでくる事は容易に想像できるので、一刀は黙って微苦笑を浮かべるしかないのだが。

「じゃあ、ここらで少し休憩しよう。多分、もうそんなに遠くないって感じがするしな」

「むむ!それは言外にねねが足手まといだと言っているですか!?」

「いや、そうじゃないって。俺も疲れたしさ。いいだろ、恋?」

 一刀がそう言って恋に目配せを送ると、恋は優しく微笑んでから小さく頷いた。

 

「うん……恋も、少し疲れたから」

「だってさ、ねね」

「そ、そうですか、恋殿がお疲れとあっては一大事なのです!あ、恋殿、あの木の根っこの所など、良い具合に座れそうですぞ!!」

 恋の言葉を聞いて、きょろきょろと辺りを見回していた音々音は、視界に入った丸太と言った方が良いような太さの木の根を指さすと、先程までの舌を出して喘いでいた小型犬の様な表情はどこへやら、嬉しそうに駆け出して行く。

 一刀と恋は、その姿を眺めた後に微笑みあってから、音々音の背中を追い掛けるのだった。

 

 

 

 

 

 

「お二方、あの峠を越えれば、件の村邑に御座います。今は宿場町として生まれ変わるべく整備をしている最中でしてな。いずれは、この辺りの旅人たちが旅の基点とする場所となりましょう」

 誠心は馬を止めて、後に続く霞と祭にそう言いながら峠道の頂上辺りを指さした。

「ふむ。蜀は順調に国を拓けておる様で何よりじゃの」

「せやなぁ。景勝地も()え温泉もあるっちゅうし、何時までも山ばっかりは勿体ないもんな」

 

「はい。御大将が天にお帰りなられる前、景色の良い温泉の近くに客を饗応する様な宿場町を建てて、物見遊山の客を呼び込んではどうか、と智恵を出して下さり、そちらも場所の選定を行っている所でしてな―――(たれ)かある!」

 誠心が大音声で兵士たちに呼びかけると、三人の後ろから追従していた兵士の内の一人が、早足で馬を走らせてやって来た。

 

「高順様、これに!」

「苦労。具足を脱いで先行し、宿を取っておけ。他の者どもにも、具足を脱いでおくよう指示を。くれぐれも民を怯えさせる様な態度はとらぬように致せよ」

「ははっ!」

 

 力強く返事をした兵士は、一旦、仲間たちのところまで戻って素早く具足を脱ぎ、手に持っていた槍と共に預けると、素早く馬首を巡らせて駈足(かけあし)で峠を越えて行った。

「うんうん。いつ見ても、呂布隊はピシっとしとんなぁ。見てて気持ちええわ!」

「あまり(おだ)てて下さるな。木に登らねばならぬ気分になってくる」

 

「はっはっは!では、儂らはあの峠の頂上辺りで北郷たちを待つとしようかの。あそこからならば、村も来た道も見渡せよう」

 誠心が祭の提案に頷きを返すと、前方を眺めていた霞が、手で(ひさし)を作って、不思議そうに首を傾げた。

「なぁ、誠心。あの隊員ちゃん、折角、峠登り切ったのに泡食って帰ってくんで?」

 

「む……?おい!何があった!!」

 誠心が大声でそう投げかけると、兵士は三人の前で馬を止め、慌てた様子で口を開いた。

「はっ!村からこちらに向かって、無印の早馬が二騎、土煙を上げて向かって参ります!恐らく、成都からの御使者かと!」

 

「旗は立っておらなんだのじゃろ?何故、民間の早馬ではなく成都からの使者と思うのじゃ」

「はっ!手綱(さば)きに西涼者の癖が御座りました故、馬超将軍のご家中と推察いたしました」

「成程なぁ。どうするんや、誠心」

 祭の問いに答えた兵士の言葉を聞いていた霞が、そう言って誠心を見ると、誠心は暫く目を閉じて黙考し、やがて眼を開けた。

 

「ここで下馬し、使者を待つ。お前は先ほど脱いだ具足を槍の穂先に結わいて立てておけ。目印に丁度良い。ついでに、他の者を下馬させて、道の端に寄らせておくように致せ」

「はっ!」

 兵士が下がり、他の者たちに下馬の号令を掛けるのを聴きながら、誠心は深い溜め息を吐いく。

 と、それを見た祭が、不思議そうな顔で誠心を見た。

 

「なんじゃ、其方ほどの勇将が溜め息とは」

「いや、御大将を放り出していた事を詠殿に知られでもしたら、大目玉を喰らうであろうなぁ、と思いましてなぁ……」

「はっはっは!成程な、あれの怒鳴り声は子布(雷火の字)にも負けぬからの!」

 

「詠はおっかないからなぁ……まぁ、一刀が執り成してくれるんちゃうん」

「火に油だと思うのだがな……」

「くくっ、ならば、使者殿がお主の立場を(おもんばか)って北郷の事を黙っておいてくれる、話の分かる人物だと祈っておくのじゃな」

「公覆殿、他人事と思うて……やれやれ」

 実際、祭の言う通りにする位しかない誠心は、実にらしくも無く、眉を八の字にして二度目の溜め息を吐くのだった。

 

 

 

 

 

 

「こいつは凄い……」

 一刀はそう言って、感嘆の息を漏らした。

「驚いたのです……」

 後に続く音々音も、そして恋ですら、ほぅと息を吐いて、目前の光景に見入っている。

 

 その場所は言うなれば、自然が作り出した庭園であった。

 中央にある大樹を中心にしてドーナツ状に拓かれた半径にして200m程の野原には、色とりどりの野草が控えめな花を咲かせ、晩夏の陽射しが木漏れ日となって、愛おしげにそれを照らしている。

 頭上からは、恐らく中央に鎮座している大樹を棲みかにしているのであろう小鳥たちの歌声が、そよ風に乗って聴こえて来た。

 空気がしっとりと水気を帯びているのは、そこかしこに点在する小岩に生えた、濃緑の苔のせいであろう。

 

「きっと、日差しや風の通り具合と地形なんかの条件が、奇跡的に重なったんだろうが……」

「まるで、人が意匠を凝らしたかの様ですのー……」

 二人が、会話なのか独り言なのか判然としない言葉を掛け合っていると、殿についていた恋が二人の横に並んだ。

 

「あの、大きな木のおかげ」

「あぁ。そうなんだろうな」

「む!このねねを差し置いて、恋殿と以心伝心など許しませんぞ!説明を求めるのです!」

 一刀が、恋のしなやかな指が指し示す大樹を眺めながら半ば茫然と答えを返すと、音々音が眉を(しか)めて抗議の声を上げた。

 

「はは、悪かった。いやな、この広場みたいになってる場所の上は、あの大樹の枝や葉っぱが、傘みたいに覆ってるだろ。だから、その下では日光が足りないし、地面にも根っこが伸びてるから、そっちからも栄養が取れなくて、他の大きな木は育たないんだよ。それでも、草や花には十分だから、森の中にこの自然の庭園が出来たって訳だ」

「なるほど~」

 

 音々音が、一刀の言葉を聞いて改めて辺りを見回してみると、確かに空き地のあちらこちらに育ち切らずに倒れてしまったと思われる木が幾本か散在していて、中だけが腐って空洞になり、外側には苔の衣を纏っていた。

 それらは、大樹に戦いを挑んで敗れた若木たちの名残なのだろう。

 

「山の神様の庭……」

 音々音の頭に手を置いた恋は、大樹から目を逸らさずに、そう呟く。

「山の神様?」

「うん。前に、成都で一緒に遊んだ子に聞いた事がある……。蜀の山の中には、山の神様のお庭があって……日頃の行いが良い人は……運が良ければ、行く事ができるって」

 

「成程なぁ……此処がその庭って訳か……」

「で、お前の探している馬と言うのは何処に―――!?」

 音々音は辺りを見回しながらそう言いかけて、小さく息を呑んだ。

 いや、音々音だけでは無い。共に空き地を見渡していた恋も、この場所での邂逅を確信していた一刀でさえも、只々言葉を無くして、大樹の後ろから姿を現した“それ”を、ただ見つめる事しか出来ずにいた。

 

「主殿。あれは、本当に馬なのですか……」

 音々音が瞬きすら忘れ、ようやっとの様子で一刀にそう尋ねたのも無理はなかった。

 通常の馬の倍はあろうかという逞しい体躯は、正に偉容。

 それを包み込む体毛は、日を照り返す処女雪も恥じ入るほどの純白である。

 木漏れ日を受けた鬣と尾の色は、轟々と燃え上がる焔が如き真紅であった。

 

「きれい……」

 一刀には、恋のその言葉が、ゆっくりと自分に向かって近づいてくる存在の全てを形容している様に感じられた。

 いや、むしろ『綺麗』以外に、この白馬を完璧に形容しうる言葉など、この世に存在しないのではないだろうか。

 白馬は迷う様子も警戒する様子もなく一刀の前で足を止めると、太く逞しい首を下げて顔を寄せ、興味深げに鼻を鳴らして一刀の匂いを嗅いでみせる。

 一刀には、深い知性を宿したその漆黒の瞳から投げかけられる視線が、試す様にも、また楽しんでいる様にも感じられた。

 

 一瞬か、数分か。

 やがて一刀が、ゆっくりと魅入られた様にその首筋に手を伸ばすと、白馬は『まだ早い』とでも言う様にすっくと顔を上げて優雅に馬首を巡らし、一刀に横腹を見せる。

 一刀が、どうしたら良いのか解らずに呆然としていると、白馬は首を曲げて一刀に顔向け、一度だけグイと上に振った。

 

「乗れって?」

 今の仕草からは、そうとしか思えない―――が、いくら馬が知性の高い動物とは言え、そこまで(人間にとって)明確な意思表示など、するものだろうか。

 一刀が逡巡していると、後ろでその様子を見守っていた恋が隣まで進み出て来て、「手伝う」と一言だけ口にするや、バレーボールのレシーブの様に両の掌を重ねて、片膝を付く。

 

 一刀はまたも逡巡したが、物事をありのまま捉える恋の感性を信じる事にして、白馬の脇腹に手を添え、恋の掌に足を乗せた。

 普通の馬であっても、足掛かりとなる(あぶみ)なしに背に乗るとなれば相当のコツを要するものだが、この白馬はその倍ほども大きいので、本来ならば懸垂並みの苦労が必要だったろうが、恋が絶妙の加減で一刀の靴底を押し上げてくれたので、普通のサイズの裸馬に乗るのと大差ない労力でひらりと跨る事が出来た。

 

「ありがとう、恋―――て、うおぉぉぉ!?」

 恋が数歩ほど下がるのと同時に、白馬は猛々しく(いなな)くや棹立ちとなり、獅子舞の如く紅蓮の鬣を振り乱し始める。

 一刀が慌てて脾肉(ひにく)に力を入れて鬣にしがみ付くのと同時、白馬の巨体は淡い光の粒子に包まれた。

 やがて光は白馬の頭に収束して何かを形作り始め―――数歩離れていた恋と音々音だけでなく、白馬の背にしがみ付くのに必死な筈の一刀ですら、あんぐりと口を開けて、白馬が前脚を再び地面に付くのと時を同じくして光の粒子を吸い込んで完全に形をなした“それ”をみつめる事しか出来なかった。

 

「つ……角ぉ!?」

 そう。白馬の両の耳の内側に生えていたのは、(まご)う事なき一対の枝角であった。

 別名を鹿角(かづの)とも言われる通り、本来シカ科のオス以外には存在しない筈のそれを有している生き物が居るとすれば、それは即ち、千の獣の王の眷属である事の証と同義だ。

 

 しかも、白馬の身体に起きた変化はそれだけではなかった。

 純白の体毛の下から、つるりとした感触の硬質なものが、規則正しく重なり合うような配列を成して浮き上がってきたのである。

「おいおい、真剣(マジ)かよ―――」

 

 一刀が思わず片手を放して、それに触れようとした瞬間、白馬は再び棹立ちになって鋭く嘶くと、その逞しい四肢で猛然と大地を蹴って奔り出した。

「恋殿……ねねは、夢でも見ているのでしょうか……」

 音々音が、白馬が瞬きの間に一刀を乗せたまま森へと消えた方角を茫然と見ながらそう呟くと、恋はくせ毛をふるふると揺らして首を振り、音々音の前にしゃがみ込んだ。

 

「ねね、乗って。追い掛ける」

 

 

 

 

 

 

「あの集落で間違いないのですね、天牛蟲(カミキリムシ)

 魔蟲兵団の長、檮杌(トウコツ)は、断崖に吹き荒ぶ風にその美しい芦色の長髪を遊ばせながら眼下を睥睨(へいげい)し、背後に控えた異形の配下に尋ねた。

「ハッ。救世ノ者トソノ配下ノ成都ヘノ進行経路ト速度ヲ考エマスレバ、今日ノ日暮レ前ニハ到着スルカト」

 

「それは重畳(ちょうじょう)。それで、“あれ”の様子は?」

「ハッ。御下知(おげち)ノ通リ、アカスイ級二個小隊分六十ヲ含メ、一個小隊分三十体、恙無(つつがな)ク配備予定ニ御座イマス。現在は、調整槽ニテ休眠状態ノママ待機中ノ(よし)

 

 天牛蟲と呼ばれた異形は片膝を立てて(かしず)いたまま、顔の下半分を占める巨大な大顎を左右に開閉しながら、主の問いに応えた。

 その額からは、腰の下にまで伸びた黒革の鞭を思わせるしなやかな一対の触角が生え、顔の上半分を占める禍々しく釣り上った複眼は、感情のない赤黒い光で爛爛と輝いており、全身は白の(まだら)が浮く漆黒の外骨格に覆われている。

 

「結構。では、予定通りに事を進めなさい。決して手抜かりの無きよう……おや、何か気に掛かる事でも?」

 檮杌が、人間には読み取りようがないであろう天牛蟲の表情を読み取って冷艶(れいえん)な眼差しを向けると、異形は小さく首を振った。

「イエ、滅相モナイ。タダ“アレ等”ハ少々、人間(ヒト)ノ臭イガ強イモノデ、ドウニモ落チ着カヌ心持(こころも)チニテ……御赦(おゆる)シヲ」

 

「構いません。その感覚は、我ら知性ある罵苦としては当然のものですからね。さぁ、もうお行きなさい」

 檮杌は、返事をしてから立ち上がった天牛蟲が姿を消すと、再び眼下の人間達の集落に視線を戻し、紅を引いた美しい唇を妖しく歪めた。

「さぁ、救世の者。間に合うにしろ間に合わぬにしろ、有益な実験資料(データ)を頼みますよ。とても……とても期待しているのですからね」

 

 




如何でしたでしょうか?
前回は忙しくて後書きは省略してしまいました。
一応、注釈という形なのですが、祭の一刀の呼び方が一刀と北郷でバラけているのは仕様です。
ライターさんの感覚なのか設定なのか私には不明なのですが、春蘭や秋蘭、冥琳なども、『一刀』を真名と解釈しているキャラ達は公とプライベートで呼び分けているようなので、それに準じています。

因みに、作中登場の高順は字不明と言う事で、多少、縛りが緩くなっていますが、気になっている方はご容赦下さい。
次回からはまた戦闘パート……気が重いですが、頑張ります(笑)。
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