サモンナイト4 本編後ライがフェア世界に逆行 作:ライフェア好き
憧れの帝都修行など料理人として腕を磨いています。
夢を見ていた。
妹と親父、家族と離れたくなくて泣いている子供の夢。
今なら分かる、親父はロクデナシだが何も思わなかった訳じゃないこと。
……いや、それでも放置はないだろう
親友のテイラーさんを信用してたにしてもだ、やっぱロクデナシだな。
去る父親の背中に、精一杯のお願いをする子供に思わず手を伸ばす。
それに気がついた子供が振り返り、目が合う。
目に涙を浮かべた幼い女の子だった。
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目が覚めると同時に溜息をつく。
「なんつー夢見てんだ俺は、自分が女の子とか」
頭を掻きながら起き上がると客室の一つだと気がついた。
昨日眠った記憶はないからコーラルが運んでくれたのかもしれない。
「病気の子供に世話になるとか、情けないなぁ俺……ふわぁ」
眠気を噛み殺し、窓から差し込む日光で大体の時間を把握する。
「……やっちまった」
血の気が引いた、傾きから見て朝市に間に合うかギリギリの時間だ。
「はやく、朝の食材取りに行かねぇと!」
慌てて部屋を飛び出したせいで、オレは気がつけなかった。
この部屋と廊下がどこか真新しいことに。
(コーラルには悪いけど看病は少し後にしよう、
アイツが好きなお茶っ葉をお土産に買ってあげるとして、
とりあえずミントねーちゃんの所に今日の野菜を頼んで……)
急いで歩いていると、ふと良い香りに気がつく。
(この甘い匂い、パンケーキか?)
匂いを辿ると厨房に誰かいる、
オレ以外で厨房を使うのは一人しかいない。
(まさか、コーラルのやつ回復したのか?
元気になって本当によかった)
元気に調理している子の姿を想像しながら、寝坊をどう謝ろうか考えながら厨房の扉を開いた。
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宿屋「忘れじの面影亭」の雇われ店主である少女、フェアの機嫌は悪かった。
「はぁ……、朝から疲れたなぁ」
今朝は突然現れた青年を助けるため、
町まで兄貴分である駐在兵士グラッドを呼びに往復する羽目になった。
「グラッド兄ちゃん、あの人を運んだら一度駐在所に戻っちゃったし」
青年が目覚めるまでに戻ると言っていたが、それまであたしが看病するのだろうか。
昔教わった病人食のお粥を作りながら、自分の朝食に取り掛かる。
別に人助けが嫌なわけじゃない、そりゃ怪しいけど身なりはちゃんとしてて、あからさまな不審者ってことも無いだろうし。
だけど……顔つきとか全然違うのに、あの人を見てると何故かダメ親父の事を思い出してしまうのだ。
「そんなにおじさんでもないのに、どうしてなんだろ」
何故か引っかかる疑問に、フェアは悶々とした気持ちを胸に抱えていた。
そんな気分を晴らしたくて好物のパンケーキを作り始めたのに、集中できてなくて少し焦がしてしまう。
「あーもうっ! せっかく甘いものにしたのに」
自分らしくない失敗に頭を抱え、諦めて更に乗せる。
(少し焦げたけど、バターと蜂蜜をかければ大丈夫、大丈夫!)
そんな風に自分を奮い立たせて仕上げを進めていたら、厨房の扉が開いた。
「コーラルありがとな、病み上がりなのに朝飯ま……で?」
突然自分の家に知らない人が現れたら、仕方ないと思う。
自分が連れてきたようなものとはいえ、知らない男の人だ。
手に持っていたパンケーキのお皿ごと投げつけてしまったのは、きっと仕方のないことなんだと思う。
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パンケーキを顔面に食らった後、厨房にいた少女にすごい勢いで謝罪された。
そして蜂蜜まみれの服を着替えされられ、勢いのままレストランの席で少女と向かい合う。
「本当にごめんなさい! ダメおや……じゃなくて、お父さんの服しかなくて!」
銀髪に青い瞳、そして何より見覚えのある腕輪。
響界種としての力を制御できるようになってからは、ペンダントとして服の中に隠してるコレと同じ。
「いや、オレこそ悪かった。助けてもらったろうに勝手に歩き回ってたんだし」
コーラルの言葉を思い出して、オレは何となく現状がわかってきた。
少女は昔のオレで、ここは別の世界なのだと。
「わたしフェアっていいます、ここの店主で。倒れてたあなたを運んできました」
昔のオレより愛想よく挨拶してくれた。
女の子だからか、パンケーキの負い目かは分からないけど。
「ありがとう助けられたよ、オレはライだ」
「ライ。じゃなかった、ライさんですね」
「気にしないでくれ、そっちが恩人なんだから楽に話してくれると助かる」
年頃は13か14くらいだと思う、レストランがそんなに汚れてないし始めたばかりの頃のだろうし。
「じゃあ楽にするけど、あなた何者?
急に家の前に行き倒れてたし……怪しい」
遠慮が消えて一気にオレみたいな話し方になったフェアの言葉に、オレは頭を掻いて誤魔化す。
「それはあれだ……、そう、やむを得ない事情がだな」
言っておいて何だが完全に不審者の言い訳でしかない。
コーラルが何をお願いしたかはまだ分からないけど、このままだと駐在兵士に捕まるのは避けるべきだ。
「じー」
「なんて説明すりゃいいんだ……」
フェアはオレを睨んだまま黙ってるし、どう言い訳するべきか浮かばないまま時間が流れていき。
(グゥ〜)
静かな空間に少女の景気のいい腹の音が流れた。
「あ、違うの! これは違うんだって!」
顔を真っ赤にして否定してくる子供の様子を見て、
何を顔に食らったか再度思い出す。
「オレがお前の飯食っちまったからか、悪い」
冗談を交えながら謝り、気になったことを聞いてみる
「そういや、パンケーキの材料はまだあるのか?」
「あるけど、なんで?」
妙なことを尋ねられ首を傾げるフェアを尻目にオレは立ち上がる。
「なら少々お待ちを、厨房を借りるぜ」
「え……えぇぇぇっ!?」
世界が違うだろうが、ここは
勢いよく袖をまくって厨房へと踏み入れた。
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行き倒れていた妙な男の人、ライはやっぱり変な人だった。
なんで倒れてたか誤魔化したし、突然厨房を借りるなんて言い出して勝手に行っちゃったし。
厨房は料理人の聖地。
昔読んだ料理本に乗っていた言葉だ。
(それを守るってわけじゃないけど、知らない人に厨房を使われるのは普通に嫌だよ!)
慌てて止めようと厨房に入り─
ライの姿に圧倒されてしまった。
手際が良いのはもちろん、どの仕事も丁寧で繊細な仕上がりなのだ。
わたしじゃ出来ないような細やかな仕事をしつつ、いくつも平行して作業を行う。
一切無駄無く動き、魔法のように次々と完成していく姿は踊るようで美しい。
(作業時間はもとより、わたしの厨房を全部知っているみたいに動いてる)
フェアは知らない、ミュランスと呼ばれる超一流の料理人に認められ、
その後も食の第一線で戦い続けたシェフが目の前の男なのだと────
それに、父の服を着ているからかどうしても考えてしまう。
(お父さんみたい……)
ほんの少しだけ"まだ"父を諦められない娘は、
ライの背中に、父の面影を探してしまっていた。
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「くやしい、悔しいけど、おいしい!」
「そりゃ良かった、腕をふるったかいがある」
一心不乱にパンケーキを頬張るフェアをみてどことなくエリカの面影を感じてしまった。
(姉妹だろうし、そりゃ似てるか)
この世界がどんな世界かまだわからないが、フェアはきっとオレと同じ境遇なのだと確信している。
「ライって何者? 最初は不審者だと思ったけど、こんな料理作れるなんて只者じゃないでしょ!」
「ただの店主だよ、お前と同じだって」
「絶対違う! わたしだってこの料理がそんじょそこらのグルメには作れないって事ぐらいわかるよ!」
すっかり興奮し指をさしてくる。
「そう、ライは本当は帝都お抱えの料理人とかなんでしょ!」
「ちげぇよ、帝都に料理修行に行ったことはあるけど」
「ほらやっぱり!」
(前言撤回、リシェルの影響だなこれ)
オレが子供の頃、ここまで変な妄想していただろうか……。
まくし立ててくるフェアをどうするかと考えていると、ドアベルの音が聞こえる。
「どうしたんだフェア、外まで声が聞こえてきたぞ! まさかさっきの男に何かされたのか!?」
慌てた様子の懐かしい声に、オレは別の世界なんだと実感した。
帝国軍陸戦隊の軍服に身を包み、使い込まれた槍を手に駆け込んできた青年。
(グラッドの兄貴、若っ!?)
「グラッド兄ちゃん!?」
駐在兵士であり、みんなの兄貴分。
グラッドの警戒する眼がオレを睨んでいた。