サモンナイト4 本編後ライがフェア世界に逆行 作:ライフェア好き
第0話 今はもう、誰もいない場所 【本編前】
かつて戦いがあった。
大切な人たちと手を取り合い、大切な子供を護る。
そんなありふれた物語。
伝説の至竜を助けるため、
そんなお伽噺のような物語。
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「ありがとうございました」
最後の客を見送り、オレは店じまいを始める。
忘れじの面影亭、相変わらず泊まり客が居ない宿屋。
あの物語から何年も経ち、すっかり青年となった店主、ライは伸びをして身体をほぐす。
「さってと、片付けるか」
エプロンを外し、一人で食器を洗いながら昔を思い出す。
(子供の頃は一人で片付けるのが寂しかったな)
あの事件の直後、星を獲得したのもあって目が回る忙しさの頃は仲間たちが手伝いに来てくれていた。
それが段々と静かにも、きちんと増えた常連客を捌けるようになると、皆は自らの道を歩み始めた。
あの時なんとなくわかった、自分たちは大人になったんだと。
寂しさはなく、確かな繋がりを胸に残して。
(柔らかさはこんなもんでいいか、塩はこの前に仕入れた抹茶味の塩で……)
米を煮るように炊きながら、アイツが気に入ってる塩を用意する。
クソ親父に習った、病人食のお粥だ。
数日前から家族が体調を崩してしまったから。
コーラル、竜でありながらオレの子供で居てくれた大切な家族。
「入るぞ」
お盆を持ちながら部屋に入る。
少し前から一人部屋になったコーラルの部屋は、質素ながら清潔にしており、所々シルターン風の小物がおいてあるのはアイツのちょっとした趣味だ。
そしてベッドで寝苦しそうにしている、あの頃の変わらぬコーラルの姿。
「…………ぅ」
「また汗がひどいな、拭いてやるから我慢しろよ」
お粥を机に置き、用意してたタオルで汗を拭く。
『……原因不明、かと』
数日前、体調を崩し始めたコーラルから説明を受けた。
『病気じゃない、けど……ボクの知識でもまだ説明ができない』
至竜として知識を持つアイツが、申し訳なさそうに言ったのが印象的だった。
『気にすんな、まだ子供なんだから宿のことは気にせず休んでいいんだよ』
そんな頭を撫でてやり、看病を始めて五日目。
コーラルは、まだ原因を特定できていない。
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ボクは、暗い水の中を漂う。
『…………か……』
知識の海の中、ボクを呼ぶ"誰か"を探す。
『……お願……けて』
外部からの干渉、そこまでは分かった。
けれど不明点が2つ。
どこからか。
リィンバウム、いやどの世界からでもないこと。
誰からか。
至竜に深く繋がってしまうまで気が付かなかった、"ほぼ同じ力"を持つ存在。
『お願い、誰か……』
この繋がりを頼りに、ボクは何度も手を伸ばす。
こんなにも胸を突き刺す、こんなにも助けたくなる。
まるであの時のボクのような、誰かに向かって。
『みんなを、ママを、助けて』
「任せて……」
誰かの手を掴み、すべてが繋がった。
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かつて戦いがあった。
大切な人とすれ違い、大切な子供を護る為に命を投げ出す。
そんなありふれた悲劇。
ただ一人の親を助けるため、子も全てを捧げる。
そんなお伽噺のような物語。
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「……お父、さん」
「目が覚めたか、お粥を作ったんだ。少しでも食べれる……か?」
粥を用意しようとした手を、コーラルに掴まれる。
「重要な話し、かと……」
訴えるような竜の目に、オレは向き直る。
「どうしたんだ、もしかして原因が分かったりしたのか?」
「うん……けど、説明する時間が、ない……かと。
向こうが、力尽きる前に……繋がってるうちに」
苦しそうに、何とか言葉を続けるコーラルがオレに抱きついてきた。
「コーラル……?」
「お父さん、ボクを信じて、くれる……?
大変なこと、頼んでも……いい?」
あの時のように、不安そうにけれど信じるように。
だから───力強く抱きしめる。
「ああ任せろ、子供の頼みだからな」
安心させるように頭を撫でて、笑いかける。
「…………ありがとう、要点だけ、伝える」
「な、何が起こって?」
コーラルから急に魔力が溢れ、オレを包むようにしていく。
「別の世界に、召喚される……ボクと同じように、助けてあげて」
視界が光に包まれ、意識が遠のいていく───。
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少女は朝の市場から帰る途中だった。
「野菜はミントお姉ちゃんに教わってるけど、魚の目利きは難しいなぁ」
妹と父を待ってはや数年、少女──フェアは店主として修行をしていた。
自身の目標、平凡で真っ当な生活の為にも。
いつか帰ってくるかもしれない……最近は諦めかけてるお父さんとエリカの為にも。
「よしっ、気を取り直して帰ったら掃除! それから……」
自身の頬を叩いて気を取り戻し、日常が始まる。
ことはなかった。
突如として膨大な魔力の気配とまばゆい光が宿へ続く道に現れ、そして衝撃と土煙がフェアを襲った。
「きゃぁ!?」
その衝撃に耐え、原因を必死で探す。
「げほっ、一体何が……、えっ?」
土煙が晴れた、宿へ続く田舎道。
そこに自分と同じ髪色の青年が倒れていた。
「おと、う…………さん?」
無意識に口から溢れる、外見は全く違うし、
父はこんなに若くないはず、それなのに。
目の前の青年が、何故か他人に思えなかった。
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世界の理を捻じ曲げ、今交わった。
かつて子を救った青年が、
かつての己を救う物語が始まる。