サモンナイト4 本編後ライがフェア世界に逆行 作:ライフェア好き
皆が寝静まった深夜、ライとコーラルはこっそりと宿を抜け出す。
誰かに聞かれたら面倒になるかもしれないと考え、セイロンとの待ち合わせ場所は町の外にした。
卵の落ちた、何かと縁のある星見の丘に。
「何か緊張してきた。真面目なセイロンってオレ苦手なんだよな」
「大丈夫、セイロンは一度は話聞いてくれる……かと。
その後は……不明」
少し肌寒い夜道を歩きながら、ライは気になっていた事を聞いてみる。
「そういや聞きそびれてたんだけど、何でコーラルは昔の姿になってんだ?」
未来の世界では、人間の姿も少し成長していた。
段々と縮まっていた身長の差は、昔以上に離れている。
「ボクの姿……変身だから、力が弱まった影響、たぶん」
クシュン、と小さくくしゃみをするコーラル。
そういえば、急いでいたから羽織るものを持ってきていなかった。
「ほら、オレのだけど着とけよ。大きいだろうけどさ」
「うん、ありがとう……」
上着を脱ぐと容赦なく夜風が肌を冷やす、ライは少し震えながらも我慢する。
その冷たさも、何だか悪くなかったから。
(すっかり頼もしくなったコーラルに構えるのが嬉しいんかねオレ、
だとしたら随分親父臭くなったなぁ……)
「……暖かい」
全身がすっぽり収まったコーラルが微笑む、それだけでも寒い思いした甲斐がある。
「しっかしセイロンに拒絶されたらどうすっかな」
これから話すことを考えれば、そっちの可能性が高い。
「ミルリーフを巡っての内輪揉めとかになったら、すぐにギアンかクラウレが襲って来そうだしよ」
こういうややっこしい事を考えるのが苦手なのは、不本意だが親父似らしい。
気が重いライの手を、コーラルが握る。
「そのときは……一緒に旅に出よ?」
その一言だけで、決裂するのも悪くないかなとか思ってしまう。
「ははっ、いいなそれ」
今は一人じゃない、こんなにも頼もしい家族が居るんだから。
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「待たせたな、セイロン」
丘には既にセイロンが待ち構えており、
こちらに気がつくと少し近づいてから立ち止まった。
「まずはこちらから質問する、嘘偽りは無しだ」
この距離はセイロンの間合い、下手な答えなら攻撃すると言外に伝えてきている。
「わかってる」
緊張感が高まる中、ライとコーラルが息を呑む。
「まず率直に聞くぞ、貴様は何者だ。
極僅かだが、なぜ竜の気を発している」
扇子でコーラルを指してくるのに応じ、コーラルが答える。
「ボクが竜の子だから」
「ならば続けて問う、クラウレの遣いか?」
「……? 違う」
その答えにセイロンの顔が険しくなり、
何故クラウレの名前が出たのか分からず、コーラルが首を傾げる。
「次はボクの質問、何故クラウレの名を出したの」
ライも気になった、コーラルの正体を探るのに何故クラウレの事を聞くのか。
「ボクの気配に気がついたのは貴方だけ、だからミルリーフ以外の竜の子の出自が一番気になる……はず。
それなのにクラウレのことを聞いたのは、心当たりがあるから……」
「……いいだろう、確かにそなたがクラウレの遣いであれば竜の子に心当たりはあった。
しかしそれを否定するならば、尚更答えてもらわねばならぬ」
「何故クラウレを知っている」
「……っ!」
殺気立つセイロンに、思わず身構える。
あの眼はヤバイ、慎重に答えないとすぐに戦いが始まってしまうだろう。
「大丈夫だよ、お父さん」
けれどコーラルは冷静だ、ライかセイロンを信頼してる、あるいはその両方か。
幼さの残る顔が、深き歳月を重ねた至竜へと変わる。
「ボクは先代の記憶を受け継いでいる」
その一言で時が止まったと錯覚する静寂の中、冷たい風が草原を走った。
「何……? 今なんと言った」
コーラルの切り札に、セイロンの動きが止まる
彼心に浮かぶのは……混乱。
「先代守護竜の記憶を、ボクは受け継いでる。
その真偽は言葉を重ねれば貴方には分かるはず」
「最も先代の遺志を守ろうとしている、あなたなら」
それと、ほんの少しの期待だった。
「……いや、それには及ばんよ」
「どういう事だ?」
「単純な話よ、この我が確証もなしに信じてみたくなってしまった。
それこそが何よりの証明というものよ」
考えてみればおかしな事だ、慎重なセイロンがなぜ一人でやってきたのか。
敵の可能性があるならば、他の御使いを潜ませる事くらい行うはず。
それを行わず、一人でこの場に来た時点で腹は決まっていたのかもしれない。
セイロンはコーラルの前で跪く、目の前に竜に敬意を払って。
「御使いが一人、セイロン。
まずは謝罪を、その佇まい、その瞳。
身体は未熟なれど、守護竜に相応しきお姿を疑い申し訳ありませぬ」
「……信じてくれるの?」
突然の肯定に、コーラルは驚いた。
ライと二人で彼の説得方法をずっと考えていたのだから。
「確かに、理屈の上ならばいくらでも反論出来る。
店主殿の元にいる御子以外の存在、アロエリとクラウレが揃わねばならぬ記憶の継承」
しかし、とセイロンは続ける。
「我は確信してしまった、この方は間違いなく守護竜であるとな」
頭より先に心がコーラルの存在を認めたのだ。
「では、改めて聞かせてもらおう」
その質問は先程と同じだが、その意味は違うものになっていた。
「何故クラウレを知っている。お主達は何者なのだ?」
そこからライとコーラルは語り始めた、始まりの夜の事を、親子としての日常を、ギアン達との戦い、裏切り、失って得たものを。
その全てを聞き終えたセイロンの反応は、笑うことだった。
「あっはっは! よもやよもや、四界ですらない異世界の住人、それも未来からの来訪者とは! ライ殿の正体が分からぬ筈だ!」
扇子を広げおかしくて堪らないと、高らかに笑い続ける。
「やけに上機嫌だなこいつ……」
「……大物なのは、相変わらずかと」
結局笑いが収まるまで数分を要した。
未だに笑いの残るセイロンに、ライはどうしても気になったことを聞く。
「言っておいて何だけど、信じるのかよ」
「いやはや全くもって信じられぬ」
「おいっ!?」
扇子を閉じ、コーラルを眩しそうに見る。
「しかし、ありえぬ存在である守護竜様の説明はつく。
ならば、信じられぬが真と考えるだけの事よ」
「……ありがとう、けど今のボクは守護竜でもないし。
あなたが護るべきは、ボクじゃないから」
「ふむ、ではコーラル殿と呼ばせてもらおう」
これがセイロンの在り方なのだろう、恩義を通すために我をも殺す決意。
「この事は他の皆には伏せたままが良いだろう、信じぬならまだしも混乱が起きては付け入るスキとなる。
幸いコーラル殿の変身は巧みで、余程の者でなければ竜とは気付くまい」
(暗に自分が大したやつって自慢じゃねーか……)
「それにしても色々と合点がいった、クラウレの離反は信じたくはないが、薄々感づいてはおったよ」
「そうなのか?」
「うむ、それがそなたらにクラウレとの繋がりを聞いた理由でもある」
「それは一体……」
「竜の卵は二つある」
「「!?」」
今度はこちらが驚く番となった。
「一つはミルリーフ殿、もう一つはクラウレが追ったが……、離反したならば既に敵の手に落ちたと考えるべきだな」
ライは思わずコーラルに視線を向ける、竜の子が……二人。
「……コーラル、お前双子だったのか?」
「お父さん……こっちの世界の話、かと。
フェアとミルリーフと同じ……世界の違い」
コーラルに呆れた目でじとーっと睨まれる。
自分のボケを誤魔化すようにライは目をそらした。
「つ、つまり、この世界には今竜の子が三人いるって事だな」
「となれは、敵が遺産を狙った理由も納得がいく」
まだ見ぬ三人目に与えるため、だけど本当にそうなのかライは疑問だった。
「けど、遺産って使っちまったあとは意味ないんじゃないのか?」
使ったあとの遺産には僅かな魔力しか残らないはず。
「……わからない、仕組みに応用についてはギアンはすごく上手。
城の仕組みや、儀式について把握していたから、何か使い道が浮かんでもおかしくない……多分」
あの男はやけに器用なところがある、
搦手のためにありとあらゆる分野に通じ、特に幻獣界の技術には詳しい。
「機会を見てオレが話し合いに行く、そのもう一人の竜の子もそこで見てくりゃいいしよ」
「……危険だぞ」
セイロンの忠告をライは笑って流す、そのことは散々考えたあとだから。
「構わねぇ、オレはあの結末でよかったなんて思ってない。
エニシアもギアンも、止まれなかったんだ」
同じメイトルパの血を半分継ぐ二人に、妙な連帯感は今でも感じている。
「だからオレはキッカケになりたい、同情出来ないが思う所はあるからさ」
「……お願いセイロン、手を貸して」
コーラルも気持ちは同じだが、
敵に対して復讐を秘める御使いの心は決まっている。
「御心のままに」
世界は違えど、その気持ちは変わらず。
頼もしい仲間が、秘密の共有者となった。
成長したコーラルだから説得の出来るセイロンさん、ライ一人では切って捨てそうな冷静さを持ってそうだなと思います。