サモンナイト4 本編後ライがフェア世界に逆行   作:ライフェア好き

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たまにはまっとうで平穏な日常


第38話 店主の平和な日 前編

久しぶりに、本当に久しぶりに店主フェアの周りは平和だった。

怪しい人物に出逢うこともなく、剣を手に襲われることもない。

まさに理想としていた普通の生活。

 

けれど、普通の生活なりにフェアにはある不満が募っていた。

 

「おはようフェアさん」

 

「よぉフェア、下ごしらえはやったからメイン頼む」

 

一年前から宿に居着いてるライ、つい最近やってきたその弟子?のコーラルの事だ。

 

今までライとは日毎に交代で調理を行うと取り決めていたはずが、コーラルが来てから毎日のように厨房に立ち始めた。

 

コーラルもライがいない日でも、フェアの手伝いに隣に立ってくれる。

長年ライのサポートをしていたと本人の自己申告どおり、その腕前は幼さに似合わずレベルが高い。

仕事は早く片付くし、注文取りまで行ってくれるんだから大助かりだ。

 

「コーラル、コーラル♪」とすごく懐いて後ろをついて回るミルリーフも、コーラルの真似をして注文をとってくれたりするようにもなった。

 

そのおかげでこうして休み時間が多く取れて、のんびりできるんだけど……。

 

「話を聞く限り不満が出るように思えないんだけどなーって、シャオメイ思うんだけどなぁ」

 

「そうなんだけどさぁ……」

 

その休み時間でフェアは少し前に友人となった変な占い師、シャオメイに愚痴を零していた。

 

「なんかこう、今まで自分がやって来たことを取られるとなんかさぁ……」

 

フェアは真面目で働き者だ、そうでなければ幼い頃から宿屋の経営なんて出来やしない。

元来からの性格から、仕事がない状況があまりにも慣れていない。

 

「贅沢な悩みだなぁ〜、空いた時間で好きなことでもしてみたら?」

 

呆れるように飴玉を口に含んだ占い師にお店を追い出され、結局は街を歩いてみることにした。

 

「好きなこと……」

 

フェアが浮かぶのは料理、掃除、洗濯。

リシェル辺りが聞けば文句をいいそうな乙女としての危機だった。

 

「そんな悩んだ顔をしてどうしたんだフェア?」

 

「あ、グラッドお兄ちゃん」

 

そんな憂鬱な気分で過ごしていたら、上機嫌な様子で巡回中のお兄さんと出会う。

 

「何ていうかその、暇を持て余してます」

 

「……大丈夫なのか?宿の経営は」

 

この優しき兄貴分は客が居ないのだと勘違いしてきた、こういう所が鈍くて偶に傷。

 

「違うってば!むしろお客さんは増えたけど……。

ライとコーラルが全部やっちゃって」

 

「あぁ、あの子か。俺も朝の見回りの時に少し話したよ。そん時に朝飯差し入れて貰った」

 

なるほどごきげんな理由はこれか。

 

「俺が言う事じゃないかもしれないけどさ、今までが忙し過ぎたんだ。

子供らしくやりたい事をやってみるってのはどうだ?」

 

「やりたい事……」

 

「そうそう、たまにはバチも当たらないってやつさ」

 

じゃあな、と巡回に戻るグラッドお兄ちゃんを見送り、フェアは何気なく空を見上げる。

 

「うーん……」

 

言われてみれば、仕事と稽古以外に自主的にやりたい事ってそう無いかもしれない。

こんな時にいつも遊びへ手を引いてくれたリシェルとルシアンは自宅で勉強中のはずで、こちらから遊びに誘うのも悪い気がする。

 

「はぁ、中々浮かばないなぁ」

 

「何が?」

 

「うわっ!?だ、誰?」

 

後ろから急に声をかけられて慌てて振り向くと、二本の釣り竿を持ったコーラルが居た。

 

「脅かしちゃった……?」

 

「コーラル?なんでこんな所に」

 

「お店が落ち着いたから、お昼の分は終わりそうだし……多分、お父さんがボクが街を見れるように気を使ってくれてる、かと」

 

確かにライが言いそうな事だ。

つまり、コーラルが抜けた分人手が居るのでは?

 

「そうなんだ、じゃあわたしがお店に……」

 

名案だと思い、宿屋へ向かって歩こうとした時、急に服を引っ張られる。

 

「……。」

 

「えっと、どうしたの?」

 

何故か服を掴んだまま、コーラルがじっと見つめてきて、

少し経ってから、遠慮がちに口を開く。

 

「一緒に……フェア」

 

その引っ込み思案で人見知りな瞳が、どこか妹と重なった。

 

「もう、夜の仕込みまでだからね」

 

「……うん」

 

────────────────────────

 

コーラルにとって、フェアという人物は複雑な存在だ。

 

昔の仲間たちは懐かしい気分にさせてくれる、ミルリーフは昔もっと甘えられたらこんな子だったのかな、なんて微笑ましく妹のように思えた。

 

「………。」

 

「どうしたのコーラル、お腹すいた?」

 

「ううん、なんでもない」

 

ライとは違い、ある程度心構えをしてこちらの世界に来ることが出来たはずだった。

それでも彼女の存在は、竜の心を揺さぶる。

 

「ん〜、風が気持ちいいね」

 

『風が気持ちいいな、コーラル』

 

フェアの竿を地面に置いて伸びをする何気ない動作すらも、昔のライと被って見える。

 

(あの時、もっとお父さんに楽させてあげられたんじゃないか)

 

竜の子として生まれた故に早熟していた幼い頃からずっと思っていた。

お父さんに恩返しがしたい、大変だったのだからもっと楽に生きてほしい。

 

だけどもライは逞しく、いつだってコーラルを助けてくれる。

 

本当はコーラル一人で、フェアの手伝いをするつもりだった。

仕事が早く片付けば、フェアも自由な時間が増えると思って、

だからこっそり早起きして厨房に立ち、さぁ料理をするぞと張り切ったのだが。

 

『……お醤油、どこだろ』

 

異世界の厨房の配置に戸惑っていたら、横から醤油瓶を差し出される。

 

『ほら、ちゃっちゃと二人でやっちまおうぜ』

 

コチラのやる事はお見通しとばかりに手伝ってくれる。

今日だってフェアのことを気にしているコーラルを送り出してくれた。

 

この人のことを知りたい、けれどどこか臆病になっている自分がいる、

フェアを通して、ライの気持ちを知ってしまいそうな……。

 

だけどずっと黙っているわけにもいかない、先程からフェアが気を使って話しかけてくれる。

至竜である自分が、こんな事で取り乱したりはしない!

 

「……フェアは、ミルリーフの事をどう思う?」

 

前言撤回、コーラルは緊張していた。

ずっと無言で釣りをした後にやっと振った話題でこれは流石にどうなのかと、おすましさんな顔の下で焦り始めた。

 

そんなコーラルの焦りを知らず、フェアは真剣に頭を悩ませ。

ゆっくりと語り始めた。

 

「最初はね、そんなに乗り気じゃなかったかも」

 

「……っ」

 

「ライに聞いたかもしれないけど、わたしは平凡でまっとうな生活が夢でさ。

そのまま大人になれたらきっと穏やかなんだろうなって」

 

なによりダメ親父を見返せるしね。と、フェアは笑う。

 

「でもね、最近はそうでもないんだ」

 

「ミルリーフがね、少しずつ学んで、成長してるのを見るのが楽しいのよ。

今日出来なかったことを、明日には少しだけ出来るようになる」

 

フェアがコーラルを撫でる、違う手なのに親に撫でられたようで。

ミルリーフの事を大切に思ってくれてるのが、なんだかむず痒い。

 

「それが嬉しい、けどちょっとだけ寂しいんだ」

 

「……え?」

 

だからこそ、その一言が意外だった。

 

「あの子はもっとゆっくりと大きくなるはずだった、それなのに状況がそれを許してくれない。

嫌でも大人にならないといけない気持ちは、少しだけ分かるつもりだから」

 

「………!」

 

大人にならなければならなかった、子供。

コーラルは、大人にならなければならないフェアの横顔に、やはり父を重ねる。

 

「だからね、あの子がいつか大人になった時に言ってあげようと思ってるの」

 

そんなコーラルに、笑って話してくれる。

 

「あなたはいつでも、わたしにとっては甘えん坊のミルリーフだってね」

 

最後の夜に、ライが言ってくれた言葉。

 

(そうか、ずっと前から。そう思っててくれたんだ……)

 

これはミルリーフに贈られる言葉だ、フェアにとってコーラルは数日前に知り合った子供でしかない。

けれどあの時感じていた寂しさを、暖かいもので埋めてくれた気がした。

 

「……ありがとう、お母さん」

 

「えっ?コーラル今なんて……」

 

フェアがコーラルのつぶやきを聞き返そうとし、

次の瞬間、桃色の少女がフェアの横っ腹に突撃した。

 

「ママーーー♪」

 

「きゃあっ!?」

 

水辺でそんな事をしたら、勢い余って水の中に落ちるのは子供でもわかる。

そんな子供でも分かることを、平気でやるのがこの甘えん坊だ。

 

「あー……」

 

ミルリーフがこんなにも子供らしいのは、フェアのお陰なのかも。

自分もフェアの下で育っていれば、こんなにわがままになったのかも。

 

(でも、やっぱり……)

 

湖の中で戯れる親子を見て、微笑ましく想えるのだから、

大人ぶるのも、そう悪いことじゃないのかもしれない。




もう一話平和を続けるんじゃよ

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